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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第70話:相対戦=第三戦その8=
作者:蓬莱   2016/01/31(日) 23:24公開   ID:.dsW6wyhJEM
“私が銀時の左腕になる”―――ランサーがそう高らかに銀時との共闘を告げた瞬間、一同は思わず言葉を失うほど呆気に取られてしまった。
もっとも、先程まで繰り広げられていた銀時とランサーの死闘を間近で目の当たりにすれば、ランサーの言葉を何かの冗談かと思ってしまうのも無理もない事だった。
加えて、ランサーが属する討伐派の立場からすれば、銀時とセイバーの同士討ちは労せずして相対戦の勝利を勝ち取る絶好の好機であり、ランサーが銀時の助けに入るメリットも理由など何処にもないのだ。
にもかかわらず、自身にとって益のない助太刀に入らんとするランサーの行動に対し、その場にいた誰もが困惑するのは無理もない話だった―――ランサーと二度に渡って刃を交えた銀時とランサーの願いを知るソラウを除いてはだが。
何はともあれ、先程までの銀時とセイバーの闘いの状況を鑑みれば、ランサーとの共闘は銀時にとってこの窮地を脱する事ができる唯一の手段だった。

「おいおい…テメェ、勝手に決めるんじゃねぇよ…」

もっとも、そんなランサーの共闘の申し出に真っ先に異を唱えたのも他ならぬ銀時自身だったが。
確かに、宝具抜きのハンデ付きとはいえ、真っ向から自分と互角に渡り合えるランサーと共闘すれば、仕手のなしのセイバー相手に負ける事など那由多に一つもないだろう。
しかし、銀時はランサーとの共闘が最善であると頭で分かってはいるものの、それでもランサーの手を借りる訳にはいかなかった。
理由や経緯はどうあれ、銀時が切嗣達と袂を別った事を切っ掛けに、令呪を使わせてしまうまで切嗣を追い詰めた挙句、セイバーに過去の罪の再現を強いてしまったのだだ。
故に、銀時としては自分が解決しなければならない問題に無関係なランサーを巻き込んでまで手助けしてもらう訳にはいかないと思っていた。

「だから、何の関係もねぇオメェらが―――はいはい、待った待った―――いっぅ!?」

だが、そんな銀時の思いとは裏腹に、ランサーはアラストールに負けず劣らずな銀時の頑固さに呆れた口調でぼやきながら徐に銀時の左肩を引き留めるように軽く掴んだ。
ちなみに、この時、ランサーがうっかりセイバーに傷つけられた左肩を掴んでしまった為に、銀時が思わず身体が硬直してしまうほどの激痛に襲われた上に、左肩の傷口が開いてしまったのはまた別の話である。

「て、てめぇ…な、何を…」
「そっちこそ、何一人だけで勝手に何でもかんでも背負い込むつもりなのよ…」

しかし、恨みがましそうに涙目で睨みつけようとした銀時であったが、当のランサーは険しい表情を浮かべながら、まるで訴えかけるように紅蓮の双眸で真っ直ぐに自分を見据えていた。
―――自分とは無関係だから手出し無用?
―――自分のケジメは自分で片を付けるのが筋?
―――ふざけんな、人を勝手に部外者扱いにするんじゃないわよ…!!
―――少しは自分がどう思われているのか、どれだけ思われているのか考えなさいよ、銀時!!
確かに、銀時は護るべき仲間や友を護り通す時にこそ、もっとも真価を発揮する情の厚い男だ。
だが、それはともすれば、仲間や友が傷つくことを恐れるあまり、何もかも自分独りで解決しようとする悪癖にもなり得るのだ。
故に、あの倉庫街の一戦にて命を救われたモノとして、ランサーは何もかも一人で背負いこもうとする銀時に一言言わずにはいられなかった―――かつて、自分も無二の友人を侮辱し傷つけてしまった事を思い返しながら。

「せめて、こんな時ぐらい、あなたの背負っている荷物の一つぐらい、私にも少しぐらい背負わせなさい」
“我が愛した女が認めているのだ。ならば、少しは我らの事も認めてもはいいのではないか?”
「…」

“だから、私達(我ら)を信じなさいよ(ろ)、銀時”―――そう訴えるように告げるランサーとアラストールを前に、銀時はただ何も言えない中で、自分の酷い思い違いに気が付いた。
そう、無関係ではなかったのである。
例え、血で血を洗うかのような殺し合いを繰り広げようとも、ランサーもといマティルダ・サントメールにとって坂田銀時は闘わずにはいられない“好敵手”であると同時に、紛れもなく信に値する“戦友”に他ならなかった。
だからこそ、ランサーは倉庫街で救われた恩を返す事も含めて、“戦友”である銀時の窮地を救わんと立ち上がってくれたのだ。
ここに至って、銀時は自分の意固地さで図らずもランサーの思いを侮辱してしまった事を悟り、罰悪そうにしながらもやれやれと頭を振った。

「たくっ、どうして、新八といい、神楽といい…俺の周りには馬鹿ばっかりしかいねぇんだろうな」
「仕方ないじゃない。だって、そういう馬鹿に好かれるくらい大馬鹿なんだから」

そして、お互いに悪態混じりの軽口を叩いた銀時とランサーは己の得物を握り締めた拳を相手に応じるように軽くつき合せた。
それと同時に、銀時とランサーは改めて、事の成り行きを見守っていたのか律儀に待っていてくれたセイバーの方へ向き直った瞬間―――

「「じゃ、始めようぜ(かしら)、セイバー…!!」」

―――決戦の火蓋を切る開戦の号砲を高らかに咆えながら、切嗣の憎悪によって凶刃と化したセイバーへと駆け出した。



第70話:相対戦=第三戦その8=



一方、セイバーも自身の意思に関係なく、切嗣の下した命令を果たすべく、自分に立ち向かってくる銀時とランサーを迎え撃たんとしていた。

「あ、ぁあああああああああああああああああああああああああああ―――っ!!」

と次の瞬間、それま不気味なほど沈黙を保っていたセイバーは襲い掛かってくる銀時とランサーの両名に獣の如き咆哮の叫びを叩き付けると同時に、“磁気・加速”による加速を上乗せして標的である銀時へと斬り込んでいった。
しかし、それは守りに回る事で相手に主導権を握られる事を避ける為でも、臆する自分自身を奮い立たせる為でもなかった。
それまで、セイバーは自身のクラス別能力である“対魔力”によって絶対命令権である令呪の強制力に辛うじて抗い続けていた。
だが、ここに至って、それまで多大な負荷と摩耗を強いられてきたセイバーの精神が遂に限界を迎えてしまったのだ。
もはや、今のセイバーは考える事はおろか、己の意識さえ把握できないほど曖昧なまま、ただ切嗣の命令を実行するだけのバーサーカーと化していた。
しかし、この直後、銀時とランサーは理性を失った事でセイバーが大幅に弱体した訳ではない事を存分に思い知ることになった。

「あああああああああああぁ!!」
「うぉおおおおおおおおおぉ!!」
「はぁあああああああああぁ!!」

もはや、獣の咆哮を思わせる叫びと共に一刀両断で斬り捨てんと肉薄してくるセイバー。
これに対し、銀時とランサーは相手の勢いに飲まれまいと重ねるように気迫の雄叫びを上げて、互いの得物で襲い掛かるセイバーの太刀を受け止めんとした。
天から叩き落される雷を思わせる轟音を響かせて激しくぶつかり合う木刀と大剣と太刀。
そして、銀時とランサー対セイバーという二対一の鍔迫り合いによる刹那の拮抗の後に―――

「んな…!?」
「えっ…!?」
「―――、―――っ!!」

―――セイバーの太刀に押し切られた銀時とランサーは吹き荒れる嵐に翻弄される木の葉のように勢いよく弾き飛ばされていた。
“嘘だろぉ…!?”―――このセイバーの強烈な一撃を前に、銀時は体勢を立て直す事も忘れそうになるほど、思わずそう心中で驚きと困惑の声を上げずにはいられなかった。
確かに、セイバーの“磁気・加速”による勢いの上乗せに加え、銀時とランサーが先の闘いで互いに消耗していた事や銀時の左腕が使えない事など数多くのハンデを背負わされているのは事実だ。
しかし、それらを加えたとしても、本来なら仕手抜きのセイバーを相手に銀時とランサーが二人掛かりであっさりと力負けするなどあり得ない筈だった。
もっとも、今の銀時にそんな事を考える時間の余裕など刹那の刻さえ与えられなかった。

「―――――――――――――――っ!!」
「このっ!!」

なぜなら、この時、既に“辰気・加速”による突撃で攻めてきたセイバーの太刀が体勢を立て直せずにいる銀時の目前にまで迫ってきていたのだ。
すぐさま、銀時はセイバーの太刀を振り払うように捌きつつ、中庭の壁に激突する直前で体勢を無理やり建て直した。
続けて、銀時は更なるセイバーの追撃を振り切るべく地面を走るかのように壁走りして駆け出した。
しかし、セイバーもそれを許すことなく、まるで影のように銀時から離れずに下方から並走しながら次々と追撃を仕掛けてきた。

「ぉおおおおおおおおおお!!」
「――――――――――っ!!」

即座に銀時も繰り出されてくるセイバーの太刀を防ぐべく、得物である木刀を振るいながら激しく打ち合った。
先程と同じく、一撃一撃が重いセイバーの太刀を前に、銀時は右腕一本で凌いでいくものの、反撃もままならない防戦一方へと追い込まれていた。
この劣勢の中で、銀時は何とか反撃に転じられまいか試みようとしたが、迂闊に守りの手を緩めれば即座に両断されかねない状況ではそれさえも至難の業だった。
やがて、何度か相討ちが続ける中で、しつこく迫ってくるセイバーを振り切るべく、さらに速く駆けださんとした銀時はふとある違和感に気付いた。

「え…?」

それまで、地面を掛けるように踏みしめていた壁の感触が突如として無くなっていたのだ。
“まさか…”―――そう思いつつ、冷や汗を垂れ流した銀時が恐る恐る足下に目を向けた。
そして、銀時が目の当たりにしてのは、宙に体を投げ出されたまま、虚しく空を蹴り出すようにしてばたつかせる自身の両脚だった。

「やべぇ…!!」
「―――っ!!」

そう、いつの間にか、銀時はセイバーとの攻防戦で上へ上へと押し上げられ、知らず知らずの内に足場のない空中へと追い込まれていたのだ。
さすがにこうなってしまっては、如何に銀時といえども、空中疾走のような妙技を有していない以上、まな板(ルサルカ)の上の魚も同然だった。
無論、理性の消失したセイバーがそこまで計算していたとは考えられないが、剱冑として刻み込まれた戦闘の記憶がそのような行動を取らせたのだろう。
どちらにせよ、この最大の好機を見逃す筈も無く、セイバーは空中で身動きの取れなくなった銀時に更なる追撃を仕掛けるべく己の領域たる空へと舞い上がらんとしていた。

「“騎士団”…!!」
「ぎぃいいいいいいいいっ!!」

しかし、銀時を追って上空へと騎航せんとした時、炎で形作られた軍馬に騎乗したランサーが窮地に陥った銀時の元へと駆けつけんとしていた。
即座にランサーは敵の枕を潰すべく、宝具“騎士団”を発動させていた。
次の瞬間、ランサーの顕現した炎の騎士達は、ランサーが宙に投げ出された銀時を助ける間、飛び立たんとするセイバーの行く手を阻むかのように次々と密集して、巨大な壁を思わせる槍衾を形作りながら突撃してきた。
この思わぬ横槍に対し、苛立ちを含んだ声で唸るセイバーであったが、本能的に強行突破による銀時への追撃を断念し、“辰気・加速”による高速移動の後退で自分の行く手を阻むかのように立ち塞がる槍隊の穂先を回避しつつ上空と上昇するしかなかった。

「ちっ、どうなっていやがるんだ…!!」

その甲斐あってか、何とかランサーの援護のおかげでセイバーの追撃を免れた銀時であったが、理性の喪失したセイバーの異常な強さに困惑の色を隠せないでいた。
確かに、セイバーのクラスを冠するサーヴァントは聖杯戦争に於いて最優のサーヴァントとの位置付けにある。
無論、今回の聖杯戦争に召喚されたセイバーもその例に漏れずに極めて優秀な能力値を有するサーヴァントだった―――バーサーカーのような一部例外を除いてだが。
しかし、セイバーがその力を最大限に発揮できるのは銀時という仕手が必要不可欠なのだ。
故に、本来ならば、先程のように仕手抜きのセイバーが銀時とランサーを相手に互角以上に闘うなどあり得ない事だった。

“マティルダよ…まさか…”
「えぇ…間違いなく、令呪の効果ね」

そんな銀時の疑問に答えたのは、聖杯によって与えられた知識からセイバーの発揮した異常な力の正体が“令呪”である事に気付いたランサーとアラストールだった。
先も述べたように、“令呪”にはサーヴァントに本来以上の力を引き出させる事とサーヴァントに自身の命令を強制的に従わせる事の二つである。
今回の場合、後者の目的で、切嗣はセイバーに銀時を殺すように“令呪”を行使した。
それでも、セイバーは対魔力スキルと意志力で“令呪”に抗い続けていたが、理性を失ってしまった事でそのタガが完全に外れてしまったのだ。
これにより、セイバーは“銀時の殺害”というマスターの至上命令を遂行すべく、銀時とランサーの兵二人を相手にした上、仕手抜きというハンデを感じさせないほど己の力を限界以上まで引き出しているのだ。
そう、銀時を殺す為ならば、己の現界する魔力さえも使い切る事を厭わずに…!!
そして、事態の深刻さを把握したランサーは分かり切った“答え”が返って来ることを確信しながらも、確認するかのように銀時にこの後の事について問いかけた。

「で、どうするの、銀時? 令呪で命じられている以上、もうセイバーを倒すしか止める方法なんてないわよ」
「冗談でもくだらねぇ事言ってんじゃねぇよ、ランサーのねぇちゃん」

“あぁ、やっぱりか…”―――ランサーは自分が提示した冷酷な最善案をバッサリと斬り捨てた銀時を前にそう内心で思わず嘆息するようにぼやいた。
先程も言ったように、絶対命令権である“令呪”に束縛されている以上、セイバーを討ち倒してしまうのが銀時達にとって最善にして唯一の方法ではあるのだ。
確かに、先程のセイバーが見せた力は驚異的なモノではあるが、ランサーと銀時の二人掛かりで戦えばまったく太刀打ちできない訳ではない。
無論、銀時とランサーがセイバーを本気で殺すつもりで闘わなければならないという前提条件が必須ではあるのだが。
しかし、それと同時に、ランサーは否応なしに分かっていた。

「…そんな先生との約束を破るような後味の悪ぃ事なんざ選べるかよ」

例え、何があろうとも、銀時が仲間であるセイバーを断じて見捨てない事を…!!
―――如何なる困難にぶつかろうと、一旦護ると決めたモノは絶対に護り通す。
―――如何なる窮地に陥ろうとも、一度救うと心に誓ったモノは必ず救い出す。
―――そう、例え、己の身が指先一本しか動かせない程の満身創痍の身体に成り果てようが、銀時はそれでも無理矢理にでも立ち上がってくるだろう。
―――かつて、松陽と交わした“仲間を護る”という約束を胸に抱き、己が信念を貫き通すために…!!
だからこそ、どれだけ追い詰められようとも、どれだけ傷つけられようとも諦める事無く、銀時は過去の罪業と切嗣の悪意に縛られセイバーを救う為に命懸けで闘い続けているのだ。
そして、そんな銀時だからこそ―――

「…助けたくなるのよね」
“あぁ…そうだな、マティルダよ”

―――ランサーもアラストールも同じく“仲間”としてセイバーを救わんとする銀時の為に全力で力を貸さずにはいられなくなっていた。
それほどまでに、己の“信念”を武器にセイバーを救わんと奮闘する銀時の姿は、ランサーやアラストールの心を惹きつけてやまなかった。
それは、アーチャーやライダー、ラインハルトのような他者を狂奔させるカリスマとは全く異なりながらも、知らず知らずの内に人々を惹きつけてしまう在り方。
きっと、以前、とある一件で知り合った桂や近藤も、そんな銀時の在り方に惹かれて、共に様々な困難と死線を潜り抜けながら闘っていったのだろう。
そう、単純に敵を殺すよりもはるかに困難となる闘いに挑まんとする銀時にとことん付き合う事を決めたランサーのように…!!

「なら、アレを殺さないように全力で止めるわよ。間違っても中途半端に手加減して殺されるなんて許さないわよ」
「そりゃ、こっちの台詞だっての。つうか、間違っても手加減できなくて殺すんじゃねぇぞ」

やがて、地面に降り立った直後、互いに釘を刺すように軽口を叩き合ったランサーと銀時はセイバーを救う為に闘うべく、己の得物を手に取って互いに庇い合うように構えた。
もはや、敵味方という些細な垣根を越えて並び立った両雄を前にし、この闘いの行く末を見守っていた一同の誰もが固唾を呑んで見守るしかなかった。

「ぎあぁああああああああああああああああああああああああああああああ―――!!」

そして、それと同時に、セイバーは狂った獣の如き咆哮を叫びながら、標的である銀時とランサーに向かって斬り込むように太刀を振りかざして上空から襲い掛かった。
傍目から見れば、今のセイバーの姿は狂乱に駆られての暴走と言っても過言ではなかった。
もっとも、実際にセイバーと対峙した銀時とランサーの眼には、自分の居場所を取り返そうと泣き喚く幼子にしか見えなかったが。
無論、だからと言って、今のセイバーを相手に手を抜いて勝てる程、容易い相手ではない事は百も承知だった。
先程、斬り結んだ時のように、単純な力比べならば、理性を失った事で令呪の効果が最大限発揮されたセイバーの方が圧倒的に有利なのは明白。
だが、その代償として、暴走状態のセイバーは自身を省みないほど、通常よりも一層激しい魔力の消耗を強いられていた。
故に、この場に於いては、徹底的に攻撃を躱しつつ、セイバーが現界できなくなるまで魔力が枯渇するように立ち回るのが最善の常道。
だが、今の銀時とランサーがともすればセイバーからの逃げの一手ともいえる受け身の最善を選ぶだろうかと問われれば、答えは“否”であろう。

「「…それがどうした(てんだよ)!!」」

故に、まるで合わせたかのように声を重ねて啖呵を切った銀時とランサーは先程の雪辱を晴らすべく、襲い掛かるセイバーの太刀にむかって互いの得物を渾身の力で振り出していた。
銀時は思った―――救けを求めるセイバーから逃げる訳にはいかないと。
ランサーは思った―――勝機をつかむにはセイバーの勢いに飲まれるわけにはいかないと。
そして、銀時とランサーは何より思った―――いつまでも負けっぱなしは性に合わないと…!!
次の瞬間、先程の打ち合いを再現したかのように、切嗣の憎悪を乗せたセイバーの太刀と己の想いと意地を込めた銀時の木刀とランサーの大剣は、アインツベルン城を中心にアインツベルンの森全体を震わせる轟音と衝撃をまき散らしながら激しくぶつかり合った。
もっとも、唯一つ異なっていたのは―――

「「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
「…っ!?」

―――銀時とランサーの気迫を上乗せした一撃によってアインツベルン城の壁にめり込むほど叩き飛ばされたのがセイバーである事だった。
もし、この場に切嗣がいたならば、思わぬ反撃を喰らってしまったセイバーと同じく、“馬鹿なっ!!”という叫び声を口にしてしまうほど驚愕していただろう。
―――令呪による身体能力の強化。
―――理性消失に伴う暴走寸前の超過駆動。
―――銀時の左腕の負傷というハンデ。
―――さらに高高度からの加速による力の上乗せ。
以上の要素と初撃での太刀合いの結果を鑑みれば、セイバーが銀時とランサーに押し負けるなど絶対にあり得ない事だった。
ならば、なぜ、銀時とランサーが一度は敢え無く押し切られたセイバーの太刀に打ち勝つ事ができたのか?
恐らく、サーヴァントを自身の目的を果たす為の手段とであり道具としてしか見ず、その“武”を悪しき暴力という一面としか捉えられない切嗣には一生理解できないだろう。

「どんだけ力を底上げしようがなぁ、んな腐りきった根性で振るう太刀で俺を殺そうなんざ百年早ぇんだよ、切嗣っ…!!」

もっとも、ここには居ないがこちらの様子を覗き見ているであろう切嗣にむけて啖呵を切る銀時からすればセイバーに打ち勝てたのは当然の結果だった。
確かに、傍目から見れば、令呪の効果と理性の消失によって極限まで引き上げられたセイバーの圧倒的な武力は脅威なのかもしれない。
だが、如何に圧倒的な“力”で太刀を振るおうとも、そこに“心”がなければ鈍刀にすぎないのだ。
今のセイバーは令呪の強制力によって“心”を喪ったまま、ただ“銀時を殺せ”という切嗣の命令を遂行するだけ武器でしかなかった。

「そもそも、私や銀時を相手に中身が張子の虎で勝てるなんて思い上りも甚だしいわよ…!!」

だからこそ、ランサーはそんな意志を持たない凶器と成り果てたセイバーを通して、悪辣な方法で銀時を殺さんとした切嗣を糾弾するように激しく一喝した。
確かに、初撃の太刀合いでは、銀時とランサーは強化されたセイバーの圧倒的な力に押し切られてしまった。
だが、今の銀時とランサーは“セイバーを救う”という意志と覚悟を抱いてこの闘いに挑まんとしているのだ。
故に、そんな明確な意志と覚悟を持った“人”である銀時とランサーが、意志も覚悟もない“怪物”と成り果てたセイバーに負ける道理など何処にもなかった。

「「…侍(フレイムヘイズ)を無礼るんじゃねぇ(なっ)!!」」

そして、そう言い放つと同時に、銀時とランサーは意志無き凶器と化したセイバーを救うべく、めり込んだ壁から抜け出したセイバーに向かって雄々しく駆け出した―――っ!!


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