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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第63話:相対戦=第三戦その1=
作者:蓬莱   2015/04/01(水) 20:33公開   ID:te1VMvgWyWc
相対戦第二戦がアーチャー陣営の勝利を以て幕を閉じた頃、銀時と洞爺湖仙人によるセイバーの過去語りも終わりを迎えようとしていた。

「そこから先は文字通りの屍山血河が日常となるようなこの世の地獄…セイバーは自身の犯した過ちによって引き起こされたそれらをまざまざと見せつけられたのだ」
「…」

やがて、セイバーの犯した仕手殺しの経緯を明かした洞爺湖仙人は、その後のセイバーの辿った末路について多く語る事無く、押し黙る銀時の前で口を堅く閉ざした。
だが、洞爺湖仙人の悲壮な表情を見れば、自身の仕手であった景明を殺したセイバーがどれだけ悲惨な末路を終えたのかは、銀時にも容易に察する事はできた。
―――仕手殺しという決して拭う事のできない罪業を背負い。
―――終わりの見えない戦禍に喘ぐ人々から憎悪と怨嗟のまみれた言葉を浴びせられ。
―――後に人類の九割を死滅せしめた“史上最悪にして災厄の妖甲・村正”という汚名を歴史に刻み込まれ。
その果てに、セイバー…村正三世は最後の最後まで底無しに深い後悔と罪悪感に苛まれたまま、誰からも見とられる事無く、ただ孤独に朽ち果てたのだ。

「だから、あんだけ必死になって止めようとしたんだな…」

とここで、銀時はアインツベルン城にて切嗣らと決別した際に、刃を向けてまで自分を止めようと必死に説得してきた村正の姿を思い返しながらポツリと呟いた。
あの時、刃を向けるセイバーからは、銀時に対する怒りなど一切なく、むしろ、何かに怯えているようにしか見えなかった。
今から思えば、セイバーは本当に恐れていたのだろう―――かつての景明と同じく銀時が自分を捨て去る事を。
だからこそ、セイバーはかつての過去の再現を避けたい一心で力づくでも銀時を止めようとし、銀時が自分達と決別した際に過去のトラウマを呼び起こすほどに慟哭したのだ。
そして、セイバーの過去を語り終えた洞爺湖仙人は改めて銀時を見据えながら重々しく問いかけた。

「その上で問う…我が主、坂田銀時よ。お前は、お前にあの娘を、セイバーを、三世村正を救う事ができるのか?」
「…俺は―――」

この洞爺湖仙人の問い掛けを前に、銀時はしばしの沈黙の後、迷うことなく自身の下した決断を告げた。



第63話:相対戦=第三戦その1=



一方、相対戦第二戦の決着は相対戦第三戦に挑まんとするバーサーカー討伐派最後の砦となる陣営の元にも届いていた。

「これで一勝一敗か…ここらが正念場ね」

このアーチャー陣営の勝利の報告に対し、ランサーはいつもの戦装束を身に纏いながら、第四次聖杯戦争の天王山となる一戦を担う事へのプレッシャーからなのか、部屋に居るケイネス達に聞こえるようにいつになく真剣な表情で呟いた。
もっとも、ランサーの心中としてはアサシンらの敗北によって銀時との再戦の機会が得られた事に安堵していたのだが。

「あぁ…そして、今後の聖杯戦争の行方を左右する一戦である」

一方、ケイネスもランサーの言葉に同意するように頷くが、肝心のランサーが内心で銀時との再戦を喜んでいる事は誰の目にも明らかだった。
まぁ、生前も含めて、ランサーと真っ向から闘える強者が滅多にいないので、宝具抜きとはいえ、自分と互角に渡り合えた銀時との再戦を喜ぶのは無理もない事だろう。
しかし、ケイネスとしては、この相対戦第三戦の勝敗によって、バーサーカーに対する処遇を含め、今後の聖杯戦争の行方を左右する極めて重要な一戦である以上、より慎重な態度で挑むべきだと考えていた―――闘いに於いて何かと無茶をすることが多いランサーが心配である事も含めて。

「全てはこの一戦にかかっているのだ…分かっているな、ランサー?」
「もちろん、ちゃんと分かっているわ」

故に、ケイネスはマスターの務めをとして、少々浮かれ気味のランサーの気を引き締めるべく、この相対戦第三戦でどれだけ重大な局面である事を強調するような言葉と口調で釘を刺すように問いかけた。
このケイネスからの問い掛けに対し、身支度を終えたランサーは、口にこそ出さないモノの、自分の身を案じてくれるケイネスに向かって力強く頷いた。
当然の事ながら、ランサーもこの相対戦第三戦がどれだけ重要な一戦である事やケイネスの気遣いについても充分に理解していた。
しかし、その上で、ランサーは“それでも…”と前置きしながら、どうしても叶えたい自身の願いを告げた。

「私は銀時と死力を尽くして心ゆくまで闘って決着をつけたい。それが今一番叶えたい私の自分勝手な我が儘」

“銀時という強敵と死力を尽くした闘争”―――それこそが、この現世にランサーとして召喚されたマティルダ・サントメールが銀時と倉庫街で初めて闘った時から今に至るまで抱き続けてきた唯一の願望(わがまま)だった。
これまでバーサーカーやキャスターの乱入により決着をつけらずにいたが、ようやく相対戦という形で自身の願いを叶える事のできる絶好の機会が巡ってきたのだ。
故に、ランサーは本当に悪いとは思いつつも、マスターであるケイネスの意に反してでも、自身の我が儘を押し通すつもりだった。
例え、それを阻止せんとするケイネスに、最後の手段として令呪を使用される事になったとしても…!!

「まぁ、そうだろうな…」
「「『…』」」

だが、極めて意外な事に、ケイネスはランサーの我が儘に怒りを顕にする事無く、こうなる事に薄々気づいていたかのような口ぶりでただ冷静に受け止めただけだった。
これには思わず、ランサーだけでなく、ランサーとケイネスのやり取りを見守っていたソラウやアラストールも目の前で起こった事が理解できずに一瞬思考が止まってしまうほど唖然としてしまった。
少なくとも、以前のケイネスならば明らかにサーヴァントとしての本分を放棄しようとしているランサーの暴挙に激怒し、それこそ令呪を使おうとも是が非でも阻止しようとしただろう。
だからこそ、そのケイネスが癇癪一つ起こすことなく、ランサーの我が儘を受け入れた事に、ランサー達は驚きを隠せなかったのだ―――皆の視線を一身に受け罰悪そうにそっぽ向くケイネスを除いて。

「…私はサーヴァントの意見を尊重した上で、マスターとしてできる限り譲歩しただけだ。別に他意などない」

もっとも、憮然とした表情を浮かべるケイネスの言うように、マスターとしての立場から考えれば、ランサーの願いを聞き入れた事はそう悪い判断ではなかった。
確かに、マスターに逆らってまで自身の我をとさんとするランサーの言動はサーヴァントとして少々度が過ぎているかもしれない。
だが、ランサーの願いとは“銀時との再戦”であり、あくまで敵のサーヴァントを撃破するというサーヴァントの役割から逸脱してはいなかった。
故に、ケイネスは、あえてランサーの願いを聞き入れる事で、ランサーのモチベーションを最大限に高めつつ、今後の信頼関係の強化にもつながると熟慮の末に判断したのだ。
そう、他人に強制される事を何よりも我慢できないランサーの意思を縛るような令呪を使いたくないという感傷が自分の中にある事に目を背けつつ。

「だが、はたして、その銀時とやらはそれほどの強者なのか?」

しかし、ランサーの願いを聞き入れたケイネスであったが、ランサーがそれほどまでに銀時との再戦に熱望している事に少々疑問を抱いていた。
確かに、木刀一本で当代最強のフレイムヘイズと謳われたランサーと互角に渡り合えた事を省みれば、銀時が並のサーヴァントとは一線を画すのは事実だろう。
だが、実際、銀時のサーヴァントとしてのステータスから見た場合、存在そのものが規格外のバーサーカーや暗殺を得手とするアサシンを除いて、ランサー達と比べ大きく見劣りしているのは否めなかった。
それに加えて、アサシンからの情報によれば、その銀時はバーサーカーに対する方針の対立によって魔力供給に必要なマスターや攻撃の要となるセイバーと袂を別った事で戦闘に支障をきたしかねないハンデを背負っているのだ。
故に、ケイネスからすれば、そんな今の銀時にランサーが闘いを望むに足る好敵手として役不足としか思えなかった。

「それは違うわよ、マスター…銀時の強さはそんな見かけや数値で測れるようなモノじゃないわ」

しかし、当のランサーは、マスターの権限としてサーヴァントの能力をなまじ知る事ができる為に、銀時の力を見誤っているケイネスの言葉をあっさりと否定した。
確かに、ケイネスの指摘するように、銀時が他のサーヴァントに比べ、サーヴァントとしてのステータが大きく見劣りしているのは事実だ。
だが、それでも、銀時はこの第四次聖杯戦争において、セイバーの力によるモノの大きいだろうが、英雄や反英雄として名を馳せた強敵と激闘を繰り広げながらも生き残ってきた。
それこそ、銀時が“永遠の刹那”に自らを称したように“何時でも何処にでもいるただのおっさん”であるにも関わらず―――!!
もはや、それ自体が奇跡としか言いようのない銀時の奮戦に対し、ランサーは相対戦までの猶予期間の中で、倉庫街での一戦や六陣営会談での一幕を踏まえた上で、何故、これまで銀時が数多の英雄達と互角に闘えたのかを理解するに至った。

「…坂田銀時はこの聖杯戦争に招かれたサーヴァントの中でもっとも強い“信念”を持ったサーヴァントなのよ」

そして、そう銀時の強さの根源を告げたランサーは、これより相見えることになる最強の敵が垣間見せた強さの一端を思い返した。
かつて、倉庫街での一戦の際、圧倒を通り越して絶望的ともいえる強さを見せつけたバーサーカーを前にその場に居合わせた誰もが死を覚悟する中、銀時だけは最後まで生き足掻く事を止めなかった。
さらに、六陣営会談の時も、銀時はランサーらを敵に回しても自身の信念を貫き、あのバーサーカーに対しても、一歩も臆することなく堂々と啖呵を切った。
何故、凡人でしかない銀時が数多の英雄ですら困難な事をやってのけたのかと問われれば、答えは一つだった。
すなわち、銀時の強さとは如何なる強敵や困難が立ち塞がろうとも決して曲がる事も折る事もできない“信念”であり、その真価は“大切なモノを護る”時に発揮されるのだと。

「例え、魔力が尽きかけても、死ぬ寸前までこっちが追い詰めても、護るべきモノの為なら何度でも必ず立ち上がってくる」
『故に、この相対戦第三戦は我らにとって相当厳しいモノになるのは間違いないだろう』

故に、フレイヘイズとして数多くの強敵と闘ってきたランサーとアラストールでさえも、そんな銀時に対して、“もっとも打ち倒すのが困難な難敵”という認識を抱くのも無理からぬ話だった。
―――“力”を強さとする敵には、それを超える“力”でねじ伏せれば良い。
―――“知”を強さとする敵には、相手の思惑を上回る“知”で向かい討てばいい。
―――だが、銀時のように確固たる信念に根差した“心”を強さとする敵は違う。
―――どれだけ“力”でねじ伏せ、どれだけ“知”で上回ろうとも、その“心”が折れぬ限り何度も闘い続けるのだ。
―――それこそ、本来なら優位に立っている筈の敵の“心”が折れてしまうほどに…!!
確かに銀時は味方としては心強い存在かもしれないが、それと等しく敵に回ればこれほど恐ろしい存在もまた他にいなかった。
だからこそ、ランサーもアラストールもこれまで以上に決死の覚悟を以て、相対戦第三戦に相見えることになる最強の敵“坂田銀時”に挑まんとしているのだ。

「どうやら…私の認識が甘かったようだな…」

一方、そんなランサーとアラストールの覚悟を前に、ケイネスはステータスという上辺だけの数値のみを重視する余り、銀時の実力を軽んじてしまった自身の過ちを素直に認めるしかなかった。
実際、ケイネスもあくまで自分の本分は“魔術”であり、“戦闘”という未知の領分については一流の戦士たるランサーには遥かに及ばない事を充分に理解していた。
故に、ケイネスもこの相対戦第三戦に挑まんとするランサーに全て託す覚悟を決めた―――

「ならば、それほどの強敵を相手にやはり出し惜しみをする必要もないようだな」
「…何か策でもあるの?」

―――自身の本分たる“魔術”で、マスターとしてランサーを最大限援護すべく、たった一度限りの“切り札”を使う事さえ厭わず…!!
本来ならば、バーサーカー討伐戦に取っておきたかった切り札であったが、その坂田銀時というサーヴァントが、ランサーがそれ相応の覚悟を以て挑まねば危うい強敵であるなら出し惜しみする必要など全く無かった。
一方、当のランサーはできるならば銀時とは真っ向から闘いたいのか、ケイネスに余計な横槍はできれば控えるよう釘を刺すように尋ねた。

「安心しろ。お前の真剣勝負を邪魔するような無粋な真似はするつもりはない」
「私がケイネスの代わりに、あなたへの魔力を送っているのは知っているわね、ランサー、アラストール」

しかし、ケイネスは尋常なる闘いを望むランサーの意を汲んでか、敵に対する妨害などは一切行うつもりはなく、あくまで自身の本分である“魔術”によるランサーへの援護に徹する事を告げた。
さらに、そのケイネスの“切り札”の一端を担うソラウも悪戯っぽい笑みを浮べながら、ランサーとアラストールに、ケイネスが第四次聖杯戦争を勝ち抜くために用意した秘策を確認するように問いかけた。

「えっと…」
『確か、聖杯戦争におけるマスターとサーヴァントの契約システムにマスターが独自のアレンジを加えたのであったな、ソラウ殿』

もっとも、あまり興味のなかった事もあって其のあたりの事をすっかり忘れていたのか、中々思い出す事ができずに言葉を詰まらせたランサーに代わって、相棒であるアラストールがやや嘆息しつつも、ランサーをフォローするようにソラウの問い掛けに答えた。
この第四次聖杯戦争に挑むに辺り、ケイネスは自身の勝利をより確実なモノにすべく、サーヴァントの召喚及び契約のシステムを解析した上で、独自のアレンジを付け加えていた。
その結果、本来ならマスターとサーヴァントとの間でつなぐパスを分割し、ランサーへの魔力供給をソラウが、令呪をケイネス自身が受け持つという変則契約を実現した。
これにより、ケイネスは自身の魔力負担を抑えた上で、自身も万全の状態で魔術を駆使して闘えるという他陣営にはないアドバンテージを得ていたのだ。
元より、このアドバンテージを抜きにしても、天敵である“魔術師殺し”切嗣を除けば、魔術師としてケイネスに対抗できるのは時臣のみだった。
だからこそ、ケイネスは自身の必勝を何一つ疑う事無く、数多くの魔術礼装と自身の技術の粋を注ぎ込んだ魔術工房を用意し、この聖杯戦争という魔術師として秘術を競い合う“決闘”に万全の態勢で挑んだ。

「…この三日間、相対戦第三戦を勝つためにいろいろ考えていたのだが、私はここで一つ賭けに出ようと思う」

だが、次々と巻き起こる予想外の展開を前に、ケイネスは自身の知る魔術師同士の戦いとは程遠い“殺し合い”という未知の領分において、自身が如何に無知であったかを否応なく思い知らされた。
―――用意した魔術礼装と魔術工房は聖杯戦争の裏で暗躍する組織によってホテルごと爆破という想定外の荒業で失った。
―――自身にとって最強の魔術礼装である“月霊髄液”を以てしても、敵の仕掛けた珍妙な罠の数々により、アインツベルンの雇った溝鼠を仕留める事すらできなかった。
―――さらにバーサーカーという最悪最強のイレギュラーによって、聖杯戦争はバーサーカー陣営と六陣営による総力戦の様相を呈し、宝具の効果によりサーヴァントと真っ向から闘える真島を除けば、マスターの役割はサーヴァントの援護に徹する事のみとなっていた。
“認めたくはないが…今のままでは勝てない”―――その激動の渦中において、ケイネスが何一つ成果を出せない自身の不甲斐無さにそう思い込むのも無理からぬ話だった。
だが、それ以上にケイネスとしても、こんな情けない自分をマスターとして認めてくれ、全力で奮戦するランサーに申し訳が立たなかった。
だからこそ、ケイネスは少しでもランサーの奮闘に報いるべく、この三日間という極めて短い時の中で、自身の本分たる魔術で何が為せるのかを寝る間も惜しまずに考え抜いた。
その結果、ケイネスはソラウの協力の元、対バーサーカー戦を想定した“切り札”を用意することに成功したのだ。

「何分時間が無かったので、五分間という短い間だけとなったが…私もランサーへの魔力供給のパスを繋げる事ができるようにしておいた」
「つまり、その五分の間、私とケイネス…二人分の魔力をランサーに供給できるから、これまで以上に全力で闘えるって事よ」

“ケイネスとソラウによる魔力の二重供給”―――これこそ、ケイネスとソラウがバーサーカーなどの強敵と闘わんとするランサーの為に用意した切り札“オーバー・ブースト”だった。
本来、ケイネスとしては、ランサーへの魔力供給をソラウに分担してもらう事で、自身も万全の状態で他のマスターと“魔術師”として闘うつもりだった。
だが、“魔術師”として闘う機会が無いのが現状である以上、いっその事、自分の魔力もランサーへ供給するための魔力として活用する方が遥かに有効だった。
そう考えたケイネスは魔力供給と令呪のパスを分割した技術を応用し、己が心技を注ぎ込んだ試行錯誤の末、五分間という某特撮ヒーローじみた時間制限はあるもの、一時的にランサーへの魔力供給のパスを繋げるという荒業を成し遂げたのだ。
これにより、ランサーへのさらなる魔力供給が可能となっただけでなく、対バーサーカー戦において極めて有効であるモノの、ソラウであっても数秒しか持たないほど魔力消耗の激しい為に使用を控えていた“対神宝具”も、その持続時間を三分間と大幅に引き延ばすことにも成功していた。
まさしく、例え、自身が無力であっても、ランサーを最大限援護したいというケイネスに熱い思いを込めた“オーバー・ブースト”ではあったが、欠点が無い訳ではなかった。

「でも、確かに、マスターとソラウの魔力供給が有れば確かに心強いけど、マスターが魔術を使う時に支障が出るんじゃないの?」
「まぁ、それは当然避けられぬ事だろうな…」

実際、ランサーが指摘するように、この“オーバー・ブースト”を使用した場合、ケイネスにもランサーへの魔力供給の負担が掛かるために、これまでのように全力で魔術を行使する事は不可能となっていた。
さらに、通常の魔力供給と比べ、“オーバー・ブースト”による魔力供給の場合、ケイネスにバーサーカー並の魔力消耗を強いる為に、使用制限時間である五分の時点で、ケイネスの魔力が底をつくという重大な問題を抱えていた。
そうなれば、“月霊髄液”も使用できないために、ケイネスは一時的に無防備な状態となるという、実戦で使用するには極めて危険なリスクを背負う必要が有るのだ。
無論、ケイネス自身も“切り札”の使用時に生じる致命的な欠陥が自身をどれだけ危険にさらす事になるか、開発者である自身が誰よりも充分に理解していた。
だが、ケイネスは、例え、ランサーやソラウに止められようとも、この“切り札”を使う事に一切の迷いも躊躇いも無かった。

「ランサー…いや、マティルダ・サントメールはこのケイネス・エルメロイをマスターとして認めてくれた友なのだ。そんな彼女が死力を尽くすほど全力で闘う事を望むならば、例え、己の命を代価にしようとも力を貸すのはマスターとして当然の務めだ」

なぜなら、それこそが互いに認め合い、己が命を預けながら共に闘うランサー―――マティルダに対する、友として掛け値なしの信頼と敬意の証であり、“力及ばずとも共に在りたい”と願うケイネスの矜持なのだから!!
例え、この思いが魔術師として有るまじき感傷であるとの誹りを受けようとも、ケイネスは魔術師である前に、ランサーの友として絶対に譲るつもりなどなかった。

「あら、本当に“友”としてだけかしら?」
「…からかわないでくれ、ソラウ」

もっとも、ランサーの前ではもっとも言い辛く、この思いの源流ともいえるケイネスの秘めたる本心については、未だに自分の気持ちに素直になれないケイネスをからかうように微笑むソラウにばっちり見抜かれているのだが。
“…よりにもよってソラウにばれているのか!?”―――まるでケイネスの本心を知っている事をほのめかすようなソラウの言葉に、ケイネスはあくまで憮然とした表情でそっぽ向きながらも、そう内心で大いに慌てふためいた。
そして、ケイネスがランサーにも気付かれていないかと恐る恐る視線を向けようとした瞬間―――

「な、おい…!?」
「ラ、ランサー?」
「ありがとう、ケイネス、ソラウ。あなた達に召喚してもらえて本当に良かった」
『…我からも礼を言わせてほしい、ケイネス殿、ソラウ殿』

―――心からの微笑みを浮かべるランサーにソラウと共に力強く抱きしめられていた。
この不意討ち同然の抱擁を受けて戸惑うケイネスとソラウに対し、ランサーとアラストールは互いにこの聖杯戦争でケイネスとソラウと巡り合えたことに歓びと感謝の言葉を送った。
サーヴァントとして現界した際、聖杯から現世の知識を与えられたランサーは、多くの魔術師にとって自分達サーヴァントが聖杯を得るための道具でしかない事を知っていた。
“冗談じゃない”―――当然の事ながら、独立を精神根幹とするランサーがマスターの道具として扱われる事に我慢できる筈も無く、召喚された当初はそう内心で辟易していた。
だが、自身のマスターであるケイネスとソラウはこの聖杯戦争の中でランサーをサーヴァントという道具ではなく、マティルダという掛け替えのない友として共に在ろうと言ってくれたのだ。
故に、同じく互いに命を預け合う友としてケイネスとソラウの思いに応えるべく、ランサーは紅蓮に輝く灼眼を向けながら拳を突き出すと、ケイネスにむかって誓いの言葉を告げた。

「改めて誓わせてもらうわ。この現世で巡り合えた最高の友の為に、私はこの聖杯戦争に必ず勝ってみせる」
「…あぁ、マティルダ・サントメール。天下無双と謳われた“炎髪灼眼の討ち手”にして、我が心の友よ!!」

それと同時に、ランサーの誓いの言葉を受けたケイネスもそれに応えるべく、自身の拳をランサーの拳をつき合せ、これより戦場に立たんとする友への檄をとばした。
―――“共に在ろう”。
それがマスターとサーヴァントという主従関係を越えた、ランサーとケイネスが結んだ、新たな“絆”だった。
そして、ソラウはランサーとケイネスとの誓いの場に立ち会いながら、最高の友となった二人の姿を温かく見守った―――心の何処かでケイネスへの嫉妬心を抱いている自分に気づきつつ。

「ところで、相対戦第三戦は何処で闘うつもりなの、マティルダ?」
「一応、場所はもう決まっているわ。まぁ、銀時には余計なお節介だったかもしれないけど」

だが、ソラウはそんな暗い感情を振り払うように、ランサーに相対戦第三戦の舞台として何処を選んだのかを尋ねた。
このソラウの問い掛けに対し、ランサーは自分のお節介に愚痴る銀時の姿を想像しながら、ソラウに銀時との最終決戦の舞台となる場所を告げた。

「“アインツベルン城”…そこで銀時と最後の決着を着けるわ」




一方、そのランサーが心から闘わんと望む好敵手、坂田銀時は―――

「…そもそも、あなた達は間違っています」
「…」

―――死んだ魚のように一切に光を灯さない瞳を向ける死にたがりの少女に駄目出しをされていた。


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