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ネギま!―剣製の凱歌― 第三章-第52話 思考回路はショート断線
作者:佐藤C   2015/08/12(水) 16:18公開   ID:1C5l.OagbSo



 ―――――[17:13]。


《緊急事態発生!!緊急事態発生!!》


 容赦なく鼓膜を裂くけたたましい警報音。
 麻帆良大学工学部研究棟―――その全域に通達された放送に、研究員や学生らは困惑しながらも意識の警戒レベルを引き上げた。


《試作実験機の暴走が確認されました!現在、本棟の一階を逃走中!
 数は一!しかし実験機は強力な光学兵器を実装しています!
 各員十分に注意されたし!!》

《緊急事態対策マニュアルに従い、エリアTを封鎖します!総員退避!!
 隔壁順次展開、超硬鋼合金シャッター緊急展開!
 繰り返します、総員退避!エリアTを封鎖します!!》

「わーっ!?」
「なんかトンデモないことにー!?」

 僅か一分足らずで、三十階にも及ぶ研究棟内の空気全てが変容した。
 それに当てられてネギと明日菜は右往左往し、木乃香はその場で縮こまる。
 比較的冷静さを保っていた刹那さえ、大学という一種の聖域が、まるで戦場に変わってしまったような錯覚に困惑した。

《工学部学長より緊急事態宣言エマージェンシーコードが発令され、本校学園長はこれを承認されました。
 実験機の外部への逃走を防ぎ、棟外の生徒や器物への被害を出す前に工学部内で事態を収拾せよとの厳命です! 》

「うわーーーっ!?」
「走るべアニキ!」
「お嬢様こちらに!」
「ひゃーっ」

 ネギ達が居る場所はまさに問題の研究棟一階だったが、外に面したカフェテリアだ。
 走ればすぐに逃げられる。
 そのお陰で、直後、正面玄関から溢れ出てきた人混みに押し潰される事態を回避できた。

《但し実験機の破壊は許可しない!職員は実験機の無力化、及び捕獲に全力を尽くせ!》

《エリアT、全員の避難を確認しました!完全隔離閉鎖確認!》

《捕獲班は装備を整え、正面玄関及び四階下り階段前に集結せよ!
 五分後に各隔壁を開いて突入する!繰り返す!!捕獲班は…》


「―――士郎」

「…なんだエヴァ」

 ………何でこう、ウキウキしてるかなあ。
 外見はともかく、中身は自分より遥かに年上である筈の少女の様子に頭を抱え、赤毛の青年は相槌を返す。
 彼のそんな心情など露知らず、
 金髪の少女―――エヴァンジェリンは僅かに目を輝かせて衛宮士郎を見上げた。


「これは私も知っているぞ。ロボットアニメというヤツだな……!」


 その暴走しているロボはお前の大事な従者なんだが―――という言葉を飲み込んで、衛宮士郎はこの現状に頭が痛くなった。


 ―――――絡繰茶々丸。
 現在、工学部一階を走り回って目からビームを乱れ撃っている。





<第52話 思考回路はショート断線>





 ―――――[07:49]。


 人気の中華料理屋台『超包子』。
 毎年、学園祭準備期間から本祭り最終日まで限定で営業するこの店は、今日も朝から大盛況だ。


「あーー!!茶々丸ーーーっ!?」


 調理担当の四葉五月、調理補助とレジ係でヘルプに入るオーナーの超鈴音。
 ウェイトレス兼用心棒の古菲と、同じくウェイトレスの絡繰茶々丸。
 四人がせっせと客を捌く中、屋台に集まる人混みを割るような声が聞こえた。

「ムム、ハカセ遅刻アルヨ」
“おはようございます”
「ニーハオ、ハカセ」
「あ、おはよーございます。
 ごめんなさい寝坊しちゃって、すぐ着替えて手伝いに…じゃなくって!」

 古菲、五月、超に声をかけられた少女の名は、超一味の一人―――葉加瀬聡美。
 制服の上に白衣といういつもの出で立ちで、彼女は慌てて茶々丸の元へ駆け寄った。

「ダメだよ髪上げたりなんかしちゃ!それは放熱用なんだから!
 オーバーヒートしたらどうするの!?」

 女性型ロボットガイノイド『絡繰茶々丸』の開発者である葉加瀬は、自らが生み落とした『娘』の暴挙に声を荒らげる。
 このとき茶々丸は、いつもは下ろしている髪を結い上げて配膳をしていた。

「え。それは…」

 激しい剣幕で詰め寄る葉加瀬に茶々丸は口ごもる。
 …というより、本人もなぜ自分が髪型を変えようなどと思考したのか、理由を明確に言語化できないようだった。
 しかし、助け舟は意外な所から現れる。

「何でってハカセちゃん…なぁ?」
「茶々丸さんだってオシャレくらいしたいよねー」

 今日も超包子で朝食を摂っていた、ネギ達四人組だ。
 木乃香と明日菜が口を揃えて茶々丸を擁護し、ネギも彼女に「似合ってますよ」と声をかける。
 一人だけ静かな刹那は、こういった事に無頓着な所為で何も言えないようである。
 そのため最近の彼女は、休日になると明日菜と木乃香に連れ出されて着せ替え人形にされていた。

「オシャレ?そんなプログラム入れた覚えないけど…」
「はぁ…」

 葉加瀬は胡乱な目で、茶々丸は感情のない目で、数秒間互いを見つめ合う。

「………んー、茶々丸。最近整備もしてないし、あなたを点検したいから放課後に研究室まで来てくれる?」
「ハ…了解しました」

「……点検?整備?」
「茶々丸さんってロボなんやろ?何するんやろ…」

「え?もちろん分解バラすんですよ」
「バラ…ッ!?」

「ハカセ、茶々丸!早く手伝って欲しいアルヨー!」
「あわわ、すみません!」
「いま行きます」

 顔を青くした明日菜達を尻目に、葉加瀬と茶々丸は慌ててその場を去っていった。


「……大丈夫かなぁ茶々丸さん」

「超とハカセは天才だけど、その正体はマッドサイエンティストだとか、
 科学に魂を売り渡した悪魔だとか言われてるし…」

「ス、スゴイ話ですね」

「あ、あのー…ウワサだけで人を判断するのはー…」

 刹那とネギはそれほどでもなかったが、
 心配のあまり明日菜と木乃香は茶々丸に付き添う約束を取り付けたのだった。





 ◇◇◇◇◇




 学園都市中心部から少し離れた麻帆良近郊に、麻帆良大学工学部の研究棟がぽつんと建っている。
 およそ三十階ほどの高さを持つ高層ビルは真新しい建物という訳ではないが、当時の最新設備を備えて建設されたこともあって小綺麗な外観を保っていた。


 ―――――[16:22]。


 約束通り葉加瀬の研究室を訪れた明日菜達であったが…彼女たちが心配していた茶々丸の整備は、結論を言えば中止された。
 整備前に行った点検で重大な問題が発見されたためである。
 ロボットである茶々丸が、ネギ達の前で服を脱ぐ時―――「恥ずかしい」と言った事で。

「人工知能が…ハズカシイ!?なにそれどゆこと!?」

「その…具体的な症状は…胸の主関部がドキドキして、顔が熱いような…」

「ホントだ熱い!モーターの回転数も上がってる!?
 おかしい…どこにも異常は見られないのに…いったい何が…」

「なんもオカシイことあらへんよー。
 胸がドキドキって……それって『恋』と違うんかなー♪」

「えーっ!?それはありえないですよーっ!!」

 木乃香の言葉を葉加瀬は即座に否定する。
 しかし徐々に研究者としての好奇心が顔を出し始め、数秒黙り込んだ後にポツリと口を開いた。

「………うん、そうですね。もしかしたら恋かも知れないです」
「やろー?」
「え゛っ」
「いや、ドキドキが恋ってそんな安直な」
「それ以外の理由も調べた方が…」

「では只今より検証のため実験を開始します!」
「おーっ!」

「ちょっちょっとーっ!?」
「いったい何をどう実験するんです!?」

 普段大人しいぶん暴走すると手がつけられない木乃香と、マッドサイエンティストモードに入ってしまった葉加瀬。
 二人が手を組んだこの時のパワーは凄まじく、誰も彼女らを止めることができなかったのだった。





 ◇◇◇◇◇




 ―――――[16:46]。


「で、なんでエヴァちゃんと士郎が居るの」

「ハカセが茶々丸で面白い事をおっ始めると聞いて」
「何も聞かされずにムリヤリ連れてこられて」

 一行が研究棟一階まで降りると、そこにはエヴァンジェリンと士郎がいた。
 エヴァンジェリンは得意げに慎ましい胸を張り、士郎はげんなりと辟易している。
 衛宮士郎、本日はタクシー代わりの瞬動使いであった。


「あ、あの…ハカセ、これは…」


 一階の学生用カフェテリアに、性別が不自然に偏った人だかりが出来ている。

 それは―――男。男。男。
 大学院生の青年、大学生の少年。男性の研究員に初老の大学院教授。
 中には事務職や警備員の男性まで顔を揃えている―――「仕事はどうした」と指摘する常識人と、女性だけが存在しない人だかり。

 明らかに意図して男女比が偏ったこの群衆。
 彼らが取り巻く中心に、お洒落をして着飾った茶々丸が戸惑った様子で立っていた。


「普段しないオシャレでハズカシイ状況を作り出し、さっきのモーターの回転数上昇を再現する実験です!
 さあ茶々丸!もっとカワイイポーズで工学部男性の視線を釘付けにしてみてーっ!」

 茶々丸から少し離れた場所で簡易テーブルに座り、ノートパソコンをモニタリングする葉加瀬が声を張り上げた。
 彼女の周囲にはネギ、明日菜、木乃香、刹那、エヴァンジェリン、士郎が集まっている。

「あの、でも…」

 茶々丸がちらりとネギに視線を送る。
 野次馬の最前列で、ネギが「キレーですー」と拍手して微笑んでいる姿が見えた。

「おおっ!やはり上昇しています!脈アリ!?」
「いえっ!あの…っ」

 盛り上がる葉加瀬。焦る茶々丸。

「次の衣装にいってみましょー!」
「ああっ!?」


 熱狂する葉加瀬と群衆。
 彼らに取り囲まれた茶々丸を見つめながら、士郎は何かに気づいて呟いた。

「……やたら凝った洋服だな……なあエヴァ」
「ああ、もちろん私が手ずから用意した逸品だとも」
「―――道理で見覚えがあると思った」

 適当な所で葉加瀬を止めようと思っていた士郎は、この時それを完全に諦めた。
 葉加瀬と木乃香だけならともかく、エヴァンジェリンまで敵に回すなど怖くてできなかったのである。
 彼は静かに心の内で茶々丸に謝罪した。


「可愛いですよ茶々丸さん!」
「!?ネ、ネギ先生……っ」
「おおお!?素晴らしい上昇値です!!これは有効な実験数値です、間違いないかも!?」
「きゃーーっ♪」

 士郎が悟りの境地に至っているうちに、葉加瀬と木乃香のボルテージが尚も上がる。
 頼む、そのまま満足して終わってくれ、何も起きませんように―――士郎の切実な願いは呆気なく砕かれた。

「…でもホンマに恋やったら、誰か相手がおるハズやなあ茶々丸さん」
「むむっ!言われてみれば確かにそうですね近衛さん!私としたことが!
 茶々丸の記憶ドライブを検索してみます!!」
「ええっ!?」

 ―――この世界に神様なんていないに違いない。
 士郎はその場に突っ立ったまま天を仰いだ。

「それは流石にプライバシーの問題とかあるんじゃないの!?」
「た、確かにやりすぎや!」
「―――科学の進歩のためには多少の非人道的行為もやむなしです!!!」
「ええーーーっ!?」

 非難の声を上げて葉加瀬に詰め寄る女性陣。
 ……しかしそんな彼女達も、次第にパソコンのモニターに熱い視線を注ぎ始めた。
 いつの間にかエヴァンジェリンもそこに加わっている。

「むむっ!何度も再生している映像群がお気に入りにフォルダ分けされています!これは怪しい!」
「ええっ!!」
「ええい勿体ぶるなハカセ!」
「ちょっとヤメなさいよアンタたち!…って刹那さんもなにじっと見てるの!!」
「ア、アスナさんだって見てるじゃないですか!!」


「あ…ああ……ダ、ダメ……」


 ―――そう声を震わせる少女に、誰かが気づく事ができたなら、これから起こる騒動は回避できたのかもしれない。


「間違いありません、これです――――!!」

「ハカセのバカーーーーーーーッ!!!」

「もぎゃっ!?」

 葉加瀬がフォルダを開き、中身を目にしてしまった瞬間。
 羞恥のあまり、茶々丸は右腕のロケットパンチを繰り出して葉加瀬を殴り飛ばした。

(―――こ、これは…開発者である私に攻撃を加えるなんて…)

 吹き飛びながら、葉加瀬聡美はその優れた頭脳で思考する。


(まさか…自力でコマンドプログラムの優先順位を書き換えたというの…!?
 ふふ…成長したね茶々丸……)


 自分が開発したロボット―――絡繰茶々丸は、葉加瀬にとって『娘』とも言える存在だ。
 それが「恋心」を覚え、それを守るために開発者に逆らった。

 宙を舞う自身の身体が大地に帰還するまでの僅かな時間、
 葉加瀬は『娘』の成長を目の当たりにし―――その娘にぶん殴られたことは横に置いて―――望外の喜びに浸っていた。

 ――――葉加瀬聡美、科学のためなら殴られてさえ喜悦する。
 十四歳にして真性のマッドサイエンティストであった。


「あたたた…」
「ああん、誰が映ってたん?」
「見えませんでした…」
「チィッ、肝心な所で…まあ検討はついてるんだが…確証がな…」

 葉加瀬の巻き添えで押し倒された少女達は、尻餅をついて口々に文句を垂れる。
 しかし彼女たちが知らぬうちに、事態はとんでもない方向へ推移していた。


「――ハ…ハカセ…ネギ先生…ち、ち違うんです…!
 そのフォルダは…その…ち、チガ…チガチガガガガガガガ――――!!」

「ち、茶々丸さん!?」
「いけない、暴走です!思考回路に負荷が掛かり過ぎたかっ!」

 ネギと葉加瀬の目の前で、茶々丸は異常な排気・排熱を繰り返して痙攣するようにガクガクと誤作動している。
 ―――素人でも、危険な状態だと一目でわかった。

「ちっ、チガ、違うんデ、デ、デスーーーーーーーッ!!」

「茶々丸―――――!?」

 士郎の叫びが虚しく響く。
 茶々丸は周囲の野次馬を吹き飛ばして走り去り、工学部棟内へ逃げ込んだ。





 ◇◇◇◇◇




 ―――――[17:19]。


 慌ただしく職員が動き回り、正面玄関のシャッター前に何台ものロボットが集結している。
 葉加瀬が関係各所に状況の説明と謝罪に走り回っているのを眺めながら、士郎は思う。

(茶々丸はネギの事を前から気にしてたし、好きなんだとは思ってたけど……)

 これほどとは思わなかった。
 抱いている気持ちが恋慕の情であるとも、恥ずかしさのあまり暴走するとも。

「ネギも罪作りだな。ロボットにまで好かれるなんて」

「…言っておくが、お前にそれを言う権利はないぞ」
「まったくです」

 エヴァと刹那から向けられる冷たい視線に、士郎は「なんでさ」と内心で嘆息した。

「それはともかく、ウチの従者は無事かな。
 ハズカシさのあまり逃げ出すだけならまだ可愛いものだが」
「見境なく光学兵器ぶっ放してるらしいからなぁ…カワイイじゃ済まないよなぁ」

 士郎が遠い目をした視線の先で、人が騎乗したロボットの集団が統率の取れた動きを見せ始める。

『班長、捕獲班全員揃いました!』
『よし!捕獲班、突入開始!!』
『うおおーーーッ!!』

 障壁が開かれ、そこからロボットを駆る職員や大学生達が棟内へと雪崩込んでいく。
 ネギ達はそれを遠くから眺めることしかできない。

「大丈夫かなー茶々丸さん…」
「とんでもないことになってもーた…」
「専門の方々に任せるしかありませんね…」



 ―――――[17:24]。


『報告!捕獲班全滅しました!!』
『衛生兵、衛生兵ーっ!!』

「へ?」

 ネギが呆けた声を出した。



『有志の義勇兵を募れ!』
『し、しかし、万が一機体が破損したら、外部のスポンサーになんて言えば』
『麻帆良のロボット工学は日本最先端の一つだぞ!それが自分達の不始末もできなくてどうする!!』

『待ってください班長!それは学園祭に出展する機体じゃないですか!!』
『それがどうした!いつも世話になってる茶々丸さんのためなら惜しくはない!
 麻帆大工学部のロボットは麻帆良祭の花形なんだ、祭りの前に派手なリハーサルをするとしようぜ!!』

『ウチのロボットも使ってくれ!』
『し…試作品だが、我々も装備を提供しよう!』

 ……なんかちょっとしたドラマが繰り広げられているが、士郎には嫌な予感しかしない。
 具体的にはどんどんフラグが立っていくような悪寒がする。
 葉加瀬だけは「学祭前のこの時期に工学部が…研究室の垣根を越えて…ッ!」と感極まって泣いていたが。



 ―――――[17:37]。



『準備完了!義勇兵――――突入せよ!!』
『おおおおおおおッ!!』



 ―――――[17:39]。


『義勇兵全滅!!』
『回収班急げ!総員退避!隔壁を再封鎖しろーっ!!』

「………えー?」

 葉加瀬が心底不思議そうに首を傾げた。





 ◇◇◇◇◇




『というワケで、お主たちが頼りじゃ』


 テーブルに置かれた電話の受話器から聞こえる義祖父の言葉に、士郎は嫌な顔を隠さなかった。
 学園長の言葉はつまり、この場にいる魔法使いに協力を要請しているのだ。


『茶々丸君の性能がこれほどとはのう。魔法と科学を合わせて作られただけの事はある。
 既存の科学技術だけで作られたロボットでは全く歯が立たぬとは』

「えっへん」

「……聡美ちゃん。今は胸を張っちゃダメだ」

「ハイ、スミマセン。では気を取り直して作戦の説明を」

 作戦と言っても、そう複雑なものではない。
 玉砕した先遣隊の情報によれば、茶々丸は暴走状態ながら無意識に行動を制限しているのか、一階の回廊部分をぐるぐる回っているだけらしい。
 故に、二手に分かれて挟み撃ちにし―――。

「点検途中だったので、こういう時のための緊急停止装置が有効になっています。
 茶々丸の右胸のスイッチを押せば、思考回路と主機関部が低稼動状態になって茶々丸は正気に戻るハズです」

「なんだ簡単ではないか。工学部の連中だらしのない」
「あの…今の茶々丸さん相手では一般人には難しいかと…」

 感覚のズレたエヴァンジェリンの言葉に思わず刹那が口を挟む。
 明日菜と木乃香が「うんうん」と揃ってそれに頷いた。

「ではチーム分けですが――」
「なに、いつもどおりで構うまい」
「……ん?いつも?」

 葉加瀬を遮ったエヴァの言葉に、一同は意味が分からず注目する。

「あのー…師匠マスター?」
「む、わからんか。
 お前は自分の従者…神楽坂明日菜と刹那を連れていけ。私は士郎を連れて行く」

 その言葉に明日菜と刹那が顔を見合わせ、ネギと士郎は驚いてエヴァを見た。

「マ、師匠も行くんですか!?」
「当然だろう。あの中で我を失って暴れているのは私の従者だ。
 人工知能の暴走というのがどういうものか私にはわからんが―――」

 エヴァンジェリンは、その場でくるりと振り返ってネギ達全員を睥睨する。
 ………彼女が何を言いたいのか。
 その小さな金の頭を見下ろして、士郎は何となく理解した。

「自分の従者が苦しんでいるかもしれないというのに、他人に任せて何もしないなど我が矜持に反する。
 悪の魔法使いは無法に生きるが故、義を重んじる。交わした約束は違えない。
 私には、私の従者が私に向ける常の信頼と献身に報いる義務がある」

 ………十歳児相当の外見をした少女の言葉は、そうとは思えぬ重さがあった。
 誰かが、そして誰もが息を呑む。

 力を封じられているにも関わらず、その誓言は真祖の吸血鬼ハイディライトウォーカーにして闇の福音。
 魔力の有無に左右される筈もない。
 周囲を圧倒する威圧の正体は、孤高の大魔法使いがその魂に宿した気高さだった。

「止めるなよ、じじい」

 エヴァンジェリンは葉加瀬の背後に置かれた受話器を睨んだ。

『わかっておる。お主が矢面に立てば煩い連中が騒ぐじゃろうが、それを抑えるのもワシの仕事じゃ』

「ほう、珍しく殊勝ではないか。孫に格好良い所でも見せたいか?」

『ふぉっふぉっふぉ、ワシはいつでもイケメンじゃよっ♪』

 「いや、それはない」―――――彼の孫を筆頭に、この場の全員の心が一致した。


「ではいくぞ士郎」

 そう言って偉そうに両手を腰に当て、じっと自分を見上げてくる少女。
 士郎はその意図が理解できてしまって苦笑した。

「はいはい。了解だ、御主人マスター

 エヴァンジェリンの脇に手を入れて小さな身体を持ち上げると、
 士郎はそのまま自分の腕の中で横抱きにして彼女を抱き抱えた。

「え゛…っ」
「きゃー♪」
「!?」

 それを目にした周囲の反応は様々だ。
 明日菜は思わず顔を赤らめ、木乃香は頬を染めて黄色い悲鳴を上げる。
 刹那は衝撃、驚愕、赤面、嫉妬、困惑、不安…と、どんどん表情が悪化していく。

 何故なら士郎のそれは、壊れてしまいそうな宝物を大事に扱うような所作でいて、
 互いの間に存在するある種の信頼を前提とした気安い行動であったからだ。
 すなわち、“まるで恋人のように慣れている”―――そんな考えを周囲に抱かせる光景だった。

 彼女達は知らない。
 士郎が毎朝、一向に起きないエヴァンジェリンを抱き上げて一階まで運んでいることを。
 ……要するにこの二人、男女の睦事でも何でもなく、ただ「抱っこ」という行為そのものに慣れているだけなのである。

「で、でも師匠、師匠は魔力が…」

「そ、そうですエヴァンジェリンさん!!
 魔力が封じられている今のエヴァンジェリンさんでは、この作戦に参加するのは難しいのではないですか!?」

 悲鳴のように叫んだ刹那に視線が集中する。
 その中でエヴァンジェリンだけが、不機嫌そうに刹那を睨んだ。





 ◇◇◇◇◇




(……刹那?)

 彼女の言い分は間違っていない。
 だが、わざわざ語気を強めて言うべき場面でもない。
 士郎はそこに違和感を覚えたが、指摘するほどではないと、しばし事の推移を見守ることにして口を噤んだ。

 しかし、そんな刹那の心情を理解できた二人の少女は、内心で喝采を挙げていた。


(やっと……刹那さんが、あの刹那さんが……!)
(せっちゃんが――――覚醒めざめた―――――――!!)


 あの、奥手で、中々自分の気持ちを前に出せない刹那が。
 遂に、士郎のことでエヴァンジェリンに食ってかかったのだ。

 『魔力を封印された足手纏いの役立たずはとっとと士郎の腕から降りろ』と。


「…確かに、私は封印されたままで、魔法を使うための魔法薬も今は手持ちが無い」
「なら……!」

 優位に立ったと確信して刹那は喜色を浮かべる。しかしその強気は二秒と保たなかった。
 エヴァンジェリンは、余裕の笑みを崩していない。

「なに、士郎なら大丈夫だ。コイツの力ならば私を守って余りある」
「―――な」

 何だ、その言い分は。刹那は絶句する。
 無力だと責められているのに、それを真正面から開き直って受け流された。
 呆然と立ち竦む刹那を横目に、エヴァは士郎の胸に頭を押し付け、その小さい手でぎゅっと彼の服を掴む。
 そんな己の姿を誇るように、エヴァンジェリンは悦に浸って流し目で刹那を見た。

 ――――見せつけられている。
 刹那は悔しさで顔を真っ赤にした。

「で、ですが…!」
「ほう、刹那。お前は士郎がそんなに頼りないと思っているのか?」
「なっ!?ち、違…そのような事はありません!!」

 「しまった」と思うが到底遅い。駄目の典型。悪手の極み。
 刹那の今の発言は、士郎とエヴァンジェリンが組む事に問題は無いと遠回しに認めてしまったに等しい。

「…なあエヴァ、よくわからないがケンカしてる訳じゃないよな?」
「はははなにをいうそんなわけないだろう?
 お前はもう少し大人しくしていろ、少しばかり調子に乗った小鳥を黙らせるだけだすぐ終わる」
「……小鳥?」

「あ、あのー…チーム分けが決まらないと作戦がー…」
「ちょっと黙っててハカセちゃん!」
「ああピンチや…こんな事になるならもっとちゃんと授業しとくんやった…!」

 士郎が口を挟み、葉加瀬が催促するも、当事者どころか周囲もそれを許さなかった。
 こうしている間にも工学部棟の被害は大きくなっているかもしれず、
 また暴走による茶々丸のAIやボディへの負担も未知数なのだが……。

 なお、木乃香が口にした“授業”とは、『刹那さんと士郎をくっつける会議』こと『朴念仁撲滅会議』のことである。
 開催は既に七回を数えていたが、第三回辺りから単なる愚痴こぼしとか駄弁りながらお菓子を食べたり宿題したりする女子会的な感じに形骸化してきた傾向にあり、今ではまともに機能していなかった。

「わかったな刹那。お前は未熟なぼーやと素人の明日菜に付いてサポートしろ。
 こちらは私と士郎のふたりっきり……いや二人で十分だ」

「いま二人きりって言いましたよね!?明らかに別の目的じゃないですか!!」

「はて。明らか?別の目的?お前は何を言っているんだ?」

「とぼけないでくださいっ!!」

 突破口を探る刹那だが、劣勢は明らかだ。打つ手も無くわなわなと肩を震わせている。
 そんな彼女を尻目に、器用に士郎の腕をよじ登ったエヴァンジェリンは彼の首に腕を絡めて抱きついた。

「―――ふ」
「〜〜〜っ!!」

 上から降り掛かる、勝ち誇った視線。
 地に這い蹲るしかない惰弱の徒の如き己の無力を見せつけられ、刹那はきつく唇を噛み締めた。

 ……なお、当事者の一員である筈の士郎は、すぐ隣にあるエヴァンジェリンの顔を横目で見ながら「今日の刹那、やけにエヴァに突っかかるなあ。エヴァはやたら甘えてくるし」―――と、その鈍感ぶりを遺憾無く発揮している。

「………し…士郎さん―――貴方という人はっ……!!」
「――え、俺っ!?」

 そんな朴念仁ぶりでは、刹那の怒りの矛先が彼に変わってしまっても致し方あるまい。
 この男もある意味で元凶なので同情は不要である。

「そこでしっかり………エヴァンジェリンさんを捕まえていてください!!
 神鳴流―――って何をするんですアスナさん!邪魔しないでくださいネギ先生っ!!」

 顔を真っ赤にしてプルプル震えながら刹那が夕凪を抜いた時点で、明日菜とネギは同時に走り出していた。
 明日菜は背後から刹那を羽交い締めにし、ネギは彼女の腰に抱きついて必死に足の動きを封じる。

「後生です!お願いです放してください!!
 今のエヴァンジェリンさんなら決戦奥義を五、六発ぶち込めば滅ぼせると思いますから!!」

「いやいやいや何を言ってるんですか刹那さんダメですよそんなの!」
「てゆーか決戦奥義ってなに!?凄い物騒に聞こえるけど!!」

 集束した“気”のエネルギーを纏った野太刀をぶんぶん振り回して暴れる刹那を明日菜とネギが必死で宥める。


“バチッ――バチバチッ―――バチチチ……!!”


 二人のすぐ横で、刹那の野太刀が稲光と火花を発散した。
 ―――『雷光剣』。“気”によって電気エネルギーを刀に帯電させて放つ大斬撃。


(あ、これ無理だ)


 明滅する力の具現を目の当たりにし、ネギと明日菜は本能で同じ結論に達した。

 二人は縋るような視線を士郎に向け―――それに気づいた訳ではないが―――その期待に応えて彼は声を張り上げた。

「落ち着け刹那、正気に戻れ!それはこの辺一帯が更地になる!!」
「うわーん!やっぱり士郎さんはエヴァンジェリンさんの味方で私の事なんかー!!」

 逆効果だった。



 ぎゃーぎゃーと姦しい痴情の縺れがもたらす喧騒。
 終わる気配を見せないそれによって、存在を忘れられた一人の男がぽつりと漏らす。

『……あのー、ワシ、もう電話切っていい?』

 そんな学園長の声に言葉を返す者はなく。
 「…後は任せたぞーい…」という寂しげな一言を残して通話は途切れた。





 ◇◇◇◇◇




 その後、彼らはなんやかんやで突入し、茶々丸の暴走はネギによって止められた。
 対外的には、学園広域指導員の資格を持つ士郎と、子供先生ネギの活躍によるものだと説明され、事態は何とか終息する。

 残されたのは……自分達の不甲斐なさと、程度の差はあれ損壊した愛すべきロボット達、そして工学部棟一階の惨状に涙する、麻帆大工学部の関係者達だったという。





 ◇◇◇◇◇




 ―――翌日の朝。
 超包子には、昨日までと同じように働く茶々丸の姿があった。
 ただし髪は今までどおりのストレートヘアーだ。


「いやー昨日はゴメンね茶々丸。研究の事になるとつい周りが見えなくなっちゃって」

「いえ、私も工学部の方に甚大な被害を…」


 へこへこと頭を下げ合う二人を、事情を知らない人々が不思議そうに眺めていた。


「でも……安心してね茶々丸♪ネギ先生の事は私だけの秘密にしておくから!」

「あ……はい、ハカセ」

「そうだ!昨日のお詫びじゃないけど、髪型変えられるように放熱対策を改善してあげるよ!
 関節を隠せるように人肌そっくりの人工スキンも作ってみるから!!」


 言葉だけでは判り辛いが、茶々丸は確かに嬉しげな安堵の表情を浮かべていた。
 それを見て満足そうに頷く葉加瀬は、『娘』のために新たな改修案を次々と脳裏に並べていくのであった。


「んふふ……ねえ茶々丸。ネギ先生のために…えっちにゃこともできるようにしてあげよっか…?」

「いえ、それは要りません」

「即答!?あれー、なんでー!?」

「ハカセ…ネギ先生はまだ十歳ですからそういうのは早過ぎます。
 それに先生はそういう色事を好みません」

「むむ、そっかー。需要と供給が噛み合ってないのかー。
 …うん、わかった。研究は進めるけど実用化はしばらくナシの方針で」

「いえ、研究もしなくていいです」

 ……会話が若干すれ違っているのはご愛嬌、というヤツであろうか。
 どうやらこの親子が真に分かり合える日は、もう少し先のようである。




 ・
 ・
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「ふふ、ハカセちゃんもイイトコあるじゃん」
「やっぱり茶々丸さんの生みの親なんですね」
「茶々丸さん、もっとオシャレできるようになると良いですねー」
「あーん、でも茶々丸さんの恋の相手知りたかったわー」

 ネギたち四人は料理に舌鼓を打ちながら、茶々丸と葉加瀬の様子を温かく見守っていた。

「―――恋。そう、恋……ふふ、本当によかったですね茶々丸さん…ウフフフ」
「ああっ、せっちゃんが真っ白に!?」
「まだ昨日のダメージがっ」

 刹那の全身が白く煤けている。
 霊格は解放していない筈だが、周囲は彼女の背中に大きな翼を幻視する。
 加えて彼女の頭上に輪っかでもあろうものなら、今の刹那は誰が見ても昇天寸前の天使であった。


「やってしまった……我を忘れて他人に斬りかかるなんて伝統ある神鳴流剣士として…いやそれどころか人としてどうなんだろう……何よりそれを士郎さんに見られるなんて…」

「あ、それは大丈夫よ刹那さん」

「えっ?」

 刹那が抱えていた頭を上げると、向日葵のような笑顔を浮かべる明日菜がグッと親指を立てている。

「士郎も気にしてたのよ、刹那さんの様子がおかしかったって。だから…」


“あんたの所為に決まってるでしょ、どうせ気づいてないんでしょうけど。
 士郎、これでもかってくらい鈍感だし”


「…って言ってきた。全面的に士郎が悪いって事にしといたからね。おおよそ間違ってないし」
「―――ええと。それは、その…」

 いいのかな、それ。
 申し訳なさげに眉尻を下げる小動物のような親友に、さらなる策を木乃香が与える。

「あと、せっちゃんに直接謝っておくようにウチからも言っといたんや。
 せやからそのうち顔を合わせると思うんやけど―――その時に、許してあげる条件とか言うてデートに誘ったりしたらええんとちゃうかな?
 ついでに服とか買ってもらえば文句なしや!!」

「デっ!?デデっデートですか!?」

 上擦った声で腰を浮かせる刹那。初心な彼女は、想い人とデートしろと言われただけで頭を沸騰させた。
 …そのため、自分の親友二人が堂々と暗躍していた事実に考えが及ばない。

「流石ねこのか。私、あなたと親友で良かったわ」
「ふふ。ウチもやえ、アスナ」

 パンッと乾いた音をたてて「イエー♪」とハイタッチする二人の少女。
 彼女たち共通の親友であるもう一人の少女は今後に思いを馳せて、にへらっと締まりのない顔でにやけていた。



「……カモ君。女の人って強いね」

 また一つ、世の真理に気づいてしまったネギ少年の悲しげな肩を、
 オコジョ妖精アルベール・カモミールが励ますように優しく叩いた。





 ◇◇◇◇◇




“…あ、ネギ先生達、今日も来てますねー…”

「おお本当アル。もうすっかり常連客ネ」


 五月の言葉にそう答えた超は―――その途端、ニタァッと口角を釣り上げて邪悪に笑う。


「ネギ老師…ククク。
 もはやウチ以外の中華料理を食べられぬ身体になっているとも知らずにネ……。
 二度と戻れぬこのかぐわしき黄泉路よみじへとようこそ……」

“超さん、それ完全に悪い人の台詞です”


 呆れたように五月が言うと、超はさっさと悪人面をやめて屋台の奥へ引っ込んだ。


「構わないヨ――――私は、悪のラスボスだからネ」


 ……だとしたら、それを倒す『主人公』は誰なのだろう?

 自問して薄く笑う超の視線は、ネギ・スプリングフィールドを見つめていた。







<おまけ>

近右衛門
「…後は任せたぞーい…。ふぅ…」

 学園長室備え付けの電話本体に、近右衛門はガチャリと受話器を戻した。

しずな
「………学園長先生。先ほどの件ですが」

学園長
「む、何じゃったかの?」

 控えていた部下に顔を向ける。
 彼女の言う「先ほどの件」がなんの話だったか見当がつかず、近右衛門が逆に聞き返す。
 するとしずなは少しだけ小首を傾げ、品の良い柔らかな笑顔で説明した。

しずな
「先ほどの電話で、学園長先生がご自分について仰った話ですわ」


 ――――ふぉっふぉっふぉ、ワシはいつでもイケメンじゃよっ♪


しずな
「それはないと思います」
近右衛門
「しずな君!!?」

 そんなやり取りがあったとか、なかったとか。



<おまけ2>

明日菜
「もう何なのよあの抱き上げ方。見てるこっちが照れちゃうわよ、あー顔熱い」
士郎
「寝てる時は首が据わってないからな。変な抱き方すると何処か痛めそうで怖いだろ?」
エヴァ
「それは寝てる時の話だろうが。今は起きてるぞ」
士郎
「いやあ、いつもの癖で」
エヴァ
「全く、人がいつも寝ているような言い方を…」
ネギ
「そういえば授業の時いつも居眠りしてますよね。ちゃんと夜寝てますか?」
エヴァ
「!! ぼ、ぼーや!余計なことを…」
士郎
「……ほう。じっくり話を聞かせてもらおうかな、エヴァ?」
エヴァ
「ち、違うぞ士郎!?
 ぼーやは何か勘違いを―――やめろ、吸血鬼だから昼に眠くなるのは仕方ないんだぁぁ……」

 シロウ と エヴァンジェリン は すがた を けした。
 しかし翌日、教室で真面目に授業を受けるエヴァンジェリンの姿が!

エヴァ
「私が悪かった…だから頼む…夕食を一人ぼっちでカップ○ードル食べさせるのだけはやめてくれ…!」

明日菜
(あのエヴァちゃんが…あんな…目を剥くほど必死に授業を…!?)
木乃香
(これが…シロウの本気…!)

裕奈
(……な、なにこの空気)
まき絵
(うえーん、ネギくーん)

 エヴァンジェリンが鬼気迫る様子で授業を受けるという異様な光景に、3−Aクラスはピリピリとした緊張感に支配されて誰も私語を口にしなかった。


(エ、エヴァ殿はどうしたでござるか…?)
真名
(未曾有の大災害が麻帆良を直撃するかもしれん)
刹那
(……原因は昨日の晩ご飯だって言っても、誰も信じないだろうなぁ)

ネギ
「いやー、今日は皆さん真剣に授業を受けていて良いですね!」

 この時3−A一同は、上機嫌なネギの笑顔がとても憎らしく見えたという。






<あとがき>

 今回はとにかくギャグです。作者の頭のネジがいつもより二〜三割ほど外れた結果です。特に刹那。
 そして刹那をそこまで追い詰めるための展開上、士郎とエヴァのイチャイチャ度が上昇しておりま……してるかな?なんかいつもこんなだった気がしてきた(汗)
 えー、コホン。話を戻します。
 今回、ラブコメ的なノリだという点では原作ぽいと言えなくもないと思うんですが、そういう事で手打ちに―――というかご容赦の程をよろしくお願いいたします。
 そして主人公(士郎)の影が薄いのはこの小説ではよくあること。
 メイン茶々丸、サブ刹那だから仕方ない。うんうん。


〜補足・解説〜

>エリアT
 原作を見ると、麻帆大工学部はおおよそ三十階近くあったので、この小説では三十階と設定。
 そして三階ごとに十のエリアに分けてセキュリティ管理されています。
 つまり今回問題が起きた一階はエリアTに属するので、一〜三階が丸ごと封鎖されました。

>隔壁
>超硬鋼合金シャッター
 隔壁は、廊下を細分化して分断する分厚いカベ。シャッターは、内部と外部を遮断するために、窓など外に面している壁などに対して実装されている……という設定です。
 これらが一階ごとに作動するようになっていないのは、予算不足やセキュリティ管理責任の押し付けが起きたりなど色々な理由があったりする。

>正面玄関及び四階下り階段前に集結せよ!
 先述したとおり三階ずつエリア区分されているので、三階より上にいた捕獲班等の人々は隔壁に阻まれ、四階で待機せざるを得ませんでした。

>私も知っているぞ。ロボットアニメというヤツだな
 どうしてエヴァがロボアニメを知っているのか、それは葉加瀬の仕業です。
 葉加瀬と超に技術協力して茶々丸を開発する際、科学は専門外だと言って興味を示さなかったエヴァンジェリンに対し、少しでもロボット工学へ興味を持ってもらおうと、葉加瀬が知人の持つロボットアニメビデオ(時代設定的にまだDVDは普及していない)をエヴァに視聴させたのである。
 いい暇潰しになるかと思って一応すべて観たエヴァは、どんな意図での発言かは不明だが「労力の無駄遣いだな」という感想を口にしたという。

>思考回路はショート断線
 言うまでもなく、元ネタは月に代わってお仕置きする美少女戦士のアニメED。
 歌詞と微妙に違うのは一応の配慮です。
 しかしまさか、思考回路がショートしかけたのはロボ子だけではなかったとは!美少女剣士も忘れずに!(ステマ

>なぜ自分が髪型を変えようなどとと思考したのか
 結局ここは原作でも明確なフォローは無かったんですよね。
 ただ、茶々丸自身も明確な理由を持っていなかったとするなら、「何も考えず=その時の気分で」髪型を変えようとした茶々丸の思考はだいぶ人間らしくなっている、とも考えられますね。
 ロボットの思考は効率的、生物の思考は無駄ありき。
 でも木乃香の指摘が一番正しいんだろうなぁ>オシャレしたかった

>胸の主関部がドキドキして
>モーターの回転数
 この話を書くにあたって単行本を読み返した時、「茶々丸のドキドキってモーターの回転なんだ…」と、何とも言えない気持ちになりました(笑)
 いやー、読み込みが足りないなー。要精進です。

>タクシー代わりの瞬動使い
 なお、エヴァが士郎を連れ出す時に「なに、俺には店とお客様が?お前はいったい私と仕事のどっちが(以下略)」という、以前にもあったような遣り取りを交わしたとか。ちっ、仲のよろしいこって。

>私が手ずから用意した逸品
 全て手縫いで作られたオーダーメイドの特注品。
 チクチクちまちま、従者のために丹精込めて真心篭もったお洋服です。
 茶々丸曰く「気持ちはとても嬉しいのですが、くれるタイミングが最悪です」とのこと。

>エヴァンジェリンまで敵に回す
 お手製の服をノリノリで茶々丸の実験に提供する=葉加瀬の共犯者、という図式。
 ただ、エヴァが実際にどれほどこの実験に入れ込んでいたかは不明なのだが、士郎の方針は「いのちをだいじに」であった。

>自力でコマンドプログラムを書き換えたというの…!?
 この小説に限り、茶々丸は過去に似たようなことをやっています。
 (受けた命令を自分の都合の良いように解釈した。第三章-第31話を参照)

>十四歳
 葉加瀬の誕生日は七月十四日なので、この時点ではまだ十五歳になっておりません。

>葉加瀬が関係各所に状況の説明と謝罪に走り回っている
 騒動の後、一番の当事者である葉加瀬と茶々丸への処分は厳重注意に留まった。
 これは『絡繰茶々丸』が「魔法と科学のハイブリット技術」という、麻帆良学園―――の正体である関東魔法協会―――にとって重要な研究であるため、学園長の鶴の一声でお咎め無しになったという面が強い。
 しかし今回の暴走で茶々丸のポテンシャルの高さが実証され、逆に彼女の評価が高まったからという側面もあった。「あれほどの性能を持つロボットを生み出す研究を凍結するなど以ての外」―――そんな意見が多く寄せられたという。
 それを耳にした葉加瀬は「やはり麻帆大工学部のお歴々は違いますね!」と歓喜し、学園長は「そういう見方もあるか」と感心し、士郎は「やっぱりあそこの研究者たちはおかしい」と頭を抱えた(そのお陰で茶々丸に処分が下されなかったので文句は言えなかった)。
 こうして葉加瀬研究室は無事存続し、絡繰茶々丸は次の日も3−Aクラスに出席した。

>ネギも罪作りだな
 現在士郎が把握している、ネギに好意を抱いている人物はのどかと茶々丸の二人です。
 士郎、もっと増えるんやで!そしてお前は他人のこと言えないがな!!

>ワシはいつでもイケメンじゃよっ♪
 なおこのジジイ、このとき受話器の向こうで「ばちこーん☆」とウインクをかましている。

>内心で喝采を挙げていた
 この時、木乃香は「今日の晩ご飯はお赤飯やなー♪」とか考えてました。

>見せつけられている。
>「―――ふ」
エヴァ
「やはり刹那は弄り甲斐があるな(ぼそっ)」

>少しばかり調子に乗った小鳥
 刹那=白烏である事から転じた暗喩。

>今のエヴァンジェリンさんなら決戦奥義を五、六発ぶち込めば滅ぼせる
 この判断は頭に血が上った刹那の浅慮。
 真祖の吸血鬼が持つ再生能力は本人の魔力の強さに左右されるものではない。
 刹那がこの台詞を口走った時、エヴァは内心で「m9(^Д^)プギャーwww」という気持ちだった。
 しかし魔力を封印されたエヴァは体力が落ちて風邪はひくし花粉症持ちだし、これは刹那に見くびられても致し方なし…?

>正気に戻れ!
 実際に正気に戻った後、刹那はひたすら自己嫌悪に陥って落ち込んだ。
 あまりに小さくなっているので士郎が彼女の頭を撫でて励ますと、サイドテールがピコピコ揺れて面白いくらい元気になったという。
 しかし今回の件を経て奥手な刹那も、自己主張とか積極性というものを実感として学んだらしく、この反省を生かして「次こそは」と張り切っているらしい。
 なお、その「次こそはどうするのか」という具体的なプランは持っていない模様。

>彼らはなんやかんやで突入し
 結局、「ネギ&明日菜」と「エヴァ・士郎・刹那」の組み合わせでチームを組むことに。
 前者は息のあったコンビネーションで茶々丸に肉薄したが、後者は女性二人の口論が激しく火花を散らしたため、茶々丸の進路を塞ぐ以上の役割を果たせなかったという。

>学園広域指導員の資格を持つ士郎
 士郎が麻帆良学園広域指導員の資格を持っているって、今まで作中で描写していましたっけ?
 してなかったとしたら、そういうことです、という事でお願いします(えー
 以前に小説家になろう!の活動報告記事で明言した事は記憶に覚えてるんですけど。

>真面目に授業を受けるエヴァンジェリン
 しかしその姿勢は一週間も保たなかったとさ。
 でもお人好しの士郎はさっさと彼女を甘やかして何も言わなくなったとさ。

>原因は昨日の晩ご飯
 朝っぱらから負のオーラを背負って登校してきたエヴァの様子を訝しんで茶々丸を問い詰めたので、明日菜、木乃香、刹那の三人は事情を知っていた。
 刹那は事情を聞くと少しだけ前日の溜飲を下げたとか。



【次回予告】

「今この学園に問題が起きておる―――解決のため、諸君らの力を貸してほしい」

「ネ、ネギ坊主……丁度良かった、助けてくれないカ。
 私…悪い魔法使いに追われてるネ」

「……で、何があったんだ?聡美ちゃん」
「え、えへへー…」

「いやいや、聞いていた通りの人みたいだネ、衛宮サン。
 無茶と理想と正義が大好きな、馬鹿が付くほどのお人好し。
 目を離したら世界中を飛び回って人助けを始めそう―――エヴァンジェリンに聞かされていたとおり」

「麻帆良祭の始まりだーーーーーーーっ!!」
「いえーーーーーい!!!」


 ―――明日。麻帆良祭が開催されるその日を迎える。


「貴様は最初の願いを忘れているぞ?衛宮士郎。
 足元も見えていない今の貴様では誰を救うことも出来はせん。
 よしんば何かを拾えても……決定的に、大事な何かを取り零しているだろうさ」

「―――魔法世界。行くなら好きにするがいい」


 次回、『ネギま!―剣製の凱歌―』
 第三章-第53話 麻帆良祭前日/波乱の予兆(仮)


 それでは次回!

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