そこは地獄だった。空には黒き漆黒の太陽、地には醜く体を晒すリビングデッドや竜の牙から生まれた竜牙兵。そして石のような存在に支えられた人間の姿。
そしてその中で激しく燃え上がる場所があった。
生きる屍や竜牙兵の残骸の山にその人物は座っていた。その人物は青きローブを羽織り、ドルイドと呼ばれる北欧魔術の一つであるルーンを刻んだ物を持っていた。
「……ったく、なんでこうなっちまったんだよ。なあバゼット……俺はどうすればいい?」
彼は嘆く……英霊である自分の主であった女性……バゼットの形見であるフラガラッフと呼ばれる刃物を手に持って呟いた。
何かが飛んでくるのを察知して、即座に立っていた場所から移動すると直後に爆発が連鎖的に響いていった……。
──────────────────────────────────
「っああああ!!」
夢を見終えたしんのすけは恐ろしさ故に飛び起き、呼吸を整えていた。
目の前に映るのは真っ白な部屋で、寝ていた場所はベッド、部屋にはしんのすけの私物等や本などがあった。かすかべから飛び出した後の記憶がないが恐らくずっと寝ていたのだろう。ギルガメッシュが言っていたカルデアという施設に到着できたようだ。
「あ、起きていた……って大丈夫かい!?」
「だ、大丈夫だゾ……お姉さん……いやなんかおじさんっぽい感じがするゾ?」
丁度入ってきた人物に心配されながらもしんのすけはベッドから降りた。入ってきた人物は完成された女性……しんのすけも何処かTVで見たような人なのだが、何だか性別というのか……雰囲気がおじさんという感覚がしていたのだ。まるでおとぎ話のような服装……複雑なドレスに左腕に装備された巨大なガントレットとクリスタルを取り付けた輪を付けた巨大な杖……最早これでは誰だかわからない。だが性別だけはズレているのはしんのすけには分かっていた。
「あははは!!まさか所見でバレるとはね……流石かすかべ防衛隊隊長くん、いや救世主かな?私こそかの伝説的活躍をしたありとあらゆる分野に特化した”万能の人”であるレオナルド・ダ・ヴィンチさ!!」
レオナルド・ダ・ヴィンチ。歴史に名を残す偉大なる万能の人である……最大の特徴はありとあらゆる分野に特化した才能を持ち、近代科学に通じる知識や技術的見解も発表している。
が、美に対する話は名画『モナ・リザ』で有名だがまさかモナ・リザそのものになるとは誰も考えないだろう。
「もしかして、映画の題材もなってたおじちゃんなの?」
そのとーり!と笑顔を浮べながら彼?彼女?は自己紹介をした。
「改めて始めまして野原しんのすけくん。私はここ……国連直轄組織である人理継続保障機関フィニス・カルデアで召喚されたサーヴァント3号のレオナルド・ダ・ヴィンチ……
魔術師のクラスで召喚されたんた。因みにこの姿は私の作品で有名なモナ・リザをモデルに身体を変化させたんだ!君も可愛い女性……まあ綺麗なものや人は好きだろう?」
「うん、オラ大人のお姉さんは大好きだゾ!」
「だから私も憧れ……その果てに今に至ったのさ!因みに呼び方としてはダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ!」
「わかったゾ!……ってあれ?父ちゃんと母ちゃんにみんなは?」
「そうだったね……彼らは今仕事をやってもらってるんだ……ひろし君は資源管理を、みさえさんは食料管理の為に行動してもらっている。ひまわりちゃんは私の知り合いのドクターが面倒を見ている。シロ君は不審物がないかを君が呼び出したサーヴァントと共に探してもらっている……そして君はこれから話があるから聞いてくれ」
話というのはこれから行うことであった。
ここカルデアは本来相成れない魔術と科学が協力し合い、人類の未来を守る為の組織なのだが今年のとある時期から100年先まで見えた未来が消滅してしまった。その為国連からの命令ですぐ様原因を特定するように命令された。
「すると2004年の日本の地方都市……サーヴァントを使った万能の願望機である聖杯を奪い合う……後に『第五次聖杯戦争』と名付けられた儀式が発生した時期に異常を感知……更にそこから幾つもの同じ反応が様々な歴史……人類史に対する分岐点に出現……正体はどれも先程言った聖杯さ」
「ふむふむ、つまりオラはその聖杯っていうコップをとりに行けばいいんですな?」
「まあね、だけど今回は48人も同じ行動をしてもらうはずだったんだけど……うちの所長がね、癇癪持ちでねー?その中の君と同じ一般人の候補者が外されちゃってね……まあそのうち会うから仲良くしてほしいんだ」
「んー?ダ・ヴィンチちゃん、オラは?」
「それがね……参加者は魔術の名門ばかり集まってねー、プライドばかり高い奴ばかりだったから君を外せって煩くて今回はお留守番さ……まあ勿論君たちの味方をした人も今回はカルデアに残ることになったよ……確か衛宮 士郎、彼もサーヴァント保持者だ……なかなか面白いじゃな─ ──────」
響く爆音と衝撃。明らかに異常な衝撃によりカルデアの中は瞬く間に地獄と化した。廊下に飛び出したしんのすけとダ・ヴィンチちゃんはその様子を見てしまった。
燃え盛る廊下は所々が崩落しており、血の跡や吹き飛んだ人体の一部が見つかっていた。激しい吐き気に襲われるがしんのすけは耐えた。
「これは明らかに人為的な爆発……まさか!……しんのすけ君は転移室を目指してくれ!私はドクターを探してくる!カルデアスの火は消させない!」
「ひまわりを頼むゾ!」
即座に動き出した二人は同時に駆け出した。しんのすけは途中で見た地図を頼りに転移室を目指していた。だが途中で後少しという所で入口が瓦礫に埋もれてるのを見てしまった。
「むう、これじゃあ通れないゾ!「そこをどけマスター!」オジマンディアス!」
「ファラオたる余の道を塞ぐではない!」
オジマンディアスが現れ、手に持つ杖を指すと空間から放った熱線で瓦礫を消滅させた。
「よし、余はまだやるべき事があるのでな……セイバーとアーチャーとアサシンとランサーとキャスターを呼んでおけ!」
「うん!きてモードレッド、ギルガメッシュ、エミヤおじさん、じいちゃん、アルトリアお姉さん、マーリン!」
部屋の中へと入りながら何故か1角復活した令呪を使ってライダーとルーラーを除いた全員を呼んだ。部屋の中は巨大な地球儀……途中で見た地図にはカルデアスと呼ばれていた物体がまっかに染まり、瓦礫がそこらかしこに散乱していた。
「っく、こりゃひでぇ!」
「大部分のマスター候補者は壊滅か?「お前はギルガメッシュ!?」む!貴様は
贋作者!」
モードレッドが中の惨劇を嘆き、ギルガメッシュが状況を調べる中で声が聞こえたので振り向くと一人の少年がいた。
ギルガメッシュが贋作者と呼んだこの赤髪の短髪少年こそ、ダ・ヴィンチちゃんが言っていたマスター候補者の1人であり、なおかつ第五次聖杯戦争の勝者で嘗てこの英雄王を倒した人物……衛宮 士郎である。
「なんでお前が!?まさかマスターがいるのか?「オラだゾ」ってダ・ヴィンチちゃんが言っていた子供!?」
「オラは野原しんのすけだゾ、衛宮の兄ちゃんはここで何をやってるの?」
「っ!!そうだこっちに来てくれ!」
衛宮 士郎に促され向かったところには瓦礫に埋れた少女を助けようとしている少年とサーヴァントがいた。
「マシュ!しっかりしろマシュ!……生存者が来てくれたか!」
「どうだライダー?」
「……この傷ではもう助かる見込みは……ゼロです……って英雄王!?」
「久しぶりだなライダー?いや……メデューサよ」
救助作業を行っていた人物は嘗ての第五次聖杯戦争にて最後の生き残ったサーヴァントである
騎乗兵のサーヴァント……真名はギリシャ神話のゴルゴン三姉妹が3女のメデューサ。ギョッとしたが直ぐに瓦礫に埋れた少女への対応へと戻った。
「みんなでガレキを退かすんだゾ!「駄目だ」なんでだゾ、エミヤのおじさん!」
「迂闊に動かせば、体内の出血がひどくなり下手したら体が千切れるぞ!」
エミヤと呼んだ時に衛宮 士郎の目が驚愕に満ちた。
「エミヤ……!?だけどアーチャーじゃなくてアサシンの反応だし……」
ズゥンと鈍い音が響くとさらに激しい音が響いた。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において人類の痕跡は発見できません。人類の生存は 確認できません。人類の未来は保証できません。人類は滅亡しました』
人類の痕跡が見られない……人類は滅亡した。この言葉に全員が唐突に衝撃を受けた。
考えられるのは先ほどの大規模爆発……外からの衝撃も含む為に世界全域に攻撃が行われたと思われる。
「ちょ、ちょっと待てよ!人類が滅んだならなんでカルデアにいる俺たちは生きてるんだよ!?」
「……このカルデアは今宵の人類の全てを賭けた砦故に、耐えられるのだろう……それにこの施設にある物体により『世界同時攻撃により同時に人類は滅びた』という結果から『同時』という時の流れからこのカルデアは外れた。だがこのカルデアで確認できる生命は我らサーヴァントと誓約者達含む誓約者の家族含む人間20数名のみ、他数百名のうちマスター候補は瀕死……それ以外は死んだ」
「……じゃあかすかべのみんなも……秋田のじいちゃん達も……」
「なんだよそれ……巫山戯んな……巫山戯んなクソったれ!!」
しんのすけは山の翁の話の内容に絶望を感じた……外の世界でつまりかすかべの知り合いやこれまでに出会ったすべての人々が全員殺されたというのだ。
モードレッドもやるせない気持ちでいっぱいだった。いや全員がそうなのだろう……明らかに平和な世界が突然滅ぼされたのだ。何らかの罪や危険行為を繰り返していた者は罪を被って死ぬか殺されるのが一般的だが、今回は殺される意味の無い者たちも含めてこのカルデア以外の全てが殺されたのだ。
「カルデアスが……真っ赤になっちゃいましたね……皆さんは逃げて……下さい……」
「ええい、もう諦めモードか貴様!ならばこの瓦礫を我が至高の宝具で消し飛ばしてくれ─────」
自分たちが通ってきた入口が上から降りた新しい隔壁によって遮られてしまった。ギルガメッシュはすぐ様に宝具を放ち破壊を試みるがむしろ跳ね返されてしまう。
「何!?」
「カルデアの隔壁は……宝具より……頑丈に…………出来てますから……」
やりようがなくなった部屋の中で嫌な空気になるのが理解していく……だがしんのすけとマーリンを除いてだ。
「そういえばお姉さんたちだれ?」
「マシュ……キリエライト……で……す……まさか例の……新たなマスター候補者?」
「うん、オラ野原しんのすけ。そっちのお兄ちゃんは?」
「俺は藤丸立花マシュの……『先輩』だ。それでそっちが」
「衛宮 士郎だ。元第五次聖杯戦争参加者の1人にしてライダーのマスターだ」
「ライダー、真名メデューサです……藤丸、マシュの手を握ってあげてください……よければしんのすけも「ちょっと失礼するよ」っまさか宝具!?」
先程から黙りを決めていたマーリンは大量の魔力を放出しながらマシュの方へと歩いていった。サーヴァントの隠し技である宝具を発動するのだ。
「王の話をするとしよう。星の内海。物見の台うてな。楽園の端から君に聞かせよう。君たちの物語は祝福に満ちていると。 罪無き者のみ通るが良い。
永久に閉ざされた理想郷!!」
燃え盛る部屋に小さな花々が咲き誇り、多少ながらマシュの傷を癒していく。遥か彼方の理想郷を補助用の結界として展開するのがマーリンの宝具ガーデン・オブ・アヴァロンである。
「このまま死なせるのは嫌だからね!花の魔術師としての力で傷を少しでも癒そう!」
「……花の魔術師……まさかあのマーリン!?」
「僕は分霊みたいな者さ。本体はアヴァロンで別の作業をしてるよ……まあボクは本体と意識は繋がってるから本物であることには変わりはないよ」
すると警報音とは別の音声がしんのすけの耳に聞こえてきた。
『コフィン内マスターのバイタル基準値に 達していません。レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中・・・・発見しました。適応番号48藤丸立香。適応番号47番衛宮 士郎。適応番号49番野原しんのすけをマスターとして 再設定 します。アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します。』
マシュを握る手が強くなった……気づけばこの場にいた全員が手を握ったのだ。何かが起きることだけを理解して、離れない様に固まったのだ。
「せん……ぱい。みな……さん…………どうか手を離さないでください……」
『3、2、1!ファーストオーダーの実証を開始します』
誰もが体が細かく刻まれて飛んでいくような感覚に飲まれながら世界を超えて行った。
超えた世界は……少年にとって始まりの場所だ。空には黒き太陽が世界を照らす。しんのすけは夢の中で見た光景だと思い出した。
「ねえ、此処は何処?」
「……俺、衛宮士郎の始まりの場所であり」
「そしてボク、衛宮切嗣の終わりの場所」
特異点F……炎上汚染都市冬木……歪んだ聖杯の果てに今宵は何が起こるのだろうか?