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■225 / 1階層)  白き牙と黒の翼、第二話
□投稿者/ マーク -(2005/09/13(Tue) 00:30:21)
    『ツクヨ』








    ―パチッ

    「ムッ」
    「ふふふ」

    ―パチッ
    ―パチッ

    「ムムム」
    「ふっふっふっ」

    ―パチッ

    ―パチンッ

    「王手」
    「まっ待った!?」
    「これで待ったしても意味ないでしょ。
     いい加減にしたら?」
    「しかし、なかなかえげつない事をするな。
     どう打ってももう積みだろうこれでは」
    「まあね」

    一つのテーブルを境に向き合うベアとミコト。
    そして、ミコトの横からそのテーブルに置かれた木の板を眺めるサクヤ。
    二人がやっているのは蓬莱に伝わるゲームの一つ、
    将棋と呼ばれるものだ。
    何故二人がこのようなものをやっているかというと
    それらちょうど一刻ほど前に遡る。









    『何やってるんだ二人とも?』
    『ああ、我々の国に伝わる物で
     知略を競いあう遊びだ』
    『こっちで言うチェスと似た感じね』
    『ほう、面白そうだな』
    『やってみる?』
    『ああ、チェスなら自信はあるぞ』
    『そう簡単には行かないわよ』







    「しかし、遅いな」
    「何が?」

    ベアに目線を向けずに、将棋版に駒を並べていく。
    ベアを虐めて楽しんでいたが、やはり実力の同じものとやったほうが
    こういうゲームは楽しいものだ。
    結局、ベアは負けっぱなしでサクヤと
    交代することになった。

    「そろそろ、チェチリアが帰ってきてもいい頃なんだが」
    「そういえばチェチリアともう一人をさっきから見てないけど」
    「あの嬢ちゃんはなにやら用事があると言ってどっか行っちまったが、
     すぐ戻ってくるとチェチリアに言ってたぞ」
    「チェチリアは?
     まさか・・・・・家出?」
    「馬鹿を言うな!?
     あいつがそんなことをするか!!??」
    「・・・・・必死ね」
    「だな」
    「喧しい!!
     とにかく、アイツがそんなことするはずがない!!・・・・・多分」
    「じゃあ、チェチリアもお年頃だし、道端で出会った素敵な男性に一目惚れ。
     しかし、それを過保護で親馬鹿な養父が許すはずも無く彼女は愛の逃避行に」
    「駆け落ちというやつか」
    「・・・・・・・・・・・・早まるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
     チェーーーチリアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

    錯乱してチェチリアの名を叫びながら、通りへと飛び出そうとする。
    このままベアを外に出したらこの店の評判はがた落ちだろう。
    それはミコトたちにも都合が悪いので、
    慌ててベアを引きとめようとする。
    と、そこへ。

    ―ガランッガランッ

    いつの間にかドアにつけてあった来客を知らせるための鐘が
    店内に鳴り響き、扉が開く。
    その扉の先には都合よく、チェチリアが、そして見慣れぬ、
    いや、見覚えはあるのだろうがもう軽く2、3年は
    その顔を見てなかった筈の少女がミコトたちの眼に映る。

    「へ〜、なかなか綺麗だね〜。
     ってミコちゃん?」
    「・・・・・・・その喋り方はアキラの方よね」
    「そうだよん」
    「まさかと思うが、その格好で歩いてきたのか?」
    「当然だよー、ボクはツクヨみたいに化けれないからね」
    「カツラとか、髪を染めるとかあるでしょ?」
    「かつらなんて持ってないし、お母さんから貰った
     この髪を染めるなんて出来るはずが無いでしょ」
    「じゃ、帽子は?」
    「はっ、と。なるほど」
    「座布団一枚」
    「なんでやねん!!」

    ミコトは現れた少女、アキラの言葉とサクヤの対応に対して
    反射的にツッコミを入れる。
    だが、その次の瞬間にはとても疲れた顔でテーブルに
    突っ伏していた。

    「まったく、あんたの相手は心底疲れるわね。
     って、良く見ればツクヨがいないじゃない。
     どうしたのよ?」
    「分かんない。途中ではぐれちゃった。
     探してる途中でこの子が変な男に絡まれてたから
     助けてあげたら是非お礼に、って誘われたの」
    「ほほう、家の娘に手を出すとはよほど死にたいらしいな、
     そいつは」
    「安心してね、未遂だから。
     それに相手は騎士だったからを出すのは不味いと思うよ?」
    「国が怖くて冒険者をやれるか!」
    「もう、引退してるじゃない」
    「揚げ足を取るな!」

    若干、涙目にも見えなくも無いが気のせいだと思ったほうが
    ベアのためだろう。

    「ま、そんな事するのは正規の騎士じゃないとは思うけど、
     やるなら証拠は残さずやってよね」
    「当たり前だ。
     痛覚を持って生まれたことを死ぬほど後悔させてやる」

    そういって、黒い笑みを浮かべながらカウンターの下から
    愛用の戦斧を取り出し、手入れをする。
    ちなみに、当の本人はいまいちよく分かってないらしく、
    首をかしげながらその様子を眺めている。
    そして、アキラを連れてきた理由を思い出して、
    キッチンへと入り、買ってきた材料を取り出す。
    買ってきた材料から作る物を幾つか選び、作る物が
    決まったところで、それらの食材を調理していく。
    手馴れた動きで野菜を刻み、鍋に火をかけ順に食材を入れていく。
    僅かな時間でそれらの食材は実においしそうな料理へと
    変貌し、皿に盛り付けられ、テーブルへと運ばれる。

    「うわ〜、おいしそう〜」
    「結構、凝ってるわね。
     ねえねえ、私も一口いい?」

    ミコトがチェチリアに頼み込むが、チェチリアは
    困った顔をしながらも、胸の前でバツを作る。

    「はあ、駄目か」
    「いふぃふぃふぁふぁいふぉー」
    「口の中、無くなってから喋りなさいよ」
    「っん、ぷはっ。意地汚いよ〜、ミコちゃん」
    「・・・ねえ、それ止めてくれないって私、前に言わなかった?」
    「それ?」
    「その呼び方、ミコトで良いでしょ?」
    「可愛くないじゃん、これ嫌い?」
    「すっごく、嫌い。母さんと、そしてあの事を思い出させるじゃない」
    「アレの事か?」
    「そうよ」
    「え〜、なんで〜。ミコちゃん、上手だし綺麗じゃない」
    「私は剣の方が性にあってるのよ。
     剣を取った以上、あれをやるのは気が引けてね。
     神聖な儀式にこんな心境で望んじゃ不順でしょ?」
    「まあな。
     だが、宮瀬に生まれたのだから諦めろ」
    「はーあ、此花のほうが性に合ってるわ」
    「・・・・本気で言ってるのか」
    「冗談よ、あんたの苦労は分かっているつもりだもの。
     宮瀬だけだもんね、女が優遇されるのなんて。
     そういう意味では幸運なんだろうけど。
     おかげで三人の中じゃ、正式な跡取りは私だけだし」
    「そうだよね。ボクも大変だけど、サクヤちゃんはもっと大変だもんね」
    「・・・・・・・・ちゃんは止めろ」
    「ぶ〜〜」

    アキラが止まっていた腕を動かし、皿の残りを片付けていく。
    瞬く間に皿は空になり、満足そうにお腹を押さえる。
    注がれた水を飲もうとコップに手を伸ばし、それが空になると
    胸の前で手を当てて満足そうにご馳走様とチェチリアに言う。

    「で、ツクヨも一緒に来てるらしいけどわざわざ
     あんたまでここに来たのはどういった用件?」
    「ちょっと、アレについて気になることを見つけたから、
     2人にも教えようと思ったんだけど」
    「あんたまでついて来るなんて何かあったの?」
    「・・・・・・」
    「何なのよ?」
    「ちょっと遊びに来ちゃった、てへ」
    「てへっ、じゃなーい!!
     あんたがここに来ると面倒にしかならないって
     あれほど言ったじゃない。
     なのに遊びに来たですって!?
     一体なに考えてるのよ!!」
    「落ち着けミコト、コイツに何を言っても無駄だ」
    「そうそう」
    「自分で言うなーー!!」
    「それよりも、ツクヨを探さなくて良いのか?」
    「ん〜、探しに行こうにもどこにいるかさっぱりだし、
     目的地で待ってた方が賢明だと思うよ。
     それに」
    「それに?」
    「そろそろ来ると思うよ」

    ―バタンッ

    勢いよく開かれた扉の向こうに息を切らせて飛び込んできたのは
    アキラと同じ色の長い髪、同じ色の瞳を持ち、アキラよりも
    幾分か大人びた顔立ちと身体の少女だった。

    「ミコトよ、居るか!?アキラが!!
     っと・・・・・・アキラ?
     何故そなたがここに居る!!」
    「遅かったね〜、ツクヨ」
    「お疲れさん」
    「大変そうだな」








    「ね〜、機嫌なおしてよ〜」
    「別に妾は怒ってなどいないぞ」
    「そんなこと言うけど、言葉が刺々しいよ〜」
    「ふん、ならば何か後ろめたいことがあるからであろう」
    「ご〜め〜ん〜。誤るからさ〜、機嫌なおしてよ〜」
    「いったい、どうなってるんだ?」
    「2人ともそろったし、紹介するわ。
     2人とも私とサクヤの親類でこっちの小さいのがアマツ・アキラ、
     もう片方がアマツ・ツクヨ。
     いちおう、姉妹ということになってるわ」
    「・・・・・・お前たちの親族はいったい何人いるんだ?
     サクヤ以外、毎回違うやつらが訪れるが」
    「この四人だけだ。
     ツクヨにとっては2人とも初対面ではないはずだ」
    「だが、こんな個性的な者、忘れる筈は無いんだが?」
    「当然よ、顔が違ったもの」

    その言葉に2人がさらに首を傾げる。
    そんな噂の人物の片方は必死にもう一方の機嫌を伺っている。

    「ツクヨ、ちょっと解いてくれない?」
    「むっ、何か忘れている気がするが・・・・・・
     まあ、良かろう。
     確かに言うより実際に見せた方が早い」

    言い終わるが否や、ツクヨの姿が一瞬のうちに変貌した。
    身体中を金色の毛で覆い、ふさふさとした一本の尾をなびかせ、
    四本の足で床に立つ金色の狐。
    そして、その姿を見た瞬間、チェチリアが目にも止まらぬ速さで
    その金色の狐に力いっぱい抱きつく。

    「ぬお、離せチェチリア!?」

    金色の狐から発せられる切羽詰った声に反し、腕の力をさらに
    強めて抱きつく。
    無二の動物好きである彼女の前でこの姿になったのは失策であった。

    「ええーい。
     首が絞まっておると言うとおるのじゃ、離さんか!!」

    その言葉に驚き、慌てて力を緩めるが決して手は離していない。
    呼吸は出来るようになったが、あまり良い気分ではないため、
    抱きついた状態のままどうあっても離そうとしないチェチリアの腕を
    振り切ろうともがくが、どこにそれ程の力があるのかチェチリアは
    一向にツクヨを離さない。
    そして、無駄と悟ったのか抵抗が徐々に止んだいく。

    「ははは。その辺で妥協してあげなさい、ツクヨ」
    「くっ、人事だと思いおって!!」
    「そうは言ったって、実際に人っていうか狐事?」
    「で、それは何だ?
     獣人なのか?」
    「ふん、そのようなものと一緒にされるとは非常に不愉快だ」
    「たしかに、この存在はそのような可愛い存在ではない」
    「・・・・・・少なくとも獣人ではないんだな」
    「ええ、コイツは私たちの国、蓬莱に住まう妖魔、
     『金毛白面九尾の妖弧』と呼ばれる存在よ。
     本当なら高位魔族くらいの力は軽くあるらしいけど、
     今は弱ってるからそれ程の力は出せないらしいの。
     まあ、化け狐程度に捉えてくれれば良いわ」
    「なるほどな、化け狐か。
     こっちでも竜なんかが人に化けることがあるし、
     力ある者ならそれぐらいは出来てもおかしくは無いな」
    「そういうことだ。
     それでツクヨ。 
     アレについて何か進展があったらしいが?」
    「うむ、少々興味深いことを見つけた。
     あの二刀の過去にまつわるであろうことじゃ」
    「うん。それで、もしかしたら、アレを強奪した目的の手がかりに
     なるかもしれないと思ったんだけど・・・・」
    「続けてくれ」
    「え〜と」
    「うーむ」
    「どうしたの?」

    そこで言葉を止めてしまい、何か言いづらそうにしている。
    他人にはおいそれと言えない様な事なのか、それとも―

    「実は〜、詳しい内容を忘れちゃった」
    「・・・・・・・なっ」
    「な?」
    「なにやってんのよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
    「あう〜、おふぉんないでよ〜」

    頬っぺたを引っ張られながら、謝るアキラとその頬を尚も引っ張るミコト。
    そして、その2人を放ってサクヤは申し分け無さそうに顔をしかめている
    ツクヨに話しかける。

    「忘れたとはどういうことだ」
    「アキラが学園都市の図書館でそれについて発見したらしいのだが
     それをうっかり妾に言おうとしてな」
    「忘却の呪か」
    「うむ、知識が流出するのを防ぐために生み出された呪いだ。
     特定の場所以外でその内容を他者に伝えようとすると
     その知識を忘れさせ、記録されていた場合もそれを強制的に破棄させる
     強力な暗示が籠められている。おかげで妾もその内容を知らぬのだ」
    「特定の場所がどこかは判らんが、少なくともその図書館内ならば
     大丈夫だろう。
     が、だとすると共に向かわねば、また忘れることになるな」
    「うむ、そうするが良かろう。
     全く面倒なものを仕掛けおってからに」
    「全くだ」

    「いひゃい。いひゃい」
    「反省しなさーーーい!!」

    そういって騒がしい二人の少女へと目を向け、二人は同時に深くため息をついた。









    「と、いうわけでみんなで調査に行くことになりました・・・・・・」
    「よろしい」
    「うう〜、僕のせいで忘れたわけじゃないのに〜」
    「確かに、忘れてしまったこと自体は仕方が無いことだな」
    「だよね、だよね」

    その様子に哀れみを感じたのかサクヤが庇う様にアキラの言い訳に同調する。
    仲間を得たアキラがミコトへ向け、責めるような視線を向けるが、その対象である
    ミコトはそんな視線を意に介さず、むしろ更に怒りをはらんだ視線で睨み返し、
    その視線にアキラは再び縮こまる。
    まさしく、その様は蛇に睨まれた蛙その物である。

    「忘れたことは良いわ。怒っているのはあんたがここにいることよ。
     その上、既に一悶着おこしているし」
    「うっ」

    痛いところを突かれアキラが言葉に詰まる。

    「けっ、けど、僕がいなかったらチェチリアがどうなっていたか」
    「それは結果論でしょ?
     それとも、まさかチェチリア助けるためにこっちに来た訳?
     そもそも、騎士がそんな強引なことをしたのも、実はあんたやツクヨの所為じゃないの?」
    「えっ」
    「ツクヨ、あんたアキラとはぐれる前に絡まれた?」
    「うむ」
    「絡んできたやつはどうしたの?」
    「さほど強引だったわけではないが、とにかくしつこかったからな。一人残らず黙らせた。
     しょせん女、子供と高をくくってたので容易だったぞ。
     ついでに言えばそのときアキラとはぐれてしまったな。
     なるほど、その教訓を生かして多少強引にでも連れて行こうとしたのか」
    「ア〜キ〜ラ〜」
    「あう〜、ごめんなさい」
    「・・・・・・・・・そういえば、ミコト」
    「なに?」
    「噂なのだが・・・昨夜あたりに南東の方角から巨大な怪鳥が現れたという話があったのだが」
    「・・・・・・・・・・・それ・・・・・・・・・ツクヨ・・・・・?」

    ツクヨの今の姿も変化の術でとっているのだから同じように鳥なり獣なりに化けることなど
    用意なはずである。
    もはや、隠しても仕方が無いとばかりにあっさりとツクヨは答える。

    「すまぬ。アキラには逆らえなくてな」

    結局、妖狐だとか言われてても身内には、義妹には甘いということだ。
    それは仕方が無い。なぜならそんな我侭を言ったのはおそらく。

    「わわっ!?ツクヨ、ミコトに言っちゃダメだっていったのに!!」

    この我侭な娘に違いないのだ。

    「ふふふふふふふふ」
    「ミッ、ミコちゃん?
     おっ落ち着いて。ね?」
    「私は落ち着いてるわよ。
     こんの大馬鹿者がーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」







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