Fの優しさと厳しさ/毒【ベノム】


数多に存在する次元世界。
その中枢を担う首都的世界、ミッドチルダ。

今回はこの世界を中心とし、数多の次元世界で戦うことを選んだ仮面ライダーの物語である。





*****

時空管理局・本局

「ふー、平和だな」
「そうだね♪」

そのフェイト&ディアンの執務官室に舞い込んだ一つの事件が、ネイルに新しい力を与えるとは、この時の二人には全く予想ができなかっただろう。

「フェイト」
「ん、なに?」
「大事な話がある」
「・・・はい」

ディアンのシリアスな雰囲気にフェイトも真面目になる。

「・・・・・・大事な話『フェイト、ディアン、ちょっと良いか?』・・・(空気読めよ・・・!)」

重要な話をしようって時に、クロノがいきなりモニターをだして会話に割り込んできたことに内心腹を立てるディアン。

「・・・なにかな、クロノ?」

心なしかフェイトの態度も少々怒ってる感じだ。

『ああ、クラナガンで”フォックス”の予告状が発見されたんだ。至急調査に向ってくれ』
「了解だ。行くぞフェイト」
「うん」

二人は部屋から出た。





*****

フォックス。
それは数年前からミッドチルダを騒がせている怪盗のことだ。
いや、怪盗といっても、やっていることは”義賊”と言って良い。
貧しい人々から盗まず、不当な利益を得ている者の金銭や財産のみを盗む。

フォックスと言う名も、彼がフォックスメモリの使用者だからその通り名になったに過ぎない。そしてフォックスが盗みを働くときは決まってドーパントに変身している。

”化狐の記憶”を宿したフォックス・ドーパントは超高速や透明化、煙幕、幻術などで管理局の追跡から逃れているのだ。

その活躍ぶりから民衆からのウケはとても良いが、腹黒い権力者からすれば邪魔者以外の何者でもなかった。管理局は仮にも次元世界の法を守る義務があったので、度々フォックスを逮捕しようとするも、並みの魔導師では手に負えない為止む終えず、仮面ライダーであるディアンと一流魔導師であるフェイトのところにまでこの仕事が回ってきたのだ。


それで、二人と行動を共にすることになったのは、”小金持(こがねもち)”という地球出身の隊員である。管理局に入ってから十年間、彼は長期に渡ってフォックスを追っており、ガイアメモリのことには局内でベスト10に入る位に詳しい。現場一筋で活動してきたベテランなのだが・・・・・・。



「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

フェイトとディアンは絶句した

小金持の同僚から彼が一番行きそうな店を聞いた時、何かの冗談かと思いつつ、行って見ると・・・・・・そこには見たくもないような光景が広がっていた。

「もっとだ!もっとだヤってくれ!!」
「煩いんだよこの野郎!!」

――バチン!バチン!!――

「あうぅ///」
「何気持ち良くなってんだよ!このスケベめが!!」

小金持は確かにいた。
しかし居る場所も、今やってることもかなりマニアックすぎた。

「何やってるんだよオイィィィィ!!!!」

ディアンは堪らずツッコんだ。
エロボンテージ着た女王様に半裸で馬乗りされ、罵倒されると同時にムチで叩かれる小金持に。
そう、ここはSMプレイの風俗店。

「・・・・・・・・・//////」

フェイトに至っては二の句が告げず、赤面するのみである。

「おや、君達はテスタロッサ執務官にディアン補佐官。初めまして、俺はハードボイルド「どこがハードボイルド!?ただの変態マゾの間違いだろ!!」・・・・・・フン、男にはどうしてもヤラなければならん時がある」
「それテメーがヤりたいだけだろ!!なに最低なことをハードボイルドに語ってる!!」

もう一度言おう、ここはSMプレイの風俗店。
小金持は自分を責めてくれる恋人も奥さんもいないので、足繁くここに通う常連。
というか恋人できるわけない。こんなドMな変態野郎に。

まあ・・・・・・取りあえず、取りあえずは三人は店の外にでて普通な大通りにでた。





*****

ハードボイルドの語源を知っているか?
それは固ゆで卵。
どうして固ゆで卵がハードボイルドを指すようになったのは・・・・・・いや、それを言葉にする必要は今ないだろう。ただ、どうしてかこんな月が良く見える夜には、無性に酒が欲しくなる。

――・・・カラン・・・――

グラスを傾けたことによる氷の音。

「・・・・・・マスター、カミュの追加」

――コトン――

「はい、焼酎」
「・・・マスター、焼酎じゃなくてカミュだろ?」
「旦那、マスターじゃなくてオヤジだろ?」



「え、ちょ?何この展開はさぁ!!」

どこぞのバーかと思えば、ここは道端の屋台。
ついでにツッコんだのはアルフ。
本編で出番が一切なかったので、ここで登場。
尚、今はフェイトとディアンを補助しに来たので成人女性の姿をしている。

「さっきの変態な展開からなんでこんな風になってるの!?」
「アルフ、気にしちゃダメだよ」
「今回は七割方ギャグだしな」

アルフに対し、フェイトとディアンが諭す。
それによって渋々ながらアルフは一度冷静になっておくことにした。

「それで小金持さん。フォックス逮捕の打ち合わせを」
「あぁ。フォックス、俺に初めて苦渋を舐めさせた野郎であり、俺の人生を賭けるに相応しい男だ」

小金持は渋く語る。

「しかし、そのフォックスは今、かつての義賊的行動と盗賊的行動を交互に行っている」
「・・・奴は俺からすれば面白い奴だったよ。盗人のくせして何所か茶目っ気のある盗み方をしやがる。犯行現場には何時もお手製のおでんが置いてあったりした」

どうやら小金持にとってフォックスは普通の泥棒とは一味違うらしい。

「でも奴が煮え切らない半熟卵を通りこしてしまったのなら、俺も感情殺して腹を括らなきゃならねー。・・・・・・”男は強く、ハードボイルドに生きろ”・・・それが俺の恩人の言葉だ」

「小金持さん・・・・・・」
「おっさん・・・」
「そうだったのか・・・」

フェイトたちは小金持に対する評価は微妙に上がった。

「だから、腐った卵は俺の手でぶっ潰す。それが俺の、ハードボイル道だ!!」
「旦那、会計まだです」
「あ、すんません」

小金持はオヤジに小銭を渡した。

「今一決まらない人だな。しかも全部小銭で払ってるし」
「翔太郎さんが見たら間違いなく憤慨しそう・・・・・・」

ディアンとフェイトは冷ややかに述べた。

「あぁ、それからもう此処に来ないかもしれないんで、今迄のツケのぶんも」
「ちょっと、オヤジさんの方がハードボイルドなんだけど、冷めてて乾いてるんだけど」

そんで小金持が金を払い終え、

「グッバイ、マスター」
「だから、オヤジだって・・・」

小金持はオヤジの注意も聞かずに現場に赴く。

「・・・・・・それじゃあこの金はそのままあんたらに」

とオヤジは小銭の山をディアンたちに差し出す。

「こりゃ何のマネだいおっちゃん?」

アルフが聞いた。

「ちょいと一個人として、仮面ライダーと魔導師としてのあんたらに依頼があるんです。アッシはあの旦那からもう何年も前から四六時中愚痴気化されてる身でしてね。狐だ狸だってね・・・もうそれがうんざりになったんでね、もう終わらせてほしいんですよ。・・・誰にだって、成し遂げなきゃならんモノがあることくらい、わかっちゃいますがね」

オヤジはうんざりした様子だ。

「御三方、小金持の旦那のこと、宜しくお願いしやす・・・!」
「ハードボイルドォォーーー!!半端じゃない、ハードボイルドの化身だよ!」
「なんなのこのマスター!?カッコ良すぎでしょ!」
「マスターじゃない、オヤジだ・・・」
「ハードボイルドォォ!!っていうかなんで口調まで変わってるの?!」

こうして三人は本格的に小金持に協力することになった。

――ケケーーッ!!――

「・・・ッ」
「どうしたのディアン?」
「いや、今妙な咆哮が聞こえたような・・・」

ディアンが聞いた咆哮、それはディアンを見つめる一匹によるものだった。





*****

さて、此処はフォックスが盗みに入ると予告した博物館。
この博物館には純金と純銀を黄金比率で混合させた”エクセレントアロイ”という超合金がある。

四人は博物館の周囲にある茂みの中にいた。
何故こんなところに居るかだって?
小金持が風俗に行ったことが上司にバレ、小金持が謹慎処分をくらってしまった為に皆までこんなコソコソとした行動をせにゃならなくなったのだ。

「んー、流石にフォックスが予告出しただけあって警備が厳重だね」
「外だけであれだもんね。内部はもっと凄いだろうね」
「あぁ、慎重にやらねばな」

なんかこの三人の会話のほうが泥棒くさい。
んで、小金持は・・・。

――チャプ・・・――

バスローブ姿でワインが入ったビッググラスを片手にしていた。
しかもディアンの愛機・リベンジャーのシートに座って。

「なにやってんだよオメーはよ!!?」
「ハードボイルドだろ?」
「それは一仕事終えた後のハードボイルドだろ!」

ディアンは完全にツッコミキャラと化している。

「全く・・・せめてバリアジャケットとかにしろ」
「いや、デバイス忘れたから無理」
「・・・・・・・・・役立たず」

微妙にあがった評価が激下がりした。

――ブゥゥゥーーーーン!!!――

「「「ッ!!?」」」

バイクのエンジン音。
小金持、ディアン、フェイトが振り返る。

「ディアン、ごめん♪」

笑顔で勝手にリベンジャーに乗るアルフ。
そしてそのまま博物館に突っ込んでいった。

「あれアルフ?なにやってんの!?」

突拍子の無い出来事にフェイトはツッコム。

「あぁこの際ヤケクソだ!今の内に侵入するぞ」

なんだかクソミソな展開でした。





*****

――ジャラ・・・――

一方風都では、

「あれゼロさん、それは一体?」

御霊はゼロが持っている”異形のシルバーアクセサリー”を指差す。

「なーに、ちょっとした戦利品だ」

ゼロは片手に魔力を纏わせ、シルバーアクセサリーに近づける。

(フハハ・・・精々役立ってくれよ?)





*****

博物館受付前

「・・・暇だな・・・」
「ああ、恐ろしく暇だな・・・」
「しりとりでもするか?」
「さっきやったろ?」
「いいから。”リス”」
「・・・衰躯」
「く・・・クリ「アァァァァレェェェーーーー!!!!」

「「ッッ!!?」」

しりとりをしている警備員二人、そこへ


――バギィーーーン!!!――


「退けゴラァァ!!」

アルフがリベンジャーに乗って突撃してきた。





*****

モニター室

「し、侵入者です!!」
「フォックスか?」
「いえ、犬耳美女です」
「え、犬耳?どうして!?」

アルフは狼です。

「なんか叫んでます。”あたしの勢いは止められねーぜ!”的なことを叫んでます。富士山に向ってるのかもしれません」
「なにその推測?」
「こう見えても俺、昔アウトローだったんですよ・・・・・・」

監視役1は寂しげに呟く。

「フン、そういう奴に限って言うんだよ。――――とか――――とか!」
「やばくねその例え?」

監視主任に監視役2がツッコム。

「なんでもいい。厳重警戒モードONにしろ」
「はい。警戒モード作動」

一際大きいスイッチが押され、博物館には警報がなる。

「年貢の納め時だ犬耳!!」
「いえ、フォックスです」

しつこいようですが、アルフは狼です。





*****

「急げ急げ!」
「警備を固めろ!」
「蟻の子一匹、特別展示室に入れるな!」

警備員達は殺気だっている。

「流石に警備厳重だね。これは泥棒も諦めるんじゃないかな?」
「甘いな。ガイアメモリのパワーと魔力は、お前も良く知ってるだろ」

物陰で様子を伺うディアンとフェイト。

「例え表面で幾ら平和主義を語ったところで、そこに戦場があるというのなら、居ても立ってもいられない。それが漢(おとこ)と言う名の獣なのだ」

――カラン・・・――

そして窓際で月を見ながら酒を飲む小金持。

「おいお前なにしてんの?なんでワインなんか飲んでるんだ!?」
「ワインじゃない、カミュだ。どうやら俺のなかの獣も暴れたがってるようだベエェェェェ!!」

――ドロドロドロドロ・・・!――

「滅茶苦茶緊張してるよ、吐くほどに」
「お前バカだろ。緊張ワインで紛らわす癖止めろ」
「ワインじゃない、カミュだベエェェェェ」
「なんでもいいからってオボボボボボ!!」

――ドロドロドロドロドロドロドロドロ・・・・・・!!――

ディアン、もらいゲロ。

「なにしてんの二人ともって、スッパ臭いッ!」

フェイトが鼻をつまんでいると、

「おい、誰だそこにいるのは?」
「ッ!」

警備員に勘付かれた。

「・・・って、貴女はテスタロッサ執務官ではありませんか!」
「あ、はい・・・」

フェイトは返事する。

「どうしてこんな所に?」
「あの、小金持っていう人と一緒に捜査してたんですけど、途中でちょっと・・・・・・」
「あー、あの人・・・・・・アレですからね・・・」

警備員2は同情する。

「まあ兎に角、私とディアン補佐官だけでもと思いまして」
「仕事熱心な御方なんですね。それでは我々はここで」

警備員3がそういうと、彼らは何故か鎧と像のある方に向っていった。

(フー、どうにか誤魔化せ・・・・・・た?)

ふと振り返ってみれば、そこには展示物の鎧を着るディアン。

(なにしてんのディアン!?)
(いや・・・とっさに隠れなきゃと思って・・・)

念話で会話する二人。

「「「・・・・・・異常なし」」

三人はディアンのことを人形とでも思ったのか、その場を通り過ぎようとする。

(良し、大丈・・・・・・夫?)

と思った矢先に、一難去ってまた一難。
小金持が像の背後に立ち、ライフルの銃口を突きつけている。

「おい、こんな像あったか?」
「つーか、この像だけリアルすぎるだろ」

警備員も不審がる。

【ピンポンパンポン。こちらにあるのは、かのベルカ王族の名将の背後をとった殺し屋の、クールでニヒルなハードボイル像】

――ッドガァァーーーーン!!!――

「「んなもんあるかぁぁーーーーッ!!」」

ディアンとフェイトのツインキックが炸裂。

結果、

「小金持ィィ!テメー謹慎のくせしてなに有名人二人も引っ張り回してんだ!!」

当然三人は警備員達に追われる。

「しくじったか。一旦バーで態勢を整えるか」
「カッコつけてる場合か!なんでバーなんだよ!?」
「あるいはビリヤードを嗜みながら態勢を整えることにするか」
「ビリヤードもダメ!というか貴方は一旦引き返さないと次の行動とれないんですか!?」

すると、

「「「グアアァァァァ!!」」」

警備員達の悲鳴が聞こえた。

「あ、あれは!」
「フォックス・ドーパント!」
「ッ!!」

そう、警備員を片付けたのはフォックスだった。
彼はそのまま博物館の奥に行き、三人は急いで追い掛けた。





*****

その頃のモニター室では。

「出たなフォックス。良し、警備員を全員「あ、待ってください!」・・・どうした?」

監視主任がが張り切っていると、監視役が2口を開いた。

「見てください。さっきフォックスが映ったカメラ以外のモニターにも、フォックスの姿が!」
「バカな!どういうことだ!?」
「あ、カメラが壊されました!」

混乱する三人。

「もうこの部屋のカメラしか残ってません!」
「一体どうなってるんだ!?」
『化狐にでも、化かされてるんじゃないか?』

――バギッ!!――





*****

追い掛けること十分。
縦横無尽に建物内部を駆け回るフォックスを追い回す三人。

「あ、疲れたから「だからワイン飲むな」

途中小金持の飲酒を止めていると、

――ペンペン!――

フォックスは5mあたり離れたところでお尻ペンペンしている。

「ちょっとあの人、御直ってるんですけど、なんだか腹立ってくるだけど・・・!」

フェイトは不機嫌気味に言うと、バリアジャケットを展開する。

【SONIC MOVE】

ソニックムーブでフォックスを追おうとするも、フェイトは途中で失速してしまう。

「どうしたんだ?」
「この建物、強力なAMFが展開されてる。生半可な魔力は消される」
「泥棒対策のつもりが、思わぬ足枷になったわけか」

そういいつつディアンたちは走る。
走る、走る、しかし前に進まない。
足元を見てみれば、床がベルトコンベアみたいになっていた。

「ちょっと待て!なんでこんなものが博物館にある!」
「今迄走った労力返してよ!」

すると小金持が、

「自分では進んでいるつもりでも、いつのまにか後退している時がある。結局人生なんか、死ぬとき一歩でも前進できれば、いいのかもしれない」
「うるせぇー!疲れてる時にそれやられるとスンゲー腹立つな!死ねよお前!!」
「ディアン落ち着いて!」

――ビュンビュンッ!――

一方フォックスは壁を蹴って床に触れずに進んでいる。

「あれだよあれ!壁走り!」

【NAIL】

「変身!」

【NAIL】

ディアンは仮面ライダーネイルに変身。

「天よォォ!我に力をォォォ!!」

――ズボガァァ!!――

ネイルはスチールを真似てみようとするも、パワーが強くて足が壁にめり込んだ。
それによってネイルは身動きがとれず、寧ろ邪魔になる。

「痛タタタタ!!股裂ける股裂ける!!」
「なにやってんの!?」

フェイトは必死になってネイルの足を掴み、どうにか引っこ抜く。

「縄投げ!!皆、俺に捕まれ」

すると小金持が高密度の魔力で形成したロープを天井からぶら下っている装飾物に絡ませた。

「小金持さん、貴方やればでき「うー絡まったァー!」なんでよぉー!?」

しかし何故か小金持が空中で亀甲縛り状になった。
さらには、

――ドドンッ!――

わざとらしい効果音とともに、巨大なトゲのついた壁がでてきてこちらに迫ってくる。

「これに捕まれッ!」

ネイルはそういうとネイルカリバーを壁に突き刺した。
自身が一本に捕まると、フェイトはもう一本に捕まる。

「危なかったね。もう足限界だったし」
「・・・・・・別な意味で限界なのもいるぞ」
「でも、これは・・・・・・・・・いい///」
「どうでもいい!心底どうでもいい!!」

そうこうしていると、何かが流れてきた。
流れてきたのは布団で眠る老婆。

「誰あのお婆さん!?なんのためのお婆さん!?なんで流れてるの!?」
「しかしながら、このままだと・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・」」

巨大トゲ←←老婆=・・・・・・

「カンツァァァァ!!なんでだ、なんで見知らぬ婆さんを担いでるんだ我等は!?」

謎の掛け声をあげながら老婆を布団ごと抱えるネイルとフェイト。
すると今度は爺さんが流れてきた。

「あれ、今度はお爺さん流れてきた。どうするディアン?」
「どうするたってお前・・・「婆さんさようなら。・・・愛してるよ」さよならなんてさせるかーーーー!!!!」
「隣です!お婆さん隣です!今ここでさっきの言葉言ってあげて!!」

さらにお爺さんまで抱える。

「おいなんだこれは!もうちょっとした家族だぞ!年寄りはもっと大事にしろよ!!」

ネイルが心のシャウトを曝け出していると、今度は三十代辺りの男が流れてきた。

「あ、お前息子だろ?ダメだろちゃんと両親みてなきゃ!」
「なんでわかるの?」
「目元とかがソックリだろ?」

なんて話してると、

「父さん、母さん、遺産の話なんだけど・・・・・・全部僕が貰い受けることになったよ。まああいつらも横からゴチャゴチャ言ってたけどね」

「遺産の話してる!父さん母さんこんな状況なのに!」
「コイツは串刺しでいいな。自分で遺産つくれ、バカ野郎!!」

と宣言した矢先に、

「バブ〜」
「ん?」

今度は赤ん坊が流れてきた。
そして、

「三世代そろって目元そっくりかい!生きろ!どんな悪人でもな、子供には親が必要なんだよ!」

とうとう四人を担いでしまった。

「ディアン、もう疲れが・・・!」
「諦めるな、我等には一家の命がかかってるんだぞ!」

流石にか弱い女性であるフェイトには二分化されているとはいえ、四人分の重さはつらいのか、彼女の足の力が尽きようとした時に、

「アァァァレェェーーー!!」

聞き覚えのある声。

――ズガァァーーーン!!!――

「あ、皆見つけた♪」

リベンジャーでトゲ付の壁を破壊したアルフのおかげで、一同は事なきを得た。
ただし、

「ブギャァァァ!!!!」

小金持がリベンジャーの体当たりをまともに喰らっていたが。





*****

特別展示室。

『狐という奴は、色んな物語や歴史を紐解けば中々面白い扱いを受けておりやす。神社や祠で神様と崇められる陰で、人を惑わす化物とも言われている・・・・・・さて、あっしは、どちらでござんしょう?』

エクセレントアロイに続く階段を登り、フォックスはその美しい黄金の毛並みを光らせる。

「黙れ下郎。お前は神でも化物でもねぇ、ただの盗人だ。長きに渡る因縁、ここで決着をつけようじゃねーか」

小金持は指差しながらそう断言する。
後ろにいるネイル、フェイト、アルフもやる気満々な表情だ。

『旦那、あんたも懲りないな。何度撒いても直ぐに追ってくる』
「お前が牢屋に入れば、この鬼ごっこ・・・もとい狐ごっこもお終いだ」

ようやく訪れたシリアスムード。

「フォックス・ドーパント。ガイアメモリ不法所持及び使用、数々の強盗行為につき、貴方を逮捕します」
「大人しくお縄を頂戴しな!」
「・・・・・・!」

フェイトが逮捕宣言をするとアルフは強気にでて、ネイルは双剣を構える。

「・・・・・・御三方に小金持の旦那。後ろを御覧なさい」
「?・・・・・・そういうことか」

フォックスの言葉に疑問を感じて振り返ると、一気にそれは解消された。

「フォックスが八人!?」
「偽者かい?」

後ろにいる八体のフォックス・ドーパント。

『偽者などではない』
『我等は全て化狐の称え名を冠する者』
『盗賊団・九尾』

八人のフォックスの内、3人が口を開く。

「盗賊団・九尾って、二十年前に暗躍していた、伝説の強盗グループ!!」
「まさかガイアメモリを使うようになっていたとはな」

フェイトはバルディッシュ、ネイルはネイルカリバーをネイルクローにして装備。
しかし九尾メンバーは無視してフォックスに語りかける。

『それにしても、まさかお前が義賊と呼ばれるようになろうとは』
『あの時子供一人殺せなかったお前が・・・』
『ミッドで得たその虚栄を崩し、犯行予告をすれば、必ず顔を出すと思っていたわ』

「それじゃあ、今迄の強盗事件は・・・!」
「全部こいつらの仕業ってわけかい!」

『フォックス、旧き同胞よ。・・・二十年前の裏切りの罪、ここで清算させてもらおう』
『裏切り?なんのことだい?あっしはお前らのこと、仲間なんて思ったことはない』
『『『『『『『『ほざけ下郎がぁぁぁあ!!!!』』』』』』』』

九尾メンバーは一斉にフォックスに襲いかかろうとする。


――カチッ――


しかしフォックスがエクセレントアロイを乗せてる台の隠しスイッチを足で押す。


――ボォォォォアアアアア!!!!――


すると床から火炎放射が・・・!

『防犯の仕掛けでさぁ!皆さん早く上に!次の仕掛けが動きます!』

それを聞いた四人は早急に階段を登るが途中で階段は滑り台になった。

四人は必死になって階段に手足をへばり付かせる。
しかし、

――ジョォォーーーー――

今度は油が・・・天井から降り注ぐ。

「「「「ダァァァァ落ちるぅぅぅぅぅ!!!!」」」」

落ちたら最期、火炎地獄である。
だがその火炎地獄から数人の九尾メンバーが現れる。

「ゲッ!生き残ってんのいたよ!」

アルフは忌々しげにそう言うと、奴等は攻撃しようとする。
でも、そんな時に・・・!

――ケケーー!!――

現れた大蜥蜴型のガジェットが身を挺して攻撃を防いだ。

「あれは、ガジェットタイプのガイアメモリ!」
「ダークネスと同じか!」

フェイトとディアンは思わぬ助っ人の登場に驚く。
そして、ネイル=ディアンの脳髄には、そのガジェットの名前が無意識に浮かんだ。

「・・・・・・・・・来い、ベノム!」

――ケケケーー!!――

ベノムメモリは奇妙な叫び声をあげ、ネイルの手に収まると、ネイルによって手足を畳まれると尻尾を弾かれ、それによって隠されたメモリ本体が現れる。

【VENOM】

「その身の咎を切り裂く」

そして、シングルドライバーからネイルメモリを取り外し、ベノムメモリをインサートしてスロットを展開すると、余剰パーツは角の生えた大蜥蜴か大蛇の横顔のようになる。

【VENOM】

するとどうだろう。
ネイルのアーマーの形状は荒々しくなり、色はあっと言う間に毒々しい紫に染まり、両腕と両足には白いライン、眼は翡翠色となった。

この形態こそ”猛毒の記憶”を得た”ネイルベノム”!!

左腕のネイルクローの刃にも葉脈のような溝が出来ており、そこから毒液が垂れている。

「あれって・・・!?」
「ネイルの新しいメモリ!?」
「ほう、キマってるな」
『ふーむ』

このメモリチェンジの工程全てを見た者はネイルの姿に魅入っていた。

『そんなもの虚仮威しだぁぁ!!』
「それはこれを喰らってから判断しろ」

――ガシャン!――

【MACH VENOM】

ベノムメモリの”シュダーフィーラー”を弾くと、ネイルの姿を一瞬の”その場”から居なくなり、鈍い音を複数させて九尾メンバーの内三人を炎の中に強制送還させて姿を現す。

『こ、高速移動能力!』
「それだけじゃない」

――ガシャン!ガシャン!――

【BULLET VENOM】

ネイルの右腕に銃身・バレットバレルが形成され、

――ズババババババババッ!!――

毒液を凝固させた弾丸を撃ちまくった。

『『『ぐおおぁぁぁぁあああ!!!』』』

これによってさらに三人潰えた。
残るは二人。

「す、凄い!」
「やるじゃん!」
「・・・クールだぜ・・・」
『中々の腕前』

ネイルのお陰でフェイト、アルフ、小金持、フォックスは殆ど労をなしていない。



――ザシュ・・・・・・ッ!――

何かを刺し貫いた音。

――ポタ、ポタ、ポタ、ポタ――

なにかの雫が床に落ちる音。



「ふぉ、フォーーーックス!!!!」

小金持は叫んだ。
いる筈のない九人目の九尾メンバーの凶刃によって血を流すフォックスに。

『フフフ、忘れたのか?九尾は常に九人で構成される盗賊団。貴様が抜けた穴を埋めてないわけがなかろう・・・!』

フォックスが倒れると、九人目は恍惚とした口調でさらに語る。

『この時を待っていた。二十年前に九尾を裏切り、燃え盛る屋敷から子供と大金を両脇に抱え、逃れる貴様の背中に刃を突きたてるこの時を』

「ッ!!?」

その話を聞き、小金持は一瞬にして全てを理解した。




*****

二十年前。
当時まだ十歳だった小金持を火事から救い、大金を渡す男がいた。

「いいな?このお前さんの両親が残した遺産さえあれば、親戚連中もお前を疎んじることはない。でも金は一気に叩くな。チビリチビリ小銭で渡して行け」

そして、去り際に男はこう言い残す。

「負けるなよ。・・・男は強く、ハードボイルドに生きろ」





*****

「うぅおおおおおお!!!!」

小金持は魔力ロープを九人目の体に絡ませると、力任せに引っ張って炎のなかにぶち込んだ。
そしてバタンと倒れ、火炎の中に転落しようとするフォックスの腕にロープを巻き付かせる。

『『させるか!』』
『貴様の死に場所はここだ!』

そこへ残ったメンバーが妨害しようとするが、フェイトとアルフが阻む。

「あんた達なんかに邪魔はさせないよ・・・!!」
「小金持さん、早く!」

小金持は頷いてロープを引き上げようとするが、ロープはAMFの影響で少しずつ細長くなる。

『旦那、もういいです』
「なに弱気なこと言ってんだよ?」
『・・・あっしはね、旦那の愚痴聞かされるのはもううんざりなんですよ』

その一言で小金持はまた一つ悟った。

「・・・・・・そうか、俺はずっとあんたに見守られてきたんだな。そればかりか、命の恩人を眼の敵にして、追い回してたってわけか」
『・・・敵にのうのうと毎日愚痴零すなんざ、局員失格じゃありやせんか』

そう言われると、小金持は何故か得意げな顔になる。

「フッ、だったらお前さんを牢屋に入れてやるよ。そして、一緒にカミュを一杯付き合ってもらうぜ」
『旦那・・・カミュじゃねぇ、焼酎だ』


――プツン・・・――





「・・・・・・・・・・・・」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」

なにも言わず、ただただ拳を握り、掌から血を流す小金持。
そして、小金持の心の内を察してなにも言わない三人。

そこへ、ネイルの逆鱗に触れる一言。

『フン、所詮は甘いだけの腐れであったか』

――ブチッ!!――

――ガシャン!ガシャン!ガシャン!――

【VENOM・MAXIMUM DRIVE】

「・・・・・・ッ!!」

ネイルは無言のまま構え、圧倒的威圧感を放ちながら両脚から鋭いノコギリ状の刃・マキシマムクローを出現させる。

「ハアァァァァ!!」

そしてそのまま残り二人の九尾メンバーに向って攻撃しようとジャンプする。

『こんな直線的攻撃が通じるか!』
『馬鹿者め!』

余裕で避けようとすると、

【RING BIND】

「チェーンバインド!」

電子音声とアルフの声がすると同時に九尾メンバーの二人の体にはバインドがかけられる。

『クソ、やられてたまるか!』

とっさに避けた九尾メンバー。
といっても、それは仲間の背後、つまり。

「喰らえぇぇぇぇ!!」

ネイルベノムの必殺技たるハサミ蹴りである”ジャッジメントシザース”の盾にしたのだ。

『ぎゃああああああああ!!!!』

盾にされた者はメモリブレイクされながら業火に落ちた。
すると残った最後の一人は、

『うおおおおおおおおおおお!!!!』

巨大化した。
その姿は正しく九尾の狐。

壁を破壊し、屋外に出る奴を止めるべく、ネイルも外にでる。

「フェイト、アルフ、ここは頼む!」
「わかった」
「任せて」





*****

博物館・中庭。

『コオォォォォォン!!』

満月に向って吼える巨大化フォックス。

その眼前に躍り出るネイル。

「さてどうするか・・・。我には巨大化ドーパントとマトモにやりあう――コツン――・・・ん?」

喋ってる途中でネイルに投げつけられた物、それはガイアメモリだった。
飛んできた方向を見れば、

「使いなさい」

プレシアが遠くからこちらを見ていた。
ネイルは迷わずに与えられた”リザードメモリ”をベルトのマキシマムスロットにインサート。

【LIZARD】

そうすると漆黒の巨大召喚魔方陣が地面に描かれ、そこからは重厚で頑丈な鎧を身に着け、緑を主体とし赤いまだら模様のある巨大なオオヨロイトカゲ・プレートリザードが現れたのだ。

プレートリザードは勇ましく巨大化フォックスに立ち向かい、噛み付いたり引っ掻いたりした。途中で巨大化フォックスも口から炎を吐いたり、分身したりしてプレートリザードを幻惑する。

『シャアアァァァァァ!!』
『コオオォォォォン!!』

叫びあう二匹の獣。今度は互いの体に噛み付き合う。
だがダメージは鎧を着けているプレートリザードは軽く、巨大化フォックスはそんな物など無い為、ダメージは大きかった。

そしてプレートリザードはネイルに顔を向けて頷く。
フィニッシュだ、とでも言いたいのだろう。
ネイルはそれに応える。

【LIZARD・MAXIMUM DRIVE】


スロットのスイッチを押すと、マキシマムドライブが発動。
ネイルの右足にメモリのパワーが集中され、ネイルはジャンプすることでプレートリザードの眼前まで到達すると、プレートリザードからエネルギーの塊が吐き出されると同時にネイルは右足を突き出し、そのまま跳び蹴りの姿勢でキックする”リザードライダーキック”で巨大化フォックスを倒した。

大きな爆発が起こり、それが収まると、そこには砕けたフォックスメモリと一人の盗賊の哀れな姿が視界に映った。

「今この瞬間、お前の償いが始まる」

しかし、決め台詞を言えどもネイルの心は晴やかではなかった。





*****

あの後、博物館の至るところを捜索したが、奴等の亡骸は見つからなかった。
燃え尽きてしまったのか、あるいは誰も死んでいないのか。真相は暗中に沈んだ。
しかしながら、こんな謎めいたハードボイルドな夜には、無性に酒が欲しくなる。

「マスター、カミュをロックで頼む」
「カミュじゃねぇ、焼酎だ」

――コトン――

「焼酎じゃねえ、カミュだマスター」
「マスターじゃねえ、オヤジと呼べ旦那」

俺はハードボイルドを志す者・小金持平祐(こがねもち へいすけ)。





*****

時空管理局・本局
執務官室。

「ディアン、大事な話って?」

フェイトが聞くと、ディアンは極めて真面目な表情で一対の指輪を取り出し、こう言った。

「フェイト、我と結婚してくれ」
「・・・はい///」

フェイトはあまりの嬉しさに瞳から雫を流すも、その隙をつくようにディアンはフェイトを抱き締め、優しく熱い口付けを交し合った。

「フェイト・・・・・・お前を愛している」
「私もだよ、ディアン///」

指輪を互いの指にはめあう二人。
ハードボイルドとは真逆な、甘くて暖かい雰囲気。

ディアンはこの日を境に、”ディアン・テスタロッサ”となった。



ネイルベノム
ベノムメモリの力でネイルがフォームチェンジした形態。
ベースカラーは紫で両腕両脚に白いラインがあり、眼の色は翡翠。
ベノムメモリのシュダーフィーラーを弾く回数によって武装や能力が変化する上、装備に猛毒の属性を付加する。勿論のこと、身体能力も群を抜いて強化されている。
決め台詞は「その身の咎を切り裂く」「今この瞬間、お前の償いが始まる」

超高速移動
シュダーフィーラーを一度弾くことでアクセルトライアルに匹敵するスピードで動くことが可能になる。

バレットバレル
シュダーフィーラーを二度弾くことで右腕に形成され、毒液を凝固した弾丸を発射する銃身。遠距離戦で活躍する。

マキシマムクロー
ネイルベノムの両脚に生やされるノコギリ状の刃。この武装によってハサミ蹴り・ジャッジメントシザースは必殺キックとして確立する。

身体能力
身長:190p
体重:77s
キック力:13トン
パンチ力:9トン
ジャンプ:90m
走力:100mを2.4秒
ジャッジメントシザース:60トン
リザードライダーキック:70トン

ベノムメモリ
「猛毒の記憶」を収めた特殊ガイアメモリ。
自立稼動するオオトカゲ型ガジェット形態のライブモードとガイアメモリ形態のメモリモードの二形態を持つ。角=シュダーフィーラーを弾くことで超高速・バレットバレルの形成・マキシマムドライブを発動させる。

リザードメモリ
「トカゲの記憶」を収めた銀色のガイアメモリ。
マキシマムスロットにインサートすることでプレートリザードを召喚する。ただし、マキトマムドライブ発動にはスロットのスイッチを押すことが必要。プレシアによって齎された。

プレートリザード
リザードメモリの力で呼び出される巨大なヨロイオオトカゲの召喚獣。
巨大化したドーパントに対して有効な戦力で、その口から吐き出されるエネルギーの塊の勢いに乗って強力な跳び蹴りをキメるリザードライダーキックにも必要な存在。


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