流した血の上にある休戦 次の戦いは近く

また血を流す事になるが それでも生き残る為に準備する

理不尽な戦争という狂気から 家族を仲間を守る為に

その先にある平和を 未来を信じ求めて



僕たちの独立戦争  第十一話
著 EFF



―――木連 会議室―――

「……それで、被害状況はどうなっている」

草壁は苛立つ様に青年士官に訊ねた

「それでは報告します。プラントの被害は軽微ですが、港湾施設は…………………………」

被害を知らせ難く言葉を濁らせる青年士官の新城を見て、草壁は

「新城君のせいではないから、気にせず報告をしたまえ」

と言い、続きを促した

「………はい、港湾施設は壊滅、完全な再建には1年は掛かると思われます。

 現在最低限の機能を確保する為に無人機で復旧作業をしていますが半年はかかります。

 また港湾施設の作業員、約8000人は全員死亡との事です」

新城の報告に会議室の士官たちは動揺していた

「閣下、直ちに卑劣な地球人に報復しましょう。我々の怒りを見せ付けてやりましょう」

そう叫ぶ士官を皮切りに次々と地球に報復を叫ぶ士官の中、一人の士官が草壁に進言した

「閣下、まず防宙体制を確立し、それから地球の真意を確かめ報復するべきです」

白鳥九十九少佐の発言に士官の一人が

「何を暢気な事を言ってるんだ!貴官は臆病風に吹かれたか、我々の力を持ってすれば事は容易いぞ」

「そんなに簡単にはいかん。港湾施設を失った今、戦艦の整備が出来ないのだ。

 この状況では戦線が維持できん。もしコロニーに攻撃を受けたら次は木連市民に被害が出るぞ」

白鳥の発言に草壁は頷き、士官の一人に命令した

「南雲君、君が中心になって無人戦艦による防宙体制を編成してくれ。

 まず、木連市民の安全を優先する。そして報復する」

「はっ、直ちに編成作業を開始します、閣下」

返事をして退出する南雲を見ながら、草壁は全員に意見を述べた

「この攻撃をどう考える諸君。地球だと思うかそれとも…………………………」

「私は火星の報復攻撃だと思います。その場合、慎重な対応が必要だと進言します」

秋山源八郎中佐の発言に周囲は驚き叫んだ

「馬鹿を言うな、中佐。君は火星に出来ると思っているのか。我々に負け続けている奴等に」

その言葉に周囲の者は続くが、秋山は気にせず草壁に

「それは地球も同じ事だが火星は宣戦布告を宣言した。

 そして今回の攻撃が火星ならば彼等は周到な準備の上で報復をした。

 もしそうなら彼等はこちらの情報を持ち、第二、第三の攻撃もあるかも知れません。

 我々は勝ち続けて、防御を疎かにした。

 もしプラント、港湾施設ではなく市民船に攻撃を受けたら、どうなっていたか。

 おそらく火星ならばこれ以上の攻撃はないとおもいます」

「秋山中佐、何故そう言える」

「はい、コロニー船ではなくプラント周辺の施設を破壊したからです。その意味は………………………」

「そう言う事か、小癪な真似をするな。確かに中佐の言う通りだな。

 こちらの継戦能力を挫いて地球の反撃を待つつもりか」

秋山の発言に草壁は苦渋の表情をした

「そうです。これ以上の攻撃を火星にすれば次はコロニー船への攻撃になります。

 彼等にすれば一発の核が当たればいいのです。

 私はこの攻撃が火星ならば一時休戦し、全戦力を地球に向けるべきだと思います。

 地球には無人戦艦を撃破するのは困難ですが、火星には機動兵器があります。

 まず地球を黙らして、港湾施設の再建後に戦力を火星に向けるのが効率的だと思います」

周囲の士官達が秋山の発言に苦々しい表情の中

「中佐の進言を受け入れよう。忌々しいが最後に勝つのは我々木連だ。

 我々の正義はこんな苦難の前に挫ける事は無い。正義は勝つのだ」

草壁の声に士官達が続く中

(……………………正義が勝つか、これで市民船の被害が出る事は無いだろう)

一人、安堵する秋山であった



―――クリムゾン ボソン通信施設―――


「私は火星に木連との和解を勧めようと思うのだが、一応アナタ方の意見を聞きたいがどうだろうか」

ロバートの発言に草壁は

『一つお聞きしたい、あの攻撃はご老人の差し金ですか』

「それは報復核攻撃の事ですか、実際聞いて驚いたよ。あれだけの事が出来るとは思わないのでな」

ロバートの発言に周囲の士官達が騒ぐ中

『では火星独自の攻撃ですか、随分卑劣な真似をしますな』

「何を言うかと思えば、勝手な言い分だな。

 戦争を始めてやり返されたら文句を言う。正気かね、君達は。」

ロバートの呆れた声に士官の一人が

『核を使い、木連市民8000人を殺しておいて、何を言う悪の地球人が』

(以前言われたが、木連は戦争に対して覚悟が出来てないと言うのは本当だな。

 確かに危険だな、これでは何をしても許されると思うかも知れないな)

「火星は綺麗な戦争をしてると思いますよ、草壁中将。

 宣戦布告を行い、しかも市民船には攻撃せずプラント、周辺施設だけを狙った。

 無差別攻撃を行った、木連とは違いますな」

ロバートが告げる事に草壁は簡潔に答えた

『つまり報復に徹したと言う事ですか』

「わしならそんな甘い事はしない。最初に持てる最大の火力で市民を攻撃するな。

 殲滅戦を仕掛けた以上殲滅戦でやり返されても文句は言えん。

 自分が先にした事を非難されてしまうからな、火星の優しさに感謝しても良いだろう。

 まああまり調子に乗るなと言う事だ」

『ご老人、口が過ぎますな。少しは遠慮してもらおう』

「火星が次の準備を始める前に聞いたが、必要ないのならいいんだ。

 いよいよ地球の反撃の準備が出来つつあるから、この二つを相手にいつまで勝てるかな」

ロバートの話しに疑問を抱いた草壁は聞く事にした

『どういう事ですか、ご老人』

「なに、ある企業が相転移エンジン搭載の戦艦を建造している噂を聞いたのでな。

 このままではアナタ達も負ける時が来るだろう」

ロバートの発言を聞いた士官達が、ロバートを罵倒する中

『つまりご老人に都合が悪いから、我々を使って妨害するつもりですか。

 汚い真似をしますな』

「そうでもないさ、別にうちでも開発中なのでな。ただそれが早いか、遅いかの違いだけだ。

 私の役目は窓口であってアナタ達の協力者ではない」

草壁の嫌味など全く気にせずロバートは答え、草壁が苦渋の表情で話す

『卑劣な事だ。………………良いでしょう、火星とは休戦する。

 奴等にそう伝えてもらいましょう。その代わり新型戦艦の詳細を教えたまえ』

「いいでしょう。判り次第伝えよう」

通信が切れた画面の前でロバート・クリムゾンは考える

(さて木連をどう扱うか、アクアの意見も聞きたいな。それに火星の技術の高さも気になるな。

 おそらく火星がこの戦争の勝利者になるだろう、その時クリムゾンをどうするか。

 アクアが火星に大きなパイプを作っているから大丈夫だろうが、

 クリムゾンとして火星の独立に手を貸して、信頼を得る必要があるかな)

クリムゾンの会長として、未来を考えなければならない。ロバート・クリムゾンであった



―――火星 ある平原にて―――

「クロノ、バッタのシステムの変更が終わりました。みんなはどうですか」

「終わったよ、ママ。これでこの地域の無人兵器は、味方だね♪」

「うん、上手に出来たかな、ママ。クオーツもお疲れ、次はラピスの番だからね、パパ♪」

『ああ、約束だ。次はラピスでその次はセレスだな』

「「うん、約束だよ。パパ♪」」

『アクアさん、周囲に敵影無し。帰還しますよ』

「はい、エリスさんお疲れ様です。エクスの調子はどうですか」

『いいですね。ブレードも良かったんですが、それ以上の機体ですね』

『これより全機、首都アクエリアへ帰還する。これにてこの地域の電子制圧を完了する、以上だ。お疲れさん』

『『『『お疲れさまです、隊長』』』』

現在クロノ達は火星で木連機動兵器に電子制圧を行っていた

これに際し、新型のエクスストライカー最終調整が同時に行われていた

クロノの機体だけが他の機体と違うのは電子戦用の機体である

この専用機がダッシュのサポートにより広域の制圧を行うようになって火星の状況が変わり始めた

………だがその事を木連は知らない

基地に帰還しエクスからクオーツを抱きかかえて降りてきたのを見て

「「クオーツ、ズルイよ!! パパに抱っこしてもらうなんて」」

ラピスとセレスが騒ぐ中、クオーツを降ろしたクロノに

「お疲れ様でした、クロノ、クオーツ。これで南半球はほぼ終わりましたね」

ラピスとセレスの頭を撫でながら、アクアが言った

「万全とは行かないが、この無人兵器が後の布石になるからな。

 さてラピス、セレス。今日は晩御飯は何が食べたい、お父さんが作ってやろう」

「「ええっホント、パパ♪」」

「ああ、約束だ。マリーさんに連絡して材料の準備をして貰おうな」

「「ウン♪」」

「それじゃ3人でマリーに連絡してきてね」

アクアの声に子供達が走り出し、それと入れ替わりにレイ・コウランが格納庫に現れた

「皆さん、お疲れ様です。アクア、クロノ、クリムゾンの協力で木連と一時休戦が成立しました」

レイの声に作業中の者達から歓声が上がった

「条件は北半球の領土化ですか、レイさん」

「はい、これが絶対の条件でした。時間を稼ぐ為とはいえ、悔しいですね」

アクアの発言に答えるレイの周りから幾つもの反対の声が出たが

「おそらく半年後には休戦は終わるだろう。

 その時には火星から奴等の兵力を根こそぎ破壊し、火星を取り戻すつもりだ」

このクロノの宣言に周囲が沈黙したが、エリスが

「クロノさん、どういう事ですか。教えて貰えませんか」

「ネルガルが相転移エンジン搭載の戦艦を作っている。

 それを使い火星に来るだろう、それを口実に木連は火星に決断を迫るだろう。

 木連か地球、どちらに付くか。だが彼等は自分達が火星にした事を理解せず、謝罪もしていない。

 俺達が木連に付く事は無いが、ネルガルにも付く気は無い。

 ネルガルの目的はボソンジャンプの独占、奴等も火星の住民は邪魔か、道具でしかない。

 おそらく火星の政府の指示など無視して行動するだろう。その結果、休戦が終わる」

クロノの予測に周囲のメンバーから木連とネルガルに対する非難の声が出るなか

「ネルガルの暴挙には地球に抗議し、先の徴用を無効にして、

 木連は火星から追い払う事になりますか、悪くは無いですね。

 後は地球からの独立をどうするかですね」

レイの意見にクロノは

「いや、独立にはクリムゾンがいずれ仲介してくれるだろう。今回の休戦でそれが予測できる」

「そうですか、お爺様が動くとクロノは見ているのですか」

「そうだ、アクア。ロバート・クリムゾンは木連よりも火星に協力する事が、

 クリムゾンの利益になると、判断するはずだ。あの人は先を読む事が出来る人だと思う。

 先に木連の危険性を教えて、火星がクリムゾンに損を与えない限りは手を貸すだろう。

 クリムゾン会長としてはグループの繁栄が最優先だからな。

 でもアクアには優しい人だから最後には協力してくれるさ、ロバートお祖父さんとしてね」

アクアを見て優しく話すクロノにアクアは

「………………そんな人ではないです、クロノ。冷酷な計算高い人ですよ」

「それはクリムゾン会長だからさ。少なくとも会社の為に非合法な事をしても、個人ではしてない筈さ。

 でなければアクアはとうに切り捨てられている。

 だから個人としては信頼できる。会長としては損をさせない限り信用できる」

「なるほど、ではクロノ戦略としてクリムゾンを味方にするにはそのやり方が一番効率が良いんですね」

「ああ、レイさん。企業は利益を追求する性質があるから、

 他の企業にも今のやり方はかなりの効果があるから、この先地球との関係に役立つだろう。

 但しやり過ぎると癒着という名の毒が回るので気を付ける必要もあるがな」

クロノの注意を聞いてレイも企業との付き合い方を考え始める中でアクアが

「ではクロノ、私は地球に一度戻ります。お爺様と今後の相談をしてナデシコに乗り込みます」

「ナデシコとは何ですか、…………もしかしてネルガルの船に乗り込むのですか、アクア」

「はい♪ 戸籍を偽造して、アクア・ルージュメイアンとして、火星までの片道乗艦するつもりです」

「だ、大胆な事をしますね。その意味を教えてくれますか」

「俺は反対してるんだが………………頑固でな」

呆れるクロノにアクアがレイに話す

「戦艦と機動兵器エステバリスのデーターの奪取には、これが一番です。

 後はナデシコの地球での評価を調べる為です」

「………………私にはよく判らないんですが」

「ネルガルがその戦艦を私的に運用するみたいなのよ、エリス。

 だから上手くいけば地球に於けるネルガルの立場がかなり悪くなるの、それを知りたいの」

エリスの疑問にアクアが答え、その大胆な行動に周囲の者が驚いていた

「だからレイさん、当面の電子制圧はクロノに任せますから子供達共々よろしくね」

「わかりました、代わりに良い情報をお願いしますよ。アクア」

「任せてください。ではクロノ、子供達が待っていますので早く残りの仕事を片付けて行きましょう」

「ああ、では急いで終わらせるか」

作業を終わらせて、子供達を迎えに行く二人を血は繋がってなくても家族なんだと思った

その幸せそうな笑顔を見てそう感じた



―――ロバート・クリムゾンの書斎―――


「もうすぐネルガルの暴挙が始まりますね、お爺様。ここでの対応でクリムゾンに有利に動きますわ」

「ほう、ぜひ聞かせてくれんか。ネルガルは戦艦一隻で何をする気なんだ」

「軍に渡す事なく、独自に運用するそうですね。ではクリムゾンはどう致しますか、お爺様。」

「ネルガルの目的は………………本気かね。自殺行為だぞ、それに軍ともめるぞ」

ロバートの考えにアクアも頷いて話す

「本気ですわ。彼等はボソンジャンプの独占と言う妄執に憑かれてますから、

 その為ならどれだけの血を流しても、気にはしませんわ。

 もっとも流されるのは何も知らない人々の血で、自分の血ではないからの狂気でもあります」

「火星の住民など邪魔で死ねばいいと、………確かに狂気だな。

 こちらはその間に力は付けるか、技術者の方は帰れそうか、アクア」

「はい、予定通りです。それとコレをお使い下さいとの事です」

アクアが控えていた執事にディスクを渡し、スクリーンに映すように指示した

「木連との休戦のお礼にくださいました。ブレードストライカーの地球用の仕様書です」

「これは感謝するべきかな、だが地球ではIFSの問題があるから無駄かな」

「EOS――イージーオペレーションシステム――の試作品がありますので大丈夫でしょう」

「だがデーター取りが問題だがIFSを使わない点では良いかも知れんな」

「しかし、その結果本来の性能が出ないでしょう。………8割が限界ですね」

「それでも十分使えるな、ネルガルの開発中の機体に対抗できるな」

「はい、コレを基にクリムゾン製の機動兵器を開発するのもいいですね」

「よし直に作らせるか、………最終的にはIFSとの併用が理想かな」

「既に火星から10機の機体がこちらに運んであります。後はお爺様の決断でテストを始められます」

「なら始めよう。それにしても火星の技術についてどう思う。

 火星の技術の高さが気になるのだが、それについてどう思う、アクア」

「簡単です。彼等は地球に知られない様に、技術を隠していたのです。

 テンカワ・ファイルの指示で」

「テンカワ・ファイル、……それはテンカワ博士の遺した物だな」

「はい、ボソンジャンプに関した物で、ある意味預言書に近い物でした。

 これにより火星の独立が始まったと言えるでしょう。火星のネルガルの反発もコレから来ています。

 ネルガルには呪いの書かもしれません。これを処分できなかったのは最大の誤算ですね」

「………………火星の預言書か、読んで見たいものだな。アクアは読んだのか」

「…………はい。正直読みたくはなかったですね、気分が悪くなりました。

 ある可能性が書かれ、実際ネルガルがそれを実行した為に火星の住民にはネルガル憎し、

 木連滅ぼせ、の声も出て来てます。私が支援を行った事でクリムゾンの評判はいいですね」

「そうか、クリムゾンの独占も夢ではないか」

「いえ、それは無理です。テンカワ・ファイルには独占の危険性が書かれ、

 その為、ボソンジャンプについてはそれを守るそうです」

「……………………ボソンジャンプとは独占できるものではないと言う事か、アクア」

「はい、人類の絶滅の危険も考えられます。

 『希望のない、パンドラの箱』とテンカワファイルには書かれてます」

「………『希望のない、パンドラの箱』か、しかも開いてしまったネルガルの暴挙でな」

「はい、火星が苦労しているのはそれをどう管理するか。その考えの末に独立が出ました」

「そうか、ボソンジャンプは火星でしか使えない独自のものか、アクア」

「はい、地球の企業ではジャンプシステムを作れても、

 火星の住民がいなければ使いこなせない。欠陥の技術です。

 クリムゾンが火星に本社を移転するか、火星支社を火星の住民で構成するかなら

 ある程度は独占できますが、完全な独占は不可能ですね」

「………………………ならば、火星の独立を手伝い共存するしかないか。残念だな」

「ネルガルよりはマシですわ。ネルガルは火星での活動を制限されますから」

「火星に戦艦が着いた時の様子が見たいな、自分の境遇も知らずに暴挙にでれば、

 後でどれほどの損害になるかな。………考えたくないな」

「戦争が終わった時、火星が生き残ればネルガルは出入り禁止になるかも、

 生存が無理な時はクリムゾンに技術と資料を残すそうです。自由に使ってくれだそうです」

「……………………火星は覚悟を決めたんだな、怖いな」

「ですがクリムゾンを信用してくれてます。火星には生き残って貰いましょう。

 私達に厄介事を渡されないように」

悲しんだ顔をするアクアにロバートは

「生き残ってもらうさ、面倒事はごめんだな。アクアの大切な人もいるみたいだな」

「おっお爺様、そういう事ではなくて、何を言うんですか」

真っ赤な顔のアクアを見ながら、愉快にアクアを見るロバートであった

「………お爺様、約3ヶ月程連絡ができ難くなります」

真剣な表情のアクアに、ロバートもアクアを見据え

「……………火星に行くのか、気を付けるんだぞ。お前には為すべき事がある」

「はい、私は生きてお爺様の元に来ますわ。心配はありません。では失礼します」

優雅に退出するアクアを見て、ロバートが

「わしの上を行くかも知れんな」

愉快に言うロバートを見ながら執事は思った

(ロバート様の後継者はアクア様ですね。まるで、若き日の旦那様ですね。

 世界を従えて君臨している王に見えました)

クリムゾンの若き後継者の前に広がる前途に思いを馳せた



空港へ戻る車中でアクアはある人物にメールを送った

『プロスペクターさんですね。私はアクア・ルージュメイアンと言います。

 貴方にスキャバレリプロジェクトの事で交渉があります。

 もしよければこの時間、この場所でお会いしましょう』

(おそらく来るでしょう。この交渉に全てを賭けるわ。必ず成功させる、ルリちゃん、アキトさんの為に)

未来を変えてみせる、クロノと共に生きる為に

祈るような思いがアクアを包んでいた



―――サセボシティー 雪谷食堂―――


「ここにテンカワ・アキトが………」

アクアは呟き、中に入った

「いらっしゃいませー」

陽気な声を聞いた瞬間、アクアは泣きそうになった

ここにクロノがいる、傷つき全てを失う前のクロノが

「お客さん、どうかしましたか」

アキトの声にアクアは席について

「いえ、何でもありません。えーとチャーハンを一つお願いします」

「はい、サイゾウさん。チャーハン一つです」

厨房からの返事があり、アキトが戻ろうとした時に空襲警報が鳴り響いた

アキトが頭を抱えるように怯えるのを見た時、多分これがクロノの始まりなのだと思った

小さな少女を救えなかった罪悪感がアキト(クロノ)を動かすのだろう

そして誰も救えなかった事が傷つけるのだろう

アクアはアキトの手をとり、片手を頭に乗せ

「大丈夫ですから、落ち着いて。危険はありませんから、怯えないで」

アクアの声にアキトは顔を上げた

「落ち着いて、警報です。ここは戦場ではありません、落ち着いて下さい」

微笑み優しく語るアクアに、アキトは

「すみません。俺、警報を聞いたりすると………、ダメですね、俺」

「………火星の方ですか、それなら仕方ないです。あの悲劇は火星にいた者しか判りません」

「!どうして判るんですか。俺が火星にいたのか」

「手のタトゥーを見れば分かります。パイロットでないなら火星の出身者だと思うのですが」

「アキト! チャーハンできたぞ。早く取りに来い」

サイゾウの声にアキトが慌てて取りに行くのを見ながら

(優しいままのクロノなんですね、………このまま、いえ無理ね。

 このままでは何処に行っても臆病者のパイロットあがりとして扱われ、傷ついていくのでしょうね)

「はい、チャーハン。おまちどうさま」

「アキトさんでしたね。私はアクア・ルージュメイアンと言います」

「俺はテンカワ・アキトッス。よろしく」

「はっはい、よろしく(………流石です。慣れているとはいえ、効きますね)」

元祖テンカワスマイルに動揺するアクアであった

他愛ない会話をしながら、アクアはアキトに告げた

「アキトさん、きつい言い方ですがこのまま逃げ続けたら本当に誰も守れなくなります。

 その時は、今以上の苦しみを感じますわ。ですから少しづつでもいいから前を見て進んでください」

アキトは反論しようとしたが、アクアの哀しく泣きそうな顔に何も言い返せなかった

アクアが店を出た後、アキトにサイゾウが

「あの娘っ子の言う通りだな、アキト。今のおめえは逃げてるだけだな。

 このままじゃあ料理人にはなれんし、何をしても半端なだけだ。

 まあここにいる間は教えてやるが、自分から逃げてる奴が使えるか分からんがな」

「………………サイゾウさん、俺考えてみます。これからを」

「ああ、そうしな。おめえは若いんだから、これからの事をな」

(アクアさんの言う通りかもしれない。………いつまでも逃げていたら誰も守れないか)

アキトの最初の一歩が出た瞬間であった



アクアは辛くて泣きたかった、未来とはいえ自分が逃げた事がアキトをクロノに変えて傷つけた

その事がとても苦しくホテルの部屋に戻った時泣き崩れた

その時アクアの髪を優しく撫でる手に顔を上げた

「アクア、辛いのなら乗るのを止めてもいいんだよ。君が傷つくのを俺は見たくはない」

優しく抱きしめるクロノにアクアは泣き続けた

「大丈夫、大丈夫です。今だけは頼らせて下さい」

クロノは何も言わず、アクアを抱きしめ続けていた

静かに夜が更けていく、明日に向かって









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EFFです。

前振りが長いと言われるかもしれませんが、ナデシコが登場します
もう少し書きたい部分がありましたがそれは完結後に書く予定です(汗)
生温かい目で見ていて下さい(爆)




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