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Fate/Silver or Heart 第三訓:虫【むしとり】
作者:亀鳥虎龍   2018/01/04(木) 19:31公開   ID:N.Js9IKYFA2
 万事屋メンバーの一員となった翔太郎とフィリップ。

二人は銀時達に、ガイアメモリやドーパントの情報を伝える。

「つまりメモリを使うと、人が凶暴な怪物になるという事か」

「まあ、単純に言えばそうなるわな」

「お前等やユーリ達を飛ばした奴も、この世界にいんのか?」

「恐らくは…」

深く考える一同であったが、まさにその時であった。

「ん……」

銀時が天井を見上げた瞬間、まさにその時である。

天井から奇妙な歪みが出現し、

「ギャァァァァァァァァ!」

「え!?」

二人の男女が、彼の真上に落ちて来たのだ。

ドスンと二人は着地し、銀時はその下敷きになってしまった。

「な、なんだ!?」

これには翔太郎達が驚くが、男は楽しそうに笑う。

「フハハハハ! 上手く成功したではないか♪」

「アホか! もし地獄とか宇宙だったらどうするつもりじゃぁぁぁ!」

しかし少女の方は、怒号を上げながらツッコミを入れる。

「ホントに、何なんだ!?」






―虫【むしとり】―






 脳噛ネウロと桂木弥子は、銀時達に自分達の状況を説明した。

ネウロが魔人であることや、弥子が彼と出会って探偵になった事。

そして最後に、旅行でこの世界に来た事までも話した。

「いや〜、中々面白い世界ばしょではないか。 ヤコ、来て正解だったな♪」

「どこがだよ!」

既にエンジョイしているネウロとは逆に、弥子は即座にツッコミを入れる。

「しかし我が輩としては、世界の裏側に行ってみたかったな」

「なに、その“世界の裏側”って?」

「居場所を失くした幻想種――例えばドラゴンや幻獣が住んでいる世界だ。 とは言っても、我が輩は未だに行った事がないのだがな」

「えっ、ネウロも行った事がないの!?」

ネウロですら見た事がない世界があると知り、流石の弥子も驚く。

「ふむ。 しかし魔界では、ある都市伝説が存在するのだ」

「魔界にも都市伝説があるんだ……」

「なんでも一匹の竜を探すために、たった一人で世界の裏側を探し求めた女がいるというのだ」

「どんな都市伝説だよ!? それが本当だったら、魔界でも十分生きていけるよその人!」

因みに、この会話を聞いたジークとジャンヌは…、

「ジャンヌ…もしかしてそれって……」

「は、はい…。 恐らく、私達の事ですね……」

まさか自分達が都市伝説になっている事を知り、内心で驚くしかなかった。

「しかし魔人に会えるとは思わなかった。 脳噛ネウロ、今度話しを聞かせて欲しい」

一方でフィリップは、魔人を前にして好奇心が治まらずにいる。

「というか、ネウロ。 正体をばらしてよかったの?」

「ふむ。 コイツ等は十分に信頼は出来ると判断出来た。 だから正体を隠す必要はないと思っただけだ」

「おい…まさか、お前等も住みつく気じゃあねぇだろうな?」

「嫌か?」

「当たり前だ! 流石にそこまでは――」

全力で嫌がる銀時であったが、ネウロは人さし指を口元に当てながら、

「嫌か?」

しょんぼりした顔を見せる。

だが、コレを見た銀時は、

「(断ったら、殺す気だ!)」

直感で命の危機を感じ取ったのだ。

「わ、分かった」

「お〜、分かってくれるか♪」

「今、脅してなかったか?」

「脅してましたね」

コレを見たユーリと新八は、ネウロを敵にしないようにしようと誓う。

こうして再び、万事屋に新たなメンバーが加わったのであった。






 新メンバーが加わって3日後、事務所では……、

「カブト狩りじゃぁぁぁぁぁ!」

麦わら帽子を被り、虫取り網と虫籠を装備した神楽が叫んだ。

「カブト狩りじゃぁぁぁぁ!」

しかし銀時達は、全く反応がなかった。

「カブトムシ欲しいアル! こないだ勝負に負けて、私の定春28号が取られたアル! というワケで、カブト狩りに行きたいと思います! どうですか皆さん!」

「どうですかって、一人で行って下さいよ」

面倒くさそうに答えた新八であったが、神楽の鉄拳が飛んで来た。

「バカメガネぇぇぇぇ!」

「メガネ取れたぁぁぁ!」

「はいはい、うるさいよ」

そんなやり取りを横目に、銀時は呆れた顔を見せる。

「今度はでっかいヤツを捕まえて、あの憎いアンチキショーをやっつけてやるネ!」

子供達の間で、カブトムシ勝負が熱中しており、神楽もその中に混じっている。

しかし最近、勝負で任した子供達から、カブトムシを巻き上げている“カブト狩り”と呼ばれる男がいるらしい。

遂に神楽の元にもその人物が現れ、勝負に敗北したのだ。

リベンジに燃える神楽だが、今度はランサーが口を開く。

「因みに神楽の嬢ちゃんが飼ってた定春28号だがよ、あれってカブトムシじゃなくてフンコロガシだろうが――」

「だまらっしゃぁぁぁぁぁい!」

「グボォ!」

しかし彼女の鉄拳を喰らい、ランサーは容赦なく吹き飛ばされる。

「お前等にはもう、少年の心というのは無いアルか!?」

叫ぶ神楽に対し、銀時は頭を掻きながら答えた。

「あのな、神楽。 今時、カブトムシを取りに行きたいと思う奴なんざいるわけねぇだろ?」

新八も「同感ですね」という顔を見せる。

だが、そんな彼等の予想を覆した人物がいた。

「ヤコ、カブト狩りに行くぞ♪」

麦わら帽子を被り、虫取り網を手に持ったネウロだ。

無垢な少年のような顔を見せながら……。

「………」

コレを見た銀時は、「ここにいやがった…」という顔を見せてしまう。

「アンタ、どうせカブトムシを取るのが目的じゃないでしょ?」

長い付き合いである弥子は、すぐさま彼の真意を求める。

「ふむ、実はな……」

今日の新聞を広げ、ネウロはある記事を大きく見せた。

「なになに? “森で謎のガスが発生! 鳥が飛行中に落下”……。 これがどうしたの?」

「実はな、この記事が事実なら、おそらく瘴気が漏れ出している可能性があるのだ」

魔人であるネウロにとって、瘴気は地上でいう『酸素』の様な存在。

彼が地上で生活をする事は、“長い時間海底でアワビを取ろうとする”事と同じであるのだ。

「それで、私達もついて来いって言うのね」

「フハハハハハ…分かってるではないか」

「まあ、別に行っても良いけどさ」

「言っておくが、俺ぁ絶対ェに行かねぇぞ」

当然の様に同行すると言った弥子とは逆に、銀時は頑なに行かないと告げる。

しかしネウロは、こんな事を言ったのだ。

「そう言えば、この時期のカブトムシは、高く売れらしいぞ? 状態の良いものなら、一匹で一軒家が買えるほどの金額だとか……」

「!?」

それを聞いた銀時は、即座に立ち上がり、

「カァァァブゥゥゥト狩りじゃァァァァ!」

その場で吼えたのであった。

「フッ、チョロイな」

この光景を目にしたネウロは、銀時のチョロさに不敵な笑みを浮かべ、

「(うわっ、外道だ)」

弥子は内心でツッコミを入れたのである。






 件の瘴気が漏れている森へと踏み入れた銀時達。

何時もの格好に麦わら帽子で、虫採り編と虫籠をフル装備。

但し、翔太郎だけはソフト帽だ。

「おい、オメー等! 狩って狩って狩りまっくて、売って売って売りまくるぞ!」

うざい程のやる気満々の銀時に、言い出しっぺの神楽も若干引き気味になる。

「銀ちゃん、私は定春28号の代わりが見つかればそれで――」

「いいか、お前等! 巨大カブトを見つけるまで、帰れると思うなよ! こっちはビジネスでやってるからな、ビジネスで!」

純粋な少年の心とかではなく、薄汚い大人の欲望が全開の銀時。

「いいか、カロル。 ああいう大人には、絶対になるなよ?」

「むしろ、悪い大人の見本として勉強しときなさい」

「いや、あんなの見たら、こっちから願い下げだよ」

これにはユーリとジュディスも、カロルに「影響を受けるな」と念を押した。

因みに当の本人は、絶対にならないと誓う。

同じく、新八も神楽に声をかけていた。

「神楽ちゃん、金に目が眩んだ銀さんは傍若無人だ。 とにかく、カブトムシを捕まえればそれでいいんだろ?」

「……分かったアル」

「森は魔物だ…何が起こるかわからないからな。 気を付けろ」

「はいはい」

こうして彼等は、森の奥を歩き続けるのだった。






 カブトムシを探して1時間が経過。

しかしカブトどころか、アリの一匹も見つからなかった。

「案外見つからないもんアルな。 もっと簡単に捕まえられる方法はないアルか?」

神楽がそう言うと、銀時がこう言ったのだ。

「体中に蜂蜜塗りたっくれば、すぐ寄って来るはずだ」

「いや、何で木じゃなんだ?」

この発言に対し、ジークも呆れ気味にツッコミを入れてしまう。

「そうですよ。 大体、そんなことする人は変態じゃないですか――って、えぇっ!?」

ジャンヌも呆れていたのだが、思わず目にしたものを前に顔が真っ赤になってしまう。

そんな彼女に続くように、銀時達もそれを目撃してしまった。

「………」

褌一丁の男が、全身蜂蜜塗れで立っていたのだ。

両手を横にまっすぐ伸ばし、片足だけで立っている。

誰がどう見ても、“変態”という言葉がお似合いであった。

しかし同時に、新八が変態の正体に気付く。

「アレって、まさか……」

「新八、知り合いか?」

ユーリが尋ねると、新八はジト目で答える。

「真選組局長の、近藤勲さんです」

近藤勲……幕府特別武装警察『真選組』の局長を務める人物。

似ているのか、大半の人から“ゴリラ”と呼ばれる事が多い。

だが新八にして見れば、姉のお妙を狙うストーカーでもあるのだ。

但し、その姉が容赦ない鉄槌を下しているが……。

この光景に銀時達は、恐る恐る彼に近づいた。

「何してるの、ゴリラさん?」

銀時は声をかけると、近藤はすぐさま答えた。

「見ての通り、私は樹木だ。 話しかけても無駄だ」

「見ての通り樹木に見えないから話しかけてるんですよ」

自分を樹木だと言い張る近藤に、新八は呆れながらツッコミを入れる。

「蜂蜜の塗り過ぎでてっかてかアル」

「つーかアンタ、それはどう見ても“”にしか見えねぇぞ」

これには神楽や翔太郎も呆れるしかない。

「江戸の警察、真選組の局長がこんなことしていいんですか?」

「銀ちゃん、木は喋らないアルよ」

「よし。 気味悪いから、見なかった事にしよう」

それだけ言うと、万事屋一行は素通りをする事にしたのである。

「綺麗です、近藤さん」

とりあえずフォローの言葉をかけ、新八も素通りする事にした。





「大丈夫か?」

「ええ…。 しかし、どうしてあんな格好だったんでしょうか」

恥ずかしいものを見てしまったジャンヌは、素通りするまでジークの後ろに隠れていた。

まあ、気持ちは分からなくもない。

そんな中、新八は深くため息をする。

「それにしても、嫌なものを見てしまいましたね」

「妖精という事にしておこう。 アレは樹液の妖精だ、ああやって森を守ってんだよ」

妖精で片付ける銀時に、新八は再びツッコミを入れる。

「いや、明らかにアレは近藤さんでしたよね?」

「そうアル銀ちゃん。 アレはゴリラだったね」

「じゃあ、ゴリラの妖精だ。 ああやってゴリラを守ってんだよ」

「いや、ゴリラを守り意味が分からん――なっ!?」

今度はアーチャーがツッコミを入れるが、彼女はあるものを見て青ざめてしまう。

「えっ?」

彼女が目にした方向に、銀時達も視線を向ける。

前髪がV字カットで煙草を加えた男が、バケツに入ったマヨネーズをハケで木に塗りまくっていた。

全員が唖然とする中、ジークが新八に問う。

「新八、彼も知り合いか?」

「真選組副長の、土方十四郎さんです」

土方十四郎…真選組のナンバー2で、『鬼の副長』の異名を持つ。

仕事には厳格で真面目なため、ダメ人間の銀時とは犬猿の仲。

更に超が付く程のマヨラーでもあるので、どんな料理にもマヨネーズをかけて食す。

「カブトムシって、マヨネーズが好きだったかしら?」

「何で虫にまで自分の好みを押し付けんだよ?」

「最終的にアレ、自分で舐めはじめる気だよ絶対」

「それは見たくないわね」

ブレイブヴェスペリアの三人がそう言うと、銀時は当然の如く、

「よし、見なかった事にしよう」

そう言って素通りする事にした。

勿論当然、新八達も素通りするのである。





「まさかこの森、何かの呪いに掛かってんじゃねぇか?」

ユーリが本気でそう言うと、誰もが反論できなかった。

寧ろ、彼と同意見である。

「妖怪という事にしておこう。 アレはマヨネーズの妖怪だ。 ああやって、木にマーキングしてんだよ」

再び森の奥を歩くが、フィリップが足を止めてしまう。

「どうした、フィリップ」

「翔太郎、アレを見てくれ」

「ん?」

相棒が指をさす方向に視線を向けた翔太郎は、

「何じゃこりゃァァァァァ!?」

思わず叫んでしまった。

「へっ?」

この叫びに反応し、銀時達はすぐさま同じ方向へと視線を向ける。

そこには、とんでもない光景が目に映った。

木という木に、沢庵が紐で吊るされていたのだ。

吊るしているのは三人の男女。

黒髪で腰に刀とライフル銃を差した洋装の男、白髪で桜色の和服に赤紫の袴を穿いた少女、長い青髪に薄紫の和服に紺色の袴姿の男だ。

「あっ…」

「あの人」

するとジャンヌとジークは、長髪の男に見覚えがあった。

以前真選組の屯所に来た時に、一度だけ顔を合わせている。

するとライダーが、銀時に叫んだのだ。

「大将! あの三人、全員がサーヴァントだ! それも、俺等と同じ“白”の陣営の」

「マジで!?」

これには流石に、銀時も驚いた。

「つーか、何でアイツ等も自分の好みを虫に押し付けんだよ…」

ジト目で三人の奇行を眺めるユーリ。

「見なかった事にしよう」

銀時がそう言うと、全員が素通りしたのだった。





 再び森の中を歩いて行く一行。

「蜂蜜男にマヨネーズ塗りの男、今度は沢庵吊るしの三人組。 マジでこの森、呪われてんじゃねぇか?」

「銀さん、もう帰りましょうよ。 ユーリさんの言う通り、呪われますよこの森」

「バカヤロー、俺は帰らねぇからな。 巨大カブトを見つけるまで――ハッ!?」

未だに探そうとする銀時であったが、彼はある物を見て驚く。

「へっ?」

彼と同じ方角に視線を向けた新八達は、ある物を発見した。

「ウソォォォォォ!?」

そこには、体長メートルを超える巨大なカブトムシが、木に停まっていたのだ。

「よっしゃぁぁぁぁ!」

木に駆け寄った銀時と新八は、すぐさま木を揺らし始める。

しかしカブトムシは、落ちる気配が全く無い。

「神楽! いけぇ!」

「任せるアル」

銀時の指示で、神楽は木に歩み寄ると、

「チェストォォォ!」

その場で凄まじい蹴りを放ったのだ。

夜兎族の剛力の前では、流石の巨大カブトも落ちてしまった。

直に見ても、その大きさは凄まじいもの。

「無敵アル! カブトバトルでも無敵アル!」

「おいおいおい! コイツを売ったら、家が建つぞ家!」

カブトムシを裏返した銀時であったが、

「勘弁してくだせぇ、旦那」

そこにあった人間の顔と目を合わせてしまった。

この顔を見た新八は、思わず叫んでしまう。

「沖田さん!?」

沖田総悟……真選組一番隊隊長を務める青年。

神楽とは犬猿の仲で、本人は筋金入りのドS。

巨大カブトの正体は、彼が着ていたカブトムシの着ぐるみだったのだ。

そんな彼に、ユーリはジト目で尋ねた。

「オメェ、何がしてぇんだ?」

「見りゃ分かんだろ?」

「分かんねぇから聞いてんだよ」

「ちょっとゴメン、起こして。 一人じゃ起きられねぇんでさぁ」

「ほらよ…」

仕方ないという顔で、ユーリは彼の体を起こす。

「助かりました。 クソッ、仲間のふりして奴等に近付く作戦が台無しでぇ」

「本気でやってたのか?」

すると、その時であった。

「おい、貴様等! こんなところで何やってるんだ!」

近藤を筆頭に、真選組の隊士達が現れたのである。

何故か全員、虫取り網と虫籠を装備していた。






「おい、貴様等! こんなところで何やってるんだ!」

近藤の問いに対し、新八が呆れた顔で言い返す。

「あの、全身蜂蜜塗れの人に質問する資格があると思ってるんですか?」

「これは職務質問だ! ちゃんと答えなさい!」

「いや、どんな職務に就いたら全身蜂蜜塗れになるんだよ?」

ユーリのツッコミに対し、全員が「ごもっとも」という顔になる。

「あの、俺達はカブトムシを取りに来たんだが…」

「ジークくん、何で答えちゃうのかな?」

しかしジークが質問に答えた為、銀時が即座に視線を向けた。

「いや、問われたら答えるのが礼儀だろ?」

「律儀か!」

そんな中、近藤が怪訝な顔を見せる。

「カブトムシ取りだと? 本当か? 怪しいことをしてたら、ただちにしょっ引くぞ!」

「お前等の方がスゲェ怪しいんだけどよ…」

一人は蜂蜜塗れで一人はマヨネーズ入りバケツとハケを持ち、もう一人はカブトムシの着ぐるみを纏っている。

ランサーの言うとおり、彼等の方が一番怪しい。

「あの、皆さんは何してるんですか?」

ジークの後ろに隠れながらも、ジャンヌが真選組に質問する。

理由は勿論、近藤の蜂蜜姿だ。

幾ら褌を着けてると言っても、裸同然の格好に蜂蜜を全身に塗っているので、彼女が恥ずかしさで顔を隠したがるのも分かる。

誰がどう見ても変態の領域だ。

そんな彼女の質問に対し、土方は煙草を手に持ちながら返事する。

「お前等に教えるつもりはねぇ」

「カブトムシ取りだ」

しかし近藤が、堂々と答えてしまう。

「今ちょっと言っちゃったけど、これ以上は絶対に言わねぇぞ」

「将軍様のペットのカブトムシ、『瑠璃丸』が逃げた」

「全部言いましたよ?」

正直に答える近藤に、流石の新八も呆れてしまった。

「これ以上は、絶対に絶対に言わねぇぞ」

「瑠璃丸は光に照らされると金色に輝く事から――」

「近藤さん! これ以上は!」

警察の威厳を保とうとする土方であったが、近藤の所為で台無しとなってしまう。

どうやら国で一番偉い人のカブトムシが逃げたから、真選組が総出で探しているようだ。

「ハッ! 税金泥棒の警察が、良い御身分だな」

鼻で笑った銀時であったが、彼と真選組の間を何かが素通りした。

金色に輝くカブトムシが、ブ〜ンと飛びながら……。

恐らくあれこそが、将軍のペットのカブトムシ『瑠璃丸』である。

「今、通り過ぎましたよね?」

「ああ」

沖田の問いに対し、近藤もすぐさま頷く。

しかし銀時は、ニヤリと笑った。

「将軍のペットを捕まえりゃ、ギャラいくらだよオイィィィィィィ!」

「貴様等ぁ〜! 邪なことぉ!」

「追えぇぇぇぇぇぇぇ!」

「させるかぁぁぁぁぁ!」

こうして万事屋vs真選組による、瑠璃丸争奪戦が始まったのだった。

どっちも、“白”の陣営なのに……。





「うおぉぉぉぉぉ!」

万事屋と真選組、二組の組織が勢いよく走りだす。

目標はただ一つ、目の前を飛ぶ瑠璃丸だ。

森を抜け、彼等は街の中を走り出す。

「将軍のペットを一般人に捕えられたとなれば、真選組の名折れだぁぁぁぁぁ!」

先頭を走るのは、蜂蜜塗れの局長・近藤勲。

町の人々も、何事かと驚いてしまう。

そんな中、近藤がある人物と目が合った。

自身の(一方的な)想い人、志村妙である。

彼女の背後には、護衛で付き添っているルーラーの姿があった。

どうやら買い物の途中だったらしく、

「お妙さぁぁぁぁぁぁん!」

「イヤァァァァァ!」

「な、なんですかアレぇぇぇぇ!?」

自身に向かって向かって来る近藤から、ルーラーと共に逃げるお妙。

「近藤さん、そっちじゃねぇぇぇぇぇぇ!」

瑠璃丸より女を選んだ上司に、土方の叫びが響いたのだった。






「な、何してるんですか!」

ルーラーと共に逃げるお妙に、近藤は鼻息を荒らしながら叫んだ。

「蜂蜜で金色の染まったケツ毛を! 私のケツ毛を見てくださぁぁぁぁい!」

完璧な変態発言に、『ブチリ』とお妙の中で何かが切れた。

脇道にあった角材を拾い、両手で握って構える。

そして飛び上がって来た近藤に、思いっきり振るったのだ。

「図に乗るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」

咆哮とともに、見事にクリーンヒットし、

「お妙さぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

近藤は遥か彼方へと吹き飛んだのだった。

「ストーカーも恐ろしいけど、撃退するお妙さんも恐ろしいわね……」

この光景に、本気でそう思っているルーラーなのである。






 女性に見まがうような長い黒髪で和装姿の男が、街中を注意深く歩いていた。

彼の名は桂小太郎。

銀時と共に攘夷戦争を戦った侍で、『狂乱の貴公子』の二つ名を持つ。

攘夷から足を洗った銀時とは違い、今でも攘夷活動を行っている。

右にいる謎の生物はエリザベス。

桂のペット(?)で、彼の良き盟友でもある。

左を歩いているは女性は、桂と契約した“白”のサーヴァント。

キャスターのサーヴァントで、真名はニトクリス。

エジプトに存在した、ファラオの女王である。

褐色の肌で長い髪、そして長い耳のような装飾が特徴。

「エリザベス、ニトクリス殿。 何事も金に目が眩んではならんぞ。 武士たるもの、質素で素朴な食事を心がけ――」

同志に訓辞を述べようとする桂であったが、その矢先、

「どけ、ヅラぁぁぁぁぁぁ!」

旧知の友人、坂田銀時が走りながら叫んだのだ。

「ヅラじゃない、桂だ!」

いつものやり取りをしてしまう二人であったが、銀時や新八達は彼を素通りした。

その背後には、真選組の隊士達が走って来る。

「追われているのか、銀時! 助太刀いたそう」

そう言うと桂は、先頭を走っていた男から奪った網を、そのまま彼の顔に引っかける。

更にそのまま地面へ引き倒し、後続の男達へ転がした。

流石の隊士達も、仲間の体で足が引っ掛かり、その場で転んでしまう。

「桂ぁ!」

次の隊士達も、刀を抜いて襲いかかるが、

「ハッ!」

刀を抜いた桂の変幻自在の攻撃に、手も足も出せず、

「がっ!」

「グヘッ!」

「んが!」

太刀傷一つも負わせずにやられてしまう。

「安心いたせ、峰打ちだ」

ご丁寧に峰撃ちをされて。

「す、すごい…」

この光景に、キャスターは驚きを隠せない。

マスターである桂が、接近戦に長けている事は既に知っていた。

しかし多数の敵を、たった一人で叩き伏せる事に驚いたのだ。

「おっと、まさかこんなところでお会いするたぁな、攘夷浪士の桂小太郎殿」

最後に現れたのは、真選組隊長の沖田総悟。

「二人とも、逃げるぞ!」

「あ、はい!」

彼の実力は理解しているため、すぐに逃走を選択する。

「おっと、そういつもいつも逃がすワケにはいかないんでさぁ」

逃げる桂に対し、沖田はバズーカ砲をぶっ放した。

ドガーン!と放たれた砲弾であったが、パシッ!とエリザベスが素手で弾き飛ばす。

砲弾は沖田の背後にあった一軒家へと飛び、ドゴォーン!と爆発したのだった。

「待て桂ァァァァァ!」

そんな事もお構いなく、沖田は桂をすぐに追いかける。

こっちはこっちで、補物劇が繰り広げられたのだった。






 桂と沖田のバトルなどつゆ知らず、万事屋の面々は瑠璃丸を追いかけていた。

後ろを追うのは、真選組副長の土方十四郎。

そして彼と共に走るのは、真選組側の“白”のサーヴァント。

「お前等ァ! もっと速度を上げろぉ!」

土方の元ネタであり、彼に召喚されたバーサーカーの『土方歳三』。

「御上のペット探すだけで、どうしてここまでやる羽目に!?」

沖田の元ネタであり、彼に召喚されたセイバーの『沖田総司』。

「うむっ…しかし、サーヴァント以上の速度で走る一般人がいとはな……」

近藤に召喚され、背中に長刀を背負ったアサシンの『佐々木小次郎』。

どれも名のある剣士ばかりだ。

「待ちやがれ! テメェらなんぞに、将軍のペットは触らせねぇ!」

必死で走る土方であったが、ユーリやカロルは息が上がってしまう。

「ゼェ…ゼェ……どんだけ速ぇんだよ、銀時のヤツ!」

「足が止まるどころか、息切れすらしてないし!」

「つーか! 何でサーヴァントより速ェんだよ!?」

「金に目が眩んだ時の銀さんは、通常の倍の速さですからね」

銀時の持久力に驚くランサーであったが、新八は内心から呆れてしまう。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

橋まで辿りつき、川の上を飛ぶ瑠璃丸が来るのを待つ。

「よし来ぉぉぉぉぉぃ!」

遂に瑠璃丸が、銀時の手元にくる――はずだった。

ざぱぁぁぁぁぁん!と、巨大な影が川面から姿を現したのだ。

その正体は、魚型のエイリアンである。

エイリアンは瑠璃丸を飲み込み、再び川へと潜った。

「……嘘でしょ?」

これには銀時も、愕然とするしかなかったのである。

チャンチャン♪

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■作者からのメッセージ
 カブト狩り編は、実写映画版が元ネタです。

原作版も良いですが、実写版の方も面白かったので。
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