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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第54話:相対戦=第二戦その1=
作者:蓬莱   2014/09/30(火) 23:36公開   ID:.dsW6wyhJEM
まず、意識を取り戻した真島が最初に感じたのは、自分の頭を包み込むような“柔らこうて温かいなぁ”という心地よい感触だった。
このまま、真島は安らかに眠りに就こうかと考えたが、その前にこの心地よい感触の正体を確かめる為に自分の意思に関係なく閉じようと眼を気合で無理やり開けた。

「何や、キャスターの嬢ちゃんか…」
「…ようやく目を覚ましたか、真島」

そして、おぼろげな意識の中で真島が眼にしたのは、安堵を込めた眼差しと柔らかな微笑みでこちらを見つめるキャスターの顔だった。
ライダーに勝利した真島が倒れた瞬間、誰よりも早く真島の元に真っ先に駆けつけたのはキャスターだった。
その後、真島の元に辿り着いたキャスターは意識を失った真島が目を覚ますまで膝枕をして見守っていたのだ。

「あぁ、もう一気に疲れたで…」
「随分と無茶をしたからな…はしゃぎ過ぎだ、馬鹿者」

一方、キャスターの顔を目の当たりにした真島は全身の力が抜けるかのような疲労感を覚えながらやれやれと溜息をついた。
ライダーとの度重なる激闘に次ぐ激闘を闘い抜いた真島は、もはや、身体どころか指先一本さえ動く事すらままならない状態だった。
そうであるにも関わらず、いつもと変わらぬ真島の姿に、キャスターはしょうがない奴めと苦笑しながら遊び過ぎて疲れ果てた子供を諭すように苦言を呈した。
実のところを言えば、キャスターとしては、散々人に心配をかけてきた真島に言いたいことは山ほどあったが―――

「けど、ほんまに久々やで…こんだけ楽しい喧嘩したんわ…桐生ちゃん以来やろうか」
「そうか…」

―――心の底から充足感に満たされた悪童のような真島の笑顔を見た瞬間、そんな事などどうでも良くなってしまった。
故に、キャスターが、己の“絆”と“信念”を貫き闘い抜いた最高の“マスター”にして“友”である真島に送るべき言葉は一つしかなかった。

「なら、今はゆっくり休んで、真島吾朗。あなたは、あなたを信じた人達の為に闘い抜いたのだから」
「…」

そして、そう労いの言葉を送ったキャスターは、ライダーとの死闘を制した真島を労わるようにそっと抱きしめながら優しく微笑んだ。
そこには、リーゼロッテ=ヴェルクマイスターという最悪の魔女の面影はなく、代わりにリゼット=ヴェルトールという一人の少女としての姿が有った。
初めて出会ってから今日に至るまで見せたことの無いキャスターの一面に、しばし呆けたように無言のまま沈黙した真島であったが、このまま眠りにつく前にせめてコレだけはキャスターに伝えておこうと口を開いた。

「何や…今日はリゼットの嬢ちゃんが天使に見えるで」
「私が“天使”か? どんな皮肉だ、馬鹿者」

それが聖杯戦争という最高の舞台でライダーという最高の好敵手と引き合わせてくれた最高の女である“キャスター”に対する真島からの最大の感謝と賛辞を込めた言葉だった。
“天使”―――真島の口から出た余りにも自分に似つかわしくないその言葉に、キャスターは軽口を叩きながら苦笑するしかなかった。
そして、自分に向けて苦笑するキャスターの顔を見届けると同時に、真島はゆっくりと目蓋を落とし、そのまま、力尽きたかのように眠りについた。

『真島さん!?』
「案ずるな。今、私の“虚無の魔石”を貸し与えた。今すぐには無理だが、徐々に元通りに回復するだろう」

再び、意識を失った真島の姿を目の当たりにした大河は思わず悲鳴を上げるかのように真島の名を叫んだ。
だが、キャスターは慌てふためく大河を落ち着かせるように宥めながら、“魔石”の自己回復能力で再起不能寸前まで傷ついた真島を治癒し始めた。
この分では、真島本人の生命力との相乗効果により、2、3日もすれば完全に復活できる筈だ。
むしろ、より深刻なのは―――

「さて…どうやら、むこうも意識を取り戻したようだな」

―――ウェイバーや忠勝に心配そうに見守られる中で、ようやく意識を取り戻したライダーの方だった。



“雨が降っているのだろうか?”―――未だに朦朧とする意識の中で、ライダーは、次々と頬を伝わるように落ちてくる水滴の冷たさをそう感じ取りながらゆっくりと目蓋を開いた。

「…忠勝? それにウェイバー殿まで…?」
「…!!」
「意識が戻ったんだな…良かった…本当に良かったぁ…」

そこには、忠勝に抱き起されながら意識を取り戻したライダーに、息も絶え絶えの有り様ながら涙混じりの安堵の笑みをこぼすウェイバーの姿が有った。
真島とライダーとの死闘に決着がついてからライダーが意識を取り戻すまで、ウェイバーは傷ついたライダーを癒す為に、慣れない治癒魔術を行使しつつ、自身の魔力を限界ぎりぎりまで供給し続けていたのだ。
やがて、何が起こったのか戸惑うライダーであったが、“良かった”と何度も呟くウェイバーとキャスターに膝枕されて抱き抱えられている真島の姿を見てようやく悟った。

「…ワシは負けてしまったのだな、ウェイバー殿」
「あぁ…負けたよ」

…真島との極限さえも超えた死闘の果てにむかえた自身の“敗北”を。
その事実を確認するかのように問い掛けるライダーに対し、ウェイバーは一切隠し事をすることなく、真島に敗北したという覆しようのない事実だけを手短に伝えた。
お互いに全力を出し切った上での決着である以上、ライダーとしては真島に敗北した事への後悔はなかった。
ただ、ライダーにとって心残りだったのは―――

「すまない…ウェイバー殿の約束を果たせず、ウェイバー殿との“絆”の誓いを守れなくて…本当にすまない!!」
「…」

―――自分の我が儘の為に貴重な令呪を躊躇わずに使い、その挙句に敗北を喫し、最後の最後まで自分を信じてくれたウェイバーとの“絆”に報いる事ができなかったことだった。
そして、ライダーが真っ先に思い浮かべたのは、ライダーこそが最も“絆”を信じていないと糾弾し自害した左腕にもっとも近しい男の言葉だった。
そんな自身の不甲斐無さに苛まれたライダーは、じっとこちらを見守るウェイバーにむかって只管謝罪の言葉を口にするしかなかった。

「何言ってんだよ…“絆”を掲げるお前がそんなこと言ってどうするんだよ」

しかし、当のウェイバーは無理やり泣きじゃくるのを抑えながら、直も自分に謝ろうとするライダーのきっぱりと言い切った。
確かに、ライダーは必ず勝つとウェイバーに誓ったものの、真島との限界を超えた死闘の末に敗北を喫したのは事実だった。
だが、ウェイバーからすれば、その程度の事で、聖杯戦争の中で築いてきた自分とライダーの“絆”が崩れる事など見当はずれの思い違いも良い所だった。

「誰が何と言おうと僕はお前を、ライダーとの“絆”を信じる!! それでも、お前が信じられないなら…僕が信じる僕とお前の“絆”を信じろ!!」
「…!?」

それを伝えるかのように、ウェイバーは、ウェイバーとの“絆”に誓った約束を守れなかったことに落ち込むライダーに喝を入れるように励ました。
かつて、海浜公園で、陽だまり娘こと綾瀬香純はウェイバーにこう言った―――“自分にしかできない事が有る”と
そう、自身の“絆”に在り様に揺らいでいるライダーに、確固たる“絆”を示せるのは、ライダーと共に幾多の困難を潜り抜けてきたウェイバーを置いて他に誰が居るだろうか?
そして、今こそそれを示す時なのだと悟ったウェイバーは、思いもしなかったウェイバーからの一喝に目を丸くして驚くライダーにむかって軽く拳を突き出すとこう啖呵を切った。

「だから、今度こそ約束しろ、ライダー、いや、徳川家康…!! 僕と“絆”を結んだサーヴァントとしてだけじゃない。僕の初めての友達として…!!」
「…分かった。なら、ワシもウェイバー=ベルベットというこの現世で初めて絆を結んだ友に誓おう」

それがウェイバー=ベルベットから初めての友である徳川家康に対する決して揺らぐことの無い“絆”の誓いだった。
このウェイバーの誓いに対し、ライダーは胸からこみ上げてくる熱い想いを抱かずにはいられなかった。
―――かつて、自分に対し、己の自害を以て、ライダーの口にする“絆”が嘘偽りであると糾弾した男がいた。
―――以降、男の言葉が抜けることの無い棘のように突き刺さったまま、多くの絆を結び、英霊となった後も、自分の心をずっと苛め続けた。
―――だが、ウェイバーが“絆”で誓った約束を果たせなかった自分を誰よりも信じ抜くと誓うといった瞬間、ライダーは言葉でだけはなく心で理解する事ができた。
―――例え、どれだけ嘘偽りだと謗られ否定されようとも、自分とウェイバーの結んだ“絆”は確かにここに存在している事を…!!
故に、ライダーも、自分との“絆”を信じ続けると決め抜いたウェイバーの想いに応えるべく、ここに新たな誓いを立てんと闘技場にいる全ての人間に聞こえるほどの大声で宣言した。

「今後、如何なる強敵と闘おうと…ワシは、この決して揺らがぬ絆に誓って、もう二度とウェイバー殿の前で絶対に負けはしない…!!」
「あぁ…約束だ、家康。そして、僕も、僕自身の闘いをお前と“絆”を結んだ友として精一杯やってみせる」
「…」

その後、ライダーとウェイバーは互いの拳を突き合わせながら、相対戦の敗北の末に辿り着いた決して崩れることの無い自分達の“絆”の誓いと幾多の困難を合おうとも破られることの無い約束を交わし合った。
そして、ここに真の絆を結んだ二人の主を、忠勝は、いつものように無言のまま、しかし、どこか誇らしげな瞳で見守るのだった。
とその時、闘技場の入り口から、己の“絆”を抱きながら激闘を闘い抜いたライダー達を称えるかのように拍手する音が徐々に近づいてきていた。

「見事だった、ライダー、真島吾朗。私も卿らの心躍る闘いを存分に楽しませてもらった。今は両者ともに、ここで、この激闘の傷を癒し英気を養うと良いだろう」
「…感謝する、黄金の獣」
「すまない、ラインハルト殿」

そして、闘技場へと入場したラインハルトは既知感に埋められた自身の心さえ躍らせてくれる闘いを見せてくれたライダー達にむけて優雅な笑みを浮べながら称賛の言葉を口にしながらしばしの休息を取るように促した。
確かに、ラインハルトの言うように、ライダーも真島もこの初戦の激闘で決して軽くはない傷を負っており、ライダーもキャスターもこのラインハルトの好意を受けるとそれぞれ感謝の言葉で返した。
このライダーとキャスターの返答に、ラインハルトは満足そうに頷きながら、“そして…”と前置きした後―――

「私も待つとしよう…いずれ来たるべき卿らとの至高の闘いに思いを馳せ」
「何?」
「え? それって、どういう…?」

―――そう遠くない未来に自分がライダー達と闘う事を予期するかのような言葉を思わず口走ってしまった。
この時、ライダー達の目に映ったラインハルトは、まるで強烈な飢餓感に襲われながらも、極上の獲物を喰くらいたいがために、直もこの身心を苛める空腹に堪えんとする獅子のようにしか見えなかった。
これには、さすがに聞き捨てならなかったのか、キャスターとウェイバーは余りに不穏な言葉を口にしたラインハルトの真意を見極める為に問い質さんとした。

「それについて、今、私の口からは語る事ができない。いずれ、卿らにはこの相対戦が終わった後に語るとしよう」
「ラインハルト殿…あなたは…」

しかし、ラインハルトは心中で自身の失言に苦笑しながらも、今はその時ではないとキャスターとウェイバーの問い掛けには答えることは無かった。
一方、ライダーには、ラインハルトの見せた不可解な言動にある予感を抱かずにはいられなかった。
“いずれ、自分はこの修羅道至高天に君臨する主と雌雄を決さねばならなくなる―――!!”
そんな突拍子もない不吉な予感にまさかと思いながらも、ライダーは自身の予感が事実である事を確かめるために直もラインハルトに問いかけようとした。

「では…総員、己が力と隊の全戦力を以て、あの強者たちの治療と慰安に取りかかれ…!!」
「「「「「「「「「「ヤ・ヴォール!!」」」」」」」」」
「んな!? 何だぁ…!!」
「こいつらは…!?」

しかし、ラインハルトは、そんなライダーの問い掛けを遮るように事前に待機させていた配下達に“深く傷ついたライダーと真島の治療”の命を下した。
次の瞬間、主であるラインハルトの号令を受け、ライダーと真島の治療室へ運ぶために駆けつけた骸骨達が我先にとなだれ込んできた。
だが、驚くウェイバーとキャスターが、骸骨達の命を下したラインハルトにまず何より言いたかったのは―――

「「アレが何であるかの前に…何故、メイド服とナース服なのだ(なんだよ)!?」」

―――ここに駆けつけた骸骨達の纏った衣装が何故メイド服とナース服なのかということだった。
しかも、骸骨達の纏ったメイド服やナース服自体の完成度も極めて高く、それがより一層骸骨達の不気味さを割り増ししていた。
このウェイバーとキャスターのツッコミに対し、ラインハルトは“ふむ”と少しだけ考え込んだ後、何がいけなかったのか分からず、不思議そうにこう答えを返した。

「私がライダーと真島の手当ての為に手配した。あの衣装については、アーチャー達の意見から“萌え要素”を参考にしたのだが…何か問題でも有っただろうか?」
「問題しかない…もう色々と問題しかないぞ…!!」
「いやいや、骸骨って時点で萌え要素ないから!! 明らかに癒しじゃなくて恐ろしなホラー要素しかないから!! しかも、声が明らかに野太すぎるだろぉおお!!」

“やっぱり、元凶はあいつらか…!?”―――ウェイバーとキャスターは、そう心中でアーチャー達にラインハルトに要らん知識を伝えた事に抗議しながら、何やら天然ボケスキルに目覚めつつあるラインハルトにツッコミを入れた。
ちなみに、ウェイバーの言うように、集まった骸骨達全ては生前、激戦地の最前線に激務をこなしていた衛生兵達で構成されていた。
無論、ラインハルトの元で働く以上、骸骨体全員がひ弱で軟弱な男の娘などではなく、モヒカンヘッドがよく似合う筋骨隆々の益荒男たちである。

「はははは!! これは中々に面白いもてなしだ、ラインハルト殿!!」
「いやいや…!! お前も能天気に笑って―――付添人確保ぉ!!―――って、何で僕までぇええええぇ!?」
「諦めろ、ウェイバー…もはや、こうなってはこの流れに身を任せるしかあるまい」

だが、ライダーは、常人ならば一発でSAN値直葬な光景にも動ずることなく、むしろ、ラインハルトの心遣いに笑みを浮べて感謝すらしていた。
この見事なまでの天然ぶりを発揮するライダーに、さすがのウェイバーも反射的にツッコミを入れようとした。
しかし、その直後、集結した骸骨達によって付添人として、ライダーもろとも担架に乗せられたウェイバーは、ここから降ろしてくれと抗議の声を上げるように叫んだ。
一方、ウェイバーと同じく真島と共に担架に乗せられたキャスターは、死んだ魚のような光のない瞳でアーチャーや銀時らのノリが汚染範囲を広げている事を思い知ったかのように全てを諦めきった様子で乾いた笑みを浮べていた。
そして、骸骨達よって強制的に運搬されていくライダー達を見送ったラインハルトは、“そう、今は休むが良い”と呟きながら、ライダーと真島の死闘を思い返した後―――

「その時こそ、私の愛を、破壊を存分に受け止めてもらうぞ」

―――何れ来たるべき決戦の時に自身の全身全霊の破壊の情を以て、彼らの絆に応える事を待ち望んだ。



一方、間桐邸では、荒れ狂う鬼女による凄惨な制裁によって黄泉路へと叩き落された一人の男が現世へと舞い戻ろうとしていた。

「…何か、川の向こうで蟲達がこっちで手招きしているのが見えた」
「しっかりしろ、雁夜!! 気休めかもしれないが、まだ、傷は浅い筈だ!!」

そして、葵の打撃系整形手術により元の顔が分からなくなるほどボロボロになった雁夜は開口一番にこの世とあの世の狭間を見た光景を呟いた。
一方、何とかマジ切れした葵を宥めた時臣は、某超人プロレス的な台詞を口走りながら、うっかり気を抜けば今度こそあの世へ直行寸前の雁夜の意識を持たせんと必死になって呼び掛け続けた。
やがて、雁夜は時臣の必死の呼び掛けの甲斐あってか意識を取り戻した瞬間、とても恐ろしい何かに追い詰められたかのように怯えた表情で時臣に縋りつくようにこう問い質してきた。

「何だか、葵さんに頭を掴まれて握りつぶされる夢を見たんだけど…俺の気のせいだよな? 俺の気のせいだと言ってくれよ、時臣…!!」
「雁夜…!!」

文字通り、自身の身に起こった惨劇を受け入れられずに現実逃避する雁夜の姿を目の当たりにし、さすがの時臣も同情の念を禁じ得ず、それ以上何も言えなかった。
というか、時臣にしても、図らずも垣間見てしまった葵の狂気に、“どうして、どうして、こうなった…!?”と戸惑いを隠せないでいた。
まぁ、愛する妻&想い人の五分間休み無しの全力オラオラ・ラッシュを見せつけられればSAN値に多大なダメージを受けるのは無理からぬ話である。
ちなみに、一般的な主婦である筈の葵が雁夜をフルボッコできたのは、護衛兼主婦仲間である某立花嫁の手解きによる指導とその成果を遺憾なく発揮できるゴリラ型サンドバックという名の肉袋による実践特訓の恩恵であるのは別の話である。

「それでコントはいいから、問題の召喚の触媒はいったい誰に渡したの、雁夜君?」
「…一応、時臣の知り合いだからてっきりお前も知っていると思ったんだけど」
「私の知り合いだと…?」

とここで、時臣と雁夜を冷めた目で眺めていた葵は改めて、意識を取り戻した雁夜に誰にバーサーカーの触媒を貸し出したのか問いただした。
ひとまず、錯乱状態から抜け出した雁夜は、笑顔で拳を鳴らす葵の尋問に答えるかのように、触媒を貸し出した相手が時臣の知り合いである事を伝えた。
“時臣の知り合い”―――この雁夜の口にした一つの言葉を聞いた時臣はまさかと思いながらも、今回の聖杯戦争における自身の協力者であり、もっとも信頼できる弟子の姿が脳裏に過ぎった。
そんな時臣の感じた予感が事実である事を示すかのように、突如、葵の持っていた携帯電話から着信音が鳴り響いた。
恐る恐る、葵が通話ボタンを押して耳に当てると同時に、驚愕の形相を浮べた葵はある種の覚悟を決めたかのような神妙な面持ちで自分に目を向ける時臣へと向き直りながら電話の主が誰であるのかを告げた。

「あなた…言峰さんからよ」
「…分かった」

“やはりか…”―――葵の告げた電話主が綺礼であることを聞いた瞬間、時臣は薄々と感じていたモノの当たって欲しくはなかった予感が的中したことにそう思わずにはいられなかった。

「綺礼か…まさか、君が私の対戦相手になるとは思わなかったよ」
『…その様子では既に間桐雁夜から事の次第は伝わったようですね、導師』

そして、聖杯戦争を勝ち抜くための協力関係であった筈の時臣と綺礼は、相対戦第二戦の対戦相手として電話越しで対峙することになった。
この予期せぬ事態に無念だと口惜しそうに語る時臣に対し、綺礼は特に狼狽える様子も慌てる様子もなく、普段の平静さを保ったまま、自分が雁夜から触媒を借り出した事を淡々と明かした。

『大凡の事情はこちらも把握しています。導師が何故、バーサーカーを召喚した触媒を欲しているのかも』
「ならば、話が早いな…綺礼、できる事なら、いますぐ、その触媒を―――残念ですがお断りします―――何?」

さらに、綺礼は、本来ならウェイバー達しか知る筈のない事実、擁護派にとってバーサーカー召喚の触媒が何故必要不可欠なモノであるのかも含めて知り尽くしている事を告げた。
ひとまず、時臣は何故、綺礼がこちらの内情を知り尽くしているのかは不問にし、綺礼の持ち去った召喚の触媒を譲渡してもらうべく交渉を試みた。
“自分の協力者にして弟子である綺礼ならば闘わずとも話し合いで済ませられるかもしれない“―――そんな確信にも似た期待を抱きながら、時臣は綺礼との交渉の為に話を切り出そうとした。
だが、その直後、そんな時臣のささやかな期待を容赦なく打ち砕くかのように、綺礼は召喚の触媒を譲渡する事をきっぱりと拒否した。

『この相対戦の二番戦は簡単に言えば“鬼ごっこ”です。夕刻までにこの冬木市の何処かに居る私を捕まえれば、導師の勝利。逆に、私が夕刻まで逃げ切った場合、こちらの勝利とさせていただきます。故に、この触媒については導師が勝利した場合のみお渡しするつもりです。直、そちらの、鬼側の参加人数は制限なしで構いません』
「待て、綺礼…!! いったい、何を言って…!?」

さらに、綺礼は思いもしなかった拒絶の言葉に驚く時臣に構うことなく、相対戦の第二戦の勝負内容“鬼ごっこ”のルールについて淡々と説明し続けた。
これには、さすがの時臣も動揺を抑え込みながら、綺礼に“何故、このタイミングで反旗を翻したのか?”や“そもそも、勝負内容が何故鬼ごっこなのか?”なども含めた説明を問い質すように求めた。

『これ以上は私を捕らえてからゆっくりと説明するつもりですので、今はお答えする事ができません』

しかし、綺礼は時臣の問い掛けには一切答える事なく、思わず殺意さえも感じるような冷たい口調でこう宣言した。

『…それにもう勝負はもう既に始まっている、遠坂時臣』
「き、綺礼…!! 君は本気で―――時臣危ない!!―――む、何を!?」
「雁夜君!?」

この綺礼からの事実上の宣戦布告に対し、時臣はもはや暴走しているとしか思えない綺礼を説得しようと直も試みた。
だが、その直後、何かに気付いた雁夜が声を上げて、何が起こったのか分からない時臣に飛び掛かり押し倒した。
この光景を見た葵は、“そっちのNTRに目覚めたの!!”とナルゼ経由の不要知識を発揮し、ならば、その略奪愛を阻止するべく雁夜の息の根を止めるしかないと意を決した瞬間―――

「いったい、何が…!?」
「…上だ、時臣!!」

―――先ほどまで時臣がいた場所に、ガラスが割れる音が鳴り響くと同時に激しい火柱が立ち上るほどの炎が燃え上がった。
恐らく、ガラス瓶にガソリンを入れて作った簡単な火炎瓶を使ったのだろうが、時臣として何故、こんなモノが突然、しかも、自分に目掛けて落ちてきたのかただ困惑するしかなかった。
とその時、ふと上を見上げた雁夜は、魔術師らしくのない手段を使って、時臣に攻撃を仕掛けてきた者達の正体を目撃した。

『『『…』』』
「あれはアサシンの宝具…!?」

そこには、先程と同じ火炎瓶を爆弾代わりに満載した改造ラジコンヘリを操作するアサシンの宝具であるトランプカード“オール・アロング・ウォッチタワー”達の姿が有った。
そして、先程の綺礼の宣戦布告が本気である事を知った時臣を見下ろしながら、雷自今ヘリに乗ったカードの一枚がアサシンの言葉を代弁するかのようにこう言い放った。

『綺礼は、俺達は…本気だ』
「…」
「放して、雁夜君!! アレを打ち落とせないわ!!」
「葵さん、待って!! ここだと俺の実家まで火事になるから!! この年でホームレスは勘弁して!!」

“だから、いつまでも味方と思っているなら死ぬぞ…”―――アサシンの宝具は、まるでこれが協力者として最後の務めだと気遣うように、未だに覚悟の定まっていない時臣らにむかってそう暗に告げた。
そして、アサシンの宝具はラジコンヘリを操作すると、アサシンの忠告に無言のまま押し黙る時臣と手頃な石を掴んでラジコンヘリを撃墜せんとする葵を抑える雁夜を置き去りにし飛び去って行った。

「綺礼…君はそこまでして、本気で私と闘うつもりなのか…」

そう裏切りとも取れる綺礼の行動に苦悩を噛みしめるかのような時臣の呟きと共に、相対戦第二戦:遠坂時臣&アーチャーVS言峰綺礼&アサシンによる冬木市を舞台にした壮大な鬼ごっこの幕が開いた!!



第54話:相対戦=第二戦その1=


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