IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十七話
「天才の姉、凡人の妹」



 第一アリーナ、そこに霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)を纏った楯無と、打鉄・弐式を纏った簪の更織姉妹が向かい合っていた。

「簪ちゃん・・・手加減はしないよ」
「うん、私も・・・全力でお姉ちゃんと戦う。もう、絶対に逃げない」

 蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を構える楯無と夢現を構える簪、お互いに用意は整った。

【試合、開始】

 模擬戦開始の合図と共に、楯無と簪は一気に接近して、蛇腹剣(ラスティー・ネイル)と夢現が火花を散らしなから交差する。

「そこ!!」

 蛇腹剣(ラスティー・ネイル)と夢現が鍔迫り合いをしている中、近距離から簪は春雷を発射した。慌てて避けた楯無だったが、そこから連射された荷電粒子砲に翻弄され、何発か受けてシールドエネルギーを消費してしまう。

「っ! まさか、近距離からの射撃なんて・・・っ」
「キラさんに教えてもらった戦法だよ。近距離からなら、避けるのは難しいから」
「くっ、余計な事を!!」

 簪が自分の知らない所で誰かに戦い方を教わり、強くなる。それが面白くない、それがキラに教わったものだというのが、何よりも気に入らない。
 本当なら、簪の専用機作りも手伝ってあげたかった。
 頼ってくれれば何時だって手伝ったし、完成したら自分が簪に色々と教えてあげたかったのに、簪が専用機作りで頼ったのはキラ、手伝ったのもキラ、完成してから色々と教えたのもキラ・・・全部キラだ。
 何故・・・何故、簪の実の姉である自分ではなく、赤の他人でしかないキラが、簪にこんなにも頼られ、慕われているのか、それが・・・憎かった。

「簪ちゃん・・・本当にお姉ちゃんの妹を辞めるの?」
「・・・お姉ちゃんは、少しやり過ぎ。もう、任務とか関係なくキラさんに対して敵意を持って行動してるから・・・そんなの、今までのお姉ちゃんじゃない。私が憧れたお姉ちゃんのやり方じゃない。だから・・・」

 だから、簪は自身の力で楯無の目を覚まし、そして・・・長年のコンプレックスを、今ここに、晴らしてみせる。

「打鉄・弐式!!!」

 連射していた春雷を止めてマルチロックオンシステムを立ち上げると、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の各所をロックしていく。

「山嵐、フルバースト!!!」

 48発のミサイルが一斉射され、逃げ回る楯無を追いかける。
 楯無は追いかけて来るミサイルに舌打ちしながらも、命中しそうになったミサイルを清き情熱(クリア・パッション)で落として行きながら、簪に反撃に出る用意を整えた。

「そろそろ準備運動もこの辺にしますか・・・簪ちゃん、覚悟してね」

 蒼流旋を展開して構えると、ミサイルの合間を縫って飛び、一気に簪の前まで移動した。そのまま一突き入れようとしたのだが、夢現に阻まれる。しかし、蒼流旋はその程度では防いだとは言わない。

「きゃあああああ!?」

 蒼流旋に内蔵されたガトリングガンから無数の弾丸が放たれ、打鉄・弐式のシールドエネルギーを一気に削っていく。
 このままトドメと清き情熱(クリア・パッション)を使おうとしたのだが、背後からミサイルが迫るのを見て離脱しようとしたのだが、その瞬間・・・。

「ぐっ!? か、簪ちゃん!?」
「逃がさない・・・一緒に受けて貰うよ、お姉ちゃん」
「っ!」

 簪にガッシリと掴まれて離脱出来なくなってしまった。もう振り払っても間に合わない距離にミサイルが迫ってきたので、せめてもの抵抗とばかりに蒼流旋のガトリングでミサイルを落として被弾する数を少しでも少なくする。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・む、無茶するわ、簪ちゃん。自分だって落ちる可能性があったのに・・・?」

 ふと、気が付くと楯無の後ろには簪が居なかった。何処に行ったのかとハイパーセンサーを駆使して探すと、自分より遥か上の所に浮いていた。
 見れば山嵐と春雷の砲門を展開して構え、マルチロックオンシステムで楯無をロックしている。

「ま、まさか・・・」
「キラさん直伝! ハイマットフルバースト!!!」

 打鉄・弐式にはハイマットモードが無いので、正確にはハイマットフルバーストではないのだが、何となくだけどこの名前を気に入って付けてみた簪だった。
 山嵐のミサイル48発と、春雷の連射型荷電粒子砲が一斉射され、一直線に楯無に迫る。今度は先ほどの山嵐のみのフルバースト以上の速度で襲い掛かる攻撃に流石の楯無も冷や汗が流れた。

「って、避けないと不味い!!」

 残りシールドエネルギーが300を切っているのだ。これ以上の被弾は流石に不味いので必死になって避けながらミサイルを落としていく。
 だが、次々と連射されてくる荷電粒子砲を避けながら無数のミサイルを落とすのは容易ではなく、何発かミサイルや荷電粒子砲が掠ってシールドエネルギーが残り147になった。

「くっ・・・なら、使うしか無いわね」

 霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の全身に覆われていた水が急速に引いて一箇所に集中していく。
 攻撃を回避しながらなので、集中力を分散しながらの作業に一苦労してしまうが、少し発動まで時間が掛かる程度、天才・更織楯無にはその程度、問題ではない。

【ミストルティンの槍、発動】

 霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)最大の攻撃、ミストルティンの槍が発動した。
 一箇所に集められたナノマシンの水が膨大な攻性エネルギーとなって発射され、ミサイルや荷電粒子砲を薙ぎ払いながら一直線に打鉄・弐式に襲い掛かり、飲み込む。

「そ、そんな・・・っ! きゃあああああああああ!!?」

 この一撃で、打鉄・弐式のシールドエネルギーが469から21まで減ってしまった。ギリギリで残っていたが、機体各所がスパークして、これ以上動くのは不味い状態になっている。

「これで終わりよ、簪ちゃん」
「っ・・・まだ、まだ負けない。私は、まだ諦めてない!!」

 夢現の振動数を最大にして振り上げる。まさかの抵抗に驚いて咄嗟に蛇腹剣(ラスティー・ネイル)で受け止めたのだが、振動数を最大に引き上げた夢現の刃を受け止めた時、蛇腹剣(ラスティー・ネイル)の刃が罅割れ、砕け散った。
 そのままの勢いで夢現の刃は霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)のボディに当たり、装甲を削りながらシールドエネルギーを10まで落とす。

「っ! これで!!」
「それは、こっちのセリフよ!!」
「「はああああああああああああっ!!!!!!」」

 お互い、最後の一撃と夢現を振る簪と、蒼流旋を振る楯無。その決着の行方は・・・蒼流旋によって大きく逸らされた夢現が空を切った状態で制止して、打鉄・弐式のボディに蒼流旋が突き刺さっているのを見れば明らかだった。

【勝者、更織楯無】
「・・・私の勝ちだよ、簪ちゃん」
「うん・・・負け、ちゃった」

 確かに簪は負けた。ギリギリまで追い詰めたのに、一歩届かずに敗れてしまった。なのに、負けた簪本人の表情に悔しさという感情は見られない。逆に清々したと言いたげな晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいる。

「何で、簪ちゃん・・・笑ってるの?」
「だって、私、お姉ちゃんをここまで追い詰める事が出来たんだもん。今まで、ずっとお姉ちゃんには追いつけないって思ってたのに、私・・・ここまでお姉ちゃんと戦えたんだもん。凄く、満足してるよ」

 今まで、簪は楯無には勝てないと思って、自分に自信が無くなり、臆病になっていた。だけど、今回の戦いで楯無のシールドエネルギーを10まで削る事が出来たのだ。
 学園最強と言われている楯無を相手に、天才である楯無に比べれば凡人でしかない簪が、だ。それは簪にとっても大きな意味を持っている。

「ねぇお姉ちゃん、キラさんとお話しようよ。ちゃんと真正面から話せば、あの人はちゃんと向き合ってくれるから」
「それは、嫌」
「お姉ちゃん! いい加減にしないと、本気でお姉ちゃんのこと、嫌いになるよ?」
「そ、それは! そんな!?」
「なら、お願い・・・ちゃんとキラさんと向き合って話して」
「・・・・・・はぁ、わかったわよ」

 何でだろう、随分と姉妹の間の会話が無かったのに、今は二人とも何も憚る事なく話が出来る。楯無は簪と、ずっとちゃんと話したかったから、嬉しい事だけど、簪は何故なのか。
 それは、多分・・・簪の中で、楯無に対するコンプレックスが消えたからなのだろう。姉を見る目が、今までと全く違う。怯え、嫉妬、そういった負の感情が消えて、姉妹は再び笑い合いながら手を取るのだった。



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