ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第67話:相対戦=第三戦その5=
作者:蓬莱   2015/07/22(水) 22:52公開   ID:.dsW6wyhJEM
もはや、一瞬の迷いや隙が致命的となる闘争と化していく中で、己の全てを出し尽くすように剣劇の調べを閃光と共に奏で合いながら死闘を演じる銀時とランサー。

「この状況…どう見ますか?」
「…単純な力量のみを見ればランサーが優勢だ」

その最中、この相対戦第三戦の立会人であるヴァレリアは徐に自分と同じく立会人としてこの場に居る第一天に、一進一退の攻防戦を繰り広げる銀時とランサーの一騎討ちの趨勢を問いかけた。
このヴァレリアの問い掛けに対し、第一天はしばし逡巡するように沈黙した後、中立の立場たる立会人として一切の私情を交える事無く、純粋な力比べならばランサーが優勢である事実のみを告げた。
―――バーサーカーや覇道神達を除けば、最強の一角となりうる程の図抜けた能力値。
―――“心眼”や“直感”など対人戦闘に特化した保有スキルの数々。
―――生前、人として、また、フレイムヘイズとして、強敵達との死闘に次ぐ死闘を闘い抜く中で磨かれ積み重ねてきた“技量”と“戦闘経験”。
これらの事から、如何に銀時が凡百のサーヴァントに勝る力量を持つといえども、生粋の戦士たるランサーの優位を打ち崩す事はおろか揺るがす事さえままならない…筈だった。

「では、何故、坂田さんは圧倒的に格上であるランサーと互角に闘えるのですか?」

だが、そうであるにもかかわらず、ヴァレリアの言うように、銀時は今も直ランサーを相手に真っ向から刃を交え続けていた。
何故、本来ならば敵うはずのないランサーを相手にしながらも、銀時は越えられる筈のない実力差を覆し、互角に闘っていられるのか?
しかし、このヴァレリアの疑問については、アインツベルンの森での闘いを経て、これまで間近で銀時の姿を見てきた第一天だからこそすぐに断言できた。

「…今の銀時は己が貫くべき信念だけで圧倒的に不利な状況を覆している」
「…」

“護るべき者の為に命を懸けて闘い抜く”―――この信念こそが坂田銀時がもっとも力を発揮し、今も直、実力的に格上である筈のランサーを相手にしながらも互角に渡り合える最大の理由だった。
そもそも、第四次聖杯戦争に召喚される以前までにも、銀時は自身の実力を上回るような強敵と幾度も刃を交えてきた。
―――圧倒的力により戦闘民族“夜兎”を統べる王“夜王鳳仙”
―――卓越した忍術を誇る元御庭番最強の凶手“蜘蛛手の地雷亜”
―――攘夷戦争序盤の激戦を潜り抜けた、かぶき町四天王の一人“泥水次郎長”
―――冷酷無比の暗殺組織天照院奈落の首領“朧”
―――かつての友であり、今は因縁の宿敵となった“高杉晋助”
その誰もが容易く勝てるような相手ではなく、銀時は幾度も傷つき、幾度も打ち倒され、幾度も死の一歩手前の窮地に立たされてきた。
だが、その度に、銀時は何度も死の淵から這い上がって闘い抜き、何度も満身創痍になりながらも勝利してきたのだ。
そう、護るべき者の為に闘うという“信念”によって支えられた。揺るがぬ“覚悟”と折れぬ“意志”によって…!!
故に、銀時は己が信念を武器にし、本来なら敵うはずのないランサーとの実力差を覆して闘っているのだ!!
この第一天の口にした答えに対し、ヴァレリアはただ無言のまま、以前の自分ならば理解しかねる埒外の理由を“なるほど…”と素直に受け止めて頷く事ができた。
なぜなら、ヴァレリアも嫌と言うほど見せつけ、自身の在り方さえも変えてしまうほどに思い知らされていた―――出会って間もない少女の願いを叶える為に、幾度打ちのめされようとも、己が信念と命を懸けて立ち向かった一人の侍の生き様を。

「故に、この拮抗状態を打ち破る鍵となるのは互いの持つ“宝具”になるな」

そして、第一天は以上の事を踏まえた上で、銀時とランサーが持つ “宝具”この相対戦第三戦の勝敗の行方を左右するモノと結論付けた。
―――固有スキル“戦闘続行”を持つランサー。
―――決して砕けぬ鋼の“信念”を持つ銀時。
もはや、両者を生半可な一撃で打ち倒す事など不可能なのは誰の目から見ても明らかだった。
そう、この銀時とランサーの闘いに決着を着けるとするならば、問答無用で相手を仕留める事ができる必殺の一撃…すなわち、“宝具”を於いて他になかった。

「ふむ…しかし、それならば坂田さんが些か不利ですね」
「いや、それについてはどうやら心配なさそうだ」

もっとも、ヴァレリアの言うように、“宝具”による決着が前提条件とするなら、ランサーに比べて銀時がやや不利であるのは否めなかった。
事実、ランサーは銀時と対等に闘いたいが故に宝具の使用を自ら封じているが、“騎士団”や“天道宮”の他にもう一つ、必殺の一撃と呼ぶにふさわしい、自身にとっての最強の切り札を有していた。
これに対し、銀時は自身の“宝具”と言うべき相棒であるセイバーが今も直行方知らずのままとなっており、ランサーを相手に宝具抜きで決着を着けねばならないという有様だった。
一応、銀時との対等な闘いを望んでいるのか、当のランサーは未だに“宝具”を使うつもりはないようだが、相手が一撃で勝負を決める“切り札”の有しているという事自体、銀時に相当な心理的プレッシャーを与えるには充分すぎるモノだった。
しかし、第一天はさして心配するそぶりも見せずに言葉を返しながら、アインツベルンの森へと目を向けて、ヤレヤレといった様子でこう呟いた。

「まったく、意地っ張りの馬鹿蜘蛛が」

そして、第一天は心中で“…来るのが遅いぞ”とぼやきつつ、歩みこそ拙く遅いものの、アインツベルン城を目指してやってくる一体のサーヴァント―――セイバーの気配を察知していた。
銀時が家出してから、セイバーが何処へ行方を晦ましていたのかは分からないが、相対戦第三戦の激闘の最中に姿を見せたところを見るに、銀時の窮地を無視できずに渋々ながらも出向いてきたというところだろう。
第一天としては、何かとそりの合わない相手ではあるが、劣勢を強いられる銀時への起死回生の一手としては申し分ない事については認めざるを得なかった。

「まぁ、どちらにせよ、この相対戦第三戦も一気に決着がつくだろう」

故に、穏やかに頬を緩めた第一天はセイバーがここに到着した時点で互いの宝具が解禁され、現在進行形で凄絶な死闘を繰り広げる銀時とランサーが雌雄を決する時だと考えていた。
無論、立会人として中立の立場を取りつつも、密かにその心中で銀時の勝利を信じつつ。
ついでに、遅れてやってきたセイバーを如何に弄り倒そうかアレコレ考えつつ。

「そうだと良いのですがね…」

しかし、第一天と同じく立会人であるヴァレリアは、事態を楽観視する第一天とは対照的に、予断を許さぬ状況であるかのように険しい顔つきのまま、拭いきれない一抹の不安を抱かずにはいられなかった。
なぜなら、この時、ヴァレリアは自身のリーディング能力で微かではあるが、それでも確かに感じ取っていたのだ。
―――両目から血の涙を流し続けながら、身を引き裂かれるような耐え難い苦痛に苛まれる悲痛な心の叫び声を。


第67話:相対戦=第三戦その5=


銀時とランサーによる闘いが天地を揺るがさんとする勢いで激しさを増す一方、ウェイバーとケイネスによる論戦もケイネスの問い掛けを合図にして静かに幕が上がっていた。
“落ち着け…”―――このケイネスの問い掛けに対し、ウェイバーはそう心中で緊張の余り高ぶりそうになる自身の心を宥め静めながら冷静さを保たんと努めた。
仮にも相手は“ロード”の称号を持つ事を許された、時計塔の名講師であるケイネスなのだ。
ほんの些細な粗や穴さえも見逃すことなく突いてくる以上、ウェイバーには一瞬たりとも気を抜く事は許されないのだ。
やがて、十分に気を静めたウェイバーは、ケイネスの問い掛けに答えるべく、まずは自分たちがバーサーカーの願いを叶える事を選んだ切欠を告げた。

「…まず、そもそもの始まりは、本当に波旬がバーサーカーとして召喚されたのかという疑問でした」
「…何?」

この時、如何にして自分の答えを切り返すのか待ち構えていたケイネスはウェイバーの言葉に自身の耳を疑い、一瞬だけ思考が追い付かないまま呆気に取られてしまった。
それほどまでに、ウェイバーの告げた言葉は、ケイネスだけでなく、バーサーカー討伐派の面々からすればまさに衝撃的なモノだった。
少なくとも、メルクリウスという名のコズミック変質者が見せたバーサーカーの過去とこれまでのバーサーカーの言動を見る限り、あのバーサーカーが第六天波旬本人である以外に有り得なかったし、ケイネス自身もそう思い込んでいた。
だからこそ、その前提を根幹から覆すようなウェイバーの言葉に、ケイネスは反論する事さえ忘れてしまうほど虚を突かれてしまった。
無論、この一縷の勝機へと繋がる千載一遇の好機を逃す筈も無く、ウェイバーはケイネスが反論するよりも先に畳み掛けるようにして、すかさず追撃の一手を打った。

「そもそも、あの時、水銀の蛇はあの映画を“第六天波旬”の過去だとは一言も言わなかった。そう、六陣営会談の時も、覇道神達の誰もが、アレを“バーサーカー”とは呼ばなかったのはおかしいとは思いませんか?」
「…」

このウェイバーの指摘に対し、ケイネスは怪訝そうな表情を浮かべながらも、考え込むように押し黙ったまま、これまでの事を改めて振り返った。
“君達にはバーサーカーの全てを体験してもらいたい”―――そう、ウェイバーの指摘するように、メルクリウスという名の変質者は極めてウザい口調でバーサーカーの過去を示唆していたが、アレが第六天波旬の過去であるとは一言も言っていなかった。
さして、六陣営会談の際、第一天や蓮ら覇道神達はバーサーカーの事を“第六天波旬”と呼んでいたが、一度たりとも“バーサーカー”と呼ぶことは無かった。
当初はさして気にも留めていなかったものの、改めて考えてみれば、如何に“真名”を知っているとはいえ、覇道神達はバーサーカーを“バーサーカー”と呼ぶことを度が過ぎるのではないかと思うほど徹底的に忌避していた。
にもかかわらず、あの時に限って、メルクリウスは“第六天波旬”ではなく、“バーサーカー”と口にしていたのは余りにも不自然だった。
まるで、“第六天波旬”と呼ばれているバーサーカーの他に、覇道神達にとって“バーサーカー”と呼ぶべき存在がいる事を密かに仄めかしているように…!!
だが、仮にそうであるとしても、ケイネスにはどうしても納得できない点が有った。

「ならば、何故、彼らは我々にそんな重大な事実を明かさなかったのだ…!? 少なくとも六陣営会談の時に言っていれば…!!」
「言わなかったんじゃないんです…言えなかったんです」

確かに、ケイネスの言うように、六陣営会談の際に、蓮達が“第六天波旬”と“バーサーカー”が別人である事を明かしていたならば、少なくとも擁護派と討伐派による対立は避けられたのかもしれない。
だが、ウェイバーは知っていた―――蓮達がその事実を明かさなかったのではなく、明かす事ができなかったのを。
なぜなら、“バーサーカー”によって召喚された蓮達には“バーサーカー”にとって不利となる情報を伝える事ができないという制約が課せられていたのだ。
事実、ラインハルトの居城であるヴェヴェルスブルク城内に於いて、本来なら無関係である筈の銀時達までもがこの制約を課されるほどの強制力を有していた。
故に、“バーサーカー”との繋がりの強い蓮達にも、銀時達以上のより強力な強制力を課せられているのは想像に難くなかった。
だからこそ、メルクリウスはこの厄介な制約を掻い潜るために、あのような無声映画という形を取る事で、少しでも銀時達に真実を伝えようとしていたのだ。
その結果、あの胸糞が悪くなるような映画を最後まで見続けた事で、銀時達はメルクリウスが伝えたかった、自分たちが知らなければならない真実を知る事ができた。

「そう、映画の最後に映し出されたあの映像こそ、あのバーサーカーが波旬本人ではない可能性を何よりも示していたんです…」
「…」

そして、ウェイバーは、一魔術師として自身の知らぬ真実を必死に受け止めんとするケイネスに向かって、これまで“第六天波旬”と思われていたバーサーカーの正体を解き明かす何よりの鍵であったことを確信しながら堂々と告げた。



ウェイバーがいよいよ事の核心を告げんとする一方、銀時とランサーの死闘は尽きることの無い刃と刃による剣劇を奏でながら、より一層激しさを増していた。

「ぉおおおおお―――!!」
「はぁああああああ―――!!」

もはや、万を越えんとするぶつかり合いの中で、銀時とランサーは傷だらけの身体を奮い立たせるように気迫を込めた掛け声と共に互いに連撃を繰り出した。
一撃目―――勢いよく振り下ろされた木刀を展開した盾で何とか受け止め。
二撃目―――身体を横に逸らして、突き出されたランサーの大剣を薄皮一枚で躱し。
三撃目―――即座に木刀を受け止めた盾をかち上げて銀時の手からはたき落とし。
四撃目―――負けじとランサーの手にした大剣を蹴り上げて宙に舞わせ。
さらに、ランサーが次に繰り出されんとする銀時の仕掛けを捉えんとした直後―――

「づぉらぁああああ!!」
「がぁっ―――!!」

―――銀時は上体を反らしながらランサーの肩をがっしりと離さぬように鷲掴みしたまま、身動きの取れないランサーの額に目掛けて、上体を戻す反動も上乗せした頭突きを勢いよく叩き込んだ。
次の瞬間、銀時の頭突きを真面に喰らったランサーは額の骨に罅が入るような音が聞こえると共に、脳が激しく揺さぶられるような激しい衝撃と意識を失いかねないほどの耐え難い激痛によって苦悶の声を思わず漏らしてしまった。
無論、女は女でも戦闘狂の戦乙女であるランサーを相手に容赦する必要などある筈も無く、銀時は追撃の頭突きを再度叩き込まんとした。
だが、仮にも歴戦の戦士である以上、ランサーも二度も同じ攻撃を喰らってやるほど甘い相手ではなく、即座に反撃すべく上体を一気に反らした。

「〜〜〜―――っ!!」
「いっ―――!!」

次の瞬間、ほぼ同じタイミングで繰り出された銀時とランサーの頭突きが大気を揺るがすような衝撃とと共に真っ向から激しくぶつかり合った。
それと同時に、互いに渾身の力を込めた相手の頭突きをまともに喰らった銀時とランサーの額からまるで間欠泉のように鮮血が勢いよく噴き出し、互いの身体を紅く染め上げた。
だが、血まみれとなった銀時もランサーも先程とは比べ物にならない脳の奥底まで染み込むような痛みと衝撃に思わず怯みつつも、何とか間合いを取るように飛び退いた。

「こんだけやって駄目って…どんだけ化け物なんだよ、てめぇは…」
「その化け物相手に互角に渡り合えるあなたも充分すぎるほど化け物よ」

そして、互いに大きく距離を取った銀時とランサーは互いに軽口を叩きながら、視界を遮るかのように額から滴り落ちる血を拭いながら未だに戦意が尽きる事を知らぬ好敵手の姿を捉えた。
とその最中、ランサーは自身の血で白髪を紅く染め上げた銀時を捉える自身の視覚が何故か上下に揺れている事に気付いた。

“何っ…?”

一瞬、突然の異常に戸惑うランサーであったが、自分が肩で動きをしている事に気付いた。
その途端に、普段は薄布程度にしか感じない鎧の重みが、全身に鉛を流し込むような重圧感と共に、ランサーの身体全体に圧し掛かるように襲い掛かってきた。
すぐさま、体勢を立て直そうとするランサーであったが、息を整えようとも、力を満たそうにも身体がランサーの意思について来なかった。
突然起こった異常事態を前に、ランサーは愕然としながら―――

“…本当に何て相手なの、ははは”

―――思わず笑ってしまった。
ここに於いて、ランサーは、かつて、“両翼”との闘いの時と同じく、この“炎髪灼眼の討ち手”が息を切らして、疲労しているという事を改めて実感したのだ。

「流石ね、銀時。私とここまで真っ向から討ちあえるなんて…」
「そりゃどうも…なら、少しは手を抜いても良いんじゃねぇか」

だからであろう、ランサーが口にしたのは、そんな疲労を実感させるほど互角に渡り合う銀時への掛け値なしの称賛の言葉だった。
これこそ、これこそまさに、ランサーが聖杯戦争で求めていた、命を燃やすに値する敵…!!
今、ランサーは自身の願いが叶った事を心の底から実感していた。
もっとも、銀時も、ランサーと同様に肩で息をするほど疲労しており、称賛の言葉を受け止めつつも、“ちょっと休もうか?”とそれとなく持ちかけた。

「私がそれを許すように見える?」
「…だと思ったよ、ちくしょう!!」

しかし、疲労をしているにもかかわらず、凄絶な笑みを浮べたランサーは銀時に問いかけると同時に顕現させた炎から大剣を展開した。
闘うことに喜びを見出すランサーからすれば、如何に疲労しているといえど、この聖杯戦争で巡り合えた、命を燃やすに値する敵を前に手を抜くなど有り得ない事だった。
―――死力を尽くしてしか勝てぬなら、死力を尽くすだけ。
―――残った全ての力を振り絞って、今を燃やせ。
―――自身の奥底から湧いてくる力を、炎を、刃のように研ぎ澄ませながら…!!
もはや、疲労さえどこ吹く風というランサーの戦闘狂ぶりを前に、銀時は悪態を吐きつつ、地面に突き刺さった木刀を引き抜いた。
そして、銀時とランサーは先程までの疲労を振り払うかのように闘志を滾らせながら、互いに決着を着けんと再び刃の調べを奏でながらぶつかり合った。




「これほどまでとは…」
「すごい…」

銀時とランサーが死闘を繰り広げる中、闘いの行方を見守っていたセラとリズは初めて目の当たりにしたサーヴァント同士の闘いにただ圧倒されるしかなかった。
一応、セラとリズは、冬木市に訪れる道中の中で、桂から友人である銀時についての事を大方聞かされていた―――おもに銀時が如何にマダオであるかについてを。
だからこそ、当初、セラとリズは誰もが一目で強者と分かるランサーを相手に、誰でも一目でマダオと分かる銀時が真っ当に闘えるのか不安を抱かずにはいられなかった、
だが、血の赤色が入り混じった白髪を振り乱しながら、ランサーと互角の死闘を繰り広げる銀時の姿を前に、セラとリズは自分たちの認識が誤っていた事を理解した。

「銀時…」
「あのランサーを相手に互角に闘うなんて凄いわね、あなたの“仲間”も」

一方、アイリスフィールも自身が傷つくのも厭わず、ランサーを相手に奮闘する銀時の姿をジッと見守っていた。
とその最中、心底楽しげに闘うランサーの姿を見守っていたソラウは、ここまでランサーと互角に渡り合う銀時を称賛するかのように、アイリスフィールに声をかけた。
だが、何気なくソラウの口にした言葉―――“仲間”を聞いた瞬間、アイリスフィールは自身の心を抉るかのような鋭い痛みを感じずにはいられなかった。

「…違うわ」

そして、アイリスフィールはそう振り絞るように呟きながら、今も自身の心中を苛む痛みの正体が何であるかを悟った。
―――あの時、銀時は、一度は袂を別った自分たちの元に戻ってくることを約束してくれた。
―――何一つ恨み言すら吐くことなく、いつもと変わらぬ笑みを浮べて。
―――そう心の何処かで銀時を信じ切れずにただ縋り付くしかなかった自分などに。
―――果たして、そんな今の自分に本当に“仲間”と呼んでもらう資格はあるのか、否、有る訳がない…!!

「今の私にそんな資格なんて絶対にない…もう二度と」
「…色々と複雑な事情があるみたいね」

だからこそ、アイリスフィールはどこまでも自分たちを“仲間”だと思ってくれた銀時を信じ切れなかった自分に対する後ろめたい罪悪感を抱かずにはいられなかった。
そんなネガティブな感情に押し潰されるアイリスフィールを前に、事情を知らないソラウもアイリスフィールと銀時の間で何があったのかある程度察する事ができた。
そして、その上で、ソラウはアイリスフィールが未だに気付いていない、心の奥底でくすぶっている感情を察しつつもはっきりと問いかけた―――

「けど、本気でそう思っているの?」

―――果たして、アイリスフィールが本当に許せないのは、銀時を信じ切れなかった自分なのかを…!!



一方、銀時とランサーが激闘を繰り広げる相対戦第三戦を中心に、数多くの因縁に決着を迎えようとする中、セイバーとは別に、渦中であるアインツベルン城を目指す一行がいた。

「さて、そろそろ決着がついている頃だと思うが…銀時殿とランサー殿は大丈夫だろうか」
「まったく…相も変わらず自分の怪我より他人の心配か…」

初戦の闘いの激しさを物語るように満身創痍の身体でありながら、銀時とランサーの身を案じるライダー。
そんなお人よしのライダーに呆れながらも、真島からの頼みもあって傷ついたライダーを背負いながら足代わりとなるキャスター。

「実際のところはどうなのですか、アサシン様?」
「一進一退だな。まぁ、お互いに宝具抜きだから中々決着がつけらないようだが」

重力操作でライダーを支えてキャスターの手助けをしつつ、アインツベルン城の状況を尋ねるホライゾン。
鬼女に折檻されるマスターを見捨て、アインツベルン城へ先行して向かわせた“オール・アロング・ウォッチタワー”で状況を把握するアサシン。

「んじゃ、俺らも全部終わっちまう前に急がねえとな」
「然り…全てが手遅れになる前に少々急ぐ必要が有るようだ」

急きょ、銀時に頼まれて、機関部の三科大達が今日までに仕上げてくれたセイバー専用の“宝具”を担いで先を急ぐアーチャー。
まるで、先の未来を見通しているかのような意味深でウザい言葉を呟く“水銀の蛇”ことメルクリウス。
そして、メルクリウスを除いた一同は知る由もなかった―――一足先に到着した乱入者により相対戦第三戦がさらなる混沌に叩き込まれている事など。

 


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:17k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.