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■289 / 6階層)  双剣伝〜第六章〜『初戦』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/06/16(Fri) 11:08:05)
    2006/06/16(Fri) 11:17:17 編集(管理者)

    「これは……」

    俺が最初につぶやいたのは、驚きだった。
    もちろん、覚悟はしていたつもりだ、魔族に支配された地区。
    連邦には魔族が普通に生活しているところもあると聞いた事があるが、これは明らかに違っている。

    空間が歪んでいる。
    終わり無き諦観の地『ギヌンガプヌ』魔界の住人は自らの世界をそう呼ぶと言うが。
    歪んだ空間の中には正に何もかもが終わってしまったかのような、白い灰が固まって出来たような世界。
    ここに町があった事すら感じさせないほど、ただただ白い。
    寒さを感じるわけではないが、空漠とした寂寥感が心の中に募っていくようだった。

    俺は思考を切り替える。
    魔族等所詮世界に巣食う害虫、現在の世界を『ギヌンガプヌ』と同じにするために動いているに過ぎない。
    そして、俺はただそれを刈り取るだけ、それ以上でも以下でもない。

    「どうしたの? 初めてだから怖い?」
    「……さあな、少なくとも今のところは問題ない」
    「ふーん、では行こうか。ここを占拠しているのはプロギッシャウ男爵。細かい戦闘法は不明だけど空間を操るらしい」

    なるほどな、それで町の中が万華鏡のようになっているのか。
    中に入ってみて分かったのは、この空漠な世界が途中で途切れて切り替わる、そんな場所が至るところに存在しているという事だ。

    しかし、問題なのはどこを目的地として動けばいいのか分からないという事か。

    「シルヴィス、敵を探し出すにはどうすればいい?」
    「さあ、私もこんなところに来るのは初めてだしね。君が背負ったその剣がなければ私も遠慮したい所さ」
    「そういえば、この剣の事をまだ聞いていないな」
    「そうだね……教えたいところだけど、お客さんだよ」
    「この場合、出迎えの方が正しくないか?」
    「ふふ、この状況で冗談がいえるなら大丈夫だね、右翼を頼むよ」
    「了解」

    不思議な空間を歩いていて出くわしたのは怪物の集団だった。
    巨大なもの、不定形なもの、小さいもの、空を飛ぶもの、地を這うもの、色々ある。
    その数軽く100以上。
    例え簡単に倒せても、スタミナにはかなり響きそうだ。
    そう考えている間にもシルヴィスは敵陣に突っ込んでいく。

    「さて、俺も行くか」

    気による身体強化を軽めに発動。
    空に飛び上がり、先ず空中の敵に向かい飛びかかる。

    最初に向かってきた鳥風のモンスター数匹に向かい手に持っていたつぶてを放つ。
    ただの石ころだが、羽を痛めれば飛べなくなる。
    鳥風のモンスターは羽を打ち抜かれて墜落していった。

    続いて向かってきた蝙蝠の羽を持つ悪魔風の敵にもつぶてをぶつけるが、
    魔力で飛んでいるのだろう、羽が破れても関係なく向かってきた。
    俺は迫ってくる悪魔風のモンスターの蹴り足をつかみ、背中をよじ登って一気に首の骨を折った。

    俺が悪魔風のモンスターを屠っていると、巨大な鷲を思わせるシルエットが俺の上から急襲してくる。
    俺は、体勢をくるりと変えてモンスターを上にした。
    すると、巨大鷲はモンスターを引っつかみ上昇していった。

    引っつかんだ悪魔風のモンスターを俺に向けて放り出し、巨大鷲がもう一度突入をかけてきた。
    俺は、右の剣を抜き放ち地面に着地、再度飛び上がり巨大鷲と交錯する。
    俺にツメが少しかすったが巨大鷲は羽を真っ二つにされて地面に激突した。
    ついでにモンスターを何十匹か巻き込んでくれたのは行幸だろう。

    地面の敵も殆どは敵ではなかった。
    速度で数倍勝っているため、モンスターどもは止まって見えた。
    瞬く間に数十匹を屠り、シルヴィスと合流する。

    「はぁ……はぁ、少し息が上がってきたが楽勝だな」
    「そうだね、君なら相棒にしてもよさそうだ」
    「ふ、まだ息が上がっていないとは。流石だな」
    「クライスはまだ完全に気を制御できていないからね。制御次第では気を刃に乗せて放つ事も出来るらしいよ。
     東方の剣士はその能力に優れているとか」
    「飛び道具か……」

    一瞬昔の事が脳裏によぎった。
    誰か知り合いに東方の剣士の関係者がいたような気がする……。
    しかし、曖昧模糊としたその記憶は、すぐにまた記憶の底に沈んで行った。

    「しかし、あれはどうする?」
    「ああ、あれね」

    目の前にいるのは巨大なスライム。
    この先の空間へと続く道を完全にふさいでいた。
    10数メートルにも及ぶその巨体は剣で切り裂こうが、気を流して爆砕しようがすぐに再生する。
    消耗戦を仕掛ければそのうち魔力が尽きて再生できなくなるだろうが、こいつを倒せば終わりというわけじゃない。
    ザコで体力が尽きていてはボスまで行けない。流石にこんな所で野宿する気にもなれないしな。
    その間に再度モンスターを召喚されればそれまでだ。

    「さて、どうしたものか」
    「うーん、切り札は伏せておきたかった所だけど……」
    「何か考えがあるのか?」
    「それはね、君の剣の……」

    ドッゴーン!!

    いきなり、スライムが爆発した。
    木っ端微塵な爆発ぶりから自爆かとも思ったが、その後かけられた声に敵の攻撃ではないと悟る。

    「ふふーどう、お兄ちゃん? 私その早いだけの女より役に立つよ〜♪」
    「ぶっ、早いだけってどういう事だ!!?」
    「他に取りえないじゃない? 私は色々できるよ?」
    「あーのーね!」
    「それとも、他に何かできるの?」
    「ふーん、試してみるかい?」
    「そうねー」

    登場した途端にユナはシルヴィスに噛み付き、舌戦を繰り広げている。
    付けられていた、という事だろう。
    普通なら気配をさらしている人間に気付かない事などありえないが天才魔道士たる彼女なら朝飯前か。
    だが、そのお陰でさっきまでの緊張感はどこにも残っていなかった……。
    しかし、ある意味一触即発の状況も問題がある、というか趣旨から外れすぎだ。
    俺は二人を無視して先に進み始めた。

    「あ、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!」
    「コラ! 私を置いていこうとするな! 一人で突っ込んでも勝てないぞ!」

    緊張感は戻る事が無かったが、ここは懐かしい戦場だ。
    ほんの数ヶ月離れていただけだが、どこか懐かしい。
    それが人だろうが魔族だろうが、俺には同じだった。

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