―――諸悪の根源は金そのものではなく、金に対する愛である。
面白い考え方だ。
人は誰が愛しい者を奪われた時に殺意を抱く。
同じように、金の為に殺意を抱く。
という事は、金の為に人を殺す人間は、人ではなく金を愛しているという事なのだろう。







「第十七皇位継承者、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下ご入来!」

 扉が開き、謁見の間にルルーシュが入ってくる。
 最初に皇帝の前に引き摺られてきた時は、自分と皇帝以外の誰もいなかったが、今回は違う。
 長兄のオデゥッセウスを始めとする皇族や大臣が勢ぞろいしている。

 そして皇帝の前に来ると、静かに頭を垂れる。
 瞳の奥に殺意という名の激情を灯したままに。

「ルルーシュよ。惰弱なEUがエリア11の騒乱に付け込み、我がブリタニアへの反抗を企てておる。
お前の直属として新造の航空艦一隻と我が騎士レナードを一時的に貸し与える。アイスランドの第七皇子ジョセフの下に付き、彼の地を制圧してみせよ」

 ルルーシュは思わず、怒りを表情に出しそうになった。
 向かう先がアイスランドというのはまだいい。
 現在アイスランドではブリタニア軍とEU軍が睨みあっていて、長い間膠着状態が続いている。
 それを打開する為にナイトオブラウンズを派遣するというのは理にかなっているし、直属が戦艦一隻でも現地で兵を借り受ける事も可能だろう。
 ルルーシュにとっての苛立ちの原因は、アイスランドのブリタニア軍の総司令官である第七皇子ジョセフにあった。
 ジョセフは謂わばブリタニアの皇族らしい皇族で、かなり権勢欲と上昇志向の強い男で、更に言えば平民出の后妃であるマリアンヌの子でありながら、皇族内でも聡明と名高かったルルーシュを毛嫌いしている。
 先ず間違いなく一波乱あるであろう。
 ギアスで支配してしまえば最も手っ取り早いが、ギアスの存在自体が皇帝に知られている以上、下手に使いそれがバレれば最悪ナナリーを殺される危険性すらある。
 
「レナードよ。先に言った通りお主は暫くルルーシュの指揮下に入れ」

「イエス、ユア・マジェスティ」

(いいだろう、シャルル・ジ・ブリタニア・
今の所は精々貴様に使われてやる。だが…………)

 いずれ、貴様をその玉座から引き摺り下ろし話して貰うぞ、八年前の真相を。
 そして貴様のこのブリタニアという国をぶっ壊す!


「おかえり。ルルーシュ」

 インバル宮に帰ったルルーシュは不機嫌そうにC.C.を一瞥するが、何も言わず腰を下ろした。
 だがまあ、不機嫌なのは普通のことだ。
 なにせブリタニア本国に連れてこられて以来、ルルーシュは一度たりとも機嫌を良くした事はないのだから。

「しかし、アイスランドか。
また妙な場所に送られたものだな、お前も」

「アイスランドに何かあるのか?」

「ああ。あそこには神根島と同じような遺跡がある」

「神根島の? という事は前にお前が言っていたギアス嚮団とやらの……。
待て、C.C.。という事はまさか今まで侵攻した国にも同じような遺跡が」

「察しがいいな。その通りだよ、坊や。
尤もそうではない国もあるがな」

 ブリタニアが過去侵攻した国の殆どに、神根島の遺跡と同じようなものがある。
 その事実はルルーシュにも無視できないものであった。
 もし仮に皇帝が各国を侵略する目的が世界制覇ではなく、遺跡ならば一体全体その理由はなんなのか。
 クーデターを目論むルルーシュとしては、なんとしても知っておきたい情報だ。

「奴の目的はなんだ?」

「答える気はない。自分で考えるんだな」

 C.C.からは予想通りの回答が返ってきた。
 この女にはギアスが効かないので、情報を吐かせることも出来ない。

「そうだな。お前に期待しても無駄か」

「そうだ。ああ、それと私も行くからな」

「…………なに?」

 何を馬鹿を言っているんだ。
 C.C.がどんな理由で皇帝と顔見知りなのかは知らないが、軍属でも皇族でもなんでもないC.C.が戦艦に乗り込むなど出来る筈がない。

「安心しろ。シャルルが適当な身分を用意した。ほら、名刺もある」

 名刺を受け取ると、そこには『皇帝直属特別参謀官』という聞いた事もない役職が記されていた。
 だが皇帝のサインがあるので、正式なものには違いない。

「これをどうやって」

「良い女には秘密があるんだよ。
ああ、それと食堂にはピザを用意しておくんだぞ。
私は寝る。」

「おいっ! まだ話は――――」

「おやすみ。ルルーシュ」

 完全に無視してC.C.は勝手に使っている寝室へ行ってしまった。
 
「勝手な女だ。
今まで皇族や貴族は色々と見てきたが、あれほど傲慢な女は見た事がない」

 まあいい。
 C.C.一人に何時までも時間をとっている訳にもいかない。
 自分には、直属と成る部下の顔を覚えたり、書類の整理をしたりなどやる事が山ほどある。
 軟禁状態でやる事が全くなかった昨日とは随分な違いだ。

 部下になる人員をデーターを眺めていると、気になるものを見つけた。
 配属される何人かのデータにギアスの紋様が小さく描かれている。
 恐らく嚮団関係者だろう。
 自分が裏切らないように監視をつけたか。
 手際のいいことだ。
 そして最後の一人、レナードのデータを見ると少しだけ笑みを浮かべた。

「一時は腹立たしくもあったが、皮肉だな。
俺の直属となる部下で、最も信頼出来るのはお前か」

 能力も申し分ない。
 レナードはあのスザクとは違い、KMFの操縦だけではなく指揮官としても有能だ。
 
「ナナリー、後少しだけ待っていてくれ。
必ず……必ず皇帝を倒し、お前を」




 懐かしい本国の開発室の扉を開き中に入ると、そこには主任を始めとする技術者が勢ぞろいしていた。
 しかしかなり長い間留守にしていたのに、埃一つない。
 清掃が行き届いている証拠だろう。

「准将……いえ、少将。これがそのデータです」

 主任から報告にあった"データ"を受け取る。
 うん、中々の出来だ。

「そしてこちらが、ルルーシュ殿下の旗艦となる浮遊航空艦アースガルズです」

「ほう……これは凄い」

 艦全体を覆うブレイズルミナスによる鉄壁の防御力。
 主砲にはガウェインのものを流用した大型のハドロン砲。
 推進力もアヴァロンよりも上だ。
 これにラウンズのKMFが加われば、それだけで戦略なんて引っくり返せそうだ。

「もしかして、これが次代の戦艦となるのか?」

「いえ、それは難しいかと。
確かに性能は素晴らしいのですが、そのぶん軍全体に回すとなるとお金が……」

「なるほど。金がネックになるのか」

 やはり、そういう落とし穴があったか。
 何事も上手くはいかないものだ。

「まあいい。それより例のアレは」

 一番気になっていた事を訊ねた。
 今日ここに来たのは他でもない。
 なんでも、もう直ぐ専用機が完成するというのだ。

「後は最終調整を残すのみです。
出来れば、少将が任地に赴く前に完成させたかったのですが……」

「それはいいよ。
間に合わせで作った機体よりかは、時間が掛かっても完全な機体に乗りたい」

「ありがとうございます」

「結局、俺が最後だな。
他のラウンズは全員が全員、専用機を持っている。
未だにグロースターなのは俺だけだ」

「申し訳ありません。
ですが、遅くなった時間を無駄にはしません」

「それは結構。
俺も乗るのが楽しみだ」
 
 主任は静かに微笑えむ。
 レナードの専用機は、もう直ぐ目覚めようとしていた。



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