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■265 / 3階層)   『魔』なりし者 第二話B
□投稿者/ RX -(2006/04/16(Sun) 22:37:02)
    そこは寂れた寂しい場所だった。
    教会らしい形にはなっているが壁や窓は朽ち果てている部分もある。
    しかし、そんな教会のすぐそばには真新しい建物が建っている。
    その新しい建物を指差しながらおばちゃんは

    「神父様は自分のところに孤児を集めてる人でねぇ。
         孤児院を作るために教会のお布施を使っちまってね・・・。
             ああ、お布施といっても大司教個人の物だよ?」

    そこまでおばちゃんは言うとはぁ、とため息をついている。
    ため息をついているが、その顔は晴れやかである。

    「ま、それが元で破門とまではいかないが
               あっちの教会には居られなくなってねぇ。
          それで、廃屋寸前のこの家を教会に改造して使ってるんだよ。」

    (そのほうが神父らしいんじゃあないのか?)

    俺がそう思ったとき、教会の扉が開いて中から子供たちが数人駆け出してきた。
    子供たちはみずぼらしい格好をしているが顔は生き生きと輝いている。

    「あ、おばちゃん!!今日もお菓子くれるのぉ?」

    と言っておばちゃんの周りを走り回っている。

    「ああ、すまないね、今日は違うんだよ。神父様は今いるかい?」

    子供の頭を撫でながら話をしているおばちゃん。


    ふと、自分の服の裾が引っ張られているのに気づく。

    「ん?」

    見れば、ナナシが俺の服を強く掴んでいる。
    ナナシは俺の服の裾を掴んで離さない。
    この孤児院においていこうかと考えていた俺だが、
    俺になついているナナシをこのままおいていくのはかわいそうに思えたてきた。


    「そうかい、ありがとうよ。
        ・・・ちょいと、お前さん?中に居るそうだから渡してきなよ。」

    子供たちとの会話が終わったおばちゃんが俺に話しかけてくる。
    その後、ナナシのほうに目をやり

    「この子はどうするんだい?一緒に連れて行くのかい?
               ・・・何なら私が見ててあげようか?」

    そういわれ少し考える。
    もしここにナナシを置いていくのであれば神父との交渉にナナシは連れて行かないほうがやりやすい、
    しかし一方的過ぎるような気もしてくる。
    そんなことを考えていると俺の服を掴むナナシの手がいっそう強く握られた。

    「・・・・・・。」

    ナナシは俺の目をじっと見つめている、

    「ナナシ・・・・。」

    黒い瞳は瞬きもせずにじっと俺を見続けている。
    その瞳は感情を映し出していないように見える。
    しかし、俺の服の裾を握っているナナシの手は感情を表している。

    「・・・一緒に連れて行きますよ。」

    俺はそう答えるとナナシの手を強く握った。

    「・・・そうかい。ま、この子を泣かせるような真似はするんじゃないよ?」

    そういっておばちゃん手をひらひらと振って去っていった。


    なかなかカッコいい去り方だと思った・・・。

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