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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第66話:相対戦=第三戦その4=
作者:蓬莱   2015/07/06(月) 23:33公開   ID:.dsW6wyhJEM
“そちらの知らない、バーサーカーの真実について話したい”―――ウェイバーは、バーサーカー討伐派との話し合いに持ち込むべく、相手が興味を引かざるを得ないような言葉で以てそう告げた。
そして、このウェイバーの言葉に誰よりも先んじて反応したのは―――

「それは、バーサーカーの願いを叶えさせる事を私達に納得して貰うに足るモノかしら?」

――紅蓮の輝きを宿した双眸でウェイバーを見据えながら、まるでウェイバーを試すように問いかけるランサーだった。
とはいえ、ウェイバーの話に喰いついたかのような言動を見せるランサーであったが、実のところを言えば、ウェイバーの話についてはそれほど興味があるわけでは無かった。
一応、銀時との対決を何より望んでいるランサーとしてはウェイバーの話自体、あの胸糞悪い映画を最後まで見なかった事もあってか、ほんの少し気にかかる程度の事だった。
むしろ、ランサーの興味を引いたのは、自分を護ってくれる筈のライダーがいないにもかかわらず、自分の身一つでケイネス達と対峙せんとするウェイバーの“覚悟”だった。
無論、ウェイバーの言葉に嘘偽りが少しでも有れば、ランサーは強制的に部外者に過ぎないウェイバーには即座にお帰り願うつもりだった。

「…正直、それほど絶対の自信がある訳じゃない」

このランサーの問い掛けに対し、ウェイバーは恐怖に委縮する気持ちを抑えるように一呼吸置いた後、ケイネス達を納得させることができるのか不安であるのを偽る事無く打ち明けた。
事実、アーチャー経由で時臣(瀕死)から託された“証拠”が有るとはいえ、仮にもロード・エルメロイの称号を持つ名門講師であるケイネスを相手に論戦を挑むのは、一介の未熟な魔術師にすぎないウェイバーにとって何よりも至難の業だった。
しかし、ウェイバーは“けれど…”と前置すると―――

「…こんな未熟な僕を信じて力を貸してくれたライダー達との“絆”の為にも、僕は全てを懸けてでも、あんた達を説得できるように全力を尽くすだけだ」
「…なるほど」

―――ライダー達の“絆”に応えるべく、ケイネス達を説得する事を告つつ、一歩も怖じる事もないまま、サーヴァントであるランサーに向かって堂々と啖呵を切ってみせた。
そのウェイバーの姿をジッと見据えたランサーはどこか満足げな表情を浮かべながらも、多くを語ることは無く、ただ納得したように一言だけ呟いた。
事実、ランサーの眼から見ても、今のウェイバーがあの倉庫街の一件にてライダーに庇われながら怯えていた弱々しい少年でないことは明白だった。
そう、ライダー達と共に聖杯戦争を戦い抜く中で、ランサーさえも思わず認めてしまうほどに、皆の託した“絆”と“想い”を背負うだけの気概を持つ“漢”として成長を遂げた事を含めて――!!
故に、ランサーが見事に成長を遂げたウェイバーを見極めたうえで下した判断を示すべく、半ば蚊帳の外に置かれかけていたケイネスにむかってこう告げた。

「まぁ、そういう事だから、マスター。こっちはこっちでやるから、後は任せたわよ」
「「「「「「うぉいっ!!」」」」」」
「…」

次の瞬間、ウェイバーの“覚悟”を汲み取ったランサーは、まるで面倒事を押し付けるかのように有無も言わずケイネスに丸投げしてしまった。
このランサーの奔放さを前に、ツッコミ役であるウェイバーや銀時はもちろん、アイリ達までもがまるで打ち合わせをしたかのように声を揃えて思わずツッコんだ―――何かを確信したように沈黙するヴァレリアを除いて。
当然ながら、ウェイバーも心中で“交渉する相手を間違ったかな…”と後悔しつつ、ランサーが自分との交渉をケイネスが拒否するだろうと思っていた。

「まったく…仕方ないか…」

しかし、そんなウェイバーの予想に反し、当のケイネスは不承不承愚痴をこぼしながらも、ランサーに押し付けられたウェイバーとの交渉を了承するように引き受けた、いや、引き受けざるを得なかった。
なぜなら、ケイネスがウェイバーとの交渉を拒否するという事は、その交渉を了承したランサーの面目を潰すことにつながるのだ。
これが、以前のケイネスならば、ランサーをサーヴァントという道具の独断を許さず、ウェイバーとの交渉を拒否する事もできただろう。
だが、ランサーの友として“共に在ろう”と誓った、今のケイネスにランサーの信頼を裏切る真似など出来る筈が無かった。

「なるほど…」

一方、この展開を予測していたヴァレリアはランサーの意図を見抜きつつ、見事に擁護派と討伐派の交渉に持ち込んだランサーの強かさを称賛するかのように呟いた。
恐らく、ランサーは、自身が先んじてウェイバーの問い掛けに答える事で、ケイネスがウェイバーとの交渉を拒否しないように仕掛けたのだ。
無論、ケイネスもウェイバーとの交渉を押し付けられた際に、ランサーの目論みには気付いたものの、ランサーに主導権を先んじて握られた時点で後の祭りだった。
結果、ケイネスはまんまとランサーの目論み通り、ウェイバーの申し出を受け入れたランサーの面目を潰すのを避けるべく、ウェイバーとの交渉の場に立たされることになった。
もっとも、これは、ランサーとケイネスが“共に在ろう”と誓いを交した友として互いに認めているからこそ成り立つ、ケイネスに対する信頼の証でもあるのだが。

「些か変わった趣向の闘いとなるが…これも真剣勝負の一つである以上、覚悟はいいかね、ウェイバー君?」
「…ありがとうございます、ロード・エルメロイ」

兎にも角にも、ウェイバーはランサーに丸投げされながらも自分との交渉を受けてくれたケイネスに感謝の意を示すかのように深々と頭を下げた。
ここに於いて、聖杯戦争を切っ掛けとして始まったケイネスとウェイバーの因縁は、討伐派と擁護派による交渉という名の決闘が始まろうとしていた。

「…準備はいいのかよ、ランサーのねぇちゃん?」
「それを私に尋ねるの、銀時?」

そして、それと同時に、初めて互いに刃を交えた倉庫街での戦いから再び、銀時とランサーは、第四次聖杯戦争そのものの行方を決定づける相対戦第三戦の地であるアインツベルン城にて相見える事になった。
銀時は避けては通れぬ闘いを前に問いかけた―――凄絶な笑みを浮べながら、己が闘争心を示すかのように紅蓮に輝く双眸で自分を見据えるランサーに。
ランサーは待ち望んだ闘いを前に問いかけた―――不敵な笑みを浮べながら、己が信念を貫かんとするように輝きを取り戻した双眸で自分を見据える銀時に。
もはや、互いの刃で以てしか決着を着けるしかない事を確かめ合うと同時に、銀時とランサーは一切目を逸らすことなく、己が得物を手にしたまま、己が死力を尽くした激闘への最初の一歩を踏み出さんとした。

「銀時…!!」
「ん?」

次の瞬間、ただ事の行く末を見守っていたアイリスフィールは徐々に遠ざかっていく銀時の後姿を前に、何かに突き動かされるように走り出した。
そして、銀時の袖をギュッと握りしめるように掴んだまま、アイリスフィールは銀時に向かって、自分たちのところに戻るように説得を試みんとした。
―――ごめんなさい。
―――今度はちゃんと自分の意思で銀時と向き合うから。
―――だから、自分たちともう一度だけ一緒に闘ってほしい。
無論、アイリスフィールも、自分の言わんとしている事が如何に自分勝手で恥知らずなモノであるか充分に承知していた。
それでも銀時に伝えたい、伝えなければならない言葉が語り尽くせぬほどあった、ある筈だった。
けれど、自分に振り返った銀時を前に、アイリスフィールが目を背けるように俯くと同時に、それらの言葉は霧のように霧散してしまっていた。
そして、アイリスフィールはなけなしの勇気を振り絞りながら、顔を見合わるように俯いたままの顔を上げ、陽炎の羽音にさえ消え入りそうな小さな声でこう告げた。

「戻ってきて…見捨てないで…」
「…」

そこには、これまでの戦いの中で幾度となく見せていた、夫である切嗣の理想の為に殉じる妻としてのアイリスフィールの姿は見る影もなくなった。
今、銀時の目の前にいるのは、不安と孤独に心を苛まれ、頼れる者を喪った迷子のようにただ止まることの無い涙を流しながら泣きじゃくる事しかできない幼い少女だった。
もはや、恥も外聞もなく自分に縋りつくアイリスフィールに対し、銀時は“どうするんだ?”という周囲の視線もあってか、困ったように頭を掻くと、徐に泣きじゃくるアイリスフィールの頭を優しくなでた。

「またな、アイリ…ちょっと行ってくるぜ」
「…っ」

そして、不安げにこちらを見つめるアイリスフィールと視線を合わせるようにまっすぐに向き合った銀時は、いつもと変わらぬ小憎らしい笑みをニヤリと浮べながら、泣きやまぬアイリスフィールを宥めるようにして軽く言った。
まるで散歩にでも出かけるような感覚で戻ってくることを遠回しに告げた銀時の言葉を前に、アイリスフィールはもはや何も言えぬまま、それまで力の限り掴んでいた袖を力なく放すしかなかった。
それと同時に、アイリスフィールは悟らざるを得なかった―――自分こそが銀時の事をもっとも信じ切れていなかったことを。
やがて、己が醜さに心を打ちのめされて力なく蹲るアイリスフィールに見送られながら、銀時は迷いも恐れも見せぬまま、再び一歩一歩前へと進んだ。

「「…」」
「では…ここに銀時とランサーによる相対戦最終戦を執り行う。勝負の内容は真剣勝負」
「そして、この相対戦の勝敗はどちらかの戦闘不能を以て決着とさせていただきます」

そして、己の得物を手にした銀時は堂々と仁王立ちしながら自分を待っていたランサーと対峙するように構えた。
遂に迎えた因縁の闘いを前に、銀時もランサーも互いに言葉こそ無いモノの、この闘いの場に立った時点で雄弁に語っていた―――互いに肌で敏感に感じ取れるほどの強烈な闘志を向けている事を。
それはこの一戦の立会人として立つ第一天やヴァレリアも同じであり、銀時とランサーの両名が互いに同意有りと見做し、ここに相対戦第三戦を開始する事を宣言した。

「それでは―――」

そして、第一天が高々と右腕を振り上げ―――

「―――死合、開始!!」
「「―――っ!!」」

―――試合開始の合図を告げて振り下ろすと同時に、銀時とランサーは全てに決着をつけるべく一気に駆け出し、互いの得物を渾身の力で以て振り抜いた。
その直後、激しくぶつかり合う銀時とランサーを爆心地として、アインツベルン城はおろかアインツベルンの森全体の大気を揺るがすほどの衝撃が辺り一帯に沸き起こった。

「たくっ…相変わらず速ぇな」
「えぇ、相変わらず重いわね」

そして、ヴァレリアを防壁代わりにして、周囲に巻き起こる衝撃波の嵐に耐え凌いだ一同が目の当たりにしたのは、相手の一撃を真っ向から受け止めながら軽口を叩き合う銀時とランサーの姿だった。
最初の一撃から、常人ならば一瞬のうちに意識を奪うほどのサーヴァントのぶつかり合い。
だが、当事者である銀時とランサーは、あくまでこれから始まる激戦に向けての肩慣らしを兼ねた小手調べでしかない事をお互いに分かっていた。
それに加えて、お互いにあの倉庫街の一戦とは比較にならぬほど遥かに強くなっている事も―――!!

「「はっ…!!」」

次の瞬間、銀時とランサーはもはや手加減無用と言はんばかりに、自身の間合いを取ると同時に先程よりもなお激しく討ち合い始めた。
“もっと力強く…!!”と更なる力を込めながら。
“もっと素早く…!!”と更なる加速を得ながら。
そう、ただ、只管に全身全霊を懸けて立ち塞がらんとする好敵手に打ち勝つために…!!

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」
「はぁあああああああああああああああああぁ!!」

次の瞬間、自身の限界を凌駕せんとするが如く、銀時とランサーは己の限界に屈する心を奮い立たせるような気迫の叫びをぶつけ合いながら再び雌雄を決するべく激突した。


そして、時を同じくして刃を交えぬ、しかし、決して避けては通れぬもう一つの闘争が静かに幕を開けようとしていた。

「…始まりましたね」
「あぁ…」

銀時とランサーによる熾烈な闘いが繰り広げられようとしていた頃、ウェイバーとケイネスはバーサーカーを巡る交渉を為すべく、真正面から向き合うように対峙していた。
直、先の倉庫街での一戦を踏まえた上で、銀時とランサーの闘いによる余波を懸念したウェイバーとケイネスは、現在、相対戦第三戦が行われている中庭から最も離れた客室へと移動していた。
にもかかわらず、ウェイバーとケイネスが否応なしに感じ取ってしまうほどの、部屋全体を揺るがす振動が断続的に起こっており、中庭にて繰り広げられている銀時とランサーの闘いの激しさを物語っていた。

「…不安ですか?」

とここで、何度も中庭のある方向に不安げに視線を向けるケイネスを見かねたのか、ウェイバーはケイネスの心情を察するかのように問い掛けた。
実際、先の初戦にて、ライダーとキャスターの闘いを見守っていたウェイバーとしても、ランサーの身を案じるケイネスの姿に思うところが無い訳はなかった。
そんなウェイバーが察するように、ケイネスとしては、今すぐに交渉を打ち切って、銀時と闘うランサーの元へ行きたいという衝動に何度も駆られそうになった。

「今の私にできる事は、ランサー、いや、私を友として認めてくれたマティルダの勝利を信じる事だけだ」

だが、ケイネスはそんな心の迷いを振り払いながら、友としてどこまでもランサーの勝利を信じ抜く事を自身に誓うように断言した。
例え、どういう形であれ、ランサーは“友”として信頼するからこそ、自分にウェイバーとの交渉を託してくれたのだ。
だからこそ、ケイネスは、自身も一人の“友”としてランサーの勝利を信じ、ウェイバーとの交渉に全身全霊を懸けて臨まんとしていた。

「…それがあなたとランサーが築き結んだ“絆”なんですね、ロード・エルメロイ」
「些か陳腐で青臭い気もするが…君の信頼する“友”の言葉を借りるならそうなるのだろうな」

そして、そんな決意を固めたケイネスの姿に対し、ウェイバーは知らず知らずのうちに、因縁の仇敵であるはずのケイネスに、一人の人間として心の底から敬意を込めた言葉を初めて口にした。
これまで、ウェイバーにとって、ケイネスは才気と権威を併せ持つ名家のエリートという鼻持ちならない高慢な男でしかなかった。
しかし、ランサーの信頼に応えんとするケイネスを目の当たりにし、ウェイバーがそれまで抱いていたケイネスに対する青臭い劣等感と敵愾心は呆気なく霧散してしまった。
それと同時に、ウェイバーは何処か納得したように確信した―――ケイネスもまた自分とライダーと同じように、マスターとサーヴァントという主従関係を越えた“絆”を結んでいるのだと。
一方、ケイネスとしては、よりにもよってもっとも無能である筈の元弟子であるウェイバーに自身の内心を見抜かれた事が相当気まずかったのか、やや皮肉めいた言葉で素っ気なく返した。
ただし、自分と同じく、ウェイバーも決して断ち切れぬ“絆”で結ばれたライダーの“友”であるという一点だけはさり気無く肯定しつつ。

「…」
「…」

やがて、お互いにじっと顔を見合わせたウェイバーとケイネスは無言のまま、グッと固く握りしめるように握手を交わし合った。
―――もはや、言葉は要らなかった。
―――その他諸々の因縁や立場も関係なかった。
―――ただ、この喜びを分かち合える相手がいる事がこの上なく嬉しかった。
この瞬間、ウェイバーとケイネスは、この聖杯戦争で掛け替えのない友を得られた事で互いに対等な関係として分かり合えたのだった―――本来の目的であるバーサーカーについての交渉そっちのけで。
もし、この場に銀時とアーチャーが居合わせたなら、呆れた様子で“お前ら、どんだけ自分のサーヴァント好きなんだよ”と突っ込んでいただろう。
無論、互いにわかり合えたとはいえ、ウェイバーもケイネスも、自身の信ずる友から託された、自分が為さねばならない役目とその責任を忘れたわけでは無かった。
事実、それを示すかのように、ウェイバーとケイネスは互いに握手した手を放した瞬間、それまで和やかだったはず客室の空気が戦場を思わせるかのように一気に張り詰めていた。

「それで、バーサーカー討伐を望む我らがバーサーカーの願いを叶える事を受け入れるに足る根拠とは何かな、ウェイバー君?」
「…」

そして、貴族の風格を示すように悠然と構えたケイネスは、自分に挑まんとするように身構えるウェイバーにむかって、如何に討伐派を説得させるのかを確かめるように問いかけた。
この時、銀時とランサーの闘いが始まってから数十秒が経とうとしていた。



同時刻、アインツベルン城の中庭―――

「ほあたぁ―――!!」
「―――っとぉっ!!」
―――鋼の刃の如く鋭い銀色の輝きと燃えさかる炎の如く紅蓮の煌きが上下左右縦横無尽に閃光のように駆け巡りながら幾度も激しくぶつかり合っていた。
石畳を砕くほどの踏み込みで中庭の壁を駆け回りつつ、ランサーへと肉薄し、雄叫びと共に木刀を振り下ろす銀時。
自身の固有スキルである直感と心眼を活かして、襲い掛かる銀時の木刀を受け止めると同時に戦斧の石突きで追撃を仕掛けるランサー。
もはや、サーヴァントの枠を超えるほどの、銀時とランサーによる一進一退の熾烈な攻防戦が始まってから数十秒。
そう、そのたった数十秒の時が過ぎた時点で、銀時とランサーによる全力の斬り結びは千に届かんとしていた。
もはや、アイリスフィール達の眼から見ても、今の銀時とランサーの力があの倉庫街の一戦を上回っているのは明らかだった。

「うぉおおおおおおお!!」
「はぁあああああああ!!」

だが、それでも、銀時もランサーも一切止まる事無く、声を張り上げると同時に、己が得物を振るいながらより速くより激しく闘い続けた。
なぜなら、ほぼ拮抗状態での死闘を繰り広げる中で、銀時もランサーも刹那の時間ともいえる一瞬の隙を相手に与えてしまう事こそ致命的な一撃となり得るのを直感的に感じ取っていたのだ。
故に、互いに相手の限界を越えんとし競い合う結果、銀時とランサーも荒れ狂う爆風と衝撃をまき散らすほどに全力で闘い、極限ともいえる英雄同士の闘いをより一層激しさを増していった。

「ところでよぉ…あの宝具は使わねぇのか?」
「えぇ、使うつもりはないわ」

とここで、荒れ狂う暴風さながらの討ち合いの最中、銀時は勢いよく木刀を突き出しながら、先程から気になっていた事―――ランサーが自身の宝具“騎士団”を使用していない事を何気なく尋ねた。
事実、この闘いが始まってから、ランサーは自身の武器である戦斧のみで闘い、主力である炎の騎士達を一体も召喚していなかった。
もし、ランサーが“騎士団”を使用していれば、今の銀時であっても、その物量戦による数の暴力によって追い込まれ、当の昔に決着がついていた筈だ。
しかし、当のランサーはさも当然と言わんばかりに、突き出された木刀を戦斧で薙ぎ払いながら、“騎士団”を使わない事を宣言するように言った。
確かに、自身の宝具である“騎士団”を使えば、相棒にして宝具であるセイバーがいない銀時に勝利する事はそう難しい事ではないだろう。
だが、ランサーがあくまで望む勝利は、容易く得られるような虚しいモノではなく、互いに死力を尽くした闘いの果てに掴み取るモノだった。
故に、ランサーは、セイバー抜きで闘わんとする銀時と対等に闘う為に、“騎士団”を禁じ手として封印していた―――

「セイバーが戻ってくるまでは…ねっ!!」
「あぁ、本当に色々とどうも…っと!!」

―――銀時の“宝具”にして“仲間”であるセイバーが戻ってくるその時まで…!!
そんな数多くのランサーの気づかいに感謝の言葉を口にした銀時はすかさず、直撃すれば頭上から唐竹割りするほどの勢いで振り下ろされるランサーの戦斧を真っ向から受け止めてみせた。
“ホント油断も隙もねぇ…!!”―――この容赦のないランサーの攻撃に対し、銀時はそう心中で悪態を吐きながら攻撃に転じんと不規則な動きでランサーをかく乱せんとした。

“やはり…強い”

一方、ランサーは自身の固有スキルを最大限活用しながら、銀時の不規則な動きから繰り出される連続攻撃を次々と凌いでいった。
その最中、ランサーは改めて“護るべきモノ”の為に闘う銀時の強さを前に、思わず心中で感嘆の声を漏らした。
もはや、倉庫街で初めて刃を交えた時とは比べ物にならないのは、今の銀時の闘いぶりをその身を以て充分に実感できた。

“こんなにも全力でうち合ったのは、フレイムヘイズだった頃でも数えるほどしかいないわ”

かつて、ランサーはアラストールと契約して以降、当代最強のフレイムヘイズ“炎髪灼眼の討ち手”として数多くの強敵と幾度も死闘を繰り広げてきた。
―――胴の半ばまで裂けた口をもった勇猛な狼。
―――槍や剣、こん棒など様々な武器が突き刺さった硝子壺。
―――鋼鉄のような分厚い甲羅と鱗を体に纏った巨大な有翼竜。
―――宿敵として幾度も刃を交えながらも、その最期の期までランサーを愛し続けた、虹色に輝く剣を有する銀髪の剣士。
その誰もかれもが一騎当千の力を誇る猛者たちであり、ランサーが死力を尽くして闘っても直、紙一重の差で勝利を掴むほどの強敵達だった。
そして、今まさに、ランサーはかつて闘ってきた強敵達にも勝るとも劣らない銀髪の侍“坂田銀時”と熾烈な闘いを繰り広げていた。

“熱い…何もかもが熱く燃えている…!!”

そんな一瞬たりとも気を抜けぬ緊張の中で、ランサーはかつて、唯一無二の戦友と共に鋼鉄の有翼竜と銀髪の剣士と闘った時のように、自身の胸を焼き尽くすような熱い高揚感を伴った喜びを感じていた。
そもそも、ランサーにとって“闘う”こそ何よりの幸せであり、ケイネスの召喚に応じたのも、聖杯戦争に集った英霊達との死力を尽くした闘いを望んでの事だった。
だからこそ、ランサーは木刀一本で自分に迫ってくる銀時を睨み据え、迎え撃たんと戦斧を握りしめると共に心の底から断言できた。

「銀時…あなたこそこの聖杯戦争で命を燃やすに値する敵よ!!」
「こっちはそんなんで褒められたくねぇけどな、この戦闘馬鹿っ!!」

そして、ランサーは自分と互角に渡り合う銀時を称えるように“私は間違いなく心の底から幸せだ―――!!”と歓喜の声を張りあげて、斬撃と突きなど多種多様の攻撃を織り交ぜながら戦斧を繰り出した。
もし、この場にケイネスがいれば、ランサーの望みが叶った事への喜びとそんなランサーが認めた銀時への嫉妬という相反する感情の間でさぞかし愉快な顔芸を披露して身悶えしていただろう。
もっとも、あくまでマダオな銀時からすれば有難迷惑以外の何物でもなく、ランサーの戦闘狂ぶりを罵りながら、反撃せんと迎え撃つランサーの繰り出してきた攻撃を凌いだ。

「それでもこうしてお互いに戦える事は幸せじゃない」
「ったく、本当におっかねぇ女だな、どこぞの戦闘民族かよコノヤロー!!」

しかし、ランサーは銀時の罵声に怒りを表すどころか、必殺を狙った自分の攻撃を凌いでみせた銀時の姿に心の底から歓喜しながら同意を求めるように笑みを浮べていた。
もはや、筋金入りとしか言いようのないランサーの戦闘狂スマイルを前に、ややメタ的な悪態で返した銀時はよりにもよってこんな面倒すぎる相手と闘わねばならない事を心の底からうんざりするしかなかった。
この相対戦第三戦が始まって以降、銀時は幾度もランサーに攻撃を仕掛けたものの、ランサーの直感と心眼を前に動きを見切られ、自身の攻撃を全て凌がれていた。
無論、これは攘夷戦争の修羅場の数々を潜り抜けてきた銀時の力量が劣っているという訳ではない。
しかし、ランサーはそれ以上の数と質の修羅場を潜り抜けており、そこで培われた技量と経験が余りに桁違いすぎるのだ。
事実、宝具の能力を抜きに、単純な戦闘力だけ見れば、バーサーカーや覇道神達を除いて、ランサーは全サーヴァント中最強の一角と言っても過言ではなかった。
むしろ、本来なら圧倒的に実力が格上であるランサーを相手に、己の意志力と信念で以て互角に渡り合う銀時の奮闘を見事と称えるべきだろう。
もっとも、このまま、闘いが長引けば、ランサーとの地力の差が如実に表れ、銀時が徐々に劣勢に追い込まれるのは誰の目にも明らかだった。
そして、それはランサーと直接闘っている銀時がこの場に居る誰よりも理解していた。

「けどなぁ…こいつはどうだぁ…!!」
「…っ!?」

故に、この拮抗状態を打開して勝負を決めるべく、銀時は徐に深々と地面に木刀を突き立てた。
それと同時に、銀時はサーヴァントの力で底上げされた馬鹿力でもって瓦礫ごと地面を抉り飛ばすように巻き上げながら勢いよく振り抜いた。
まるで煙幕のように視界を覆う土煙の中で、散弾銃のように撒き散らされる無数の瓦礫を前に、ランサーは一瞬だけ面を食らってしまった。
だが、すぐさま、気を持ち直したランサーは襲い掛かる無数の瓦礫を戦斧で難なく捌きつつ―――

「これが本命みたいね!!」

―――瓦礫に混じって投げつけられたのか、眼前にまで迫ってきた木刀を軽く打ち払うように弾き飛ばした。
恐らく、土煙と瓦礫を目くらましにして、本命である木刀を隠して、ランサーを仕留めるというのが銀時の狙いだったのだろう。
だが、ランサーの直感と心眼の前ではその程度の小細工を看過するなど容易い事であり、難なく捌き切る事ができた。
だからこそ、ランサーが銀時の真の狙いに気付いたのは、丸腰になっているであろう銀時に襲い掛からんと戦斧を大きく振りかぶった直後だった。

「…残念!!」

次の瞬間、したり顔を浮べてながら固く握りしめた拳を振りかぶる銀時が土煙から飛び出し、戦斧を振りかぶらんとするランサーの懐にむかって襲い掛かってきた。
“やられた…!!”―――迫りくる銀時を前に、ランサーは直感と心眼を過信する余り、まんまと銀時の誘導に嵌められた自身の迂闊さを心中で舌打ちした。
恐らく、土煙と瓦礫を巻き上げたのは自身の姿を隠す為であり、ランサーが本命と思い込んでいた木刀の投擲はランサーの心眼と直感から真の本命である拳での肉弾戦を隠蔽するためのモノだったのだ。
そして、ランサーの戦斧の有効な間合いから外れた超接近戦に持ち込むのが銀時の真の狙い…!!
それに加えて、ランサーは銀時を仕留めんと戦斧を大きく振りかぶった為に、石突きによる迎撃が間に合わぬほどの隙が生じてしまっていた、
もはや、絶体絶命の窮地に追い込まれたランサーは迷うことなく戦斧を投げ捨て、迫りくる銀時の拳を―――

「―――想像力が足りないわよ!!」
「げえぇ!?」

―――左手に具現化させた炎の盾で咄嗟に受け止めてみせた。
一方、銀時は渾身の力を込めた攻撃を防がれただけでなく、ランサーの盾を渾身の力で殴りつけた事で全身が痺れるような衝撃に襲われた事で動きを止めてしまった。
無論、ランサーがこの絶好の機会を逃す筈も無く、身動きの取れない銀時を打ち倒すべく新たな武器を具現化させた。
ただし、それはこの聖杯戦争でランサーが得物として使っていた戦斧ではなかった。

「ちょ、剣だと!?」

代わりにランサーが炎で具現化していたのはランサーの身の丈ほどもある大剣だった。
一方、銀時はランサーが盾に続いて大剣を出現させたことに驚きながらも、未だに痺れの残る身体に無理強いさせて飛び退いた。
その直後、一切の容赦なく振り下ろされたランサーの大剣が飛び退かんとする銀時の鼻先を掠めていった。
文字通り、間一髪のところで窮地を脱した銀時であったが、もはや何でも有りのランサーの出鱈目ぶりにに抗議の声を上げずにはいられなかった。

「つうか、てめぇ、ランサーなのに何で盾とか剣を使ってんだよ!! ちゃんと槍を使えよ、槍を!!」
「そりゃ偏見ってもんよ、銀時」

だが、当のランサーは辛くも命拾いした銀時の悪運に呆れながらもさも当然だと言わんばかりの傲慢さで銀時の抗議をあっさり流した。
そもそも、マティルダ・サントメールは槍の遣い手であったから、ランサーとして召喚されたわけでは無い。
それと言うのも、ランサーの得物であった戦斧はあくまで宝具“騎士団”を応用して具現化させたモノであり、戦斧以外にも先程のように大剣や盾さえも具現化する事が可能なのだ。
あくまで、マティルダがランサーとして召喚されたのは、“騎士団”で具現化できる武器の中で戦斧も使いこなせる為にランサーのクラスに該当しただけでしかないのだ。
そして、宝具“騎士団”の持つ特性故に、マティルダは本来ならばアサシン以外の全てのクラスに当てはまるほどの武芸を極めた戦士なのだ!!

「なら、あらゆる武器を自在に使いこなせるランサーも当然ありよね!!」
「ふざけんなぁ―――!! んなもん詐欺だろうが!! どこの萌えゲーに見せかけたグロゲーでしたみたいな事してんだコノヤロー!!」

もはや、不条理としか言いようのないランサーの万能ぶりに対し、銀時は声を張りあげて抗議しつつも、すぐさま投げつけた木刀を拾い上げた。
そして、大剣を振りかざして迫ってくるランサーに臆することなく、銀時は木刀を振り上げて真っ向から迎え撃たんと駆け出した。
一見すれば、宝具の汎用性で優位に立つランサーがこの熾烈な攻防戦を制したように見えるが、ランサーの闘いを傍で見守るアラストールだけは気付いていた。

“今の銀時に勝つには、マティルダがここまで本気を出さねばならないという事か…”

すなわち、互いの宝具を抜きにすれば、坂田銀時というサーヴァントが、ランサーが本気を出さねば敗北しかねないほどの強敵に成りつつある事を―――!!
そして―――

「銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…銀時…」

―――この銀時とランサーの死闘の行く末を決定づける鍵はすぐ傍まで迫りつつあった。



第66話:相対戦=第三戦その4=


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