「元管理局局員、ゼスト・グランガイツだな?」
「……」
「管理局の記録では、8年前に事件現場にて死亡、司法解剖による確認は取れていないものの、
肉体の損壊状況からほぼ確定とある」
「……」
俺ははやてを伴い、確保に成功したガジェットと呼んでいる敵勢力のコマを操っている勢力のものを尋問している。
しかし、いざ身元を調べてみると元管理局の人間。
裏があるからどうぞ調べてくださいと言わんばかりだ。
はやてのほうは隣でいるが一言も口を聞いていない。
信頼が崩れたというわけでもないのだろうが、やはり失望が大きかったのだろう。
彼自身の事を考えると、どちらなのかはまだ分からないと思えるが。
「君に対する医療検査及び、その他の検査から肉体に対する改造と精神に対する魔法処理を確認した」
「……」
「そして、魔法処理に関しては排除することに成功した。幸いその手の研究は進んでいてね」
もっとも聖王教会の協賛が大きいため、純粋に連盟の力とも言い切れないが。
だが、洗脳を受けていたとすれば、多少は態度を変えるかもしれないと思ったのだがやはりだんまりのようだった。
「……そうか、君の方から話す事は何もないというんだな?」
無言のまま頷くゼスト、正直ゼストの姿にはコンプレックスを刺激される。
ハードボイルドそのものというタイプの顔立ち、性格、復讐に狂っていたころですら俺はそんなものなかった。
俺も35歳だというのに、なんだろう、この敗北感は……。
だから俺はその顔を崩すための切り札を切ることにした。
「そういえば、君の部下に生き残りがいた事は知っているか?」
「ッ!?」
「流石に無表情とはいかなくなったか」
「……」
「俺も経験があるが、そんな反抗的な目をしていたところで無駄なときは無駄だ」
俺は嫌な笑いをしてみせる、後ろにいるはやてはどっちが悪者なんだか、という表情で俺を見ているが、
実際俺は彼よりも罪が重い人間なんだという事は知らないのだろう。
そして俺はその表情のまま、威圧的にゼストに告げる。
「実は彼女とは知り合いでね、ここに呼んである」
「……まさか!?」
「お久しぶりです。ゼスト隊長」
クイント・ナカジマ、今はここに勤めているスバル・ナカジマの母親だ。
そして彼女は今、地球大使館に現地スタッフとして勤めている。
同時に、ゼストの元直属の部下でもあった。
「まさか……助かったのか?」
「隊長のお陰で。記録上は負傷による退職としていますが、上層部との折り合いが悪くなりまして……」
「そうか……お前だけでも助かってくれてうれしい」
「ええ、おかげで夫や娘2人と一緒に楽しくやっています。ですが……隊長はどうしていたんです?」
「……それは」
ゼストは一瞬俺を見るが、ため息をつくとクイントの方へ向き直り話し始める。
内容は単純だった、彼はスカリエッティ博士により、生きながらえさせられたらしい。
もっとも再生の方法は粗雑だったらしく、パワーはそこそこ上がったようだが、肉体の損耗が高く、限界は近いとの事だった。
俺も、カルテを見ているからその事は事実だろうと予測する。
「では、紫色の髪の少女と妖精は何者だ?」
「……ルーテシアとアギトだ」
「名前を聞いているわけじゃないんだが……」
「えっ、ルーテシアって確か!?」
「そうだ」
俺の質問に対し、名前で答えるゼストに反論しようとしたとき、クイントは驚いたように語気を強めた。
どうやら、まんざら知らない仲でもなさそうだな。
「施設に入れられたって聞いてたけど……まさか」
「メガーヌが死んで引き取られた施設には奴の息がかかっていたということだ」
「……まさか、あそこは管理局の」
「俺達の最後の捜査がどういったものだったのか忘れたか?」
「……やはりそうだったのね」
8年前、戦闘機人を操り政府にテロ活動をしていたのはスカリエッティ達だった。
しかし、それは裏を取って見ると管理局にあげるべき研究成果を見せるためのデモンストレーションだったふしがある。
結局、地球外管理局の持ち込んだパワードスーツが採用されたため切り捨てられたものの、レジアスも手を貸していたようでもある。
つまりは、管理局とスカリエッティはつながっているとみていい。
ルーテシアという少女もその辺の関係で攫われたということだろう。
「なら上層部はクロという事でいいんだな?」
「俺からは何とも言えない、奴は俺を信用していなかった、俺自身も奴から出来るだけ離れていたしな」
「なるほど……」
まだ完全に立証されたわけではないが、これでいろいろな糸がつながった。
俺が今まで見てきた事件、管理局の介入が早すぎたこと、
どれもが人体を強化や補助、延命などを目的としたものの行きすぎであること、
そして、管理局が隠ぺい工作を図っている事などから察するに、目的は最強の兵士なり、自らの究極化。
スカリエッティはその研究者の一人ということだろう。
もし俺の想像が当たっているなら、スカリエッティ以外にもそういう存在がいるかもしれない……。
なによりも、まだその存在を見せていない管理局上層部というものに、疑いばかりが膨らむ。
「さて、貴様の処分についてだが」
「法定に立たせないつもりか?」
「いいや、司法取引きというやつだ」
「ふん、俺が使えそうなコマだと思ったというわけか」
「否定はしない」
「だが俺は今さら表に出るつもりはない」
「俺もそのつもりはない」
「……」
俺はそれから、はやてとクイントにも機密であるからと先に断って話をはじめた。
俺が語る内容に、最初驚いていたものの、ゼストは呆れた顔になる。
俺はそのあきれ顔にニヤリと人の悪い笑みで応じた。
「つまりはそういう事だ」
「テンカワ少将ってひどい人ですね……」
「アキトさんは裏で結構えぐいこと考えてますわ」
「ふん、裏切ったらどうするつもりだ」
「さあな、その時はまた逮捕するなり、機密が漏れないように殺すなりするさ」
「ふ、その言葉にウソはないようだな」
俺がその場で殺しかねない殺気を出して見せると半ばその事に安心したようにゼストが言う。
この男は筋金入りなのだろう、俺にはむしろやりやすいタイプだが、その代り融通はきかなさそうだ。
裏切りを許さないのはむしろこの男の方だろうと簡単に予測できる。
はやてやクイントにもなんとなくわかったのだろう、処置なしといった感じに呆れている。
「それで、どうやって?」
「まあその辺りは上手くやる、任せておけばいい。だがタイミングを教えたりはしないからな」
「ふっ、人使いの荒いやつだ」
そう言ってニヒルな笑みを浮かべるゼストはやはりダンディーな男に見えて、自分が少し情けなくなった……。
六課の機動部隊控え室、普段魔導師部隊が詰めている場所だ。
そこにいるのは、魔導師部隊の隊長であるなのはと、副隊長のフェイト、そして小隊長であるシグナムとヴィータ他2名。
そして、課長補佐のはやての7人だ。
つまりは今、魔導師部隊の作戦会議という事である。
議題は、はやてが管理局から間接的に受けた依頼についてだ。
「ホテル・アヴィスタ?」
「そう、そこで行われるオークションの護衛や」
「どうしてあたしらがそんなのの護衛を?」
「その売り出し品目の中には管理局が売買許可を出したロストロギアが数点出展されるんよ」
「それを狙ってガジェットが現れると?」
「んー、まあそれもあるけど。一番の理由は」
「闇での商売……」
「そういう事や、もっともこう言うのはおかの花形みたいなもんやから、譲ってくれた理由もあるかもしれんね」
「にゃははは、はやてちゃん大変だね。まあ、私たちも気をつけることにするよ」
「人事みたいに……、でも本当に、体が一番大事やさかい、あんまり無茶せんといてな」
「うん」
今回の護衛の仕事は魔導師部隊のみで行われる。
その理由は、パワードスーツのエネルギー供給の問題であった。
管理局と違い重力波エネルギーを動力にしている以上、動力となる大きなエネルギーを重力波に変換するシステムが必要だった。
現在、そのシステムがあるのは、それぞれの世界でも数か所であり、数の多いミッドチルダでも十数か所しかない。
そこから直接送信できるのは10km程度、中継アンテナをいくつも引き継いでも最大300kmが限度だった。
つまりは、重力波エネルギーで動くタイプのパワードスーツは可動範囲が狭いという欠点が存在した。
「もっとも、その解決案はもうみんな分かってると思うけど、まだないしょにせなな」
「確かに、安易に切り札を切るわけにはいきません」
「ですが、魔導師部隊の完成度はまだ4割、賭出した才能がある逸材は何人かいますが、それでも実戦ではどうなるか」
「わかっとるよ、やから私らの出番と違う?」
「連携の不足を隊長達の力で補うと?」
「まあそういう事や、うちら管理局みたいに強い魔力持ってるからって制限受けてるわけやない。
なのはちゃんやないけど全力全開で戦える。
この意味分かるよね?」
「分かるけど……強引な気も……」
「あはは……でもそういうところ、はやてらしいって思うよ」
「じゃあ、そういう事で。全力を尽くして頑張ろ!」
「うん」
「はい」
「そうですね」
「だよな」
「「はい」」
「さて配置についてやけど前回、任務についていったのは第三、第四小隊やったし、
今回メインは第一、第二小隊にやってもらうわ、第三と第四小隊は少し離れた場所からの監視という形を取るね」
「えっとでも、そうなると、ここに魔導師がいなくなっちゃうんじゃ?」
「魔導師がおらんでもパワードスーツ部隊と、シャマルやザフィーラ、それにあの、すずかとアリシアかがおるんやし……」
「あー」
「確かに安全な気がするね」
「むしろ、襲撃してきた人が哀れな気がするね……」
二人は戦闘力に関して言えば、魔導師部隊の隊長である、なのはやフェイト達にすら匹敵した。
その理由はアリシアの場合銃器の扱いの凄さ、そして、機動センスによる撹乱や、戦闘手腕など。
そしてすずかは、一族の血が目覚めたらしく耐久力も魔力も凄まじく、なにより、
重力波エネルギーが直接手に触れる状態でもほとんど傷を負わないという、耐久性と回復力は筆舌に尽くしがたい。
こと戦闘においては二人は十分強力な戦力であるという事だった。
「さて、警備の手順やけど……」
「うん、そうすると……」
「それだと、ここが手薄になるんじゃ?」
「そのためにこれを……」
「でもそうするとこれが……」
「うん、そこが問題で……」
「ならこういうのは……」
そんな感じで会議が進み、翌日にはホテルアヴィスタ警備の形が整えられた。
そこにはアキトの名は当然なかったが、折衝関係で外しており、
戦闘可能な魔導師ははやてを含む全員が出撃することとなる。
そして、パワードスーツもドック入りしているものが多かった、
実際すずかのアリアは外部装甲の損傷が激しいため一週間は再出撃出来ない状況にあるといっていい。
このことの意味はかなり重要なものだったが、それがだれにとって重要なのかはわからない……。
「お嬢、本当に救出するつもり?」
「うん」
「ゼストがまだ生きてるとは限らないよ、連盟は管理局に反発する人間の組織だからさ」
「それでも……死んだとは限らない」
「ふーん、面白いものだねぇ……」
「しかし博士、今連盟を刺激するのは……」
「なに、僕達下っ端は確かにその辺辛いけどさ。
融通きくようにコネは作ってあるからね、それを使うさ。
それに案外使える気がするからね。あのコマ、彼がどう利用しようとするか」
「しかし、ゼストからは例の反応が既に」
「うん、今僕が彼と会ったら切り殺されちゃうようね。だからしっかり頼むよ」
「はい、命に代えても」
後ろ暗い人々に囲まれながら、ルーテシアはその紫色の髪をもてあそぶ。
彼らの考えにあまり興味はない、自分が母と、そして、出来ればアギトやゼストとも一緒に暮らすことができれば満足なのだ。
彼らが何をするつもりだろうとどうでもいい、自分の力の事も、ガリューのような友達程度の認識でしかない。
自分で感情がないと思いこみ、外界との関係をほとんど遮断してしまっている彼女にとって、
スカリエッティの言葉は異星人くらいの遠い物事であり、だからこそ別段自分にとって不利ではないならと無関心を貫いていた。
「じゃあ、作戦を考えようか、現有戦力で彼らを出し抜くには……」
「はい、その通りです。彼らも裏から手を回してくる可能性を考えると陽動が必要でしょう」
「では我々が……」
「まあ、悪くはないけど今はちょうど新しい実験の成果があるからテストを兼ねてね」
「「「「……」」」」
「心配しなくても、実験の成果は君達にもフィードバックされることになっている。
この先本格的に動く時にはよろしく頼むよ」
今、この場には彼がナンバーを振った戦闘機人が8人ほど集結している。
12人になる予定で、2人はまだ調整中、後の2人は調査のためにもぐりこんでいる。
実のところ彼女たちは不安を持っていた、彼女らにはスカリエッティが全てだ。
しかし、スカリエッティは研究のためならためらいなく彼女らを使いつぶすだろう。
そうならないためには、使える駒である事を常に示していかねばならない。
だが最近、色々とスカリエッティのコマは増えてきている。
彼女らの心に焦りがあったとしても不思議ではなかった……。
だから、セインはつい尋ねねてしまう。
「でも最近、あの女や、むさいオッサンの研究してるみたいっすけど。
いったいどんな研究をしてるんすか?」
「クククッ、見たいかい?」
「えっ……いや、あの……遠慮しときます……」
「そうかい、それは残念だよ。まあ、言葉で言うなら個人による最強ってやつの研究さ」
「個人による最強?」
「今までいろんな武器を作ったりそれを君達に与えて試したりしてきたけど、攻撃というのは相手に接触して初めて意味がある。
ならば、接触しなければ?
一方的に相手には触れて、相手からは接触できない。そういう存在がもしいたらそれは最強じゃないかな?」
「それは……理屈の上では確かにそうですね……」
「まあ、そのまんま現実にするというのはまだ出来ていないけど。もう少し研究が進めばできるかもしれない」
「はぁ、それは凄いですね……」
スカリエッティの言葉に驚くよりも呆れに近い感情を持つナンバーズ達。
しかし、もし実現すればもう敵などいない事になる。
「まあ、成果が出るのはまだ少し先さ、今使うのはこいつらだね」
「あー、なるほど」
半目になってセインがみるのは、女性、それも露出過多の服を着た人ばかり。
彼女らもぴったりしたボディスーツを着ているのであまり人の事は言えないが、それでもやはり露出過多だった。
「後は、チンクとセインの2人でルーテシアのサポートに回ってくれるかい?」
「わかりました」
「お嬢さんよろしくね!」
「支援は……ということでよろしくね」
細かい指示を出したスカリエッティは笑う。
これは自分の考えた作戦をウーノがまともに機能するように調整したものだ。
しかし、スカリエッティは戦術家でもなんでもないし、ウーノもそういう知識は高く作ってあるものの、
知識を多く蓄えることと、戦術や戦略を自らの知恵とする事は違う。
管理局という組織は、基本的に力任せのゴリ押し中心だったし、
上層部は欲望ばかり肥大化したせいで策の練り方から考えが透けてみえる。
つまり、まだスカリエッティは策士と呼ばれるような人間と読み合いをしたことがないのだ。
その点、テンカワ・アキトは成長を見せている。
最初はその辺の単純馬鹿と同じだったが、ネルガルを利用して己の復讐を成し遂げ、この世界に来てからは単身組織を立ち上げた。
更には連盟の立ち上げにも深くかかわっている、正直そのことにスカリエッティは舌を巻いていた。
だが、だからこそ知恵比べというものは面白い。
今回はどちらの知恵が上回るのか、スカリエッティは興奮を抑えきれなかった……。
なのは達が取ったホテルアヴィスタの警備は基本的に2層構造に分かれる。
外部からの襲撃に対する事になっている、第一及び、第二小隊の24名。
しかし、その場には隊長クラスの人間はいない。
副隊長がそれぞれ指揮をとっている。
そして、小隊長2名と、部隊長と副部隊長、そして課長補佐の5名は内部に入り不審者のチェックを行う。
「うーん、ドレスなんて着たの久しぶりだよ」
「普段仕事ばかりだもんね、なのは」
「ワーカーホリックはようないで」
「もー、別に仕事だけしてたわけじゃないんだから」
「じゃあ他に何してたの?」
「いや、ほら……お買い物とか……」
「「はぁ」」
二人にあきれられるなのはだったが、そういう二人だって普通の19歳と比べれば仕事量は半端じゃない事はよく知っていた。
はやては、課長補佐という役回り上、雑務の量は半端じゃない、アキトが課の外交を司るなら、はやては内政を行っている。
フェイトは連盟のたち上げ前にいろいろな国を回りそれらの軍のやり方を勉強してきていた。
しかし、なのはのように階級をもつわけではなかったので、最初は反論も多かった。
それを跳ね返すために、なのは以上に完璧に副部隊長としての務めを果たしていた。
それでも、勤務時間というかパトロールや教導に関しての時間の取り方はなのはが一番というか異常だった。
取りつかれているという言葉が似合うほどに、睡眠時間を削ってでも求められれば応じ続けた。
「結果、この年になっても彼氏の一人もいないガールズが結成されてもーたわけやね」
「それを言われるとつらいかも……」
「うん、それ一番凹む……」
「ごめん、言うた私もなんか……」
たわいない会話で3人ともドツボにはまっている。
もっとも、彼女らの場合素材はいいので、彼氏を本気で作りたければ1か月とかからず出来ることは請け合いだったが。
なのははそういうことよりも仕事という人間だったし、
他の2名は近くにいた人の顔がちらついてそれと比べてしまうためハードルが高い。
彼氏が出来るのは数年は無理そうな感じであった……。
「まっ……まあ、それは兎も角、ヴィータとシグナムの調子はどうやろ?」
『主はやて、配置についたのはいいのですが……ここでいいのですか?』
『こんな所でいちゃ、いざって時に動けないんじゃねーのか?』
「いやまあ、そうなんやけどね。万一そっちに行った場合、こっちからは対処できへんし、
なにより……変わったもんがあるかもしれんしね」
『なるほど』
『けっ、最近のはやては古狸だな』
「ヴィータちゃん夕食プリン抜きな」
『えっ、そんな……そんな怒らなくていいだろ!? 謝るから!! てーか、プリン抜きやはめてー!?』
「あははは……」
「まあ、たまにはええ薬や」
「それより、どうやら来たみたい。北側10km先よりガジェットが大量転移。数恐らく300」
「予想通りやね……助っ人の方は準備OK?」
「一応大丈夫みたい。でも大丈夫かな?」
「問題あらへん、彼女の強さはみんなよー知ってるやろ?」
「うん……」
自分たちが出られない事を不甲斐なく思う3人、
しかし、内部の方を無視して外部だけに対処するようなマネをすれば陽動だった場合動きが取れなくなる。
頭を使うなら内部の人員は残しておくべきなのだ。
「私達はこの機に乗じて内部で策動する者がいないか探ります。各自何かあったら知らせるように」
「「了解」」
副隊長達は指示を受けて、防衛のために配置につく。
しかし、300ものガジェット相手には心もとないのも事実だった。
そのためというか、一人、防衛に参加している強力な助っ人がいた。
それは桃色の髪をストレートに腰まで伸ばした少女、見た目はまだ高校生になったばかり程度に見える。
しかし、目もとにはバイザーがかぶせられており、マント等もしていることから、普通ではない事が分かる。
「オモイカネY、サポート可能なシステムはどれくらい?」
『エネルギー伝達は現状では不可能です。召喚サポート及びAIサポートは可能ですが』
「じゃあ、召喚は私が、AIのリンクはそっちでやっておいて」
『了解しました』
「行くよ、召喚、バッタ15匹、及びジョロ15匹、エネルギーは魔法変換の術式を使い、外部魔力を順次伝達」
『バッタ及びジョロAIリンク80%突破』
「召喚!」
すると虚空から30体のロボットの虫のようなものが現れた。
それぞれ3m近い巨体で、その気になれば人を乗せて飛ぶ事もできそうだった。
そして、空を飛ぶ赤い虫が地面を這う黄色い虫を抱えガジェットの群れへと飛び込んでいく。
群れの中へ飛びこんだバッタ(黄色い虫)とジョロ(赤い虫)はともに大量のミサイルを吐き出し一気に殲滅にかかる。
魔法を無効化するAMFというフィールドを纏うガジェット達であるが、ミサイルは魔法そのものではないため、無効化できず、
そのまま爆発四散するガジェットが相次ぐ。
予想外の攻撃を前に、接近戦になる前に3割以上が刈り取られていた。
「くっ、流石に外部魔力をそのまま使うっていうのは無茶かしら……」
『おそらく10分が限度かと、それ以上はラピスの肉体が持ちません』
「……じゃあそれ魔導師部隊に伝えといて」
『了解しました』
ラピスは嫌な汗を感じながら、魔力をバッタ達に送り続ける。
AIは元々バッタらに標準装備されているが、オモイカネのサポートはあった方がいい。
それゆえの選択でもあった。
しかし、流石に10分では殲滅しきれず50機近くを抜けさせてしまった。
「はぁはぁ……ごめん、50機ほど抜けた」
『了解しました、この後は我々の仕事です』
『負けない活躍を期待してください』
「そうね……がんばって……」
戦況の分析できる丘の上で一休みするラピスだったが、ふと近くに気配を感じて振り向く。
そこには、まるで昔の自分のような無表情な紫色のロングヘアの少女が現れていた……。
「貴方は誰……?」
「私はルーテシア・アルピーノ貴方には恨みはないけど、来てもらう」
「ふうん……そう簡単に行くと思う?」
「行くよ、ガリュー」
「!?」
まるでルーテシアの陰から現れるようにいきなり人型の虫が出現した。
そう、人型の虫、まるで仮面ライダーのような姿をしたそれは信じられないほどの速さでラピスに迫る。
しかし、ラピスは落ち着いて一歩も動かず指をはじいた。
すると地面からいきなりバッタが現れガリューと呼ばれた人型の虫をはじく。
「用心を忘れるほど私も暇じゃないの」
「……」
ラピス・ラズリとルーテシア・アルピーノ。その出会いはそんな最悪の形で始まった……。