万事屋メンバーの一員となった翔太郎とフィリップ。
二人は銀時達に、ガイアメモリやドーパントの情報を伝える。
「つまりメモリを使うと、人が凶暴な怪物になるという事か」
「まあ、単純に言えばそうなるわな」
「お前等やユーリ達を飛ばした奴も、この世界にいんのか?」
「恐らくは…」
深く考える一同であったが、まさにその時であった。
「ん……」
銀時が天井を見上げた瞬間、まさにその時である。
天井から奇妙な歪みが出現し、
「ギャァァァァァァァァ!」
「え!?」
二人の男女が、彼の真上に落ちて来たのだ。
ドスンと二人は着地し、銀時はその下敷きになってしまった。
「な、なんだ!?」
これには翔太郎達が驚くが、男は楽しそうに笑う。
「フハハハハ! 上手く成功したではないか♪」
「アホか! もし地獄とか宇宙だったらどうするつもりじゃぁぁぁ!」
しかし少女の方は、怒号を上げながらツッコミを入れる。
「ホントに、何なんだ!?」
―虫【むしとり】―
脳噛ネウロと桂木弥子は、銀時達に自分達の状況を説明した。
ネウロが魔人であることや、弥子が彼と出会って探偵になった事。
そして最後に、旅行でこの世界に来た事までも話した。
「いや〜、中々面白い
世界ではないか。 ヤコ、来て正解だったな♪」
「どこがだよ!」
既にエンジョイしているネウロとは逆に、弥子は即座にツッコミを入れる。
「しかし我が輩としては、世界の裏側に行ってみたかったな」
「なに、その“世界の裏側”って?」
「居場所を失くした幻想種――例えばドラゴンや幻獣が住んでいる世界だ。 とは言っても、我が輩は未だに行った事がないのだがな」
「えっ、ネウロも行った事がないの!?」
ネウロですら見た事がない世界があると知り、流石の弥子も驚く。
「ふむ。 しかし魔界では、ある都市伝説が存在するのだ」
「魔界にも都市伝説があるんだ……」
「なんでも一匹の竜を探すために、たった一人で世界の裏側を探し求めた女がいるというのだ」
「どんな都市伝説だよ!? それが本当だったら、魔界でも十分生きていけるよその人!」
因みに、この会話を聞いたジークとジャンヌは…、
「ジャンヌ…もしかしてそれって……」
「は、はい…。 恐らく、私達の事ですね……」
まさか自分達が都市伝説になっている事を知り、内心で驚くしかなかった。
「しかし魔人に会えるとは思わなかった。 脳噛ネウロ、今度話しを聞かせて欲しい」
一方でフィリップは、魔人を前にして好奇心が治まらずにいる。
「というか、ネウロ。 正体をばらしてよかったの?」
「ふむ。 コイツ等は十分に信頼は出来ると判断出来た。 だから正体を隠す必要はないと思っただけだ」
「おい…まさか、お前等も住みつく気じゃあねぇだろうな?」
「嫌か?」
「当たり前だ! 流石にそこまでは――」
全力で嫌がる銀時であったが、ネウロは人さし指を口元に当てながら、
「嫌か?」
しょんぼりした顔を見せる。
だが、コレを見た銀時は、
「(断ったら、殺す気だ!)」
直感で命の危機を感じ取ったのだ。
「わ、分かった」
「お〜、分かってくれるか♪」
「今、脅してなかったか?」
「脅してましたね」
コレを見たユーリと新八は、ネウロを敵にしないようにしようと誓う。
こうして再び、万事屋に新たなメンバーが加わったのであった。
新メンバーが加わって3日後、事務所では……、
「カブト狩りじゃぁぁぁぁぁ!」
麦わら帽子を被り、虫取り網と虫籠を装備した神楽が叫んだ。
「カブト狩りじゃぁぁぁぁ!」
しかし銀時達は、全く反応がなかった。
「カブトムシ欲しいアル! こないだ勝負に負けて、私の定春28号が取られたアル! というワケで、カブト狩りに行きたいと思います! どうですか皆さん!」
「どうですかって、一人で行って下さいよ」
面倒くさそうに答えた新八であったが、神楽の鉄拳が飛んで来た。
「バカメガネぇぇぇぇ!」
「メガネ取れたぁぁぁ!」
「はいはい、うるさいよ」
そんなやり取りを横目に、銀時は呆れた顔を見せる。
「今度はでっかいヤツを捕まえて、あの憎いアンチキショーをやっつけてやるネ!」
子供達の間で、カブトムシ勝負が熱中しており、神楽もその中に混じっている。
しかし最近、勝負で任した子供達から、カブトムシを巻き上げている“カブト狩り”と呼ばれる男がいるらしい。
遂に神楽の元にもその人物が現れ、勝負に敗北したのだ。
リベンジに燃える神楽だが、今度はランサーが口を開く。
「因みに神楽の嬢ちゃんが飼ってた定春28号だがよ、あれってカブトムシじゃなくてフンコロガシだろうが――」
「だまらっしゃぁぁぁぁぁい!」
「グボォ!」
しかし彼女の鉄拳を喰らい、ランサーは容赦なく吹き飛ばされる。
「お前等にはもう、少年の心というのは無いアルか!?」
叫ぶ神楽に対し、銀時は頭を掻きながら答えた。
「あのな、神楽。 今時、カブトムシを取りに行きたいと思う奴なんざいるわけねぇだろ?」
新八も「同感ですね」という顔を見せる。
だが、そんな彼等の予想を覆した人物がいた。
「ヤコ、カブト狩りに行くぞ♪」
麦わら帽子を被り、虫取り網を手に持ったネウロだ。
無垢な少年のような顔を見せながら……。
「………」
コレを見た銀時は、「ここにいやがった…」という顔を見せてしまう。
「アンタ、どうせカブトムシを取るのが目的じゃないでしょ?」
長い付き合いである弥子は、すぐさま彼の真意を求める。
「ふむ、実はな……」
今日の新聞を広げ、ネウロはある記事を大きく見せた。
「なになに? “森で謎のガスが発生! 鳥が飛行中に落下”……。 これがどうしたの?」
「実はな、この記事が事実なら、おそらく瘴気が漏れ出している可能性があるのだ」
魔人であるネウロにとって、瘴気は地上でいう『酸素』の様な存在。
彼が地上で生活をする事は、“長い時間海底でアワビを取ろうとする”事と同じであるのだ。
「それで、私達もついて来いって言うのね」
「フハハハハハ…分かってるではないか」
「まあ、別に行っても良いけどさ」
「言っておくが、俺ぁ絶対ェに行かねぇぞ」
当然の様に同行すると言った弥子とは逆に、銀時は頑なに行かないと告げる。
しかしネウロは、こんな事を言ったのだ。
「そう言えば、この時期のカブトムシは、高く売れらしいぞ? 状態の良いものなら、一匹で一軒家が買えるほどの金額だとか……」
「!?」
それを聞いた銀時は、即座に立ち上がり、
「カァァァブゥゥゥト狩りじゃァァァァ!」
その場で吼えたのであった。
「フッ、チョロイな」
この光景を目にしたネウロは、銀時のチョロさに不敵な笑みを浮かべ、
「(うわっ、外道だ)」
弥子は内心でツッコミを入れたのである。
件の瘴気が漏れている森へと踏み入れた銀時達。
何時もの格好に麦わら帽子で、虫採り編と虫籠をフル装備。
但し、翔太郎だけはソフト帽だ。
「おい、オメー等! 狩って狩って狩りまっくて、売って売って売りまくるぞ!」
うざい程のやる気満々の銀時に、言い出しっぺの神楽も若干引き気味になる。
「銀ちゃん、私は定春28号の代わりが見つかればそれで――」
「いいか、お前等! 巨大カブトを見つけるまで、帰れると思うなよ! こっちはビジネスでやってるからな、ビジネスで!」
純粋な少年の心とかではなく、薄汚い大人の欲望が全開の銀時。
「いいか、カロル。 ああいう大人には、絶対になるなよ?」
「むしろ、悪い大人の見本として勉強しときなさい」
「いや、あんなの見たら、こっちから願い下げだよ」
これにはユーリとジュディスも、カロルに「影響を受けるな」と念を押した。
因みに当の本人は、絶対にならないと誓う。
同じく、新八も神楽に声をかけていた。
「神楽ちゃん、金に目が眩んだ銀さんは傍若無人だ。 とにかく、カブトムシを捕まえればそれでいいんだろ?」
「……分かったアル」
「森は魔物だ…何が起こるかわからないからな。 気を付けろ」
「はいはい」
こうして彼等は、森の奥を歩き続けるのだった。
カブトムシを探して1時間が経過。
しかしカブトどころか、
蟻の一匹も見つからなかった。
「案外見つからないもんアルな。 もっと簡単に捕まえられる方法はないアルか?」
神楽がそう言うと、銀時がこう言ったのだ。
「体中に蜂蜜塗りたっくれば、すぐ寄って来るはずだ」
「いや、何で木じゃなんだ?」
この発言に対し、ジークも呆れ気味にツッコミを入れてしまう。
「そうですよ。 大体、そんなことする人は変態じゃないですか――って、えぇっ!?」
ジャンヌも呆れていたのだが、思わず目にしたものを前に顔が真っ赤になってしまう。
そんな彼女に続くように、銀時達もそれを目撃してしまった。
「………」
褌一丁の男が、全身蜂蜜塗れで立っていたのだ。
両手を横にまっすぐ伸ばし、片足だけで立っている。
誰がどう見ても、“変態”という言葉がお似合いであった。
しかし同時に、新八が変態の正体に気付く。
「アレって、まさか……」
「新八、知り合いか?」
ユーリが尋ねると、新八はジト目で答える。
「真選組局長の、近藤勲さんです」
近藤勲……幕府特別武装警察『真選組』の局長を務める人物。
似ているのか、大半の人から“ゴリラ”と呼ばれる事が多い。
だが新八にして見れば、姉のお妙を狙うストーカーでもあるのだ。
但し、その姉が容赦ない鉄槌を下しているが……。
この光景に銀時達は、恐る恐る彼に近づいた。
「何してるの、ゴリラさん?」
銀時は声をかけると、近藤はすぐさま答えた。
「見ての通り、私は樹木だ。 話しかけても無駄だ」
「見ての通り樹木に見えないから話しかけてるんですよ」
自分を樹木だと言い張る近藤に、新八は呆れながらツッコミを入れる。
「蜂蜜の塗り過ぎでてっかてかアル」
「つーかアンタ、それはどう見ても“
案山子”にしか見えねぇぞ」
これには神楽や翔太郎も呆れるしかない。
「江戸の警察、真選組の局長がこんなことしていいんですか?」
「銀ちゃん、木は喋らないアルよ」
「よし。 気味悪いから、見なかった事にしよう」
それだけ言うと、万事屋一行は素通りをする事にしたのである。
「綺麗です、近藤さん」
とりあえずフォローの言葉をかけ、新八も素通りする事にした。
「大丈夫か?」
「ええ…。 しかし、どうしてあんな格好だったんでしょうか」
恥ずかしいものを見てしまったジャンヌは、素通りするまでジークの後ろに隠れていた。
まあ、気持ちは分からなくもない。
そんな中、新八は深くため息をする。
「それにしても、嫌なものを見てしまいましたね」
「妖精という事にしておこう。 アレは樹液の妖精だ、ああやって森を守ってんだよ」
妖精で片付ける銀時に、新八は再びツッコミを入れる。
「いや、明らかにアレは近藤さんでしたよね?」
「そうアル銀ちゃん。 アレはゴリラだったね」
「じゃあ、ゴリラの妖精だ。 ああやってゴリラを守ってんだよ」
「いや、ゴリラを守り意味が分からん――なっ!?」
今度はアーチャーがツッコミを入れるが、彼女はあるものを見て青ざめてしまう。
「えっ?」
彼女が目にした方向に、銀時達も視線を向ける。
前髪がV字カットで煙草を加えた男が、バケツに入ったマヨネーズをハケで木に塗りまくっていた。
全員が唖然とする中、ジークが新八に問う。
「新八、彼も知り合いか?」
「真選組副長の、土方十四郎さんです」
土方十四郎…真選組のナンバー2で、『鬼の副長』の異名を持つ。
仕事には厳格で真面目なため、ダメ人間の銀時とは犬猿の仲。
更に超が付く程のマヨラーでもあるので、どんな料理にもマヨネーズをかけて食す。
「カブトムシって、マヨネーズが好きだったかしら?」
「何で虫にまで自分の好みを押し付けんだよ?」
「最終的にアレ、自分で舐めはじめる気だよ絶対」
「それは見たくないわね」
ブレイブヴェスペリアの三人がそう言うと、銀時は当然の如く、
「よし、見なかった事にしよう」
そう言って素通りする事にした。
勿論当然、新八達も素通りするのである。
「まさかこの森、何かの呪いに掛かってんじゃねぇか?」
ユーリが本気でそう言うと、誰もが反論できなかった。
寧ろ、彼と同意見である。
「妖怪という事にしておこう。 アレはマヨネーズの妖怪だ。 ああやって、木にマーキングしてんだよ」
再び森の奥を歩くが、フィリップが足を止めてしまう。
「どうした、フィリップ」
「翔太郎、アレを見てくれ」
「ん?」
相棒が指をさす方向に視線を向けた翔太郎は、
「何じゃこりゃァァァァァ!?」
思わず叫んでしまった。
「へっ?」
この叫びに反応し、銀時達はすぐさま同じ方向へと視線を向ける。
そこには、とんでもない光景が目に映った。
木という木に、沢庵が紐で吊るされていたのだ。
吊るしているのは三人の男女。
黒髪で腰に刀とライフル銃を差した洋装の男、白髪で桜色の和服に赤紫の袴を穿いた少女、長い青髪に薄紫の和服に紺色の袴姿の男だ。
「あっ…」
「あの人」
するとジャンヌとジークは、長髪の男に見覚えがあった。
以前真選組の屯所に来た時に、一度だけ顔を合わせている。
するとライダーが、銀時に叫んだのだ。
「大将! あの三人、全員がサーヴァントだ! それも、俺等と同じ“白”の陣営の」
「マジで!?」
これには流石に、銀時も驚いた。
「つーか、何でアイツ等も自分の好みを虫に押し付けんだよ…」
ジト目で三人の奇行を眺めるユーリ。
「見なかった事にしよう」
銀時がそう言うと、全員が素通りしたのだった。
再び森の中を歩いて行く一行。
「蜂蜜男にマヨネーズ塗りの男、今度は沢庵吊るしの三人組。 マジでこの森、呪われてんじゃねぇか?」
「銀さん、もう帰りましょうよ。 ユーリさんの言う通り、呪われますよこの森」
「バカヤロー、俺は帰らねぇからな。 巨大カブトを見つけるまで――ハッ!?」
未だに探そうとする銀時であったが、彼はある物を見て驚く。
「へっ?」
彼と同じ方角に視線を向けた新八達は、ある物を発見した。
「ウソォォォォォ!?」
そこには、体長メートルを超える巨大なカブトムシが、木に停まっていたのだ。
「よっしゃぁぁぁぁ!」
木に駆け寄った銀時と新八は、すぐさま木を揺らし始める。
しかしカブトムシは、落ちる気配が全く無い。
「神楽! いけぇ!」
「任せるアル」
銀時の指示で、神楽は木に歩み寄ると、
「チェストォォォ!」
その場で凄まじい蹴りを放ったのだ。
夜兎族の剛力の前では、流石の巨大カブトも落ちてしまった。
直に見ても、その大きさは凄まじいもの。
「無敵アル! カブトバトルでも無敵アル!」
「おいおいおい! コイツを売ったら、家が建つぞ家!」
カブトムシを裏返した銀時であったが、
「勘弁してくだせぇ、旦那」
そこにあった人間の顔と目を合わせてしまった。
この顔を見た新八は、思わず叫んでしまう。
「沖田さん!?」
沖田総悟……真選組一番隊隊長を務める青年。
神楽とは犬猿の仲で、本人は筋金入りのドS。
巨大カブトの正体は、彼が着ていたカブトムシの着ぐるみだったのだ。
そんな彼に、ユーリはジト目で尋ねた。
「オメェ、何がしてぇんだ?」
「見りゃ分かんだろ?」
「分かんねぇから聞いてんだよ」
「ちょっとゴメン、起こして。 一人じゃ起きられねぇんでさぁ」
「ほらよ…」
仕方ないという顔で、ユーリは彼の体を起こす。
「助かりました。 クソッ、仲間のふりして奴等に近付く作戦が台無しでぇ」
「本気でやってたのか?」
すると、その時であった。
「おい、貴様等! こんなところで何やってるんだ!」
近藤を筆頭に、真選組の隊士達が現れたのである。
何故か全員、虫取り網と虫籠を装備していた。
「おい、貴様等! こんなところで何やってるんだ!」
近藤の問いに対し、新八が呆れた顔で言い返す。
「あの、全身蜂蜜塗れの人に質問する資格があると思ってるんですか?」
「これは職務質問だ! ちゃんと答えなさい!」
「いや、どんな職務に就いたら全身蜂蜜塗れになるんだよ?」
ユーリのツッコミに対し、全員が「ごもっとも」という顔になる。
「あの、俺達はカブトムシを取りに来たんだが…」
「ジークくん、何で答えちゃうのかな?」
しかしジークが質問に答えた為、銀時が即座に視線を向けた。
「いや、問われたら答えるのが礼儀だろ?」
「律儀か!」
そんな中、近藤が怪訝な顔を見せる。
「カブトムシ取りだと? 本当か? 怪しいことをしてたら、ただちにしょっ引くぞ!」
「お前等の方がスゲェ怪しいんだけどよ…」
一人は蜂蜜塗れで一人はマヨネーズ入りバケツとハケを持ち、もう一人はカブトムシの着ぐるみを纏っている。
ランサーの言うとおり、彼等の方が一番怪しい。
「あの、皆さんは何してるんですか?」
ジークの後ろに隠れながらも、ジャンヌが真選組に質問する。
理由は勿論、近藤の蜂蜜姿だ。
幾ら褌を着けてると言っても、裸同然の格好に蜂蜜を全身に塗っているので、彼女が恥ずかしさで顔を隠したがるのも分かる。
誰がどう見ても変態の領域だ。
そんな彼女の質問に対し、土方は煙草を手に持ちながら返事する。
「お前等に教えるつもりはねぇ」
「カブトムシ取りだ」
しかし近藤が、堂々と答えてしまう。
「今ちょっと言っちゃったけど、これ以上は絶対に言わねぇぞ」
「将軍様のペットのカブトムシ、『瑠璃丸』が逃げた」
「全部言いましたよ?」
正直に答える近藤に、流石の新八も呆れてしまった。
「これ以上は、絶対に絶対に言わねぇぞ」
「瑠璃丸は光に照らされると金色に輝く事から――」
「近藤さん! これ以上は!」
警察の威厳を保とうとする土方であったが、近藤の所為で台無しとなってしまう。
どうやら国で一番偉い人のカブトムシが逃げたから、真選組が総出で探しているようだ。
「ハッ! 税金泥棒の警察が、良い御身分だな」
鼻で笑った銀時であったが、彼と真選組の間を何かが素通りした。
金色に輝くカブトムシが、ブ〜ンと飛びながら……。
恐らくあれこそが、将軍のペットのカブトムシ『瑠璃丸』である。
「今、通り過ぎましたよね?」
「ああ」
沖田の問いに対し、近藤もすぐさま頷く。
しかし銀時は、ニヤリと笑った。
「将軍のペットを捕まえりゃ、ギャラいくらだよオイィィィィィィ!」
「貴様等ぁ〜! 邪なことぉ!」
「追えぇぇぇぇぇぇぇ!」
「させるかぁぁぁぁぁ!」
こうして万事屋vs真選組による、瑠璃丸争奪戦が始まったのだった。
どっちも、“白”の陣営なのに……。
「うおぉぉぉぉぉ!」
万事屋と真選組、二組の組織が勢いよく走りだす。
目標はただ一つ、目の前を飛ぶ瑠璃丸だ。
森を抜け、彼等は街の中を走り出す。
「将軍のペットを一般人に捕えられたとなれば、真選組の名折れだぁぁぁぁぁ!」
先頭を走るのは、蜂蜜塗れの局長・近藤勲。
町の人々も、何事かと驚いてしまう。
そんな中、近藤がある人物と目が合った。
自身の(一方的な)想い人、志村妙である。
彼女の背後には、護衛で付き添っているルーラーの姿があった。
どうやら買い物の途中だったらしく、
「お妙さぁぁぁぁぁぁん!」
「イヤァァァァァ!」
「な、なんですかアレぇぇぇぇ!?」
自身に向かって向かって来る近藤から、ルーラーと共に逃げるお妙。
「近藤さん、そっちじゃねぇぇぇぇぇぇ!」
瑠璃丸より女を選んだ上司に、土方の叫びが響いたのだった。
「な、何してるんですか!」
ルーラーと共に逃げるお妙に、近藤は鼻息を荒らしながら叫んだ。
「蜂蜜で金色の染まったケツ毛を! 私のケツ毛を見てくださぁぁぁぁい!」
完璧な変態発言に、『ブチリ』とお妙の中で何かが切れた。
脇道にあった角材を拾い、両手で握って構える。
そして飛び上がって来た近藤に、思いっきり振るったのだ。
「図に乗るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」
咆哮とともに、見事にクリーンヒットし、
「お妙さぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
近藤は遥か彼方へと吹き飛んだのだった。
「ストーカーも恐ろしいけど、撃退するお妙さんも恐ろしいわね……」
この光景に、本気でそう思っているルーラーなのである。
女性に見まがうような長い黒髪で和装姿の男が、街中を注意深く歩いていた。
彼の名は桂小太郎。
銀時と共に攘夷戦争を戦った侍で、『狂乱の貴公子』の二つ名を持つ。
攘夷から足を洗った銀時とは違い、今でも攘夷活動を行っている。
右にいる謎の生物はエリザベス。
桂のペット(?)で、彼の良き盟友でもある。
左を歩いているは女性は、桂と契約した“白”のサーヴァント。
キャスターのサーヴァントで、真名はニトクリス。
エジプトに存在した、ファラオの女王である。
褐色の肌で長い髪、そして長い耳のような装飾が特徴。
「エリザベス、ニトクリス殿。 何事も金に目が眩んではならんぞ。 武士たるもの、質素で素朴な食事を心がけ――」
同志に訓辞を述べようとする桂であったが、その矢先、
「どけ、ヅラぁぁぁぁぁぁ!」
旧知の友人、坂田銀時が走りながら叫んだのだ。
「ヅラじゃない、桂だ!」
いつものやり取りをしてしまう二人であったが、銀時や新八達は彼を素通りした。
その背後には、真選組の隊士達が走って来る。
「追われているのか、銀時! 助太刀いたそう」
そう言うと桂は、先頭を走っていた男から奪った網を、そのまま彼の顔に引っかける。
更にそのまま地面へ引き倒し、後続の男達へ転がした。
流石の隊士達も、仲間の体で足が引っ掛かり、その場で転んでしまう。
「桂ぁ!」
次の隊士達も、刀を抜いて襲いかかるが、
「ハッ!」
刀を抜いた桂の変幻自在の攻撃に、手も足も出せず、
「がっ!」
「グヘッ!」
「んが!」
太刀傷一つも負わせずにやられてしまう。
「安心いたせ、峰打ちだ」
ご丁寧に峰撃ちをされて。
「す、すごい…」
この光景に、キャスターは驚きを隠せない。
マスターである桂が、接近戦に長けている事は既に知っていた。
しかし多数の敵を、たった一人で叩き伏せる事に驚いたのだ。
「おっと、まさかこんなところでお会いするたぁな、攘夷浪士の桂小太郎殿」
最後に現れたのは、真選組隊長の沖田総悟。
「二人とも、逃げるぞ!」
「あ、はい!」
彼の実力は理解しているため、すぐに逃走を選択する。
「おっと、そういつもいつも逃がすワケにはいかないんでさぁ」
逃げる桂に対し、沖田はバズーカ砲をぶっ放した。
ドガーン!と放たれた砲弾であったが、パシッ!とエリザベスが素手で弾き飛ばす。
砲弾は沖田の背後にあった一軒家へと飛び、ドゴォーン!と爆発したのだった。
「待て桂ァァァァァ!」
そんな事もお構いなく、沖田は桂をすぐに追いかける。
こっちはこっちで、補物劇が繰り広げられたのだった。
桂と沖田のバトルなどつゆ知らず、万事屋の面々は瑠璃丸を追いかけていた。
後ろを追うのは、真選組副長の土方十四郎。
そして彼と共に走るのは、真選組側の“白”のサーヴァント。
「お前等ァ! もっと速度を上げろぉ!」
土方の元ネタであり、彼に召喚されたバーサーカーの『土方歳三』。
「御上のペット探すだけで、どうしてここまでやる羽目に!?」
沖田の元ネタであり、彼に召喚されたセイバーの『沖田総司』。
「うむっ…しかし、サーヴァント以上の速度で走る一般人がいとはな……」
近藤に召喚され、背中に長刀を背負ったアサシンの『佐々木小次郎』。
どれも名のある剣士ばかりだ。
「待ちやがれ! テメェらなんぞに、将軍のペットは触らせねぇ!」
必死で走る土方であったが、ユーリやカロルは息が上がってしまう。
「ゼェ…ゼェ……どんだけ速ぇんだよ、銀時のヤツ!」
「足が止まるどころか、息切れすらしてないし!」
「つーか! 何でサーヴァントより速ェんだよ!?」
「金に目が眩んだ時の銀さんは、通常の倍の速さですからね」
銀時の持久力に驚くランサーであったが、新八は内心から呆れてしまう。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
橋まで辿りつき、川の上を飛ぶ瑠璃丸が来るのを待つ。
「よし来ぉぉぉぉぉぃ!」
遂に瑠璃丸が、銀時の手元にくる――はずだった。
ざぱぁぁぁぁぁん!と、巨大な影が川面から姿を現したのだ。
その正体は、魚型のエイリアンである。
エイリアンは瑠璃丸を飲み込み、再び川へと潜った。
「……嘘でしょ?」
これには銀時も、愕然とするしかなかったのである。
チャンチャン♪