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俺の片目は戦争兵器 仏壇に捧げる遠市成
作者:青木   2016/04/16(土) 16:36公開   ID:aD/bcO1hwWA
 草原の中央に両腕を広げ立ち尽くしている自分はここで何をしているのだろう?
 上空を見上げても青空と白い雲しか見当たらない。     
 草原に胡座で座り込む。どこだここ?      
 先に牧場があるようだ、牛が雑草を食べている。     
 俺は立ち上がり牧場に向かって歩き出す。場所を尋ねようと賢明な判断だろう。
 近づいていく度、克明に見えてきた。白黒の牛と・・・・・・戯れているのは紫髪をした・・・・・・はっ!
 牛と戯れていたのは遠市さんという驚愕の真実。     
 俺はそのまま前に倒れた。というか倒れてしまった。     
 「あーーーーーう」     
 体が熱い。さっきのは夢だったのだろう、俺は上半身を起こす。    
 ふと部屋を見渡す。真っ暗で何も見えない。
 俺はそのまま立ち上がり照明のスイッチに垂らしてあるヒモを引っ張る。
 照明の光が俺の左目を襲う。まさに日光を浴びた吸血鬼状態で俺は悶絶する。
 必死に耐え目が慣れてきたところで部屋を見渡す。遠市さんの姿がない?
 俺は颯爽と部屋を退室。    
 短い廊下のためすぐにわかった。ガラス戸越しに一部屋だけ輝いている。俺はそのガラス戸を開けて中に立ち入る。
 「誰?」      
 はっきりとした声で尋ねてくるのは遠市さんだ。仏壇の前に正座している。
 「なんだ蝉島君か、心臓が止まるかと思ったわよ」     
 遠市さんから安堵の表情が浮かぶ。こんな夜中に何をしてるんだろう?
 「こんな時間に何をしてるかってだいたい検討付くでしょ」    
 「仏壇に祈りを捧げていたとか?」     
 「まぁそんなとこね」     
 遠市さんの目線が仏壇に向けられたが束の間に俺に視線が変わる。
 「蝉島君は何してるのよ」    
 「トイレに起きただけですけど」     
 「トイレなら廊下の奥」     
 トイレに起きたなんて無論デタラメなのだが仏壇が気が気で仕方ない。
 「仏壇が気になる?」     
 「えっ?」      
 答えあぐねている俺を見る遠市さんの瞳はいつもとは違った。
 「気になるなら教えてあげる」  
 「・・・・・・」      
 言葉が出なかった。何て答えれば正解なのかそれがわからないのだ。
 「この仏壇、お父さんの仏壇なんだけど・・・・・・こうやって毎日仏壇の前で手を合わせて挨拶してるの」
 そう語る遠市さんは目線を少し伏せながら教えてくれる。こちらも心が痛んでくる。
 「確か最初ここは畑だったんだよ江戸時代くらい?」     
 江戸時代は年代が広すぎてわからん。
 「地主だったんだよ私の先祖、それでこの辺の土地を全部持っていたんだけど」
 「持っていたんだけど?」    
 「昭和頃に土地のほとんどを売っちゃたらしいよ」
 にんまりしながら語る遠市さんからは寂しさが感じなかった。江戸から昭和って進み過ぎだろ。
 「それはこの仏壇とはそこまで接点はない」      
 接点のない話から入るなよ。
 遠市さんは俺から視線を逸らして仏壇に向けるその目は少し悲しみが感じとれた。
 「大切な人を喪失するって計り知れないよね」     
 「・・・・・・」      
 何も言えない。答えられない。言葉を掛けることができない。
 「子供って言うのは人が死ぬという事を知っていても大切な人が永遠にいると思っている。しかし実際大切な人が死んでしまうと何もできなくなって幻覚に襲われたりする」
 確かに俺もわからない。
 「私もそうだった人が死ぬことは知っていたでも本当の死を理解していなかった。いつまでも生きている訳じゃないのに」
 遠市さんの目には涙が溜まっていた今まで堪えていたものが全て出てきたのだろう。俺は唇を噛む。
 「何でだろうねあの時涙は全部出しきったはずなのに・・・・・・蝉島君だって見ているのに情けないよ」
 体が勝手に動いていた。誰の指示もなく欲望もなく。
 「蝉島君・・・・・・これは一体?」    
 頭を撫でていた。今、自分の感情が定かでないのに体だけが何かを示している。
 「あんな理不尽なことのせいで・・・・・・お父さんは」     
 遠市さんは俺に抱きついてくる。涙を堪えるためか流すためかどちらでもいい。
 「蝉島君は・・・・・・突然居なくなったりしないよね?」    
 喋るのはきついだろうに喋り出す遠市さんはとても強がっているようにも思えた。
 「いなくなる? 何もなければそんなことないはずだよ」
 「なんでこんなときにも正直なんですか? 鈍感ですか?」 
 「何か言った?」    
 俺の懐に顔を被せながら何を言っていた。
 「何もないよ、寝ましょ」    
 遠市さんは俺から離れてリビングを退室、横顔でもまだ目元が腫れているのがわかった。
 「待ってくださいよ遠市さん」
 俺も遠市さんを追いかけて寝室に入室する。遠市さんは布団にくるまっていた。
 目を閉じて俺も床についた。
                 
 「そう言えばさ昔、私のお母さんがさー」     
 「会議中ですよ橘様」     
 どんなときもマイペースの橘様には少し黙っていてもらいたい。
 「早く終わらせましょうよプラス」     
 「終われるとっくに終わってますよ」      
 朝早くから勤務している私の方があんたたちより疲れてるんだよ。そんな嘆きも神様には届かず。
 今日も徹夜で会議。トホホ。
 「お母さんは何人も人を虐殺して瞬殺してすごかったんだよー」
 なんて親だ。ただの暗殺者なのかよ。
                 
 この会議が日本を揺るがすギミックの会議だとは誰も知るよしもなかった。ここの三人以外は・・・・・・。

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