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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第60話:相対戦=第二戦その7=
作者:蓬莱   2015/01/13(火) 23:15公開   ID:.dsW6wyhJEM
相対戦第二戦のタイムリミットである日没が刻一刻と近づく中、バーサーカーの処遇を巡り対立する遠坂時臣率いるアーチャー陣営と言峰綺礼率いるアサシン陣営による冬木市を舞台にした鬼ごっこもいよいよ終幕の時を迎えようとしていた。

「どうだった、宗茂さん、ァさん、メアリさん、点蔵!!」
「そっちは何か手掛かりは有ったか?」

その最中、凛と近藤は予め待ち合わせ場所として決めていた遠坂邸に待っていた点蔵らに綺礼の行方に関する手掛りを掴んだか尋ねた。
相対戦第二戦開始から現在に至るまでの間、父である時臣を手助けするべく、この第二戦に参戦した凛は近藤らと共に綺礼の行方を追って、深山町のいたるところを捜しまわっていた。

「とりあえず、可能性のありそうな場所を探していましたが…駄目ですね」
「こちらも宗茂様と同じです。少なくとも隠れる場所などそうある筈ないのですが…」
「私もです。いったい、綺礼様は何処に隠れているのでしょうか…」
「鈴殿も探索に協力してもらっているで御座るが成果は芳しくないようで御座る」

“何故、自分だけ呼び捨てで御座るか…!?”―――しかし、そう心中で抗議する点蔵や宗茂らの口から出てきた言葉に、凛達は自分たちの置かれた厳しい状況を改めて思い知らされていた。
事実、この第二戦が始まってから日没寸前の今に至るまでの間、凛達は深山町の中で綺礼が潜んでいそうな場所を徹底的に探しつくしていた。
にもかかわらず、誰一人として綺礼本人はおろか手掛りさえも見つける事ができないでいた。

「畜生…!! もう時間もねぇ上に、凛ちゃんの親父さんの方も空振りだったみたいだし…どうすりゃいいんだ?」
「綺礼…本当にどこにいるのよ…? 」

それに加え、近藤の言うように、つい先ほど通神帯を通してアーチャーから伝えられたのは、ようやくたどり着いた冬木教会には綺礼本人どころか手掛りすら無しという最悪の凶報だった。
現在も感知能力に長けた鈴の協力の元、アーチャー達は“武蔵”乗り込んで新都中を虱潰しに総力を挙げて探しているものの、有力な情報が得られぬまま、時間だけが無情に過ぎているのが現状だった。
もはや、さすがの凛もこれまでかと打つ手なしの状況に頭を抱え、この冬木市の何処かに隠れている綺礼に愚痴るように呟いた直後だった―――近藤の懐に入った携帯電話の着信音が鳴り響いたのは。

「たくっ何だよ…もしもし―――もしもしじゃない、桂だ―――って、桂ぁ!?」
『そちらの状況についてはテレビ中継で見ていたから知っている。どうやら芳しくないようだな』

これには、近藤も“この大変な時に…”と若干苛立ったが、ひとまず、通話ボタンを押して電話に出ると相手が誰なのか知るべく呼び掛けてみた。
そして、近藤の呼び掛けに対し返ってきたのは、いつものきまり文句で返答する桂小太郎の声だった。
本来、宿敵である筈の桂小太郎という思わぬ人物からの電話に驚く近藤に対し、桂はこの相対戦第二戦の大まかな状況―――アーチャー陣営が窮地に陥っている事も含めて把握している事を話した。

「だから、何だよ。今はてめぇに構っている暇はねぇんだ。話なら後に…」
『そう慌てるな。確かに俺とお前は敵同士である事は事実だ』

そんな桂にこれまでの苛立ちぶつけるように近藤が話を打ち切ろうとした直前、桂は電話を切ろうとする近藤を制しつつ、これまでの腐れ縁を思い返すかのように話を続けた。
―――幕府に仇為す攘夷志士のリーダーとその幕府の守護者たる真選組局長。
―――決して相容れぬことの無い立場にいる宿敵同士。
―――それはこの先ずっと、元の世界に戻ってからも変わる事はないだろう。
故に、その事を踏まえた上で、桂は“しかし…”と前置きした後、桂が今どこから電話をかけているのかようやく気付いた近藤にむけて背後からこう告げた。

「今回はリーダーの救出に力を貸してくれたお前達への義理とお前達のリーダーを助けてほしいと頼んだ俺のリーダー…イリヤスフィールに免じてこの桂小太郎も力を貸そう」
「私もいるわよ、凛!!」

そして、アイリスフィールらには内緒でアインツベルン城から抜け出してきた桂とイリヤは思わぬ助っ人の登場に驚く凛達の前で、先の救出作戦での借りを返すべくアーチャー陣営に協力する事を告げた。
この時、タイムリミットである日没まで残り十二分を迎えようとしていた。



第60話:相対戦=第二戦その7=



一方、ヴィルヘルムと死闘を繰り広げるノリキら武蔵勢は、ヴィルヘルムの宝具“死森の薔薇騎士”が発動した事により再び窮地に晒されようとしていた。

「嘘でしょ…何で―――」

“もう夜になっているのよ…!!―――そう叫ぶナルゼの前には、先程まで空を赤く染めていた夕日は跡形もなく消え失せていた。
そして、それらに取って代わって周囲を支配するのは、鮮血に染まったかのように輝く朱い月と黒以外の一切の色を塗りつぶす漆黒の闇しか存在しない夜の世界だった
だが、“死森の薔薇騎士”による異変は周囲を夜の世界に変質させるだけにとどまらず、ノリキ達へ更なる脅威に晒そうとしていた。

「ぐっ…魔力が…吸い取られているのか!?」
「まさか、キヨナリも?」

突然、意識が遠のくような眩暈と身体の力が抜けるような脱力感に襲われたウルキアガと成美は互いに自分の魔力が何かに吸い取られていくを感じていた。
それは、先にヴィルヘルムと闘った際に、“義”にヴィルヘルムの放った杭を打ち込まれた義康と同じモノだった。
だが、義康の時とは異なり、ウルキアガも成美も、まだ、ヴィルヘルムの杭が刺さっていないにもかかわらず魔力を吸い取られていた。

「大丈夫か、氏直」
「はい。ですが、長時間、この状態が続けば拙いかと」
「しっかりしな、アデーレ!!」
「な、何とか…後、お腹が空いて力が…」
「アデーレじゃないけどさっきから力が抜けるような感じがするんだけど…マルゴットは大丈夫?」
「もしかして、私だけじゃなくてガッちゃんも?」
「馬鹿な…これではまるで…」

しかも、その効果はウルキアガや成美だけでなく、ノリキ達にまで及ぶほど広範囲に広がっていた。
それはまるで周囲の空間その物が怪物の巨大な胃袋と変化し、中に閉じ込めたノリキ達の魔力をジワジワと消化しているかのようだった。

「カハッ、ハハハハハハハハ!! まぁ、てめぇらもよく頑張ったぜ。何せ俺にこいつをつかわせたんだからよぉ!!」

一方、そんな消耗していくノリキ達とは対照的にヴィルヘルムは片腕を失っているにも関わらず、“最高にハイってやつだ!!”と言わんばかりに、テンション絶頂の域に達したかのように愉快気に狂笑の声を高らかに上げていた。
実は、相対戦第二戦が始まる直前、ヴィルヘルムは審判役である変質者から、アーチャー達を場のノリであやまって殺さないように、切り札である“死森の薔薇騎士”の使用しないように注意されていた。
実際、ヴィルヘルムも創造位階で闘えるほどの相手はいないだろうと考え、変質者に従うのは癪であるが、この第二戦で“死森の薔薇騎士”を使うつもりなどなかった。

「だから、ここまで俺を楽しまてくれた礼も込めて手抜きや加減はしねぇよ」

だが、先に闘った義康やノリキ達との連戦の末に、最高潮にまで高ぶらせた闘争本能を抑えきれなかったヴィルヘルムは、変質者からの命など知った事かとその禁をいとも容易く破ってしまった。
無論、自分に“死森の薔薇騎士”を発動させるまで本気にさせた以上、ヴィルヘルムはノリキ達に一切手心を加えるつもりなどなかった。
そして―――

「…精々死ぬまで足掻けやぁあああああああ!!」

―――夜の闇と同化したヴィルヘルムは、ここからがノリキ達にとっての死力を尽くす死闘である事を宣告し、バルカン砲のように数百もの杭をノリキ達に向けて一斉放射した。

「避けろ避けろぉ!! 豚みてぇに必死に逃げ回って、俺をもっと絶頂させろやぁ!!」
「ぐっ…!!」

一方、闇から紅い眼光を覗かせるヴィルヘルムの狂笑と共に放たれる音速の領域に達するほど加速発射された杭の弾幕に対し、ノリキ達は先程と同じく回避或いは打ち払うのに徹するしかなかった。
しかし、それでも、今もノリキ達が魔力の消耗を強いられている事と発射される杭が数とその速度が宝具を使う前とは桁違いに上がっている事や放たれる杭も夜の闇に同化した事で見切る事すらままならない為に、ノリキ達はただ致命傷となる直撃を避けるので精いっぱいだった。

「もしかして、これが奴の宝具である固有結界、否、“創造”ってヤツの力かい…!!」

とここで、ヴィルヘルムの攻撃を避けつつ、行動不能になった“義”を抱える“地摺朱雀”の肩に乗った直政は、この自分たちの身に起こった突然の魔力消耗やヴィルヘルムの急激な能力上昇がヴィルヘルムの発動させた宝具“死森の薔薇騎士”によるモノである事に気付いた。
“死森の薔薇騎士”―――この宝具はヴィルヘルムの有する“夜に無敵となる吸血鬼になりたい”という渇望を元に発現した覇道型創造と呼ばれる特殊能力が宝具化したものである。
この宝具の効果はすなわち、使い手自身を吸血鬼に変え、周囲の空間を朱い月のある夜へと塗り替え、効果範囲内にいるモノの生命力や魔力を奪う事。
それに加えて、奪った生命力や魔力を自身に還元する事で、吸血鬼として強化されたヴィルヘルムをより強化していくという事も可能なのだ。
故に、時間が経過すれば経過するほど、生命力と魔力を奪われる敵は弱体化し、ヴィルヘルムはその奪い取った生命力と魔力で強化されていくのだ。
ただし、一見すれば、この攻防一体の強力な宝具にも大きな弱点が有るのだが…。

「さぁ、どうする、糞餓鬼共!! まさか、これで終いじゃねぇよな? もっとも、そうだったなら…さっさと吸い殺しちまうぞぉ!!」

そして、空に浮かぶ朱い月を背に舞うヴィルヘルムはただ未だに静まることの無い戦闘と殺戮の欲望を心行くまで満たすべく、打開策が見つからずに逃げの一手を取るしかないノリキ達へと容赦なく襲い掛かった。
この時、タイムリミットである日没まで残り十分のところにまで差し迫っていた。



一方、深山町にて綺礼を捜す凛達の元には、窮地に陥った凛達を手助けすべく、桂とイリヤが押しかけ助っ人として駆けつけていた。
とはいえ、この時、相対戦第二戦終了までのタイムリミットは残り十分。
確かに、桂とイリヤの手助けには感謝したいところだが、凛達としては、桂とイリヤの二人だけでこの状況を打開できるのか不安にならざるを得ず、あまり手放しに喜ぶ事はできずにいった。

「手を貸すって…いくら、人手が増えても残り時間はもうほとんど…」
「案ずるな…攘夷志士としてお前たちを相手にして逃げ切ってきた。ならば、その逆もしかりという事だ…」

しかし、当の桂は、そんな近藤の不安げな言葉を制しつつ、自分なら必ず綺礼を探し出せると自信満々に言い切って見せた。
無論、桂も何の根拠もなく、凛達の前で勝利宣言同然の言葉を口にしたわけでは無い。
そもそも、桂は攘夷志士のリーダーとして真選組などの警察関係者に追われながらも逃げ切り、“逃げの小太郎”の通り名を得るほどの逃走のプロでもある。
それはすなわち、追う側に回った場合、逃走者がどう行動し、どこに潜んでいるのかを知り尽くした優秀な追跡者という事でもあるのだ。
故に、桂はこの“鬼ごっこ”という第二戦において、アーチャー陣営にとって何よりも頼もしい存在であると言っても過言ではなかった!!

「では、桂殿はどこに綺礼殿が潜んでいると考えているで御座るか?」
「うむ…これまでの状況を踏まえた上で考えると、言峰綺礼が市街地中心の何処かに隠れている可能性はまずないだろう」

ひとまず、桂の意見を求める点蔵の問い掛けに対し、桂はアインツベルン城から持ち出してきた冬木市の地図を広げつつ、綺礼がこの相対戦第二戦の舞台である冬木市の中でも主戦場となっている市街地のある新都にはいないと言い切った。
確かに、新都ならば身を隠せる場所は数多くあるものの、武蔵勢の大半が新都を中心に捜索している為に、逆に自分の居場所を武蔵勢に発見されるリスクが極めて高いのだ。
また、アーチャー達を冬木教会に向かわせるように誘導し、ヴィルヘルムやアサシン達を使って新都の市街地で襲撃を繰り返してきたのも、アーチャーの窮地を助けんと駆けつけてくる武蔵勢の多くを新都に釘付けにする為なのだ。
それなのに、わざわざ、多くの武蔵勢が集結するであろう新都の市街地に身を隠すのはほぼ有り得ないだろう。
それに加え、武蔵勢を迎え撃つヴィルヘルムが“死森の薔薇騎士”を発動させた際に、自分が巻き込まれる可能性も少なからず有るため、新都に潜伏するのは余りにリスクが高かった。
以上の事を踏まえた上で、桂は、綺礼が新都や市街地に潜伏していないと断言したのだ。

「次に考えられるのは一般人に成りすまして人ごみに紛れる場合だ。しかし、新都のような人気の多い場所ならともかく、この人気の疎らな深山町では逆効果だ。俺ならばどこかに隠れるところだろう」
「ふむ…確かに筋は通っていますね」

さらに、桂は人ごみが少ない深山町にいる以上、綺礼が人目を避ける為に一切動くことなく、第二戦開始から今に至るまで深山町の何処かに潜伏しているのではないかと自身の経験を交えながら推測した。
当初、近藤と同じ世界の人間という事もあったので疑いの眼差しを向けていたァも、桂の真っ当すぎる推測を聞き、“なるほど…ゴリラとは違うのですね”と納得したように頷いた。

「以上の事を踏まえた上で考えるに、言峰綺礼が身を隠すのに最適な場所はただ一つ」

そして、桂は広げた冬木市の地図のある場所、すなわち、自身の推測から導き出した綺礼の潜伏場所を指さしながら断言した。

「柳洞寺…言峰綺礼はここにいる!!」
「「「「「おぉ…!!」」」」」
「「…」」

“柳洞寺”―――確かに、寺社というある種の神聖さを持つ土地故に、人の出入り自体も少なく、綺礼が身を隠すにはこれ以上にない絶好の場所だろう。
さらに、現在、柳洞寺に住まう住職や修行僧達はそれぞれの事情で柳洞寺から出払っており、綺礼が隠れるには好都合な条件が揃っていた。
これには、凛達もこの桂の導き出した答えに思わず“なるほど”と頷きながら声を揃えて感心した―――何故か微妙な表情を浮かべる点蔵とメアリを除いて。
実は、この時点で点蔵とメアリは気付いていた―――綺礼の潜伏場所が柳洞寺だとする桂の推理にはある致命的な問題点がある事に!!

「あの…そこなら先ほど点蔵様が確認をしてきたのですが…」
「確かに自分も何か無いか探したで御座るが…綺礼殿はおろか人の気配すらなかったで御座る」
「…」

そう、桂がもっとも怪しいと睨んだ柳洞寺は、既にメアリと点蔵によって念入りに捜索されていた上に、綺礼が柳洞寺に居ない事までしっかりと確認されていたのだ!!
そもそも、桂が逃亡のプロであるように、点蔵は忍者という隠密のプロである以上、柳洞寺のような絶好の隠れ場所を見逃すはずが無かった。
そして、“柳洞寺に綺礼が居る”と自信満々に言い切った当の桂は、メアリと点蔵の証言から自身の導き出した答えが見事に間違っていた事を知り、ショックを受けたかのように無言のまま凍り付くしかなかった。
“どうしよう…”―――そう心中でどう反応すべきか困惑する一同に対し、桂は徐にワザとらしく咳をしながら取り繕いつつ気を取り直した。

「ふっ…今のは冗談だ。うん、皆の張り詰めた空気を解きほぐすための俺なりの冗談だ。そう、俺が本当に言峰綺礼の潜伏場所と睨んだのはここだ!!」

そして、先程の失敗を誤魔化すような言い訳を口にした桂は気を取り直して、今度こそ綺礼の潜伏しているであろう場所―――

「すなわち、穂群原学園だ!!」 

―――“穂群原学園”を指さした。
確かに、そこならば平日こそ多くの学生たちが集うものの、今日のような土日には宿直或いは休日出勤する教師、運動系の部活動に勤しむ学生程度しか居らず、柳洞寺に次いで身を隠すのには好都合な場所だった。
さらに、倉庫街や冬木ハイアットホテルでの爆破テロの余波を受けてなのか、校長の判断により部活動や休日残業も自粛するように促しているために、今の穂群原学園は完全な無人状態となっていた。
すなわち、穂群原学園にしのぶ込むのは容易い状況であり、桂が穂群原学園を綺礼の潜伏先だと考えるのもそう間違った判断ではなかった。

「ここに間違いな―――あ、そこはァさんが調べてきましたよ―――んな!?」
「まず、学生として潜むのに好都合な場所が多くあるところとして学校を思いつくのは当然ですので。まぁ、案の定何も収穫は無かったですが」

だが、ここでも残念なことに、当の桂が“ここに間違いない”と断言する前に、宗茂からの捜索済みという無情の言葉が割り込んできた。
“なぜ、この場所に気付いた…!?”と大きく口を開けて愕然としたように驚く桂であるが、ァからすれば気付くのにそう難しい事ではなかった。
そもそも、宗茂とァは武蔵アリアダスト学院に所属している正真正銘の学生であるため、休日の学校という場所が如何に隠れ家として適しているか充分に熟知していた。
その為、宗茂とァは相対戦第二戦が開始されると、真っ先に“穂群原学園”を初め、深山町にある教育施設を虱潰しに捜索していたのだ。
もっとも、その宗茂とァの捜索の甲斐もなく、穂群原学園を初めとしたどの教育施設においても綺礼を見つける事はできなかった。

「ま、まぁ…こういう場合もあるよね。それに俺も今日は調子が悪いからね、ね、ね!!」

またしても、自分の推理がまたもや外れてしまった桂は思わず顔を引くつかせる程に動揺したまま、ワザとらしいほど大きな声で言い訳を口にしながらその場を誤魔化そうとした。
そして、間髪入れずに、桂はこれまでの汚名返上を懸けて、綺礼の潜伏場所と睨んでいた最後の候補地を力強く指さした。

「そう、綺礼殿がよく通っていた馴染みの店“紅洲宴歳館・泰山”!! 正真正銘、俺の本命と睨んでいた場所はここだ!! 俺もよく知り合いの蕎麦屋に匿ってもらっているから間違いないもんねー!!」

もはや、目を血走らせる程に必死な形相となった桂は三度目の正直と言わんばかりに“泰山”に綺礼が潜伏していると、自身の実体験を交えながら半ばヤケクソ気味に言い切った。
とはいえ、桂の主張する“顔馴染みの店主に匿ってもらう”という推測自体は可能性としては充分に有り得る為にあながち的外れという訳でもなかった。

「…そこには正純さん達がずっと居座っているんだけど」
「…次、次が本番だ!! 今のはちょっとしたリハーサルみた―――いい加減にしなさいよ!!――ぐぼぁ!?」

だが、二度ある事は三度あるという言葉が有る以上、汚名返上を目論む桂にとって残念な事に、冷めた目で桂を見据える凛の言うように、二代と“泰山”とのフードファイトという全面戦争に巻き込まれた正純達がこの相対戦第二戦開始から今に至るまでずっと“泰山”に居座っていたのだ。
当然の事ながら、綺礼も如何に馴染みの店といえども、サーヴァント四体の居座る店に隠れるような無謀な真似はしないだろう。
そして、三度も見事に外してしまった桂は冷たい視線を向ける一同(メアリと宗茂は除く)から顔を背けつつも、どうにか勢いで誤魔化そうと試みた。
だが、次の瞬間、桂のウザさにブチ切れ凛の放ったガントによって、桂は頬にめり込むような衝撃と共にぶっ飛ばされた。

「こっちは時間が無いのに必死で探しているのに何ふざけてんのよ、あんたはぁ―――!!」
「死ね!! 今すぐ死んで詫びろ、この野郎!! 結局、力貸すとか抜かしておきながら、てめぇの迷推理で貴重な時間を浪費しただけじゃねぇか!!」
「ちょ、たんま!! ちょっとした手違いだ!! 今度こそ、今度が本当の―――遺言はそれでいいですね?―――ぎゃああああああ!!」
「…本当にどうするで御座るか?」
「ねぇ…」

事実、怒りの罵声を張り上げながら、ぶっ倒れた桂をボコる凛や近藤の言うように、桂の勿体ぶった推理トークにより既に残り時間五分を経過していたのだ。
アーチャー陣営の助っ人でありながら、アサシン陣営の回し者と揶揄されても可笑しくない戦犯モノの大罪をやらかしたのだからこの桂の扱いも無理はなかった。
そして、点蔵は直も言い訳を口にしようとする桂にァの砲撃が叩き込まれるのを見守りながらどう収拾を着けようか途方に暮れていると、地図を眺めていたイリヤに声を掛けられた。

「あ、野良犬臭いお兄さん…後、皆にちょっと聞きたいんだけど…」

“何で毎度毎度、幼女に野良犬扱いされるで御座るか…!!”―――この世界における幼女からの扱いの悪さにショックを受ける点蔵を尻目に、イリヤは地図に書かれたある場所を指さした。
そして、イリヤは、最初に話しかけた点蔵やボロ雑巾と化した桂だったモノをゴミ捨て場に捨てに行かんとする凛達にむかって問いかけた。

「ここはまだ探していないの?」
「「「「「「あっ…」」」」」」

次の瞬間、凛達はイリヤの指摘した場所を見て、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
実は、深山町で綺礼が潜んでいそうな怪しい場所を虱潰しに探してきた凛達であったが、イリヤが指摘するまで気付くどころか意識することさえなく見過ごしてしまっていた場所が一カ所だけ有ったのだ。
もっとも、より正確に言うならば、アーチャー陣営の身内ではないイリヤだからこそ気付けたというべきだろうか。
そして、凛達のリンチからようやく立ち直った桂は血まみれになりながらも、イリヤにむかって、“ふっ…”とドヤ顔のような笑みを浮べてこう告げるのだった。

「さすがだ、リーダー。俺もそう思―――あんたは黙ってなさい―――たわば!?」

即座に凛のツッコミ代わりに放ったガントが桂の顔面に直撃した時、既に相対戦第二戦mのタイムリミットである日没まで三分まで迫ろうとしていた。


一方、時をさかのぼること、日没まで七分を迎えようとした頃―――

「オラオラぁ!! こっちは折角本気出してやったんだ…てめぇらも少しは根性見せてみろよぉ!!」
「…っ!?」

市街地にてヴィルヘルムと死闘を繰り広げるノリキ達は、宝具“死森の薔薇騎士”によって強化されたヴィルヘルムの留まる事を知らない猛攻に晒されていた。
もはや、ノリキ達は反撃さえままならずに、まるで弾幕を張るかのように一斉発射されるヴィルヘルムの杭を避けるのが精いっぱいだった。
それは、もはや闘いと呼べるモノではなく、ヴィルヘルムの一方的な蹂躙といっても過言ではなかった。
しかし、このまま、ヴィルヘルムの攻撃を凌ぎつつ、防戦を続けたところでノリキ達に勝機は無かった。

「こっちは時間が経つほど魔力を吸われてヤバいってのに…!!」
「しかも、あっちは時間が経つほど強くなるから早くどうにかしないと…!!」

実際、打開策を打てずに焦るナルゼとナイトも、今のところ杭の弾幕の隙間を潜り抜けながらヴィルヘルムの猛攻を躱していた。
だが、宝具“死森の薔薇騎士”の効果で魔力を奪われ続けている為に、ナルゼもナイトも“死森の薔薇騎士”を発動する前よりも動きは鈍くなっており、明らかに失速していた。
無論、ノリキ達も“死森の薔薇騎士”の影響下にある以上、時間が経つたびに魔力を奪われており、後十分もしないうちに現界を維持できなくなるところの瀬戸際まで迫ってきていた。
一方、徐々に弱体化してくノリキ達とは対照的に、ヴィルヘルムはノリキ達から奪った魔力を自身の魔力として還元する事で時間が経つごとにより強化されていた。
このまま、ヴィルヘルムの攻撃を凌ぎながら防戦を続けたところで、この状況を打開しない限り、ノリキ達に待ち受けるのは敗北の二文字のみ…!!
だが、その為にもヴィルヘルムを打ち倒す策を講ずるための時間が必要だった。
故に―――

「…私が時間を稼ぎます。それまでノリキ様たちはこの死徒を打ち破る手立てをお願いします」
「氏直…」

―――氏直はノリキ達を守るかのように圧倒的な猛威を振るうヴィルヘルムを足止めすべく立ち塞がった。
このままでは、“死森の薔薇騎士”の効果により、魔力を吸収されれば、自分を含めた全員が現界すら維持できずに敗北する確率はほぼ百パーセント。
ならば、ヴィルヘルムに対抗できうるだけの宝具を有する自分が時間を稼ぐ事で、ノリキ達に策を練るだけの猶予を作る事で勝機を見出すのが最善なのだと氏直は判断したのだ。
だが、もし、ノリキ達がヴィルヘルムを打倒できる策を思いつかなければ元の木阿弥であり、足止め役の氏直にとっても弱体化したまま、強化されたヴィルヘルムとタイマンで闘うのは一手誤れば即死確定という危険な賭けだった。
やがて、ノリキはこの無謀な賭けともいえる時間稼ぎを買って出た夫である氏直を見据えながら問いかけた。

「何秒まで持つ?」
「現界できる魔力の事を考えたなら、多く見積もっても三百秒前後。それ以上は難しいかと…」

すなわち、氏直が稼ぐ事のできる五分以内までに、ヴィルヘルムに対する何らかの策を講じなければ、ノリキ達の敗北は確定するという事。
しかも、この状況下で、宝具を使用すれば、氏直がより多くの魔力の消費を強いられるのは必然の事。
そもそも、氏直の宝具がヴィルヘルムに通用するとも限らず、誰の目から見ても無謀な賭けとしか見えなかった。
やがて、意を決したノリキは極めて無謀な賭けに命を張らんとする夫である氏直にこう告げた。

「…頼む。そして。死ぬな」
「分かりました。では、後はよろしくお願いします」

そのノリキと氏直の交わした言葉は互いに死地に立つ夫婦の言葉としては極めて短く、余りに素っ気ないモノだった。
だが、ノリキと氏直にとってはお互いにそれだけでよかった。
そこには、億の言葉ですら語り尽くせないほどのノリキと氏直の間でのみ通じる“絆”が確かに存在していた。

「はっ、阿呆が。どうせ意味ないつまらねぇ時間稼ぎするなんざ白ける真似しているんじゃねぇよ、ボケが」
「成程…」

一方、侮蔑と嘲りに顔を歪ませたヴィルヘルムは自分に真っ向からタイマン勝負を挑まんとする氏直を相手との力量差を見誤った、ただの犬死になるだけだと揶揄した。
だが、そんな侮辱とも取れるヴィルヘルムの挑発に対し、氏直は一切激昂することなく、小さく頷きながら呟くだけだった。
やがて、氏直は“では…”と前置きすると両手を後ろに振りながらこう言い放った。

「…先程よりも重いモノを出しましょう」

その直後、氏直が両腕を肩まで振り上げた瞬間、氏直の肩の上の宙から次々に何かが破裂したような音が鳴り響いた。
そして、氏直は何かが咲くように連続して鳴った音の正体、すなわち、自身の宝具の名を告げた。

「小田原名物―――“天下剣山”」

それは光の破片を蓋開けとして異空間より射出され、グループごとにコンテナ詰めされた約千本もの自動抜刀式の大刀だった。
これこそが、北条・氏直の持つ対大軍・対城宝具“小田原名物―――天下剣山”…!!
もはや、対峙する者総てを圧倒するかのような莫大な量の刃を前に、ヴィルヘルムは―――

「ほぉ…そいつが…てめぇの宝具って訳か」

―――恐れ戦いて怖気づくどころか、さらなる闘争の悦楽が得られることに喜悦に満ちた笑みすら浮べていた。
元より、修羅道至高天の申し子たるヴィルヘルムにとって、この程度の脅威など巡り歩いた激戦地では日常茶飯事のことであり驚きこそすれど恐れる事など断じて有り得なかった。
何より不意打ちとはいえ自分の片腕を斬りおとした氏直の真価を味わえるのだから、生粋の戦闘狂でもあるヴィルヘルムとしても何よりも望むところだった。

「上等だぁ!! 受けてやるぜ…これも大人の余裕ってやつだ。とことん付き合ってやるから派手にやろうじゃねぇか―――!!」
「“日金”、“鞍掛”―――前に聳え」

そして、氏直の刃とヴィルヘルムの杭が同時に射撃された時、相対戦第二戦の終了となる日没までのタイムリミットは残り五分を経過していた。





“残り三分か…”―――備え付けられた振り子時計に目を向けた綺礼は日没まで残り三分を切った事を確認した後、近くの椅子に腰かけながらこう言葉を漏らした。

「結局、この相対戦は私の勝ちになったか…」

そこには相対戦第二戦に勝利した事への喜びなど微塵もなく、ただ何も得られなかった虚しさと無念さしかなかった。
―――こんなモノか。
―――こんな勝利を望んでいたのか…?
―――こんな勝利を私は本当に得たかったのか…?
やがて、誰も居ないし来ることもなかった一室で、綺礼はただ一人益体のない思案にふけりながら黄昏ていた。
そして、綺礼はこれまで綺礼の本質に勘付きながらも、共について来てくれたアサシンに問いかけるようにポツリと独り言を呟いた。

「…私は何を期待していたのだろうな、アサシン?」

もはや、堪えようのない虚無感に苛まれた綺礼は項垂れるように頭を下げ、余りに大きな落胆と失望の重さに耐えかねたかのように肩を落としながらさらに失意の言葉を口にしようとした。

「私は―――綺礼、捕まえたわよ!!―――っ!?」

その直後、綺礼の重苦しい言葉を遮るかのように、綺礼を遂に見つけ出したことへの喜びを感じさせる快活な少女の声と共に自身の右足に何かがしがみ付いてきた。
そして、その少女の声が綺礼にとっても馴染みの深いある少女のモノである事に気付いた綺礼は“まさか…!?”と思いながらも、咄嗟に少女の声がした自身の右足に目を向けた。

「凛…!? 何故、ここに…」
「あら? 私が居ても問題ない筈でしょ。だって…」

そこには、近藤と桂、点蔵を引き連れながら、ようやく綺礼を捕まえて得意げな表情を浮かべる凛の姿が有った。
凛というまさかの人物の登場に、普段は滅多に見せることの無い驚きの表情を見せる綺礼に対し、凛は心中でこれまで散々自分をからかってきた兄弟子にまんまと一杯食わせたことへの喜びを隠しつつ、無いに等しい胸を張りながらこう言い返すのだった。

「…そもそも、ここは私の家なんだから」

この時、相対戦第二戦終了まで残り三十秒―――遠坂邸に潜伏していた綺礼を凛が発見した瞬間、相対戦第二戦はアーチャー陣営の勝利となった。
 


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