『他人のことを思って行動する』これはよく言われている言葉だ。
しかし、自分のことが何もわからずに他人に親切するのは少しおかしい気がする。
自分の置かれている境遇に合わない親切をするのはかえって逆効果の時がある。
例えば、ヤクザが幼児を抱き抱えていたら助けたくなる。しかし本当はこのヤクザはヤクザではなく普通の一般人だ。
このように性格、職業が第一印象で決まってしまう世の中だ。
俺はこれに反している。今、俺は戦争兵器の状態で一人の少女に親切してしまっている。
誰も止める人などいない。
「蝉島さん、蝉島さん。意外と部屋きれいにしてるんですね」
「こう見えても掃除はきちんとしているんだ。掃除は・・・・・・」
あー料理も出来ればな。
俺が口ごもっていると何かを察したのか未琴はキッチンの横にある冷蔵庫を開ける。
「弁当ばかりですね、こんなのばかり食べてたら健康に悪いですよ」
「やっぱりそうだよな、俺も感じてはいたんだが」
「だが?」
俺は親指と人差し指の先端をくっつけて円を作る。
「今から食材買ってきて作りましょうか?」
「なんてありがたき幸せ」
ということで俺たちは家を出た。
「何か食べたいものはありますか?」
「俺でも作れそうな簡単なやつを」
未琴は俺の顔を二、三秒凝視する。そしてクスクスと微笑する。なんか変なことでも言ったか?
微笑が気になったまま俺たちはスーパーにたどり着いた。
「それで何を買うんだ」
「安いものを買いますよ」
これでほんとにお嬢様なのだろうかと目を疑ってしまう。
未琴は次々とカートに入れていく。そんなに買ってどうするのだろうか。
あっという間にカートはまばらなく埋まってしまった。
「全部作るのかその量」
「こんなに作っても食べきれないでしょ」
まぁ確かにその通りなんだが。
「三日ほど作りにいくので問題ありませんよ」
なぜにこんなに大人びているのだろうか。俺よりもしっかりしてるし。
未琴はまばらなく入っているカートをレジに持っていく。重そうだな俺がやろう。
「未琴、重いだろ? 俺が運ぶよ」
「そういうことに関しては反応がいいんですね」
「どういう意味だ、それ」
「何でもありません」
未琴はそっぽ向いた。
「お会計は7890円になります」
俺は唖然とした。
「なな、ななせん・・・・・・」
「何を驚いてるんですか、私が出しますから」
「ええ、えでも」
「蝉島さん、無理は禁物ですよ」
「わかりました」
未琴はお嬢様なのになぜか支払いも現金という徹底さ。
俺たちは帰路についた。
舗道の電灯も点き始め、自宅に向かう人々が増大している。
そんなとき一人で舗道を歩いている自分がむなしく見えてくる。
「どうしよう、菊と一緒に帰りたい」
そんなことを言っても現状が変わらないことは十分承知だ。
反対側の舗道を眺める。ファミレスから人が出てきた。
「何をやってるんだろう」
一瞬、ファミレスから出てきたのが菊に見えたがそんな都合のいいことなんてほとんど起きない。
「菊、今頃家のフローリング部屋でごろごろしてるんだろうな」
そうやって、菊のことを考えるだけで胸がズキズキ痛くなってくる。
そして、出来るだけ考えないようにして帰路に着く。
「あれ? なんでだろう」
知らない間に自分の足は菊の家の前に立たせていた。
「何やってんだろ私」
体は嘘をつかなかったと言うことだろうか。