敷地内にある、公衆トイレの個室にて、
「(か、紙がぁぁぁぁぁ!)」
用を足していた近藤が、内心で叫んでいた。
しかも大便の方であった為、トイレットペーパーが無くて絶望する。
「新八君! トシ! 紙が、紙が俺を見離したぁぁ! 新八くん、トシィィィ!!」
外にいる新八と土方に助けを求めるも、既に二人に置いてけぼりにされていた。
果たして近藤は、この場を切り抜けられるだろうか?
まあ、このエピソードは原作で知ってるので載りませんが。
「遂に作者にも見捨てられたぁぁぁぁ!」
―柳生家の秘密と“黒”のセイバー―
トイレで絶望している近藤から離れ、土方と新八は敷地内を走る。
しかし土方は、北大路戦の怪我で全力で走れない。
更に彼等の追って九兵衛が歩み寄って来る。
このままでは、追い付かれてしまう……。
すると、ジーク達が駆け寄って来たのだ。
「新八! 土方さん!」
「ジークくん! 翔太郎さん! ユーリさん!」
「無事か?」
「はい、僕の方は…」
頭から血を流す土方を見る新八。
だが彼は、ジーク達に告げたのである。
「丁度良い。 お前等、コイツを連れて逃げろ! 俺はヤツを足止めする」
「土方さん!?」
「いいか、眼鏡! オメェは姉貴に会って、きっちりと話しを付けて来い! 良いな!」
土方の決意を見た新八達は、互いに頷き合い、
「マヨネーズ、奢ります」
そう言って走り去ったのだ。
新八達が走り、土方は九兵衛と対峙する。
「アレがキミ達の大将か? 随分と情けない大将だな。 負傷した仲間を置いて逃げるとは」
「アイツにはアイツのやるべき事がある。 ただ、それだけだ」
「だが他の連中は、きっと東城にやられているはずだ。 アイツは四天王の中でも比べ物にならない。 さっきまでキミ等を追い詰めた他の三人とは実力の差が違うからな」
「そうかい。 なら俺達も、極限の勝負と行こうじゃねぇか」
「ふっ、面白い」
不敵な笑いを見せ、土方と九兵衛は木刀を構える。
一方、彼が信頼する東城はというと…、
「「「「極限だなぁ〜」」」」
敷地のトイレの中で、腹痛の戦っていたのだった。
その頃、屋敷の方でも動きがあった。
嫁入りとして花嫁修業をしていたお妙。
だが柳生家当主『柳生輿矩』の発言から、新八達が自分の為に、柳生家にケンカを売りに来た事を知る。
そして花嫁修業から脱走して、新八達を捜すべく走り出していた。
その際に、お妙は輿矩の顔面を足蹴にしてK.O.したのである。
一方で新八達は、屋敷内を走り回っていた。
時折柳生家の門弟が襲い掛かってきていたが、ジークやユーリ達が片付ける。
「姉上が居ない……何処に居るんだ?」
「これだけの騒ぎになってんだ。 お妙にも話は伝わってる筈だ」
「そうだな。 とにかく、走り回るしか無いと思う」
「ああ、いくぜ」
再びお妙を探そうと、屋敷内を詮索しようとした。
「ん?」
しかし廊下から、お妙が女中に追い掛けられながら走ってきたのだ。
それを見た新八達は、即座にお妙と合流した。
「姉上!」
「新ちゃん…皆…なんで……」
「話は後だ。 来たぞ!」
合流すると、新八はお妙の手を引いて走る。
お妙は「何故来たのか」と問おうとしたが、すぐにユーリに止められた。
彼等が走る進行上に先程、お妙がK.O.した筈の輿矩が部下を引き連れて現れたのだ。
数は輿矩自身を含めて五人。
「逃がさんぞ、お妙ちゃん! お前達、柳生家にケンカを売りに来るとは、覚悟は出来てるんだろうな!」
背が小さく、威厳の無さそうな風貌だが、こうして怒る姿は柳生家の当主としての貫禄を出していた。
しかも輿矩だけではなく、柳生家の門弟もセットで木刀を構えているだけに絶体絶命な状況である。
するとユーリとジーク、そして翔太郎が前に出た。
「お前等、先回りして逃げろ」
「ここは俺達が引き受ける」
「その手を、絶対に離すなよ」
「ユーリさん…ジークくん…翔太郎さん……」
「「「いいから、早く行け!」」」
「姉上、行きますよ!」
「あ、ちょっと、新ちゃん!?」
新八は意を決するとお妙の手を握り、すぐさま走り出す。
「逃がすか、追え!」
「「はい!」」
輿矩の叫びに、門下達が走り出すが、
「行かせるかよ!」
「まずは、俺達を倒してから行け!」
ユーリとジークが懐に入りこみ、門下を二人も叩き伏せた。
門下を倒したジーク達を前に、輿矩は鉢巻きで皿を額に巻く。
「おのれぇ〜、よくも天下の柳生家を滅茶苦茶にしてくれたな。 柳生家は将軍家お抱えだぞ?」
「生憎、俺はセレブが大っっっ嫌いでな」
「元々俺達は、真選組の代理をしている様なもので、自分の仕事をしているだけだ」
「そう言う事だぜ、リトルダンディ。 大人しく真選組に、お子さんを逮捕させな。 子供に罪を償わせるのも、親の役目なんだぜ?」
輿矩は柳生家の格式を自慢するが、ジーク達には意味の無かった。
実際に彼等は、真選組の依頼で九兵衛の逮捕を協力しているのだ。
しかもユーリはセレブ嫌いで翔太郎は探偵、更にジークは地位や名誉に執着は無い。
ある意味では、輿矩にとって相性の悪い相手であった。
「ええい! お前達、掛かれェ!」
「「うおぉぉぉぉぉ!」」
門下の二人が襲いかかり、ユーリと翔太郎が動く。
「お前等は!」
「俺達が相手だ!」
片方がユーリと右の部屋へ、もう片方が翔太郎と左の部屋へと移動。
「これで、俺とアナタの二人だけだ」
「ええい! 柳生家当主の実力、見せてやる!」
「いくぞ!」
こうして、ジークと輿矩の対決が始まった。
激しい攻防戦を繰り広げ、両者は共に一歩も引かない。
「中々やるな。 見かけのわりに、私の剣について来れるとは」
「どうだろう? アナタも手加減をしてるようにしか見えないが」
「ふふん、そうだろう! 何せ私は、柳生家の現当主だからな! 相手に合わせて手加減してあげているのだ」
偉そうに胸を張る輿矩であるが、実際は全く違った。
「(オイィィィィ! なんだこの子の強さはぁ!? 九兵衛かパパ上レベルだよぉ!? 寧ろ、こっちが手加減されてるんだけどぉぉぉ!?)」
ジークの強さの前に、内心で驚愕していたのだ。
「だが、私は負けん! 柳生家も九兵衛も、私が守るのだ! それは誰にも邪魔はさせん!」
「その意気込みは立派だが、俺も仕事で来ている。 簡単に勝ちを譲る気はない」
再び攻防戦が繰り広げられ、打ち合いは激しさを増す。
「(くっ! 流石に当主を名乗るだけはある。 この攻撃に、俺はついて来れるのか!?)」
輿矩の剣技を前に、ジークは若干の不安を募らせる。
「(クソォォォォ! さっきは偉そうな事を言っちゃたけど、やっぱこの子強過ぎだぁぁぁ! というかこの子、無意識に成長するタイプなの!?)」
しかし輿矩の方も、ジークの成長ぶりに不安を募らせていた。
一度後退したジークは、木刀をゆっくりと構える。
「な、何をする気だ!?」
狼狽えながらも、輿矩は木刀を構えた。
そしてその直後、ジークが動いたのだ。
一歩目の移動で速度を上げ、二歩目の移動で更に加速する。
「えっ、速っ――」
輿矩は驚愕したが、それは既に遅く、
「捉えた!」
「嘘ォォォォォ!?」
三歩目の移動で、懐に飛び込んだのであった。
彼が放つのは、
“白”のセイバーの必殺剣。
「無明三段突き!」
一度に三発の突きを、輿矩の身体に喰らわせたのだ。
一発目の突きで腹部、二発目の突きで胸部を捉えたジーク。
そして三発目の突きで、額の皿を割ったのである。
「そ、そんな……。 一度に三発の突きを…相手の急所に喰らわせるとは……」
「見様見真似だがな」
「くっ! まさか私が、キミの様な少年に負けるとは…」
膝を着く輿矩であるが、ジークは彼にこう言ったのだ。
「コレは俺の憶測だが、お妙さんが嫁いだ理由は、許嫁だからじゃないはずだ。 彼女は……アナタ達が知り、新八が知らない九兵衛の秘密を知っている。 それを守るために、彼女は嫁ぐという選択肢を選んだんじゃないのか?」
「………」
「『沈黙は是なり』という言葉がある。 その沈黙は、肯定と捉えるぞ」
“柳生家が知り、新八が知らない九兵衛の秘密”――。
お妙が柳生家に嫁ぐ理由がこれだと察したジークに、輿矩は沈黙してしまう。
彼自身も、この予感は当たったようだ。
「アナタも気付いているはずだ。 九兵衛とお妙さんのした事は、双方に大きな迷惑をかけている事を……」
「私も父親として、これが正しいとは思っていない」
「ならばどうして?」
「言えないからではないでしょうか?」
「「!?」」
突然の声に、二人は思わず反応する。
「失礼。 お手洗いに行っていたのですが、勝負が終わったようなので」
声の主は、“赤”のバーサーカーであった。
「“赤”のバーサーカー?」
「丁度良かった。 Mr.輿矩、アナタとは話しておきたい事があるので」
ジークに一礼した“赤”のバーサーカーは、ゆっくりと輿矩の方へと歩く。
「Mr.輿矩。 ジーク少年の憶測通りだとすれば、アナタは止める側になるべきったのです。 ましてや、
ご息女の九兵衛氏が、同じ女性であるお妙さんと結婚しようとしている時点で、ちゃんと止めるべきだったのです」
「えっ?」
とんでもない事を言った彼女に、ジークは目を大きく開いてしまう。
同時に輿矩も、顔を青ざめてしまった。
「し、知っていたのか!? 九兵衛が女だという事を!? 他のサーヴァント達にも秘密にしているのに!?」
「私の本業は看護師です。 一目見れば、すぐに分かります。 あと、他のサーヴァント達にも、私が伝えましたよ。 全員で口裏合わせて、知らないふりをしただけです」
「全員知ってたのかチクショォォォォォ!」
「秘密にした意味無いじゃん!」と嘆く輿矩であったが、“赤”のバーサーカーはジークに視線を向ける。
「ジークさん」
「ん?」
「九兵衛氏の秘密が知られるのは、おそらく時間の問題でしょう。 それでも、彼女とお妙さんの心が変わらなければ、勝負に勝っても意味が無い」
「同感だ。 九兵衛は分からないが、お妙さんを説得できるのは新八だけだ」
「それで、私から依頼があります」
「依頼?」
「九兵衛氏は女性でありながら、男して生きた人生を呪っているはずです。 彼女を倒すには、その強靭な精神を折らなければならない」
「精神を折る…か……」
「お願いします。 どうか、彼女の心を救ってください」
頭を下げる“赤”のバーサーカーであるが、ジークは首を横に振った。
「それは俺の役目じゃない。 その役目は既に決まっている」
「………」
「だからアナタも、俺達を信じてくれないだろうか?」
それを聞き入れ、彼女はコクリと頷く。
「分かりました。 では、御武運を――」
しかし、その時であった。
ドゴォォォォン!という轟音が聞こえ、同時に地響きが起きる。
「なんだ!?」
「地震か!?」
別々の部屋で戦っていたユーリと翔太郎も、この轟音に驚きを隠せない。
果たして、何が起こったのか!?
その頃、外の方でも動きがあった。
土方は九兵衛が女であると気付くと、剣に迷いが出てしまって敗北してしまう。
そしてそこに、新八とお妙が鉢合わせしてしまう。
更に新八は、九兵衛の口からお妙との過去を語られる。
幼少期に泣いていた九兵衛を助けたお妙で、女の子でありながら男として育てられた九兵衛は惹かれてしまう。
それから少しして、借金取りがお妙と新八を連れ去ろうとしていた。
九兵衛は借金取り数人に戦いを挑み、その最中で片目を失ってしまう。
コレに負い目を感じたお妙は、九兵衛とある約束をする。
それはお妙が、九兵衛の左目の代わりをするという事だった。
そして時は流れ、今に至るとの事である。
話を聞いた新八は九兵衛に、銀時は敏木斎に斬りかかった。
「勝手な事を!」
「ゴチャゴチャ語ってんじゃねェェェェェェッ!」
新八と銀時がシンクロしたかの様に叫ぶ。
「惚れた相手を泣かせる奴は!」
「男だろうが女だろうが」
「「カス野郎じゃボケェェェェェェッ!!」」
いきなり力が増した新八と銀時に、驚愕する九兵衛と敏木斎。
先程まで優勢に立っていたが、銀時達に押されぎみとなってしまう。
決着が着こうとしたが、柳生の門下生たちが現れた。
「若を守れェェェェェェッ!」
「道場破りどもを殲滅しろォォォォォォッ!」
「ひっ捕らえろォォォォォォッ!」
それぞれが口々に叫びながら、銀時達に襲いかかろうとする。
しかし近藤や土方、沖田に神楽阻まれてしまう。
「邪魔すんじゃねェェッ! 男と男…いや、男と女…違うな。 侍と侍の決闘を邪魔する奴は、この俺が許さん!」
「旦那方、早いとこ決着つけてくだせぇ! 片足じゃ、五分が限界でさぁ!」
「なんで俺に乗ってんだテメーは!」
「姉御、男共が情けないから私が助けに来たヨ!」
近藤、土方、沖田、神楽は次々に柳生家の門下生を倒していく。
それを見たお妙は感極まって泣いてしまう。
しかし、その時であった。
ドゴォォォォ!という轟音と共に、甲冑姿の剣士が現れる。
「な、なんだありゃ!?」
驚く銀時達であったが、剣士は甲冑やバイザーを脱ぎ出す。
正体は褐色の肌に銀髪の女性で、彼女はゆっくりと口を開く。
「私の名はアルテラ。 “黒”のセイバーであり、“黒”の陣営最後のサーヴァントだ。 この屋敷の何処かにある
大聖杯……それを奪いに来た」
今ここに、三つの陣営が集ったのである。
次回へ続く……。