Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■533 / 親階層)  交錯
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/21(Tue) 22:02:50)
     地獄、言葉にするのは簡単だが実際にどんなものかと問われれば答えるのは難しいもの。
     しかし、地獄絵図を実際に現せと言われたのならば、それは比較的楽に見せる事が出来るだろう。
     戦争、病、飢饉……この世に地獄絵図を現す事の出来るものは溢れかえっている。
     その中でも、もっとも地獄絵図をこの世に描ける存在がある。

     それは―――人間だ。

     地獄絵図を描く為の材料としても、地獄絵図を描く作者としても人間以上に優れた存在はそうそういないだろう。


     そこも嘗て、地獄絵図を描いていた。
     地獄絵図の中では穏やかな方であろうが、しかしながら一般的に見て地獄絵図には違いなかろう。


     身体を脳を切り刻む実験、実戦といっても過言ではない訓練……それらには常に死の危険が潜んでいた。
     実際に数多くの命が消えた。そして消えた命を補充する為に送られてくる不運な生贄達。


     彼女はその中でも生き延びた。
     己は古き記憶とその身に刻むべき時を代償に、仲間といえる生贄達を訓練で殺していきながら。
     得たものは押し付けられた力のみ。失ったものは余りに多く、得たものは少なく……それでも彼女は命を失う事はなかった。
     この世にヒトによって作られた地獄絵図を、彼女は生き延びた。















     肩に触れるぐらいの長さで切られた新雪の様に無垢に白い髪、天に広がる青空の様に澄んだ蒼い瞳。
     まるで人形のような容姿をした14歳程であろうその少女は、首輪にメイド服という少々保護者に様々な疑惑が掛けられそうな服装で街を歩いていた。
     ふと、その足が歩みを止めて不意に周囲を見回す。すると、注意深く見ていないとわからないぐらいに、ほんの僅かに表情が歪む。

    「迂闊……」

     近くに寄らなければ聞こえないぐらいの小さな声でポツリと呟く。その声には隠し切れぬ程の己への苛立ちが隠されていた。
     それは己の未熟、不甲斐無さ、不注意、油断…様々なものを嘆く声だった。
     暫し後、彼女は周囲に気付かれぬ程の小さく溜息を付くと、ポケットに手を入れた。

     そして、ゆっくりと抜き出された指先に二つに折られた紙が摘まれていた。
     彼女はその紙を油断なく開き、中を見て…呟く。

    「道に迷った…………」






       交錯
          プロローグ




     彼女、メア・シブリュートは結局その後迷い続けて、エルリスと名乗る女性に助けられた。
     この街に住んでおきながら迷うとは少々情けないが、ずっと住んでいた訳ではないし、あの辺りは立ち寄った事がないし、普段お屋敷から余り出ない所為だろうと自己弁護もとい自己完結していた。
     ともあれ、頼まれたお遣いは完了したので後は屋敷に帰るのみ。

     そのはずだったのだが………

    「一体、なに……?」

     小さく首を傾げて呟く。
     目の前の路地に人だかり、なにやら喚き声なども聞こえてくる。

    「おや、メアちゃんじゃないか」

     不意に掛けられた声に反応して振り向くと見知った恰幅のいい中年女性がいた。
     確かメアのような住み込みのメイドとは違う、通いの仕事人の一人だったはず。
     そう思い出すと同時にメアはペコリと頭を下げて挨拶する。

    「お遣いの帰りかい? 偉いねぇ」

     目を細めて微笑みながら言うおばちゃん。外見と違い二十代前半だと何度か指摘したことがあるが未だに信じてもらえていない。

    「……これ、は?」

     とりあえず複雑な気分になる言葉はスルーして、目の前の人だかりを見ていう。
     するとおばちゃんはしかめっ面になる。

    「喧嘩らしいわねぇ、まったく…天下往来で昼まっから……お陰で通れやしない。誰か止めてくれないかねぇ」

     喧嘩、つまりこの人だかりは野次馬ということだろう。
     今のところ誰も止める気配はない。いや、既に誰かが衛兵かなにかを呼びにいっているとは思うが道を通れないのは迷惑だ。
     この道を避けるとなると屋敷への道のりはかなりの遠回りになる。ただでさえ道に迷って余計に時間を喰ったのにこれ以上のロスは可能な限り避けたい。

    「止めれば、いいの」

     自分で導き出したその答えに納得してメアは一つ頷くと制止する中年女性を無視して人だかりの中に潜り込んで行く。


     人だかりを抜けると、そこには背中に剣を背負った旅人風の男と如何にもなガラの悪そうな男が4名いた。
     どうやら、この5人が喧嘩をしているらしい。
     旅人風の男がなにやら弁解しながら攻撃をよけ、ガラの悪い男達が頭の悪い言葉を吐きながら殴りかかっている。
     喧嘩というより一方的にイチャもんを付けているようだ。何もせずとも恐らく旅人風の男が勝つだろうがその男は一切手を出してない。オマケに人だかりが邪魔で逃げる事もできない状態らしい。

     一通りの現状認識を済ませた後、メアは己の意識を己が内に沈める。
     己が内で使えそうな魔法をリストアップしていく、即座に半数以上を却下する。
     あそこで覚えさせられた魔法は大半がこの場で使うには威力が大きすぎる。あそこの目的上、それは当然の事とも言えるが。

     僅か数秒でこの場を止めるのに使えそうな魔法が数個脳内で該当した。
     そのうち、一つを選択。他は万が一があり得るが、これならば恐らく大丈夫だろうと思うものだ。
     それでも念のために、威力を絞るに絞る。普通なら役に立たなくなるぐらいに。


     小さく呪文を詠唱する。しかし、それを人だかりの騒音に紛れて誰も気付かない。
     メアは己の脳に刻まれた呪文が展開してメイド服に隠された皮膚に刻まれた魔方陣が淡く輝くのを感じた。
     押し付けられた力、望まぬ力……そして、この場でも不要な力はメアの意思に反して発現する。

     旅人風の男が、ぎょっした表情で此方を見た。
     微かに驚く、身なりからして…というより背中の剣からして剣士かと思ったが魔法の発現に気づいたらしい。もっとも、もう遅い。

    「――――」

     メアの口から呪文の最後が紡がれる。
     同時に5人の頭上から大量の水が降り注ぎ、5人纏めて押しつぶす。


     一瞬の沈黙の後、辺りは蜂の巣を突いたような大騒ぎになる。

    「任務、完了?」

     その騒ぎに、少々やりすぎたかと思いながらもメアは呟き、誰に尋ねるでもなく首を傾げた。












      あとがき、というか言い訳?

    えー、どうも初めましてジョニーです。
    さて、とりあえず初カキコとなるわけですが…ごめんなさい。
    自分の文才の無さを改めて痛感しました。
    台詞少ないわ、文は短いわ………
    次回は何時書けるかわかりませんが、どうか宜しくお願いいたします。
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