銀河英雄伝説 十字の紋章


第二話 十字、金儲けを始める。






あれから3年経過し宇宙暦にして769年となった。

俺の年齢は今13歳であり、ヤン・ウェンリーはおそらく3歳、つまりエルファシルの英雄誕生まであと19年。

俺はジュニアスクールを卒業し、ミドルスクールに入る事に。

この3年で俺は筋肉質になり、図書館の本は粗方読破し、テレビ、ネットからおおよその情報を把握した。

このところの同盟は不利な状況にあり、ティアマト星系を取られ、ヴァンフリート星系を抜けられダゴン星域まで押し込まれていた。

因みに、ダゴン星域の次はアスターテなので、ある意味いつもの事ではあるのだが。

帝国軍は3個艦隊4万を率い、今回で同盟の回廊の外まで押し込むつもりのようだ。

アスターテを抜ければ、同盟の脇腹に到達する。

エルファシルやドーリア星系、バーミリオン星系、シャヴァ星系といった多方面に展開可能になる。

そして、ドーリア星系かバーミリオン星系を抜ければ首星ハイネセンがあるバーラト星系と到達することになる。

つまり、アスターテが絶対防衛線であり、負けようがなんだろうが、それ以上進ませる訳にはいかない。


というか、原作においてアスターテへ攻めねばならなかった本編開始当初の同盟軍は押し込まれ過ぎていた。

艦隊も揃っていた事を考えると、恐らくは無人惑星が殆どなので一度引いたということだろうか。

一応、ヴァン・フリートには基地があるし、その近くには帝国と領有を争っている資源惑星もあったはずだが。


もっとも、ヴァン・フリート基地は麻薬取引に使われている、取ったり取られたりという形式をとって。

めんどくさいにも程があるが、フェザーンの均衡制作のせいで、こういうことが起こる羽目になったんだろう。

ともあれ、現状で戦争に手出しはできない。

だから俺は、一つこの惑星で取れる手立てを取ることにした。



「さて、ここら辺か? まー一応列車に乗ればそれほど時間はかからないが」



俺の住んでいる、第四都市ニーツォから郊外のほうへ20kmほど。

たかだか13のガキなので列車にのるのも厳しかったが、一応目的地と思われる場所へやってきた。

それは、以前都市開発を進めた頃多数立ったビルで、現在は景気の悪化から放置されているものも多い。

完成する前に放置されたものも多く、目的地のビルもそういうビルだった。

3階までは出来ているが4階より上は骨組みばかりという、大丈夫かこれ? というヤバげなビルの入り口をくぐる。


俺はそのビルの一室に入り、更にテレビの下にある引き出しを引く。

そこには、一枚のカードが入っていた。

俺はそれを懐にしまい、そのままビルを出る。

一応つけられたりしていないか、目だけ動かして調べはするが、所詮素人わからなかった。


しかし、このカードはそのままでは価値がない。

だから俺はそのまま、放置することにした。

そうすることで、もしも何か感づいた人がいたとしても誤魔化せるだろう。

どのみち今の年齢では派手な行動なんかできないからな。

バイトができる年齢でもない、となれば、コネクションを作る事を目標にするべきだろう。


そのためのヒントは一応、もらっている。

ただ、3年間貯めた金が900ディナール。

10万円くらいしかない。

これをなんとか1000倍以上にしないとまともな元手として使い物にならない。

世の中利益を得るにも元手がいるということだ。

最初からいきなり賭けになるが、やるしかないだろう。


俺は900ディナールすべてを使い、懸賞の応募をした。

今のご時世、懸賞はあっても応募する人間は限られている。

うまくはまった懸賞なら大人数の応募があるが、そうでないものも多い。

そして、そういう誰も応募しないものでも、それなりに価値のあるものはあった。

ただ、当然目算が外れれば大損をする。

ネットでのリサーチは徹底する事にした。


一ヶ月後、大量のガラクタを手に入れたが、母親に無駄遣い禁止を言い渡された。

だが俺はめげず、それらのガラクタを部屋に持ち込んで、ネットで転売しまくった。

結果、それらはおおよそ5倍で売り上げられた。

両親も部屋が片付いてほっとしていたが、俺の個人口座に4000ディナール入っている事はまだ知らない。


しかし、4000ディナール程度ではまだまだ使い物にならない。

これと元手に儲けなくてはならない。

だが、相場関係はだめだ、今の変動はさっぱりわからない。

だが博打の類も厳しい。


となると、商売をするしかないが、まさか届け出を出すわけにもいかない。

つまり、同人関連の活動しかないわけだ。

同人関連……そういえば、この世界、未来世界といっても1980年代の時代背景から作られているからな。

同人誌なんぞ、一般人には縁がない。


図書館で同人の法令に関する事項を調べる。

どうやら、同人関連の法令には、版権物を登場させない、個人への批判をしない、くらいしか制限がない。

ただ、税金に関する条項も甘い、版権物の売り上げの2割税金を納める事になっている。

恐らくはまともに売れる同人物資がなかったのだろう。


「なら……」


俺はその日から、トーンや丸ペン、Gペンなどと共に紙を大量に買い込み、漫画を描き始めた。

これでも一応、昔は漫画家を目指していたこともある、程度はpixivの人々の底辺に近いあたりだが……。

それでも、心得があるだけマシとして漫画を描いていった。

そもそもこの世界の漫画は1970年台程度のアメリカレベルだ。

つまり、日本の漫画のパチもんをいくら作っても文句は言われない。

両親からは完全に変人扱いになってしまったのは悲しいが、それでもやる必要がある。


30ページくらいの作品が3つほどできた時点で、印刷所へ依頼を出す。

かなり博打だが100冊づつ作ってもらった。


そして一応、友人達にも話をしておく。

といっても、実際彼らのうち、一人か二人でも買ってくれれば上等くらいにしか思っていないが。


そうして、フリーマーケットに出店する事に成功した。

だが、流石に文化がない状態では漫画もそれほど売れない、午前中に売れたのは10冊にとどまった。

声をかけていた何人かの友人は来たが小遣いでは高かったのか一人1冊買ったくらい。

エミーリアも来てくれたが、


「面白いけど、大丈夫なの?」

「題材に関する制限はないよ。まーあんまり派手に売ると憂国騎士団あたりに目を付けられる可能性はあるけど」

「それまずいじゃない」

「大丈夫、今回は最初だからね。インパクトで売らないと」

「それ、うまくいってるの?」

「うっ……」


批判的なコメントだが、全部買ってくれるあたり彼女も人がいいというか。

ちょいエロなハーレムものとかも気にせず買ってくれたようだ。

とはいえ、実際のところ売り上げはかなり赤字になりそうだ。



「このままじゃまずいな……、

 だがま。

 何も一回目で売れなくてもいい。

 今回の人が買ってくれた分、次回に繋がれば……」

「何一人でぶつぶつ言ってるんだ?」

「えっ? 先輩?」


そう、来てくれたのはアンリ・ビュコック先輩。

彼ももう15歳になり、来年はハイネセンのハイスクールへ行く事になる。


「来てくれたんですね、ありがとうございます!」

「当然だろ、むしろこんな面白いこと一人でやってるのが気に食わん」

「ははは、取り合えず見ていってください」

「ああ」


そうして、3冊の見本品(6ページまで見れる)を見てもらう。

一つはいわゆる冒険もの、二つ目は社会風刺、三つ目はちょいエロハーレムもの。

一応いろいろ研究して作ったので漫画にはなっていると思う、当然本格的な絵師と比べるべくもないが。

もちろん、週刊漫画や月刊漫画でアニメ化したような漫画の要素をまるっと盛り込んでいる。

この世界では版権を気にする必要もない。


18禁も考えたが、現状でいきなりどぎついのを作ればどうしても反発も強かろうと考えた。

社会風刺もかなりマイルドな感じにまとめてある、これで発禁になると困るのは俺だからな……。


「なるほど、絵で見せる作品か。面白いな!

 荒唐無稽な冒険ものも、社会風刺も面白い! もう一つは……まあ、俺にはちょっとあれだが受けそうだな」

「ええ、いろいろな物語を作れると思いまして」

「面白い趣味だな、俺も今度教えてくれよ」

「はい、いつでも。ですが根気が必要ですよ」

「はっはっは、確かにきつそうだな。とりあえず今回は全部3冊づつくれ」

「わかりました、一つ5ディナールで45ディナールになります」

「ありがとな、広めておいてやるよ」

「よろしくお願いしますね」


そして、先輩が去って一時間ほど、一気に客が来始めた、何かしてくれたんだろうが……。

あっという間に売り切れになった、各100冊で1500ディナールの売り上げ。

元手が300程なので1200ディナールの儲けだ。

未来の印刷技術で印刷代が安くついたのがよかった。

ネット販売のほうは、制度が厳しいようなので、今回は手を出さない。

それに1500ディナールはつまり16万5000円。

貯金の残高600ディナールと併せて2100ディナール、23万2000円也。

子供の小遣いとしては多いが、貯金額的にはちょっとお年玉が多ければ稼げる程度の額に過ぎない。


ただ、ネットで噂になっているのは事実のようだ。

本の内容についてもだが、俺が子供なのも影響しているようだ。

だが、次のフリーマーケットに向けて、もう少し本を増やしてみるのもいいかもしれない。

話題のあるうちに儲けてしまうのが重要だろうから。

途中からエミーリアにも手伝ってもらうことにしたが、ついでと始めたポエムの販売もうまくいってるようだ。


「楽しいわねこういうのも」

「そうだね、本当にありがとうな」

「私のポエムも一緒に売ってくれてるし、気にしなくていいわよ」


エミーリアには感謝してもし足りない、ついでに始めたネット販売もうまくいっているようだ。

幸いにしてパソコンの性能は未来仕様なためその気になれば漫画の販売等簡単にできる。

同人活動をはじめて半年たつ頃には1000ディナール(110万円)を超える金を手にした。

半年で10倍は大きいが、これでもまだまだ活動資金に充てるには少なすぎる。

本の数は10種類ほどまで増えたが、本格的なネット販売に出す必要が出てくるな。

通販サイトに登録して画像データを販売するとなると、契約が必要になる。

ミドルスクールに入ったばかりの俺ではとても無理だ。

そういった契約の代理を引き受けてくれる人間がいるな……。

しかし、金の持ち逃げの可能性を考えると任せられる人材は……。


「やっぱ先輩に頼むしかないか」

「え?」

「いやネット販売しようかと」

「今でも結構売れてるのに?」

「今のままじゃ、まだまだ厳しくてね」

「どれくらい稼ぎたいのよ」

「同盟が乗っ取れるくらい」

「ぶっ! あはははは!! 本気で言ってるの?」


エミーリアは笑った、ただし冗談だと思われたというよりはそういうことにしたかった感じだ。

分かり切っているが大事だからな。

狂人の発想であることは否定できない。



「ああ、正確には同盟の政治に介入できるくらいだが」

「何故そんな事を考えたの?」

「このままじゃ同盟が詰んでしまうからな」

「同盟が詰む?」

「ああ、まだギリギリ表面化してはいないが。もう同盟は民主主義とは言えなくなってきている」

「民主主義ねぇ」

「帝国から見ればお笑い草なんだろうがな」


実際、帝国から来た人たちは民主主義はこんなものだと思っているだろう。

しかし、実際はこの状態は民主主義でも底辺といっていい。

民主主義における最大の特徴は国民への政治の奉仕。

それが逆に政治への国民の奉仕になっている。

この逆転現象は一部アジテーターによる意識操作によるところが大きい。

そして、大抵アジテーターというのは他国の利益を代表しているものだ。

この場合はそう、フェザーンの利益。


「この銀河は今3つの勢力があると言っていい。

 同盟、帝国、フェザーン。

 だけどフェザーンの軍事力はせいぜい海賊対策のパトロール艇くらいのものだ」

「うん」

「だけど逆に、経済で見たとき、同盟にも帝国にも金を貸してる。

 帝国は貴族に貸してるだけだからまだ政治に直接的な影響は出にくいが、同盟の場合国債を買われてしまっている」

「国債って確か、国の借金よね」

「ああ、もちろんいくつかの企業も買収されてるし、地球教団とフェザーンはつながっている」

「……それって」

「ああ、同盟はフェザーンの意向に政治が左右される状態になっている」


地球教こそがフェザーンを支配している大元で、同盟内で広がっている癌のようなものだとまでは言っても理解できないだろう。

だが実際帝国と違い、宗教の自由が保障されている同盟内では加速度的に広がっている。


この負の連鎖を断ち切らない限り、同盟に勝ち目はないし、民主主義も成立しない。

まだ13歳のエミーリアに対しこんな話をしても信じてもらえるかはわからないが。

友達である彼女にあまり隠し事ばかりするのも気が引けた。



「その現状に対し俺が打てる手が一つだけある。

 それをなすには金がいる、しかし、金を稼ぐには信用できる大人がいる」

「ふぅ……そんな事を考えてたのね。私に近づいたのもそのため?」

「いいや、ポエムに関しては誰だか分らなかったから。偶然だよ」

「そうなの?」

「俺にハッキングの才能はないよ」

「まあ、あっても特定ができるものじゃないか」

「まあね」



実際軍用でなくても、個人でハッキングできるようなレベルのパソコンじゃない。

惑星間通信ができるような代物がそう簡単にハッキング出来たら同盟なんて簡単に崩壊する。

そこは流石に同盟も管理が徹底していたため、今だハッキングで情報を抜いた人間は少ないだろう。



「いいわ、父上に頼んであげる。偶然にしてはできすぎって気はするけど」

「え?」

「父上は通信業界でそれなりに知られてるのよ」

「なっ」

「それに、同盟が負けたら私たちも困るしね」



その日はそれだけ言って解散した。

だが、その翌日俺の家にベンツの系譜を感じさせる大型車が止まる事態が発生。

両親は右往左往し、俺の客だとわかると首ががくがくするくらい振り回された。



「お前の奇行には目をつぶってきたが、行き成りあんな車が来るとはどういう事だ!?」

「あはは……あれはクラスメイトの」

「クラスメイトにあんな車乗り回すやつがいるか!!」

「いや、亡命貴族の子がね」

「なにー!?」


明らかに錯乱する親父をどうにかなだめ、ベンツの系譜っぽいでかいエレカの扉の前に出る。

すると、扉が開き、2人ほど降りてくる。

本人が来るのかと思ったがそんな事はなく、メイド服を着た女性とボディガードっぽい男だった。

俺はメイドから話を聞く。


「いらっしゃいませ、どういった要件でしょうか?」

「貴方がジュージ・ナカムラ様ですね。私メイドのバーリと申します。

 主より、お連れするよう申し付かっております」

「それはご丁寧に」


互いに値踏みする目で見るが、一瞬の事。

俺は案内されるままベンツっぽいエレカに乗り込んだ。

両親は茫然と見ていたが、まー確かに一般家庭に縁があるものじゃないよな。


「落ち着いているのですね、失礼ですがご両親の反応のほうが普通かと思います」

「覚悟を決める時間がありましたから」

「なるほど、ですが……。あまりやんちゃはしない事です」

「やんちゃ、ですか……」


恐らくは、俺の目的次第ではただでは返さないぞ、という脅しだろう。

俺としては日本式ウィンウィンを目指しているが、それをどう感じるかは相手次第だからな。

それにしても、ただの亡命貴族にしては大々的なお出迎えだな。

エミーリアの父親が通信業界で成功してこうなったのか、元々こちらへ亡命した段階で持っていた資金なのか。

それによって対応も変わるし、俺の側の警戒も変わる。

流石に原作キャラではないと思うが、元伯爵くらいならありえなくはない。

状況に応じて動けるようにしておかないと、首が締まりそうだ。



車両はいつの間にか第四都市ニーツォを出て、第一都市パラスアテナへと向かう。

エミーリアがパラスアテナから毎日通ってるとも思えないので、恐らく会社か実家へ向かっているのだろう。

俺は、前世の社畜としての知識をフルに使って考える。

恐らくは、この車もメイドもボディガードも俺に対するプレッシャーをかけるための仕込みだろう。


そもそもお願いするのは俺なのだ、わざわざ迎えに来る必要などない。

プレッシャーをかけなければいけない理由、それがあるとすれば俺とエミーリアの関係だ。

エミーリアのポエムを監修したことやこの所いろいろ手伝ってもらっていること等、友達としてもかなり親しい。

亡命とはいえ貴族の相手が俺のような一般人では困るという考えなのか、それとも俺の頼みに問題があるのか。

ともあれ、俺は試されているのだろう。


「やんちゃかどうかの判断は俺がする事じゃないでしょう」

「ほう……」


目を細めるメイド、さて一手くらい返しておくか。

あまり舐められても良いことはなさそうだ。

もっともミドルスクールらしさはどこかに行ってしまうが。


「所でバーリさん。そちらの方のお名前は?」


俺はボディガード然として佇むもう一人を差して言う。

俺は名乗っているメイドも名乗っている、しかし彼だけは名乗っていない。

こういう差し合いにおいて、その意味は割と大きい。



「フッ……」

「失礼でなければ、もしや?」

「お前の思っている通りだ」

「エミーリアの父上殿でしたか」



ボディガードのように、メイドの背後に無言でずっと立っていた彼がエミーリアの父か。

なんというか、警戒されているな……。

何をもって警戒されたのかはわからないが、メイドが一人と運転手が一人だけがついてるという事は内密に話したい事があるということか。

恐らくはエミーリアに対して内密に。



「そうだ、私がエミーリアの父、ハルトムート・フォン・ゾンマーフェルトだ」

「な、もしや……」


ハルトムートの名は知っている。

原作キャラではないが、この星においてはかなりの有名人だ。

超空間通信の大手グラム社の社長。

惑星パラスの通信の半分近くがこの会社を経由しているとされている。

支社は他星にもいくつかあり、周辺星系にも影響が及んでいるという。

その年間売り上げ総額は数億ディナールともいわれている。

一千億円に届きはしないだろうが、その半額くらいは稼いでいると思われる。


「分かっていなかったのか演技なのか、一目では見破れないな。その目からは読まれない用心が伺える」

「警戒されておられたようなので、俺も警戒しているんですよ」


冷や汗ものだがどうにか虚勢を張る。

ここで下手を打てば俺の人生が詰みかねない。

同盟を勝たせたいのは嘘じゃないが、俺が生きていなければ意味はない。

社畜経験にかけて、虚勢をはり逆転の隙を見出さねば……。


「それは仕方ない、中学生の少年が政治の裏を読んで、同盟の未来を悲観したんだ。

 私のような立場の人間なら兎も角、君にはそれらの情報を得られる立場にない」

「そうでしょうか?」


あー確かに、それは否定しようもない原作知識があってこそのものだ。

馬鹿やってしまったな、エミーリアだって中学生だ、あんな話を振られても困るだろう。

だがまあ、こうして食いついてきたなら吊り上げて見せる。



「地球教とフェザーンの来歴は少し歴史に興味があれば調べられます。

 フェザーンはそもそも何のために生まれたのか。

 それは帝国臣民の帝国脱出を監視するためでしょう。コルネリアス一世の出征失敗直後でもありますし」


これは帝国から見た場合のフェザーンの成立理由として間違いないだろう。

提唱者のレオポルド・ラープは地球教の支援を受けて成立させたわけだから、その真意は不明だが。

不明といっても商人なのか宗教者なのかどちらが本音かという意味でであって、裏は同じようなものだが。


「ふむ」

「しかし、成立させたレオポルド・ラープは地球出身者の上、出所のわからない莫大な資金を持っていた。

 関連付けするならこの時点ですでに地球教と関わりがあったとみるべきでしょう」

「少し強引ではないかね?」

「その証拠に、自治領成立と同時に第一都市に大聖堂が建立され、地球教の第二聖地と呼ばれています」

「なるほど、フェザーンと地球教の関係はいいだろう、なら国債に関しては?」

「それこそ簡単ですよ、インターネットでそういった情報は溢れています」


これは事実だ、どこの国にも、ましてや150億もの人口がいる国だ、そして警鐘を鳴らす者は多い。

政府がアカウント停止に追い込んだものもあるが、なにせ草の根、そうそう潰しきれはしない。

そして、政府が発表しているものと対比すればおおよそわかってしまう。



「それで言い切るのはつらくないかい?」

「政府が国債の発行数と持ち主比率を出してるじゃないですか」

「フェザーンの政府が買ったものは5兆ディナール、かなりのものだが影響力を確保できるほどでもないと思うが?」

「関連企業を介して買った分が抜けていますよ」

「ほほう、関連企業ね」


そうして俺は買収を受けた企業を順番に挙げていく、これは原作知識じゃない。

どっちかというと社畜スキルだ、大規模な購入者の名前を記録しておき、著名人かどうか確認。

著名人ならそれだけでだいたいどうやって金を手に入れたのかの来歴も出てくる。

著名人でないなら、地球教の接触がないかネット内で調べればいい。

どちらにも該当しないものもあるが、だいたい7割以上の確率で本人の金か後ろに何者かがいるのかわかる。



「そうして計算する限り、300兆ディナール(おおよそ3京3000兆円)の国債がフェザーンに流れています。

 もっともこの調べ方では残り3割の大株主についてはわかりませんが」

「よく調べているね、機密情報局にでも勤めていたんじゃないかと錯覚するよ」

「興味を持って調べただけですよ」



ハルトムート氏はかなり納得してくれたようだ、まーこじつけ部分もあるが実際株主達の事は調べていた。

理由はいくつかある、同盟にとっては敵になる可能性の高い人達でもあるしな。



「そうして、帝国に対しては貴族の買収、同盟に対しては国債や世論操作。

 こういったものを使ってフェザーンはここ100年ほど両者のバランスをとっているようです」

「バランスね、何のために?」

「狡兎死して走狗煮らるという言葉があります」

「確か、逃げるうさぎがいなければ負う犬もいらなくなって鍋の具にされるって話だっけ?」

「はい、フェザーンは帝国と同盟の両者から貿易という形で利益を得ています。

 本来国際貿易には関税というものがあるのですが、現在きちんとした貿易協定を結んで貿易をしている国は皆無です。

 となれば、帝国も同盟も関税等かけておらず、入ってくる物資はそのまま売買されているという事になります」


これは恐ろしい事なのだが、つまりフェザーンは好き勝手儲けられる立場にいるということなのだ。

物を右から左にもっていくだけでいいのだから。


「帝国で安く、同盟で高いものを帝国で買って同盟で売るそれだけで大儲けできます。

 逆もしかり、そうすればどうなるでしょう?」

「富がフェザーンに集まる事になるだろうね」

「はい、今のフェザーンはまさにそれです。

 これだけ肥え太った自治領ですが、例えば同盟か帝国が倒れた場合。どうなるでしょうね?」

「何もしなくても崩壊するだろうな、勝ったほうはフェザーンを経由する必要がなくなる」

「そういうことです、だからフェザーンは同盟と帝国、両者が両者とも疲弊するのを待っているわけです」


軍事力を持たないフェザーンが勝つにはそれしかない。

だが、同盟にとってそれは一番相性の悪い戦い方だ。

イデオロギーで持つ国に対しイデオロギーを操作して戦う、強いわけである。


「君の考えはわかった、大望を抱いてもいるようだ。

 それで、私に何を望む?

 そしてその対価は何だ?」

「俺が望むのは……」



どうやら合格したらしい、恐らく彼のような情報を扱う人間なら俺の存在は賭けだ。

当たればでかいが、外れてもでかい。

保険をかけたくなる気持ちもわかる。

だから俺は今できる範囲を語った。

結局、まだ彼に全て委ねるほど俺もハルトムート氏も信用してない。

ならば、当面の活動からだろう。


「というわけです」

「ふむ、面白いな。ただ、当然現在の情勢では不謹慎だと思われる可能性もある」

「全面否定にならない限りは方向性で押し切れると考えています」

「……だが、君自身の危険はどうする?」

「それは……」


憂国騎士団に限らず、目障りだと思われれば消される可能性もあるか。

だが、ボディガードを雇うためにも金がいる。

当面は資金集めだろうな……。


「資金集めが先になりますね」

「ならばバーリを貸そう、彼女は優秀だぞ」

「あら、お上手ですねご主人様」

「家事、スケジュール管理、ボディガード等全てをこなせる。

 欠点としては皮肉屋で口うるさい事だな」


ハルトムート氏は俺に向かって言う、しかし後ろに対して警戒している様子が見られた。

つまり押し付けようとしていますねわかります。

バーリさんは少し長身だが美人といっていい、年齢はおそらく四捨五入したら怒られる年齢だろう。

一流どころなのはわかるが、俺が信用されたと言うよりは監視要員だろうな……。



「それと、娘に手を出したら許さんからな」


しっかり落ちもつけてくれた……。













あとがき



連載2話目、どうにかお届けします。

どうにかこうにかですが、ストックを作っておりますので年内はなんとかなるといいな(汗

連載予定としては30話までに完結するように頑張るつもりです。

あんまり長いと、いつものように放り出しかねないので中編でまとめるしかw


さて、今回ようやくジュージが動き出します。

金を稼ぐためにw(爆

同人誌(版権物つっても誰も知らない古典のパチモン)で稼ぐわけですが。

ご都合主義であることは否定しませんが、銀河英雄伝説の世界観(フジリュー世界だと少し違うかもしれませんが)においては半ば事実だと思われます。

どうにも、小説が書かれた頃の文化をそのまま反映している上に真面目な軍人が多いせいか、文化の発展は微妙なように見えます。

実際地球は100億いた人口が1000万人になるまでシリウス移民によって叩かれています。

まともな文化は残ってない可能性が高い上に、帝国が発生してからその手の庶民文化は抑圧されたでしょうから……。

自由惑星同盟が帝国の脱出者で構成される関係上地球の庶民文化は残ってないと見るべきでしょう。


なので、漫画等は逆に新鮮なはずで、受け入れられる素養があればかなりの広がりを見せると思われます。

そして、同盟においても都会と田舎では思想の違いがあるわけで、田舎においてはアジテーションもあまり浸透していないでしょう。

アジテーションもやはり都会を中心に活動しますから、結果として土壌はあると考えたわけです。


それと、人口等ですがネット上のものを引用しました。

確か昔見たときは同盟の人口は130億だったと思うのですが、今は150億になってるようですね。


ではでは、次回も年内にお届けできるといいなとか考えていますw(爆



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