IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十二話
「異邦人の真実・2」



 中立国オーブの自爆、それと同時に宇宙へと上がったアークエンジェルとイズモ級戦艦クサナギはL4ポイント、嘗てブルーコスモスによって崩壊したコロニーであるメンデルに到着した。

「メンデルに一時身を隠してクサナギを完成させる事になったんだけど、アスランが父親に戦争の事を如何考えているのか聞きにプラントに戻ったんだ」
「まて、そのアスラン・ザラは確か・・・」
「うん、ジャスティスに乗ってフリーダム奪還、もしくフリーダムの完全破壊とパイロットの抹殺、関係した全ての破壊を命じられていた。だけどアスランは僕達と共に戦うという選択をしたから」
「戻れば間違いなく裏切り者扱いですわね」

 アスランが一度戻ってから、アスランはやはり裏切り者として拘束、後に拷問に掛けられることになっていた。
 だが、プラントで動いていたラクス率いるクライン派が助け出し、バルトフェルドが艦長を務める高速戦艦エターナルで脱走、迎えに来たキラの協力もあって追手を退け、アークエンジェルとクサナギに合流を果たした。

「でも、直ぐに敵は来た。また地球軍・・・それもアークエンジェル級2番艦ドミニオンと、あのオーブで襲ってきた新型MSも一緒に。そして、ドミニオンの艦長は嘗てアークエンジェルの副長をしていた仲間、ナタル・バジルールさんだった」

 嘗ての仲間との戦い、それはお互いに勝手知ったる戦法での戦いになったが、マリューよりもナタルの方が艦長として、指揮官としての資質は高かった。
 当然、戦法はナタルの方が上手で、アークエンジェルは窮地に立たされる。

「僕もアスランも、ムウさん、ディアッカも新型MSやストライクダガーを相手に苦戦した。当然だよね、相手は数では上なんだから」

 たとえキラとアスラン、ムウ、ディアッカがずば抜けた操縦技術を持っていても、数の暴力には苦戦も必至だ。
 だが、そこで不味い事態になったのだ。ムウがラウ・ル・クルーゼの気配を感じて、ザフトが来ている事を察知した。

「ちょっと待て、気配って・・・そんな曖昧なもので判るものなのか? 俺も剣道とかやってたし気配とかは理解出来るけどよ、ロボットに乗ってて、しかも宇宙でだろ? 無理じゃないか?」
「普通ならね。でも、ムウさんとクルーゼの間には特別な何かがあった。それによってお互いが近くに居れば察知出来るんだ」

 まだ話すときではないので、詳しくは話さなかったが、もうそろそろ話す時が来る。クルーゼの正体と、キラの出生の秘密を。

「ムウさんと、それを追ったディアッカがメンデル内部に入って、僕とアスラン、M1アストレイ部隊だけで戦う事になったけど、Nジャマーキャンセラーを搭載して核エンジンで動くフリーダムとジャスティスとは違い、バッテリー式の敵機はそろそろパワーダウンを起こす時間だった。だからドミニオンは撤退、僕はアスランをアークエンジェルとエターナル、クサナギの護衛に残してメンデル内部に侵入していったんだ」

 メンデル内部ではディアッカのバスターとイザークのデュエルが対峙していて、話をしていた。キラは自分とアスランの様な事にはならないように言い残し、先を行ったムウを追う。
 追った先でランチャーストライカーを装備したストライクがクルーゼの乗るゲイツに苦戦していたので、キラはクルーゼのゲイツを瞬殺、戦闘不能に追い込んだのだが、クルーゼはそのままゲイツから降りるとメンデルの研究所に逃げてしまった。

「メンデル内部は・・・何て言えば良いのかな、まるで人の欲望の結晶とでも、言えば良いのか」
「如何いう事よ?」
「メンデルは遺伝子研究を行っていた研究施設なのです。当然、そこでは実験体となったモノ(・・)も」
『っ!』
「そして、メンデルは僕の故郷でもあったんだ」
「お兄ちゃんの、故郷・・・?」
「うん、僕はメンデルの研究所で生まれた・・・スーパーコーディネイターだから」

 スーパーコーディネイター、ここまでの話で初めて聞いた単語だ。コーディネイターと名が付いているから、コーディネイターに間違いは無いのだろうが。

「スーパーコーディネイターっていうのはね、元々はコーディネイター作成で、受精卵へのジェネティックエンハンスメントにおいて、クライアントのオーダーに基づき技術者にデザインされた塩基配列どおりの形質が胚の育成過程で発現しなかったという例が少なからずあった事が発端とされているんだ」
「それはつまり、たとえば蒼い瞳の子供が欲しくてオーダーしたが、実際に生まれてきた子供の瞳が蒼ではなかったという事か?」
「はい、この現象は生物である母体という装置が不均質であり、それが様々な変数となって胚の育成に影響を及ぼすからと考えたのが、ユーレン・ヒビキ博士です」

 そこで考えられたのが母体の影響を胚が受けない様にする為の人工子宮だ。

「人工子宮・・・」
「ラウラは技術的な問題で人工子宮じゃなかったけど、たしか試験管の中で育ったんだよね?」
「ああ、そうだ」
「人工子宮と試験管・・・違いは無いよね」
「全くだ・・・人間らしく母親から産まれた訳ではないからな、両方とも」

 ラウラは人工子宮の話で深く思う事があったのだろう。自身の出生の事、母親というものが存在しない自分の事。

「話を戻すよ。ユーレン博士は人工子宮を開発した後、考えたんだ。自分の子供を身体、頭脳共に極限まで高めた生命体、スーパーコーディネイターとして生み出そうと」
「ま、まさかキラ・・・お前は」
「箒は気付いたんだね・・・いや、皆も気付いてるか。そう、多くの失敗の果てに僕はユーレン・ヒビキとヴィア・ヒビキの双子の受精卵の内の一つを使われて、唯一成功したスーパーコーディネイターなんだ。僕の本名はキラ・ヒビキ、姉はカガリ・ヒビキ」

 オーブ代表、ウズミ・ナラ・アスハの娘、カガリ・ユラ・アスハはキラ・ヤマトの双子の姉だった。方やナチュラル、方やスーパーコーディネイターの成功体という姉弟。

「それから、ラウ・ル・クルーゼもメンデルの生まれなんだ」
「あの男がですの!? まさかあの男もスーパーコーディネイターなのですか!?」
「落ち着きなさいセシリア、キラが言ってたでしょ? キラが唯一成功したスーパーコーディネイターだって」
「そう、クルーゼはスーパーコーディネイターでも、普通のコーディネイターでもない、ナチュラルだよ。ただし、アル・ダ・フラガというナチュラルのクローンだけど」

 クローン、その言葉に誰もが驚いた。クローンは確かに現代でも存在するが、それは牛や豚などの家畜のみ、人間のクローンなんて誰も聞いた事がなかった。
 勿論、現代の技術を持ってすれば人間のクローンを生み出すのは理論上可能であるという事は知っているが、それでも倫理上の問題からそれを行う者など居ないと考えられていた。

「ファミリーネームから判る通り、アル・ダ・フラガはムウさんの父親なんだ。彼は資産家だった為、後継者として自分のクローンを作る事にした。息子ではなく、クローンとしての自分が家を継いでくれる事を期待して、大金をユーレン博士に渡してクローン製作を依頼したんだ」

 その結果、生まれたのはラウ・ラ・フラガという少年だった。後のラウ・ル・クルーゼと呼ばれる彼は確かにクローンとしてこの世に生を受けたが・・・。

「彼は、クローンとしては失敗作だった。生まれつきテロメアが短く、早い段階で老化してしまい、寿命も短い。だからアル・ダ・フラガはラウ・ラ・フラガを捨てた。結果、彼は失敗作として自分をこの世に生んだ存在を憎み、アル・ダ・フラガを殺して尚、この世の全てに憎悪を向けた」

 それから名をラウ・ル・クルーゼと変え、ザフトに入隊して現在に至る。

「人間を憎むだけの理由があったという事か・・・確かに私も失敗作と呼ばれ、随分と周りを憎んでいた事もあったが・・・それで人類全てを憎むというのは、筋違いも良い所だ」
「思えば、クルーゼはアル・ダ・フラガを殺した時点で狂気に捕らわれていたのかもしれないね・・・その狂気が人類を滅ぼすという選択に導いてしまった」

 話は戻る。メンデルでキラは自分とクルーゼの出生の秘密を知り、アークエンジェルに戻るとザフトが攻めてきた。それと同時にドミニオンも攻めて来て、三つ巴の戦いが始まったのだ。

「その戦いの最中、アラスカでアークエンジェルから降りたフレイがザフトの救命ポットに乗って戦場に全体通信を開いたんだ・・・・・・戦争を終わらせる鍵を持っていると言って」
「鍵? お兄ちゃん・・・如何いう事?」
「戦争を終わらせる鍵・・・か、妙な言葉を使ったものだが、何か意味があるのだな」

 箒の推察通り、フレイが持っていたのは正に鍵と言える。何故ならフレイが持っていたのはフリーダムとジャスティスの機体データ・・・つまり。

「ちょっと、不味いじゃない! フリーダムとジャスティスのデータって事は、Nジャマーキャンセラーのデータも入ってるって事でしょ!?」
「あ、そうか! 確か地球にはニュートロンジャマーがあって、地球軍は核を使えないんだよな。つまり、それが地球軍の手に渡ったら・・・」
「一夏の言う通り、データが地球軍に渡れば間違いなく再びプラントに核が放たれる。その時はそんな事を知らなかったから僕はただフレイを助けたい一心で助けに行こうとしたんだけど・・・結局、助けられなかった・・・フレイはドミニオンに回収されたんだ」

 それが意味するところは一つ、フリーダムとジャスティスのデータと共にNジャマーキャンセラーのデータがムルタ・アズラエルの手に渡り、地球に再び核の力が戻ったという事だ。

「そして始まるのです。地球軍の核ミサイルと・・・ザフトの核兵器、レジェンドプロヴィデンスがキラを落とした兵器、ジェネシスを使ったお互いが相手を滅ぼし合う最終戦争が」

 その激戦の中、キラはアスランと共にフリーダムとジャスティスにミーティアを装備して戦い、プラントに核ミサイルが着弾するのを防ぐ事が出来た。
 しかし、その戦いの最中、ザフトは撃ってしまったのだ。一度放てば敵見方の区別も無く射線上にいるだけで殺し尽くす大量破壊兵器、ジェネシスを。

「ジェネシスから放たれるγ線レーザーは敵味方問わず、多くのMSや戦艦を一瞬のうちに消滅させて、第二射が放たれる準備に入りました」
「ジェネシスは地球をも射程に捉えた兵器だった。もしアレが地球に放たれれば・・・」
「地球上の生命は死滅、してしまいますわね」

 だから戦った。だが、戦いの最中、出てきたのだ。クルーゼが駆る、最悪のMS・・・ZGMF−X13Aプロヴィデンスが。
 プロヴィデンスによってバスターは大破、ストライクも中破してしまい、ストライクとムウはアークエンジェルに戻る途中、ドミニオンが放ったローエングリンからアークエンジェルを守り・・・爆散した。

「僕とクルーゼは戦った。激しい戦いの中、ドミニオンから脱出した脱出艇を見つけたんだ・・・中にはフレイが乗っている。クルーゼはそれを落とそうとしたから、僕は守りながら戦ったんだけど・・・結局、目の前でプロヴィデンスのドラグーンから放たれるビームに貫かれる脱出艇を見ているしかなかった」

 フレイはそこで死亡、初恋だった少女の死がキラの中で何かを燃やした。クルーゼへの憎しみという炎を。

「もうクルーゼは戦闘能力を奪うというやり方じゃあ止まらない。だから僕は死力を尽くして戦って、無我夢中で戦って、フリーダムが大破するほどの激戦の末に、ビームサーベルをプロヴィデンスのコックピットに突き刺したんだ」

 そして、自爆と同時に放たれたジェネシスの光の中にプロヴィデンスは消え、ジェネシスも内部でジャスティスが自爆した事で起きた核爆発によって崩壊、長かった戦争は停戦を迎えたのだった。



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