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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第57話:相対戦=第二戦その4=
作者:蓬莱   2014/11/30(日) 23:08公開   ID:.dsW6wyhJEM
夢の中にて、銀時と洞爺湖仙人によるセイバーの過去語りが佳境を迎えようとしているころ、時臣達には判官贔屓なコズミック変質者によって放たれたパシリという名の刺客の魔の手が迫りつつあった。

「くっ…今度は何が起こったというのだ?」
「大丈夫ですか、トーリ様?」
「お、おう…」

ほぼ不意打ちに近い襲撃を受けた時臣達であったが、間一髪というタイミングで敵の攻撃をかわす事に成功して事なきを得ていた。
“アサシンの襲撃か…だが…”―――当初、時臣はこれも綺礼とアサシンの仕業ではないかとそう考えたものの、先ほどの攻撃を思い返すと即座にその可能性を否定した。
なぜなら、今回の攻撃はこれまで気配遮断を維持すべく間接的攻撃につとめてきたアサシンの襲撃に比べ、アーチャーさえも感じずにいられないほど余りにも明確な敵意と殺意が込められていた。
その直後、当の襲撃者は、自分の攻撃をかわした時臣たちの前に、まるで見せ付けるかのように堂々とその姿を現した。

「はっ…避けられたか。まぁ、あの下種野郎と闘うつもりなら、そう簡単にくたばってもらっちゃ困るがよぉ」

そこには、ドイツ第三帝国―――ナチスの軍服を身にまとい、肌や髪まで白一色に染まったかのようなアルビノ体質の男が口元を吊り上げながら凶暴な笑みを浮かべていた。
“もはや怪物の類にしか見えないな”―――自身の攻撃を回避した時臣達を評するアルビノの男を対し、時臣は何時でも機先を制するように構えながらも、そう感じずにいられなかった。
それほどまでに、目の前にいるアルビノ男が発するモノは英霊特有(アーチャーは除く)冒し難い神聖さよりも、死徒のような血に飢えた怪物じみた禍々しさを漂わせていた。
一方、アーチャーとホライゾンは、アルビノの男を目にした後、互いに顔を見合わせて頷くとそれぞれこう答えた。

「あれ? さっき、俺らんとこにお知らせに来てくれた、色白パシリのにーちゃんじゃん」
「Jud.確か、見た目的に序盤の強敵として初登場して、中盤辺りでさっくり退場するチンピラキャラなパシリの方だったかと」
「パシリ呼ばわりしてんじゃねぇよ、てめぇら!! マジでぶっ殺すぞ!!」

“あっ…被害者枠だな”―――アーチャーとホライゾンが口にした“パシリ”発言に激昂するアルビノの男もとい色白チンピラを前に、時臣はこれまでの武蔵勢とのやり取りによって得た経験から色白チンピラが弄られポジションであるとすぐにそう直感した。
その直後、自分が徐々に武蔵勢に染まってきた事に気付いたのか、時臣は項垂れるようにその場で膝をついて崩れ落ちた。



第57話:相対戦=第二戦その4=



その後、ショックから立ち直った時臣は気を取り直して、自分たちに襲撃を仕掛けてきた色白チンピラと対峙しつつ、相手の正体を見極める為に探りを入れることにした。

「それでどのような事情が有って、また、私達に襲い掛かってきたのかな?」
「はっ、俺はそっちじゃねぇよ。ただ、こっちは審判役がこのまま一方的な状況じゃつまらねぇからアサシン陣営の援軍として呼ばれただけだ」

聖杯戦争の裏で幾度も暗躍する組織を示唆するように問いかける時臣に対し、色白チンピラは鼻で笑うかのように否定しながら、鬱陶しそうに自身がバーサーカー陣営より派遣されたアサシンの助っ人であることを明かした。
“あの変質者か…!?”―――時臣とアーチャー達は、色白チンピラの口振りと余りにウザい嫌がらせじみたやり口に、この事態の元凶である審判役が誰なのか即座に確信した。
恐らく、アサシン陣営との戦力差を考慮しての事であろうが、それにしても、露骨な肩入れ具合は判官贔屓も良い所である。
とここで、色白チンピラは、話は済んだといわんばかりに、先ほど時臣達に襲いかかった際に使用した血のように赤黒く染まった無数の杭をメキメキと身体中から発生させると自ら名乗りを上げた。

「まずは自己紹介といこうじゃねぇか。聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム=エーレン―――隙ありです―――ぶほぉ!?」
「「えぇええええええ!?」」

その途中、自身の名乗りを上げんとする色白チンピラ―――ヴィルヘルムに構う事無く、ホライゾンは先ほど、アーチャーをぶっ飛ばした時と同じく、いつの間にか取り出していた“憤怒の閃撃”を叩き込んだ。
文字通りの問答無用なホライゾンの攻撃に声を上げて驚くアーチャーと時臣であったが、当のホライゾンは何事もなかったかのように“憤怒の閃撃”を片付け―――

「さて、これで心置きなく、言峰様を捜せますね。では、早く教会へと向かうとしましょう」
「ホライゾン、ホライゾン!! オメェ何気に容赦ねぇ事やってあっさり流すなよ!?」
「いやいや、それ以前にこんな白昼堂々と何度も宝具を気軽に使っては魔術の秘匿が…!!」

―――まるで勝利宣言するかのようにグッと親指を立てながら何事もなかったかのように冬木教会を目指し始めた。
もはや、この世全てのバトル漫画に喧嘩を売るかのような“そんなお約束なんぞ知った事か!!”と言わんばかりのホライゾンの外道すぎる所業に、さすがの全裸も若干真面目な顔付きでツッコミを入れた。
さらに、魔術師である時臣からすればより深刻な問題であり、神秘の秘匿という原則に一切構う事無く、人目に憚らず宝具をぶっ放すなど蛮行以外の何物でもなかった。
しかし、時臣が咄嗟に状況を把握しようと周囲を見回した瞬間、時臣はある違和感―――野次馬たちが誰一人として時臣達に視線を向けないる事無く、まるで時臣達の存在そのものが認識されていない事に気が付いた。
加えて、ホライゾンが“憤怒の閃撃”を放ったのにもかかわらず、土煙こそ巻き上がっているものの、周囲の建物や道路には傷一つさえついていなかった。
この異常な状況に困惑する時臣であったが、その疑問は徐々に薄れていく土煙から出てきたヴィルヘルムによって明かされる事になった。

「こいつはクラフトの糞野郎が周りの連中を気にしなくていいように全力で闘えるための御膳立てしてくれたんだよ」

“もっとも、俺としちゃ魔術の秘匿なんざとか猿共が巻き添え喰らおうがどうでも良いだけどな…”―――そう内心で悪態を吐きつつ、額から滴る血を拭ったヴィルヘルムは状況をのみ込めていない時臣達に何が起こっているのか軽く説明した。
当初、相対戦第二戦の舞台が冬木市と決まった際、綺礼とアサシンから冬木市に被害が及ばないように配慮すべきとの声が上がった。
一応、ある程度は監督役である聖堂教会によって隠蔽工作が可能であるモノの、さすがに戦闘狂であるヴィルヘルムまで参加させた場合だとその範疇を軽く超えるのは明白だった。
故に、綺礼とアサシンはヴィルヘルムの参戦を認める代わりに、審判役であるコズミック変質者に一般人や建物などに被害が及ばないよう対処するように求めた。
その結果、コズミック変質者による占星術の応用を使った魔術により、時臣や綺礼などの関係者を除き、他の人間や建物がサーヴァントの戦闘行動による巻き添えを食わないように不干渉化したのだ。
ちなみに、当初、コズミック変質者は“働いたら負け”などとニートぶりを発揮したが、マリィからもお願いされると同時にやる気を出して即行で手配したのはどうでも良い話である。

「それにしても、餓鬼が…戦士の名乗りの邪魔をするなんざ…それでも英雄の端くれかよ」

とここで、ヴィルヘルムは、名乗りの最中にもかかわらず、無粋にも宝具をブチ込んだホライゾンに余りあるほどの殺意を込めた視線を向けて睨み付けた。
そして、ヴィルヘルムはそのまま、ホライゾンに向けて爆発寸前の怒気を孕んだ声で脅すように説教せんとした。

「戦の作法も知ら―――では、そういう事なら遠慮なく―――ぎぃゃぁあああああ!!」
「「二度目ぇ―――!!」」

その直後、もはや、人目に憚る事無く宝具が使用可能と知ったホライゾンは、ヴィルヘルムにむけて、いつの間にか取り出した“悲嘆の怠惰”を言葉通り遠慮なくブチ込んだ。
そして、先程と同じく、ホライゾンの放った宝具の直撃を受けたヴィルヘルムは、唖然とする時臣とアーチャーの前で掻き毟られながら黒い光の奔流に飲み込まれていった。

「あの、ホライゾン君…せめて、同じ倒すにしても…最後まで話ぐらいを聞いてあげても良かったと思うのだが…!!」
「ふぅ…時臣様、ホライゾンの中では、“敵を倒す”と心の中で思った時点でその行動は終了しているのです。トーリ様にツッコミを入れる時のように」

この情け容赦ないホライゾンの不意打ちに対し、時臣は宝具の乱用により一気に魔力を消耗した事で息が絶え絶えになりつつも、“悲嘆の怠惰”を何事もなかったかのように仕舞うホライゾンを諌めるように窘めた。
だが、当のホライゾンは無表情のまま、チッチッと人差し指を揺らしながら、某三大兄貴の名言をパロったようなセリフで時臣に反論した。
そして、ホライゾンが自分の隣で“おいおい、俺の時も同じ扱いかよ!!”と抗議する全裸の顔面に拳を叩き込んだ瞬間―――

「このぉクソ餓鬼共がああああああああああああぁ!! 上等だぁ、てめぇらぁ…クラフトの思惑なんざ知った事か。俺を舐め腐った全員まとめて吸い尽くしてやるよぉ!!」

―――全身を掻き毟られながらも、痛みすら感じないほどにブチ切れ、地獄に住まう悪鬼の如き憤怒の形相を浮べながら、自分を虚仮にした時臣達を口汚く罵るヴィルヘルムがこちらに迫ってきていた。

「あ、この色白にーちゃん…ガチでキレちゃったよ」
「まぁ、手加減したとはいえ、問答無用で宝具を二度も叩き込まれては仕方がないともいえるが…というか、いつの間にか私達まで同列扱いされていないか!?」
「それと、トーリ様と時臣様にお伝えしておきたいのですが」

もはや、ここまでヴィルヘルムを激怒させた以上、アーチャーも時臣も、いつもと同じく漫才じみたやり取りをしながらも、ヴィルヘルムとの戦闘は避けられない事を理解せざるを得なかった。
とはいえ、ボケ代わりに使用したホライゾンの宝具で、ヴィルヘルムにあれだけの手傷を負わせた以上、時臣としては“そう苦戦することは無いだろう”と甘く見積もっていた。
だが、ホライゾンだけは、いつものように毒舌混じりの軽口を叩くことなく、無表情ままアーチャーと時臣にある重大な事実を告げた。

「二度目は本気で倒すつもりで攻撃しました」
「「えっ…!?」」
「逝けや、ヴァルハラぁああああああああ!!」

そして、ホライゾンが口にしたその事実にアーチャーと時臣が驚くと同時に、溜めこんだ怒りを解き放つかのような開戦の轟咆を叫ぶヴィルヘルムから放たれた無数の杭が一斉に時臣達に向かって襲い掛かってきた。



変質者によって派遣されたヴィルヘルムの攻勢が始まった頃、この相対戦第二戦とは関わりのない部外者たちもまた己の目的の為に動きだそうとしていた。

「…何処に行くつもりですか?」
「…」

“本当に隙が無いですね…”―――いつの間にか自身の背後に現れた磯六に呼び止められた舞弥は無言のまま、そう心中で舌打ちしつつ店の出入り口で立ち止まった。
切嗣逮捕の事実を知って以降、舞弥は今日まで幾度も切嗣を救出する為に、切嗣が囚われている冬木警察署に忍び込もうと試みていた。
しかし、その度に舞弥の行動を常に見張っているかのように現れる磯六によって、舞弥は警察署に忍び込むのはおろか、店の外に出る事すら阻まれることになった。
もはや、舞弥も多少、部外者に機密情報を漏らす間の抜けたとことはあるモノの、磯六が優秀な諜報員という事に偽りはないことを認めざるを得なかった。

「あなたには関係のない事です」

とはいえ、今度という今度は一刻も早く切嗣を救出したい舞弥は、これ以上部外者に口出しされる謂れはないと切って捨てると店の扉を開こうとした。
恐らく、遠からず切嗣の身柄は冬木警察署から東京の本庁へと取り調べの為に移送される事になるだろう。
そして、如何なる理由が有ろうとも、あくまで世間一般からすれば、切嗣は数々の凶行を繰り返してきたテロリストに過ぎないのだ。
もし、このまま何もせずに切嗣が本庁に送られれもすれば、聖杯戦争の強制退場だけでなく、切嗣が死刑宣告される事さえも充分にあり得る事だった。
故に、舞弥としてはそれだけは何としても避ける為に、一刻も早く切嗣を救出しなければならなかった。

「生憎ですが…折角、助けた命がむざむざ死地にいくのを止めないほど薄情でもないので」
「くっ…!?」

しかし、直も切嗣の救出に拘る舞弥に対し、磯六は即座に舞弥の腕を捻り上げるようにして抑え込みながら簡単に動きを封じ込め、舞弥の行動を自殺行為だと指摘した。
事実、磯六の言うように、舞弥が忍び装束の青年によって負わされた脇腹の傷は癒えておらず、そのような手負いのまま、警察署に忍び込むなど自殺行為以外の何物でもなかった。
無論、その程度のことなど、磯六に指摘されるまでもなく、舞弥自身も充分に理解していた。

「それでも…それ以外、私には何もないから…私にとっての選択肢はたった一つしか有りません」
「素直に聞いてもらえそうにはないですか…仕方ありませんね」

だが、例え、自身の身体がどのような状態であろうとも、舞弥は切嗣の窮地を救う為ならば自身の命を落とす事すら厭うつもりなどなかった。
それほどまでに、舞弥にとって“衛宮切嗣”は自身の命すらも使い潰そうとも何よりも代えがたい存在だった。
そんな舞弥の頑なな覚悟を前に、磯六はやれやれといった様子でため息をつきながら、抑え込んだ舞弥にかけた拘束を解くとこう告げた。

「では、もう一つの選択肢として、私もあなたに同行させてもらうという選択肢を付け加えて貰いませんか」
「…何が目的なのですか?」

この磯六からの突然の協力の申し出に対し、舞弥は一瞬だけ驚きの表情を見せつつも、すぐさま、磯六の意図を探るかのように問い掛けた。
ただの善意…というには、磯六の申し出は余りにも不自然だった。
如何に舞弥を助けた成り行きがるとはいえ、出会って間もない他人の為に自身の任務をおろそかにするだけでなく、一歩間違えれば、磯六自身も警察に追われかねないようなリスクをのみ込むとは到底考えられなかった。

「…どうにも警察署内部でキナ臭い動きが有りましてね」

無論、磯六も自分の申し出に舞弥が警戒するのを理解していたのか、舞弥への協力を申し出た事情を簡単に説明し始めた。
実は、聖杯戦争が始まって以降、冬木警察署の主導の元、冬木市の各所に防犯対策の一環として数百にも及ぶ監視カメラの取り付けが行われていた。
確かに、倉庫街の爆弾テロや冬木ハイアットホテル爆破テロなどの事件が頻発している以上、個人のプライバシーを無視してでも監視カメラを設置する事もやむを得ないのかもしれない。
そう、普通に考えて、テロの標的としては無縁であるにもかかわらず、柳洞寺周辺に半数以上もの監視カメラや隠しカメラを設置している事を除けば…!!
さらに付け加えるなら、この柳洞寺の地下には、この聖杯戦争の要ともいえる大聖杯と呼ばれる魔法陣が構築されているのだ。
もはや、冬木警察が何かしら聖杯戦争についての情報を知り得ているのは疑う余地もなかった。
とはいえ、如何に磯六が優秀な諜報員だとしても、国家権力に属する警察である以上、単独での潜入調査は困難を極めるのは明白。

「なら、少しでも協力者が多いに越したことは無い。そちらにもメリットが有るなら、お互いの為に悪くない選択肢だと思いませんか?」
「…」

磯六の申し出に対し、舞弥は戸惑いの表情を見せながらも答えを決めかねているのか考え込む素振りを見せながら黙り込んだ。
確かに、磯六の言葉が真実であるならば、如何に舞弥といえども単独で警察署に乗り込むのはあまりにも無謀だった。
加えて、聖杯戦争についての情報を知る冬木警察が何らかの目的が有って、聖杯戦争の参加者である切嗣を逮捕したのなら、より一層厳しい監視下に置かれているのは当然の事。
ならば、磯六の申し出は渡りに船といっても良かったが、如何に正体を明かしたとはいえ、磯六の言葉をそう簡単に信じ込む訳にもいかなかった。

「この衛宮切嗣逮捕に関して…聖杯戦争の裏で暗躍する組織が一枚噛んでいるようです。既に冬木警察も彼らの手の内と考えるべきでしょうね」
「奴らが…!?」

しかし、迷う舞弥に決断を促すかのように狙いすました磯六の言葉を聞いた瞬間、舞弥は思わず顔を見上げながら驚愕した。
確かに、磯六の言葉が正しければ、魔術師である切嗣を警察が逮捕できた事にも説明がつき、その上、切嗣を誘い出すためにイリヤを誘拐した事やあの忍び装束の男の言動からも彼らの組織が切嗣を狙っている事は明白だった。
もはや、一刻も早く、警察署から切嗣を助け出す必要が有る以上、舞弥に手段を選ぶ余裕など既に残されていなかった。
やがて、舞弥は、婦人警官の制服を手にしながらいつの間にか警察の制服に着替えた磯六にむかって自身の下したこの場に於いての最善の決断を告げた。

「…分かりました。それが最善の選択肢である以上、断る理由など有りません。今回に限り、あなたの提案に乗りましょう」
「ご英断ありがとうございます、ミス舞弥」

そして、磯六の協力申し出を受け入れた舞弥は磯六の差し出した手を握りながら、互いの目的の為に冬木警察署へと潜入すべく店を後にした。


一方、市街地における相対戦第二戦は変質者のテコ入れによって更なる激戦の一途を辿っていた。

「まさか、こんな不測の事態が起こるとは…」
「恐らく、ニート変質者の采配でしょう。このウザさ加減は間違いありません」
「だよなぁ…あの変質者でニートなにーちゃん、結構判官びいきとかしそうだったしなぁ」

“全裸の君が変質者呼ばわりするのもどうだろか?”―――アーチャーとホライゾンのやり取りを聞き取った時臣はそう心中で思いながらも、この状況をどう打開すべきか考えあぐねていた。
現在、時臣とアーチャー達はてこ入れの一環として変質者の放った刺客であるヴィルヘルムの追撃を受けつつ、ほぼ息継ぎなしの全力疾走で市街地を逃げ回っていた。
その際、ホライゾンの“悲嘆の怠惰”の直撃を受けても直立ち上がるヴィルヘルムを前に、アーチャー達は自分達だけで打倒するのは困難であると判断し、別グループとの合流を図りながら退却を図る事にしたのだ。
ひとまず、一時的にヴィルヘルムから逃げ切るのには成功したモノの、時臣の顔に安堵の様子は一切無く、より一層状況が悪化したことに険しい表情を浮かべていた。

「まずいな…このままでは、どんどん冬木教会から遠ざかっていく」

事実、時臣の言うように、ヴィルヘルムの追撃から逃走するのに止むを得ないとはいえ、がむしゃらに市街地を逃げ回った結果、さらに冬木教会から遠ざかるという結果となってしまった。
しかも、この時点で、既に時刻は三時を回り、徐々にタイムリミットである夕刻に迫りつつあった。
唯一、幸いな事といえば、ヴィルヘルムから逃走する間、何故か、アサシンからの奇襲がなかった事ぐらいであった。
それはともかく、時臣達としては一刻も早く冬木教会を目指したいところであったが―――

「よぉ、てめぇら、何時までこそこそ逃げられると思っていられるんだ?」
「…」

―――逃げ続けるアーチャー達を先回りすべく、障害物に構う事無くまっすぐに突き抜けながら、アーチャー達から見て前方の建物の壁から飛び出してきたヴィルヘルムによって阻まれる事になった。
これに対し、ホライゾンは無言のまま、先ほどまでと同じく、飛び出してきたヴィルヘルムにむかって“憤怒の閃撃”を放った。

「外しましたか…」
「当たり前だ…そう何度も不意討ちが通用するかよ」

しかし、ヴィルヘルムも、もはや、ホライゾンが問答無用に攻撃を仕掛けてくるのは分かっているのか、さすがに三度も同じネタを繰り返す事無く、あっさりとホライゾンの攻撃をかわしてみせた。
ちなみに、この時、相対戦第二戦を見守っていった黒円卓の同僚が“空気読めよ、吸血鬼”、“ガチで駄目ね、このシスコン”、“屑が…”、“所詮はチンピラか”などと口にしながら、攻撃をかわしてしまったヴィルヘルムに対し一斉に舌打ちしたのはまた別の話である。

「おいおい…これ以上、俺を萎えさせるような事はするんじゃねぇぞ。こちとら、これでもマジもんの英雄さまと殺し合えるのを楽しみにしているだからよぉ」

とここで、ヴィルヘルムは自身の苛立ちを含ませながら、あくまで逃げの一手を選び続けるアーチャーを挑発するように悪態を吐き始めた。
実際、ヴィルヘルムもあくまで英霊の分身ともいえるサーヴァントとの闘いを望んだうえで、変質者の要請に応じたのだ。
故に、ヴィルヘルムはまともに闘う事無く、逃亡を重ねるだけのアーチャー達に不満を感じ始めていた。
もっとも、黒円卓きっての武闘派であるヴィルヘルムとまともに闘ったところで、アーチャー達に勝ち目は薄いのだが…

「悪いけど、色白のにーちゃん。俺は別に自分を英雄だなって思ってねぇから」
「はぁっ? だったら、何だって言うつもりだ?」

しかし、当のアーチャーは、ヴィルヘルムの挑発に激昂することなく、頭を掻きつつ少し困ったような表情で否定の言葉を返した。
“本当に腑抜けなのか?”―――アーチャーの返答に思わず、ヴィルヘルムはそう心中で首を傾げると怪訝な表情を浮かべながらさらにアーチャーを追及するように問いかけた。
そんなヴィルヘルムの心境を見抜いているのか不明だが、アーチャーはヴィルヘルムの威圧に臆することなく正面切って返すようにこう告げるのだった。

「王様だよ」
「あん?」

“おうさまになる”―――それが幼き日に好きな女の子の前で皆の望む夢をかなえる王になると仲間達に誓い、後に想い人や仲間達と共に数多くの苦難と苦い敗戦を乗り越え、王としての自覚を得たアーチャーが後に英霊としての偉業を成し遂げた始まりの一歩であり、決して色あせることの無い想いだった。
そんなアーチャーの答えに対し、ヴィルヘルムはこめかみを引くつかせながらより一層苛立ちと殺意を増していった。
なぜなら、ヴィルヘルムにとっての“王”とは、修羅道至高天を司る“黄金の獣”―――ラインハルトこそが唯一無二の忠誠を誓うに値する王だった。
にも拘らず、この身の程知らずのアーチャーは事もあろうに、ヴィルヘルムの心酔するラインハルトと同じく王であるなどと戯言をほざいたのだ。
何一つできもしない英霊とは名ばかりのこそこそと逃げ回るしか能のない腰抜けの道化の分際で―――!!
当然の事ながら、ヴィルヘルムが、自身の主であるラインハルトと同じ“王”などと戯言を抜かすアーチャーを許容できる筈もなかった。
次の瞬間、ヴィルヘルムはあらん限りの殺意を漲らせながら、全身に杭を出現させるとアーチャーだけはこの手で仕留めると言わんばかりに襲い掛かった。

「てめぇ一人じゃ何一つできやしねぇ奴、何ざよぉ…ハイドリヒ卿の足元すらおよばねぇんだよ!!」
「うん…確かにあの獣の兄ちゃんと違って、俺一人じゃ何もできねぇけど―――」

そして、アーチャーを激しく罵倒しながら襲い掛かるヴィルヘルムを前に、アーチャーは一切臆することなく、“う〜ん”と苦笑しながらも、あっさりとヴィルヘルムの罵倒を受け入れるように頷いた。
―――ヴィルヘルムの言うように、この聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの中でアーチャーはサーヴァントとしては誰よりも最弱であるのは事実だ。
―――低ステータス&役立たずな保有スキルにより肝心となるサーヴァント同士の戦闘においては役立たずどころか足手纏いという有様なのだ。
―――ぶっちゃけ、強力な対城宝具を有するホライゾンの方がメインと言われてもおかしくなかった。
―――そもそも、生前からして周りから“不可能男”と称されるほどなのだからある意味ではこの最弱振りも仕方ないと言えた。
しかし、アーチャーは“けど…”と前置きを置いた後、ホライゾンや時臣には目もくれずに、自分にむかって迫りながらも、一番肝心なことに気付いていないヴィルヘルムにむかってこう指摘した。

「―――俺の仲間は何でも出来るぜ」
『その通りだ、武蔵総長』
「…!?」

それと同時に上空から声がアーチャーとヴィルヘルムの間に割り込んできた直後、ヴィルヘルムは自分の行く手を遮る壁のように眼前に現れた巨大な鉄の塊によってアーチャーへの攻撃を阻まれてしまった。
“なん…だと…!?”―――ヴィルヘルムがアーチャーへの殺意を忘れるほど驚愕した瞬間、目の前に現れた鉄の塊によって横殴りに勢いよく叩き飛ばされた。

「がぁああああああああああつあああああぁぁぁぁぁぁぁ―――!?」
「どうやら気付いていただいたようですね…」

もはや、対処が間に合わないほどの不意討ちを受けたヴィルヘルムは受け身さえも取る間もなく、側面のビルに張り付けられるかのように叩き付けられた。
そして、ホライゾンは先ほど自分たちの居場所を伝える狼煙代わりに放った“憤怒の閃撃”を目印に駆けつけてくれた一体の武神―――“義”に搭乗している里見義康に礼を述べるように目を向けた。

『ここは私が喰い止める、武蔵総長』
「おう、任せたぜ、ペタ子。じゃ、行こうぜ、トッキー、ホライゾン」

一方、義康はホライゾンへの礼を返す代わりに、ヴィルヘルムの相手を引き受るとアーチャー達に冬木教会に向かうように促した。
すぐさま、アーチャーも義康にヴィルヘルムの足止めを任せると、再び、綺礼の手掛かりを求めて冬木教会へと目指しながら退いて行った。

「待ちやがれ、てめぇらぁ!!」
『どこに行くつもりだ』

これに対し、ヴィルヘルムもビルに叩き付けられた身体を起こしつつ、撤退していくアーチャー達の後を追おうとした。
しかし、その直後、義康の武神である“義”が巨大な刀を突き付けながら、アーチャー達を追撃しようとするヴィルヘルムの行く手を遮るように立ちはだかった。

『お前の相手は私だ…もっとも、これより先は一歩も通すつもりはないがな』
「上等だ…餓鬼の玩具風情がよぉ…この俺を倒そうなんて舐めんじゃねぇぞぉ!!」

これに対し、ヴィルヘルムはアーチャー達を取り逃がしたことへの苛立ちとやり場のない殺意を自分に挑まんとする義康に叩き付けるかのように叫んだ。
“欲しいモノを取り逃がす”―――かつて、とある変質者に与えられた逃れる事のできない呪いを自覚しつつ。

『里見教導院生徒会長兼総長―――里見義康、いざ尋常に勝負…!!』
「聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ…掛かってこいや、犬っころぉ!!」

そして、義康とヴィルヘルムが死合いの開戦を告げるかのように互いに名乗りを上げると同時に、後に武蔵勢の過半数を巻き込んだ総力戦となるヴィルヘルムとの死闘が始まった。



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