ついに学園祭当日。
早朝から準備に取りかかっている。
「今、何時?」
俺は教室の時計を覗く。針は七時を指していた。
「七時です」
「あと一時間ね、急ぎましょう」
遠市さんは手の動きを早める。
そんなこんなで一時間後。
一行は無事に準備を終え、用意していた椅子に腰掛ける。
俺たちは締め切り寸前で出店用紙を提出したためか、出店には不向きな一階の学習室しか残っておらず、やむを得ずここで出店することにしたのだ。
この教室は普段、生徒の自主勉強に使用する教室なのだが隅にあるため存在が薄い。
「疲れたでしょう?」
「突然でしたからね」
「トイレ行ってくるわ」
将錯は準備が終わるのを見計らってトイレのため退室。
「蝉島君はここで待っててね。私も荷物持ってくるから」
そう言うと遠市さんもすたすた、と退室。俺は一人残された。
俺は椅子から立ち上がり、三歩前進する。そして身を翻す。
完全にこれは海の家だ。どこからどう見ても海の家だ。実際の海の家とはスケールは劣るが販売する商品といい、テーブルと椅子の配置といい海の家そのものだ。
「あれ? 蝉島一人だけか」
裏から突然声がする。振り向くとそれは校長兼理事長の足谷さんだった。
「鷹巳と遠市はどこ?」
「将錯はトイレ、遠市さんは荷物を取りに行くって」
「そうか・・・・・・かわいそうだな、お前も」
「えっ?」
「私は見回りに来ただけだ次に行かなくては」
足谷さんは颯爽と退室。
そんなこんなで九時になりついに学園祭が始まった。
俺たち海水浴部の海の家に客は来てくれるのだろうか?
「どうよこれ、似合ってる?」
青色で海とかかれた茶色のTシャツに太ももの大部分が見えるショートのジーパンという涼しげな服装。それにしても綺麗な太ももだ。
「あれ反応薄いわね、水着の方がよかった?」
「そういうわけでは・・・・・・ははは」
苦笑いするしかなかった。見とれてたなんて本人の前で口に出せる訳がない。
俺たちも同様のTシャツに短パンという似たような服装。遠市さんがTシャツを用意してくれたのだろう。
ズボンは前々から要求され持参してきたのだ。
企画は遠市さんの独占権で、俺たちは口出しできなかった。私に決めさせて、とせがまれたら断りずらいからだ。
「なぁ蝉島?」
将錯が俺に耳打ちしてくる。
「遠市さんって見た目のわりに胸でかいんだな」
「太ももは綺麗だけど・・・・・・・って言わせんな」
将錯は悪戯っぽく笑う。はめられた誘導尋問だ。
「私客引きしてくるわ、客の接待はお願いね二人とも」
「ちょっと待っ・・・・・・」
遠市さんはのぼりを携えて教室をあとにする。
「どうする蝉島?」
「確か将錯って料理できるよな」
親指を立てて前に出す将錯。
「なら作るのはお前に頼んだ」
「蝉島に客のオーダー取れるのか」
それくらいできるわ。
俺はカウンターに置いてある手帳とペンを手に取る。・・・・・・客が来ないのではやることがない。
将錯とお互いを見合う。
「つれてきたよー客」
遠市さんの声だ。客をつれてきたらしい。
「成さんのもてなしじゃー」
「メイド服じゃー」
違う趣旨で来てるんですけど。
一気に十人程度はつれてきただろうか? すごいな遠市さんの人気は。
それからと言うもの客が途絶えることはなく大盛況になった。
しかし、その多くが男。それも遠市先輩の二の腕〜! 太もも〜、とかほざいてるやつもいたな。完全に遠市さん目当てだろう。
瞬く間に時間は十二時。
「疲れたでしょ。ありがとう収入の大半はあなたたちに与えようかな」
「いえいえ遠市さんの人気があってこそですよ」
「蝉島君から休憩取っていいわよ一時間だけだけど」
「いいんですか! お言葉に甘えて」
そして午後の部がスタートした。
携帯を鞄から取り出す。
気づかれないように体育館裏で通話する。
『何? プラス』
『準備は整いました。あとはタイミング見計らうだけです』
『そうありがと。紅もそっちに向かってるからよろしくね』
『承知しました』
通話を遮断する。ひとつ深呼吸、興奮が抑さえられない。
「革命の時間だ!」
頬を叩き気合いを入れ直し、持ち場へ向かった。