銀河英雄伝説 十字の紋章


第三十七話 十字、結論を出す。






宇宙戦艦の発着場に入って脱出の準備を整えながらも、俺は各所に確認の人員を送っていた。

奴らも一般市民を敵に回す愚は流石に侵さないだろうという判断で、私服に着替えてから出てもらった。

クブルスリー大将の生存確認は第一艦隊の要請もあって率先して行われている。

俺は他にも、ヤンやラップといった原作の主要キャラやアンリ・ビュコック先輩、リディアーヌ教祖、トリューニヒト議長らを探してもらっている。

まあ、十字教徒や回帰教徒らがいるので探すのには困らない。

彼らにも色々と手伝ってもらっている。



それから一日ほどでほぼリンチ少将の関係者を含め全員を呼んでくる事ができた。

トリューニヒトは原作より地球教徒やフェザーンのコネが弱いため、十字教のほうに身を寄せていたため発見は早かった。

そうして、十字教や回帰教のコネを使い、まだ反乱軍の支配が及んでいないところを抜けて着てもらったのだ。



「敵勢力の主力を調査してまいりました!」

「アイネか、流石だな。頼む」

「はっ!」



エアニス・フォン・アイネ中尉、バーリさんから薔薇の蕾の連絡役を引き継いだ女性だ。

亡命した帝国騎士の家計だそうで、フォンのミドルネームが残っている。

バーリさんは見た目は沿う感じないが俺より少なくとも8歳は年上だ。

年齢について考えると出てきそうなので考えないが、引退するのはわかる。

引き継いだ彼女は19歳であり、俺の子供でもおかしくない位の年齢だ。

まあ、俺は結婚も子作りも遅めだったので長女はまだミドルスクールだが。



「反乱組織の内情ですが、主犯はコーネリア・ウィンザーとウィンザー派の議員達となっておりますが、ただの神輿です」

「ほう」

「反乱組織そのもののまとまりができておらず、とりあえず据えられた様です。

 実行能力のある組織として、フェザーンの同盟に対する敵対的な商人達。

 同盟陸軍のハイネセン防衛部隊の半数近くが参加しておりその数は30万前後。

 まだ同盟内に残っている地球教徒達、数は10万弱と思われますが、陸軍の行動を決めているのが彼らと思われます。

 実質的にフェザーン商人の指揮下にある海賊達、バラバラに蜂起しており、その数1万隻以上にもなります。

 そして、同盟軍第4艦隊が参加している模様です」

「第四艦隊……提督はたしか」

「アムリッツァ会戦にてパストーレ提督が亡くなり、その後を引き継いだのはムーア提督です」

「……」



ムーアか……俺が第六艦隊司令官になったことで、アムリッツァの時点では艦隊司令官じゃなかったからな……。

あいつの出世を阻んた格好になる、そりゃ恨んでるだろうな……。

この世界では、パエッタは割と物分りのいい提督となっている。

これもヤンが多少なりと説明努力とおべんちゃらを覚えたからだろう。

人間、正しいことを言っても、結局誰が言ったかで聞いたり聞かなかったりする。

その事が理解できただけヤンも大人になったってことだな。


そして、ムーアは原作でラップの忠告に対してかなり無茶を言ったのを覚えている。

彼自身は優秀なんだろうが、他人の言うことは全く聞かないタイプだということだ。

ただ、あの包囲作戦を全面的に信じていたという意味では過去の作戦を疑ってかかる頭はないと考えるべきか。

なんにしろ、正面から戦えば俺より強いくらいかもしれんな。

まあ、俺は自分で戦う必要性がないから負けないが。



「それと、陸軍の神輿はドーソン大将となっております」

「はぁッ!?」



あのおっさん……また周りのおべんちゃらにやられたな……。

トリューニヒト派のくせに、これに乗っかったってことは恐らく俺をだしに使ったというところか。

ドーソン大将は原作においては散々な言われようだったが、事務仕事や後方仕事の正確性はトップクラスだ。

俺は周囲の人間がまともなら、キャゼルヌくらいの仕事は出来ると考えている。


ドーソン大将自身は小市民な性格をしているのだが、周りの人間のイキリ具合は相当なものだ。

彼らはドーソン大将に群がる事で美味い汁を吸い続けてきた。

能力はどうだか知らないが、仕事は大したことができているわけではない。

だが、嫉妬心は一丁前だった。

ドーソン大将も俺が階級的に追いついた事に焦りは持っていただろうから、それに火をつけた可能性は高い。

だが……。



「なら、陸軍への対処は俺がすべきだな」

「は?」

「ドーソン大将なら何とか出来るかもしれんという事だよ」

「しかし……今の同盟軍は大将閣下の手腕に全てがかかっています。

 うかつに危険な所に行かれては困ります!」

「……いや、通信一本で十分さ」

「通信……ですか?」

「まあ、どちらにしろ閣下と詰めてからになるが」



何にせよ集ってきた皆との意見調整が必要だ。

とはいえ、もともと意見みたいなものはトリューニヒトにはないだろうが。

トリューニヒトを輝かせるには繰り手の腕次第になるという事かね。

彼は輝いていれば文句を言わないタイプでもあるし、ある意味俺とは相性がいいんだが。


艦内の会議室に主要なメンバーを集め今後の事について話し合う事にした。

集まったのは、俺、ドワイド・グリーンヒル大将、ヤン・ウェンリー中将、アーサー・リンチ元少将の軍人組。

この間評議会議長になったヨブ・トリューニヒト、十字教教祖リディアーヌ・クレマンソー、回帰教教主アンリ・ビュコック。

計7人による会議となる。



「資料を確認頂いて、現状の確認は終わったと思いますので話を始めましょう」

「これを見る限り、一番厄介なのはハイネセンを占領しつつある陸軍、ハイネセン防衛部隊だ」

「はい」



トリューニヒトから指摘を受ける、あまり軍事に詳しくなくてもわかることではある。

そう、賛同した艦隊は一つだけ、海賊を合わせても2個艦隊に足りない程度でしかない。

きちんと地方艦隊が機能すれば敵対するのは第四艦隊のみ。

恐らく、放置しておいてもアレクサンドル・ビュコック大将率いる第五艦隊が殲滅してくれるだろう。

まあ、ハイネセンまで戻ってくるのに一週間近くかかるという点が問題だが。

つまり、艦隊はそれほど脅威ではない。

ましてや、ウィンザー率いる政治家達は単なるメッセンジャーにすぎない。


実質、この反乱は陸軍によるクーデターだという事だ。

陸軍はどうしても宇宙軍に対して低い立場にある。

宇宙艦隊の建造費用や維持費用を考えれば簡単にわかることだ。

実質宇宙軍が軍部の90%近い予算を食っている。

相手が宇宙にいるのだから装備もそちら中心になるのは当然だが。

問題は、人員のほうだ。

宇宙軍が後方含めても1億、陸軍は倍の2億。

陸軍の方が圧倒的に多いのだ。

それでも戦車や戦闘機は十分にあるのだが、なにせ使わないのだから旧式ばかりになりがちである。

テロリストや海賊が星に攻め込んできた時くらいしか出番がないのだから仕方ない。

災害救助等はかなり役に立っているのだが。

宇宙軍がエリートと言われるのもそういう部分に起因している。

つまり、陸軍は現状に常に鬱憤をためているという事になる。



「陸軍に関しては、腹案があります。簡単には行かないでしょうが半減させられるはずです」

「そうかね、どのような作戦なのだね?」

「資料のほうを確認してください。この12ページのところです」

「ふむ……、出来るのかね?」

「可能です、情報収集は十分に行っていますので」

「任せよう、それで。宇宙のほうはどうするのかね?」

「第四艦隊はヤン・ウェンリー中将に、海賊はアーサー・リンチ少将に任せます」

「私ですか?」

「ああ、ヤン中将、君なら彼らをどうとでも出来るだろう。可能なら降伏させてくれ。

 ムーア元中将は正直無理だろうが、旗艦を潰せばなんとでもなるはずだ」

「……容赦ないですね」

「この後の事を考えるとな」

「この後……ですか?」

「ああ」



そう、現状考える限り、一番の行動はこのまま反乱を鎮圧……ではない。

反乱といっても、原作と違い、同盟にはまだ余裕がある。

このままちんたら反乱を鎮圧していては、後手に回ってしまうだろう。

そして何より、防衛を続けていたら搦手を得意とする相手に対処しきれなくなるのは時間の問題だ。



「そのために、閣下、そして先輩とクレマンソー教祖にも来ていただいたのです」

「私かね?」

「なにかやるつもりだな」

「聖者様のお言葉であるのでしたら、私共は従います」

「以前話したと思いますが、この反乱は帝国、というよりローエングラム元帥の策謀です」

「帝国の小僧かね、まだ20歳にもなっていないと聞いているが」

「はい、ですが天才です。それは君ならよく知っているだろう?」



そうして、俺はアーサー・リンチに視線を向ける。

リンチは俺に対してビクリッと震えると俯く。

恐らく、ラインハルトと何度か対面したことがあるはずだ、

破れかぶれだった時はさほど気にしなかったろうが今は怖いと考えても不思議ではない。



「はい……1度だけ面会した事があります」

「ほう、どんな男だったのだね?」

「私に策を授けて言いました、お前はもう何もない、後は復讐をするだけだろう? と」

「それを受け入れたのかね?」

「はい、若造でしたが恐ろしいほどのカリスマ、自暴自棄だった私の心にすっと入ってきたのです」

「なんと……」



トリューニヒトは驚く、恐らくカリスマに関しては、同じタイプなのかもしれない。

だが、トリューニヒトとはあらゆる意味で違いすぎる、はっきり言えばラインハルトは有言実行の男だ。

なにせ何でも出来てしまう天才っぷりがどうしようもない差となる。

トリューニヒトとて、ラインハルトと同じ才能があれば自前で帝国を打倒出来ただろう。

それくらい凄まじい才能を持っている。



「故に、このまま反乱を鎮めて終わりというわけには行きません」

「ではどうすると言うのかね?」

「それは……帝国の紛争が終わるまでに攻め込みます」

「なっ!?」

「こちらの反乱処理は残った軍のみで行う事になりますが恐らく、主力を叩けば問題ないでしょう」



そう、唯一の方策となるだろう。

そして、ラインハルトに勝利できる後にも先にも唯一の瞬間。

それこそ、帝国内乱中の今だ。



「ですが、前回の大遠征においてかなりの出費がありました、フェザーン併合でかなり回復しましたが……。

 それでも、再び大遠征を行うだけの資源が今の同盟にあるとはとても思えませんが」



ヤンの反論は誰もが思っている事かもしれない。

だが、このチャンスは二度とないだろう、ラインハルトが帝国を統一し終えてしまえば終わりだ。

ラインハルトの能力の高さというか、あっという間に帝国の思想統一を果たしてしまうだろう。

原作に置いてもそのあたりはカットされていたのでよくわからないが。



「門閥貴族達のリップシュタット盟約は既に領土の半分近くをうしなっています。

 中立派も今はほぼマーリンドルフ伯に抑えられている上、マーリンドルフ伯はラインハルト側です。

 多少権益で揉める事はあっても、敵対はしないでしょう。

 となれば、後半年もあれば帝国は再統一されるでしょう。

 そうなれば、帝国は今までと比べ物にならない戦力を持つ事になる」

「何故かね? 内紛によって疲弊する事はあるかもしれないが、戦力が今までよりも大きくなるというのは」

「単純に、貴族達が抱え込んでいる財産が莫大であるというだけです。

 なにせ400年分ですからね、表に出れば帝国の予算の20年分は優にあるでしょう。

 これは、コンビニチェーン等を通じて帝国側から仕入れた情報ですので硬度は高いかと」

「なっ!?」



2000億人いた帝国人が今や5分の1以下、それだけ絞って掠め取った財産だ。

表に出ないものも入れればどのくらいになるか。

はっきり言って、帝国が同盟よりも経済力が低いのは貴族達が抱え込んで出さないからというだけだ。

出せば一気に好景気になるのは目に見えている。



「ローエングラム侯ラインハルトは中央集権化を行うため、貴族の権益を大きく削ぐでしょう。

 そして、それに反対する勢力の代表である門閥貴族と今戦っている、勝てば止める者はいないでしょうね」

「そういう事か……」

「更にヤン・ウェンリー中将、資料の34ページを見てくれるか?」

「ッこれは!?」

「帝国の新しい超大型輸送船だ」

「サイズ的に要塞ですよね、全長40kmですか……」

「詳しい資料までは手に入れられなかったが、艦隊を補給物資ごと輸送するための船だそうだ」

「ああ……だからエンジンの噴射部がやたら大きいのですか」

「それだけじゃない、このサイズで量産を前提としているということは、要塞にぶつける事も考えているだろう」

「それは……イゼルローンやフェザーンの防衛計画そのものが崩壊しかねない」

「そういう事だな」



つまり、ラインハルトは既に内戦後同盟を攻める方法を整えつつあるという事だ。

内戦の決着まで半年、同盟侵攻まで早ければ1年と言ったところか。

とかくラインハルトに有利になる様にこの世界は出来ている。

普通のやり方では絶対に勝てない。

今ならまだ同盟と帝国の艦隊は同じくらいだが、内戦が終われば差は開く一方だろう。



「だからこそ、今しかない。帝国が攻め込んでくる事はこの超大型輸送船を見れば間違いないんだからな」

「どうしてこんなに、ひっきりなしに戦争をしなければならないんだろう……」

「ローエングラム公は僅か5年で准尉から三長官を兼任するまで出世している。

 彼にとって見れば、世界は遅すぎるんだろう。

 ゆっくりとか落ち着いてという概念は彼にはない」

「つまり、彼を取り除かない限り、同盟に平和はないという事ですか?」

「その通りだ」



これは、原作の彼の行動を見ていればわかることだ。

彼は皇帝になった時、別に同盟と和平というか停戦条約くらい結んでも良かった。

ラインハルトには皇帝を倒すというような絶対の理由は同盟に対して持っていない。

そして、同盟はその頃もう瓦解寸前で、恐らく多少不平等でも条約を受け入れただろう。

だが、彼は同盟に攻め込まずにはいられなかった。

銀河統一の夢を現実の状況よりも優先させたのだ。

つまり、ラインハルトはよほどのことがない限り和平等しないし、受け入れない。



「わかりました、しかし、共和制の同盟においてこういう密室での決定は……」

「建前は大事だし、平時ならそれでいいだろう。しかし、戦時においてはそれで負けてしまう事もままある。

 勝てば、私は責任を取って軍を辞めるよ」

「いえ、そういう事が言いたいのでは……というかむしろ、私が辞めますよ」

「それで構わない、この一戦で勝てば恐らく同盟が攻め込まれる様な事態はそう起こらないだろう」

「わかりました。その言葉、信じますよ?」

「ああ」



ヤンはまだ軍を辞めたいと思っていたのか。

何にせよ、そう、ここから大きな戦いをしなければならない。

俺の持つ資金の全てを使ってでも、同盟に勝利をもたらしてみせる。

搦手で勝てない以上、ラインハルトに勝てるのは今しかないのだから。









あとがき


今回は難産でした、次回から同盟内戦を始めます。

色々と考えたのですが、長々とやっても仕方ないですし一度に全部やってしまう事にしました。

実際、帝国は門閥貴族という癌が駆除されたら一気に裕福になります。

なにせ400年分の財宝が眠っているんですからね。

ラインハルトが改革を推し進められたのも、それらの財力があったからでしょう。

だいだい、フェザーンを落とした後、フェザーン回廊の両出口にイゼルローン級の要塞を作るとか。

よっぽど資金力に余裕がないとできないでしょうしね。

まーそんな事を考えているうちに時間がたってしまい、書き上がったのが13日8時ですw

次回からはまた少し早めに終わらせたいですね。



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