梅雨も明け始め七月に突入した。
もう少しで期末テストだと言うのにやる気のない人もいれば、今回はいい点とるぞー、と毎回意気込む奴。どちらかと言えば俺は後者に当てはまる。
テストは誰もが通るいばらの道だが己の頑張りによって、この先のいばらは鋭くなくなっていく。これが学生の必然である。
「蝉島はどうだ? 今回は良い成績もらえそうか」
「見込みなし!」
将錯はまたかよ、と言いたげに苦笑する。
「どうせ将錯は余裕なんだろ〜」
「俺だって常日頃から努力はしてないぞ」
だからこそ羨ましいんだよ。愚問だったな。
俺はひとつため息を吐く。
「それにしても暑いよな」
首もとを手であおぐ将錯。暑いのはみんな同様だと思うけどな。
「もうすぐ授業始まるよ」
俺の言葉を聞いてか将錯は居直す。
先生はがらがら、と入り口を開けて入室してくる。
「どうしたんですか校長先生」
クラスの一人が驚愕した声を出す。なぜ校長がこの教室に?
「突然だが今年の学園祭は夏休みの初日に行う」
クラス中がどよめいた。もちろん俺も。
「なぜですか先生!」
「いいアイデアだとは思わないか」
その答えを聞いて、言うすべもなくなってしまったらしい。
クラス中が静まったがそれもつかの間、すぐに騒ぎ出す。
「ということで」
校長先生はニッコリ笑みを残して退室する。
「聞いたか蝉島」
「校長兼理事長の話を聞かない生徒なんてこの学校にいるのかよ」
将錯は自分の顔を指差す。お前かよ。
「何をするんだろうな楽しみだぜ」
「新しい企画もやるのかもな」
「なんなんだろうね突然変更って」
やはり生徒の中には不安を感じている人もいるみたいだ。
そしてその日の授業は自習となった。もちろんテスト対策のためにハードにやる人が多く、どよめきは消え去った。
「勉強しねぇのか?」
後ろから将錯が問い掛けてくる。ノートを広げ真っ最中なのだろう。
「思い付かなくて」
俺はでたらめを言う、無論ただぼっーとしていただけだ。
「ノート貸してやるから自由に使いな」
こう見えても将錯は俺よりも真面目なのだろう。
その日の授業はさらりと終わり。部活がない俺たちはすぐに下校する。
「きくー」
この声はまさか、そのまさかだった。後ろから背中を叩かれる。
「聞いたと思うからやめとこっかなと思ったけどせっかくだから話してやろうと考えて後ろから徐々に忍び寄って話しかけたってわけ」
「前置きは結構だから早く用件を話せ」
隣で口を手で押さえてクスクス笑っている将錯がやけに腹が立つ。
一行は帰宅しながら雑談を始める。
「それでさー男子生徒がどよめくどよめく空高く飛んでいる鷲まで驚愕してたよ」
鷲は驚愕しないと思うけどな。
将錯も聞いて苦笑している。
「とにかくどよめいたと」
「そんなことより今日も作りに行って良い」
少し甘えた口調で訪ねられると断れない。
そのまま、一行は帰路を辿って行く。ここで将錯とはお別れだ。
「じゃあな蝉島」
将錯は片手を少しだけ振り、身を翻しそのまま歩いていく。
「まだ材料残ってるわよね」
「今日の分くらいはあると思うけど・・・・・・そろそろ買い出ししないとな」
「着実に進歩してるわよきくー、偉いわねー」
俺は幼稚園児か、と突っ込みたいがらちが明かない。
こんな美少女なのになぜ彼氏ができないのかなんとなく予想はつくが・・・・・・。
「料理のコツは感情を込めることよ」
「はいはい」
俺は何げにこの境遇が好きなのかもしれない、大切な人がたくさんいるからこそ。この兵器はあるんだろうと勝手に決めつけている。
「計画Aは無事に成功」
「さすがだねミス・プラス」
「紅も頑張ったよね」
明らかに紅は自分の利益を誇張している。
今回は私の任務だと言うのに。
「そろそろ私も出たいなあ」
「何を言ってるのですかあなたの任務はまだまだ先ですよ」
「日本の革命はまだかなぁ」
はぁ、全く陽気な人だ。
紅の尊敬しているのは知っているが、何故ここまで陽気で居られるのか不思議で会うたび気になる。
蝉島の料理の腕前と一緒に着実に何かが動いている。
それでもまだ気がつく人は居ない。
裏の世界の掟は『知られてはならない』だからか?