仕事中にいきなり抱きつかれてリツコはため息を吐く。

「……いきなり抱き締めるなんて……そんなに溜まっているの?」
「リ、リッちゃんも言うねえ」
「そうかしら。いきなりセクハラまがいの事をするから……もしかしてミサトに未練があるから焼餅でも焼かせたいの?」
「そ、そんな事はないさ」
「そう、声が震えているみたいだけど……さっさとミサトに引導渡して孕ませたら。
 どっちも根無し草みたいな生き方してるから子供という重石でも作ってどっかに定住したら」

確かこんな展開だったわねとウンザリしながらリツコは加持にチクリと嫌味を告げるながら席を回転させて振り向く。
加持は頬を引き攣らせて聞いている。

「ミサトはミサトで未練タラタラだし……人をダシにして遊ばれると困るんだけど」
「な、何言ってんのよ! そんな訳ないでしょ!」

扉の前で聞いていたミサトが慌てて反論する。

「二人して仕事の邪魔をするなら出てってくれる……正直、二人の都合で引っ掻き回されるのも面倒だし」
「か、葛城……リッちゃん、棘が増えてないか?」
「そ、そうなのよ。リツコってば、なんか毒っ気がこの頃増えたの」
「本人の前で話すなんて良い度胸しているわね。
 ミサトもいい加減落ち着いて欲しいの……ミサトのフォローは正直嫌になっているから。
 仕事ばっかり増やされるのはもうウンザリ」
「リ、リツコ〜〜。まだ怒っているの?」
「別に、私自身の仕事が増えているから大変なのよ。作戦部は良いわね……適当に仕事を部下に押し付けても大丈夫だから」
「ま、まあ、今度、こっちに配属されたんでまた三人でつるめるな」
「結構よ、自分の本音を隠して人を動かそうとする人とつるむ気はないわ」

席を元に戻すと画面に向かってキーボードを叩いて入力を再開する。

「か、葛城……お前、何やった?
 リッちゃんがここまで怒るなんて相当な事をしたのか?」
「……やっぱり私のせいかな」

加持は少し小声でミサトに尋ねる。付き合いの長い関係だからリツコが相当怒っているとすぐに分かったのだ。
ミサトも本気でヤバイと感じているのか、焦るように話している時に非常警戒のベルが響いた。

「もしかして使徒?」
「参ったわね……マゴロク・E・ソードの準備が間に合わなかったか」

二人を無視するようにリツコは発令所に向かい始める。二人も慌てて後を追いかけた。


RETURN to ANGEL
EPISODE:12 ファントム――脅威なるもの
著 EFF


発令所では日向が情報を集め始めていた。

「警戒中の巡洋艦【はるな】より入電。我、紀伊半島沖にて巨大な潜航物体を発見、データ送ると」
「日向君、指揮権は移譲されたの?」
「いえ、まだです」
「何、やってんのよ!」

ミサトは苛立つように画面を見つめている。戦自に戦力などないのに指揮権を移譲しないというのは腹が立つ。
ジリジリと焦るようして画面の侵攻中の第七使徒――イスラファエル――を睨みつける時、

「な、なによ……あれは?」
「へ〜フライトユニットもファントムにはあるのね」
「ファ、ファントムって戦自の機体じゃない」

二機の大型のジェットパックを背面に装備したファントムが使徒を迎え撃つ為に大空を飛んでいた。

「日向君、通信を傍受できるかしら?」

リツコが興味津々といった様子で日向に尋ねる。

「戦自の回線を経由すれば可能です」
「そう、じゃあ傍受して。マヤ、ファントムの機動データーを集めて」
「は、はい」

上段のゲンドウと冬月は画面を見ながら話している。

「碇、勝てると思うか?」
「使徒に対抗できるのはエヴァだけだ」
「だが、ATフィールドを展開できる以上は万一もあるぞ」
「…………」
「まあ、結果はすぐに出るから、こっちはそれから動けば良いか」
「……ああ」

二人はそれ以上は何も言わず画面を見る事にした。


『ファントム1、パージ!』
『ファントム2、パージ!』

二機のファントムはフライトユニットを分離させると背面と脚部のバーニアでバランスを取って海岸線に着地する。
フライトユニットは上空を旋回すると基地へと自動操縦で帰還する。

『ファントム2、砲撃戦モードに移行する』

一機のファントムは背面の装着していた武装を展開する。
折り畳んでいた二門の砲身を伸ばして左右の腰に構えると同時に姿勢制御と反動を抑えるランディングギアのような足を出して固定する。更に両肩と脹脛に備え 付けてあったミサイルポッドも展開した。

『電磁レールガン内部の磁界正常に稼動。
 ファントム1が使徒のフィールド中和後に砲撃を開始する』
『ファントム2、これより高機動戦に入ると同時にフィールド中和を開始する』
『了解』

画面から映し出される映像を見ながら、リツコはマヤと話している。

「マヤ、レールガンの威力ってパレットライフルよりありそう?」
「おそらく、砲身も口径もパレットライフルより上です」
「はん、上だからって効くとは限らないわよ」

ミサトが二人の会話を聞いて恨めしそうに言う。

「そう、機動性はエヴァとそう変わらないわね」
「真っ直ぐに進むだけなら推進機構がありますから早いのではないかと」
「確かに。さっき見たフライトユニットもあるから行動範囲はエヴァより便利ね。
 空中戦は今のエヴァには出来そうもないし」
「リツコ、アンタはどっちの味方なのよ!」

苛立つように声を上げたミサトにリツコは言う。

「分析する時は比較しないといけないから……どっちの味方にもなれないわ。
 もしファントムを相手にする時、その能力を知らずに戦うつもり?」
「そ、それは……そうかもしんないけど」
「ん、後にして動いたわ」

リツコの声にミサトも画面に目を向ける。

ファントム2と呼ばれた機体が推進機構を使ってホバリングしながら一気に強襲する。
この機体は近接戦用なのか、自機の全長と同じ長さの巨大なハルバートを手にして一直線に加速する。

『ATフィールド中和完了。砲撃支援よろしく』
『了解。リニアレールガン発射!』

中和範囲内に到達したファントム2に第七使徒イスラファエルにファントム2は急上昇すると同時に砲撃が始まる。
電磁力で加速された砲弾は使徒の眼前で弾けると無数の弾丸になってイスラファエルの身体を穿つ。

「ショ、ショットガンタイプのレールガンなの?」

交互に撃ち出される砲撃にイスラファエルの身体は削り取られていくと砲撃は一時停まる。
身体の所々を穿たれ、ボロボロになったイスラファエルにもう一機のファントムが襲い掛かる。
上空で待機していたファントム2が急降下して、ハルバートでイスラファエルを粉砕するような感じで叩き斬る。
イスラファエルを唐竹割りにして二つに分割すると後方に下がり、ファントム2から発射されたミサイルがイスラファエルの身体に全弾降り注がれ、その場所を 真っ赤に染め上げた。

「中和範囲ギリギリの所で待機してるわね」
「……もう終わったわよ」

睨みつけるようにミサトは低い声で告げる。自分の手で使徒を倒せない事に苛立っていた。

『動体反応は?』
『まだ生きてるよ』
『そう、手応えがないからおかしいと思ったのよ』
『これで終わったなんて思うのは甘いね』

「何処がよ! あれで死なない筈ないわよ!」

発令所でミサトが叫ぶと同時に炎の中から二つに分かれた身体から色違いの小型になった使徒が復活して進んでくる。

「なんてインチキなのよ!」

『第二ランドだね。砲撃開始する』
『効くかしら?』
『試してみてダメなら接近戦で』
『そうね。この程度の攻撃で終わりなんて物足りない……もう少し遊ばないと』
『油断しちゃダメだよ』
『油断なんてしないわよ。相手を舐めて掛かれるほど戦場を舐める気はない』
『砲撃するから距離を維持して中和して』
『任せなさい』

軽口を叩きながらもファントム両機は攻撃を続行する。
ファントム2は装備していたミサイルポッドを外して砲撃を再開し、ファントム1はショットガンの範囲内にイスラファエルを誘導しながら切り裂いている。

「ミサト、あれが負けた時はどうやって戦うか……考えなさいよ」
「そうね。どうせエヴァじゃないと勝てないか」

リツコの声にミサトは落ち着きを取り戻したのか……画面を見続けている。

砲撃を受けて破損はするが瞬時に再生するイスラファエル。
ファントム1はイスラファエルを牽制しながらファントム2に近付けさせずにいるが発令所のスタッフは状況は不利だと見ていた。

「コアが損傷してもすぐに再生する……どういう事よ?」

ミサトの疑問は全員の考えでもあり、これではエヴァでも勝てるかどうか……分からない。

『ファントム1、聞こえるかい?』
『ええ、これって両方とも本体であり、コピーなのかしら?』
『多分そうだよ。互いに補完しながら肉体を維持しているんだね』
『じゃあ同時に破壊するって事?』
『僕が片方のコアを破壊した状況を維持して、君がとどめでどう?』
『そうね。あんまり強くないし……飽きたから終わりにしましょう』

不安な様子で戦況を見ていた発令所のスタッフはファントム1のパイロットの飽きたという言葉に声を失う。

『ファントム2、砲撃戦ユニットパージ!』

その声と同時に背面ユニットを解除するとファントム2はファントム1と同じような身軽な姿に変わる。
腰の後ろにマウントしていた二本の刀身が幅広のナイフを両手に装備する。

『ATフィールドを展開。ツインブレードに集束』

ナイフが赤く染まると倍以上の刀身になりナイフから赤い刀身のロングソードに変化する。

『さて、どうしようか?』
『予定通り、あなたが押さえて、私がとどめ』
『仕方ないね。その代わりに派手に決めて』
『当然♪』

「なに、軽口叩いてんのよ!」
「自信があるんでしょう……何を見せてくれるのかしら?」

ファントム2も前衛に出て接近戦に突入する。ホバリングしながら常に正面にならないように左右にぶれながら肉迫する。
常にイスラファエルの正面に相対しないようにしながら接近を試みている。
イスラファエルの片方がファントム1に牽制されて、一対一の状況に変わりつつある。

『じゃあ、予定通り押さえるよ』
『任せた』

ファントム2は腰を軽く沈ませながら、対峙する片方のイスラファエルの脇をすり抜ける時に足を切断……うつ伏せに倒す。
そして背後から両腕を切断して背面からコアらしき部分にに右手のソードを突き立て地面に縫い止める。
再生しようとする腕や足を左手のソードで切り落とし、遠くへ飛ばしては更に細かく切り刻む。

「……エグイ事するわね」
「そう、再生する以上は切り刻んで復活を阻止するのは正解だけど。
 で、もう一体のほうは……凄いわね」

リツコは視線をもう一体のイスラファエルの方に向けると、そこはファントム1が圧倒的に有利な展開に持ち込んでいた。
イスラファエルの頭上を跳び越えながら片腕を切り落とし、着地後に切り上げの一撃を背中に叩きつけて距離を取る。
持っていたハルバートを頭上に掲げると穂先から刃の部分が赤く染まる。

『押し潰れなさい!』

穂先を地面に刺し込ませると一気に薙ぎ払う。衝撃波を伴ったATフィールドの壁が扇状に広がり、イスラファエルを押し潰すように飲み込んでその姿をかき消 していく。
その光景に発令所のスタッフは声が出ない。ATフィールドでこんな常識外の攻撃方法が出来るなんて知らなかったのだ。

「な、なんなのよ!?」
(あれが……ジェノサイドウォールなのね。す、凄いとしか言えないわね)

衝撃波とATフィールドの壁に押し潰され、弾き飛ばされたイスラファエルは辛うじてコアを守り立ち上がったが、

『ご褒美よ、受け取りなさい』

ファントム2から放たれた円錐状のATフィールドの錐がコアを削るように回転して突き刺さり硬直する。ファントム2は加速するとその円錐状の錐を杭に見立 てて、ハルバートで一気に押し込んでいった。
イスラファエルの胴体が消失すると同時に十字の爆炎が二体のファントムを包み込んだ。

「自、自爆したの?」
「パターン青、消失、使徒消滅しました」

『自爆するなんて酷いわね』
『ファントムの装甲は脆いから総取替えだね』
『今後の課題ね。内部の方は損傷はないけど』
『装甲材の見直しもするかな。もう少しの値の張る奴で作ろうか?』
『そうね、一々自爆されては外装全部取り替えってのも面倒ね』

爆炎が消えていく中で所々装甲が破損しているファントム二機が砂浜に進んで行く。
爆発で損傷しているが足取りに重さはなく、しっかりとした様子で歩く。

『さあ、どうするんだろうね。
 これで特務機関ネルフの価値が崩れた。今までは使徒戦は自分達しか勝てないと豪語していたけど……これからは違う』
『どうでもいいわ。今まで通り傲慢に特務権限を振りかざすなら……踏み潰すだけ。
 そうね、出来れば傲慢でいて欲しいわね。その方が後腐れなく潰してやるわ』

発令所のスタッフは背筋に冷や汗を流しながら聞いていた。
強敵だと感じていた第七使徒をあっさりとこの二機は迎撃した。
そしてエヴァに対抗出来る機体が自分達に牙を剥く可能性を示唆されては怯えるなという方が無理だ。

『君は本当に闘いが好きだね』

少し呆れたように話すファントム2のパイロットに、

『そうかしら? 特務機関だからって会計報告も国連に出さないのよ。
 搾取するだけで結果を満足に報告しない連中を容赦するほど私、お人好しじゃないの』

ファントム1のパイロットは嫌悪感を隠さずに話す。

『それもそうか。その時は存分に戦おう……僕もちょっと頭に来ているからね。
 とりあえず、今はファントムの改修とパイロットの訓練かな』
『そうね。私達二機でも十分だけどファントムの真骨頂は集団戦にこそ意味がある』
『そう……年齢制限のない機体がファントム。エヴァみたいに年齢制限のある機体とは違う。
 どんな基準でパイロットを選定してるか不明で不透明な部分はファントムにはない』
『これからUN軍で正式採用されて国際紛争を鎮める為に頑張ってもらわないと』

和やかに話し合うパイロット二人に発令所は静まりかえる。
ミサトはギリギリと歯軋りしながら、画面を睨みつけている。
自分の手で使徒を倒せないからネルフに入ったのに、ネルフ以外の組織が使徒を倒し、しかも自分の手で倒せる可能性も浮かび上がったが……その手からすり抜 けたから苛立ちは増えるばかりで消える事はない。
リツコは興味津々で黙々とファントムの性能を分析している。
そして、その顔には笑みが浮かんでいる。碇ユイが作ったエヴァを、シンクロシステムを発展させたものがある。
誰にでもという訳ではないだろうと思うが、エヴァよりもコストダウンさせたファントム。
最上段の二人は二人はさぞ困っていると思うと……たまらなく愉快だった。


「碇、どうする。ネルフの存続にも影響しかねないぞ?」
「……そうだな」
「明らかにあの二機はエヴァに匹敵する。他のパイロットも同じようなら不味いぞ」
「…………」
「老人達が何とかすると思うか?」
「無理だな。表に出た時点で手は出せないだろう」

この勝利で戦自は世界にアピールする。UN軍もこの戦闘を見れば採用しかねない。
ネルフが強権を発動させて戦自から奪おうものならUN軍だっていい顔はしなくなる可能性もある。
自分達しか、使徒戦に勝つ事は出来ないというネルフの優位性はファントムが打ち砕いたのだ。

「後手に回りそうだな」
「……ああ」
「ネルフの優位性はかなり無くなった……強引な真似をすると命取りになりかねないぞ」

冬月は今までみたいに特務権限を振りかざせないと言う。

「追加予算は出ているが、これ以上の請求は難しくなるな」
「老人達が出す」
「それでも限度あるぞ」
「補完計画を止めると思うか」
「……ないが、注意せんとな」
「ああ」

ただでさえエヴァは予算を食うから、運用の制限が出ないように注意しなければと思う。
第五使徒戦まではリンと赤木君が上手く運用していたので余裕はあるが、今後は不透明になった。
隣で座っている男はそんな事を気にしないかもしれないから、自分の負担が思うと憂鬱で暗くなる冬月だった。


チルドレン三人娘(ミサト命名)はケージの控え室に備え付けてあるモニターで第七使徒戦を見ていた。

「あれがジェノサイドウォールね」
「そう、ママが編み出したATフィールドの攻撃技の一つ。
 音速に近い衝撃波とATフィールドの壁で対象物を押し潰す攻防一体型の技。
 正面に立つものは最低でも二枚の壁で受け止めるか、力技で壁を抉じ開けるか……お父さんとゼル姉さんは違うけど」
「ど、どういう事よ」
「足元に同質の障壁を構成して受け流すの……練習はしてるんだけど上手く行かなくて」
「難しいの?」
「慣れたらそうでもないって言うけど……そう簡単にコツがつかめなくてね」

首を捻って困った顔でリンは右隣のレイに話す。左にいるアスカは唖然とした顔で見つめている。
弐号機をスクラップに出来るとリンが告げた言葉は事実だとはっきり見てしまった。

「アスカ、あれは基礎の一つだから」
「ちょっと待ちなさい! あれが基礎なの!?」
「うん、ATフィールドを刃みたいにして飛ばして切り裂くとか、一点に集束させて貫くとか、
 圧縮して接触する瞬間に圧縮を解除して爆裂させるなんて方法もあるよ」
「なんなのよ、それは?」
「ちょ、ちょっと〜〜振り〜回さないで〜〜」

リンの肩を掴んで前後に振り回しながら叫ぶアスカ。

「落ち着きなさい、アスカ」

レイが慌てて二人の間に割って入る。

「ゴ、ゴメン……混乱しちゃって」
「う〜〜目が回る〜〜もう〜勘弁してよ〜」

リンがフラフラと目を回しながら抗議する。

「……悪かったわ」
「で、勝てそう?」
「…………アンタ、結構意地悪ね」
「認めずに喧嘩売ったら間違いなく……終わるよ。
 襲い掛かってくる相手に甘くないし、"攻撃する以上は攻撃される覚悟があると判断する"って考えだから容赦なしだよ」

リンの言葉に頬を引き攣らせるアスカ。空母では向こうが遊び半分で自分をからかったと判断する。

「そういう事で訓練したいのなら付き合ってあげる。
 ATフィールドの展開は無理でも体術くらいなら大丈夫よ。
 まあ、後はシンクロテストの時にシミュレーターを用意しようか?」
「そうね。模擬戦は出来るだけやっておいたほうが良いかも」
「同じ条件で戦ったら本当にやばいよ。アスカはシンクロ90%台だけど、ママ達は400%が基本だから。
 そしてS2機関搭載だから量産機以上の回復力もある」
「反則じゃない……」

自分のシンクロ率の四倍は手強いだけでは済まされない。
そして量産機と同じ回復力を備える相手……敵に回してはいけない気がする。

「ママ達が建造中のエヴァは機械部分はない、本当の使徒。
 直接、肉体と同化するから死角はないよ」
「コアとプラグもないのね」
「そ、レイお姉ちゃんが最後にしたリリスとの融合と同じ」

レイが確認するように聞くとリンが答える。

「多分、建造するだけで使わないと思うけど」
「なぜ?」
「簡単よ。人の手で出来るだけ解決させたいから」
「優越感に浸りたいって言いたいの?」

アスカが不機嫌そうに聞く。さっさと終わらせる事も出来るのにまだるっこしい真似をしていると感じるのだ。

「それは違うよ。人はどうして臆病だから自分達以上の力を持つ存在なんて受け入れないから。
 こっちは戦う意志がなくても、人は恐怖から私達を排斥しようとする。
 お父さんはそうなれば、家族を守る為に……人類を滅ぼす。
 もう、お父さんは人に何の希望も願いも持っていないから……これが最大の譲歩だと思う」
「……頭の痛い話ね。シンジは本当に変わったんだ」
「違うよ、アスカ。お父さんは何も変わっていないよ……ただ、価値観が変わっただけ。
 お父さんは人の温もりが欲しかったけど……誰もくれなかった。
 そして裏切られて、ヒトじゃなくなってから温もりを手に入れたの。
 だから、自分に温もりをくれた家族の命を奪うなら……奪われないように戦うと決意したの」

シンジの覚悟をリンから聞かされた二人は沈黙する。
本質は変わらないようだが、昔のように優しいだけのシンジではなくなったみたいだと思う。

「結局、家族ゴッコだったって。
 葛城ミサトは自分の事しか考えずに駒のように扱い、ヒゲは自分の妻に会う為だけに利用した。
 レイは自分に最後は力を貸してくれたから感謝してるけど……止めて欲しかったって。
 アスカは最初は仲は良かったけど、エヴァのせいで互いに傷付けてしまったみたい。
 カヲル君は僕の為に死を選んだけど、出来れば一緒に生きる方法を探して欲しかったって。
 お父さん、優しいから怒ってないって言うけど、自分のせいで世界を終わらせたってママに会うまで悔やんでいたみたい。
 だからもう迷わないって、自分の大切なものを奪うならこの世界を滅ぼしても後悔しないって話してた。
 流されるままに生きれば、何も得られない……欲しいものを得たいなら、自分で手を伸ばして掴めって教えてくれた。
 それがお父さんが千年以上の時を独りで生きて得た教訓だって」

重い言葉だとアスカは感じた。千年なんていう永い時間を独りで生きるなんて理解の範疇を超える。
それだけの時間を独りで生き抜いたシンジの覚悟の前に自分は立ち向かえるか……分からない。
シンジは自分の家族を守る為なら世界を滅ぼしても構わないと本気で思っているのだろうが、優しい部分もまだ残っているから……ひっそりと暮らす事を選択し たのかもしれない。

「受け入れろとは言わないけど……世界の片隅で静かに生きるくらいは二人だけでも認めて欲しいの。
 お父さんにとって二人は数少ない友人だったから」
「いいわ。碇君は私にとっても大事な人だから」
「力を得てもシンジがシンジならいいわよ。
 その気になれば、世界だって支配できるのに相変わらず慎ましいんだから」
「それがお父さんの良いところだよ」

リンが胸を張って誇らしく話す。

「ところでここでの会話って大丈夫なの?」
「大丈夫、マギはもう電子制圧したから」
「ホント……好き放題してんのね」

呆れた顔でアスカはリンを見ている。シンジ達は本当に気ままに生きていると知った。

「キョウコさんのサルベージも出来るよ」
「還ってこれるの?」
「うん、お父さんは全て終わった後でエヴァを放棄させる予定だから」
「そっか……また会えるんだ」
「俄然、やる気が出てきたでしょう」
「モチのロンよ! ママがどうなるのか……心配だったしね」
「アスカが戻ってこれた理由はキョウコさんがアスカの心を赤い海で混ざらないように守ってたんじゃないかって。
 一度融合すると人では分離できないけど……アスカは還ってこれた。
 アスカの心にキョウコさんが殻を形成して隔離した可能性が最も高いみたいだってお父さんが話してた」
「……そう、ママがやり直しのチャンスをくれたんだ」

自分が何故還ってこれたのかを知って、アスカはキョウコが自分を見守ってくれていた事に気付かなかったのが悔しかった。
ずっと側で見守ってくれたのに気付かない自分も悪い。
だが、教えてくれれば、もっと上手くシンクロしたし、エヴァを……ママを受け入れたのだ。

「ふざけた事してくれたわね。何も教えずに利用するなんて」
「それがネルフの本質。大事な事は何も教えずに自分達の都合の良いように動かす……バカにしてるわ」
「やってらんないわね」
「どうする? 適当な処で弐号機を壊してリタイヤする。無論、キョウコさんは救うけど。
 汎用コアってやつがあるから書き換えて出撃して大破っていうシナリオになるわ」
「今すぐ答えるべきかしら。弐号機とは長い付き合いだし……愛着もあるのよ」
「いつでも良いよ。後を考えるとその方法が楽なの。
 ネルフを存続させる気はないし、そうなるとチルドレンの保護はどうしても必要になるから」
「どうして?」
「シンクロに慣れた人物でエヴァを知る者ってインパクトを起こそうと考える者には必要でしょう。
 レイお姉ちゃんやアスカはその点でいけば利用したくならない」

リンの指摘にレイもアスカも納得できるから嫌になる。

「特にレイお姉ちゃん達はリリスの因子を持っているから知られると大変な事になる」
「リリスの因子って何よ?」
「私は第二使徒リリスと碇ユイから生まれたの」
「使徒のハーフってそういう意味なんだ」
「出来る限りその事は隠しておくようにしたいの。最悪はレイお姉ちゃんも私達のところで暮らす方法もあるけどね」
「そうなんだ」
「うん、一年か、二年ほど身を隠して新しい戸籍を用意するって。
 レイの場合はリリスの因子を取り除けば瞳と髪の色も多分黒になるから印象も変わって大丈夫だと思う。
 ネルフって機密性を重視したおかげで情報を全然公開してないから良く似た別人で誤魔化す方法にする。
 だから戦うのが嫌になったらやめても良いよ。人類を守るって言いながら滅ぼそうとしている組織に義理はないでしょう」
「まあ、そうだけど一応最後まで見届けたいって気持ちあるのよね」
「私はリンと一緒に戦うって決めたから」

アスカ、レイは自分の気持ちを告げる。
アスカは量産機にリベンジしたい気もまだある。負けっぱなしというのは不本意だった。
レイはリンの手助けをしたいと思う。シンジに迷惑を掛けた償いという訳ではないが、リンは友人だから助けたいと考える。

「どちらにしても当面は暇だよ」
「なんで?」
「次の使徒は簡単に撃破できる方法を用意したから」
「そうなの?」
「うん、孵化前だったらエヴァ要らないもん」
「マグマダイブをしなくても良いんだ。あれは熱いし、動けないから勘弁して欲しかったのよね」

アスカが前回を思い出して二人に話す。

「ATフィールドって熱も遮断できるし、重力だって遮断可能だよ」
「確かにそうね」
「使い方教えなさい……そんな便利な力なら自由に使いたいわ」
「無理、人類はその姿を維持するだけで精一杯。S2機関を取り込めば別だけど……人間やめるの?」
「エヴァに乗っている時だけ使えたら良いわよ」
「そう……まあ、やめたくなったらお父さんと交渉したら。リツコお姉ちゃんはやめる気満々みたいよ」
「私はまだマッドになってないの」
「それ、リツコお姉ちゃんの前で言ったら……やばいよ。
 この頃、自分がマッドかな〜なんて自覚しているから実験室行きは確実だから」
「気、気をつけるわ(やっぱリ、リツコってマッドだったのね)」
「自分の欲求に素直になっているから、活き活きしてる……なんて言うか、可愛い人だよね」
「リ、リツコが可愛いねえ……」

リツコはクールで可愛いとは縁がないように思えたのに、リンは可愛いと言う。

「すんごい負けず嫌いでポーカーフェイスに見えるけど、よ〜く観察すると結構ボロ出している」
「そこが可愛いのね」
「そ、クールで冷酷に見えるけど……お人好しだよ。でないとミサトオバサンとは付き合えないよ」
「な、なるほど……確かにミサトの相手が出来るのはリツコか、加持さんくらいね」
「オバサンの仕事のフォローをするって大変だよ」

そうかも知れないとアスカは思う。
ミサトの作戦は結構穴だらけという部分が多かった。マギを使ってフォローしていたのはリツコなのだ。
もう一人の作戦部長かもしれないと思う。ミサトの無茶な作戦を確実に行えるように準備する手際の良さだけでも優秀だ。

「よくよく考えるとミサトってば博打みたいな作戦が多いわね」
「そりゃそうよ。オバサンはチルドレンに心理的圧力を掛けて心を壊すのが本当の仕事だもん。
 エヴァの損害なんて気にしないし、私達の命だって死んでも悪かったくらいにしか思わないわよ。
 あの人、中途半端に善人ぶるから余計途惑うよ。
 例えば、第十二使徒戦でN2で初号機をサルベージするって作戦があって反対したわね」
「ええ、あったけど」
「結局、代案を考えずに作戦を行おうとしたじゃない。これって使徒を倒す事を優先しただけ。
 反対なら直接司令に捻じ込むなリ、代案を考えれば良いのに仕方ないで済まそうとしてる。
 仕方ないっていう理由があれば、それを免罪符にして自分は悪くないって思っているんじゃないかな。
 アスカがマンション飛び出しても仕事を理由に捜そうとしなかった。
 心が壊れたら使い捨てみたいに扱って復活したら都合の良い事言って扱うし」
「…………反論できないわね」
「ネルフの人間って嫌な事から目を逸らしたがるの。
 エヴァに危険性を知りながら……知らない振りをして自分を騙している。
 まあ、そういう人材ばかり集めたんだけどね。自分の命令を忠実にするだけの駒以外は怖くて使えない人がトップだから」
「頭が痛い話ね。いつ沈むか分かんない泥舟に乗る気はないんだけど」

呆れた声でアスカが告げた時、戦闘配置の解除が出た。

「アスカもレイお姉ちゃんも前回の記憶があるから通常の使徒戦は大丈夫ね。
 ただイレギュラーが出現する可能性もあるからそれだけは注意して」
「そんなのいるの?」
「人の記憶を覗き見て吸収する奴が出る可能性があるの。
 万が一私の記憶を読まれた時は急いで撤退してね」
「なぜ?」
「そうよ、たかが記憶を読まれた程度で……って不味いじゃない!
 アンタのママの戦闘パターンとか使われたら一大事よ」

アスカがさっきの戦闘を思い出して叫ぶとレイもその指摘に気付いて不安そうな顔をする。

「それなら良いわよ」
「どこがよ!」
「……碇君が一番強いのね」
「あ……まさか……シンジが力を使ったとこ……見たの?」

レイの到達した考えにアスカは更にやばい状況の可能性に思い当たった。

「何度も見てるし……練習相手もしてくれた」
「……世界の終わりじゃない」
「そこまでは行かないけど」
「なぜ?」
「力全てをコピーなんて絶対に無理だと思うから。
 万が一の時はお父さんが戦うから、お父さんの名前を叫んだり……突っかかるなんてしないでね」

リンの忠告に二人は頷いていた。正体がばれると全部お終いになる。

「まあ、ばれたらネルフを一気に制圧して情報操作するしかないけど……面倒だしね。
 特にオバサン辺りは使徒を目の仇にしてるから人の姿だと思って、舐めて掛かって死ぬんじゃないかな」
「ありえるわね……ミサトって猪突猛進だから」
「あの人が死んでも困んないけど……へんに怨みを買うのも嫌だから」

面倒な事は出来るだけ回避したいとリンは告げて、三人は部屋を出て着替える。

「アスカ、家に来る? 夕飯用意するわよ」
「行くわ……アンタの料理、シンジに料理に似ているからホッとするのよ」
「そりゃそうよ。私の料理の腕はお父さんが鍛えてくれたから」
「やっぱりね。あいつ、未来でも家事やってたのね」
「家は逆だよ。お父さんがママ役で、ママがお父さん役みたいなもの」
「あいつらしいわね。尻に敷かれてんだ」
「どうだろう。ここ一番はみんな、お父さんを頼りにしてるから、一家の大黒柱でもあるのよ」
「ふうん、まあ、幸せなら良いんじゃない」

そう締め括ると三人は仲良く帰宅した。
結局、アスカもリツコの家に居候する事になる。
リツコ曰く、「リンの餌付けね」とのコメントをアスカは否定できなかった事は事実だった。


戦自は本格的に使徒戦に参入しようかと思ったが……パイロットの訓練不足が響いていた。

「これは問題だな」
「仕方ないですよ……僕や彼女は試作段階から操縦してますけど、訓練生は一から経験を積み上げないと。
 やはりATフィールドの活用はそれなりの慣れも必要です。
 戦闘機が歴史上に現れた時も効率よく運用する為に試行錯誤したのは歴史が証明してます」
「あやふやな技術をものにするのは柔軟な発想が必要だというのだね」
「先に実用化したネルフもまだ上手く使いこなしていませんので」
「君が引き取った元少年兵達の方が上手く使っているな」
「子供の方が新しいものに対してゲーム感覚で受け入れているからでしょう。
 軍人は現実を見据えて行動します。あやふやなものを受け入れ難いのは仕方ありません」

帰還して報告するシンジの指摘に戦自の高官達は唸るしかなかった。
ATフィールドという未知の物体に常識は通用しないから、トップガンと呼ばれるパイロットも苦戦している。
操縦に関してはそれなりに成果が出ているが、フィールドの展開には少年兵の方が上手い。

「使徒戦に関してはATフィールドは必要ですが、対人戦にATフィールドは不要とも言えますよ」
「確かにそうだが……使えるなら使いたいと思うのも当然ではないか」
「では訓練は続行という事でよろしいですね」
「うむ、その線で進めてくれ」
「構いませんが……ATフィールド発生システムって金食い虫です。量産するなら搭載しない方が安上がりですよ」

予算という言葉を聞いて高官達は唸らざるを得ない。
どこの軍でも予算という内なる最強の敵には対抗できないから悩む。当然、戦自も予算という強大な敵が存在していた。
トライデントの建造中止で予算は少し浮いている。

「搭載機が十とすれば、未搭載機が八くらいといった所です。
 発生システムの製造には時間も掛かるという点もありますし、稼働時間も大幅に変わります。
 あれは大量の電力を消費しますから」

むむむという唸る声が出てしまう。
ATフィールドの防御力は既に知っているから、使いこなせれば……新たな戦闘体系を生み出せる。
だが、現実は未知なる技術の為にパイロット達は苦労しているので、実用化にはかなりの時間が掛かりそうである。

「戦自が研究用に何機か確保して、一般に正式採用する機体は予算の少ない未搭載機でも構わないのでは?
 使徒戦が終われば、対人戦になりますので予算の掛からない量産機を採用すると考えます。
 量産性の高い機体ならUN軍も採用しますし、資料を公開すれば現実主義の戦術家は無い方で戦術を模索しませんか?」
「その意見には納得できるから困るな。
 資料の公開は当然の義務であり、現実の戦争は量産性の高い武器で数を持って戦うのが正論だ」
「エヴァは製造に金が掛かりますし、インパクトの危険性もあるので真実を知れば廃棄ですよ。
 問題は独裁者が真実を知って悪用する点ですが、なんせ……数が要りますから」
「資金の流れを知れば発覚するという点は隠せんな」
「おそらく対抗機として搭載機の保有はUN軍も考えますので、現在訓練中のパイロットが教官になります。
 今から戦術の模索をしておけばUN軍内部でも戦自の評価は上がります」

シンジの評価が上がるという言葉は高官達の自尊心や功名心をくすぐる。
戦自はUN軍の中では極東の一組織でしかないので、これでUN軍の内部に食い込める可能性が出たのだ。
合理主義の軍人ならATフィールドが無くても十分使える機体と判断するだろう。
予算が掛からなく、量産が楽な機体を主軸に採用する可能性が高いし……使徒がいなくなった後だ。ATフィールドの必要性も重要なウェイトを占める事も無く なりかねない点もある。

「搭載機を戦自が保有するという点は重要ですよ。
 万が一の時は戦自に国連が要請するという光栄な事態もあります。
 無論、危険も有しますが」
「国連からの要請か……名誉な事だな」
「ええ、非常に名誉な事で日本が世界に貢献しているという証明にもなります」
「その為には未搭載機を主流にしろと」
「どこの軍でも予算を逼迫させる機体なんて嫌いますよ」

しれっとした顔でシンジが肯定する。
シンジ達にすればATフィールドを持たないファントムなど敵ではないから、未搭載機が主流になるのが望ましい。
戦自の高官達の自尊心や功名心をかき立てて、未搭載機の有用性を知らしめるのは都合が良いのだ。

「……一考させてもらおう」
「ええ、時間は十分にあります」
「そうだな。今日は非常に気分が良い……久しぶりだな」
「僕もネルフのヒゲ親父にギャフンと思わせたんで……楽しくて、楽しくて」

高官達はシンジの言葉に浮かれるように笑っていた。
あの傲慢な男に一矢報いた事に満足していた。そして、ネルフの権威を失墜させる事が出来ると思うと嬉しくて仕方ない。
散々傲慢な物言いでこちらに屈辱的な言い方をする碇ゲンドウを黙らせる事が出来るのは痛快だったのだ。
笑い合うとシンジは結論を延ばす事で合意して退室する。


(嫌われ者が更に嫌われる……これも自業自得だろうな。
 口数は少ないし、威圧するような言い方しか出来ない……あれでは人に好かれないよ。
 実際は対人恐怖症で人と目を合わす事も無理な臆病者だって知ったら……この人達、声を失うだろうな)

あの威圧感は恐怖心から出ているとは誰も思わないと思う。
もう少し人を見る目があればと思う時がある。

(今度はインパクトは起こさせないよ、父さん。
 あんたの願いは何一つ叶えさせないし……このまま、世界を存続させてみせる。
 そして……母さんに会えずに世界を破滅させようとした犯罪者として世界から嫌われ、断罪されろ。
 嫌われ者は嫌われ者らしく……独り寂しく世界から弾かれろ)

嫌な考えだがどうしてもその結論に辿り着いてしまう。
自分が親になれば許せるかと思ったが……逆に許せなくなってしまった。
結局、両親は自分を利用したとしか思えないのだ。

父、碇ゲンドウは母さんにもう一度会いたいという理由で世界に、どんな影響が出るかも検証できない人類補完計画を持ち出して……世界を赤い海に変えてし まった。

母、碇ユイは人の生きた証を残したいと言って初号機に入り、補完計画を見届けて宇宙に飛び出して行った。
そして、孤独に耐えられなくなって地球に帰還したは良いが……人が赤い海から還ってこなかった事を認められずに、自分達が築き上げ始めた世界を否定して、 自分の望む未来を再構築しようとした。

(勝手すぎますよ、母さん。まあ、リンが友人を得られる機会を与えてくれた事には感謝しますが)

どちらにも未練はなかったし、碇ユイは既に自分の手で始末した。
初号機の中に還ってきたが……その魂は完全に消滅させた。

(僕にとって両親はもう必要ないんです……僕に温もりをくれたのはあの二人と家族のみんなだ)

赤い海で出会った妻との間に出来た生まれてきた新たな命――リン――と自分の側に存在した使徒達が大切な存在なのだ。

「シン様、ご飯作って♪」
「私も食べたいです……この世界って調味料とか食材だって豊富ですから」

栗毛で赤い瞳の少女――ガギエル――がシンジの手を取って台所へ連れて行こうとする。
同じように先ほど新生したイスラファエルもシンジの空いている手を取って歩き出す。

(そう……僕はもう人じゃない。守るべき家族は彼女達であって……人類じゃない。
 人類が僕達を拒絶するなら……僕は人類は滅ぼしますよ…………僕は傲慢で独善的なあなた達の子供ですからね)

皮肉めいた考えでシンジは両親の子供である事を証明する機会が訪れても構わないと思っていた。
守るべき家族を守る……シンジにとって戦う理由はそれだけで十分だった。











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EFFです。

まあ、シンジ君は相当腹黒になっています♪
ありふれたものを望みながら、裏切られるように流され続けたら……捻くれます。
逃げちゃダメだと言い続けて、必死に頑張って世界が終わったなんてやりきれませんよ。

それでは次回もサービス、サービス♪


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