私は出会ったあの人に 同じ瞳の女性に

その人は優しく微笑んでくれた

その笑顔が綺麗で 私もそうなりたいと想う

それが私の人としての 始まりかもしれない

いつかあの人のようになりたい



僕たちの独立戦争  第十三話
著 EFF



ブリッジにクルーが集合しプロスぺクターから全艦に放送が行われた

「さて今まで皆さんに言わなかったナデシコの目的は――」

「火星だ」

プロスに続くようにフクベ提督が答えた

「「「「「火星」」」」」

「そうです。火星に残された住民の救出と、我が社の研究施設にある資料の回収が目的です」

プロスの言葉に全員がそれぞれに答えた

「人命救助かぁ、まあいいんじゃない」 ハルカ・ミナト

「戦争よりはいいですね」 メグミ・レイナード

「遠く離れた火星の人々を救う。燃える展開だな、乗ったぜ!!」 ヤマダ・ジロウ

みんなの意見が出るなかプロスが艦長に

「では、艦長発進を「その必要はないわ」」

プロスの声に割り込みながらムネタケと兵士がブリッジに乱入してきた

「この船は連合軍が有効に使わせてもらうわ」

「ムネタケ、血迷ったか!」

フクベの声にムネタケが

「いえ、提督。これをご覧下さいな」

ムネタケの声とともに海から一隻の軍艦が現れた

「艦体識別、連合軍所属トビウメです。通信入ります」  

ルリの報告と同時にスクリーンに軍人の姿が映し出された

『ナデシコに告ぐ。こちらは連合宇宙軍第三艦隊提督、ミスマルである!!』

「お父様!これはどういう事なんですか」

『すまない、ユリカ。これは連合軍の命令だ。

 サセボでの戦闘で見せたナデシコの力を我々は必要としている。

 よってナデシコは徴用させてもらう』

「困りますな、提督。ナデシコはネルガルが私的に運用する事で政府と話がついてますが」

『すまんが状況が変わったのだ。これだけの艦を火星に行かせる訳にはいかんのだ』

「では交渉ですな。私と艦長でそちらに向かいます」

『うむ。だがマスターキーは抜いてこちらに来て貰おう』

「まて、艦長。これは罠だ、抜くな!!」

ヤマダの声にジュンが

「いや、提督は正しい。ユリカ従うんだ」

と意見が出るなか

「艦長、戦時下においてマスターキーを抜くことは自殺行為です。

 クルーの安全を確保できない事はやめて下さい」

と静かにアクアが告げた

『失礼だが、ナデシコの安全は私が保障しよう。君は誰だね』

「サブオペレーターのアクア・ルージュメイアンです。初めまして提督」

『君が報告にあった人物か。どうだね軍に来ないかね』

「お断りです、銃で民間人を脅す軍を信用していません。

 それに火星を見捨てて逃げ出した地球の軍に入るほど私は馬鹿ではありませんよ」

ニッコリ笑いながら拒絶するアクアにブリッジのクルーは思った

(キツイ事を平気で言うなー、アクアさん)

「お父様の事を悪く言わないで下さい。アクアさん」

「では銃で人を脅してもいいんですか、艦長」

「そっそれは……そう軍の命令だから」

「本来、軍は民間人を守る為にあります。武力で脅す時点で軍人としては最低です。

 この徴用は政府の決定ではないでしょう。ですから無意味です」

アクアの発言にユリカは言い返せなかったが兵士の一人がアクアに銃を向け

「余計な事をいうな、貴様らは軍に従っていろ!!」

と叫んだ、それを見てミスマル提督は

『やめんか、これ以上恥を晒すな。とにかくマスターキーを抜いてこちらに来たまえ』

「それは出来ません、海底にチューリップがあります。この状況でマスターキーを抜くのは危険です」

『我々がナデシコを守ろう、それにチューリップも動く様子もないから問題はないだろう』

「そんないい加減な事を言わないで下さい、クルーの生存が掛かっているのですよ。

 起動してはナデシコなしでは勝てませんよ、勝てるなら火星から逃げ帰る事はないでしょう。

 自分の都合のいい事ばかり仰られるのはやめて下さい」

『いいからユリカ、マスターキーを抜きなさい。パパが嘘を言った事があるかい』

「クルーの安全を一番に考えて下さい、艦長」

二人の意見を聞いてユリカはあっさりとキーを抜いた

「はい、ではマスターキーを抜きまーす」

「エンジン停止、ナデシコ着水します」

ルリの声がブリッジに響いた、アクアはため息を吐いて

「………そうですね、これでは仕方ありませんね。副提督は艦長をどう思います」

アクアの問いにムネタケははっきり告げた

「馬鹿ね、責任感が欠けてるわ。艦長の器じゃないわ」

「まさかこんないい加減な人を艦長にするなんて、ネルガルも何を考えているのでしょうか」

「アンタのほうが艦長らしいわよ。まあ悪いけど食堂に行って貰うわよ」

「ええ気を付けて下さい。チューリップは相転移エンジンに反応して起動する危険がありますから、

 おそらく起動しますよ、ナデシコも無事には済まないかもしれません」

「もう遅いわね、どうにもならないわよ」

苦笑するムネタケの指示に私達は従い、食堂に向かった


「自由の日々もこれでお終いか……」

落胆し呟く、ウリバタケを見ながら、ルリはアクアに

「これからどうなるんでしょうか」

「大丈夫よ、ルリちゃん。そのためにプロスさんが交渉しているのよ。

 だから信じなさい。諦めたらそこで終わるの、残るのは絶望と後悔しかないの。

 だけど自分で決めたら納得できて、後悔はないから……」

優しく諭すようにルリに話すアクアを見て、ミナトは

「艦長はいいの〜、アクアちゃん」

「艦長は信用していません。クルーの安全を確保しない人を信用できません」

「……まぁ、そうかもね」

「…………ルリちゃんには難しいかも知れないけど、覚えておいてね。

 何かを変えるには自分から踏み出す覚悟がいるの、ただ状況に流されるのではなく、

 自分の意思で動く必要があるの、自分を変えたいのならまず一歩を踏み出しなさい。

 結果を恐れず、勇気をもってね」

真剣な表情のアクアにルリは

「どうしてそんな事が言えるんですか、貴女に何が分かるんですか」

と呟いた、それを見たアクアは

「……そうね。私には分からないわ。公式に存在してる貴女の事は」

アクアの突き放す言葉にルリは目を大きく開いた

「貴女以外の子供達の扱いは酷いものよ。私達が救い出した時、生き残ったのは三人だけよ」

その言葉にルリもミナトも声が出なかった

「貴女は最低限でも人として扱われ、その子達はモルモット扱い、

 ただ公式か、非公式かそれだけの違いでね。それだけは忘れないでね。

 成人すればネルガルから出られるかも知れない貴女と、

 ネルガルにその人生と命を奪われた子供達がいる事を、せめて貴女は覚えていて欲しいの」

沈黙が続くなかアクアにルリが聞いた

「助けられた三人は、今どこに居るんですか」

「火星にいるわ。だから私は火星に行くの、子供達を守る為にね」

「でも、ナデシコから降りられるの。火星に行っても」

ミナトの疑問にアクアが

「ええ、片道の契約になってますから。火星で降りられます」

「でも、もし全滅してたらどうするの。帰れないわよ」

「大丈夫です。火星は落ちませんよ、そのために手は打ってありますから」

ミナトに微笑むアクアの綺麗な横顔を見てルリは自分との違いを感じていた


落ち込んでいくクルーのなかで一人だけ、声をあげて叫ぶ男がいた

「なんだなんだー、元気出せよーみんな!!」

ヤマダ・ジロウであった。

周囲の視線は「こいつは元気がありすぎなんだな」といっているが、

そんな事も気にせず、一人で話を進めていた

「仕方がない、ここは俺の取って置きの元気が出る物を見せてやる!!」

「おお、AVか。…そのディスクは規格が合わんぞ、ここは俺に任せろ」

「流石、博士任せるぜ!!」

意外とノリのいい、ウリバタケがプロジェクターを改造した

「よーしそれじゃいくぜ。ディスクイン!!」

そして映し出された映像に全員が絶句した

「かーいいね!これだよ、熱き魂の叫びがいいだろう」

一人悦に入るヤマダを全員が「なぜゲキガンガーなんだ」と思う中

「あれーオープニングがちがうぞ。確か最初は……」

「わかるか。第三話からオープニングが出来るんだよ、やるじゃねえか、誰だ」

「えっコック見習いのテンカワ・アキトだよ。確か……ヤマダさんですね」

「違う、その名は仮の名だ。俺の魂の名はダイゴウジ・ガイだ!!」

「えっと、ガイでいいのか」

「おう、そう呼んでくれ。アキト! んっ……お前はパイロットじゃねえのか」

アキトのIFSをみて、ガイは聞いた

「……火星にいたんだ。向こうじゃこれが無いと不便でね」

苦笑しながらガイに話すアキトに

「そっか、俺と一緒にパイロットをやろうぜ。火星を救うんだ。俺達の手でな」

「ええっ、俺はコックになりたいんだ!」

「なればいいさ、戦争が終わってからな。

 軍が嫌ならこのナデシコにいる間だけでもみんなを守ろうぜ、アキト」

「………みんなを守るか」

「そうだ、お前の料理を食うみんなの為にな」

その言葉に勇気付けられる様にアキトは立ち上がり

「俺、艦長を連れ戻してくるよ」

みんなが止めるなかアキトは

「俺は火星の人達を助けたい、もう逃げる気はない。

 どんなに怖くても辛くても逃げない、自分を変えたいんだ」

アキトの声を聞きながらアクアは

「ルリちゃんはどうしたい、自分を変えてみたい」

ルリはアクアの問いに迷いながらも答えた

「変われるでしょうか、私も」

アクアはルリを優しく抱きしめ

「変われるわ、ルリちゃんも。火星に着くまでに貴女に教えてあげるわ。

 人として生きる事、楽しい事ばかりじゃないけど、それでも大事な事をいっぱいね。

 貴女のお姉さんとして……」

「それじゃ、私も手伝うわ。ルリちゃんとアクアちゃんの友達としてね」

「ではルリちゃんのため、火星の為にひと働きしますか。ミナトさん、ルリちゃんをお願いします」

ルリから離れて、アキト達の元に向かうアクアに

「気をつけて下さい、アクアさん」

と声をかけるルリに

「大丈夫、これでもお姉さんは強いから」

アクアは微笑みながら、アキト達に言った

「ではアキトさん、ゴートさんはブリッジに行って下さい。

 ダイゴウジさんはここでクルーの安全の為に待機。

 整備班と私は格納庫に行き、エステのフレームの換装後、艦長の救出でいいですか」

アクアの指示にアキトが

「俺が操縦します、俺が言い出した事ですから」

「ダメです。操縦経験もない人が、空戦は出来ません。

 パイロットになりたいのなら、後日私とダイゴウジさんで教えてあげますから」

「おう、俺が教えてやるぜ相棒。ここはアクアさんにまかせろ。

 本当は俺が行きたいんだが、このざまだからな」

ギブスの足を見せて悔しそうに言うガイを見て

「……分かったよ、アクアさん。無理はしないで下さいね」

「ええ、ではゴートさん。始めますか、オモイカネ扉のロックを外して」

「うむ、指揮の経験があるのか。慣れてるみたいだが」

「ええ、必要があったんです。…生きる為に」

『オッケー』『開錠』『ま〜かして』

その時ナデシコが揺れた

「木星蜥蜴の攻撃ですね。この隙に行きましょう。ゴートさん、一人はまかせます」

「うむ、始めよう。ルージュメイアン」

扉が開くと同時にアクアが飛び出し、兵士の後ろを取ると一撃で決めた

ゴートもまた重いパンチをボディに決めて、更に後頭部への攻撃で沈めた

「ゴートさん、コレを使って下さい。アキトさんはゴートさんの指示を守ってください」

アクアは兵士から銃とスタングレネードの一つを渡し、自分も銃を持って行動を開始した

「よし、テンカワ。俺達も行くぞ」

二人は行動し、整備班も動き出した。ナデシコを取り戻す為に


木星蜥蜴の攻撃に気を取られたムネタケ達は簡単に制圧され

フレームを交換するまでの間にゴートに

「ゴートさん、兵士達を艦載機で外に出す準備をしてください。

 プロスさんが戻り次第、指示を仰ぎます。反乱を起されると危険ですから」

『了解した、ミスターに聞こう』

「ルリちゃん、状況はどうかしら」

『クロッカス、パンジーがチューリップに飲み込まれました。

 プロスさんが艦長と艦載機でこちらに向かってます』

「そう、メグミさん。私が囮になるから艦長達に連絡して」

『分かりました、気を付けて下さい。アクアさん』


アクアがチューリップの囮になり、艦長が戻りナデシコが起動するとチューリップを撃破した

そのままトビウメから離脱してブリッジでは

「副長はどうしたんですか、艦長」

とアクアが尋ねると

「えっ、ジュンくん………いないね。もしかしてトビウメに……」

「……忘れたんですか、いい加減ですね。艦長は自覚があるんですか、この艦の責任者としての」

とアクアが聞くと

「ありますよ!私が艦長ですから」

と胸を張って、と答えたが

「では何故マスターキーを抜いたんですか、クルーの安全はどうでも良いんですか。

 多分、交渉もプロスさんにまかせて、自分は父親とお茶ですか」

「どっどうして、それを知ってるんですか!」

「冗談でしたが、本当なんですか。……最低ですね、艦長」

アクアの冷ややかな視線にユリカは泣きそうになり

「アクアちゃ〜ん、いじめないでよ〜。ユリカがわるいの〜」

と無責任な事を口にした。さすがにブリッジのメンバーも呆れていた

「ルリちゃん、立派なレディーの条件は無責任な人間ではない事です。

 自分の行動に責任と自覚を持つ事です。これは人として最低限の条件です。

 それが無いとあんな恥ずかしい人間になります。忘れないでね」

とユリカを指差した。これにはブリッジのメンバーも頷いた

「ああー!ヒドーイ、今ユリカを馬鹿にしたでしょう」

と怒るユリカの声を聞かない事にしてプロスが

「副長はどうします。連絡を取りますか」

「いえ、副長の自覚の無い人物などいりません。このまま火星に行きましょう」

とアクアが告げるのを見てユリカが

「ダメです。ジュンくんはこの艦の副長ですから連れ戻します!」

「どうやって連れ戻します。連合軍と戦争しますか、艦長」

「えっと話し合いで戻すんですが、問題でも」

「無理です。ケンカ別れした状態で行けますか、今度は艦を沈めるかもしれませんよ。

 艦長は連合軍の戦艦を撃沈して、人を殺せますか、それとも殺されますか」

アクアの声にブリッジは沈黙した

「そうですな。仕方ありません。このまま火星に行きましょう」

プロスの発言にユリカを除く全員が賛成した

「あの方は副長の自覚がありません。艦長とプロスさんが呼ばれただけなのに付いて行きました。

 本来副長はこの艦に残り、指揮を執らねばならないのに放棄しました。

 クルーの安全を放棄し、艦長が行くから付いて行くなど無責任です。

 提督はどう思いますか、副長の行動は正しいですか」

「うむ、確かに彼の行動は褒められない。副長の自覚に欠けているな」

アクアの質問にフクベが答え、ユリカは反論できず、プロスが

「ではアクアさんに、副長を兼任して貰いましょう。よろしいですか」

「いえ、私は火星で降りますから責任のある立場は問題があると思います」

「ええっ、アクアさん火星で降りるんですか。危険ですよ」

「大丈夫ですよ、メグミさん。火星は無事です」

メグミの声にアクアが微笑んで答えた

「どうして分かるんですか、アクアさん。火星が無事な事が」

「信じてますから、仲間達を。だから火星に行くんです」

アクアの一言がみんなの心に『火星は無事だ』と響いた

「仕方ありません。では副長は一時空席にします、よろしいですか艦長」

「………はい、プロスさん」

「ではプロスさん、副提督達は艦載機で放出でいいですか。危険は排除するのが一番です」

「……そうですな。経費が掛かりますがよろしいでしょう。ゴートさんお願いします」

「了解した、ミスター」

ゴートが席を離れ、全員が作業を始めるなかプロスがアクアに小声で

「アクアさん、この後どうなると思います」

「そうですね、最悪は連合とケンカになりますね。艦長の態度次第ですが、

 おそらく交渉になりませんよ。……お子様ですから」

「そうですか、そうなりますか。ではパイロットとして戦闘に参加して戴けませんか、

 勿論ボーナスは出しますので」

「別にボーナスはいりませんが、一つお願いがあるんです、ルリちゃん」

「はい、アクアさん。何か」

「二ヶ月程だけど、お姉さんと一緒に暮らさない。ルリちゃんが良ければだけど」

「………………いいですよ、アクアさん」

「という訳で引越しをしたいんですが、いいですか」

(ふむ、ホシノさんの情操教育には良いかもしれませんね)

「わかりました、ではその様に手配します」

「ありがとうございます、プロスさん。よかったね、ルリちゃん」

嬉しそうに微笑むアクアにルリもぎこちなく微笑んだ


ムネタケ副提督達を解放して、連合政府との交渉が始まったが

「…………艦長、人生舐めてますね」

「ええ―――、そんなわけないですよ。なんでそんな事言うんですか」

「どこに公式の場所で着物で交渉する、馬鹿がいますか。いえ此処に居ましたね、馬鹿が」

「アクアちゃん、私はこれでも軍士官学校の主席なんですよ。馬鹿にしないで下さい」

アクアの声にユリカが反論するがブリッジはアクアに賛成していた

「これで連合軍と戦闘になりますが、艦長はどういう作戦でいきますか」

「ナデシコにはディストーションフィールドがありますから大丈夫です」

「無理です。相転移エンジンは真空で100%の力を発揮しますが、

 現在の状態では力を発揮できません。

 このままですと第二、第三次防衛ラインの攻撃には持ちません」

「大丈夫、その為のエステバリスです。問題ありません」

「パイロットがいませんよ、艦長」

アクアがユリカの意見を切り捨てた

「アクアちゃんがいるじゃない、頑張ってね」

「嫌です。私はオペレーターであって、パイロットではありません。

 艦長が責任を持って、ご自分で問題を処理してください」

「ええ〜、イジワル言わないでよ〜、アクアちゃん。命令です、出撃しなさーい!!」

「…………私に死んで来いと言うのですか、一人で一部隊を相手にしろと」

アクアの冷めた声にユリカは黙り込んだ

「ルリちゃん、これが無責任な行動による結末です。状況を把握し的確な判断で行動する。

 今の自分に何ができるか、できないかを知り、最善を尽くす。

 これが生死を決めます。今だと艦長が勝手に判断して全員の命を危険に晒していますね」

アクアの発言にブリッジが沈黙した

「一応、命令ですので出撃しますが、私が撃墜されたら投降して下さい。プロスさん」

「……申し訳ありません、アクアさん。注意するべきでした」

「いえ、艦長……最悪、相手のパイロットは殺す事になりますがいいですね」

アクアの宣言にユリカは

「……できれば殺さないで欲しいんですが、ダメですか」

「私に死ねと言うのならいいですよ、艦長。どちらか選択してください。

 これからやるのは艦長のミスを挽回するのですから、

 キチンと交渉すればこの戦闘は回避できました。

 それが出来ない以上最悪の事態も想定するのが艦長の仕事です」

アクアの正論にユリカは答えられなかった

「ダイゴウジさん、すいませんが痛み止めを打って、私の援護をして貰えませんか。

 無理を言って悪いんですが」

アクアはコミュニケで医務室のガイに連絡を取った

「いいぜ、ナデシコの危機を救う。まさにヒーローの仕事だぜ。くぅー燃えるぜ!!」

「とりあえず、後方で射撃による援護をお願いします。

 ナデシコの安全を守るのがヒーローの仕事です、ダイゴウジさん。

 足が治ったら、戦闘はダイゴウジさんにまかせます。今だけは私の指示を聞いてください」

「おう、今回はアクアさんにまかせるぜ」

「ええ、ダイゴウジさんの出番はこれからです。存分に見せてくださいね」

通話を切りアクアは

「これで勝率が少し上がりますね。後は相手が何機で来るかですね」

「アクアさん、関係ない話なんですが、どうしてヤマダさんをダイゴウジさんと呼ぶんですか」

メグミの質問にブリッジのメンバーが聞きたがった

「簡単ですよ、ニックネームと私は考えているからです。

 こう呼ぶ事でヤマダさんが気分良く仕事するならいい事です。

 人間関係を円滑に進めるのなら、何も問題はありません。

 効率もいいですし、呼ぶ度に名前で叫ばれるのは嫌ですし」

アクアの発言に全員が納得した

「ただ、どうして戸籍の氏名の変更をしないのか、それが不思議で、ルリちゃんはどう思うかしら」

「多分、気付いてないんだと思います。それとも案外名前が気に入っているのかも知れません」

「うーん、ルリちゃん。多分前者だと思うよ、鈍いから」

ミナトの声に全員が頷いた

「ではプロスさん、迎撃の為に格納庫で待機します。

 後、テンカワさんにパイロットを兼務されるのか確認してください。

 サブパイロットになりますが、訓練次第では使えるかもしれません。

 当面は私が訓練しますが、サツキミドリで補充するパイロットにも手伝ってもらいます」

「……そうですか、分かりました。テンカワさんに確認します。

 流石に戦闘経験のない方を出すのは危険ですので、訓練はおまかせします」

アクアがブリッジを出るとメグミが

「アクアさんって頼りになりますねぇ、ミナトさん、ルリちゃん」

「そうね、多分苦労したんだと思うわ。だから一生懸命に動くんでしょうね」

「でもイジワルです。ヒドイ事ばかり私には言うから嫌いです、アクアさん」

ユリカの発言にルリが

「誰のせいでアクアさんが戦うのですか、艦長。答えてください」

「えっと……そう!私のせいじゃないです、向こうが私のお願いを聞いてくれなかったせいです」

ユリカの反省ない無責任なセリフにブリッジは呆れていた


一方格納庫では

「アクアちゃん、準備は出来てるぜ。エステは完璧にしてあるぜ」

「はい、助かりますウリバタケさん。ダイゴウジさん遊びはなしです。ナデシコを守りますよ」

「おう、この船は俺達が守るぜ。後ろはまかせろ」

威勢のいいヤマダの声を聞きながらウリバタケが

「なんでダイゴウジって言うんだ。アイツはヤマダだろ」

アクアは疑問に思うウリバタケにブリッジでの事を伝えた

「…………なるほど、それも一つの手だな。俺も使うか」

『アクアさん、デルフィニウム部隊9機接近、迎撃お願いします』

「了解しました。ウリバタケさん出ます」

『おう、気をつけろよ。ガイ、アクアちゃんの足引っ張るなよ』

『まかせろ、博士!ダイゴウジ出るぜ』

二機のエステバリスが出撃すると丁度デルフィニウムから通信が入った

『ナデシコに告げる。これ以上軍に抵抗するならば、こちらにも考えがある』

「………一つ聞きますが何故そこに居るんですか、副長。いきなり裏切りですか」

『何故裏切りになるんです!軍に逆らっているのはナデシコじゃないですか』

「まず貴方は副長の責任を放棄しました。そしてネルガルとの契約を破棄する様な事をしています。

 軍は法的根拠もなくこの艦を接収しようとしました。

 先にルールを破った軍に協力する貴方は何様のつもりですか」

アクアの宣言にジュンは言葉が出なかった

「士官学校で何を習いました。軍に必要なのは突出した性能の艦が必要ですか、違うでしょう。

 必要なのは数を揃える事です。

 この艦のデーターを基に作られる艦が必要で軍はそれを待つべきでした。

 まあ、艦長が馬鹿をしなければ良かったんですが」

『う、うるさい!!だからこれ以上の関係の悪化を防ぐ為に来たんだ。

 アクアさん、投降して下さい。今なら間に合います、だから…………』

「それは出来ません。私は火星に行く為にこの艦に乗りました。

 軍と政府が切り捨て、見放した火星の人々を救う為にここにいます。

 ビッグバリアに守られ、安全な場所にいて我が侭を言う貴方の命令を聞く事はないです。

 止めたいのなら私を殺して止めなさい。覚悟のない哀れな副長」

『くっ、ユリカ。地球に戻ってくれ、今ならまだ間に合うんだ』

『ごめんね、ジュンくん。それはできないよ。

 私がナデシコにいるのは、私が私らしくいる為なの。

 ミスマル家の娘じゃなく、お父様の娘でもない

 ミスマルユリカとしていられるのはナデシコだけだから』

『わかった、まずエステバリスを破壊する。各機、散開せよ』

ジュンの命令と同時に動き出したデルフィニウムに2機エステバリスが攻撃を開始した

『アクアさん、ナデシコはまかせてくれ。俺が守るぜ』

「では、任せますダイゴウジさん」

アクアは散開するデルフィニウムに正確な射撃でバーニアとマニピュレーターを破壊した

アクアの攻撃に接近してきた機体をかわしナイフで機関部にダメージを与えると

ナデシコに放たれたミサイルをラピッドライフルで落とした

ガイも3機を相手に牽制を繰り返しながらダメージを与えていった

5分後まともに動ける機体はジュンのみであった

『隊長、相手が悪すぎました。エステバリスの性能もありますがパイロットの腕が……』

正直パイロット達は驚いていた民間人にこれだけの技量の持ち主がいた事に

「早く帰還しなさい。燃料も尽きるでしょう、今なら帰れます。

 これ以上の戦闘は無意味です。ここからはコクピットを狙います」

アクアは静かに宣言した

『くっ、お前達はここから離脱しろ。これは命令だ』

『隊長はどうするんですか』

『アクアさん、僕と一騎打ちだ。僕が勝ったらナデシコを軍に渡してもらう』

『無茶です!相手が悪すぎます』

『これは命令だ。帰還しろ、これは私の独断だ。上官にはそう言ってくれ、いいな』

ジュンの命令に従い、離脱するデルフィニウムを見ながら

「子供の我が侭に付き合う程、暇じゃありません。ですからここで死んでください、副長」

とジュンの機体に攻撃し戦闘不能にしたアクアの声にユリカが

『ダメです、アクアさん。ジュンくんを殺さないで!!』

「嫌ですね、もうすぐ第二次防衛ラインのミサイル攻撃が始まります。

 その際、後ろから攻撃をくらう訳にはいかないんです。まだ死ぬ気はないので」

『でも、アクアさんの力なら大丈夫です。だから殺さないでも良いじゃないですか』

「世の中には絶対なんて言葉はないんです。生き残る為に相手を殺す、その覚悟が私にはあります。

 艦長にはありませんね。……甘やかされて育った人間ですから

 ダイゴウジさん、元副長を艦に連れ帰って下さい。ゴートさん捕虜として拘束してください。

 私はミサイルの迎撃に残ります」

『アクアちゃん、ディストーションフィールドがあるから大丈夫よ』

「いえ、ミナトさん。フィールドも無敵ではないのです。

 ルリちゃん、ミサイルは何発までは大丈夫か教えて」

『今のままですと、50発以上受けるとビッグバリアを破る事ができません』

ルリの報告にブリッジが沈黙した

「ルリちゃんはミサイルの最適迎撃ポイントを指示して、後はお姉さんが何とかするから信じてね」

『……わかりました。でも無理はしないで下さい、…アクアお姉さん』

「大丈夫よ、ルリちゃん。お姉さんはその一言で頑張れるから」

ルリの頬を染めた顔に、アクアは嬉しそうな顔で応えた

アクアのエステバリスの狙撃による迎撃でミサイルは撃ち落され、

ナデシコは無事にビッグバリアを破り地球を後にした









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです

今回のお題は
ガイ、クルーに魂の名で呼ばれる。
アクアはルリちゃんと友達になれるかの二本です(爆)




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