激しい攻防戦の中、“赤”のランサーに勝利した翔太郎。
二人を休ませる為、ジーク達は屋敷へと向かう。
襖を開けた瞬間、彼等はあるものを見たのである。
「「ん?」」
部屋にはユーリが座っており、自身の前に座っている女性と食事をしていた。
「すまない、食事中だったのか。 失礼した」
ジークは謝罪し、すぐに襖を閉めたのだが、
「じゃねぇよ! なにやってんだぁぁぁぁ!」
翔太郎が再び襖を開けながらツッコミを入れたのである。
ユーリと食事をしていた女性は、お茶を啜った後にこう言った。
「腹が減っては戦は出来ぬ。 試合であれ戦であれ、食事で体力を付けるのは当然です」
白い肌に長い銀髪が、女性の美しさを映えさせる。
「まあ、主の言うとおりであるな」
「そうだな。 正直、俺も腹の音が鳴ってるしな」
「流石に俺も、腹が減っちまった」
「では。相席はよろしくて?」
「大丈夫ですよ。 茶碗も箸もまだありますので」
「では、失礼する」
部屋へ上がったジーク達は、テーブルを囲むように座り、
「「「「いただきます」」」」
食事を嗜む事にしたのだ。
食事を終え、茶碗を片付けた一同。
「ふぅ〜。 いやぁ〜、マジで美味かったぜ」
「相変わらず、美味い食事であった。 感謝するぞ、アーチャー」
「いえいえ」
“赤”のランサーから感謝の言葉を受け、女性…“赤”のアーチャーも頬笑みで返す。
「ご馳走さん」
「ご馳走様」
「はい、お粗末さまでした」
「それで、アンタの用件は? 敵の俺達に飯を食わせてまで、場を和ませようとしたんだ。 それなりの理由があんだろ?」
ユーリが尋ねると、“赤”のアーチャーはコクリと頷く。
「実は我がマスターの主君……九兵衛殿を止めて欲しいのです」
「!?」
それを聞いたユーリは、驚愕の顔になってしまった。
「マスターの主君を止める? それって、マスターに対する反逆行為じゃねぇか?」
「そうですね。 私自身が九兵衛殿に刃向かえば、反逆行為かもしれません」
「だから事実上、敵である俺やユーリ達に頼んでいるのだろう? 俺もアサシンから、同じ事を言われた」
ジークが問うと、“赤”のアーチャーはコクリと頷く。
「正直、マスターの令呪がある以上、私は九兵衛殿を止めることはできません。 ですが、敵対関係であるアナタ方なら、止められると確信したのです」
「成程な、アンタの話しはよく分かった」
「では!」
「ただし、今の俺達は敵同士だ。 だから、語るのはコイツでだろ?」
木刀を構えるユーリは、不敵な笑みを彼女に見せる。
「剣士の戦いに言葉は不要…。 語るなら、己の刃で示せ――ですね?」
「そういうこった。 俺がアンタに負けたら、俺はそれまでの男ってことだ」
「良いでしょう。 では、外に」
「おう」
二人は外へと出ると、互いに木刀を構え、
「それでは、いざ……」
「尋常に……」
「「勝負!」」
地を蹴り、真正面からぶつかったのだった。
激しい木刀の打ち合い。
「そらよっと!」
「くっ! ハァ!」
「おっと!」
二人は引けを取らない攻防戦を繰り広げる。
「ほほう、あの青年。 中々の腕前だ。 皿が割れていなかったら、手合わせ願いたかった」
「すまない、サラッと物騒な事は言わないでくれ」
戦いを見守る“赤”のランサーの発言に、ジークは引き気味のツッコミを入れた。
しかし誰もが、この戦いに目を奪われてしまう。
ユーリの剣技は型が無く、まるでジャグリングをするかのように剣を振るう。
その証拠に一度上に投げた木刀を、再び手でキャッチしている。
一方で“赤”のアーチャーは芸達者であった。
右手の木刀を振るいながら、左手の薙刀で距離を取っている。
「やるじゃねぇか。 久々に楽しめるぜ」
「それは、こちらの台詞です」
勝負は互角、どちらも勝負を譲らない。
しかし、その時だ。
「そこだ!」
懐に飛び込んだユーリが、一気に勝負に出た。
「戦迅狼波!」
拳を突きだすと同時に、狼を模した衝撃波が放たれ、
「ぐっ!」
コレを喰らった“赤”のアーチャーは、容赦無く吹き飛ばされたのだ。
「よっしゃ! 一丁あがり!」
ガッツポーズを決めるユーリ。
一方で“赤”のアーチャーは、ゆっくりと立ち上がる。
「見事ですね。 危うく皿を割られるところでしたよ」
しかし彼女の額には、あるものが伸びていたのだ。
それは二本の、鋭い角。
飾りではない、本物の角だ。
コレを見たユーリは、ゴクリと唾を飲み込む。
「おいおい、アンタ何者だ?」
「我が名は“赤”のアーチャー。 真名は、巴御前」
手に持っていた薙刀の矛先には、炎が纏っており、
「参りましょう、ユーリ殿。 今度は、手加減無しです」
「ハッ、面白ぇ! んじゃ俺も、飛ばしていきますか! オーバーリミッツ、解放!」
そしてユーリも、潜在能力を解放したのだ。
「いくぜ!」
「参ります!」
その場で地を蹴り、二人は再びぶつかったのである。
木刀と薙刀がぶつかり合い、余波で砂や砂利が吹き飛ぶ。
「オラァ!」
「ハァァァァァ!」
この光景に、ジーク達も驚きを隠せない。
「凄い…」
「ほう、打ち合いの余波で砂が舞い散るとは…」
彼等が見守る中、“赤”のアーチャーが動いた。
ユーリの木刀を弾くと、自身も薙刀を投げ捨てる。
懐に飛び込み、両手で彼の身体を掴むと、
「でやぁぁぁぁ!」
なんと豪快に、容赦無く投げ飛ばしたのだ。
「がっ!」
投げ飛ばされたユーリは、地面へ倒れてしまい、
「くそっ!」
一度崩された体勢を整えようとする。
しかしそれは、既に遅かったのだ。
“赤”のアーチャーは弓を構え、ゆっくりと弦を引いていた。
「受けるがいい! これぞ我が宝具にして、最強の奥義!」
「やばっ――」
「
真言・聖観世音菩薩!!」
矢尻に炎を纏った矢が放たれ、真っ先にユーリへと向かっていく。
「させるかァ!」
咄嗟にユーリは木刀を両手で構えると、そのままフルスイングしたのだ。
木刀の刀身に矢が辺り、そのまま野球ボールのように吹き飛ばした。
「うっしゃ!」
「な、なんと――」
宝具を破られ、呆然とした“赤”のアーチャー。
だがこの隙を、ユーリは見逃さなかった。
「そんじゃ、お仕舞いにしようぜ!」
一瞬で懐に入り、木刀を容赦なく振るう。
「閃け、鮮烈なる刃! 無辺の闇を鋭く切り裂き、仇なす者を微塵に砕く……」
あらゆる方向からの攻撃を、目にも止まらぬ速さで叩き込み、
「
斬・
毅・
狼・
影・
刃!」
トドメの一撃が、彼女の皿を砕いた。
「……決まったぜ」
「ふっ…お見事です」
不敵な笑みと共に、“赤”のアーチャー……巴御前は倒れたのである。
その同時刻、森の方では、
「うぐっ!」
アーチャーが一人のサーヴァントに追い詰められていた。
漆黒の甲冑を纏い、顔はバイザーで隠れている。
「“赤”のキャスター。 貴様、生きておるか?」
「ええ、大丈夫」
褐色の肌に獣耳、エキゾチックな衣装を纏った女性も倒れていた。
彼女は“赤”のキャスターで、真名はシバの女王。
「終わりだ」
「くっ!」
アーチャーは火縄銃を向けるが、甲冑の英霊はそれよりも速く、
「無駄だ」
黒いサーヴァントが、彼女の身体を斬り裂いた。
「ゴフッ…」
斬り伏せられたアーチャー。
「貴様もだ」
「!?」
更には“赤”のキャスターも斬られてしまう。
二騎のサーヴァントは倒れ、黒いサーヴァントも立ち去る。
「(すまぬ、神楽……儂は、此処までだ)」
アーチャーは内心で呟きながら、“赤”のキャスターと共に消滅したのであった。
続く……。