Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■224 / 3階層)  赤と白の前奏曲Act3
□投稿者/ ルーン -(2005/08/21(Sun) 19:37:24)
    〜注意〜
     この話は、『捜し、求めるもの』のユナの学生編です。
     又、この話の時空列は滅茶苦茶です。



     「弓兵部隊前へ! 構え! 敵を充分引き付けるまで放つなよ?!」
     部隊の前方に出た弓兵部隊は、一糸乱れぬ統率された動きで命令に従う。
     キリキリ……数十の弓を引く音が闇夜に響く。
     視界は、星と月明かりのお陰で闇夜にしては明るい。
     弓兵の一人一人が、狙いを定めて息を殺し、次の命令を待つ。
     「魔法部隊詠唱始め!! 属性は風に炎に限定!!」
     二十人ほどの魔法使いが、命令に従い詠唱を始める。
     その声は朗々と戦場と言う闇夜に響き渡る。
     歌うような、けれども力強い声。
     その声に後押しされるように、部隊の指揮官は声を張り上げた。
     「来たぞ!! 敵は前方約100m地点!! ゴブリンやオーク共だからと言って侮るなよ?! 弓兵部隊……てっーーー!!」
     その言葉と共に、限界まで引き絞られていた矢が一斉に放たれた。
     放たれた矢は、迫り来る魔物の部隊へと降り注ぎ、次々と突き刺さる。
     矢に刺され倒れる者もいるが、それ以上に多くの敵が倒れこむ仲間を踏みつけらながらも突撃して来る。
     「ち、奴らに仲間意識など無いか……魔法部隊、奴らに魔法を叩き込んでやれ!!」
     指揮官の言葉に、呪文の詠唱を終えた魔法部隊は、展開した魔法を放つ。
     爆炎が大地を焦がし、風が死の刃となって荒れ狂う。
     「弓兵部隊に魔法部隊は後退! 騎士団前へ!!」
     指揮官の命に従い、後退する二つの部隊。
     代わりに、盾と剣と鎧で武装した騎士団が前へと出た。
     「騎士団抜剣! 構え! ……陣形を乱すなよ?! 騎士団切り込めーーー!!」
     『うおおお!!』
     声を張り上げ、陣形を乱す事無く魔物の群れへと突撃する。
     その様は正に勇猛果敢。
     敵の数は、自軍の戦力よりも遥かに上。
     騎士団だけでは圧倒的不利にも拘らず、騎士たちは一寸の躊躇いも見せずに敵に相対する。
     剣で敵を切り、あるいは盾で敵の攻撃を弾き打ち据える。
     盾は強力な鈍器となり、敵の足を止める。その隙に切り捨て、次の敵へと相対する。
     傷つき倒れし仲間は、直ぐに後ろへと下がらせ、魔法使いによる治療を施す。
     仲間が抜けた穴は、別の騎士がすぐさま埋める。
     そして傷が癒えた騎士は、直ぐに戦場へと舞い戻り、仲間を助ける。
     これの繰り返しで徐々に敵部隊を駆逐していく。
     単純だが、有能な指揮官も優れた知性を持たず、ただ単純に力押しで向ってくる魔物が相手では、この単純さが逆に効果的なのだ。
     最も、指揮官に相応しい知性を持った魔物や魔族もいるにはいるのだが、その絶対数が少ない為に、大群で襲って来る魔物相手でも、数で下回っている場合でも優位に交戦できるのだ。
     第一、この混戦の最中では、下手に魔法や弓で援護しても同士討ちの恐れが出て来るために、弓や魔法は敵部隊後方や、騎士団を迂回して本陣を襲おうとしている者達にしか効果が発揮され難いのだ。
     その本陣を狙おうとする敵も、部隊として統一された行動ではなく、個人個人でバラバラでの全く統一感の無い攻撃の為、殲滅する事など容易かった。
     そんな事情も相まって、騎士団は徐々に魔物の群れに楔を打ち込んでいき、敵部隊を押し始めていた。
     圧倒的な物量差にもかかわらず善戦している部下たちを見ながらも、指揮官の表情は厳しかった。
     「くそ! 銃撃部隊がいたらもっと戦闘も楽になるんだがな……」
     忌々しそうに言葉を吐き捨てる。
     銃や魔装銃が充分な数さえあれば、計り知れないほどの戦力になる。
     尚且つ遠距離武器な為、騎士団の被害も最小限ですむ。
     そうすれば、仲間や部下を失わずにすむのだが―――と指揮官は胸中で呟く。
     だが銃や魔装銃は、未だに高価な代物なのだ。
     それを戦闘に使えるほど大量に所持するのには、購入する資金を揃えるのは地方では難しい。
     唯一部隊が組めるほど銃や魔装銃を所持しているのは、王都の銃撃騎士団ぐらいなものなのだ。
     あとは裕福な家庭や、冒険者や傭兵などといった特殊な者達が持つのみ。
     地方の騎士団では、高官ぐらいしか銃や魔装銃は持てないのが現状だった。
     「魔法部隊! 負傷した騎士の治療!! 並びに、身体能力向上系の魔法をかけろ!! 急げよ!? 敵は待ってはくれんぞ!!」
     無いものを強請っても仕方がないと、指揮官は今ある戦力での最善の策を模索する。



     「見事に統制された部隊ね。あの大群を相手に、徐々にだけど押し始めてるわ」
     赤い髪の少女が、隣にいる白い髪の少女へと向って言った。
     「まぁ……な。だが、ただ単純に敵が莫迦というだけでもあるがな」
     感心した赤い髪の少女の評価に対して、白い髪の少女は、敵を莫迦の一言で切って捨てた。
     その評価に、赤い髪の少女は苦笑を漏らした。
     苦笑した赤い髪の少女を見ても、白い髪の少女はジッと戦場を眺めていたが、ポツリと言葉を漏らした。
     「だがまぁ、確かに統制は取れているな。王国の近衛騎士団クラスとまでは流石にいかないが、それでも地方の領主の軍勢にしては充分過ぎる」
     何だかんだ言っても、きちんと目下の騎士団の統制を評価している辺り、この白い髪の少女も唯の少女ではないだろう。
     そんな白い少女の態度にも慣れているのか、赤い髪の少女はただ苦笑を深めただけだった。
     「ユナ殿〜、レン殿〜」
     戦場を見下ろしていた二人の少女の背後から、そんな呼ぶ声が聞こえた。
     「呼ばれているな、ユナ」
     「そうね、レン。でも何かしら? 今の状況なら、私たち二人の力は必要ないはずだけど……」
     ユナと呼ばれた赤い髪の少女は、指を顎に当て、考える素振りをした。
     「さあな。だが、行ってみれば分かるだろう」
     白い髪の少女―――レンはその白い髪を輪ゴムで無造作に纏めると、身を翻し、声のした方へと歩いていった。
     「それもそうね。……って、少しぐらい待ってくれても良いんじゃない?!」
     ユナの返事も待たずに歩いていくレンに、頬を軽く膨らませ、レンの後を追った。



     「失礼します」
     「失礼する」
     二人が入った天幕は、戦場から少し離れた場所に立てられていた。
     周囲は武装した騎士が油断無く見張っている。
     天幕に入った二人が感じた雰囲気は、ピンっと張り詰めた空気だった。
     その空気で、二人は何か不測の事態が起こった事を察した。
     天幕内を見渡せば、中には机と数脚の椅子があり、机に置かれたこの周辺の地図を、険しい目付きで数人の男たちが取り囲んでいた。
     「総隊長殿、お呼びと聞きましたが、どのようなご用件でしょうか?」
     「ユナ殿、レン殿、ご足労ありがとうございます。まずは、あなた方が連れて来てくださった魔法学園の生徒達のおかげで、我が騎士団の被害が最小限で抑えられている事にお礼を申し上げます」
     「いえ、お気になさらずに。これも授業の一環ですし、正式に学園に依頼なされた事ですから、当然の事です」
     ユナとレンがこの様な戦場にいる訳は、ユナが総隊長に言ったように、これが魔法学園の授業の一環だからである。
     魔法学園と戦場。
     一件無関係と思われるが、実際はそうではない。
     治療に攻撃にと、魔法使いは戦場では立派な戦力になるのである。
     そこで魔法学園は実戦の実習を兼ねて、魔物退治の依頼を各所から受け持っているのだ。
     勿論地方にも魔法協会があるし、騎士団にも魔法使いはいるが、魔法使いの全てが戦闘に向いている訳でもない。
     だが魔法使いは戦場では何かと便利な存在なのも確かなのだ。
     そう言った理由から、十分な魔法使いがいない地方の騎士団などでは、魔法学園に魔法使いの派遣を依頼するケースが多い。
     勿論危険を伴うし、依頼という形を取っているため、依頼料はとる。
     学園から派遣される対象となる生徒は、主に五期生と四期生達である。
     これは実戦に耐えうる実力を持っているのが、四期生からだからだ。
     学園の生徒たちは、魔物退治の依頼を最低一回受ける事が課題となっている。
     例外は実力や性格上に問題がある生徒たちだが、それらの生徒には別な課題が設けられる仕組みとなっている。
     もちろん、魔物退治を受ける生徒たちにもメリットはある。
     まず、学園に支払われる依頼料から、生徒個人にもお金が手渡されること。
     そして、実戦で魔法が使えることだ。
     実戦からでしか得られない経験を得ることができる。
     その他にも、実戦を経験していた方が、仕官する時に有利などといった点がある。
     その為に危険を伴う実習にも関わらず、志願する生徒たちも多いのだ。
     ユナやレンはそんな事には興味はないのだが、その戦闘力の高さから、学園側から指名される事が多い。
     既に実戦の経験回数は、四期生にも関わらずに、学園内でもトップクラスになっている。
     そう言った理由から今回も指名されたのだが、役職的には他の生徒たちの引率の先生といった感じだった。
     「それで? 総隊長殿が険しい顔つきをしているということは、何か問題が起こったんだろう? 私たちにできる事なら、協力は惜しまないつもりだ」
     単刀直入に、しかも無愛想に言うレンに、ユナは頭を抱えたくなった。
     せめてこう云う時ぐらいは、もう少し丁寧な言葉使いをするとか、態度を少しは柔らかくして欲しいとか思うのは、自分の我侭なのだろうか? と考え込む。
     第一、私自身も猫を被って慣れない言葉を使っていると言うのに、不公平ではないか? と思うのだが、そんな事を隣の親友に言っても、「だったらユナも猫を被らずに、素のままでいけば良いだろう」とか言うに決まってるのだ。
     意識しないと自然と漏れそうな溜息を堪えつつ、ユナは総隊長に謝る事にした。
     「すみません、総隊長殿。こういう娘なので、大目に見てくれると助かります」
     頭を下げて謝るユナに、
     「いや、気にすることは無い。こちらとしても、単刀直入の方が時間を省略できるのでな」
     総隊長は苦笑をしながらも快く許した。
     その言葉にユナはホッと胸を撫で下ろし、隣に立つ親友を軽く睨む。
     もっともレンはそんなユナの視線に気が付きながらも、特に悪びれた様子も無く口を開いた。
     「それで、いったい何があったというのだ?」
     「ああ、実は厄介なことが起こってな。今襲撃してきている魔物どもの他にも、もう一つ魔物の群れが近づいてきているようなのだ」
     「嘘でしょう?! それって上位魔族か、それに近い力を持った魔物がいたってこと?!」
     苦りきった口調で言う総隊長に、思わずユナは声を荒げた。
     今現在の状態は、小康状態をやっと保っているような戦況なのだ。
     それなのに他の魔族の群れに加えて、上級魔族でも来られた日には、一応の予備戦力は在るものの、戦況がひっくり返りかねない。
     「いや、どうやらそうではないらしい。幸か不幸か、ただもう一つの魔物の群れが近づいて来ているだけであって、偵察部隊からの報告からでは、上級魔族などの姿は見当たらなかったそうだ」
     「なるほどな。だが、厄介な事には変わりないな。で、いったいどうするつもりだ?」
     総隊長は顎鬚を擦りながら、思案するように目を瞑った。
     総隊長が思案している間にも、引っ切り無しに戦場の様子や近づいて来る魔物の情報が届けられているが、それらは総隊長の部下たちが受け持ち、総隊長の思考を邪魔しないようにしている。
     「……ところで、ユナ殿とレン殿が使える一番威力が強い魔法で、どのくらいの魔物が葬れる? ああ、今近づいて来ている魔物の群れの数は、今騎士団が戦っている数よりも少ないそうだ」
     それなら全部です。と言いたいのをユナはグッと堪え、視線を周囲へと走らせた。
     確かに自分とレンが禁呪を使うのなら、あの魔物の群れよりも少ないのならば、全部を葬れると思う。
     もっとも、それは協会関係者がいなければ―――の話しだ。
     下手に禁呪が使えると協会に知れ渡ると、後々厄介な事になるのは分かりきっている事だ。
     それはもう、協会から熱烈な勧誘が来るだろう。それこそ、断れば命の危険があるような熱烈な勧誘が。
     そして、今現在この場に協会の関係者がいるために禁呪は使えない。
     となれば、禁呪よりもワンランク下の呪文になるのだが―――
     「そう、ですね……相手の魔法防御力や陣形にもよりますが、三分の一か半分くらいはいけるかと思いますが……」
     「では三分の一と考えよう。とすると、残しておいた予備戦力で残りの三分の二を叩くになるが……さて、どうしたものか……」
     総隊長は決断を下せない不安が二つほどあった。
     一つ目が、戦力の問題。今残してある予備戦力は、あくまで予備なのだ。敵に対して圧倒的に人数が少ないのだ。
     二つ目の方がより重要なのだが、戦闘能力はともかくとして、指揮官が不足していることが一番の問題だった。
     予備戦力の大部分が、緊急時に際して外部から雇い入れた傭兵によって構成されている。
     小規模な傭兵団と幾つも契約したために、指揮系統がはっきりととれないのだ。
     基本的に傭兵達は雇い主に対しては従順なため、傭兵たちを雇った者が指揮を取ればいいのだが、雇い主がこの場にいないのが問題だった。
     雇ったのはこの地を治める領主なのだが、その領主は戦闘にはとても向いているタイプではなかったので、町に残っていた。
     となると、傭兵たちを指揮できそうなのは立場上総隊長ぐらいなのだが、その総隊長は全体を指揮するためにこの場から離れられない。
     そんな訳で、傭兵たちを指揮できる指揮官がいないのが現状だった。
     そんな現状に頭を掻き毟って喚きたくなる総隊長だったが、上に立つ者がそんな無様な姿を見せられるはずもなく、表面上は冷静なように繕ってみせていた。
     「指揮官がいないのであれば、私が指揮をとりましょうか?」
     テント内で唯一一人離れた位置で、静かに事の経緯を見ていた男が、すっと前に出て言った。
     その言葉に、この場にいた殆どの者が驚きに目を見開く。
     ユナとレンは面白そうな目で男の動向を見ている。
     ユナとレンにしても、この男が介入してくるのは予想外のことだったので、内心面白そうな事になりそうだと喜んでいた。
     「ほ、本当ですか!? レオン殿!!」
     総隊長は驚きと喜色の混じった顔で男―――レオンへと詰め寄った。
     「ええ、本当です。非常事態ですし、この場合は陛下も許してくださるでしょう」
     レオンは朗らかな笑みを浮かべ、頷いた。
     この言葉に、テント内は喝采で包まれた。
     『レオン・ディスカ』は王国近衛騎士団に所属しており、そんな彼がこの場にいるのは、軍監として事の経緯を見守り、国王へと報告するためにいるのだ。
     はっきり言ってしまえば、領主や騎士団の民や魔物に対する行動が、適切かどうかを見張りにきているのだ。
     そんな彼が指揮をとることは異例の事態と言ってよいのだが、予想外の出来事が起こっている今、民の安否を守るためには、自分が指揮をとったほうが最善だと判断したのだろう。
     総隊長としても優先すべきことは、民や土地を守ることであり、自分のプライドなどではない事は判りきっている。
     総隊長は頭を下げて、予備戦力の指揮をレオンへと託した。
     レンはそっとユナの耳元へと顔を近づけると、
     「面白い展開になったな。予想外の出来事だが、王国近衛騎士団の実力見るいい機会だな」
     小声で囁いて来たレンに、
     「そうね。王国近衛騎士団の実力って気になってたし、丁度いいわ」
     瞳を細めて楽しそうに口にした。
     レンとユナはこの非常事態にこれ幸いにと、王国近衛騎士団の実力を測ることにしていた。



     「ではユナ殿にレン殿、あの集団に思う存分に魔法を叩き込んでください」
     ニコリと笑って、レオンは眼下に迫りくる魔物の群れを指差して言った。
     二人は黙って頷くと、呪文の詠唱を始める。
     「風と同調せよ! 風と合わされ! 風と交じり合え!! 炎の精霊よ、爆ぜよ! 大地より爆ぜよ! 天空へと爆ぜよ! その紅蓮の業火を爆ぜよ! その業火にて、我が眼前に立ち塞がる愚かな脆弱なモノどもを焼き滅ぼせ!!」
     「炎と同調せよ! 炎と合わされ! 炎と交じり合え!! 風の精霊よ、駆けよ! 大地を疾駆せよ! 大いなる天空を走破せよ! 天空よりの裁きを下せ! その大いなる息吹を持って、全てのモノを薙ぎ払い駆逐する暴風となれ!!」
     ユナとレンの目が合い、頷き合う。
     ユナは手を振り下ろし、レンは手を振り上げ、最後の説を唱えた。
     「「汝には、如何なる距離も障害も無し!!」」
     魔物の群れの丁度中央で、突如爆炎が大地から吹き上げ、幾多の魔物をその業火で焼き、爆風で吹き飛ばした。
     天空からは大気の断裂から生まれた刃が降り注ぎ、魔物の群れを襲う。
     爆音と轟音が響き渡る中、呪文の効果はまだ続く。
     大地から立ち上った爆炎と、天空から降り注ぐ大気の刃が混ざり合い、膨れ上がる。
     目の眩む閃光と轟音が大地を揺るがし、交じり合った炎と風が炎の刃となり、大地を縦横無尽に疾駆する。
     魔物へと荒れ狂う死神の刃と化した炎の刃は、魔物と一緒に平原にも当然のように被害をもたらし、草木を燃やしている。
     さすがにこれほどの威力とは思っていなかったレオンは、呆然としていたが、何とか自分を取り戻すとユナたちへと顔を向けた。
     「……確かに思う存分と言いましたが、これはさすがに……」
     頬を引き攣らせながら言うレオンに、
     「……いや、まさかこれほどの威力とは、私たちも思ってなかった。……しかし、これは凄いな」
     「……ええ、あのレベルの呪文での『合体魔法』と、『空間設定型魔法』の『融合魔法』なんて初めてだったものね。実験には丁度いいから使ってみたけど……」
     これは禁呪レベルの威力だわ、と言葉を飲み込む。
     予想外の威力に驚くユナだったが、一方で、禁呪同士を『融合魔法』させたら面白そうなどと、危険極まりないことを考えていた。
     まあレンも同じ事を考えていたから、似た者同士の二人だろう。
     「? ってまさか!? 使った事もない魔法を使ったんですか!?」
     二人の言葉の意味することを知り、思わず驚きの声を上げるレオン。
     「ん。まあ、な。実験には丁度よかったしな」
     「そうよね。隠れてこっそり試し撃ち……なんて、できないしね。大っぴらに実験できるいい機会なのよね、この魔物の討伐って」
     答えた二人は、なにやら手帳をとりだして、威力やら改良点やらを書き込んでいる。
     そんな二人の様子に、レオンが思わず頭を抱え込んだとしても、誰も攻められないだろう。
     しばらく頭を抱え込んでいたレオンだったが、魔法の効果がなくなると気持ちを取り直して、自ら先頭に立ちながら魔物の残存部隊へと突撃していった。
     指揮官が自ら先頭に立ち、戦闘を行う行為は賛否両論だが、部隊の士気を上げるのにはこれほど効果的なものも少ない。
     実際その効果は覿面で、数では未だに劣っている自軍だが、その士気は天にも届かんばかりの勢いだった。
     もっとも、先ほど魔法が引き起こした光景も一役たっているんであろうが……



     結局二箇所で行われた戦闘は、犠牲は出しながらも魔物を追い払うことに成功した。
     そしてユナたち学園からの救援者は、戦闘終了後もけが人の手当てなどに数日間町で過ごし、本日学園への帰路へとついた。
     「それにしても、王国近衛騎士団の実力を直に見れたのは業績だったな」
     「そうね。もっとも私としては、何故ごく普通の剣の一振りで、魔物が一度に十匹以上も吹き飛ぶのかが知りたいけど」
     ユナの言葉に、レンは何か思い出すそぶりをしながら、
     「ああ、アレか。確かに、魔法もE・Cも使わずにあの威力は驚いたが、たぶん、剣の振りで衝撃破でも放ってるんだろうな」
     「……私が言うのもなんだけど、王国近衛騎士団も滅茶苦茶ね。しかも、本気には程遠かったっぽいし」
     呆れたと言わんばかりの口調に、レンは苦笑した。
     「まあ、な。だが、これだから世界は面白い。そうは思わないか、ユナ?」
     「そう、ね。確かにレンの言うとおりだわ。これだから世界は面白い!」



     「やれやれ。アレが噂の『ユナ・アレイヤ』に、ヴァーデン侯爵家の跡取娘、『レン・オニキス・ヴァーデン』ですか……それにしても、噂以上の滅茶苦茶ぶりですね。……まあもっとも、陛下はお喜びになるかもしれませんがね」
     遠ざかっていくユナとレンの後姿を見ながら、レオンは溜息を吐いた。
     噂には聞いていたが、噂以上の滅茶苦茶ぶりに、さしもの王国近衛騎士団のレオンも疲れていた。
     そもそも今回の任務は、王宮でも噂になっている、ユナとレンが魔物の討伐隊に参加をすることを知った国王の命により、ユナとレンの性格や考え方や、魔法使いとしての実力を見極めることがレオンに与えられた主な任務だったのだ。
     言ってみれば、軍監としての任務は、二人を観察するためのついでなような任務だったのだ。
     噂以上の滅茶苦茶ぶりに呆れかえりながらも、自分が仕える主の性格を思い返し、絶対に二人を気に入るだろうと確信したレオンは、もう一度溜息を吐き、報告を心待ちにして いるであろう、己の主の下へと帰還を急ぐべく、馬に鞭を入れた。
     心中で、今後あの二人には関わらないでいたいと願いながら。



     もっとも、その願いは適わぬ願いだったのだが。
     これが縁どうかはともかくとして、こののちあの二人と王国近衛騎士団の中で、一番付き合いが濃く、長くなるとは、幸か不幸か神ならざるレオンには知る由もなかった。
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