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Fate/Silver or Heart 第十二訓:護るための剣
作者:亀鳥虎龍   2018/01/21(日) 11:45公開   ID:L6TukelU0BA
 船内の何処かにて……、

「我が輩も貴様と同様、精神を攻撃する方法を知っている」

ネウロは“黒”のキャスター、ウィリアム・シェイクスピアと相対していた。

というより、彼が一方的に追い詰めている。

頭を鷲掴みし、ネウロは不敵な笑みを見せ、

「ただし……相手のトラウマを本人に見せるという、残酷な真似はしない」

「あ…が……」

「貧弱な脳から生み出す『謎』を護ろうとする精神こころは――魂ごと狩り取るのだ」

パリーンという音が聞こえ、“黒”のキャスターはその場で倒された。

そう彼は、ネウロに精神をへし折られたのだ。

「これが、魔人の力……」

「うわぁ、お気の毒に……」

魔人ネウロの力に驚くルーラーとは逆に、“黒”のキャスターに同情する弥子なのである。





―護るための剣―





「な、何なんスかアレぇ!?」

変わり果てた似蔵の姿に、また子は絶叫してしまう。

両腕は巨大なコードのような触手の集合体で、背中から肩にかけて無機質なパイプが盛り上がっている。

かろうじて人型は成しているものの、異形となった姿はもはや人間とは呼べないだろう。

「…似蔵、さん?」

思わず彼の名を呼ぶ武市であったが、

「う…う……あがぁぁぁぁぁぁ!」

似蔵は腕の触手を振るい、武市を攻撃したのだ。

「ガハッ!」

武市はドガッと壁に叩きつけられ、ズルズルと崩れ落ちる。

「か…神楽ちゃんの…三年後が……見たか…た……」

「先輩!」

気絶した彼を目にし、また子は驚愕を禁じ得ない。

「似蔵! 貴様、乱心したッスか!?」

叫ぶまた子であるが、似蔵は「コォォォ…」と呻くだけである。

「意識が…まさか紅桜に? チィ、嫌な予感が的中したッス。 止まれ似蔵ォ!」

殺すしかないと判断し、何度も銃を撃つが、似蔵には全く効いていない。

「ウオォォォォォ!」

それどころか、彼の攻撃が襲いかかる。

「がっ!」

攻撃を喰らったまた子は、壁に激突してしまい、その場で気絶してしまう。

仲間すらも攻撃する似蔵はもう、理性すらも失っている。

新八達の前にいるのは、紅桜そのものであった。





「完全に紅桜に侵食されたようだな! 自我のない似蔵殿の身体は全身これ剣と化した!」

屋根に空いた穴から見下ろしながら、鉄矢が叫ぶように言い放つ。

「もはや白夜叉といえど、アレは止められまい! アレこそ紅桜の完全なる姿! アレこそ究極の剣!! 一つの理念の元、余分なものを捨て去った者だけが手にできる力! つまらぬ事に囚われるお前たちに、もう止められるわけがない!」

大きく目を見開く鉄矢を見て、鉄子は遂に悟ったのである。

自身の知る兄の姿は、もうどこにもいないのだと――。

そんな中、彼女は銀時が落とした刀が目に映った。

兄を止めるために、紅桜を倒すために託した一振りを…。

未だに気を失っている銀時。

似蔵は彼に目を向けながら、紅桜の付いた腕を上げる。

「(──…エナイ…メザワリナ光ガ…消エナ…)」

もはや自分が何者かすらもわからなくなった頭で、言葉を反復する似蔵。

左腕で銀時を持ち上げ、右腕の刃を振り上げる。

だが、その時であった。

天井の穴から飛び降りてきた鉄子が、似蔵の左腕に刀を突き刺したのだ。





「鉄子ォォ!!」

「死なせない! コイツは死なせない!! それ以上その剣で、人は死なせない!」

これを見て、鉄矢は呆気に取られた。

今までボソボソとしか話さず、自己主張も控えめだった妹が、力強く叫んだのだ。

「がアァァァァ!!」

「!!」

すると似蔵の右腕の刃が、狙いを鉄子へと変えて振るわれる。

「女に剣を振るうたぁ、ゴールデンじゃねぇぞ!」

「ほわちゃぁぁぁ!」

しかしライダーと神楽が、似蔵の顔面に拳を叩き込んだのだ。

クリティカルヒットしたのか、似蔵は一瞬だけ怯む。

「デカブツぅぅぅ!」

「そのモジャモジャを!」

「放しやがれぇぇぇぇぇ!」

「でやぁぁぁぁ!」

さらにアーチャーと新八、そしてランサーとジュディスが、槍と刀を似蔵の腕に突き刺したのだ。

「ガァァァァァァァ!」

しかし似蔵は咆哮しながら、彼等を振り払おうと暴れ出す。

この光景を見ていた鉄矢は、妹の行動が理解できなかった。

「(何故…何故だ。 鉄子、何故理解しようとしない!? 私はこれまで紅桜に全てを捧げてきた。 他の一切、良心や節度さえ捨てて。 それは私の全てなんだ、それを失えば私には何も残らん)」

脳裏に蘇るのは、父が亡くなってすぐのこと。

――惜しい人を亡くしたな…。

――でも、息子がいるんじゃ?

――ありゃ駄目だ。 まあ、親父が稀代の仁鉄だから、食うには困らねぇんじゃねぇか?

鍛冶屋を継いだ鉄矢は、少しでもいい刀を作ろうと日々努力してきた。

しかし先代の父は、稀代の刀工と謳われている。

当然その腕の差は歴然で、客達も鉄矢を見限っていく。

次第に鍛冶屋を訪れていた客も、最後は遠のいてしまう。

生前の父も、自分ではなく鉄子の鍛冶を認めていた。

――鉄子…オメェは鍛冶の腕は下手だが、鉄矢には無ぇもんを持ってる。 アイツも何時か、分かってくれるといいんだが…。

しかしこの言葉の意味を、鉄矢は今でも理解できなかった。

「(親父を超える為、剣だけを見て生きてきた。 全てを投げうち、剣だけを打ってきた。 いらないんだ、私は剣以外何もいらない。 それしかないんだ、私にはもう剣しか……)」

そんな中、似蔵の身体にしがみついていた者達が振り落とされた。

体勢を崩し、床に倒れてしまう。

その中の1人である鉄子に、似蔵は狙いを定める。

刃を高々と掲げ、振り下ろそうとしていた。

「てっ…!!」

その光景を見た鉄矢は、狼狽するように身を乗り出す。

ドゴォォォォンと、紅桜の刃が容赦なく振り下ろされた。

一直線に下ろされた刃は、床を叩き割り、その衝撃で砂塵を巻き上げたのである。





 目を開けると、鉄子は無事であった。

砂塵が晴れるとそこには、彼女を庇って斬られた鉄矢が倒れている。

「あ、兄者!」

すぐさま鉄矢に駆け寄り、抱き起す鉄子。

しかし出血が酷く、彼自身も虫の息であった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

鉄子の悲痛の叫びが響く中、似蔵は紅桜を振り下ろそうとする。

だが、その時だった。

「おらぁ!」

目を覚ました銀時が、刀を取って似蔵の顔を斬りつけたのだ。

似蔵の顔から鮮血が噴き出し、その場に倒れ込む。

触手から脱出した銀時であったが、既に体力は限界を迎えている。

「銀さん!」

「ハァ…ハァ……」

すると、ルーラーとネウロ、そして弥子が駆けつけた。

「な、何なのアレ!?」

「岡田似蔵!? なんか、化け物見じてるんだけど…というより、完全なバケモノ?」

「そのようだな」

初めて出会っとき以上の姿に変貌した似蔵に、弥子は驚きを隠せない。

ルーラーも内心で、「どうやればあんなふうに人間が変わるのか」と感じてしまう。

「(我が輩の求める『進化』とは、全く異なるものだな)」

人間の可能性を理解しているネウロですら、紅桜は予想外だったようだ。

「兄者ッ!! 兄者しっかり! 兄者!」

力なく横たわる兄の身体を抱き上げ、必死に呼びかける鉄子。

口から血を吐きながらも、鉄矢は悟ったような顔で笑みを浮かべていた。

「フッ、そういうことか。 剣以外の余計なものは…全て捨てたつもりだった。 人としてよりも、刀工として…剣を作ることだけに生きるつもりだった」

今にも消えてしまいそうな声で呟きながら、涙を流す妹の頬に右手を添える。

「だが最後の最後で──お前だけは、捨てられなかったか…。 こんな生半可な覚悟で、究極の剣など打てるわけもなかった…」

「余計なモンなんかじゃねぇよ!」

「!」

そんな彼に対し、銀時がボロボロの体で立ち上がった。

「この世に余計なモンなんかじゃねぇよ。 全てを捧げて、剣を作るためだけに生きる? それが職人だァ? 大層なことぬかしてんじゃないよ! ただ面倒くせぇだけじゃねぇか!」

似蔵も立ち上がって、再び戦闘態勢をとろうとしている。

「色んなモンを背負って、頭抱えて生きる度胸もねー奴が、職人だなんだカッコつけんじゃねェ! 見とけ…テメェの言う“余計なモン”が、どれだけの力を持ってるか」

そんな相手を見据えながら刀を握り、銀時は切っ先で似蔵を指す。

「テメェの妹が、魂を込めて打ち込んだコイツの斬れ味──その目に焼き付けな!」

「ガァァァァァァァァ!」

似蔵が咆哮を上げながら、彼は銀時へと突進してくる。

それを銀時は、正面から走り出す。

「銀さん! 無茶だ、正面からやり合って紅桜に…」

鉄子の叫びを遮るかのように、銀時と似蔵は真っ向からぶつかった。

「がぁぁぁぁぁぁ!」

「うおらぁぁぁぁぁ!」

二人はすれ違いに刃を振るい、互いに背中を向ける。

果たして、勝負の行方は!?





互いに背中を向ける銀時と似蔵。

しかし銀時の刀は折れており、刀身が宙を舞っていた。

刀身が床に刺さるが、二人は未だに動かない。

――刀なんぞ、所詮は人斬り包丁だ。 どんなに精魂込めて打とうが、使う相手は選べん。 それでも俺達ァ、鎚を打つのを止めるワケにはいかねぇ。 おまんま食いっぱぐれちまうからな。

静寂の中、鉄矢は父・仁鉄の言葉を思い出す。

――それだけじゃねぇ、俺達が作るのは武器だ。 だから打って打って打って、打ちまくらなきゃならねぇ。 鉄じゃねぇよ、自分テメェの『魂』をだ。

「!?」

――鉄とともに自分の『魂』を叩き上げろ。 優しく清廉な人になれ、そして美しく生きろ。 そうすれば刀コイツをマシに使ってくれる奴がいるかもな。 なあ、鉄子。 お前はどんな刀を打ちたい?

幼き頃に鉄子は、父の問いにこう答えた。

――まもるけん。

――あ? 声が小せぇよ。

――人を…護る剣……。

この言葉が鉄矢の脳裏で聞こえた瞬間、紅桜の刀身にヒビが入る。

そして最後は、粉々に砕け散ったのだ。

先程まで暴走していた似蔵の肉体も、紅桜と共に消滅していく。

その光景は、まるで桜の花びらのようであった。

一方で鉄矢は、ある事を思い出したのである。

“護るための剣”……それが、鉄子が目指している理想の剣。

どんなに才能に恵まれても、どんなに努力をしても、“目標”がなければ意味がない。

己の理想を描こうとする鉄子と、父を超えたいだけの鉄矢。

どんなに同じ刀を作っても、“魂”を込めて“目標”へ辿りついた者には敵わない。

父が鉄子を認めていた理由――それは己の目指す“理想”を、既に持っていたからだ。

鉄矢はやっとで理解出来た。

“自分に無くて、鉄子が持っていたもの”を…。

「護るための剣…か……。 鉄子…お前らしいな…。 どうやら…私は…まだ…打ち方が…足りなかった…らしい…」

しかし、気付くのは遅すぎた。

そして同時に、強く後悔したのだ。

もっと早く気づいていれば、こうなる事もなかっただろうと……。

この機を逃さなかったネウロも、一瞬だけ魔人の姿になり、

「頂きます…」

鉄矢の生み出した『謎』を喰らった。

意識が徐々に薄れていく中、鉄矢は妹の頬に手を添える。

「鉄子…良い…鍛冶屋に…な……れ――」

最期の言葉を妹に遺し、彼は遂に息絶えたのだった。

力を失くした手を握り、鉄子は涙ながら呟く。

「聞こえないよ、兄者。 何時もみたいに…大きな声で言ってくれないと……聞こえないよ……」

激しい死闘により、銀時が勝利を掴み取る。

その代償は、あまりにも悲しいものであった。





 船の右甲板では、背を向ける高杉に桂が言い放つ。

「高杉、俺はお前が嫌いだ。 昔も今もな。 だが、仲間だと思っている。 昔も今もだ。 いつからたがった、俺たちの道は」

「フッ、何を言ってやがる」

高杉は刀傷のついた教本を取りだし、昔の事を思い出す。

「確かに俺たちは、始まりこそ同じ場所だったかもしれねェ。 だが、あの頃から俺達は、同じ場所など見ちゃいねぇ。 どいつもこいつも好き勝手、てんでバラバラの方角を見て生きていたじゃねーか」

それこそが、彼らの恩師の教えでもあった。

「俺はあの頃と何も変わっちゃいねぇ。 俺の見ているモンは、あの頃と何も変わっちゃいねぇ。 俺は──」





 一方、前甲板にて、

「よし、だいぶ片付いたな」

「ええ。 後は高杉を捕えるだけです」

バーサーカーとセイバーが、倒した浪人達を見下ろす。

しかし、その時であった。

「歳三さん! 総司姐さん! アレを見て下さい!」

「ん?」

「何でしょう?」

一隻の船が、こちらへと向かって来たのである。

「だれか、増援でも呼びました?」

「いや、そんな記憶はねぇぞ。 アサシンじゃねぇのか?」

「そんなワケがないであろう」

「じゃあ、アレは何の船だ?」

首を傾げたバーサーカーであったが、隊士達が船の旗を見て驚く。

「なっ!? バカな!? あの旗は!?」

「何で…何で奴等が此処に!?」

コレを見た隊士の一人が、思わず叫んだのだった。

「春雨…宇宙海賊『春雨』だぁぁぁ!」





 場所は戻って船の右甲板。

「ヅラぁ…俺はな、テメェ等が国を護るためだァ、仲間のためだァ剣をとった時も、そんなもんどうでもよかったのさ」

高杉が薄ら笑いを浮かべ、彼の言葉を桂は黙って聞く。

「考えても見ろ。 その握った剣、コイツの使い方を俺達に教えてくれたのは誰だ? 俺達に武士の道、生きる術、それらを教えてくれたのは誰だ? 俺達に生きる世界を与えてくれたのは、紛れもねェ──松陽先生だ」

恩師『吉田松陽』と過ごした日々、弟子の彼等にとっては掛け替えのない宝であった。

「なのに世界は、俺達からあの人を奪った。 だったら俺達は、この世界に喧嘩を売るしかあるめェ、あの人を奪ったこの世界を…ブッ潰すしかあるめぇよ」

大切な人を奪った世界への復讐。

これこそが、高杉の攘夷活動の起因となっていた。

「なァ、ヅラ。 お前はこの世界で何を思って生きる? 俺達から先生を奪ったこの世界を、どうして享受し、のうのうと生きていける? 俺はそいつが腹立たしくてならねェ」

先程まで黙っていた桂も、ようやく口を開く。

「高杉…俺とて何度、この地を更地に変えてやろうかと思ったかしれぬ。 だがアイツが…アイツがそれに耐えているのに──アイツが…一番この世界を憎んでいるハズの銀時が耐えているのに、俺達に何ができる?」

銀時こそが、一番この世界を憎んでいる――。

同じ松陽の弟子であった桂は、それを誰よりも理解していた。

「俺にはもうこの国は壊せん。 壊すには…ここには大事なものが出来過ぎた」

銀時やエリザベス、そして新八達の顔が、今の桂の脳裏に浮かんでいる。

「今のお前は抜いた刃を収める機を失い、ただいたずらに破壊を楽しむ獣にしか見えん。 この国が気に食わぬなら壊せばいい。だが、この国に住まう人々ごと破壊しかねん貴様のやり方は、黙って見てられぬ。 他に方法があるはずだ。 犠牲を出さずとも、この国を変える方法が。 松陽先生もきっとそれを望んで…」

説得を試みようとした桂であったが、まさにその時であった。

「キャァ!」

突然の叫びに、彼は後ろを振り返る。

「!?」

「悪いな、桂ァ。 アンタの首は高く売れるんでなぁ」

そこには豚の天人が、背後からキャスターの喉元に刃を向けていた。

更に上には、猿の天人が銃を向けている。

「天人!?」

驚愕する桂に対し、高杉は船の縁に腕を乗せながら口を開く。

「ヅラ、聞いたぜ。 お前さん、以前銀時と一緒に、あの春雨相手にやらかしたらしいじゃねぇか。 俺ァねェ、連中と手を組んで、後ろ盾を得られねぇか苦心してたんだが…おかげで上手く事が運びそうだ。 お前達の首を手土産にな」

「高杉ィィ!!」

怒る桂であったが、高杉は狂気に満ちた笑みを見せた。

「言ったハズだ。 俺ァ、ただ壊すだけだ……この腐った世界を」





 鬼兵隊の船の横についた春雨の船は接舷し、天人の軍勢を次々と送り込む。

そして真選組と衝突し、激しい戦いを繰り広げている。

しかし数の差で、僅かに真選組が押されていた。

その光景を、船の甲板から眺める一人の人間と一人の天人。

「万斉殿、我らは桂と件の侍の首がもらえると聞いて…万斉殿?」

すると天人が、隣の相手に声をかける。

サングラスとヘッドホンを着用し、ロングコートを羽織って三味線を背負った男。

彼こそ、鬼兵隊の“人斬り万斉”こと『河上万斉』である。

天人は話しかけるが、本人はヘッドホンから流れる音楽を聴きながら鼻歌を歌っていた。

「ふんふんふ〜ん♪」

「ちょっと!? 聞いてるの万斉殿!?」

「聴いてるでござる。 これね、今イチオシの寺門…」

「そっちじゃなくてこっちの話! なんなの、何でこんな奴を交渉に寄越したワケ!?」

どうやらまったく聞いていなかったようで、流石の天人も怒鳴りながらツッコむ。

「心配ないでござる。 所詮は幕府の犬なぞ雑魚でござる。 すぐに片が付きますよ」

そう言って万斉は、真選組と春雨の戦いを見ていたのだった。





「すまねぁ、守ってやれなくて…」

兄の亡骸を抱く鉄子に、銀時は謝罪の言葉を口にする。

すると彼等の元に、土方と沖田が現れた。

「あっ、これは真選組の皆さん」

「テメェ、無事だった」

皮肉を言う土方であったが、銀時はそれを受け流す。

「あの、この船そろそろヤバイんで、コイツ等を連れて脱出してくれませんかね?」

「テメェはどうする気だ?」

「最後に、ちょっくら人にあって来る」

「ですが旦那、その身体で」

沖田の言うとおり、今の銀時の傷は深い。

先日の戦闘の後にも拘らず、更に傷だらけになっているのだ。

生きてるのが不思議過ぎる。

「そうですよ銀さん」

「銀ちゃん」

新八と神楽も心配する中、彼は笑いながら答えた。

「大丈夫。 高杉アイツ、友達だから。 信じて。 話しつけてくるから。 だから、頼むよ」

深く頭を下げる銀時に、土方も渋々「分かった」と頷く。

すると、今度はユーリやジーク達が現れる。

「銀時! 急いで脱出だ!」

「ユーリさん? 何かあったんですか?」

新八が問うと、ユーリは息を切らしながら答えた。

「春雨って連中の船が、攻め込んできやがったんだ!」

「えっ!? 春雨が!?」

宇宙海賊『春雨』……銀河中に広がる、犯罪のジンケート。

万事屋も以前、春雨の関わった麻薬事件を解決した事がある。

まさか春雨が、今回の事件に関わるとは思っていなかった。

「ちっ、高杉のヤロー。 天人と手ェ組んでたか」

「今、真選組が脱出の準備をしてる。 早く船に急げ!」

それを聞いた銀時は、新八達に告げる。

「そういうこった。 お前等は先に船に急げ」

「銀さん……」

外へ出ようとする銀時に、ジークは声をかけた。

「行くのか、銀さん」

「ああ。 ちょいと、会わなきゃいけねぇ奴がいるんでな」

「そうか……」

それを聞いたジークは、彼に自身の刀を差し出す。

「使ってくれ」

「良いのか?」

「どちらにせよ、武器はあるに越した事は無いだろ?」

「そうだな」

「俺は先に、皆と船で脱出する。 必ず、無事で戻って来てくれ」

「ああ」

刀を受け取った銀時は、皆の元を後にした。

向かうは、嘗ての盟友・高杉晋助のもと……。





 一方の桂は、キャスターを人質に取られ、手も足も出なかった。

「終わりだな、桂」

猿の天人が引き金に力を込めようとしたが、その時である。

『かかったな、阿呆が!』

「がっ!?」

突然現れたエリザベスの攻撃に、思わず怯んでしまった。

「何っ!?」

豚の天人は驚くが、キャスターは杖で彼の足を思い切り突く。

「不敬者!」

ドスッという音が聞こえ、豚の天人が痛みで「ぎゃぁぁぁ!」と叫ぶ。

拘束を解かれたキャスターは脱出し、桂が接近する。

ズバァツ!と刀で豚の天人を斬り伏せると、

「ハッ!」

跳躍し、猿の天人を斬り倒した。

「ニトクリス殿、先にエリザベスと脱出してくれ」

「マスターは!?」

「高杉の元へ向かう!」

「しかし!」

「エリザベス、後は頼む!」

『今度は、ちゃんと返って来てくださいよ』

「ああ、無論だ」

キャスターを連れ、先に船を脱出したエリザベス。

「高杉ィィィ!」

そして桂は、高杉の元へと走るのであった。





 真選組の船が飛び去り、天人達が高杉を出迎える。

「天人と手ェ組むとはな」

「!?」

「性根まで腐ったか、高杉」

だがここで、銀時が立ちはだかった。

「その身体で似蔵アイツを倒したのか? 大した奴だ」

「アイツは!?」

「間違いない! あの時の侍!」

以前の計画を妨害した銀時の存在に気付き、天人達が思わず声を上げる。

「死ねぇ!」

天人二人が、銀時に襲いかかるが、

「邪魔してんじゃねぇよ!」

刀を抜いた銀時が、その場で斬り伏せたのだ。

「フン」

その光景に、思わず笑みを見せる高杉。

すると、また子と武市も駆けつける。

「退け、このくたばり損ない! 蜂の巣にしてやるっス!」

「晋助殿、行きましょう」

また子が銃口を向けるが、高杉がそれを阻止し、

「どけ。 何時か、り合わなきゃいけねぇやつだ」

自ら銀時の前に立つ。

「なァ、銀時。 お前はこの世界で何を思って生きる? 俺達から先生を奪ったこの世界を、どうして享受し、のうのうと生きていける? 俺はそいつが腹立たしくてならねェ」

桂の時と同じ問いをする高杉に、銀時は当然のように答えた。

「決まってんだろ、そんなこと。 ……パフェが美味しいから」

「ハッ、なんだそりゃ?」

「俺にはなぁ、ここに大切なもんが出来ちまったんだよ…」

ボカァン!と、船が爆発を起こし、

「銀時ぃぃぃ!」

「高杉ィィィ!」

これが合図になり、銀時は高杉とぶつかり合う。

己の、大切な者達を護るために……。






 キンキン!と、刃と刃が火花を散らし合う。

それを天人達や鬼兵隊の面々は眺めるしかなかった。

ともに攘夷戦争を戦い、違う道を歩んだ二人の侍。

その強さは、全くの互角だ。

銀時に関しては、似蔵戦の深手があるにもかかわらず、それ感じさせなかった。

「信じられん、あれが白夜叉!?」

春雨の船から、天人の一人が呟くが、

「あれが坂田銀時…白夜叉か……。 強い、一手し合って貰いたいものだな」

万斉はどこか楽しそうに笑うのである。

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

激戦が続く中、二人の一閃がぶつかり合う。

だが衝撃に耐えられなかったのか、互いの刃が折れてしまった。

しかし銀時も高杉も、止まる事も知らない。

刀身を失った刀を捨て、今度は拳をぶつけ合ったのだ。

「うおぉぉぉぉ!」

「オラァ!」

銀時が拳を放つが、高杉はそれを即座に防ぐ。

逆に高杉が拳で攻めるが、銀時もすぐさま防ぐ。

互いに放った拳を、二人は即座に掴み取る。

そのまま力の押し合いになるが、まさにその時であった。

「おらぁぁぁぁぁぁ!」

ドガァ!と、銀時の頭突きが、高杉の頭を捉えたのだ。

「なっ――」

頭部に受けた衝撃は、そのまま脳へと届いていく。

高杉はその場で倒れてしまうが、銀時もその場で倒れてしまう。

しかし、銀時は辛うじて動けた。

甲板に転がっていた刀を拾うと、そのまま高杉の方へと進んでいく。

「くっ!」

刀を構え、彼を斬ろうとする銀時。

「白夜叉ぁぁぁぁ!」

また子が銃口を向けながら叫ぶが、高杉が「手を出すんじゃねぇ!」と一喝する。

「さて銀時、お前に俺が斬れるか?」

不敵に笑う高杉に対し、銀時の脳裏には過去の記憶が過ってしまう。

共に師の元で学び、共にカブトムシ取りを楽しんだ。

もう、あの頃には戻れない――。

そう思った銀時であったが、再び爆発が起こったのだ。

ボカァーン!と、爆発で吹き飛んでしまった銀時と高杉。

「相変わらず、甘ぇヤツだな」

武市に肩を貸して貰い、高杉は春雨の船へと向かう。

「高杉ぃぃぃぃ!」

そんな彼に、銀時が力強く叫んだ。

「俺達は次に会った時は、仲間もクソも関係ねぇ! 全力で、テメェをぶった斬る! せいぜい街で会わなねぇように、気をつけるこったなぁぁぁ!!」

「………フン」

鬼兵隊の面々が乗り込むと、春雨の船は飛び去っていった。





 その頃、先に脱出していた真選組の船。

すると港には、ずぶ濡れの近藤が手を振っていた。

「近藤さん?」

港に着くと同時に、全員が船から降りていく。

「皆、無事でなによだな」

笑顔で迎えてくれた近藤であったが、ジークが首を傾げてしまう。

「近藤さん」

「ん、どうした?」

「なぜ貴方だけ、この船にいなかったんだ?」

「えっ!? そ、それは……」

それは局長の近藤だけが、船の中にいなかった事だ。

例え敵陣に乗り込まなくても、自陣で指揮を執ってもおかしくなかったからだ。

目を逸らした近藤であったが、沖田がジト目で答えたのである。

「接舷までは一緒に船で来たんですがね、自分で足滑らせて海に落ちたんでさぁ」

「総悟!?」

「あれだけカッコイイこと言っておきながら、最後にドジ踏みやがってな」

「トシ!?」

「いやぁ〜、ホントに見事な滑りっぷりでしたよ。 いろんな意味で」

「総司ちゃん!?」

「足元くらいはちゃんと見とけってんだ」

「歳三さん!?」

更には土方にセイバー、バーサーカーからも呆れられ、

「すまぬ、マスター。 こればかりは私も、フォローする事が出来ん」

「小次郎さんまで!」

頼みの綱のアサシンからも、フォローが出来ないと断言されたのだ。

「アンタ、肝心な時になにやってんですか?」

「ボス猿やってるゴリラが、海で水浴びなんかしてんじゃねぇヨ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

更には新八と神楽にも呆れられ、一人で泣き叫ぶ近藤であった。

しかし、その時である。

「ジークくん!」

「!?」

ジャンヌが向こうから、走り出してくる姿が見えたのだ。

それを見たユーリは、ジークの背中をポンと押す。

「行ってやれ」

「……ああ」

すぐさまジークは、彼女の元へと向かったのであった。





 ジャンヌとジークは駆け寄り、互いに顔を向き合う。

「随分、無茶をしましたね」

「ああ、心配掛けてすまない」

申し訳ない顔をするジークであったが、ジャンヌは彼の首にある物を着ける。

事務所を出る時に預かっていた、あの竜のペンダントだ。

ペンダントを着けると、ジャンヌは涙ながらも微笑みを見せる。

「お帰りなさい……」

「ただいま」

互いに顔を見つめ合った二人は、そのまま唇を重ね合わせた。

それを見届けたユーリ達は、それを楽しそうに眺める。

「ホント、仲の良い事で」

「あら、ああいうのも素敵だと思うわよ?」

「う〜ん……僕はちょっと恥ずかしいかな」

「お前もジークに負けんじゃないアルよ、童貞しんぱち

「オィィィィ! 今なんて書いて『しんぱち』って呼んだ!?」

「それじゃ、真選組も撤退する。 帰るぞ、お前等!」

「「「えぇ〜」」」

「帰らん奴等は、切腹だ」

「「「全力で帰らせて頂きます!」」」

「切腹=脅しになってませんか?」

「効果てきめんだな」

こうして真選組はこの場を去り、新八達は銀時の帰りを待つのであった。






 飛び去る春雨の船。

それを眺める銀時の元へ、桂が駆け寄ってきた。

「銀時!」

「よう、ヅラ。 どうしたその頭、失恋でもしたか?」

「黙れ、イメチェンだ。 そういう貴様もなんだそのナリは、爆撃にでもあったか?」

「黙っとけや、イメチェンだ」

「どんなイメチェンだ!」

再会と同時に、何時ものやり取りを交わす二人。

「そんなことより、この船を去るぞ。 今の爆発は、俺が工場に仕掛けた爆弾だ。 この爆発は、この船が粉々になるまで続くぞ」

「え〜、先に言ってよ〜」

すると桂は、銀時の襟元を掴むと、

「えっ、ちょっと!?」

そのまま彼を引きずるように走り出す。

「あららららららら!?」

そして勢いよく、船から飛び降りたのだ。

「きゃあああああ!」

絶叫する銀時は、思わず桂の足にしがみつく。

一方で羽織りを脱ぎ捨てた桂は、そのままパラシュートを開いたのだ。

上から見ると、エリザベスの顔になっているが……。

「用意周到なこって、ルパンかお前は?」

「ルパンじゃない、ヅラだ! あっ、間違えた桂だ。 伊達に今まで、真選組の追跡をかわしてきたワケではない」

すると桂は、懐から一冊の本を取り出す。

恩師の教えが書かれた、思い出の品を……。

「それにしても、奴もコレを持っていたとはな。 始まりは皆、同じだった。 なのに、どんどん遠くへ離れて行ったものだな」

春雨の船が遠くなり、桂はそれを眺めるしかなかった。

「銀時。 お前も覚えているか、コイツを?」

「ああ」

この問いに対し、銀時は呟くように答える。

「ラーメンこぼして捨てた」

目の前に広がる、青空と海を眺めながら……。

こうして紅桜を巡る事件は、幕を閉じたのであった。





紅桜編……完!


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■作者からのメッセージ
 紅桜編、完結です。

内容は実写版の方を取り入れました。

シェイクスピア「吾輩、冒頭のみで出番なし?」

ネウロ「そのようだ♪」
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