椅子に腰かけ、コントローラーを手に取る両者。
パープルハート「一つ聞くけど、私が勝ったらジョル君の腕にある『手』は外してくれくんでしょうね?」
その問いに対して、ダービーではなく当麻が答えた。
神裂「安心してくださいネプテューヌ。 ダービーの兄もそうでしたけど、彼等は賭けに負けたと感じたら魂を返す。 そういう能力です」
当麻「それから、あの詐欺師の弟だからな。 何か姑息な事しかもしれねぇ」
当麻の言葉に対し、ダービーは怪訝な顔をする。
ダービー「兄とは違います。 イカサマはしません」
―第二十四話:魂を奪う執事・そのA―
レースゲーム『F-MEGA』による対決が始まった。
まず、プレイするマシンを選択する。
ダービー「どのマシンで?」
パープルハート「A
車」
ダービー「同じく」
今度は番号の選択があった。
ダービー「何番にしますか?」
パープルハート「17番で」
ダービー「では私は、15番で。 1月5日生まれなんでね」
そして最後にコースを選択し、ゲームが開始された。
ダービー「コースはコース1。 4周走り、タイムの速い方が勝ち。 準備は良いですか?」
パープルハート「紳士ぶってないで、掛かって来なさい」
スタートを待つパープルハートであったが、チラリとダービーのコントローラを見る。
彼は何度もアクセルボタンを小刻みに連打していた。
パープルハート「(まずい、スタートダッシュを決める気だわ! こっちにはそんな余裕はない)」
そして遂に、レースがスタートしたのだった。
スタートと共に、ダービーのマシンが突っ走る。
パープルハート「くっ!」
パープルハートもスタートするが、ダービーのマシンにブロックされる。
ノワール「マズイわ! 同じマシン同士のレースは同じスピードで走るから……」
ベール「簡単に追い越す事は不可能ですわ!」
ブラン「このままじゃ、ネプテューヌの負けよ!?」
ミスタ「結構詳しいな、お前等」
ベール「よくプレイしてますので」
新八「いや、どんだけ暇人なんですか!?」
外野のやり取りの中、パープルハートはとんでもない行動に出た。
なんと彼女は、ギルルルと十字ボタンを回転させるように押し始めた。
ダービー「何ぃ!?」
これによりマシンはスピン攻撃を行い、ダービーのマシンを弾き飛ばした。
ダービー「このテクニック! まさか貴様、このゲームをやりこんでいるな!?」
パープルハート「答える必要はないわ!」
パープルハートのスピン攻撃によって互いのマシンは弾き飛ばされた。
ガードレールのおかげでコースアウトは免れたが、一歩間違えれば危険であった。
ダービー「くっ! ただこのゲームをやりこんでいるワケではない! コースアウトの危険性を恐れぬこの大胆さ、凄味がある!!」
ネプギア「お姉ちゃん、早くマシンを走らせて!」
パープルハートとダービーは、互いのマシンをコースに戻すと、なんと同時にスタートした。
第一コーナーまで約3秒、フルスロットルまで時速360キロ。
そして、二人のマシンは同時にコーナーを曲がった。
サクラ「やった、凄いわ!」
いの「これならいける!!」
ダービー「気に入りましたよネプテューヌ! 魂を掛けるというのに少しもビビらないゲーム操作。 まさに恐怖を克服したと言っても良い。 アナタの様にやり応えのある相手じゃあないと、私のコレクションに加える価値は無い!!」
楽しそうに笑うダービーに対し、パープルハートは心の中で呟いた。
パープルハート「(私が恐怖を克服した? フフッ、お褒めの言葉をありがとう。 鍛えられたのよ、アナタのご主人様にね)」
それは、『小箱』を異世界に送った直後の事である。
ネプテューヌは夜の街並みを散歩していただけであった。
その時に、何かの気配を察知し、すぐさま女神化したのだった。
そして気配の持ち主、DIOと対面したのである。
今までにない邪悪を目にし、パープルハートは胃の内容物が逆流するような感覚に陥った。
しかしDIOは、そんな彼女に対して、
DIO(怖がる必要はないのだよ、友達になろうじゃあないか?)
まるで恐怖に怯える子供に接するかのように、彼は優しい言葉で囁いたのである。
DIOの言葉を聞いた者は、心が安らぎ、彼の虜になってしまう。
髪から出現した『肉の芽』が迫って来た瞬間、
パープルハート(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
彼女は叫びと共に、その場を飛び去ったのだった。
戦おうとは考えなかった。
戦おうとすれば、『肉の芽』を埋め込まれて仲間にされていたのだから。
教会にある自身の部屋に籠ると、彼女はベッドの中へと入る。
パープルハート(う……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ)
そして無意識に涙を流し、眠りに入るまで泣き続けたのだった。
そして数日後、神裂とステイルの件をキッカケに、その事をジョルノに話したのである。
それを聞いた彼はこう答えた。
ジョルノ(DIOの言葉に耳を傾けた者は、麻薬中毒者と同じ。 一度ハマまれば、二度と後戻りが出来ない。 だが、キミがここにいるのは、その麻薬を振りきる勇気を持っていたからだ。 だから、自分を恥じる事は無い。 今の自分を誇ってもいいんだ)
その言葉に彼女は嬉しさを感じたが、同時に自分を呪った事があった。
何故、DIOの言葉に耳を傾けたのか――と。
パープルハートがダービーとの対戦を志望した理由、それはDIOの言葉に耳を傾けかけた自身への怒りからであった。
パープルハート「(もう二度と、あの時の惨めな自分には戻らない! プラネテューヌの女神として、このゲームにおいて、精神的なミスがないと思って貰うわ!!)」
同時に走ったマシンは、同時に様々なコーナーを通過していく。
そして第6コーナーを曲がった瞬間、その先にはトンネルがあった。
トンネルを抜けると、2倍の加速でマシンを走らせる権利を得られるのである。
トンネルへと迫って来た、その直後であった。
二人のマシンが、トンネルに入らんとぶつかり合った。
しかしスピン攻撃の影響で、パープルハートのマシンのパワーはダービーより少なかった。
そしてパープルハートのマシンは押し負け、ダービーのマシンがトンネルへと向かう。
このままでは、パープルハートのマシンがトンネルの縁にぶつかってしまう。
インデックス「マズイんだよネプテューヌ! ここはトンネルを譲って、次に走ってほしいんだよ!!」
パープルハート「いいえ、まだ奥の手はあるわ!!」
まさのその瞬間であった。
パープルハートはとんでもない事をした。
普通のレースゲームのプレイヤーなら、絶対にあり得ないと思う事を!
なんとマシンを傾けさせ、トンネルの壁を走ったのである。
ノワール「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ベール「ね、ネプテューヌ……アナタ、何時の間にそんな
技術を!?」
ブラン「流石に、普通なら絶対にあり得ないわ」
これには、ノワール達も驚愕したのだった。
同時に走るマシンであったがダービーが体当たりを繰り出してきた。
パープルハート「!?」
ダービー「(くっ! パワー残量が少なくなっても構わん。 少しでもネプテューヌとの差を付けなければ!!)」
途中でトンネル内が暗くなり、レースの状況は分からなくなった。
銀時「オイィィィ! 暗くて見えないんだけどぉ!!」
因みにこの加速トンネルは、八か所のカーブと一か所の地雷原、そしてキャノン砲がある。
それらを暗闇の中で進まなくてはならないのである。
カーブを曲がり、地雷を避け、
パープルハート「くる!」
そして最後のキャノン砲が放たれた。
砲撃を避けると、一瞬の光でマシンが見えた。
僅かであったが、ダービーのマシンが速く走っていた。
ダービー「フフッ、どうやら体当たりのやった甲斐があったようだな」
トンネルを抜けた瞬間、2倍の加速によってダービーの15番マシンが、パープルハートの17番マシンを負い越した。
ダービー「このままブロックをすれば、勝負は私の勝ちだ!!」
勝利を確信したダービーであったが、まさにその時であった。
パープルハート「いいえ! パワー残量はアナタの方が少ないわ、ダービー!!」
ダービー「!?」
パープルハートのマシンがスピン攻撃を放ち、ダービーのマシンをコースの外へと飛ばしたのだった。
パワー残量が少ない方が吹き飛ぶ。
体当たりでパワー残量を減らした事で、ダービーのマシンはコースアウト。
新八「やったぁぁぁぁぁ!!」
コンパ「やったです、ねぷねぷ!!」
アイエフ「これで決まりね!」
パープルハート「アナタのマシンはコースアウト。 この勝負、私の勝ちみたいね♪」
勝利を確信し、パープルハートは微笑みを見せるが、
ダービー「ふ……フフフフフ……」
ダービーが不敵な笑みを見せた。
ダービー「違うね、パワーを減らしたのはワザとなのです。 キミに私のマシンを吹き飛ばして貰う為にな!!」
パープルハート「!?」
するとその時だった。
ダービーのマシンはなんと、どんどん隣りのコースへと吹き飛び、そのまま無事に着地したのだった。
近藤「う、嘘だろう!?」
ユニ「そんな、コースを飛び越えるなんて!?」
ダービー「そう、普通は不可能は事だ。 例え850キロの加速でもコースアウトをすれば地面に激突する。 しかし、誰かに弾き飛ばして貰えれば動作も無いのだよ。 ネプテューヌ、私のマシンのパワーが少ないと知ったキミならば、必ずスピンを仕掛けてくると計算したのだよ!」
パープルハート「そ……そん……な………」
計算されたダービーのテクニックに、パープルハートのショックは大きく、
当麻「敗北を認めるな、ネプテューヌ!!」
遂に『アトゥム神』に、魂を奪われてしまった。
ノワール「ネプテューヌゥゥゥ!!」
ブラン「そんな!?」
ベール「こんな事って!?」
全員が驚きを隠せず、ダービーは汗だくなりながら辛勝の笑みを見せた。
ダービー「ハァ……ハァ……掴んだぞ。 とうとう魂を掴んだぞ。 しかし、大した女だ。
このゲームで私に冷や汗をかかせたのは、お前で二人目だ」
TO BE CONTINUED