鬼兵隊の船にある一室。
この部屋には、大量の紅桜を製造するカプセルが多数もあった。
室内には高杉と鉄矢だけがおり、二人がこんな会話をしている。
「酔狂な話しじゃねぇか。 大砲ブッ放してドンパチやる時代に、こんな刀を作るたァ」
「そいつで幕府を転覆するなどと大法螺吹く貴殿も、充分酔狂と思うがな!!」
「法螺を実現させた英雄は、英傑と言われるのさ。 俺は出来ねぇ法螺は吹かねぇ。 しかし流石は稀代の刀工、村田仁鉄が1人息子…まさかこんな代物を作り出しちまうたァ。 “鳶が鷹を生む”とは聞いたことがあるが、鷹が龍を生んだか。 侍も剣も終わっちゃいねぇことを、奴等に思い知らせてやろうじゃねぇか」
不敵な笑みを浮かべる高杉に、鉄矢は何時もの大声で叫ぶ。
「貴殿らが何を企み何を成そうとしているかなど興味はない! 刀匠はただ、斬れる刀を作るのみ! 私に言える事はただ一つ…」
そしてカプセルの一つに手を置き、ハッキリとこう言った。
「この紅桜に、斬れぬものはない!!」
―第八訓:反撃の雨―
江戸の何処かにある、名のある料亭。
エリザベスと合流した新八達は、桂の仲間達と接触していた。
「高杉晋助……それが、桂さんの失踪と岡田似蔵に関わる重要人物だと?」
新八の問いに対し、浪士達も知っている情報を伝える。
「俺達も桂さんを探すうちに、色々調べたんだが…」
「まさか俺達と同じ、攘夷志士の仕業だったとはな…」
「しかも高杉晋助といやぁ、桂さんと銀時殿と共に攘夷戦争を戦った盟友だ。 それが何で……」
「桂さんは最近、武力による攘夷を捨て、別の道を考えになられた。 嘗ての仲間の生き方に、高杉は苛立ちを感じたんだろう」
岡田似蔵のバックに高杉がいる――そう感じた浪士達が、一斉に立ち上がった。
「何にせよ、このまま黙ってはいられん!」
「エリザベスさん! 我々も出動しましょう!」
「桂さんの仇を! 高杉の首を取りましょう!」
『落ち着け!』
エリザベスが仲間達をなだめる最中、新八とランサーは地図の示した場所へと向かったのである。
場所は変わり、万事屋の事務所では、
「成程、高杉がねぇ……。 事情は知らんが、オメェの兄ちゃん、とんでもねーことに関わってるらしいな。 で? 俺はさしずめダシに使われちまったわけか?」
お妙が出してくれたお茶を啜りながら、銀時はコレまでの状況を簡潔的に整理した。
「妖刀を捜せってのも、要はその妖刀に俺の血を吸わせる為だったんだろ。 それとも俺に恨みをもつ似蔵に頼まれたのか……いや、その両方か」
「………」
「でも、ヒデェ話しだよな。 話を聞く限り、オメェは全てを知っていたんだろ? 知っていて、何も言わなかった。そのせいで俺や仲間達が重傷を負わされたのに、そこへ今さら兄ちゃんを止めてくれってな。 オメェのツラの皮はタウンページですか?」
「いや、例え方が分かりにくい」
最後の台詞にツッコミを入れたユーリだったが、鉄子はようやく口を開く。
「……スマン、返す言葉もない。 アンタの言う通り、全部知ってたよ。 だが…事が露見すれば兄者はただではすむまいと…今まで誰にも言えんかった」
「大層兄思いの妹だね。 兄ちゃんが人殺しに加担してるってのに、見て見ぬフリかい?」
「銀さん!」
今のは言い過ぎだと思い、お妙はすぐに窘めるが、鉄子も反論の資格がないのを自覚している為、甘んじてそれを受け入れた。
「……刀なんぞ、所詮は人斬り包丁。どんなに精魂込めて打とうが、使う相手は選べん──死んだ父がよく言っていた、私たちの身体に染みついている言葉だ」
死んだ父・仁鉄の言葉を口にしながら、鉄子は兄の事を話し始める。
「兄者は刀を作ることしか頭にないバカだ。父を超えようといつも必死に鉄を打っていた」
彼女の脳裏に思い浮かぶのは、父が亡くなって鍛冶屋を継ぎ、ガムシャラに鉄を打っていた鉄矢の姿。
「やがて、より大きな力を求めて
機械まで研究しだした。 妙な連中を付き合いだしたのはその頃だ。 連中がよからぬ輩だということは薄々勘づいてはいたが、私は止めなかった。 私たちは何も考えずに刀を打っていればいい。 それが私達の仕事なんだって……」
兄を止められる機会何度かあった。
しかし鉄子はそれを見て見ぬフリをし、自分たちは刀を打っていればいいと言い訳をして、目をそらし続けていた。
「分かってたんだ。人斬り包丁だって。 あんなのもの、ただの人殺しの道具だって、わかってるんだ。 なのに……悔しくて仕方ない」
語るに連れて、鉄子の目元から涙が零れる。
兄がした事は、決して許される事ではない。
しかし、妹だから知っている。
兄がどんなに努力していたのか。
“父を超えたい”という願いが、兄にとってどれだけ大きな目標なのかも。
「兄者が必死に作ったあの刀を…あんなことに使われるのは悔しくて仕方ない……でももう、事は私1人じゃ、止められない所まで来てしまった。 どうしていいか分からないんだ…私はどうしたら……」
「………」
今まで無言だった銀時であったが、ようやく口を開いた。
「どうしたらいいか分かんねぇのは、俺も同じだよ。 こっちはこんな怪我するは、ツレがやられるわで、頭ん中がめちゃくちゃなんだよ」
封筒を彼女に返すように投げ落とすと、そのまま寝室へと向かう。
「ほら、こんな慰謝料もいらねぇから、とっとと帰ってくれや。 もう、痛いのはゴメンなんだよ」
そんな彼の背中を見て、誰もが切ない気持になってしまった。
その頃、港の方では…、
「おい、オマエ! 見ない顔だな?」
一人の浪人が、船に向かう青年に声をかける。
「お、俺だよ! 俺俺!」
「ん? ……あっ、お前か!?」
「そうそう、俺!」
「悪い悪い!」
反射的に謝り、浪人が去っていく。
青年は再び歩き出すが、再び浪人に声をかけられる。
「おい、オマエ…どこのもんだ?」
「お、俺だよ! 俺俺!」
「ん? あ、お前か!?」
「そうそう」
「ゴメンゴメン!」
浪人が去った後、青年が再び船へと歩いて行く。
『新八、案外この方法イケるんだな…』
「ええ、おじいちゃんお婆ちゃんが騙されるワケだ」
霊体化したランサーに声をかけられ、変装した新八も痛感したのであった。
一方その頃、船の中では、
「いったぁ〜。 くそ、似蔵のヤツ、調子に乗りやがって」
締められた首をさすりながら、また子は廊下を歩いていた。
「(あの剣、本当に大丈夫なんだろうか? 嫌な予感が――)」
紅桜に対する不安を募らせるが、その時である。
「もっと持ってこいやぁ〜!」
「おかわり、持って来ぉい!」
「ん?」
通り過ぎようとした部屋から、聞き覚えのある声が聞こえ、
「――って、何やっとんじゃぁ!?」
中を覗いたら、とんでもない事になっていた。
ズズゥ!とラーメンを啜る神楽が、お椀を重ねるアーチャーが、箸を持つ手を動かすジュディスが、
「「おかわり!」」
「おかわりお願い」
どこから連れて来たのか、三人の女性とフードバトルを始めていたのだ。
「はい、神楽ちゃん! おかわり追加!」
「“白”のアーチャーさんもおかわり追加!」
「ジュディスちゃんも負けてない!」
というか、実況司会者までいるので、カオスな空間となっていた。
そんな状況を、武市と“黒”のライダーは微笑ましい顔で眺めている。
謎が謎を呼んでしまう。
「何やってるんスか!? このままじゃこの船にある食糧、全部食いつくされるッスよ!?」
「いや〜、この年頃の少女は、食べてる姿がプリティーでござるなぁ」
「そうですねぇ。 いや、流石に寂しい食事は良くないと思って、こんなふうにしちゃいました」
「おかわりアル!」
「あっ、神楽ちゃん。 もうおかわりなの?」
「デュフフフフ…。 食べる元気がまた、たまらないでござるなぁ〜」
「まったく、何で早く殺さないんスか?」
苛立つまた子に対し、武市は当然のように答える。
「何も情報も吐かせずに殺してどうするんです? それにねぇ、この年頃の少女は、あと2〜3年経てば一番輝く」
「全く、将来が楽しみでござるなぁ〜」
神楽の将来を楽しむ光景は、まさしく変態そのもの。
そんな変態二人に、また子も呆れるしかなかった。
「ロリコンもたいがいにして下さいよ、二人とも」
「ロリコンじゃありません、フェミニストです」
「そして拙者は紳士でござる」
「どうでもいいっスけど、このTVチャ○ピオン状態、どうにかして下さいよ!」
また子が怒鳴る中、武市は神楽の左肩や左足の事を指摘する。
「見て下さい。 昨夜、貴方に撃たれた傷が、一晩で完治されています。 それにあの尋常ならざる剛力、そして白い肌」
「水も弾く、もっちもちの肌でござる」
「お前等マジでいい加減にしろ!」
遂には汚物を見る目で見るまた子に、武市と“黒”のライダーが堂々と否定する。
「だから違ぇって言ってるでござる!」
「フェミニストと紳士だって言ってるじゃん、ただの子供好きの!」
「だから、それがロリコンだって言ってんだろうが!」
マジギレのまた子に対し、二人は呆れながら呟く。
「もう良いでござる。 今の来島氏には、何を言っても無駄でござるよバカ」
「オメェ等がバカだ」
「あれですよ。 これは、夜兎の特性と一致してると言ってるんですよ死ね」
「オメェ等が死ね」
罵り合う三人であったが、また子がすぐに話題を変えた。
「夜兎って、あの傭兵部族の『夜兎』ッスか? なにもん何スかね? 晋助様を殺しに来た、プロの殺し屋って事ッスか? 誰に雇われたんスかね?」
「「それが何を言っても、ヅラしか言わないんだヅラ」」
「それ、絶対に舐められてるんスよ。 見て下さい、こんなガキひと捻りで!」
また子は神楽の方へと近付くと、神楽は口から何かを飛ばす。
それは
鳴門で、見事にまた子の頬に密着した。
これにはまた子も遂に怒りが爆発し、銃を両手に構えたのだ。
「このガキィィィィィィ! ぶっ殺す!」
そんな彼女の暴走を、武市は背後から押さえる。
「まあまあ、あと2〜3年すれば、凄い事になるってこの子」
「止めないでください、武市変態!」
「先輩だから、変態じゃないから」
因みにラーメン勝負は、しばらく続くのだった。
場所は戻って万事屋では、
「助かりました」
「んあ?」
「てっきり、引き受けるんじゃないかと思いましたよ」
布団で横になる銀時に、お妙が穏やかにそう言った。
「あの子には申し訳ありませんけど、その怪我じゃ無理ですよね」
「そうだなぁ〜」
「銀さん、あまり無理をしないでくださいね。 新ちゃんも神楽ちゃんも心配しますから」
「そうだなぁ〜」
「昔は銀さんもやんちゃしてましたけど、もうそんな
年齢じゃないですよね」
「しつけぇんだよ! どこにも行かねぇから、ジャンプ買って来い! 近所の駄菓子屋で売ってるから」
「はいはい」
お妙が外出した事を確認し、銀時はゆっくりと起き上がる。
「すまねぇな……俺だってやんちゃしたくねぇけど」
依頼を断られ、事務所を後にした鉄子。
途中で人とぶつかり、封筒を落としてしまう。
拾おうとしたが、中から手紙がでてきたのだ。
『鍛冶屋で待ってろ。 万事屋』
「!!」
これを呼んだ鉄子は、急いで鍛冶屋へと戻った。
場所は戻って万事屋では、
「いってぇ〜」
「まだ痛むかい?」
「まあな」
似蔵にやられた怪我が痛み、翔太郎はソファーで横になってしまう。
「どうするの? 翔太郎が戦えないんじゃ、Wへの変身は…」
「同感だ。 流石に怪我人を戦わせるわけにはいかねぇか」
カロルとライダーは不安を募らせるが、その時だった。
『クワー!』
「「へ?」」
突然の声に、二人は思わず振り返る。
そこには、恐竜のような小さなガジェットがデスクの上に立っており、
『クワー!』
驚異的な跳躍力で、フィリップの肩へと移動した。
ガジェットの名はファング。
仮面ライダーWの持つ“第7のガイアメモリ”だ。
「今回は、僕が戦う番だね」
「任せたぜ、相棒」
互いに軽く拳を当て、翔太郎とフィリップは信頼の確かめ合う。
「カッコイイ……」
「ゴールデンなコンビだ。 妬けるぜ」
そんな二人に、カロルとライダーは憧れを感じたのであった。
一方でネウロと弥子は、顔を合わせながら頷き合う。
「私達も行くんでしょ?」
「無論だ。 この『謎』はもう、我が輩の舌の上だ」
その頃、隣の部屋では、
「――っつ」
一人だけとなったジークが、布団から起き上がった。
部屋を出ようとしたが、その時である。
「行くんですね」
「……!?」
背後からジャンヌが声をかけた。
「…すまない。 でも、このまま黙ってるワケにもいかない」
申し訳なさそうな顔をするジークに、彼女はゆっくりと近づく。
「ジークくんは頑固ですからね。 これと決めたら、絶対にやり遂げようとしますから」
「そうだな…自覚はある」
「できれば、私も行きたいんですが……」
もう私は、英霊ではない――そう言おうとしたジャンヌだが、ジークはある物を差し出す。
それは彼女が、自身にプレゼントしてくれたペンダントだ。
「預かってて欲しい。 それと……」
「え?」
「俺や皆の帰りを、信じて待っててくれ。 必ず帰って来る」
真っ直ぐな目で見つめるジークに、ジャンヌはペンダントを受け取った。
「貴方や皆に、主の御加護があらんことを」
「行って来る」
背を向け、ジークは部屋を後にする。
「必ず…必ず帰ってきてくださいね」
恋人の帰りを信じ、聖女は優しく微笑んだ。
部屋を出たジークに、ユーリは不敵な笑みを見せた。
「ったく、お熱い仲なこった」
似蔵戦で負傷した右腕は、包帯で首に吊されている。
「貴方も行くのか? その腕で?」
「生憎、利き手は左なもんでね。 むしろ、連中には良いハンデだ」
「そうか」
「準備は良いかい?」
「じゃあ、行こうか」
「ゴールデンなリベンジタイムだ」
ユーリ達が玄関まで向かうと、銀時が普段の服装で待っていた。
「行くぞ、オメェ等」
「おう」
「ああ」
「うん」
「勿論だ」
「行こう」
「フン、当然だ」
「行くぜ、大将」
彼等が外へと出る中、一枚の手紙が床に落ちる。
『私のお気に入りの傘、ちゃんと返して下さいね』
どうやらお妙には、銀時の考えはお見通しだったようだ。
うさぎの柄がプリントされた傘を差し、銀髪の侍は仲間達と歩いて行く。
「(ったく、かわいくねー
女)」
そんな彼等の姿を、お妙は万事屋の応接室の窓から覗きこみ、
「(バカな
男)」
思った通り――と考えながら、彼女は溜息を吐くのだった。