季節は六月に入り梅雨前線の影響で雨天の日が多くなってきている。
梅雨と言えば主婦がお困りなのは洗濯物。俺もその問題に直面している。
乾いても最低二日は掛かってしまうし、部屋干しは洗濯物が臭くなってしまう。
何を主婦みたいなこと言ってるんだと、思うかもしれないが両親は共働きさらに海外に転勤中。なので何もかも自分でしないといけないのだ。
そして今日も一人家事をこなす。これがなかなか大変で親の大変が身に染みて判る。
インターホンが鳴る。俺はその場に洗濯かごを置いて玄関に向かう。
「今、開けまーす」
こんな雨の日に誰だろうか? と思いながらもドアを開ける。そこには未琴が傘をさし、家の前で立ち尽くしていた。
「どうした未琴」
「蝉島さんの料理教室に参りました久堂寺 未琴と申します」
お前はどこの執事だ。と突っ込みたいところだが快く受け入れる。
「早く上がれよ」
未琴はあたりを窺うようにして見回してから立ち入る。
傘を傘立てに入れ、靴はきちんと並べてから上がり込む。なんて礼儀正しい子なんだ。
「では早速始めましょう」
俺は冷蔵庫を開ける。しまった使ってなかった。
「どうしたのですか顔面蒼白になって」
「ごめん、多分もう腐ってる・・・・・・はははははは」
唖然とした顔で俺を見る未琴。ほんとにすいません。ヒグマと戦う罰を受けてもいいですから。
「今から買いに行きますか」
仕方なさそうに言う未琴。こんな雨の中を?
その時、インターホンがまたもなる。それも何回も繰り返し。
「今、開けますから待ってください」
大声で来訪者に伝える。俺は玄関を開ける。
「きくー差し入れ」
訪ねてきたのは明夏だ。差し入れが入ったビニール袋を持ち、もう片手にはやはり傘。いちいち雨の日に差し入れするなよ。というかなぜ差し入れ?
ビニール袋ごと差し出される。俺はそれを受け取った。
中身を確認してみると、なぜかキャベツなどの野菜類。
「中入れてよー」
「客の方から入れてよーっておかしいだろ」
明夏はけなげな笑顔を見せる。こう見ると可愛いには可愛いよな。
「まぁ中は入れよ」
「お邪魔しまーす私の別荘」
勝手に自分の別荘にするな。
「あれ? 誰か先客が来てるわね」
「ついさっき未琴も来訪してきたんだ」
「やたらと大人ぶった小学生も来てたのね」
明夏は少し不満げに頬を膨らませた。
「誰が来たの? げっ」
お嬢様が発してはいけない少々汚ならしい言葉が聞こえた。
「何しに来たのよあんた」
「あなたこそ後から来たのに態度が大きい」
二人とも目があった瞬間、怒鳴り始める。威嚇し合う猫みたいに。
「なんでそんなに罵り合うんだ? 理由がわからないんだが」
二人は顔を見あう。
「確かに人の家に上がり込んで喧嘩はおかしいわよね」
「ほんとですね、言う通りです」
二人は突然吹き出し笑い始める。
「ははは、なんかおかしいね私達」
「ほんとですよ、フフ」
話の結末がよくわからないが結果オーライということで良いのかな。
「せっかく野菜を持ってきたから今から一緒に作りましょうよ」
「そうですね」
二人はそのままキッチンに立って料理の準備を始める。なんで女性がキッチンに立つとあんなに可愛いのだろう。よくわからない。
なぜに俺は雨の日に買い出しをトホホ。
街行く人は少なく、聞こえるのは雨の音のみ。
「俺は中二病の女の子とデートしたい」
大声で発狂しても現実は変わらない。
「はぁ」
ため息ひとつ、また運が出ていった。
「あら、鷹巳くんじゃない」
俺に声をかけてきたのは奏巧高校の校長兼理事長の足谷 一葉(たしたに いちば)先生だった。傘をさしてなぜかジャージ。こんな日に何を?
「不機嫌そうな顔して」
「何でもありませんよ」
なーんだと言わんばかりの顔をする。一葉先生はとても大人びていて艶っぽい。
「中二病って知ってますか先生」
「もちろん」
「そうですよね・・・・・・俺行かないと行けないので」
あっそうだと目を大きく広げている、何か思い出したのだろうか。
「あなたって蝉島君と仲が良いわよね」
「はい」
「蝉島君の周りっていつも誰がいるの」
「女子三人ですかねー」
「そうありがとう」
一葉先生は微笑みを残して行ってしまった。
なんだったんだ?
これが悲劇へのスタートラインと言うことはこの世界で知っている人などいるのだろうか。