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Fate/Silver or Heart 第十四訓:狐【ぬすっと】
作者:亀鳥虎龍   2018/01/27(土) 22:31公開   ID:L6TukelU0BA
 ハードボイルドとは、固ゆで卵が語源となった言葉。

感傷や恐怖などの感情に流されない、冷酷非情、精神的・肉体的に強靭、妥協しないなどの人間の性格を表す。

満月で明るい夜のかぶき町……ここでも、ハードボイルドを貫く男がいた。

彼の名は小銭形平次、職業は警察官。

義賊と謳われる盗人『狐火の長五郎』を追っている。

馴染みの店に腰を降ろし、口に咥えた葉巻を一服。

「マスター。 カミュ(ブランデー)…ロックで頼む」

常に彼の渇きは、酒でしか癒せない。

そして、店の店主も……、

「ヘイ、焼酎」

「焼酎じゃない。 カミュと呼べ、マスター」

「マスターじゃねぇ。 親父と呼びな、旦那」

ブランデーではなく、焼酎の入ったグラスを置いた。

因みにこの店、おでん屋の屋台である。

「ん?」

酒を嗜む小銭形であるが、携帯電話が鳴り始めた。

「小銭形だ。 なに、事件?」

ここから、ハードボイルド刑事の出動である。





―狐【ぬすっと】―





「いたぞぉぉぉ!」

多くの警官達が、一人の盗人を目で追う。

盗人は屋根から屋根を跳び移り、警官達を翻弄していた。

白い忍装束に狐の面。

彼が小銭形が追っている盗人、『狐火の長五郎』である。

長五郎の跳躍力は、警官達の足でも追い付けない。

警官の少女・ハジを筆頭に、警官達が走り出す。

するとここで、小銭形が現れた。

「おいおい、そんなに慌ててどうした? デートの時間に遅れちまったかい?」

「小銭形のアニキ! 狐です! 狐の面を!」

「OK、我が命にかえても」

こうして、小銭形と長五郎の追跡劇がはじまったのだ。






 ハジ達と別れ、小銭形は一人で路地裏を走り出す。

しかしその時だった。

「うっ!」

先程の酒の所為か、彼の体がよろめく。

「ちと、カミュが回り過ぎたか」

「おい、大丈夫かアンタ?」

すると、背後からの声が消えが聞こえた。

小銭形が振り返ると、狐の着ぐるみを着た六人組みがいる。

「どうだ? ウチの店で、少し休んでいかねぇか?」

「…フッ」

どうやら風俗店の客引きであるが、彼は小さく笑った。

「ネズミならぬ狐がようやく尻尾を出したか」

「?」

「神妙にお縄に付け、キツネめが!」

こうして小銭形は…、

「――っていうプレイとかしたいんですけど、いけますかね?」

「同心プレイ?」

「お望みなら、岡っ引きプレイもできるわよ?」

「マジっすか! 僕、基本はMなんで、結構キツ目にやって欲しいんですけど」

そのまま風俗へと向かったのだった。






 警察署にて、小銭形は葉巻を一服する。

「(仕事の後の一服……コレがたまらない。 至福の時、これ一本の為に仕事をしているといっても良い。 この一本の為に、男は仕事に命をかける)」

だが同時に、上司の怒号が炸裂した。

「なにやり遂げた顔してんだぁぁぁ! 仕事中に風俗に行っただけじゃねぇか! なにしてんだお前!? 一本って何? そっちの一本か!? 一本一万円のコースか!?」

ドガッ!と上司の蹴りを喰らい、うつ伏せで倒れる小銭形だが、

「男には我慢できない一本がある」

「最低な事をハードボイルドっぽく言ってんじゃねぇ!」

とんでもない事を言ったので、再び上司の雷が落ちる。

「挙句の果てに、酔っ払ってあんなもん連れてくる始末! 狐は狐でも、狐面じゃなくて着ぐるみだろうがアリャ!」

上司が指差す方向には、着ぐるみを着ていた六人の男女がいる。

それは銀時、新八、神楽、ユーリ、カロル、ジュディスの六人。

仕事でメイクラの客引きをしていたら、偶然発見したのが警察官だったのだ。

「前から思ってたがな! オメェは顔と能力のバランスがおかしい! その顔は仕事のできる奴の顔だろうが! 何で全然ダメなの!? 何で無駄にハードボイルド!?」

上司の前でも葉巻を加える小銭形であったが、上司からこんな事が告げられた。

「平次……オメェがハードボイってる間に、また狐がりやがった」

「!?」

「忍び込んだ店の者や丁稚も、一人残らず血の海だ。 テメェは立派な罪人だよ、平次。 奴を捕まえられなかったオメェのな」

最後に上司は、小銭形に自宅謹慎を下したのである。





 その後、おでん屋台にて…、

「自宅謹慎か…なんか悪い事したな……」

「気にすんなよカロル」

「そうよ。 この人もこの人で、私達を犯人扱いしたからお相子よ」

銀時達六人は、小銭形とおでんを口にしていた。

そんな中、当の本人はというと、

【落ち込みはしない、何時もの事だ。 人生は様々な事が起こる】

いつものように、ハードボイルドに浸っている。

【良い事があろうと、悪い事があろうと、そいつを肴にカミュを傾ける……俺の一日に変わりはない。 これが俺の人生、まさにハードボイル――】

「「もう、ウゼェ!」」

「どわぁぁぁぁぁ!」

しかし銀時とユーリがドガッ!と、彼の脳天に踵落としを喰らわせた。

「なにすんだ貴様等ァァァ!」

流石の小銭形も、二人に対して怒鳴る。

「もういい! しつこい、ハードボイルド」

「メンドい! 消えろ、ハードボイルド!」

「仕方ないだろ、ハードボイルドなんだから!」

「どうでもいいわ。 何で無駄に“【】”使ってんだよ? 文章の無駄だろうが!」

すると神楽は、いきなりオカン口調になって叱りだす。

「そんなんなぁ、ハードボイルドで頭がいっぱいで仕事に手がつかないなら、ハードボイルドなんてやめちまいな!」

「えっ、なに? お母さん!?」

「その方が、アンタにとってもハードボイルドにとっても幸せでしょうが!」

「んもぉぉぉ! 出来るもん! 仕事もハードボイルドも、俺両立できるも〜ん!」

しかし説教が効いたのか、小銭形が子供っぽくなってしまう。

「大丈夫かな、この人」

流石の新八も、彼の人生が心配になる。

「つーか、その狐ってなにもんだよ?」

ユーリが問うと、店主がご丁寧に教えてくれた。

「“狐火の長五郎”……悪徳権力者から奪った金品を、貧しい人々に贈る盗人。 その活躍ぶりから民衆からのウケはとても良いが、腹黒い権力者からすれば邪魔者以外の何者でもねぇ。 でも最近では、この義賊行為と盗賊行為を交互に行っているらしいですよ」

「どういう事だ?」

「言葉通りだ。 長五郎は最近、盗みをするだけでなく、侵入先の屋敷や店の人間を一人残らず殺害していやがる」

「見当もつかねぇな」

「……ふっ、奴は俺からすれば面白い奴だったよ」

「ん?」

すると、小銭形が二人の会話に割り込んできた。

「盗人のくせして、何処かか茶目っ気のある盗み方をしやがる。 犯行現場には、何時も食いかけの油揚げが置いてあったりした」

「………」

しかし、その時である。

「アニキ!」

ハジが慌てた顔で駆け寄ってきたのである。

「どうした、ハジ!?」

「コイツを見てくだせぇ!」

彼女が渡した手紙を受け取り、小銭形はその内容を読む。

“今夜、大江戸美術館にある『黄金の油揚げ像』を頂きます。 狐火の長五郎”。

それは、長五郎からの予告状であった。






「おのれぇ! ハードボイルドな真似をぉ〜!」

予告状を破り捨て、小銭形は屋台を出ようとする。

「待てよ」

そんな彼を、銀時が呼び止めた。

「禁止を破ってまで、敵の汚名を晴らす気か?」

この問いに対し、小銭形は小さな笑みを見せる。

「……そんなもんじゃない。 ただ、俺にも俺の流儀ってのがある……」

十手を両手に握りしめ、彼は強く叫んだ。

「腐った卵は、俺の手でぶっ潰す……それが俺のハードボイルどうだ!」

「旦那、勘定がまだですぜ」

「あっ、すんません」

だが店主に呼び止められ、すぐさま勘定を払う。

小銭の音がジャラジャラと、周囲の耳に響き、

「イマイチ決まらない人だな。 しかも、全部小銭で払ってるよ? どんなハードボイルド?」

「翔太郎がコレを見たら、絶対に憤慨しそうだよ」

その光景に新八とカロルも、思わず唖然となる。

確かに翔太郎が見たら、絶対に憤慨してもおかしくない。

「それと、もう戻ってこねぇかもしれないんで、今迄のツケの分も」

「オヤジがハードボイルドだよ! スゲェ乾いてるよ!?」

しかし店主が一番ハードボイルドだった事に、銀時が驚きを隠せなかった。

「またな、マスター」

小銭形が屋台を走り去る姿を見届けた店主は、

「それじゃ、コイツはアンタ等に」

彼が払った小銭を、銀時達に差し出した。

「ん? 何だよ?」

首を傾げたユーリに、店主はうんざりした様子を見せる。

「アンタ等『万事屋銀ちゃん』に依頼があるんです。 アッシはあの旦那から、もう何年も前から四六時中愚痴聞かされてる身でしてね。 狐だ狸だってね……もうそれがうんざりになったんでね、もう終わらせてほしいんですよ。 誰にだって、成し遂げなきゃならんモノがあることくらい、わかっちゃいますがね。 いい加減、ケリつけて欲しいんですよ」

最後に彼は、小さな笑みを見せると、

「どうか小銭形の旦那の事、宜しくお願いしやす」

深く頭を下げたのであった。

「(ハードボイルドォォォォォ! ハードボイルドの化身だよ、このオッサンンンンン!!)」

最後までハードボイルドな店主である。






 かぶき町にある、巨大美術館。

銀時達は現在、館の周囲にある茂みの中に隠れていた。

何故か神楽とジュディスだけ、全身タイツに着替えていたが……。

「さて、どうやって忍び込むか……」

「それにしても、凄い警備だね」

「そりゃそうですよ。 警察官の威信が掛かってますから」

「ハジの言うとおりだ。 コイツは俺達だけの問題じゃない、警察全ての問題だ。 だからこそ、奴の逮捕に全力を注いでるんだ」

そう言って小銭形も、葉巻を口に咥える。

何故かバスローブ姿でワイングラスを片手に持ち、愛用のバイクに跨っているが……。

「「テメェは何に全力を注いでんだぁぁぁ!」」

これには銀時とユーリも、怒涛のツッコミを入れてしまう。

「何でバスローブ着こんでんだアンタ!?」

「ハードボイルドだろ?」

「それは一仕事終えた後のハードボイルドだろうが!

「何で警備の奴等が逮捕に全力注いでんのに、アンタだけはハードボイルドに全力注いでんだよ!?」

流石の彼等も、小銭形の行動に苛立ちを感じた。

しかし、その時である。

「「「「!?」」」」

突然のエンジン音に、ユーリ達は思わず振り向く。

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「キャッホー」

そう言ってジュディスと神楽はは、バイクを走らせたのだった。







「「ヒャッホー!」」

ノリノリでバイクを走らせる神楽とジュディス。

「曲者だぁ!」

「であえであえ!」

その光景を目にした後、

「「よし、陽動成功だ」」

「嘘付け!」

「全然違うし!」

ユーリ達は、裏口から潜入したのだった。

屋根の上から、その様子を見られていた事に気付かぬまま……。







 博物館受付前にて、

「暇だな」

「暇ですね、先輩」

「しりとりでもするか?」

「そうですね」

「じゃあ、“リンゴ”」

「“ゴマ”」

二人の警備員が、暇つぶしにしりとりをするが、

「マントヒ――」

「「ヒャッハー!」」

「「ッッ!!?」」

突然の声に、思わず反応したのである。

その声の主とは勿論、バイクで爆走中の神楽とジュディスであった。






 その頃、モニター室では、

「し、侵入者です! 正面から堂々と!」

「狐か!?」

「いえ、●ャッ●アイです!」

「なんで!?」

ジュディスと神楽の登場に、警備の者達が驚愕する。

「なんでもいい。厳重警戒モードONにしろ」

「はい。警戒モード作動」

警報ボタンが押され、博物館には警報がなる。

「年貢の納め時だ●ャッ●アイ!!」

「狐です!」






 その頃、管内の方では、

「急げ急げ!」

「警備を固めろ!」

「蟻の子一匹、特別展示室に入れるな!」

警備員達が、殺気だって走り出す。

「流石に警備厳重だね」

「流石の狐も、尻尾を巻いて逃げんじゃねぇか?」

「いいえ、それはないです。 この程度は、狐も予想内のハズです」

物陰で様子を伺う銀時達であるが、

【奴は必ず来る。 男とは常に、危険に身を置かねばならない、血に飢えた獣だ】

小銭形は窓の外を眺めながら、ワインを口に流し込む。

「何やってんだアンタ!」

そんな中で彼の体は、カタカタと震えている。

【先刻から震えが止まらない。 どうやら俺の中の獣も、暴れたがってウズウズしているようロロロロロロ……】

遂には窓から嘔吐をしてしまう。

「完全にビビってるよ。 嘔吐するくらいガチガチになってるよ」

「ホントに大丈夫か?」

カロルとユーリも呆れてしまうが、その時であった。

「そこで何やってる!」

「!?」

突然の声に、思わず反応してしまう。

「ん?」

「こ、こちら異常なしでありやす」

「…何だハジか。 他に誰かいたか?」

「い、いえ…あちきだけでありやす」

「そうか…ところでお前、今日の警備から外れたはずだぞ?」

「は、はい。 ですが、謹慎喰らったアニキに行けと言われて…」

「あ〜、そりゃ同情するわ」

すると刑事達は、鎧の展示物が置かれた部屋を調べる。

ハジも中を覗くと、銀時達四人が鎧を纏って座っていた。

「(――って、何やってんスかアンタ等ぁぁぁぁ!?)」






「(どどどどどうしよう、ユーリ……)」

「(思わず展示物に化けたつもりだが……)」

「(つーか新八、何でメガネ外さねぇんだよ!)」

「(メガネは目の鎧です)」

刑事達が暫く観察するが、

「異常なし」

そのまま立ち去ろうとする。

「「「「(た、助かった…)」」」」

内心で安堵する四人であったが、まさにその時である。

刑事達がある銅像へ、視線を一点集中していた。

そこには小銭形が像の背後に立ち、ライフルの銃口を突きつけている。

「おい、こんな像あったか?」

「つーか、この像だけリアルすぎるだろ」

刑事達も不審がる。

《ピンポンパンポン。こちらにあるのは、徳川公の背後を狙った、クールでニヒルなハードボイル像》

「「「「んなもん、あるかぁぁぁぁ!」」」」

これには銀時達も、ドガァ!とドロップキックを放ったのだ。

当然バレてしまい、彼等は追われてしまうのだった。







「小銭形ぁ! 貴様ぁ、謹慎中になにしてんだァ!」

「おい、どうすんだよ!? このままじゃアンタ、ホントにクビになっちまうぞ!」

「フン、望むところだ。 よし、一旦BARバーに戻って対策を――」

「しないよ! てか、逃げる気満々なの!?」

「大体BARバーって言ってるけどよ、あの店おでん屋だろうが!」

「アレがBARバーだ。 オシャレなBARバーは、緊張して入れない」

「つまりアンタはアレだろ! 結局マダオ(ジでメなまわりさん)じゃねぇか!」

小銭形の馬鹿さ加減に、流石のユーリも銀時もマジギレになってしまう。

しかしその時だった。

「「「グアァァァァ!」」」

「「「「!?」」」」

刑事達の悲鳴が聞こえ、すぐさまユーリ達は振り向く。

同時に何者かが、彼等の頭を跳び越える。

「い、今のは!?」

再び振り返ると、そこには白い忍装束に狐も面を着けた人間が立っていた。

義賊『狐火の長五郎』のご登場である。






その頃、モニター室では…、

「出たな狐。 良し、警備の警官を全員――」

指揮官が叫ぼうとしたが、その時である。

「あ、待ってください!」

「どうした?」

部下の警官が、他のモニターを観ながら叫んだ。

「見てください! 他のモニターにも、狐の姿が!」

「バカな!どういうことだ!?」

「あ、カメラが壊されました!」

徐々に一つずつ、監視カメラが壊されていき、

「もうこの部屋のカメラしか残ってません!」

「一体どうなってるんだ!?」

混乱する警官達であったが、背後から声が聞こえたのだった。

「狐にでも、化かされてるんじゃないか?」

この台詞とともに、モニター室のカメラも壊されたのである。




続く。


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■作者からのメッセージ
金時「今回は俺達、登場なしだぜ」

クー・フーリン「マジでか!?」

ノッブ「まあ、是非もないよね♪」
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