ズムシティ中央政庁ギレンの執務室。

そこには、慌ただしい音を立てて部屋に飛び込んでくる人間がいた。

息を切らせ、目が充血している。

随分急いできた事がわかる、恐らく情報を得て直ぐに乗り込んできたのだろう。


「兄上!」

「なんだ騒々しい、ノックくらいできんのか?」

「その様な事を言っている場合ですか!」

「どうしたというのだ?」

「どうしたもこうしたも! 何故スペースノイドを動かしたのですか!?」


キシリアの言っているスペースノイドというのは、宇宙にいる人間全体の事ではない。

それは、彼らが思想を誘導した親ジオンコロニーや月面都市等の事を指す。

それ以外は核の炎に消える予定なので何も間違ってはいないのだ。


「あれらは戦後の統治をやりやすくするための措置のはずです!」

「確かにそのつもりでいた」

「ならば何故?」

「決まっている、連邦に、そして私の策を看破した男に対して時間を与えないためだ」


ギレンは表情も変えずに言い返す。

事実この手しかないと考えたのだろう、時間を与えれば相手が何をしてくるかわからない。

IQ240の彼にとって、読めない相手というのはそれだけのリスクなのだ。

実際、ヤシマ少将には連邦への欺瞞情報が破られた経緯がある。

慎重になって当然であった。


「兄上は戦後の事を考えているのか?」

「考えてはいる、が、そもそも勝てなければ戦後も何もないだろう?」

「それは……」

「はっきり言う、我らは劣勢なのだ。しかし、挙兵しないわけにはいかない。

 現状の情報が連邦に流れても連邦からのリアクションがないのは、あくまで我らに対抗できる兵器が無いからだ。

 それも時間が解決する、となればその時間は値千金であろうよ。

 相手の時間を奪うためならば私は何でもするつもりだ」

「そこまで考えておられたなら何も言いますまい、しかし、戦後の統治は難しくなるでしょう」

「そうだろうな」


ギレンにもそれは解っている事ではあった。

だが、他に手等ないし、相手を侮るのは為政者が絶対にやってはいけない事だ。

ならば、戦後の事は戦後の事と切り離し、今に全力を傾けるしかない。

彼もまた追い詰められているのは事実だった。



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第十四話 スペースノイド



俺は、色々あって頭が沸騰しているだろうセイラをホテルへ連れて行くようにラル中佐に依頼して送ってもらった。

それからは、色々な仕事をこなしたあっという間に数日が過ぎ更に加速度的に仕事が増える。

何せ新しい事をしているのだから、失敗も出てくる当然の事だ。

それに今回は色々せかしてもいた。

だが……。


「大変です! 3バンチ、7バンチ、15バンチ、30バンチそしてサイド1シャングリラにて暴動発生!」

「暴動? どういった主張でだ?」

「それが……」


伝令の兵が言うには主張はどれもほぼ同じで要約するとアースノイドはコロニーから出ていけというもの。

この主張、この唐突さ、覚えがある。

ファーストガンダムからΖガンダムに移行して唐突に発生した主義主張だ。

これはもしかして……。


「そうか、そういう事だったのか……そりゃそうだよな。

 何の仕込みもせずにああなるわけがない。ギレン・ザビ、天才というだけはあるのか」


アニメだから唐突でも仕方ないで終わるが、現実なら確かにこうするしかない。

すなわち、各コロニーに人員を送り込み、政治家等を抱き込み思想を誘導、マスコミ等のスポンサーになり情報を統制。

そして間接的に思想を誘導したり、サイド3に旅行に行かせるよう動き、来た人間を自国に拘束し洗脳。

何年もかけて思想的なコロニー侵略を行う。

各サイドの大部分が敵でもいくつかのコロニーさえ押さえておけばそれでいい。

いざという時にこういう暴動等をさせ敵の行動を阻害できるし、逆に自分たちの軍の補給基地としても使える。


考えてみれば、各サイドを壊滅させたはずなのに、いくつかのコロニーは無事に残っていた。

これはつまりそういう事なのだろう、思想的に味方になっているなら核攻撃で滅ぼすまでもない。

そうであればこそZの頃スペースノイド対アースノイドという良くわからない対立構図がいきなり現れたのだ。


「ならば……どうする?」


そう、各コロニーをどう取り戻す?

このままでは戦争どころではない、内紛になりかねない。

ん? そういえば……ロンデ二オンもそうじゃなかったか?

このコロニーは連邦軍基地は兎も角、一般居住区はロンドンを模した500万人が住まう都市だ。

だが基地部に関しては連邦軍のものだが一般居住区には権威がおよんでいないのだ。

中には本当に横暴を働く軍人もいるため、仕方ない面もあるにはあるが。

それともう一つ、長年の平和が連邦軍の実力を疑問視させているという事なのだろう。


「先ずはこのロンデ二オンの統制が必要だな」


とはいえ、これは俺がやる必要はない、というか俺では恐らく難しいだろう。

やはりここは、イーサン・ライヤーに頑張ってもらうべきだ。

彼は理性のある悪人だ。

政治家に必要な要素は、実力があり勤勉な悪人である事。


否定する人も多いだろう、しかしよく考えてみてほしい。

政治家が善良であるという事はつまり、なめられるという事だ。

政治の世界では、隙を見せればあっという間に落ちていく。


悪人でなければ問題点を見つけられず折角の法がザルになる。

外交等は悪辣さが無ければ一方的に要求をのまされる。

悪人でなければ地元に利益を還元できずそもそも議員になる事が出来ない。

つまり、国に尽くす悪人という矛盾した存在が政治家なのだ。


だからよく、政治家の金銭関係の問題や女性関係の問題がすっぱ抜かれるのだ。

ああいう問題をうまく隠せる事もまた政治家の必須要件なのだが、長く続くと脇が甘くなる。

それに、別勢力の政治家を陥れるために情報を漏らす人間もいる。

だが、断罪する人間は綺麗なのかと言えばそうではない。

人間は普通、利益にならないなら、断罪等という敵を作る様な事を進んでしたりしないのだ。

その利益が何であるかは個々で違うのだが。


ともあれ、イーサン・ライヤーという存在は国に尽くす悪人そのものだ。

悪辣でありながら、政府(連邦軍)を守るために動く、己の利益も当然考えて動いている。

だが、そういう人間は利益がある限り裏切らないし、考えがはっきりしている分有能な事が多い。


「ライヤー准将、ロンデ二オンの統制を任せる。

 周辺の一般人が思想誘導されている危険があるため、最悪の場合鎮圧もやむなしだ」

「ほう、思い切った判断ですな。しかしそれは最後の手段として、私に別案を考えさせるつもりですかな?」

「否定はしない。軍が民間人の虐殺をしたなどという事になれば、サイド1防衛計画に支障をきたす。

 鎮圧行動の場合は死者が出来るだけ出ない様に対処してくれ」

「……なるほど、了解しました」


こうしてライヤーに指示を出した俺は、各サイドへの対処を始める事にした。

そのためにもまずは、1バンチ、つまりシャングリラに向かう必要がある。

あそこにサイド1の中央政庁がある以上、どうしても取り戻す必要があるだろう。


それに、暴動と言っても怪しいものだ。

今までそんな素振りもなかったのだから、結局はジオンの思惑通りなんだろうから。

コロニー防衛に支障が出る様に動く事は十分に考えられる。


バスク中佐にマゼランを用意させる。戦艦で乗り付けるつもりだ。

こういう時軍が表立って動けば弾圧だなんだ言われるが、あまり時間がない。

それに、あれらが何者なのかをきっちりさせる必要がある。


「お待ちなさい」


エレカを待たせた通用門にセイラ・マスがやってきていたラル中佐も一緒だ。

というかラル中佐も困惑顔、相変わらず突撃娘なんだな……。


「セイラ嬢。どうしましたか?」

「暴動が発生していると聞きました」

「ええ、これから対処しに行くところですが」

「どの様にするつもりなのですか?」

「軍にそういう事を聞くのは民間人のする事ではないですね」

「横暴を働く気ですか!?」

「……よほど信用されていないらしい。

 勘違いしないでほしいのだが、我らは別に軍を動かしたいわけじゃない。

 守るべき民を自分から傷つければ我らの存在意義にかかわる」

「サイド3は守らなかったくせに」

「追い出したのはサイド3政府いやジオン・ダイクンでしょう?」


サイド3は守るべき民ではない。

そもそもあのサイドもともとあった連邦軍の治安維持部隊を追い出している。

勘違いしてはいけないのは、コロニーは地球連邦の金で作ったものだ。

彼らは住んでこそいるが、別にサイドを買い取ったわけではない。

つまり借り家を不法占拠したのだ。

そんなサイド3政府を制圧対処していないのは意味が解らないが。

地球連邦の緩さはその頃から変わらないのかもしれない。


「……では民を傷つけないというのですね?」

「いいえ、傷つける可能性はあります。市民を危険にさらす人物ならそれが市民でも対処範囲ですから」

「それは……」

「そもそもああいうデモは金が無ければ出来ない事を理解していますか?」

「金?」

「そう、人を集めるだけでも金がかかります。宣伝費、交通費、食費、宿泊費。

 それらを万人単位で支払うのは個人ではかなり難しいですよね?」

「そう……ね」


そう、日本でデモをやっている連中の中心人物を見ると何故か毎度朝鮮人だったという事実がある。

デモといってもそれぞれ別の主張をしているのにもかかわらずだ。

団体名も違っている、だが中心人物が同じ。

この理由は何なのか。

簡単に言えばスポンサーがいて、日本を混乱させるために動く人物に金を払うシステムなのだ。


「つまり、スポンサーがいるんですよ」

「それがジオンだと?」

「ジオンが各サイドに人を送ったりサイド3への旅行をさせる政策を取っている事を知っていますか?」

「サイド3に旅行……ですか?」

「ええ、サイド3に見る所がないと?」

「いいえ、全くないとは言いませんが。他のサイドほどの多様性は無いと思います。

 サイド3のコロニー群はみな閉鎖型ですから、急造だったと聞いたことはありますが」

「まあそんな事は関係ないんですよ。どうせ収容施設に送り込んでジオンシンパになるまで返さないんですから」

「は?」


本当にギレンはIQが高い、非人道的であるという点を除けばだが。

彼はアニメでも統治するには人が多すぎる的な事を言っていた。

つまり、統治すべき民以外は皆殺しで構わないと考えているという事だ。

そして、直接核攻撃により宇宙の多数派をジオンシンパにしてしまうという強引ながら凶悪な手段を取った。

だからこそ、Z以後の世界のスペースノイドはジオンに近しい考え方を持っていたのだ。


「全てがそうとは言いませんが、ギレンは頭がいいですね。

 各サイドのコロニーにジオン公国のシンパを作り、また権力者らを金や人質で抱き込んだんでしょう。

 今頃サイド2でも同じことが起こっていますよ」

「それは……本当なのですか?」

「連邦ではそういう事の情報統制意識は低い、調べれば簡単にわかりますよ」

「少し待ってください」


彼女は情報端末を取り出し調べ始めた。

スマホくらいあってもいいんだが、宇宙世紀にそれはない。

技術が高いんだか低いんだか。

ただ、同じ働きをする情報端末はある。

小型化が進んでいないので車載電話くらいの大きさがあるが。

しかしあれだな。こうなると巻き込むしかないか。


「そんな……本当に……」

「ジオンは今追い詰められています。連邦に対する情報の拡散を止めていたスパイが見つかったので。

 連邦も大急ぎでジオンと戦える艦隊を整備し始めましたからね」

「ならなぜこんな事を?」

「時間稼ぎでしょう。自分たちの攻撃準備が整うまで我々に準備をされるのは困る」

「時間稼ぎのために、他のサイドに作ったシンパに暴動を起こさせる?

 何の意味があるのです?」

「決まってるでしょう? 嫌がらせですよ。

 我らが対処しなければ政府の統治機構の信用が低下し、彼らのシンパが増える。

 対処すれば、暴動を武力で解決したとメディアに騒ぎを起こさせ連邦軍の信用を落とせる」

「悪辣な……あなたはどうする気なのです?」

「もちろん対処します。軍が悪く言われようとも、政府の信用を落とすわけにはいかない」


当たり前だが、軍なんてものは嫌われてナンボである。

特に身内にスパイや裏切者がいる場合は下手に親しまれていると動きにくくすらなる。

多少嫌われても、結果は出すと理解されているくらいが丁度いい。


「本当は軍人がこんな話をしてはいけないんですがね。

 貴女には知っておいてもらった方がいいかと思い話しました」

「私が?」

「そう、今は一般人である貴女に私が護衛を付けた理由ですよ」

「それは……」

「貴女自身がどう思うかはおいておいて、貴女を傀儡にしようとする人間は多くいます。

 仮にも宇宙に住む人間ならだれもが知る人物、ニュータイプ論の提唱者の子ですからね」


セイラ・マス。UCにおいて彼女が誰にも利用されなかったのが不思議でならない。

彼女はミネバなんか比べ物にならない程のコロニー在住者にとっての星足りうる存在だ。

キャスバルがシャアとして戦場で犯罪を起こしていてもダカールであれほど演説で来たように。

シャアとして動いたとたん兵が集まった様に。

彼女を旗頭とすれば、ジオン公国は非常に対処しづらい事だろう。


「ならば私が立てば彼らを止められますか?」

「不可能ではないでしょうね、簡単ではありませんが」

「……」


こうして問いかけて来たという事はやる気があるという事だろうか?

原作でもこういう事はだいたい断っていた気がするが……。


「なら私を使いなさい!」

「!?」


あーやはりか、彼女の性格は結構描写されているが、売り言葉に買い言葉でよくやらかしている。

鼻っ柱が強いというか、キップがいいというか、後戻りするのが嫌というか。

そんな彼女だからこそ、乗ってくるだろうなとは思っていた。


「いいんですか? 政治や戦争にかかわらないつもりだったのでは?」

「はい、ですが私がいなければ民に被害が出てしまうかもしれないのでしょう?」

「それはまあ、仕方ない事ですね。普通のデモで終わってくれれば問題はないんですが」

「私が止めてみます。だから……私をつれていきなさい」

「……危険ですよ?」

「ッ! そのためのあなた達でしょう!」

「……いいでしょう。ならば……」


その時俺は、もう彼女を巻き込むつもりになっていた。

彼女さえいれば、暴動示唆で手に入れたギレンの時間を極小にする事が出来る。

そして、この先長い長い年月の間出没し続けるジオン残党共を消滅させる事すら不可能じゃない。


「貴女にはもっと根本的な所を正して頂きたい」

「根本的……?」


彼女はその言葉を聞いてもピンと来ていない様だった。

まあ当然だろう。

しかし、彼女にしかできない事なのは間違いない。

是非とも頑張ってもらおうじゃないか。









あとがき


スペースノイドとアースノイドの対立。

これは、一体どういう理由で始まったのか?

それに関しては見方によっていろいろあります。

根本的な原因と言えば御大が思いついたから、で終了だったりしますが(汗)


でもまあ、現実であったらと考えて色々ネタを絞った結果。

ギレンが戦後統治しやすいように、コロニーに仕込みをして成功したところは核攻撃しなかったと解釈しました。

この方法なら、戦後統治に+になりますし、連邦が勝ってもジオンシンパが残る事になります。

それでも、ジオンを恨む人間は相当数になりそうなんですけど、原作では見かけないんですよね・・・



後、シャアなんですけど。

コロニーへの核攻撃やったんでしょうかね?

ルウム戦役において彼が中尉だった様なので、

その前の作戦のどれかで手柄を上げたんでしょうね。

ルウム戦役までの流れは、

クラナダ攻略作戦。

サイド1及び2、4同時壊滅作戦。

ブリティッシュ作戦(コロニー落とし)

ルウム戦役(サイド5壊滅作戦及び艦隊決戦)

という順番なので、直接か間接かはありますが、民間人の大量殺人に手を貸しています。


その上で、クワトロの時は随分カミーユの家族を殺してしまった事を悔やんでいますよね?


なのに逆シャアでは連邦首都になったラサにフィフスルナを落として民間人を虐殺している。


ダブルスタンダードっていうか、精神病の類にしか思えませんね・・・。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.