Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■212 / 1階層)  赤と白の前奏曲Act1
□投稿者/ ルーン -(2005/05/15(Sun) 15:44:03)
     〜注意〜
     この話は、『捜し、求めるもの』のユナの学生編です。
     又、この話の時空列は滅茶苦茶です。



     真っ暗な空間が支配する中、微かな明かりが一点灯っていた。
     明かりに照らされるのは、二人の横顔だった。
     一人は赤い髪に赤い瞳が印象的な少女。
     もう一人は、白い髪に赤い瞳の少女。
     「ユナ、そっちはどうだ?」
     白い髪の少女は、男っぽい喋り方で、隣で作業をしているユナへと尋ねた。
     「こっちは……ん、あと少し。レンそっちはどう?」
     ユナと呼ばれた少女は、両方の掌を淡く魔力で輝かせながら、白い髪の少女に向かって尋ね返した。
     「ああ、こっちもあと少しだ。……この術式を変更してっと。……おっと、この術式はトラップだな」
     レンの両方の掌も、淡く魔力で輝いて見えた。
     二人は暗闇が支配する中、石畳の地面に這いつくばって、石畳に刻み込まれている魔方陣の解読、書き換えをしていた。
     二人の魔方陣に対する解読に書き換えは、止まる事を知らないかのように、一定のスピードを保ちながら進んでいた。
     二人はあまりにも簡単に魔方陣に対する解読に書き換えをしているが、本来ならかなりの時間と労力に知識が必要な作業である。



     なぜならば、まずは魔方陣を構成するのに使われている文字を解読する必要がある。
     その次に、構成している文字の書き換えにも魔力を消費する。
     魔方陣を構成する文字は、連動するものもあるので、それの書き換えや構成するところの意味も把握しなければならない。
     魔方陣はその構成する文字によって、性能や発揮する効力などが千差万別する。
     その全てを把握しなければ、魔方陣の書き換えなど不可能なのだ。
     もし、半端な知識で書き換えなどしようものなら、その者を待っているのは死だ。
     それほどまでに、危険で知識と膨大な魔力を必要とする作業を、12歳の少女が成し遂げているのだ。
     それだけでも二人の少女の非凡さが伺えるが、二人の少女はその作業を楽々こなしているのだから、最早驚愕するしかない。
     二人は魔法学園に通ってはいるが、断じて生徒ではこのような真似は出来ない。
     それどころか、教職員でさえ、ここまでスムーズに出来るか怪しいものだ。
     何より信じがたいのは、二人はまだ魔法学園に入園してからまだ二年しか経っていないことだ。



     「えっと、この文字はこっちの構成にも影響しているのね。と言う事は……やっぱり、警報がなるようになってるわね。でも、こっちの構成を弄くれば……、よし! これでこの構成は死んだも同然ね」
     「ん、ユナの方も順調のようだな。それだったら、私も負けていられないな。ふむ、この構成は少し厄介だな。だが、こことあそこの構成を弄くり、あっちの構成と連動させれば……」
     二人はまるでこの構成の解き方を予め知っているように、迷いなく解いていく。
     そして―――



     「これで最後だな。……よっし、こっちは終わったぞ、ユナ! そっちはどうだ?」
     「私もコレでラストよ! ……ここの文字をこの文字に書き換えれば……これでどう!?」
     ユナがそう叫んだ瞬間―――
     カッ!!
     魔方陣が勢いよく輝きだし、真っ暗だった部屋を照らす。
     光りは徐々に光力を落とすと、ふっと消え去った。
     魔方陣の輝きが収まるのと同時に―――
     ズゴゴゴゴゴ……
     突然前方の壁が、重々しい音と共に、真っ二つに割れていった。
     ガゴン……
     壁が左右に完全に割れると、そこには地下へと下りる階段が姿を現した。
     「どうやら成功したみたいね」
     「ああ。まあ、当然の結果だがな」
     レンの言葉にユナは苦笑をもらした。
     一見ただの自信家とも見える彼女だが、ユナは彼女がどれほど自分の技術と知識に磨きをかけているのかを知っている。
     もっともそれはユナにも言える事ではあるが。
     「なんだ? 笑っている暇があったら、さっさと行くぞ」
     ぶっきらぼうにそう言って階段を降りて行くレンに肩を竦めると、ユナもレンの後を追った。



     石畳の階段を降ること数十分経つが、未だに階段の終わりは見えてこない。
     その事に多少飽きてきた二人は、ここに来る事になった原因を思い返す事にした。



     「なあユナ、こんな本が手に入ったんだが、どう思う?」
     そのレンの言葉に、レンが手にしている本に眼を向けたユナは、眉を顰めた。
     レンが手にしている本は、いかにも古本といった古びた本なのだが、古代書というにはなんの魔力も感じなかったからだ。
     古代魔法文明期の魔道書や重要な事が記された書物には、劣化を防ぐための魔法が施されており、その為、現代でも多くの書物がほぼ当時の状態のまま発見されている。
     中には魔法の効果が切れてボロボロになった書物も発見されるが、その殆どが重要価値の低いものだった。
     それでも魔力の残滓を感じる事はできるのだが、目の前の本からはなんの魔力の残滓も感じられない事から、古代魔法文明期後の本だと思われた。
     そんな本を手に入れたからと言って、あのレンがユナに意見を求める事は無い為に、レンの意図が読めずにユナは眉を顰めたのだ。
     そんなユナを知ってか知らずか、いや、わかってはいるのだろうが、レンはそんな事にはお構いなく続ける。
     「実はな、これは私の親父殿が送ってきた物なんだ」
     「レンのお父さんが?」
     レンの言葉にますます眉を顰めるユナ。
     レンの”本名”を知っているユナは、当然レンの父親の仕事も知っている。
     だからこそ、その父親が送ってきた物が、ただの古本だとは思えなかった。
     そのユナの疑問に答えるかのように、レンは話を続ける。
     「ああ。本と一緒に送られてきた親父殿の手紙を読んだら、この本の重要性が分かるぞ」
     レンは上着のポケットから手紙を取り出すと、ユナに向けて放り投げた。
     それをユナは空中でキャッチすると、手紙を素早く読み始めた。
     手紙を読み進めるうちに、だんだんとユナの表情に険しさが増していく。
     「これ……本当なの?」
     手紙を読み終えたユナは、険しい表情のままレンに問い掛けた。
     「ああ、本当だとも。そうでなければ、あの親父殿が手紙まで添えて私に送ってくるはずがあるまい?」
     「ええ、それもそうだったわね。ごめんなさい。それで、この手紙は燃やした方が良いのかしら?」
     「いや、気にするな。そうだな……手紙は万が一の事を考えて、燃やしてしまった方が良いだろう」
     レンの言葉を聞いたユナは、手に持っていた手紙を炎の魔法で灰にした。
     「それにしても……まさか禁書の在りかを記した本ととわね。流石に驚いたわ」
     「だな。おまけに、禁書の在り処はこの学園の敷地ときてる。親父殿が私に送ってくる訳だ」
     そう言って肩を竦める。
     レンが手にしている本は、この学園の何代前かは分からないが、学園長が封印した禁書の在り処を記した本だった。
     ユナたちには、この本がオリジナルかコピーかは判断できなかったが、レンの父親が送ってきた事から、この本に書かれている事は真実だと判断した。
     「それで、どうする?」
     そのレンの言葉に、
     「当然、決まってるでしょう?」
     にやりと邪悪な笑みを浮かべた。



     そんな事を思い返しているうちに、階段の終わりが見えてきた。
     二人は互いの顔を見合わせ頷くと、勢いよく階段を降り始めた。
     階段を降りた先にあったのは、一本道の石畳の通路だった。
     高さは3mほど。横幅は2mほどと、やや狭い。
     このような場所で戦闘になっては、ユナの実力は十分には発揮されない。
     何故なら、ユナの得意な魔法が炎術系な為に、狭い場所だと使いかってが悪いからだ。
     だが逆に、レンにとってはこの程度は苦にもならない。
     レンの魔法は、場所を選ばない強みがある。



     くねくねと曲がる通路を、二人は罠に気を付けながら進む。
     カチ……
     その音を聞いて、左足を出したまま固まるユナ。
     隣を恐る恐る見てみれば、レンが睨んでいた。
     「……ユナ」
     「……ごめん」
     ユナはレンの声に頬を引き攣らせた。
     ユナは、このルームメートが本気で怒った時の事を知っている。
     周りから恐れられているユナが言うのもなんだが、本気で怒ったレンは洒落にならないものがある。
     ハッキリ言って、レンの激怒モードに対峙するぐらいなら、魔物の群れの中に飛び込んだ方が気楽だ。
     今回は自分に非があるし、レンも激怒モードではないようなので、ユナは素直に謝った。
     もしも激怒モードに突入していたら、一目散に逃げるに限る。
     ガチャン。
     そんな音がした壁を見れば、なにやら弓や石弓が壁一面からせり出し、ユナ達の方へ向けられていた。
     「魔法ではなく、こんな原始的な罠に引っ掛かるなんて……」
     「まあ魔法じゃなく、こんな罠だからこそ引っ掛かったのかもしれんがな……」
     落ち込むユナに、レンは淡々と言った。
     だが、レンの言う事にも一理あった。
     ユナやレンが注意していたのは、魔法による罠のみで、こんな物理的な罠は想定外だった。
     第一、魔法学園の学園長が隠した禁書なら、魔法的な罠が在る事は予想できても、このような物理的な罠は、どうしてもイメージが結びつかない。
     今の二人は、その事に関しての盲点を突かれた格好だ。
     しかし、無数の矢が放たれようとしている割には、二人は落ち着いていた。
     仕掛けられた矢がひとたび放たれれば、二人は針鼠どころか、肉片すら残るか危うい状態だと言うのに。
     ……ビュッ!!
     風を切り、一斉に矢が放たれた。
     前方を埋め尽くす程の無数の矢。
     矢は獲物を求め、一直線に二人へと襲い掛かる。
     無数の矢が二人に突き刺さる―――
     そう思われた直前、突然暴風が吹き荒れた。
     暴風は飛んで来た無数の矢を弾き飛ばし、あるいはへし折る。
     遂に無数の矢は、二人に一本も突き刺さる事も無く、暴風に全て阻まれた。
     飛んで来る矢が無くなるのと共に、吹き荒れていた暴風も幻のように掻き消えた。
     暴風が消え去った地に残ったのは、地面を覆い尽くすへし折れた矢と、無傷の二人だけだった。
     「ご苦労様、レン」
     「気にするな。この程度なら、大した手間でもない」
     これがレンの力。
     先ほどの暴風は、レンが魔法によって生み出したもの。
     ユナが炎術系の魔法が得意なように、レンは風術系の魔法を得意としていた。
     その力はご覧の通り。
     「やれやれだ。次からは、魔法以外の罠にも気を付けながら進むとするか」
     「ええ、そうね」
     二人は頷きあい、通路の奥へと足を踏み出した。



     あのトラップの後にも、幾多ものトラップが仕掛けられていたが、注意深く通路を進んでいた二人は、その全てを回避、あるいは解除しながら進んでいった。
     そして遂に二人は、目的の禁書がある部屋へと辿り着いた。



     「ねえ、アレって、いかにもって感じなんだけど……。レンはどう思う?」
     「ああ、確かにいかにもって感じだな。禁書の守護者か……。材質はなんだと思う?」
     二人の視線の先には、禁書が祭られている祭壇―――
     その横に鎮座する、二体の像に注がれていた。
     今のところ、その二体の像からは、魔力は感じられなかったが、おそらく後数歩祭壇に近づけば、禁書を守る守護者として目覚めるだろう。
     そして今二人が気にしているのは、その二体の守護者……つまりは、ゴーレムの材質だった。
     ゴーレム、あるいはガーゴイルなどは、遺跡などの宝を守る守護者や番人として有名だが、その力と能力は込められている魔力と材質に左右される。
     今まで発見されたゴーレムで最も強かったのは、オリハルコン製のゴーレムである。
     オリハルコンはその特性から、耐魔力が強く、また強度も最高峰の金属とされている。
     もっともオリハルコンは希少金属の為に、古代魔法文明期以後のゴーレムの作成には使われていない。
     「オリハルコンって事は無いと思うから……、ミスリルってところかな?」
     「ミスリルか……。妥当なところか。だが、オリハルコンよりは多少はマシと言えるが、ミスリルも十分耐魔力や、強度が高い。厄介と言えば厄介に変わりは無いな」
     レンの言葉に頷く。
     「ええ。それに、通路とよりは広いと言っても、私は全開で戦えないわね」
     「だな。私の魔法でも決定打に欠けるか。となれば……」
     ユナへと視線を視線を向ければ、
     「分かってる。後はタイミングが問題ね」
     「その辺は臨機応変に。戦いながら作り出すしかないな」
     二人は頷き合う。
     そして、一斉に互いが互いの相手へと向かって、先制攻撃を仕掛けた。



     爆炎。
     起動したばかりのゴーレムに、問答無用に火炎系の魔法を叩き込んだ。
     もっとも、ユナはこの程度でゴーレムを倒せるとは思ってもいない。
     あるていど傷でも付いていれば儲けもん。その程度に考えてはいた。
     だが……
     「いくら力をセーブしているからって、まさか傷一つ付かないなんて……。まいったわね」
     ポリポリと頬を掻き、衝撃で体勢を崩したゴーレムを呆れた表情で見た。
     ゆっくりと重々しく体勢を立て直したゴーレムは、ユナを敵と認識し、突進する。



     「……やれやれだ。スパっと斬り飛ばせるとは思ってもいなかったが、せめて装甲ぐらいは凹んでくれても良さそうなものを……」
     風の刃を放ったレンは、装甲に凹んだ跡すらも見えない事に、今後の戦闘の展開を思考した。
     レンの風の刃は、鋼程度なら豆腐のように切断できる威力を持っている。
     となりの様子を窺えば、ユナはゴーレムに追い掛け回されていた。
     まあ、ユナは此処では本気を出せないし、ゴーレム相手に効きそうな武器も生憎持ち合わせていないので、逃げ回るのも仕方が無い。
     そうは思うのだが、あのユナ・アレイヤが逃げ回っている姿を学園の者達が見たら、一体どういった反応を見せるかと思うと、レンは知らず笑いが込みあがってきた。
     「くっ、いかんいかん。私の方の敵も健在だったな」
     そう言って吹き飛ばしたゴーレムの方を見てみれば―――
     「うォ?!」
     目の前に迫るのはゴーレムの拳。
     レンは反射的に仰け反り、拳を交わす。
     「ちっ! どうりゃー!!」
     目の前を通り過ぎる腕を両手で抱き付く様に掴み取り、レンはゴーレムを投げ飛ばそうとする。
     レンとゴーレムの体重差は、十数倍以上。
     例え筋力を魔力で増幅したところで、とても投げ飛ばせる相手ではない。



     ―――だが、目を疑う光景が繰り広げられた。
     ふわりとゴーレムの巨体が浮かび上がり、次の瞬間―――
     轟音と共にゴーレムが石畳へと叩きつけられた。
     絶対に不可能な出来事。
     それを可能にしたのは、レンの格闘センスと風の魔法。
     風の魔法でゴーレムの足をかり、増幅した筋力と技でゴーレム自身の力を利用し、投げる下準備は完了。
     その上で、風の魔法でバランスを崩したゴーレムを押し上げて投げ飛ばす。
     どれか一つでも欠けていたら出来ない技。
     ゴーレム自身の力に体重、投げ飛ばされるスピードに加えて、石畳の硬度。
     それらが相乗し、その威力は計り知れない。
     だが、それでもゴーレムに致命的な損傷は与えていない。
     外側からの攻撃には、桁違いの耐久性を誇る。
     ならばと、レンは倒れているゴーレムから離れ、ユナを見る。
     逃げ回りながらもゴーレムに攻撃を加えていたユナも、レンと同じ結論に至ったのか、レンと視線が混じった。
     一瞬のアイコンタクトによるやり取り……それだけで互いの考えを見抜き、行動に移す。
     レンは起き上がったゴーレムに、風の魔法で挑発しつつ、静かに計画を進めていく……。



     無数の爆音。
     連続して、ゴーレムに火球を叩き込む。
     流石にこれは効いたのか、壁へと勢い良く叩きつけられる。
     少し余裕ができたユナは、レンの方へと目を向けた。
     そして其処で見たものは―――
     (相変わらず、無茶苦茶な奴……)
     それが、ゴーレムを投げ飛ばしたレンに対してユナが思った事だった。
     レンの格闘センスは天性のモノがあるし、風の魔法の使い手としても天才的だ。
     しかし―――
     「レンとだけは喧嘩したくないわ。接近戦に持ち込まれたら、洒落にもならない……」
     あのゴーレムを豪快に、しかし奇麗に投げ飛ばした親友に、ちょっぴり頬が引き攣った。
     だが、石畳が凹む程の衝撃を受けたにも関わらず、ゴーレムに然したる損傷は見当たらない。
     今のところ互角だが、こっちは生身の人間で、相手はゴーレム。
     何時かは、スタミナと集中力が切れて負ける―――となれば、あの方法しかない。
     そう思い至ったところで、レンと視線が絡み合った。
     どうやらレンもユナと同じ考えに至ったようだ。
     二人はアイコンタクトで意思を疎通しあい、行動に移した。
     ユナは自分が相手をしていたゴーレムに、火球で挑発しながら、ある地点へとゴーレムを誘いこんだ。



     「レン!」
     「ユナ!」
     互いにゴーレムに対して攻撃を加えながら、二人は合流した。
     二人は互いに背を合わせ、ゴーレムを待ち受ける。
     「ユナ、残りの魔法力は足りるか?」
     「ええ、なんとかね。あの二体を倒す分には問題ないわ」
     合流した二人は、まず互いの状態を確認しあった。
     これから二人がやる手段には、失敗は許されない。
     「レンの方は?」
     「私も似たようなモノだな……。さて、お喋りは此処までのようだ。ヘマはするなよ?」
     「ハッ! 誰に向かって言っているのよ? そっちこそ失敗しないでよね」
     「それこそ、だ。来たぞ!」
     二人を追ってきたゴーレムは、重々しい地響きを鳴らしながら、二人へと向かってきた。
     10m、9m、8m、7mと徐々に近づき、そして……残り1m。
     二体のゴーレムは、合わせ鏡のように向かい合い、振り上げた拳を勢い良く振り落とす。
     二つの拳が二人の少女を肉片に変える―――
     その瞬間、二人は横へと身を投げ出した。
     突然目標を見失った二体のゴーレムの拳は、石畳へと突き刺さり、その巨体が仇となり、互いの体がぶつかり合った。
     損傷こそ無いものの、二体のゴーレムは大きく体勢を崩した。
     その瞬間―――
     「今よ!」
     ユナの声が部屋に響き、片膝を地面に付いた状態のままレンが詠唱を始める。
     「風よ、我が望むは戒めの鎖! 我が敵をその身を鎖となして、その動きを封じよ!!」
     レンの呼び声に応じて、風が戒めの鎖となって、二体のゴーレムの動きを封じる。
     「頼んだぞユナ! そんなに長くは持たない!」
     レンの言葉に頷いたユナは、詠唱を始める。
     「炎よ、その身を幾多の業火の剣と化し、我敵を射殺し、焼き滅ぼせ! 汝には、如何なる距離も障害も無し!!」
     ユナが最も多用する空間設定型魔法。
     それが動きを封じられた二体のゴーレムの周囲に、数十本にも及ぶ炎の剣を呼び出した。
     だが、出現場所には偏りがあった。
     多くの剣が現れたのは、関節部分。
     なまじ人型なゴーレムなだけに、関節部分が一番脆い。
     それを狙い易くする為にレンの魔法でゴーレムの動きを封じ、数十本の炎の剣にものを言わせて間接部を破壊する。
     これが二人があの一瞬のアイコンタクトでたてた作戦。
     炎の剣は、数にものを言わせて次々と関節部分に突き刺さる。
     一本一本では僅かなダメージしか与えられないが、それが数回、数十回と重なるうちに、徐々に致命的なダメージへと変わる。
     高まる一方の高温で、ゴーレムの関節部分が悲鳴を上げ、遂には間接に突き刺さる。
     突き刺さった炎の剣は、内部へと炎を迸らせ、内部からゴーレムを破壊する。
     いくらミスリル製のゴーレムとは言え、内部も全てミスリルで出来ている訳ではない。
     全ての炎の剣が突き刺さり終わる頃には、ゴーレムは致命的なダメージを受けていた。
     瀕死のゴーレムに対して、二人は止めを刺すべく呪文を詠唱する。
     「炎と同調せよ! 炎と合わされ! 炎と交じり合え!! 風よ、大いなる渦となれ! 全てのモノを薙ぎ払い、捻じり切れ!!」
     「風と同調せよ! 風と合わされ! 風と交じり合え!! 我が放つは火竜の息! 炎よ、全てを焼き尽くす火炎の息吹となれ!!」



     二人が唱えたのは、合体魔法。
     二人以上の術者が、互いの魔法を合成する高難易度の魔法。
     必要なのは、術者同士のタイミングと信頼。
     そして、対等の実力と同レベルの魔法。
     どれか一つでも欠ければ、単発の威力と変わらなくなってしまう。
     だが、合体魔法を完璧に放てれば、単発で撃つ時よりも、威力は最高で5倍近くにまで跳ね上がる。
     合成する魔法同士のレベルが高ければ高いほど難易度も高くなるが、威力も高まる。
     基本は中級以上のレベルの魔法の合成。
     低級の魔法では、合成する意味がさほどない。
     単発で連続で放った方が、よほど効率的だ。
     そして今回二人が放った魔法は、高位に位置する魔法。
     その威力は、単発で放ったときの比ではない。



     ユナの炎の魔法ととレンの風の魔法が混ざり合い、紅蓮の炎の渦となる。
     紅蓮の炎の渦は二体のゴーレムを飲み込み、その猛威を振るう。
     炎の刃が装甲を削り、砕く。
     猛威は止まる事を知らずに、あまりの高熱に、ミスリル製の装甲が遂に溶け出した。
     紅蓮の炎の渦の内部はまさに灼熱地獄。
     石畳さえ溶け出し、ありとあらゆるモノが溶け出し、混ざりあう。
     だがそれは、紅蓮の炎の渦の内部のみ。
     不思議な事に、紅蓮の炎の渦の外部には、その熱は伝わらなかった。
     それは二人が、熱を遮断するために魔法を使用していたから。
     でなければ、とっくに二人とも蒸し焼きになっていただろう。
     そして遂に、終焉を迎えた。
     紅蓮の炎の渦が消え去った跡に残ったものは、ゴポゴポと沸き立つ灼熱のマグマ。
     二人はそんな様子には目もくれずに、禁書へと向かう。



     「……これか」
     レンが祭壇上に在った禁書を手にとり、パラパラと捲った。
     ユナはレンの後ろから、覗き込む。
     「へ〜、結構いろいろな禁呪が載ってるじゃない」
     「ああ、そうだな。だが、こんな所ではじっくり解読もできんな。……部屋に持ち帰るか?」
     「う〜ん……そうね。見たところ、ここ数年は立ち入った形跡も無かったし、それも良いかな?」
     少し考える素振りを見せたが、結局持ち帰ることに決めたユナ。
     「では行くか。しかし、守護者であるゴーレムは破壊してしまったしな……。ばれた時どうする?」
     その問いかけにユナは肩を竦め、
     「その時の為に、教職員の弱みを調べたんでしょう?」
     「それもそうだな。後は、ばれない様に凶悪なトラップを仕掛けながら帰還するか……」
     「あ、それいいわね。私も何個か試したいトラップ在ったし。実験がてら仕掛けましょう」
     そう言って二人は、本当に凶悪なトラップを随所に仕掛けながら帰還した。
     そして禁書の様子を見に来た学園長が、以前来た時には存在しなかったその数々の罠に、絶叫を上げたのは言うまでも無い。



     その後、読み終わった禁書がどうなったか言えば―――



     「あれ? これなんだったっけ?」
     一冊の本を手にしたユナが、不思議そうに言った。
     「あん? 確か……禁書じゃなかったか?」
     「……ああ! 確かに在ったわね、そんな物が……」
     思い出すように言うレンに、すっかりその存在を忘れていたユナは、納得したと言うように何度も頷く。
     すっかり二人に忘れ去られた禁書は、本棚の片隅で埃を被っていた。
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