外伝その334『プリキュアと英雄たち2』


――2010年代の日本は戦後に醸成されたとされる『一国平和主義』が国民の世代交代で崩れ始める時代であった。扶桑への政治的干渉に失敗し、扶桑から『自分達の都合で体制を変えようとするな』と忠告を受け、扶桑皇国がついに精鋭部隊による日本の政治中枢の制圧もあり得ると示唆した。日本の政治家の一部は扶桑軍を時代遅れの軍隊と嘲笑したが、海軍は21世紀基準の現用機を保有し、空軍は宇宙戦艦を保有し、MSやスーパーロボットも有しているという事実が明らかになると、外地を獲得してしまい、本土の自衛隊すら人手不足が顕著である中、学園都市の兵器よりも超兵器である『ゲッターロボG』や『ブラックグレート』の存在は『高を括っていた』左派政治家達を恐怖させた。21世紀のいかなる兵器も寄せ付けない『動く要塞』。装甲が比較的脆弱であった初代ゲッターロボと違い、本格戦闘用として製造され、『初代の10倍の出力』を誇るというゲッターロボGの謳い文句は日本の左派を恐怖のどん底に陥れた。ゲッターロボGはさらなる後継機の真ゲッターロボの存在がある年代から上の世代には比較的マイナーであったので、『ゲッタードラゴン』は最強のゲッターロボとして知られていた。それの実物を有している事が通告されたため、政治家を恐怖のどん底に陥れた。――



――日本の国会――

「扶桑は超文明から得たスーパーロボットを有している!それで我々を脅してきた!」

「彼の国をどうにかできないのか!」

「彼の国は大元帥である天皇陛下の裁可が下れば、即座にこちらへ主力を送り込めます。それに、扶桑の最精鋭はこちらの陸自の主力を一人で薙ぎ払えるのですぞ?戦線の様子をご存知でない貴方方には分かることはないでしょうな」

黒江や智子を始めとして、下手なプリキュアより上の次元の強さを持つ者が最精鋭に位置づけられているため、もし、扶桑を怒らせれば日本に為す術はないとする防衛省。彼らが扶桑Gウィッチの猛威を一番よく理解しているからだ。

「ゲッターロボGは最強のゲッターロボだ、それをどこで…」

「お言葉ですが、ゲッタードラゴンより上位のゲッターロボは存在しております」

「馬鹿な、ゲッターロボGより強いゲッターロボだと」

「真ゲッターロボ。ゲッターロボGの後継機種であり、ゲームでは最高位機種として鳴らす最強のゲッターロボです。それでないだけでも御の字ですぞ」

ゲッターGを超える真ゲッターロボ。その資料を入手していた防衛省は議員達に説明する。その驚異のパワーを。

「もし、真ゲッターロボが彼の国にあれば、米軍も一捻りでしょう。ゲッタードラゴンとは屈強な大人と子供ほどの差があります」

真ゲッターロボの姿は未来世界に存在するものの写真が提示される。原作漫画版の意匠を持つバージョンであり、ゲッタードラゴンよりも大柄である。ただし、操縦系統はネオゲッターロボと同じ系統で、ストナーサンシャインはあるし、瞳もあるが、漫画ほどの超常姓はない機体と説明される。

「真ゲッターロボは従来型を遥かに凌ぎますが、超人しか乗れないゲッターロボではありません。加えるなら、初代ゲッターチームに伍する耐久力がある者なら、プリキュアでも乗れます」

「統括官は乗れると断言しておりますが、クレームで断念したと連絡が入っております」

「クレーム?」

「真ゲッターに乗れるのは初代チームだけだ、という類のクレームですよ。ゲッターチームは確かに屈強な者たちで固められておりますが、戦死した巴武蔵の例を見ても、頑丈であればいい。それに、耐性さえあれば、女性でも乗れます。橘翔という女性が二代目チームにおります」

「統括官の対応は?」

「ドラゴンを限度までチューンした機体を使用しているとのことです。それと、陸自で扶桑本土を制圧させるとする、○X▲党の試案ですが、キュアドリーム、キュアピーチ、キュアメロディと言った、歴代のプリキュアでも戦闘力で鳴らした者たちが扶桑軍に在籍中であります。我が自衛隊に勝ち目はありませんよ」

防衛省高官は淡々と述べる。ドリーム、ピーチは歴代のプリキュアでも『猛者として鳴らす』古強者。自衛隊の戦力では止められないと明言する。

「いいですか?もし、扶桑が激怒すれば、動く要塞と喩えられるスーパーロボットが海自を制圧し、物量で空自は沈黙し、陸自は一日持てば御の字ですよ。その間に歴代のプリキュア達が政治中枢を抑え、歴代の仮面ライダー達がプリキュアに協力すれば、警察など木偶の坊ですよ。在日米軍は静観するでしょうし、扶桑皇国の外地になるのが関の山ですよ。東京に戦艦大和と武蔵が主砲を撃ち込めば、それこそ大惨事ですよ。むしろ、プリキュアに攻撃とか言ったら抗命者続出で自衛隊が崩壊、下手すれば、陸海空の丸ごとが向こうへ寝返りますな」

「馬鹿な!たかが…」

「それがプリキュアの力ですぞ、議員」

扶桑皇国本土を自衛隊で制圧し、扶桑国家を解体し、日本国の一外地にすべきという左派の掲げた極論は防衛省の回答で泡と消えた。戦後日本人が失った戦前戦中の『激情性』を扶桑は持ち、火がつけば、外征型軍隊である扶桑に自衛隊は為す術無く、数日で無力化させられることが歴然たる事実として掲示された事で、扶桑への政治的干渉は収まり始める。左派が押し通した施策で引き起こされた社会的混乱は看破できるものではないが、日本にできる禊は少ない。

「貴方方の思い込みと傲慢が現地の混乱を招いたのです。その禊をどうなさるのです?貨幣価値は愚か、歴史も違う、社会的責任の在り方も違う。日本によく似た歴史を辿った別の国なのですよ?貴方方は戦後の進駐軍を気取っておられるようだ」

防衛省なりの政治家への痛烈な皮肉であった。日本の左派は高圧的に扶桑関係者に接し、活動家などの流入で現地社会に多大な混乱を招いた。軍隊志願数の激しい減少、ウィッチ専門教育担当の女性軍人を普通教育現場から追放した事による軍内でのポスト喪失(Rウィッチが増加した一因でもある)の代替ポストの不在、任官間近であったはずの訓練生達の雇用問題など、問題は山積していた。東二号作戦を潰し、黒江達の負担を激増させた上、ウィッチの社会的地位を失墜させかねない混乱を招いた。これが加速した日本の左派の暴走の結末であった。この国会で、左派の『扶桑が軍事力で日本連邦の組織内の発言力を握るのではないか』という被害妄想が最終的に木っ端微塵にされ、扶桑が行った施策の追認と、状況を鑑みた改善が評議会で協議される事になった。この時に戦功を挙げていた黒江を作戦完了後に中将へ昇進させ、智子と圭子を少将へ任ずる事が内定した。また、現時点で軍籍を得たプリキュア達を戦功に応じて、『事後』に軍隊階級を昇進させる事になった。(同時期のカールスラントでは、教育係曹長の地位に固執していたエディータ・ロスマンが『特務士官』の新設の対象第一号になった事に部内で賛否両論だが、元・将校の父を持ち、階級が曹長のままである事で不和になっていたことを解決できる唯一無二の手段として、カールスラント皇帝がどうにか捻り出した手段であった)日本連邦は自衛隊と扶桑軍で人事考査を統一する思惑もあった。防衛省は、下士官を士官へ昇進させる上でのクッションとして、従来の特務士官に代わる制度として、『准尉』の階級を設けさせ、叩き上げが新規でエキスパートと認定された場合の階級と定める事になり、設立以後は海軍の従来の制度で任ぜられし特務士官は一律で兵科将校と扱う事で、軍令承行令の形骸化を狙った。もともと、その規則は戦時下の海軍内部の指揮序列を定めるものだったが、日本の介入で兵科将校の拠り所が瓦解したことで、むしろ、旧・特務士官勢が兵科将校を『統制する』構図が確定した。航空隊では特に顕著であり、空軍では、海軍特務士官の出である赤松が黒江達を実質的に統制するなど、『特務士官の権勢』がむしろ確定したと言っていい。かと言って、元・特務士官出身者が権勢を奮うことで、正規の兵科将校になる事の魅力が薄れてしまう事が危惧されており、給与面と昇進の速度で兵科将校(統合士官学校卒)と准尉出身者で、一定程度の差をつける事で折り合いがつけられた。空軍はその問題はないため、現場の裁量権が大きく、64Fでも、元・特務士官が正規士官の作戦案を精査し、内々で承認を出す事が当たり前となっており、サーシャが追放された理由の一つとして、オラーシャへの説明にあたっての大義名分とされた。サーシャは正座を懲罰に使用しており、黒江達が日本に政治問題にされるのを恐れていたものの一つである。サーニャとのいざこざはきっかけの一つであるが、追放の理由としては弱いのである。サーシャは有能であるが、気質が堅物すぎる上、Gウィッチに否定的であった。特に、他の統合戦闘航空団との統合に否定的であった上、サーニャを罵ってしまった事で、エイラのみならず、イリヤ(サーニャ)、美遊・エーデルフェルト、クロエ・フォン・アインツベルン、夢原のぞみの反感を買ってしまったのが止めであった。特に、美遊・エーデルフェルトとのぞみの怒りはエイラも真っ青になるほどで、頭から湯気が出るほどで、カチコミしようとするほどであった。その直前で赤松に諌められたが。

「なお、統括官から、ロシア系の隊員が問題を起こしたので、除名処分にしていいかと連絡が入っておりますが、ロシアとの揉め事はこれ以上は勘弁ですので、差し止めております」

黒江からサーシャの問題が上がってきた防衛省だが、サーシャに非があるとは言え、ロシア系の人員をあからさまに冷遇すると、学園都市との戦争に大負けしたロシアの激情に火がついて、核ミサイルをやぶれかぶれで撃たれる危険がある。この人事問題は評議会でしばし協議される事になる。ちなみに元々、501は『坂本とバルクホルンが飛行隊長、坂本引退後の後任にシャーリーが予定され、その教育中』という体裁だったが、アフリカを含めた統合戦闘航空団と統合戦闘飛行隊が統合されてしまった結果、寄り合い所帯感が強くなってしまった。更に、隊員に転生者が続出し、錦、シャーリー、芳佳、ミーナ、美遊・エーデルフェルト、イリヤ(サーニャ)、クロ、黒田、ハインリーケ、ペリーヌと、隊員の多くが転生者という事になってしまった。黒江達が追加で送り込まれていた事も事態を複雑化させた感があり、サーシャは余計に孤立してしまった。更に、芳佳、シャーリー、錦、ペリーヌ、竹井が相次いでプリキュアに覚醒したので、階級が似たり寄ったりの各隊長の合議制では部隊の運用や運営がままならなくなった。そこに偶々、扶桑の精鋭部隊である64Fが活動を再開し、黒江達がその幹部である事、艦艇を引っさげてきた事、その長である武子が将官であること、64に組み込んで、転生者である武子にまとめて管理させたほうが適当とされ、統合された統合戦闘航空団は実質、64Fに取り込まれた。それもサーシャの人事処理の遅延に繋がった。そのため、501の人員は武子直属の第一大隊である『新選組』に組み込まれているのだ。

「自発的転属に持ち込ませるよう促すしかないな。統括官にはそう伝えておくように。根回しは山本五十六国防大臣にお願いする。統括官の部隊はなんというかね」

「ストライクウィッチーズ。アニメ通りなら、そう呼ばれていた部隊です」

ストライクウィッチーズ。その名は元501出身の隊員が機体につけられるエンブレム、編成上の大隊名などに名残りを残すのみになった。各統合戦闘航空団と統合戦闘飛行隊の独自エンブレムは機体に描かれる事で、その存在を留めた。ただし、原隊で同僚かつ、エレメントの菅野と芳佳は343空でのカラーリングなどを各統合戦闘航空団のエンブレムよりも優先して書かせているし、孝美はマイティウィッチーズでの活動実績がないため、343空関係のもののみだ。また、黒田もノーブルウィッチーズでの活動実績はないので、圭子に仕えていた時同様、アフリカの部隊エンブレムを書かせている。(ペリーヌは英霊、プリキュアとの三重属性である事から、隊長に推されていた事もあり、彼女のパーソナルエンブレムという形でノーブルウィッチーズの予定されたエンブレムを使用した。また、ハインリーケ/アルトリアも戦闘隊長を予定されていた関係で使用)また、のぞみと竹井はその存在を理由に、アルダーウィッチーズのエンブレムを使用しないなど、広報の思惑とは外れた。ただし、広報にアストルフォが協力していた関係で、『あざといポーズのキュアミューズ』という構図のポスターが使われたという。武子は広報には理解があるほうであり、アストルフォをこき使っており、この質疑に出席している議員の何割かは武子に買収されていた。アストルフォはノリがいいが、理性が蒸発しているのが難点。プリキュアの姿ならば、理解が宿るため、普段はキュアミューズの姿でいるようになり、同じチームのシャーリー(北条響)を閉口させている。この国会中継を喫茶店で見ていたマーチとフォーチュンも、国会中継に若干呆れているようだった。

――喫茶店――

「うぅ、視線が気になる…」

「占い師を趣味でしていたろうに」

「あれはバイトです!」

クリームソーダを頼んだフォーチュン。コーヒーを頼んだマーチ。マーチのほうが若干ながら大人っぽさを見せている。意外にポンコツであるのはフェリーチェとルージュしか知らない。

「そうか、ではこれからは街を歩くのは広報活動の仕事と思って割り切れ。有名人は見られるのも仕事だ。仮面ライダーV3も言っていた」

V3はメディアへのあたりが良い仮面ライダーであり、キザっぽいキャラもあり、昭和ライダーのスポークスマン的な活動もしている。V3ははーちゃん、りん、なお(ラウラ)に『メディアへの露出の心構え』を説いており、子供の夢を壊ないように努めろと言っている。フォーチュンもアニメでのイメージを意識しているが、時たま素を覗かせる。ルージュはアニメでの自分を意識せずに自然体。はーちゃん/フェリーチェは素が天真爛漫であり、アニメより前からススキヶ原にいたので、逆に『アニメのモデルになったプリキュア』という形で認知された。

「はーちゃんを見ろ。中高大と、普通に学校に行って、中高生時代は通学の帰り道に変身して、町のトラブル解決をしていたのだぞ」

「んなっ!?」

「その辺りはこの町も荒れていてな。はーちゃんが中学に行き始めた時期は学園都市という、この町の隣にある都市が絶頂期兼混乱期を迎えていてな……」

はーちゃんがのび太の二年後輩として、2003年に中学生になった頃は学園都市の繁栄が絶頂期に向かいつつあった頃に相当する。この頃から徐々に能力者が増え、ススキヶ原で能力を悪用して犯罪を犯す者、学園都市のならず者が憂さを晴らす場所になり始めた。2004年、なぎさとほのかの最初の戦いの物語がアニメとして放映されるようになると同時に、『プリキュア戦士』の存在が認知されると、中学からの帰りなどに、町のトラブルをキュアフェリーチェとして解決するという、かの佐倉魔美を彷彿とさせる活動を始めた。調も協力しており、その辺りは佐倉魔美と高畑和夫の再来であったと言える。その活動は現在でも継続しており、のび太の子であるノビスケ自慢の叔母(戸籍上)かつ、姉代わりである。

「それで、2004年頃になぎささんとほのかさんの最初の戦いがアニメという形で世に知られるようになった辺りで活動を始め、アニメがプリンセスから魔法つかいに代替わりする際にモデルになったという、逆転現象が起こったのだ。ドリーム達の存在がこの世界に知られたのは、ここ最近の事だからな」

「逆転現象っていって良いのですか?」

「モデルになったのだ、そういって差し支えないだろう。はーちゃんもそう公言しているし、アニメの放映期間中のコミケでは注目の的だったそうだ」

「うーん…」

「既にお前達の戦いも放映済みだし、実物が動いている点でも、私達は注目されるのだ。プリキュアの宿命のようなものだと思え」

マーチは落ち着いている。その点はラウラ・ボーデヴィッヒとしての落ち着きが出ていると言える。(発言はポンコツな事も多いが)店に置かれている新聞には、超獣戦隊ライブマン、太陽戦隊サンバルカン、ジャッカー電撃隊などの歴代スーパー戦隊のレッドがメロディとハッピーを救うところのスナップショットが一面を飾っている。

「この新聞を見てみろ。全国紙でこれだ」

「こ、これは!」

「メロディとハッピーのピンチをスーパー戦隊の歴代のレッドが救う時のショットだ。敵は強いからな。彼らは正面から怪人を倒せるが、メロディとハッピーの代からは完全に浄化技がメインになる。こういった場面は実のところ多い。後で見せるが、転生した先の肉体の都合でタブーを破ったプリキュアもいる」

「どういうことです」

「慣例として、私達には剣をよほどの場合でない限りは剣として使わないというものがあるだろう?ところが、転生した先の肉体の技能の都合で剣技のほうがしっくりくる例がでた。ドリームだ」

「確かにドリームは歴代でも珍しく、剣戟の経験がありますが…?」

「ああ。近年はラブリーが有名だが、ドリームは転生先がその世界の日本軍で有名な家(中島家は代々、武門で名を馳せてきた名家である)でな。その関係で剣技を使う必要が出た」

マーチはドリームの苦労に言及する。表向きの登場理由をもっともらしくするため、剣戟を増やす必要が生じたと。

「その関係で、超獣戦隊ライブマンのレッドファルコン、太陽戦隊サンバルカンのバルイーグルなど、剣技で鳴らすリーダーに講師を依頼し、仕込んでもらっている。表向き、転生先の人物が覚醒したと説明してるから、もっともらしくせんとならん」

64Fはジャッカー電撃隊、太陽戦隊サンバルカン、超獣戦隊ライブマン、光戦隊マスクマン、高速戦隊ターボレンジャーなどと協力関係にあり、64Fの装備の改良が迅速なのは、彼らの力も大きい。彼らを通し、装備の改良が迅速に行われるため、『見かけは同じだが、発揮するスペックは別物』と称される。その関係で、戦闘で刀身が欠けた『スターライトフルーレ』を修理してもらったドリームは、彼らへの恩返しも兼ね、超獣戦隊ライブマンのレッドファルコンから予備のファルコンセイバーを借り、使用している。(錦の愛刀の使用にクレームがついたので、同じヒーローのものなら…という事で、借りた。黒江は『バルカンスティックでも、バルイーグルから借りろよ』と言っている)

「それに、日本は軍隊にまでPTAだが、市民団体が妙なケチをつける国でな。『彼ら』から剣を借り受ける羽目になったと連絡があった。プリキュアが剣を使わんと誰が言った?まったく…。初代の神格化はドリームとピーチが一番に望んでいないことだぞ」

「は、はは……」

クリームソーダを飲みながら、苦笑いのキュアフォーチュン。徒手空拳で戦うことが神聖化されがちなプリキュア界隈だが、ドリーム、ビューティー、ラブリーなど、剣を使った経験があるプリキュアも多い。マーチはブラックとホワイトの神格化を否定するスタンスであり、今や、軍隊入りしたドリームとピーチの二人の懐刀的なポジションにいる。

「転生先の出自として、剣を使わんと、ドリームは逆に不審がられるんでな。日本刀にケチがつけられたのなら、借りるしかなかろう。サンバルカンがウラル方面に出張中だから、ライブマンに借りたとか」

ドリームが剣戟を行う背景には、中島錦が転生の素体になったという事情が絡んでいる。さらに、剣戟でラブリーが鳴らしていた事へのライバル心も絡むもので、割に複雑である。浄化が主体となった後の代のプリキュアからは奇異に思われるだろうが、倒すしかない者も世の中には存在するのだ。身勝手極まりない理由で世界征服を目論んだ集団(ライブマンの敵であった武装頭脳軍ボルトなど)もいたので、尚更だ。『悪魔に魂を売った者は倒すしかないが、せめて魂だけでも救ってやれ』とは、超獣戦隊ライブマンの初期メンバーがドリーム達に言い聞かせている言葉である。

「『悪魔に魂を売った者は倒すしかないが、せめて魂だけでも救ってやれ』と、超獣戦隊ライブマンから言われたそうだ。後輩連中にも言って聞かせたいが、反発も出るだろうな」

「超獣戦隊ライブマン?」

「昭和の終わりに活躍していた、スーパー戦隊の一つだ。私達からすれば、遠い昔の事だがな」

令和へ更に改元されていた後の時代からすれば、光戦隊マスクマン、超獣戦隊ライブマンが活躍していた昭和の最末期は『遠い昔』の事だ。彼らの薫陶を受ける事は名誉なことだが、『悪魔に魂を売った者は倒すしかないが、せめて魂だけでも救ってやれ』というライブマンの一言を聞かせたいとするマーチだが、浄化メインになって久しい時代のプリキュアからは反発が生ずると予測した。

「……そうだな、例えば、『HUGっと』のキュアエールはなんと言うだろうな。『悪魔に魂を売った者は倒すしかないが、せめて魂だけでも救ってやれ』と言われた暁には」

「あの子の事だ。おそらくですが、反発するのは予測できます」

「応援は力になるが、のぞみのように、大人になった後に挫折してしまう一因にもなる。いじめもそうだが、深刻な問題になる。はな自身がかつて『そうだった』ように、世界は優しいわけではないからな」

ドリームの事になると、どことなく影が差す物言いになるマーチ。これは前世でのぞみが大人になり、家庭を持った後、自分の子に厄介者扱いされたショックで心が壊れてしまった後、病を患い、世を去ってしまったりんやかれんの遺言で、のぞみの身の回りの世話を引き受けていた経緯によるもので、これがドリームからマーチがルージュと同等に信頼を寄せられている理由である。

「ある方は言っていた。『正常位じゃ、誰もイけねえんだ』と。『永遠を生きなベイビー』なんて、洒落た台詞回しをするのは柄でもないが、全ての人がいじめを笑って許せるわけじゃないし、子が親を否定した結果、心が壊れてしまった親はどうすればいい?はなの想いを否定はせん。だが、はなが遭っていたものは、いじめの一面的なものにすぎん。世界はもっと残酷なものだよ」

「黙って待つのも応援、声をかけられることがプレッシャーとしてのしかかり応援される人を潰してしまう事も有る。だから、あえて何も言わないという応援も成り立つんだ。のぞみは前世でやったことに比して、あまりに報われない最期だった。それが私やりんの心残りでな。子供に自分の生き方を否定されることは、下手ないじめより堪えるものだぞ、いおな」

「なおさん…」

「のぞみはプリキュアとして戦うことを絆の象徴として考えている。あいつはその事で、心にトラウマを抱えている。それを乗り越えさせたいのだ。暗がりに立ち竦んでるヤツは無理矢理引き摺り出そうとしても余計に傷付くだけだ、灯りを灯し道を照らし先を進んで見せる事でついてくる、そして追い越そうとするきっかけを与えて待つのが一番良いのさ。本人が自ら立ち上がらなきゃ、差し伸べた手が無駄になるだけさ」

「なおさん……変わりましたね」

「前世の後半生はあいつの世話に費やしたしな」


キュアエールこと、野乃はなは少女同士のいじめの被害者であったが、それはまだマシであろう。のぞみは成年後、自分の子に精神的に追い詰められてしまうという境遇に追い込まれ、更に少女期の頃の仲間が次々と病没してしまう悲惨極まりない状況が起こってしまった世界で『青年期までの英雄的な行いに比較して、あまりに報われない最期』を迎えた。それがのび太に好意を持ちつつ、前世での想い人の転生体との結婚を急ぐ背景であった。りんはのぞみの心に巣食う闇を人一倍、憂慮している。のぞみは表面的には以前と変わらない態度だが、ゲッターエネルギーの起こす闘争本能の高まりに身を委ねやすくなり、口調が粗野になりやすい。錦の性質が強まるせいでもあるが、のぞみ自身、戦うことで自分のやることへの『承認欲求』を満たしたいという負の面がある。のび太(壮年期)が青年期の自分自身にのぞみの結婚話を持ちかけたのは、扶桑の中島家にはのぞみの居場所は実質的にはないことを憂慮したからである。のび太が45歳以降の時代における、彼の養子かつ、のぞみのかつての想い人兼プリキュアの妖精であった『ココ』の生まれ変わりである『野比コージ』(のびこーじ)と婚約を交わした背景には、そのことが大きい。(壮年期のび太から婚約指輪が送られている)

「その一環なんだが、聞いて驚くな?ココを知ってるか?」

「確か、プリキュア5の妖精でしたね?」

「そのココが地球人に生まれ変わり、のび太氏の養子になってな。のぞみと婚約した」

「は…?」

「ご祝儀を用意しておけ。数年以内に結婚するそうだ」

「き、急すぎますよぉ!」

「急に決まった事で、私も準備はできてないさ。今すぐでもないし」

割にすごい内容を話す二人。マーチ(なお)の口から、フォーチュン(いおな)に語られた内容はのぞみの婚約から、超獣戦隊ライブマンや太陽戦隊サンバルカンを始めとする戦隊ヒーローとの協力関係までに及んだ。また、キュアマーチが後輩のキュアエールを手放しに全肯定をしないのは、ドリームの辿った不幸な後半生に自分も関係していたからという事も判明し、フォーチュンの心中は複雑だった。『全てがキュアエールのせいではないだろうが、戦士を年齢などの問題で引退せざるを得なくなった後ののぞみに何らかの重荷を背負わせ、図らずも、行動に枷を嵌めたのではないか?』という推測がマーチにとってのエールへの悪感情に繋がっていた。表には出して来なかったが、フォーチュンに話した。キュアエールの拠り所は『応援』と『他者に寄り添うこと』だが、ドリームがいた世界で、ドリーム/のぞみの心が壊れてしまった事の遠因がキュアエール/野乃はなにあるのでは?という推測がマーチ/なおの胸中にあった。フォーチュンはなんとも言えない気持ちである。プリキュアオールスターズのサブリーダー格のドリームの抱える闇は憂慮すべき問題であるが、その闇の主因はのぞみの長女にあり、キュアエールの応援や言葉の力がドリームをしばりつけ、問題が深刻化した要因とは思えなかった。何よりも、人の心を縛る事は、エール/はなが最も忌み嫌う行為であるからだ。それはマーチも知っているはずだとするフォーチュン。

「エールには言えませんよ、こんな事」

「他言無用だ。これから、私たちが会うエールが、ドリームと私のいた世界の存在とは限らんからな。それに全部が奴のせいではないことは分かってるよ」

マーチは悪感情はあるが、その時のエールに悪気は無かった事は知っているし、のぞみが壊れた原因は『腹を痛めて産んだ長子に自己を否定された』事。マーチがそれを現状で最も分かっている。そのため、エールに会っても表に出さないと明言する。

「闇は照らせば晴れる、立つ場所は本人に選ばせよう」

「ええ…。」

フォーチュンはそれを聞いて若干、安心した表情を見せ、クリームソーダを飲むのだった。



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