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■136 / 親階層)  双剣伝〜序章〜
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/01/26(Wed) 11:21:11)
    2005/01/26(Wed) 20:18:04 編集(管理者)

    ズギャ!


    ドシュ!



    斃れ逝く人々…

    むせ返るほどの血臭…

    戦場の匂い…

    破滅の匂い…

    だが、俺はそれに慣れてしまって不思議と感じる事ができない…

    戦場こそが俺の生活の場であり、

    死と破滅は常に隣にあった…

    だが無数の屍が転がる中、俺は何時も一人だった…

    俺の名はクライス・クライン…だがこの名は俺にとって無価値なものだ…
    戦場で名乗りを上げる趣味はないし、騎士と言うわけじゃない、
    それに名乗らなくても俺の事は誰もが知っていた…
    蒼の双剣士…俺の使う武器からとって、皆がそう呼ぶ…

    一度の戦場で百人の敵を屠った事もある。
    以来その二つ名は戦場では恐怖の代名詞として語られるようになった…
    それは17の男には過ぎた名だとは思っていたが否定する必要も無いので放って置いた。
    その所為で俺に突っかかってくる奴も多かったが、数回相手にしてやると大抵おとなしくなった…

    俺の持つ二本目の剣、それを抜かせる事のできる人間が一人もいなかったのだ…
    そういった、パフォーマンスによる売名は、
    フリーランスの傭兵である俺が自分を高く売りつける事ができる武器なので重宝してはいた。

    だが、七年前ラザローンに引越しさえしなければ、そう思う事がある…
    その前に住んでいた町…村と言った方がいいのかもしれないが、
    スノウトワイライト…不気味なネーミングだが町自体は素朴な所だった…

    ラザローンに移り住み、最初のうちは何事も無かった…
    しかし、そこはビフロスト連邦との国境線に位置する町だったのだ…
    その年までは平穏な町だったのだが、俺が引っ越して半年後から、殆ど毎年のようにラザローンは戦場となった…
    それまでの町長が外交手腕を発揮して上手く取りまとめていたのだが、突然暗殺されたのだ。
    それ以来、次の町長が決まっても、とても外交など出来る状況でもなくラザローンは何度も国を変える羽目になった…
    戦争だったり、外交のコマとしてだったりしたが、僅か二年の内に5回もエインフェリアとビフロストの間で取り合われた。

    最初は比較的理性的だった(ただ酒や女を犯すと言った部分はあったものの)兵士達もやがて野盗と変わらないほどに荒んだ者たちとなり。
    最後は両軍が町そのものを戦場にした…
    何でも大規模な戦略級魔法の実験に使われたらしい…これによってラザローンは壊滅した。
    俺の両親も、ラザローンで出来た友人も、学校も、商店街の人達も全て…
    生き残ったのは俺を含めて十人に満たない数だったらしい…
    使ったビフロストもあまりの威力にこの戦略級魔法を禁呪に認定して二度と使わない事を決めたらしい。
    しかし、恐怖の対象としてすべとの人々の心に刻まれる事となった…

    何故それほどまでにラザローンが狙われたのか、当時は分からなかったが、今では分かるようになった。
    ビフロスト連邦は歴史の浅い国なので、多数民族の議会制度をとっている…
    中でも、元エインフェリア貴族だった者たちは元の王国内の所領を自らの物であると唱える物が多い。
    没落した物も多くいるが、大抵ビフロストと通じていたと判断されて王国を追い出された貴族なので、資金もそれなりに持っていることが多い。
    ビフロストはその性質上どうしても政治献金に弱い一面があるため、そういった名目の金を受け取る政治家も多い…

    また、王国北方にある妖精族との国境線がのどから手が出るほど欲しいという一面もある。
    魔科学を行う為のミスリルを買いあさるにも現状ではエインフェリア王国を通さねばならず、軍事面での情報が筒抜けになりがちだ…
    だから、元貴族の所領であり、妖精族の領地までの距離を縮め安いラザローンの位置は一番攻めやすい土地だったのだ。

    俺は、その時ビフロストの傭兵に拾われた…
    憎い兵士達ではあったが、生き残るために媚びへつらった。
    そして、復讐をする為、寝る間も惜しんで剣術を覚えた。
    重労働、体罰、は当たり前だったが、俺にとっては肉体の痛みなどたいした事ではなくなっていた…

    戦場にも出た、最初にやったのは戦場泥棒だった…
    死体から、武器、防具、財布、服、(時には金歯等も)等を拾ってくる最も卑しい仕事だ…
    だが、俺にとってもチャンスだったのは確かだ。
    俺は拾った中で最もいいものは決して表には出さず隠し持っていた。
    出せば取り上げられる事は分かりきっていたので、何度も場所を変え必死で隠した。

    そして、とうとう戦場で戦いをするようになった。
    最初は戦場に出るたび吐いた。
    死体の匂いは慣れていたが、鮮血の匂いは又違った物だった。
    だが、それよりも、相手の必死さとそれを打ち殺す自分の異常さに胸が悪くなった。

    しかし、二年もすると殺人そのものに何も感じなくなった…
    戦場と言う場所柄の所為かそれが普通になってしまった。
    そして、俺の十五の誕生日、それは起こった…

    俺の寝ている天幕に、一人の傭兵が入ってきた。
    その男は俺にこう言った、「お前を一晩、団長から買った」
    俺は目の前が真っ暗になるのを覚えた。
    俺は怒りのあまりその男を隠し持っていた剣で突き殺した。
    俺が天幕に隠していた二本の剣、それこそ、かつては巨人に打ち鍛えられたとする伝説の剣オーディンスォウド。
    この二本一対の剣だけは常に自分のボロ天幕の中に隠すようにしていたのだ…
    そして、俺の復讐の宴が始まった…

    気が付いた時は既に傭兵団は壊滅しており。団長の頭に剣を突き入れた後だった…
    もちろん気を失っていたわけでも、ましてや操られていたわけでもない。
    この傭兵団が、俺の両親を殺した事を知っていただけの事だ。
    狂乱していた、唯それだけの事…

    それ以来俺はビフロストと戦える戦場を中心にフリーランスの傭兵をやるようになった…
    傭兵団の壊滅について何か言われたことはない、魔物によって傭兵団が壊滅した事になっているからだ。
    ある意味間違ってはいないがな…

    もちろん、ビフロストと同じようにエインフェリアも嫌いだが、例の禁呪を使った者たちをこの手で潰してやりたい、
    そういう思いが募っている所為だ。

    だが、これで良いのかと思う時がある。
    この二本の剣は俺を生かし続けている…
    しかし、俺は何の為に生きているのか…
    復讐の為? 確かにそうだ…だが、俺はその為に一体何人犠牲にしてきたのか…
    俺は間違いなく千人近い人間をこの手で殺している。
    それは、禁呪を使った奴らとどんな違いがあるのか…
    今更良心が疼く等と気取るつもりは無い。
    だが、俺は…

    いかんな、目の前の戦場に集中しなくては…
    俺は残敵の掃討を始める…
    そして、この戦場での決着がついた…また生き残ることが出来たらしい…

    戦局はこちらが不利だが、この局面においては盛り返している…
    傭兵達が死体を漁りながら次の戦場へと移動する中、俺は異常な気配に気付いた…
    その気配は徐々に近づいてくる…
    俺は立ち止まり、死屍累々とした、戦場後を見る…
    そこに、突然声がかけられた…

    「随分殺すんだな、この戦争の決着は既についている様に見えるが…」

    無数の屍を超えて、俺の目の前に銀髪をなびかせた少女が立った…
    その少女はどう見ても十代前半、ほっそりとした体格から、かなり幼くも見えるが、味方にこんな兵士がいない事は良く知っている…
    今回の敵国である、エインフェリアの兵士だろう…
    少女の見た目からは兵士には見えないが、その飄々とした表情、戦場での動揺なのなさ、そして何よりその気配から強敵である事が分かる…

    「貴様、何者だ?」
    「人に尋ねるときは先ず自分からって…まあいいか、シルヴィス・エアハート…長いからヴィズでもいいよ」
    「…」
    「…礼儀を知らない人だね、自分は名乗らないつもりかい?」
    「シッ!」

    俺はシルヴィスと名乗った少女に向かって突撃をかけた、少女は構えを見せない…
    無防備な体勢できょとんとした表情のままだが、隙を見つけることが出来ない…
    一刀目を上段から打ち込むシルヴィスはそれを身を捻りつつ避ける…
    俺は左の二刀目を跳ね上げ足元から切り裂こうとしたが、シルヴィスは飛びずさって距離をとった…

    「さすが、『蒼の双剣士』我流の剣でそこまで使えるとはね…オーディンスォウドだけ持って帰ろうと思っていたけど気が変わったよ」
    「何!? 貴様この剣の事を知っているのか!?」
    「多分君よりもね…でも、その力は凄いね…君にも興味が沸いてきたよ」
    「…貴様!」

    俺は不利を自覚していた、二刀を使ってかする事もできない人間が存在するとは…
    しかも、シルヴィスはまだ余裕を持っている事が表情からも見て取れた…
    俺は二刀を右の肩に背負うように構えなおす…この状態では相手の知らない、それでいて強力な技でなければ対抗出来ないだろう…
    だから、俺は自分に出来る最高の技で行く事にした…

    「目つきが変わったね、それでこそ『蒼の双剣士』冷静な判断だ、でも私は君を逃すつもりはないからね…使わせてもらうよ」

    シルヴィスはどこからともなく、そう明らかに無かった筈の剣を取り出す…
    そして、その剣を正眼に構えた…
    その剣の鍔には見覚えのある紋章が刻まれている…
    王冠の周りで二匹の竜が絡み合う紋章そして、紋章の中央にUのマークが…
    あれは…あの剣は…

    「セイブ・ザ・クイーン…まさか王国宮廷騎士団(テンプルナイツ)か!」
    「よく知っているね」
    「だが、ナンバーツーは、剣の公爵ランディス・V・エンローディアの筈…」
    「そうだね、でもVは略語、VはヴァネットのV…」
    「まさか…」
    「そう、父方の呼び名はシルヴィア・ヴァネット・エンローディアという事になる」
    「なるほどな」

    剣の公爵の娘は僅か13にして公爵の力を超えたと噂になったことがある…そして公爵の剣を既に受け継いでいるとも…
    しかし、Vが何の略であるのか知る物は少ない、少なくとも将軍クラスの実力者にしか知らされていないのだ…その名を知ることは非常な名誉とされている。
    つまり、彼女は一介の兵士ではありえないという事…もちろん、嘘である可能性もあるが、実力は本物だ…
    王国でもトップクラスの実力の持ち主であるシルヴィアと敵対するという事は死を意味する…だが、俺はまだ死ぬわけには行かない…

    「どう、怖気づいた?」
    「ああ、そうだな!」

    俺は、シルヴィスに向かい二刀を一気に振りぬく、シルヴィスはそれを無視して突っ込んでくる…
    振り下ろされる二刀に彼女は体を巻き込みながら剣で受ける、ガキン!と激しい金属音が鳴り、俺の剣が弾き上げられる…
    シルヴィスは体を回転させながら吹き飛ぶが器用に着地、そのまま再度突撃をかけてくる…
    俺は振りぬいた体勢のまま、彼女の突撃を待った…
    だが、シルヴィスは一瞬硬直して飛びずさる…その先には一本の剣が突き刺さっていた…

    「まいったな、まさか弾き上げられたのにあわせ、一本剣を空中に投げ上げているなんて…」
    「それで、終わりだと思うか」

    俺は、突き刺さった剣に向けて突撃する、もちろんその向こうにはシルヴィスがいるが、俺はそのまま剣に向かって突き進んだ…

    「剣を取らせると思う?」

    そういい、シルヴィスもこちらに走りこんでくる、だが、俺の方が一瞬早くたどり着いた…
    だが、剣を引き抜いている暇は無い…俺は、剣の鍔を足場にしてシルヴィスに向かって跳んだ!

    「なっ!?」

    彼女は驚愕するが、直ぐに自らもジャンプし俺に向かって飛び込んでくる…
    俺は剣を振り下ろし彼女に叩きつけようとするが、彼女の一閃は俺よりも早かった…

    キィィィン!!

    俺の剣は弾き飛ばされ体制が崩れる…
    そのまま落下を開始した…
    そかし、その先には剣を振りぬいたばかりのシルヴィスがいた…
    俺は体勢を立て直しひざを叩き込もうとするが、シルヴィスに蹴り飛ばされ頭が下になる…
    シルヴィス自身も体勢を崩したらしい…
    俺達は揉み合うようにしながら地面に激突した…

    「…!!」
    「…?」

    俺は、一瞬どうなっているのか分からなかったが、どうやら自分が下敷きにされているらしいこと、絡み合うように落ちた所為で密着している事。
    そして、唇にやわらかい物が触れていることがわかった…

    「わっ…」
    「わ?」
    「私のファーストキスー!!?」

    俺はその言葉と共にマウントポジションからの攻撃を加えられ、全身打撲になるほど殴られてしまった(汗)
    気が遠くなる俺に、遠くから『バカ』というような声が聞こえた気がした…
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