暑さも本格的になってきて瞬く間に薄着が増えてくる。
「制服って蒸れるよな」
全くその通りである。なぜ制服は蒸れる構造で作られているのだろう。
「テストまであと一週間か〜」
将錯はわざとらしく魔の単語を口にする。
「そういや、学園祭何が出店されるかな」
気が早いぞ将錯。テストで赤点だと学園祭なんてもってのほかだ。
こいつに関しては大丈夫だと思うけどな。
全開した窓から心地よい風が俺の頬を摩る。あぁ涼しい。
ついつい外の風景をおっとり眺めてしまう。
澄みきった青空が快晴の証拠だ。
教室の入り口が乱雑に開けられる。
「学園祭の出店要請の申込書なので教壇に置いておくので希望するやつだけもらっていくんだ」
突然校長は現れ颯爽と退室する。クラスの何人かが申込書を拝見しに教壇に歩み寄る。
そして、申込書を手に取って席に戻っていく。
「蝉島、お前なんか出店するか?」
「なんも出店しませーん」
「やっぱりな」
やっぱりな、とは失敬な。
「俺も出店しませーん」
「知ってたよそんなこと」
「でも誘われたら出店するかも」
俺は多分誘われないかな。知り合いが少ないからな。
「皆さん、こっちを向いてください」
担任の合図で生徒が皆、教壇の方に体を向ける。
「ではテストまであと一週間と迫りました勉強はきちんとやっていますか」
おとなしそうに喋る先生。名前は藤見 猫(ふじみ ねこ)名前からしておとなしそうだとわかるだろう。
「では学園祭も夏休みに変更し忙しくなると思いますが体には気をつけてください」
喋り方がゆっくりなので聞き取りやすいが授業もゆっくりで中々進まないのが難点。
黄緑のワンピースに身を包み、とても暑そうなんだが。
藤見先生はサラリーマンが持つような黒鞄を教壇の上に置くと鞄を開く。
「見てくださいこれ栄養ドリンクですよ」
何故か怪しげな栄養ドリンクを取り出した。何がしたい?
「夏にはやっぱり栄養ドリンク! しかし市販の物では栄養が不足がちそこで! このチャージングドリンクなんです!」
セールスかよ通販かよ。さらにネーミングセンスも問われる。
「帰ろうぜ蝉島」
「あぁそうだな」
俺は将錯に促されて退室する。そして帰宅し始める。
「あの先生はセールスモードに入るとおっとりとした性格が一変、ただの通販ショピングになっちまうセールス・通販オタクだからな」
どんなオタク趣味だよ。
確かに明夏からも聞いた覚えがあるような?
「ちょっといいかな蝉島くん」
背後から突然声を掛けてきたのは右目兵器仲間の遠市さんだった。
「二人きりで話したいことがあるんだけど」
俺は将錯に視線を移して意思疎通を図る。
将錯は気味が悪い程にニコニコしていた。また変な想像を。
「いいかな」
「いいですよ話って」
遠市さんは辺りを窺ってから俺に視線を戻す。
「ここだと人が通るから体育館裏で話しましょう」
告白みたいだな。俺の脳裏にそんな煩悩がよぎる。ダメだダメだ。
「どうしたの頭を抱えて首を横にブンブン振って?」
「なんでもありません」
死んでも理由を言えるか。
俺と遠市さんは体育館裏に着いた。すると遠市さんは俺の方に身を翻す。
「気付いてるかな?」
「何を?」
主語がないぞ。判るわけないだろ。
遠市さんは自分の右目を指差す。眼帯がどうかしたと?
「まさか眼帯の色が変わってるとか」
遠市さんは呆れたようにため息をつく。
「故障してるみたいなのこの兵器」
「え?」
意表をつかれた俺は口を開けたまま立ち尽くす。
「何故かわからないけど今日の朝起きたときに違和感が感じたから鏡で見てみたけど特に異常はなくて、でも中ですごい唸ってるの何かが」
「でも直しようがないじゃないですか」
遠市さんは大きく頷く。そんなことがあるのか。
「だから怖くて怖くて一人でいるのが怖いんだ・・・・・・」
一回遠市さんは目線を伏せて逸らす。
「だから少しの間様子見ててくれない」
はい? 何を言いたいのかわかりません。
「この違和感がとれるまで寄り添っててほしいなって思って」
遠市さんは頬を少し赤く染めて、思いもよらぬ一言を俺に浴びせる。
ということは寝るときも、お風呂の時も・・・・・・がががががが。
「なんでそんなに赤くなってるのよ」
「え・・・・・・別に」
「そう」
この答えで納得してくれるんだ。本当のことを言ったら多分殺される。
「今日は私の家に泊めるから心配しなくていいわよ」
心配だらけだよ、遠市さんの頭が一番心配だよ。
「着いてきて」
遠市さんは俺より先に歩み出す。
「待ってくださいよ」
俺も急いで遠市さんに追い付く。
なぜにこうなった?
「ねぇプラス」
「なんでしょうか?」
珍しいなこの人が話し掛けてくるなんて、はっ! まさかあの事がばれたのか。
「どうするのこれから?」
あーなんだその事か。
「計画通り進めていますよ」
「ならよかった。これが世界を変える初めの一歩だもんねー」
「あぁはい」
この人はなぜこんなにも緊張感がないんだろうか? それともこういう性格なのか?
「紅に言っといてねいつでも出れるようにしておけと」
「承知しました」
世界を変えることはとても難しい。言うことはできても実現させることができないのが世の中の原理であり、破ることのできる緩い法則である。
確かに何かが始まろうとしている。
果たしてこれを食い止めることができる人は現れるのか。