ネプテューヌと長谷川の激闘から数分後。
???「ん? 何だこりゃ?」
別の誰かが、刀を手にした。
とても美しい刀身。
誰もが見とれてしまうほど美しい。
果たして、手にしたのは誰なのか!?
―第十一話:復活のアヌビス神・そのA―
プラネテューヌにある床屋。
平和島静雄は店の扉を開けると、
銀時「んあ?」
銀時も散髪に来ていた。
丁度、髭を剃って貰うところであった。
静雄「銀さんも、髪切りに?」
銀時「いや、俺ァアレだ。 この店が“髭剃りだけのサービス”やってるて聞いたもんだから」
静雄「……近藤さんなら分かるけど、銀さんも髭あったんだな」
すると、銀時は一本の刀を店主に渡した。
銀時「オヤジ、悪ィんだけどこの刀、隅っこに置いてくんねぇか?」
店主「ヘイ」
その刀に対し、静雄は疑問を感じた。
静雄「銀さん。 その刀、どうしたんだ?」
その問いに、銀時はすぐさま答えた。
銀時「ああ、これか? 森で拾ったんだよ。 何故か木が何本かバラバラに斬られてたけどな」
静雄「……そんなトコから、よく普通に拾ったな」
その後、銀時の髭剃りが始まった。
シャリッと剃刀で銀時の髭が綺麗剃られる。
そんな静寂の中、静雄はいつの間にか眠っていた。
銀時「ん〜〜! オッサン、中々綺麗に剃れてんじゃねぇか?」
店主「そっすか?」
銀時「そうそう。 トレビアンだよ、ト・レ・ビ・ア・ン!!」
すると銀時は、店主にこんな頼みをした。
銀時「悪いんだけどよ、顎の下も剃ってくんねぇか?」
店主「へい、顎の下……ですね?」
顎の下に刃を近付ける店主であったが、銀時がつい目を開けると、
店主「顎の下だな、坂田銀時ぃ!!」
銀時「何ぃ〜〜〜!?」
店主が手にしていたのは、剃刀ではなく刀であった。
先程、銀時が隅っこに置かせた刀だ。
店主「テメェの顎をこのまま剃ってやるぜ! このアヌビスのスタンドがなぁぁぁぁぁぁ!!」
一気に刀を引き寄せた店主であったが、銀時はチェアーのレバーを倒し、
銀時「くっ!!」
後ろに体を倒した。
それにより斬られずに済み、刀身はそのまま店主の胸に喰い込んだ。
店主「うおぉぉぉぉぉぉ!?」
これに店主も驚くが、すぐさま刀を引き抜いた。
銀時「テメェ! この店のオヤジじゃあねぇのか!?」
銀時は腰の木刀を手に取ると、何時でも戦える構えを取った。
それを見た店主は、刀を構え、
店主「きえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そのまま銀時に襲いかかったのだった。
静雄が眠りから覚めると、店内はとんでもない状況になっていた。
銀時「ぐっ!」
店主「くくくく……」
刀を手にした店主が、銀時を襲っていたのである。
静雄「銀さん、コイツは一体!?」
銀時「近付くんじゃあねぇぞ静雄! 流石にオメェの拳でも、この斬れ味を相手にすんのはかなりデンジャラスだぜ! それにコイツ、腕はド素人なのに結構――」
距離を取る為、銀時は店主を蹴り飛ばした。
銀時「――強いぜ!!」
店主「うぐっ!」
壁に激突した店主に、銀時はそのまま突進する。
銀時「オラァァァァ!」
豪快に木刀が振り下ろされるが、まさにその時であった。
店主「フン!」
店主は先程とは想像つかないほどの反射速度で、銀時の攻撃を防いだのである。
銀時「何!?」
これには銀時も、驚きを隠せなかった。
店主「今の戦いで、お前の攻撃パターンは全て憶えた。 例えこの刀の持ち主が変わろうとも、一度戦った相手には絶対に絶対に絶〜〜〜〜対に負けなあぁぁぁぁぁい!!」
振るわれた凶刃が、銀時を襲うとした。
まさにその時であった。
ゴンッと、店主の頭に何かがぶつかった。
店主「うぐっ!?」
放たれたのはゴミ箱で、投げたのは静雄だった。
静雄「今度は、俺が相手だ」
ゴキリと指の骨を鳴らす静雄に、店主は刀を構える。
店主「きえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
刀を振るった店主であったが、静雄はそれをかわすと、
静雄「オラァ!」
右手からの鉄拳を繰り出し、店主を殴りつけた。
殴られた店主は、そのまま窓を突き破って外まで吹き飛ばされた。
外まで吹き飛ばされた店主であったが、その場でムクリと立ち上がった。
銀時「オイィィィィィ!? お前の拳を喰らって、当たり前のように立ってますけどぉ!?」
静雄「いや、流石に俺も、当てるのが精一杯だった」
青ざめる銀時とは対照的に、静雄は以外に冷静であった。
静雄「しかし、珍しいぜ。 ふざけた策を使って来ないヤツはよ」
二人は外に出ると、店主は既に刀を構えていた。
銀時「くっ! どうすんだ静雄!?」
すると静雄は、偶然見つけたワゴン車に近付くと、
静雄「よし、コイツを借りるか」
銀時「え、借りるかってそれ、車のドア――」
ベリッと、ドアを当たり前のように引き剥がしたのである。
銀時「え!?」
これには銀時も驚き、
店主「はい!?」
店主も驚いてしまう。
静雄「俺ァ、理不尽に生きて来たからなァ……。 素手で戦ってやるほど、お人好しじゃあ――ねぇぞ!!」
ワゴン車のドアを自身の前方に構え、そのまま静雄は突進したのだった。
店主「はっ! しまっ―――」
ドガァと静雄との正面衝突を受けた店主であったが、さらにここで、
静雄「ウオォォォォォォォォラァァァァァァァァァァァ!!」
追い撃ちと言わんばりの鉄拳が、店主に撃ちこまれたのだった。
異常なまでの静雄の攻撃に、
店主「まさか……車のドアを…引き剥がして……盾代わりに……する……とは……だが……もう、憶え………た………」
流石も店主も、その場で気絶してしまった。
静雄「ふぅ〜……何だったんだ、一体」
銀時「さっき、“持ち主が替わろうとも”って言ってたから、持ち主を操る刀みてぇだ。 鞘に納めるぞ」
そう言って銀時は、刀を鞘に納めたのだった。
銀時「どうすんだこの刀ァ? その辺に捨てても、また誰かが拾って襲いかかるぞ?」
静雄「川か海の底に、永久に沈めるってのはどうだ?」
銀時「あ、成程。 その手があったか!!」
二人はすぐさま、その場を立ち去ろうとしたが、
兵士「おい貴様等、何している!!」
銀時・静雄「!?」
プラネテューヌの兵士に見つかってしまったのである。
兵士「床屋で喧嘩があったと聞いて駆けつけたが、貴様等が犯人か!」
銀時「何でそうなんの!?」
兵士「さあ、刀を渡して貰おうか!!」
そう言って兵士は、刀の鞘を掴みだした。
それを見た銀時は、すぐさま柄を握り締めた。
銀時「ってオイ! 何すんだ、放しやがれ!!」
兵士「ウルサイ! 貴様が放せ!」
銀時「ふざけんな! オメェが放しやが――」
刀の引っ張り合いをしてしまう二人であったが、まさにその時であった。
チャキンと、刀が鞘から抜けてしまい、
銀時「しまっ!?」
ドクン!と、銀時の体に異変が起きたのだった。
静雄「銀さん!?」
兵士「き、貴様ぁ! 刀を抜いたなァ!!」
叫ぶ兵士であったが、銀時は兵士を強く睨んだ。
銀時「俺が刀を抜いただと? おい兵士、貴様ァ〜……それでホントにこの国の番人か?」
兵士「お、おい何を!?」
銀時「抜いたのは……、鞘を引っぱったテメェだろうがァ!!」
銀時は刀を豪快に振り下ろそうとしたが、静雄が間一髪で兵士を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた兵士は、そのまま壁に激突して気絶したのだった。
互いに睨み合う、静雄と銀時。
静雄は嘗て、妖刀と相まみえた事がある。
今回もその類だと直感したのだった。
静雄「黒幕は何処にいるかは知らねぇが……どうやら銀さんは、刀の術に嵌っちまったようだな」
冷静を装う彼であったが、内心では焦っていた。
静雄「(とは言えど、銀さんとやりあう事になっちまうとはな……拙いぜ、最悪の場合、銀さんを殺す事になっちまう)」
別世界の住人である静雄は知らなかったが、銀時は嘗て『白夜叉』の異名を持った伝説の攘夷志士。
本気を出した彼と戦うという事は、手加減できるほど甘い相手ではないのと同じである。
銀時「クククク……このアヌビス神、貴様の怪力は既に憶えている。 一度戦った相手には、絶対に絶〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に負けんのだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そう言って銀時は、刀を振るったのだった。
銀時「フン、ハッ! タァ、フン!!」
今までにない驚異的な速さと恐るべきパワー。
静雄「くっ!」
これには静雄も苦戦を強いられてしまうが、彼は一旦距離を取ると、
静雄「フン!」
その場に会った標識を引き抜き、
銀時「何ぃ!?」
静雄「オラァァァァァァァ!!」
そのまま銀時の腹部にフルスイングしたのだった。
ドガァ!と攻撃はヒットし、銀時は吹き飛ばされてしまった。
静雄「(クッ! やるしかねぇ……銀さんを倒さねぇと、俺がやられる!)」
銀時「まさか、標識を武器に使うとは……だが、もう憶えた」
覚悟を決めた静雄に対し、銀時はゆっくりと立ち上がった。
銀時「クククク……平和島、今貴様は“銀時を倒さないと自分が負ける”と思っているな?」
静雄「!?」
銀時「甘いな、それは甘い考えだ。 何故なら、ここでトドメのダメ押しというやつを……見せてやるのだからなァ!!」
そう言って銀時は、腰の木刀を手に取ったのである。
銀時「これには……これには勝てるかなぁぁぁぁぁぁ!?」
それはなんと、木刀と『アヌビス神』による二刀流だった。
実は銀時の木刀は、妖刀・星砕と呼ばれる辺境の星にある金剛樹という樹齢1万年の大木から作られた、真剣を上回る強度・硬度を誇る木刀である。
それと同時に、通信販売の商品でもある。
因みに彼がこの木刀を通販で買っているのは、一部の人間しか知らない。
木刀と妖刀の二刀流で襲いかかる銀時に、静雄は標識で立ち向かった。
キンキンと鳴り響く、二つの金属音。
銀時「ホラホラホラホラァ!!」
静雄「ぐっ!」
銀時「どうした! さっきまでの威勢は何処行った!?」
徐々に劣勢に追い込まれた静雄。
そしてスパンと標識が真っ二つに斬られ、
銀時「胴がガラ空きだァ!!」
妖刀の刃が、静雄の腹部に突き刺さったのだった。
静雄「!?」
アヌビス神「勝ったァァァ! この『アヌビス神』が、勝利を手にしたのだァァァァ!!」
徐々に力が入り、『アヌビス神』は刀を押し込んでいく。
アヌビス神「このままでは終わらん! 貴様の体に刀を押し込み、内臓をバラバラにぶちまけて―――」
しかしここで、『アヌビス神』は驚きを隠せなくなった。
アヌビス神「ぶち……まけて……アレ? ふん〜〜〜〜〜!!」
刀を押し込んでいるのに、奥に刺し込んだ気配がなかった。
アヌビス神「何だこりゃぁぁぁぁぁ!? 切っ先が5mmしか刺さってないぃぃーーーー!? どうなってんだコイツの体はぁぁぁぁぁぁ!?」
何故なら静雄の体には、刀が僅か5mmしか刺さっていなかったのだ。
100億Vの電流ですら「痛い」で済ませられる程の強靭さを持つ静雄の肉体。
流石の『アヌビス神』も、刀が刺さらない敵に会うのは初めての経験であった。
すると静雄は、刀を片手で掴むと、
静雄「おい、このまま押しこむって言ってたなぁ?」
バキンと切っ先をへし折った。
アヌビス神「えぇぇぇぇぇぇ!?」
そしてこのまま、刀に向けて連打を叩き込んだのだった。
静雄「オォォォォォォラァァァァァァァ!!」
アヌビス神「何ぃ〜!? す、『
星の白金』以上のパワーとスピードだとぉ!? マズイ、引っ込めなくては!!」
しかし、それはもう遅く、
静雄「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
アヌビス神「ひぃーーー! やめてくれぇぇぇぇぇ!!」
自慢の刀身を全て砕かれた『アヌビス神』は、遂に柄と鍔のみとなった。
静雄「ところで、「バラバラにぶちまける」って言ってたな?」
ニィと笑った静雄は、銀時の手から放すと、
静雄「望み通りにしてやらぁ! オラァ!!」
バキンと残りを拳で破壊した。
アヌビス神「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
勿論、刀に宿した『アヌビス神』のスタンドも消滅したのだった。
銀時が目を覚ますと、静雄が煙草に火を点けていた。
静雄「よう、目覚めたか?」
銀時「あれ? 俺ァ、一体どうしたんだ?」
静雄「気にすんな、もう終わった」
銀時「………そうか」
そんな二人の背後では、
少年「あれ、何これ?」
通りかかった少年が、切っ先に手を置いた。
まさにその時であった。
少年「はぁぁぁぁ〜〜……」
なんと『アヌビス神』は、今度は少年の体を乗っ取ったのだった。
『アヌビス神』の本体は、500年前にこの刀を作った刀鍛冶で、名前はキャラバン・サライ。
本体は死に、今はスタンドだけが刀に宿っている。
嘗ては博物館に納められていたが、ある一人の吸血鬼によって持ちだされ、忠誠を誓っていた。
アヌビス神「貴様のパワーとスピード、そしてその強靭さは憶えた。 だから今度こそ、絶〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対にぶっ殺す!!」
少年が地面を思いっきり踏みつけ、
アヌビス神「くたばれ、平和島ぁーーーーーーーーー!!」
思いっきり切っ先が、静雄に目掛けて飛んで行ったのだった。
そして、遂に……、
静雄「!?」
静雄の背中に、切っ先が突き刺さった。
アヌビス神「やったーーーーーーー! 遂に勝ったぁーーーーーーー!!」
遂に『アヌビス神』は、静雄から勝利を手にした―――筈だった。
静雄「あ痛っ!」
切っ先はまたもや、5mmしか刺さらず、
アヌビス神「何でだぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
カランと、その場で落ちたのだった。
静雄「この妖刀〜〜〜」
銀時「!? おい、静雄!!」
銀時が止めようとするが、遂に静雄は切っ先を持ってしまった。
それを目にした『アヌビス神』も、
アヌビス神「ラッキー! このまま平和島の体を乗っ取って、銀時を殺してやるぜぇ!!」
幸運が舞い降りたと喜んだが、それも束の間だった。
静雄「人の後背中を突き刺そうって事はよぉ……間違えりゃ、死ぬって分かってんだよな? 分かっててやったって事は殺す気で来たんだよなぁ?」
静雄は乗っ取られるどころか、当たり前のように持っていたのだ。
アヌビス神「何ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
これにはアヌビス神も、驚きを隠せなかった。
静雄「海に沈んでろ、この刀野郎ぉぉぉぉぉ!!」
そして彼の剛腕により、切っ先は手裏剣の如く飛んで行ったのだった。
アヌビス神「バカなぁぁぁぁぁ!? 俺の支配下に置かれないないて、どんだけ精神が頑丈なんだよ!?」
静雄の肉体と精神の強靭さに、アヌビス神は叫ぶしか他は無かった。
しかも、切っ先はそのまま海へと飛んで行き、
アヌビス神「いやぁぁぁぁぁぁ!」
ボチャンと海中へと沈んだのだった。
アヌビス神「どうしよう! このままでは、刀が錆びてしまう!!」
海底まで沈んだ『アヌビス神』は、偶然泳いでいた魚達に声を掛ける。
アヌビス神「あ、そこの魚供! 俺を運んでくれ! このままでは2〜3日で錆びてしまうんだ」
しかし魚達は、何処へと去ってしまう。
アヌビス神「ちょっとぉぉぉぉ!」
すると、今度は通りすがりの
蟹に目を付ける。
アヌビス神「あ、そこの蟹さ〜ん。 美味しい餌あげるから、俺を岸まで運んでくれない?」
しかし蟹も、その場から去ったのだった。
アヌビス神「あ、待って! 見捨てないでぇ〜!! うえぇ〜ん、孤独だよぉ〜〜〜〜!!」
こうして『アヌビス神』の戦いは、幕を下ろしたのでした。
アヌビス神・
戦闘不能――。
チャンチャン♪
TO BE CONTINUED