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Fate/Silver or Heart 第十三訓:人の家に行く時はお土産は用意しよう
作者:亀鳥虎龍   2018/01/25(木) 09:52公開   ID:L6TukelU0BA
 紅桜事件の後日、とある定食屋にて、

「あの一件で死傷者は多数。 鬼兵隊に至っては、あの人斬り似蔵が消息不明だと」

「岡田似蔵に関しては万事屋あのヤローとやりあった事は分かる。 恐らく、死んだと考えていいだろうな」

土方が部下から、事後調査の報告を聞いていた。

「しかし……」

「副長、何か?」

「アイツは高杉の事を『』と呼んだ。 つまり、連中とは関わりがあったって事だが……洗うか」

「本気ですか?」

「元々胡散臭ェ野郎だ。 探れば何か出てくる奴だってのは、お前も前からわかってただろ。 派手な動きもせなんだから捨ておいたが…潮時かもな」

「これで、もし旦那が攘夷活動に関わっていた場合は」

「んなもん決まってるだろ」

マヨネーズたっぷりのどんぶり『土方スペシャル』を半分食した後、土方は部下にこう言ったのだ。

「事件解決の立役者だろーが何だろーが、俺達の敵には違いねェ──斬れ」

こうして真選組監察官、山崎退の任務ミッションがスタートしたのである。





―人の家に行く時はお土産は用意しよう―





 丁度この日、“白”のセイバーは休暇であった。

「お姉ちゃん、バイバ〜イ」

「帰りに気をつけてくださいね〜」

夕方まで町の子供達と戯れた後、甘味屋へと向かっていたのである。

「小腹が好きましたし、甘味屋でお団子でも食べましょうかね♪」

上機嫌に歩いていたが、途中である事を思い出す。

「あっ、そうだ。 お礼の品!」

紅桜事件で協力してくれた銀時達に、謝礼の土産を渡す事であった。

「あのお店でちょっくら買って来ますか」

すぐさま彼女は、近くの老舗へと向かったのである。





「いやぁ〜、良い土産が手に入りました♪」

土産を買い、万事屋の玄関前に立つセイバー。

インターホンを鳴らすと、「は〜い」という声が聞こえた。

ガラガラと扉が開くと、ジャンヌが出て来たのだ。

手には、手提げ袋が握られている。

「セイバー?」

「おや、ジャンヌさん。 お出かけですか?」

「ええ。 ちょっと病院に」

「えっ、病院? 何処か怪我でも?」

「いや、私ではなく、ジークくんです」

「あ〜…やっぱり怪我の事ですね?」

「ええ。 お妙さんのお勧めで、小さな病院に連れて行ったんです。 そしたら、一晩入院になりまして」

「そうでしたか。 じゃあ、その荷物は……」

「彼の着替えです。 私も一晩、付き添おうと思いまして」

「フフッ、ホントに仲が良いですね」

「えっ…いや…その……」

ジークとの仲の良さを問われ、ジャンヌは顔を赤くしてしまう。

「ところで坂田さんは? もしかして、ご一緒の病院?」

銀時の事を問うと、彼女はセイバーにこう答えた。

「いえ、銀時さんは新八さんのご実家で療養するそうです」

「おや、一緒に入院じゃなかったんですね?」

「なんでも、お妙さんがそうすると仰ったんで」

それを聞いたセイバーは、少し考えると、

「(今夜辺り、お見舞いに行くか)」

お見舞いを夜に変更したのである。






 その夜、恒道館道場にて、

「ここか。 ……以外と広いな」

忍装束のような格好をした山崎は、塀から敷地へと跳び下りる。

そのまま屋敷へと向かいながら、事務所を訪れた時の事を思い出す。

一度訪ねた時には、姿は無かった。

その際、大家のお登勢から聞いたのである。

――銀時に用なのかい? ヤローなら、怪我したとかで新八ん家に療養中だよ。

「(確かに旦那、ボロボロだったもんなぁ。 しかし斬れとは…副長も無茶を言う。 自分も旦那に負けたくせに、俺が勝てるワケないだろ。 何考えてんだ……どうしろってんだよ。 あーヤベ、帰りて〜)」

内心で愚痴りながらも敷地内に忍び込み、足音すら立てずに潜入を成功させる。

そして、灯りがついている部屋へと向かおうとした瞬間、

「そこまでだぜ」

「!?」

銀時の声が聞こえ、山崎は内心で「まさか!?」という顔になった。

「ククク…悪いな。 お前の考えはお見通しなんだよ」

「(なんてこった、さすが旦那だ。こっちの行動は全て予測済みってワケ)」

潜入を看破されたと感じ、こっそり開いた戸から部屋の中を覗く。

そこで、彼が見たものとは…、

「これで、シメーだ! ストレートォォォォ!!」

「悪いな、フラッシュだ」

「なにぃぃぃぃぃ!?」

銀時が仲間達と、ポーカーに興じていた光景であった。

「これで俺の勝ちだな、銀時」

「畜生ォォォ!」

コレを見た山崎は、思わずズッコけてしまう。

「(トランプやってたのかよ! 紛らわしい真似を……)」

内心でツッコミながら、縁側から軒下へと部屋の床下へ潜り込んだ。





 ポーカーに興じていた銀時であったが、ユーリに敗北してしまう。

「畜生! あと少しだったのに!」

「悪いな。 ジュディ程じゃねぇが、賭けごとには自信があるんだよ」

「銀さん、これで10敗目だよ?」

「いい加減に諦めたら?」

「第一、怪我が治ってねぇんだからよ、大人しく寝とけよな」

呆れるユーリ達に対し、銀時は憤慨する。

「ふざけんな! 俺が勝つまで、絶対に終わらせねぇぞ!」

そう言って彼が、トランプに手を伸ばそうとしたが、

「なに勝手に動いとんじゃぁぁぁぁ!」

鬼の如き形相で入って来たお妙が、容赦なく薙刀を突き刺したのだ。

銀時に避けられた薙刀の穂先は、山崎の顔面の間近まで突き刺さった。

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」」

床下の山崎も叫んでしまうが、銀時の絶叫にかき消された為、潜入した事はばれていない。

「もう、いい加減にしてくださいよ。 傷口が開いたらどうするつもりですか? 言う事を聞かないと、今度こそホントに……ますよ?」

薙刀を引き抜くお妙に、銀時は顔を青ざめてしまう。

「病院に連れて行ってはくれないでしょうか? 幻聴が聞こえるんですよ。 何かキミの声がね、“殺す”って聞こえたんだよ。 いやいや、キミが悪いんじゃないよ、俺が悪いんだよ!」

「ダメですよ。 病院に連れて行ったら、絶対に逃げるでしょ? だからジークくんと違って、ここで看病する事にしたんですから。 ここなら何時でも仕留められますからね」

「ほらぁ、また聞こえた! 仕留めるなんてありえないもの、言うワケないもの!!」

「銀さん、幻聴じゃないですよ」

そんな彼の叫びを、新八は煎餅を齧りながらツッコんだのである。





 その頃、床下の山崎は…、

「(あ、危ねぇ…。 串刺しになるところだった!)」

一歩間違えれば、即死は免れなかった。

「(でも、お陰で覗き穴が出来たぞ)」

お妙の薙刀で開いた穴から、山崎は中の様子を覗きこむ。

そんな中お妙は、手にお椀を持っている。

「そろそろお腹が空いた頃でしょ? たまご粥を作っておきました。 でも、手が動かせないから、食べさせてあげますね」

「これは、何の拷問ですか?」

しかし料理そのものが『暗黒物質ダークマター』と化している為、銀時は別の意味で命の危機となっていた。

「(なんだ、メシか?)」

「姉御、私にやらせて」

「はいはい。 神楽ちゃんはお母さんね」

お椀を受け取ろうとした神楽であったが、誤って落としてしまう。

「あっ」

「(ん?)」

しかも落ちたたまご粥の一滴が、ドロリと山崎の右目に入ってしまい、

「(ギャアアア!! 目にィィィィ!! 目に何か刺さったァァァァ!!)」

彼は両手で押さえながら、声を出さずに悶絶する。

右目を抑えている手の隙間からは、ジュウウという音と共に、黒い煙が洩れていた。

「(焼けるゥゥゥ!! 目が…目がァァァ!! 劇物だ!! 間違いない、これは何らかの兵器だ!)」

まさか卵料理でダメージを負わせるとは、誰も想像はつかないだろう。

「(間違いない! あいつ等、俺の存在に気付いている!! 早く逃げないと殺され――)」

完全に勘違いを起こした山崎は、すぐさま床下から脱出しようとする。

「向こうに残りがあるんで、また取ってきますね」

だが同じタイミングで、銀時も部屋から逃げ出し、

「「ぎゃあああああ!!」」

すかさずお妙は、容赦なく薙刀を振り回すのだった。。





「冗談じゃねぇ! こんな生活、身がもたねぇ!」

「待てコラ、天パー!」

「逃がすと思ったか!」

コレを見た神楽とアーチャーは、すぐさま銀時を追いかける。

そしてお妙も、新八に向かって叫んだ。

「新ちゃん! 要塞モードONよ!」

「は〜い」

気の抜けた返事をしながら、新八はテーブルに出現したスイッチを押した。

その瞬間、屋敷の塀の上には槍のような鉄柵が出現し、出入り口には丸太で出来た格子が降りて来て門を固く閉ざす。

更には、屋敷のいたる所に数多の罠が出現する。

「フハハハハハ!! 逃げられると思うてか!? この屋敷はなァ、幾多のストーカー被害を受け、賊の侵入を阻むため、コツコツ武装を重ね、もはや要塞と呼べる代物になっているんだよ。ネズミ1匹逃げられやしない! 鋼の要塞にね!!」

「はぁ〜、道場の復興は?」

高らかと得意気に笑うお妙に対し、新八は色々と諦めたような表情でツッコミを入れる。

この様子を見ていたランサーとライダー、そしてルーラーの三人は、

「この屋敷、上手くいきゃ、魔術工房になりかねぇぞ」

「まさかストーカー対策に、ここまでデンジャラスな屋敷にしちまうたぁ…」

「もしかしてお妙さん、サーヴァントより強いんじゃ……」

完全に度肝を抜かれてしまうのであった。





 場所は変わって、かぶき町にある小さな病院。

病室のベッドで、ジークがぐっすり眠っていた。

「分かりました。 付き添うのでしたら、すぐに毛布と寝袋を用意しますね」

「ありがとうございます」

「いえ、看護師として当然の事です。 では、失礼します」

ピンク色の髪で赤い瞳の看護師が、それだけ伝えると病室を出る。

一礼するとジャンヌは、眠っているジークへと歩み寄った。

セイバーからの話で、彼は加勢という形で“黒”のバーサーカーと対峙したと聞く。

真名は『ファントム・オブ・ジ・オペラ』。

小説で有名な『オペラ座の怪人』の怪人本人である。

スキル『無辜の怪物』によって、鋭い鉤爪と化した両手が武器。

ジークも戦闘で、苦戦を強いられたと聞く。

そんな彼の攻撃を受けた結果か、身体の節々に生々しい切り傷が見える。

彼の手を優しく握り、ジャンヌは心から安堵した。

ジークの寝顔を眺めながら、彼女は喜びの涙を流す。

「よかった…本当に、無事で良かった」

月夜に照らされた部屋の中、聖女はそれだけを呟いたのであった。





 場所は戻って、恒道館道場では、

「どうなってるんですかコレはぁぁぁぁ!?」

セイバーが敷地内で、思わず叫んでしまう。

銀時の見舞いに来たのは良かった。

しかし屋敷が要塞と化し、辺りは罠だらけ。

流石の彼女も、警戒をしながら歩くしかない。

生前むかしと違って、最近の科学は進んでいるとは思ってましたが、流石にコレはないですよぉ〜!」

思わず弱音を吐いてしまうが、その時である。

「局長かぁ! あのバカの日頃の行いのせいで〜!」

忍者装束姿の山崎が、上司への怒りを吐きながら走っていた。

というより、屋敷の罠から必死で逃げている。

「何してるんですか、山崎さん?」

「あっ、総司姐さん!」

声を掛けられた山崎も、すぐさまセイバーの存在に気がついたのだった。





 セイバーは山崎から、彼の状況を聞かされる。

「成程。 しかし十四郎さんも、おっかない事言いますね」

「でしょう? 自分も旦那に勝てなかったのに、俺に敵うワケがないですよ」

深くため息をする山崎であったが、今度は彼がセイバーに尋ねた。

「ところで、総司姐さんはどうしてここに?」

「私は坂田さんのお見舞いで来たんですが、流石にこの状況はマズッたようですね」

「…みたいですね」

しかし、その時である。

「アッハッハッ! お妙さん、甘いですよ!」

「「えっ!?」」

何処かで聞きなれた声が、二人の耳に入って来たのだ。

「絶対に出られないということは、裏を返せばお妙さんと俺の絶対不可侵領域の愛の巣ができるということ!」

声が聞こえたのは、敷地にある落とし穴。

その中を覗いてみると……、

「そうだ、そういう事なんでしょ! ポジティブだ、ポジティブなことだけを考えろ勲。 この状況で一瞬でもネガティブな事を考えてみろ勲。あのハーゲンダッツの二のまい勲」

屋敷の要塞化の原因となった男、近藤勲が落ちていたのだ。

必死で手足を使って体を支え、穴の底にある竹槍の餌食にならないようにしている。

お妙へのお土産なのか、ハーゲンダッツの入ってたビニール袋が串刺しになっていた。

勿論、ハーゲンダッツも串刺しだ。

「やっぱりいたんかいぃぃぃぃ!」

「ホント、何してるんですか?」

予想通り過ぎて、山崎はツッコミを入れてしまう。

同時にセイバーも、呆れるしか他はなかった。

「その声はザキ、山崎か! それに総司ちゃん!! よりによって死の呪文みたいな奴と、妖怪血吐き女が助けにきやがった!」

「それじゃ、座男陸ザオリクさん呼んできますね」

「それとも、トドメを刺して上げましょうか?」

「ウソ! ウソウソ!! 更木君でなくてよかった! 剣八君でなくてよかった勲!」

一瞬見捨てようかと思った二人であったが、近藤の必死な呼びかけによって思いとどまる。

「早く引き上げて! ヤバッ、もう手足がガクガクで生まれたてのゴリラ…」

「子馬です局長」

「違う違う! 今の間違ってないからね! 俺が言ってんのは精神的な意味だから! 誰だって生まれたては不安じゃん!!」

「アンタは生まれて30年近く経ってんのに不安定ですよ」

「そうですね。 というより、一生安定しませんね」

そんなやり取りをしながらも、山崎とセイバーは近藤を引き上げようとするが、

「フフ、甘いわね」

「「えっ?」」

近くの落とし穴から、女性の声が聞こえたのだ。

二人はすぐに中を覗くと…、

「こんな罠で、私の銀さんへの想いが折れるとでも思ったお妙さん? 裏を返せば、これはあなたが私を恐れてるって事でしょ? 銀さんを取られるかもって思ってるワケでしょ?」

ナース服の女性が、近藤と同じように両手両足を壁につけて踏ん張った状態でいた。

「そうよ、そういう事よ。ポジティブよ、ポジティブな事だけ考えるのさっちゃん。この状況で一瞬でもネガティブな事考えてみなさっちゃん。あの眼鏡の二の舞さっちゃん」

彼女の名は『猿飛あやめ』。

元・御庭番衆の忍者であり、現在は『始末屋さっちゃん』として活動するくノ一の殺し屋。

ひょんなことから銀時に惚れて以降、忍者の能力を活用して銀時をつけ回すストーカーでもある。

因みに超がつくほどの近眼であり、普段から愛用している眼鏡はすでに竹槍の餌食となっていた。

「ここにもバカがいたよぉ!?」

「どんな奇跡でそうなるんですか!?」

この光景に、山崎とセイバーはツッコミを入れてしまう。

「その声は銀さん! 助けにきてくれたのね! ごめんなさい、私、銀さんを看病しようと忍び込んだらこんな事に…」

「違ぇよバカ! 何だお前、眼鏡取れたら耳まで遠くなるのか!?」

「どんな体質ですか!?」

「ウフフ、やっぱり銀さんだわ! 私を喜ばせるそのサドっぷりは銀さんだけだもの、私は騙されないゾ!」

しかし銀時の声と間違える猿飛に、遂に二人の怒りは頂点に達した。

「なんだ、この落とし穴に落ちるバカは!? 人を腹立たせるバカばかりか!?」

「初めてですよ! お見舞いで来ただけで、ここまでストレスが溜まるのは!」

「コラァァ、お前等! 何してんだァ!! 早くしないと、生まれたてのゴリラが死にたてのォォォ!!」

「うるせぇぇぇぇ!」

「ホントマジで黙って下さい!」

「やっぱり銀さんだわ! そうやって焦らして楽しんでいるのね!? いいわよ、乗ってあげるわよ!」

「「お前(貴方)も黙れぇぇぇ!」」

こうして山崎とセイバーは、近藤と猿飛を引き上げたのである。





 バカ二人を引き揚げ、山崎とセイバーは事情を説明する。

「なにィィィ!? 万事屋の野郎が一つ屋根の下、お妙さんに看病されているだとォォォ!!」

「どこに食いついてんですか! 調査! 万事屋の旦那を調査しにきたの!」

「因みに私は、坂田さんのお見舞いです」

「ふざけんなよう! そんなさァ、だってさァ、ズルイよ! 俺なんてさァ、何回もアタックしてんのにさァ、竹槍ルームで寝てろ的なさァ」

「ダメだコレ、全然聞いてないよ」

「というより、聞く気がなさそうですね」

しかし耳を貸さず、銀時を羨ましがる近藤。

そんな彼に、猿飛は呆れた顔でこう言ったのだ。

「何アナタ、そんな事でヘコんでるの? ストーカーの風上にも置けない人ね」

「何だァ、クソアマァ!!」

「オイオイ、もうなんかストーカー談義になっちゃってるよ」

「本気でしょっ引きましょうか?」

同じストーカーゆえの同族嫌悪なのか、お互いに敵意むき出しで語り始める。

「この世界にその人が存在することだけで感謝しなさいよ。少しマゾっ気が足りないんじゃなくて? 私なんて、銀さんは子供がいるって聞いた時も平気だったわ。むしろ興奮したわ」

「さっきから人をストーカーストーカーと…アンタと一緒にしないでくれるか!」

一緒にされた事が気に食わない近藤は、胸を張って堂々と主張する。

「俺はね! 人より恋愛の仕方が不器用で! しつこくて! 陰湿なだけだ!」

「「それがストーカーです」」

だが部下である二人にまで、当然のように否定された。

「お笑いね、自分がストーカーという事も気づいてないんだ」

「断じてストーカーじゃありません! しいて言うなら追跡者ハンターです、愛の」

局長ハンター、もういいでしょ。 んな事言ってる場合じゃないんですって」

そろそろ話しを戻しながら、山崎は深くため息をする。

「事と次第じゃ俺、旦那を斬らなきゃならないんですよ? どうすればいいんです?」

しかし、その時だった。

「斬れば良いじゃんそんなん! だったら、俺がやってやろうか!?」

「やってみなさいよ。 銀さんに何かあったら、ただじゃ済まないわよ!」

今の台詞が引き金になり、二人は火花を散らし合ってしまう。

「えっ、ちょっと!?」

「あっ!」

慌てた山崎であったが、セイバーが思わず声を上げる。

なぜなら彼女の目と鼻の先に、銀時がいたからだ。

「ったく、何でこんな目に……」

まさにその時だった。

「銀時ぃぃぃぃ!」

「させるかぁぁぁ!」

近藤と猿飛が、銀時へと走り出したのだ。

「えっ、なに!?」

これには銀時も驚くが、更なる危険が迫っていた。

「見つけたぞ!」

「天パぁぁぁ!」

彼を追って屋敷を飛び出した神楽とアーチャーが、同じタイミングで現れたのだ。

「ちょっ!?」

絶体絶命の銀時であったが、姿が突然消えたのである。

否、彼は偶然、落とし穴へと落ちてしまったのだ。

標的が消えた事に驚くが、四人の勢いは止まらない。

神楽の蹴りが猿飛の顎にヒットし、近藤の峰打ちが神楽の頭にヒットし、猿飛の蹴りがアーチャーの腹部にヒットし、アーチャーの峰打ちが近藤の頬にヒットしたのだ。

互いに相手の攻撃を受けた四人は、その場で宙を舞う。

それを眺めた銀時は、「ざまぁ!」という顔で笑うが、

「!?」

そのまま四人は、穴へと落ちてしまい、

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

彼は見事、穴底の竹槍の餌食となったのだ。

「「………」」

この光景に山崎とセイバーは、青ざめながら両手を合わせるしかなかった。

「あら、山崎さんじゃないですか?」

すると、お妙が声をかけて来たのだ。

「ど、どうも」

「え〜と、貴方は?」

「あ、初めまして。 セイバーと申します」

初対面である彼女に、セイバーはペコリと頭を下げる。

「初めまして、志村妙です。 ところで、どうして山崎さん達が?」

「え〜と……」

お妙に問われた山崎は、思わず目を逸らしてしまう。

しかしここで、セイバーが助け船をだしてくれた。

「実は、坂田さんのお見舞いで来たんですよ。 これは見舞い品です」

「あら、わざわざどうも」

見舞い品を受け取ったお妙に対し、セイバーは山崎に耳打ちしたのだ。

「(山崎さん! ここは私が引き受けますので、一旦逃げて下さい。 報告書は適当に書いといて下さい)」

「(りょ、了解です…)」

こうして山崎は、偶然見つけた塀の穴から出る事が出来たのである。





「(副長、やっぱりあの旦那は俺如きが推し量れる人じゃないようで。 なんだか掴みどころがなくてね、愛されてんだか憎まれてんだか。 周りを騒ぎに巻き込むくせに、人が集まってくるようで。 え? そんなこと聞いてないって? 攘夷志士? いや…あんま…わかんなかったんですけど、でもね…)」

なんとか脱出できた山崎は、屯所へと帰ろうとするが、

「あの…」

「ん?」

後ろから聞こえた声に、彼は反射的に振り返る。

そこには頭にバンダナを巻いた気の弱そうな女性が立っていた。

先程の声の主、村田鉄子である。

例の一件の後に事情聴取をしたところ、“鬼兵隊に加担した兄を止めて欲しい”と万事屋に依頼をしたそうだ。

その兄も、銀時と似蔵の戦いの最中で命を落としてしまったらしい。

「す…すいません。あの…銀さん…いますか?」

「はい?」

「…ここの家の人ですよね? ここに銀さん達がいるって聞いて来たんだけど、開かなくて」

どうやら鉄子は、山崎がこの志村家の人間だと勘違いしているらしい。

そして志村家の門が開かないのも、未だに要塞モードが解除されていないからだろう。

これを察した山崎は、鉄子に背を向けながら答える。

「ああ、今入んない方がいいよ。危ないから。 じゃ、拙者はこれにて」

「あの…じゃあ、せめて言伝を…」

それを聞いて、再び振り返る山崎。

「私、色々あったけど、今は元気にやってます。 本当にありがとう──て」

銀時達への言伝を伝え、鉄子は微笑んだ。

そしてその微笑みを見た途端、山崎はなんとなくだが、なぜ銀時が先日の事件に首を突っ込んで来たのか分かった気がした。

「(攘夷活動だなんだ、あの人は考えとらんでしょう。あの人はきっと……)」





『攘夷活動とか、旦那はしてないと思います。 それは女の子がやっていないと言っていたからです。 あの娘の笑顔が見たかったんだろうなと、僕は思いました。 山崎退』

翌日の定食屋にて、土方は報告書に目を通す。

しかし、内容が内容だっただけに、

「作文んん!?」

バシィン!と、テーブルに報告書を叩きつけたのであった。






 一方その頃、かぶき町の病院にて、

「これは私の住居先です。 病院にいなかったら、こちらを訪ねて下さい」

「ありがとう、お陰で体が楽になった」

「ホントに、ありがとうございます」

看護師からメモを渡され、ジークとジャンヌは一礼する。

「いいえ、看護師として当然です。 それから……」

看護師は手を差し出し、ジークも自身の手を差し、二人は握手を交わした。

「退院する患者を見送る時、コレをするのが密かな楽しみでして…」

微笑みを見せながら、ジークもジャンヌも微笑みを返す。

「それでは、帰りには気を着けて」

「ああ、ありがとう」

「では、失礼します」

こうしてジークとジャンヌは、病院を後にする。

そして看護師も優しい笑みで、その背中を見送ったのだった。





 退院後、志村家を訪ねたジークとジャンヌ。

「「………」」

しかし二人が見たものは、全身が包帯でグルグル巻きにされた銀時が寝ており、

「「(一体何が!?)」」

内心で驚くしかなかったのだった。


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