「結局、より……戻したのね」

リンからターミナルドグマでの話を聞いてリツコ呆れた様子で呟く。

「八年前に素直になれば危ない橋を渡らずに暮らせたのに……無様ね」
「全くもってその通り」
「ミサトも加持さんもダメダメね」
「そう……ダメなのね」

リツコの意見を聞きながらチルドレン三人娘はノンビリとお茶を楽しんでいる。

「そのうち、オバサンがリツコお姉ちゃんに絡んでくるかもしれないから」
「素直に本音を出せば協力しても良いけど……無理でしょうね。
 ミサトの事だから本音を隠したまま、それとなく聞いてくるから無視ね」

あっさりとリツコはミサトの思考パターンを分析して対処法を話す。

「で、加持君はリンに近付いてくるわよ……後がないから」
「内調、クビになったもんね〜。誰かさんのおかげで」

ケタケタと笑うようにアスカがリンに告げる。
加持の立場を知ったアスカにすれば節操無しとしか言えないし、自分に近付いたのも監視とより正確な情報を得たいという自分のためでもあるので……ちょっと 怒っているみたいだ。

「乙女のハートを弄んだんだから……そのツケを払ってもらわないとね」
「そうなの?」
「そうよ、レイ。女性を弄んだ男にはそれ相応の報いを与えるのは当然よ!」

私は間違った事は言っておりませんと断言するようにアスカがレイに告げる。

「散々たかっていたのに?」
「リン、一つ良い事を教えてあげる……それはそれ、これはこれよ。
 女の子を誘う以上は男子が奢るのは当然なのよ!」
「……リツコさん、あれは正しいのでしょうか?」

レイがリツコにアスカの意見の信憑性を問う。
一般常識に関してはアスカより頼りになると判断しているみたいだ。

「微妙なところね。親しき仲にも礼儀ありというから一概に正しいとは言えないわ。
 何でもかんでも相手に奢らせるのは相手に負担を与える事になるから」
「そう……ですか」
「ええ、負担を掛けるという事は相手に迷惑を掛ける事にも繋がるわ。
 大切なのは相手に負担が掛かっていると思うなら、ワリカンにしてフォローしなさい。
 まあ、見栄を張りたい人もいるから、その辺は自分で判断すること」
「判断基準が分かりません」
「そうね……その部分は人それぞれだからレイがこれから経験して基準を作りなさい」
「……分かりました」

経験する事で基準を作り自分で考えて決めろとリツコが話すと不安な表情ながらも納得したようだ。

「基準の一つは相手が好きか嫌いかよ。
 好きな人の負担になりたくないっていう気持ちはあるでしょう?」
「……はい」
「嫌いな人に手加減する必要はないわ」
「……納得しました」

納得できないレイにリツコは一例を話すとようやく納得したみたいだった。
こうしてリツコによるレイの情操教育が行われていく。
レイがリツコのようにクール系の女性になるかはリツコの教育にかかっていた。



葛城一尉の勤務態度が豹変したという噂がネルフ内に蔓延していた。
遅刻は無くなり、日向に仕事を押し付けて定時上がりする事も無くなり……真面目に仕事をしている。
一説には何か変な物を食べたんじゃないかという説が最有力候補だった。
当の本人はというと、自身の執務室でモニターを睨むようにしてエヴァのスペックとネルフの前身であるゲヒルンの事を調べている。

「――碇ユイ、惣流・キョウコ・ツェッペリン、赤木ナオコ……東方の三賢者ね。
 う〜ん、故人だから記録でしか分からないわね」

エヴァ開発者に、マギの開発スタッフ、どちらも既に死亡しているらしい。
赤木ナオコに関しては死亡が確認されているが、残りの二人はエヴァの中にいるらしい。
サードチルドレン・碇シンジが取り込まれた映像を見たので碇ユイ、惣流・キョウコ・ツェッペリンの両名がエヴァのコアにいることを加持から言われて……恥 じる。
エヴァの身近にいながら必要以上に調べなかった……エヴァが人の魂を取り込んで動く人造使徒だと理解せずに使用する。
そんな大事な部分さえ調べようとせずに視野狭窄の状態で使徒を倒すと息巻いている自分がバカに見える。
そしてゼーレがネルフのスポンサーだという事も加持から教えてもらったので、ネルフの前身であるゲヒルンの事を探ろうとしても殆んどの資料がありきたりな 物ばかりで捗らない。
ある程度までは細かく記載されているが重要な部分に関しては自身のパスでは閲覧できない。
迂闊に深く調べようとするとそれでお終いになると加持からは警告されていた。

「分かっているのはただ一つ。
 あの使徒もどきがあたしや加持よりも深く知っている事だけね。
 そしてあたしはその言動から嫌われているって事なのよね」

見当違いの復讐で犠牲を出す事を仕方ないで済ませていると言われたのだ。
それに反発して毛嫌いしているから、相手も自分を嫌っているので上手くコミュニケーションが取れる訳もない。
第一、使徒もどきの言葉が正しいのかも判断できない。

「……どうしたらいんだろ」

人と深く係わった事が無いミサトにとって、本音を曝け出す事は出来ずにいる。
今まで自分一人でやってきた……誰かに協力を頼んだりした事はなく、まして命の危険もある事に巻き込むのは躊躇われた。

「加持が一人で八年掛けて真実を探ってもその全ては継ぎ接ぎだらけ……あたしが加わっても微々たる物ね」

加持と手に手を取って逃げ出せと言われたが……燻るように残る復讐心を掻き消す事は出来ないミサト。
危ない橋を渡る事になると分かっていても自身の感情が逃げる事を良しとしない。
自縄自縛の状態の葛城ミサトだった。



そんな心理状態のミサトだったが使徒が気にする訳なく……戦いは始まる。
突然表れたその黒い球体状の影はゆっくりと第三新東京市の上空を進んでいる。

「目標、毎時2.5キロで進行中!」
「住民の避難はまだ完了しません!」

発令所は送られる情報を次々と処理しながら戦闘準備を進めている。

「どういう事? 富士の観測所は?」
「探知できませんでした! いきなり都市の上空に出現しました!」

ミサトの問いに日向は即座に答えた。

「そう……出来る限り情報を集めて!」

険しい顔で告げるミサトに誰も文句は言わずに作業を進める。
――第十二使徒レリエルの来襲だった。



RETURN to ANGEL
EPISODE:23 新生へと至る道
著 EFF


「パターンオレンジ……ATフィールドは確認できません」
「マギは判断を保留しています」

シゲルとマヤの報告にミサトははっきりと言う。

「どう見ても使徒だと思うけど?」
「そうね。あんな出鱈目な存在はそうはいないわね」

リツコがフォローするように告げる。

「日向君、エヴァを出す前に兵装ビルで攻撃を仕掛けて」
「分かりました」

使徒をジッと見ながらミサトは指示を出す。
マコトはミサトの指示に従って一基の兵装ビルを使用して攻撃を行う。

「な、なによ!? 兵装ビルを飲み込むなんて!」

兵装ビルの攻撃が着弾する瞬間、上空に浮かんでいた球体は消えて地面に黒い染みが広がりビルが沈んでいく。
今までの使徒のような物理攻撃とは違う攻撃方法にミサトは隣にいるリツコに聞く。

「リツコ、説明できる?」
「推論で良いなら(実際は知っているけど、こういうとき未来を知っているのは不便ね)」
「お願い」

前置きしてからリツコは意見を述べる。

「多分、本体は下の黒い染みね。
 詳しくは分析結果待ちになるけど……攻撃しない所を見るとエヴァを待っているのかしら?」
「エヴァを敵として認識したって事?」
「その可能性が高いわね。その気になれば、全てのビルを飲み込めるけどしないから」
「じゃあ分析結果が出るまでは監視に留めるしかないか」

ミサトは待機命令を出して状況の把握に努める。
目の前のスクリーンに映る第十二使徒レリエルは元の球体の状態になり第三新東京市に滞空していた。


作戦室でリツコはミサト達に分析結果を報告する。

「まだ仮説の域を出ませんが、地面のシミのように見える直径680メートル、厚さ3ナノメートルの影が本体。
 その極薄の空間を内向きのATフィールドで支えている。
 結果として内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間が形成されていると思われます」
「虚数空間ってなに?」
「簡単にいうと異次元空間よ。あの影はこの世界と別の世界を繋ぐトンネルみたいな物よ。
 おそらく本体はあの中にいて、エヴァを取り込んで別の場所に転送する気か、出て来られないように放置する心算なの」
「迂闊に攻撃しても無駄って事?」
「その通りよ。どのくらい広い空間か分からない以上は、やるのなら最大の火力で試してみる事ね」
「ふ〜ん、じゃあさ、UN軍が所持している全てのN2爆弾を投入して試すのもありよね?」
「ええ、通用するかどうかは不明だけど」
「うっし、まずはそれから始めるわ!」

こうしてN2爆弾投下作戦が決行される事になった。


待機中の三人は作戦の概要を聞いて、アスカが代表してリツコに聞く。

「はっきり聞くけど……通用するの?」
「さあ、前回は試す前に終わったから」

リツコ自身は無理だと思っているのか、ちと投げ遣りだった。

「リン、どうなのよ?」
「虚数空間ってかなり広いから失敗すると思うな」
「でもUN軍の所持するN2を使い切るのは後々楽になるわ」
「レイお姉ちゃんの言う通りよ。
 UN軍の所持するN2が無くなれば、ゼーレは自分達が所持しているN2を使うしかない」
「そうなればゼーレは危険な物を極秘で所持する集団として排除しやすくなるって事ね」
「それもそうね。ジオフロントに撃ち込まれるよりはマシか」

納得するアスカを見ながらリンはリツコに聞く。

「リツコお姉ちゃん……初号機って碇ユイだけだよね?」
「ええ、記録では彼女以降は誰もインストールしてないわよ。
 もしかして他にも誰かいるの?」
「もう一人のレイお姉ちゃんがね、嫌わないでって言ったの。
 この前、お父さんに聞こうと思ったんだけど…うっかり忘れてたから」
「可能性としては……リリスのオリジナルかしら?」
「やっぱりそうなのかな?」

リンが少し怖がっているようにリツコには見える。
一人目のレイの事が尾を引いているのだろう……もし同じような事になるとショックを受けるのは間違いないが、

「会って話してきなさい」

この一言にやはり……リンは身体をビクッと震わせるがリツコははっきりと告げる。

「会わないと対応策が作れないし、味方になるとは限らないわよ。
 もしかしたら怒っているかもしれないわ。
 目が覚めたら、自分の身体を切り刻まれて……別の身体にされたんだから」
「そっちの問題もあったわね。
 使徒の思考パターンは知らないけど、アタシだったら大激怒するわね」

初号機誕生秘話を聞いたばかりのアスカは逆の立場になった場合の問題を指摘する。
新生する前の使徒に人間のような感情があるかどうか分からないが、目が覚めたら自分の身体が違っているというのはショックだと思う筈だとアスカは言う。

「……そうだね。話をしてみる」

こればかりは誰にも頼る事は出来ない。この場で素体に直接シンクロ出来るのはリンだけなのだ。


四人がミニ会議を行っている頃、初号機のケージにネルフの制服を着込んだシンジが帽子を目深に被って立っていた。

《やあ、初めましてと言うべきかな》
《そうですね……初めましてマスター》

周囲のスタッフはシンジの姿を認識していない。シンジはATフィールドを展開して周囲に自身の存在を拒絶する事でその姿を完全に隠蔽しているのだ。
そんな状況でシンジは初号機と心を繋げて会話していた。

《やはり……君があの時、碇ユイの動きを封じたんだね》
《はい、ギリギリになりましたが、フォースインパクトに意識を向けたので……その隙を突く事が出来ました。
 本当はもっと早くお力になりたかったのですが、碇ユイのほうにこの身の優先権がありましたので》
《いや、おかげで助かったよ》

申し訳なさそうに話すが、シンジは気にしていない。
どちらかと言うと自分達の認識の甘さに問題があったのだから。
碇ユイが石化して放置していた量産機を復活させてインパクトを起こそうと企んでいたとは誰も考えなかった。
シンジ達が気付いた時は手遅れに近かった……シンジとエリィが慌てて碇ユイを掣肘しようと動いたが、間に合わないと二人が思った時に初号機が碇ユイの制御 から逃れようとしたのだ。
その行為によってシンジとエリィの攻撃が間に合って碇ユイはその魂に深いダメージを受けて、僅かに時間が稼げた。
シンジがその時間を使って全員を自分の身体に回収して虚数空間に逃れる事が出来た。
そして虚数空間を渡って過去に戻る事になったのだ。

《本当に君には感謝しているよ……娘に友人を作る機会を与えられたからね》

リンに同年代の友人を与えたいとシンジは常々思っていた。
新生した同胞達は既に永い時間を生きてきたから精神的に熟成しているので、どうしても年上の姉みたいな感じになってしまう。それはそれで構わないと思う が、時々寂しそうな顔をしているように思えたのだ。
その理由も何となく判っている……自分が一番年下でその下がいない事で寂しいらしい。
リンが妹か、弟を欲しがるのも其処から来ているとシンジもエリィも考えていた。

《昔のマスターとは違いますが、優しくていい子ですね》
《そう言ってくれると嬉しいね……僕の自慢の一人娘だよ》

初号機が褒めるように話すとシンジが嬉しそうに笑って答える。
シンジが望んだ家族の温もりをエリィが与えてくれて、そしてあの世界で命の息吹を上げた愛娘。

《あの頃のマスターは張り詰めた苦しさを感じましたが……幸せになられてホッとしています》
《そうだね。あの頃は楽しい時間もあったが、結局利用されていたからね》

最初は楽しい時間もあったが、徐々にそんな時間も消えていき……苦しい事ばかりになってしまった。
自分の心を砕いて寄り代にする計画だったから……どうしようもなく苛立ちを感じてしまう。

《君はどうする? 何時までもその身体にいる訳にも行かないだろう》
《願わくば、今しばらくは此処にいたいと……マスターの代わりにあの子を守りたいと思います》
《いいのかい? もう自由になっても良いんだよ。
 碇ユイはその魂を消滅させた。君はずっとあの女に利用されたんだ……自由になっても大丈夫だよ。
 あの子にはそれだけの力を付けさせたんだ》
《私はあの世界を崩壊させてしまいました……償いという訳ではありませんが、あの子の為に戦いたい》
《君だけの所為じゃないんだけど》
《あの子が好きなんです……嫌われていますけど》

苦笑するような響きの思考波が初号機からシンジに送られる。
碇ユイが使用した機体という事であまり良い感情を持たれていないが、初号機自身は嫌っていない。
シンジの娘という理由だけではなく、前向きで一生懸命に生きようとする……その魂の在り方には好感が持てるのだ。

《娘が気に入ったのかな?》
《はい》

即答する初号機にシンジは新しい仲間が出来た事を嬉しく思いながら問う。

《君の名はどうする? 何時までも初号機では困るし、あの子に自己紹介する時に初号機では味気ないね》
《……ルインとお呼び下さい》
《ルイン――Ruin――随分、物騒な名前にするんだね》

破滅、滅亡という意味の名前にするのはどうかとシンジは尋ねる。

《あの子の前に立つ脅威を滅ぼす存在になりたいと思います》
《了承》

シンジはその一言で納得して即答する。
この辺りは親バカのシンジならではであった。
二人が楽しい会話をしている最中に別の思考波が届く。

《申し訳ないけど……お願いがあるの》
《聞こうか?》
《この使徒の生命の実を取り込みたいの……もう一人の私の為に》
《えっと、新しい身体を用意するけど?》
《悪いけど、それをすると綾波レイが二人になるわ……綾波レイの名はあの子のものだと思うし、別人にはなれないわ》
《同化するのかい?》
《ええ、あの子をベースにして綾波レイとして生きてもらうの》
《……後悔しない?》
《問題ないわ》
《あの子が泣きますから止めて欲しいんですが》
《それに関しては申し訳ないけど……それが私の望みだから》
《……仕方ないね。協力するよ》
《……マスター》
《ありがとう、碇君》

零号機の一人目の綾波レイからの願いをシンジは叶える事に決めた。
娘が悲しむ姿は見たくないが……かつての友人の願いを叶えたいという気持ちもある。
ルインにすれば、リンが泣くのを見たくはないが、シンジが決めた事に口を挟むのは不味いと考えている。
こうしてリン達とは別の企みがここに決定した。



ミサトの要請でUN軍の所持している992個のN2爆弾が用意されて、ヘリから投下されようとしていた。
外周部にはエヴァが三機待機して、その様子を見ている。
仮設の発令所でミサトはその様子をリツコと一緒に見つめている。

「リツコ……効果あると思う?」
「ダメっぽいけど」

リツコが申し訳なさそうにミサトに告げる。
実際に投下されているN2爆弾は……何の効果も与えずに使徒の本体に入っているだけの様子だった。
内部で爆発している筈だが使徒はビクともしていない。
やがて全てのN2爆弾を投下したヘリが帰投して行く光景を見ながらミサトは尋ねる。

「内向きのATフィールドって内側からしか中和出来ないの?」
「ええ、外側からじゃダメだと思うわ」

珍しく人の話を聞いていたのねとリツコは内心で驚きながら話す。

「それってエヴァを沈めて、内側から中和するしかないって事?」
「そうよ。内向きのフィールドを中和されたら支えきれずに自滅するわ」
「仮にエヴァを沈めて生還出来るの?」
「初号機以外は還って来れないわ」

リツコの声には確信めいた響きがあり、スタッフ全員が驚いた様子で聞いていた。
ミサトはリツコの確信めいた言葉に隠された意味を考える。
エヴァが使徒の細胞を培養して生まれた物という事は報告書を読み直して理解した。
だが、それだけではない何かが初号機には隠されていると気付いたのだ。

「成功率は高いの?」
「他の手段は考えつかないわ」

ミサトの挑むような視線に晒されながらリツコは自然に答える。
二人の対決姿勢に仮設発令所は重い空気になり始めた時、

『ちょ、ちょっとレイ! 何やってんのよ!?』

アスカからの通信に二人の視線が画面の映像に向かう。
外周部で待機していたエヴァ三機の内、零号機がいきなりプログナイフを装備して初号機のアンビリカルケーブルをコネクター部ごと切り落として弐号機に投げ 飛ばす。

『『キャァア―――!』』

リンとアスカが思わず悲鳴を上げる。

「レイ、何してんのよ!?」
『わ、私じゃありません……零号機が勝手に動いています』
「マヤ!」

リツコが慌ててマヤに目を向ける。
マヤは慌ててキーボードを叩いて制御を取り戻そうとするが、

「せ、先輩! こちらからの制御を受け付けません!」
「なんですって!」
「リツコ! これって暴走!?」
「零号機が暴走……何が起きているというの?」

リツコの視線の先にはレリエルの影に飛び込んで行く零号機の姿があった。
既に腰まで沈み込み……近くのビルに手を伸ばして沈降を防ごうとせずに自分から沈んでいるように見えた。

『レイ……今、引き上げるわ!』
『……ダメ。零号機が私の声を聞いてくれない』
『ちょっと! 動きなさいよ!』

モニター内ではリンがレバーを握って叫んでいる。
内蔵電源で動く筈の初号機はビクともせずに倒れたままで、弐号機が初号機を押し退けて立ち上がる。
ビルの屋上を飛び跳ねながら弐号機は零号機の元に急行するが……間に合わなかった。

『お姉ちゃんを死なせる気なの……え? お父さんが!?』

お父さんという単語に全員が反応する。
初号機の中にいるシンジが妨害していると感じたのかもしれない……自分達には理解できない何かが起きていると気付いた。

「アスカ、後退して」
『……了解』

悔しそうな顔でミサトの指示に従うアスカ……その顔は不満だらけだった。

『お父さん……どういう事なの?』

倒れたままの初号機のプラグ内で呟いたリンの声だけがスタッフ全員の耳に残った。



薄暗い司令室でリツコはゲンドウに詰問される。

「どういう事だ?」
「報告書通りです。
 零号機がこちらの制御を離れて暴走、初号機のアンビリカルケーブルを破損させてディラックの海に突入しました」

リツコ自身も急いで調査したいのに呼び出しを受けた為にマヤに分析を任せている。
初号機の損傷も気に掛かる。破損した箇所は総取替えで一日以上掛かりそうな感じだった。

「一体何が起きたのかね?」
「その調査を行おうとした時に呼び出されたのでお答え出来ません」

冬月の問いに不機嫌な顔で返答する。

「最悪はレイを諦める必要もあります」
「それは認められん」

ゲンドウが即座に告げるとリツコは彼らがサードインパクトをまだ諦めていないと確信した。

「初号機の修復は一日以上掛かります。
 レイが暴走状態を鎮めて、待機モードに切り替えれば十六時間は大丈夫だと思いますが……それ以上は電源が持ちません」
「何とかしろ」

ゲンドウの勝手な言い分にリツコは自分で考えろと思わず叫びそうになる。

「一つ策がありますがお奨めできません」
「なんだ?」
「初号機のS2機関を起動させて運用する方法です」

リツコの意見に二人は顔を顰めて告げる。

「それは認めん」
「今、老人達を刺激するのは不味い。
 バッテリーを増設させて運用したまえ」

張り倒してやりたい……リツコは二人の身勝手な言い方に苛立ちを覚えている。
確かにS2機関の事を極秘にしなければならない事は承知しているが、せめて代案くらい出して欲しい。
年寄りは我侭だと実感したリツコだった。



クレーンで吊り上げられる初号機をリンはぼんやりと座り込んで見つめている。
S2機関があるので電源切れは無いのだが、知られると厄介な事になるので電源切れの振りをしている。
外付けのバッテリーを用意して動くようにする事は可能だから、それまでは初号機は動かせないのだ。
同化して自分の身体のように動かしていたのに……いきなり拒絶されて自分の意思に逆らった。
慌てて制御を取り戻そうとした時、謝罪の意志が届いた。
とっても申し訳なさそうに謝り続ける意志に気付いて問うと……シンジの、お父さんの頼みだからと言う。

「お父さん……何をする気なの?」
「シンジは何がしたいの?」

リンの側にアスカが立って聞いてくる。
レイを、零号機を引き上げようとした時に聞こえた声に反応して一歩間に合わなかった。
事前の話では零号機では生還出来ないを知っているから、シンジが何を考えているのか……アスカには分からない。

「アイツ、レイを死なせる気なの?」
「多分、違うと思う。もしかして……零号機にS2機関を搭載させる気なのかな?」
「なんで、そんな事すんのよ?」
「お父さん、無意味な事はしないから……何か意味があるんだよ、きっと」
「シンジに問い詰めるしかないって事ね」
「……うん」

お手上げといった顔でアスカが初号機の方に目を向ける。

「初号機に誰かいるわ……私の知らない誰かが」

リンは不思議そうに初号機を見つめて呟く。

「コアには誰も居なかったんじゃなかったの?」
「その筈だったけど……さっき私に謝っていた。
 誰なんだろ?」

お父さんから聞いた話では初号機の中には碇ユイだけだって聞いていたけど、

「お父さんに似ている……優しい意思だった。
 お姉ちゃん達とも違うし、ママでもない」
「全く知らないってこと?」
「うん……初めて会った人だと思う」
「で、男なの、女なの?」
「お父さんに近いから男だと思う」

感覚的にそんな感じがしたのでアスカの疑問に答える。

「シンクロしてみて調べるしかないわね」
「え……そうなるのかな?」

途惑うように話すリンにアスカは呆れたふうに話す。

「アンタの機体なんだから、アタシに聞かれても」
「そ、そうだよね」
「何、真っ赤な顔になんのよ?」

アスカがリンの顔を見てジト目で睨んでいる。
何故かリンは恥ずかしそうな顔で頬も赤く染まっている。

「だって、お父さん以外の男の人にシンクロなんて……恥ずかしいよ」
「あっそ」

しらけた顔でアスカは聞いている。
レイの事も心配だが、リンが落ち込んでないかと思っていたのに……よりにもよって恥ずかしいときた。
緊張感が一気になくなり、深いため息を吐いている。
そんなアスカの様子にリンは文句を言う。

「あ〜〜何よ? アスカだってママ以外の人とシンクロしたいの?」
「別にシンクロなんだから大丈夫でしょ」
「アスカのシンクロは眠っているキョウコさんに心を重ねるだけだけど……私のは違うんだよ。
 起きている知らない人に心を重ねるんだから……表層意識を全部見られるんだから!」
「…………それって凄く恥ずかしいじゃない!」

リンの場合のシンクロの意味を聞かされてアスカは慌てている。

「アスカだって、キョウコさんが起きていたら全部見せるんだよ……何なら起こそうか?」
「や、止めてよ! そんな恥ずかしいこと絶対に嫌よ!!」

幾ら母であるキョウコと言えど、見せたくない事はあるからアスカは拒否する。

「もしかしたら今までの事……知られているんだから」

真っ赤な顔でリンは頭を抱えている。その様子を見ながら、アスカは最大の疑問点を告げる。

「シンジは知っていたの?」
「そう、それだよ! お父さんは知っていて、私を乗せたのか……それが重要なのよ!」

いきなり立ち上がってリンはアスカの肩を揺すって叫ぶ。

「もし知っていたんなら……どうしよう?」
「文句でも言ったら、"お父さんのバカ!"もしくは"お父さんなんて大嫌い!"なんてどうよ?」

親バカのシンジなら絶対に堪えると思うから、アスカはシンジが最もダメージを受ける言葉を告げる。

「そ、そんなこと言えないよ――――っ!!!」

耳元で叫ばれたアスカは意識が薄れていく中で……理不尽だとはっきりと感じていた。
……還って来てから常識人化したアスカの不幸度はうなぎ上りだった。



その頃、ディラックの海に入っていたレイは零号機を待機モードに切り替えて冷静に状況を見つめる。
リンから内部の事は聞いていたので特に慌てていないが、自分の意志から外れて動いた零号機には途惑う。
特にリンの初号機を傷付けたのはショックだった。

「あなたは何を望むの?」

答えるはずが無いと思うが口に出して問い掛けると、

《あなたに生きて欲しいから》

その声らしきものを聞いた瞬間、レイの意識は深く沈んで行った。

「…………ここは何処?」

目を開くと其処は赤い海が見える小高い丘のような場所だった。
そして背後に目を向けると信じられない光景をレイは見た。

「碇君!」

狂気を纏ったシンジがその目に映る全てのものを破壊し、焼き尽くしていた。
その手の一振りで建造物を薙ぎ払い……粉々に砕く。
その魂の叫びから周囲の物を弾き飛ばしている。
燃え盛る炎の海の中を悠然と進み、目に映る人の造りし物を焼き尽くす。
レイはまさに神話に記述された世界の終焉を見ている気がする。
破壊神――的確に表現するのならその言葉が最も近いとレイは感じた。
コマ送りのように幾つもの破壊の光景を見せられた後、シンジは壊れた笑みを浮かべながら……自爆した。
その爆発は一つの大陸を完全に消滅させて海へと沈めた。

「これは何?」

声を失い全てを見終えたレイはかすれたような声で呟く。

《私達とタブリスがした結果よ。
 碇君は自暴自棄になり、世界を壊し続けて狂っただけ》
「……そんな」
《私はリリスに還ったから、この光景がとても悲しかった》

自爆した付近で微かに何かが蠢いている。
良く見ると千切れ飛んだ肉片らしき物が一つになろうとしている。

《死ぬ事を許されず、この孤独な世界で生きる事が彼の運命……アダムも同じだったと思う》

再生を終えたシンジは赤い海に触れて、泣きながら声を掛け続ける。

《でも、誰も還ってこない……それでも彼は呼び続ける》
「どうして?」
《そこは満たされ……一つになった世界。あなたの願いそのものでしょう》
「違うわ……碇君が泣いている」

こんな光景を望んでいた訳ではないとレイは告げる。
やがてシンジは赤い海から離れて歩き出した。
その顔には狂気と絶望を備え、人類を見限った厳しいものがあった。

《彼は人に絶望し、新しい友人を作る事にしたわ》
「そんな!」

赤い海――LCLから物を再構成させる方法を以ってシンジは様々な研究を開始する。

《彼には人類の英知がある……そして使徒の力を手にした新たな神》
「そんな事を碇君は望んでないわ」
《そうね。でも、あなたは碇ゲンドウの人形としてそれを彼に与え、タブリスもゼーレの人形として与えた》

眠る事なく、シンジは研究を続ける。
その頭の中には人類の事は既にどうでも良い事になり……狂気も消えているように見えた。
どれだけの時間が経ったのか分からないが、シンジの顔には昔のような穏やかな笑みが浮かぶようになっていた。
永い悠久の時間が心の傷を癒したのか……
ほんの微かな希望という光明に縋ったのか……
それとも人類に未練を無くし、傲慢な思いからなのか……


そんな時、世界が揺れる。

《たった一人……赤い海からではなく、人でなくなった……リリンが還って来た》
「エリィさん?」

銀色に輝く四号機が赤い海に落ちてきた。
シンジは特に感慨もなく、冷めた目で見つめていた。
エントリープラグから出てきたエリィは世界の変わりように驚きながらシンジに問い詰める。
シンジから詳細を聞いたエリィは鬼のような形相で四号機に戻ってシンジに襲い掛かる。
対抗するようにシンジも赤い海から初号機に似た形のエヴァを出して……戦う。

「止めて!」
《無駄よ。これは既に起こった事……私達の声は届かない》

四号機の猛攻にシンジのエヴァは傷付くがすぐに再生される。

《痛みはあるけど……それさえも罰だと思って受け止めたわ》

時々反射的に反撃して四号機にダメージを与えてエリィが後退する。
エリィはその度に四号機を修復しながらシンジを殺す方法を模索している。

《目を逸らさない……これは私達の罪なのよ》

二人が戦う理由なんてないのに激しく感情をぶつけるエリィ。
自己修復中の四号機の側で独り寂しく泣きながら眠るエリィ。

シンジはただ静かに次の邂逅を待ち望んでいる。

《彼はずっと待っていたわ……己を断罪する者を》

何度も殺し合いをしながらエリィは徐々にシンジを憎しみ以外の目で見つめ始める。
やがてお互いエヴァを使わずに戦闘を行い、赤い海のほとりでエリィはシンジを押し倒し首を絞める。

『なんで抵抗しないのよ!
 アンタが本気なら、私なんていつでも殺せるでしょう!』
『何でだろうな……』

まるで他人事のように話すシンジにエリィは叫ぶ。

『そんなに死にたいの!?』
『そうかもしれないけど……死ねないんだ』
『だったら私のために生きなさい!
 独りで生きるのは辛いのよ!』
『それは出来ないよ……僕は世界を滅ぼしたから』
『アンタの所為じゃないわよ!』

シンジの声にレイは心に鋭い痛みを感じる。
自分がした行為の結果がこの赤い世界になったのだ。

「ご、ごめんなさい」
《あなたの所為じゃないわ。
 ただ知って欲しかったの……彼らの苦しみと悲しみを》

『このまま朽ち果てたいんだけど……それすらも赦されないんだ』
『当たり前でしょ! アンタの罪じゃないのよ!
 勝手に他人の罪を背負って死ねるわけないわよ!
 罪だと思うなら生きて償いなさい!!
 私を独りにしないで! 一緒に生きてよ……』
『……生きて良いの?』
『私にはあなたが必要なの……独りで生きるのは辛いのよ』

シンジに抱きついて泣き始めるエリィの頭を撫でる。

『死ねない理由が出来たのか……人間じゃなくなってから本当の温もりを感じるなんて皮肉だよね』
『……バカ』

そして場面は変わる。

《……奇跡の誕生よ。
 新生する事のない使徒から生まれた奇跡があの子よ》
「……リン」

エリィの腕の中でスヤスヤと眠る新生児――リン――を優しく見つめるシンジ。
その顔にはやっと手に入れた幸福を嬉しそうに感じている。

《ここから先は見せられないけど……十分よね》
「ええ、最後に碇君が幸せになったんだと分かったわ」
《生命の実をあなたにあげるわ……彼らの力になりなさい。
 そして私の分まで精一杯生きて……幸せになるの》
「同化するの?」
《ええ、綾波レイは一人で十分よ……私はあなたの中で一つになって眠るわ》
「……もう会えないの?」
《残念だけどね……でも、この世界で友人を作って生きて行けばいいわ。
 あの子が嫌いなのかしら?》
「大事な友人よ」
《他にも増やすのよ……そして未来を築きなさい》
「……ありがとう」

その言葉を聞いて、もう一人の綾波レイは微笑んで消えて行く。


そして……世界が暗転した。


仮設発令所のミサトは苛立ちを隠せずにいた。
状況を分析して次の手を打ちたいのに、技術部長のリツコが呼び出されたまま……帰って来ない。
リツコの片腕のマヤは初号機の修理を陣頭で指揮していて、この場にいないし手が放せない。

「司令も副司令も何やってんのよ!」

初号機を突入させる作戦の許可を取ろうとしたら即座に拒否された。
代案でも言ってくれれば、作戦を練り直しても良いが……それすら言わずにリツコを呼び出して貝の様に口を閉ざしている。

「遅くなったわ」
「リ……リツコ?」

仮設の発令所に入ってきたリツコに文句を言おうとしたが即座に……目を逸らした。
リツコの全身から……大激怒というオーラが放射されている。
なにやら、ブツブツと呟いているが内容は日本語だけではなく、様々の国のスラングが混じっている。
スタッフ全員がこの場の最高責任者であるミサトに……救いの視線を向ける。
ミサトはこの場から逃げたい気持ちを必死に抑えながら……火中の栗を拾う為に声を掛けた。

「リ、リツコ……初号機突入ってやっぱダメ?」

ミサトの声にリツコはピクッと身体を反応させるとミサトに視線を向ける。
その視線は絶対零度と灼熱の劫火が混じり合ったなんとも言えない複雑な恐怖が存在していた。

(に、逃げちゃダメよ。逃げちゃダメなんだから……でも逃げたいのよ)

必死でリツコの視線を耐えながらミサトは自分の最期を感じていた。

「フ、フフッ……やってられないわ。
 そういう心算なら、こっちにも考えがあるから」

キレるリツコに全員が死の予感を感じていると、

「リツコお姉ちゃん!……ど、どうしたのよ!?」
「リ、リツコ!?」

リンとアスカの二人が仮設発令所に入ってきて、リツコの様子を見て驚いていた。

「下の年寄り二人が我侭ばかり言うのよ。
 何度、辞表をその顔面に叩きつけようと思ったか!!」
「リ、リツコお姉ちゃん……今度ネットで見ていた猫の着グルミ着てあげるから今は我慢して!」

リツコの暴走を抑えるようにリンが抱きついて慰めている。

「グローブの部分は柔らかそうな肉球もあるよ!
 なんなら白、黒、三毛のフルコンプするわ!」

必死に宥めているリンにアスカは内容を聞いて呆れた顔になるが……リツコの怒りが次第に治まる様子にスタッフにはリンが救いの神に見えている。

「……もう大丈夫よ。リンには迷惑を掛けるわね」

リンの一言が効いたのか……リツコの全身から溢れ出していた瘴気が消え、視線に理性の輝きが生まれていた。

「ううん。この作戦が終わったら通販で購入してレイとアスカの三人で着るから」
「ちょっと待った―――っ!!
 ア、アタシも着るの!?」

アスカが聞き捨てならないと言った様子で二人の会話に入り込んでくるが――無視される。

「アスカが黒で、レイが白。そして私が三毛でどう?」
「……楽しみにさせてもらうわね」

リツコはいい子いい子と言わんばかりに抱きついていたリンの頭を撫でる。
この時点でアスカは決定事項として決まった事と知ってガックリと膝と手を床についていた。
聞いていたスタッフはアスカの不幸に対して憐れみの視線とリツコの機嫌取りという重要な仕事をお願いするという視線を向ける。

「そんなにしょげないでよ……アスカが欲しかったあのワンピース奢るからね」
「マジ?」
「私は仕事に対する正当な報酬は出すわよ。
 何処ぞのヒゲと背後霊と違うもん」
「ふぅ……仕方ないわね。一度っきりよ」

すっかり機嫌の良くなったアスカにスタッフは、ちゃっかりしてるなと思うべきか、リンのアスカの扱いが上手いと言うべきか……判断に悩むスタッフであっ た。
緊張感が溢れていた仮設発令所の空気が完全に弛緩した時に……ドクン、ドクンという鼓動のような音が響く。

「な、何!?」
「まさか!」

ミサトとリツコは同時にモニターに目を移すと、

「何よ、あれは?」

空中に浮かんでいたゼブラ状の模様のあった球体が萎んだり、膨らんだりしていた。
ドクン、ドクンとうるさい音がその動きとリンクしている事はすぐに全員が理解する。

「まさか、レイが内側から……中和を始めたの?」
「そうみたいね……他には考えられないわ」
「自力で帰還するって事?」
「おそらくね」

マヤが座っていたシートに代わりのオペレーターとしてリツコが座って状況を分析する。

「状況はどうっ!?」
「……ダメね。全てのメーターが振り切られているわ」

お手上げといった様子でリツコが匙を投げている。

「こんな時に拗ねないでよ!」

ミサトがリツコに文句を言うが、

「ネルフってね……両手両足を縛って殴り合えっていう理不尽な事が好きなのよ。
 正直、私の勤労意欲はマイナスに突入したわ」

ウンザリするような声を出して、リツコはある指示を入力していた。

「何をしたの?」
「ああ、厄介な事になりそうだから事前に工作する事にしただけよ。
 多分、また私に押し付けると思うから」
「そ、そう」

ミサトはリツコの地雷に触れるのを避ける事を決意してモニターに視線を移す。

「ミサト……」
「あによ?」
「私のサンプルにならない?」
「絶対嫌よ!!」
「そう……残念ね」

ダラダラと冷や汗を流しながらミサトはモニターから視線を外さない。
それは外した時が全ての終わりだと感じたみたいだった。











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どうもEFFです。

ちょっと長くなったんで中途ですが次回に持ち越します。
次回はディラックの海の内部でシンジがした事からですかね?
他のSSではレイがシンクロする零号機は殆んど暴走してなかったと思うので、何となく暴走させちゃいました。
この後は第十三使徒バルディエル戦にまで進むと良いんですがどうなるか……。

それでは次回もサービス、サービス♪



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