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■287 / 5階層)  双剣伝〜第五章〜『平穏の終わり』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/06/13(Tue) 11:51:37)
    鳥形の魔物が空中から襲い掛かる、
    10匹以上の魔物は連続して地面に衝突しかねない速度でつっこんでくる。
    その先には一人の男がいた、黒髪が青みがかって見える長身の男である。
    男は双眸に鋭い光を湛えている、落ち着いて、しかしその激情がにじみ出るような目が、
    俯瞰するように迫る魔物達を睨みすえる。

    しかし、魔物がその程度で怯むはずもなく、10匹を超える魔物は空中から激突する。
    その衝撃で、地面に穴が開き、土煙が上がり、爆発すら発生し、中心を破砕する。
    男はもう跡形も残っていないだろう、人が魔物に敵うという考えさえ愚かしく思える。
    もうもうとした煙が晴れた後には数mのクレーターが発生していた。
    男が消滅したと思った魔物たちはそれぞれの鳴き声で凱歌をあげる……。

    しかしその魔物たちは一瞬で沈黙した。
    鳴き声をあげていた魔物の顔の上半分がずり落ち、下あごから血が飛び散る。
    次の獲物を探すためにまた飛び立とうとしていた魔物の翼が両方ぼとぼとと落ちたと思うと、両手両足も一緒に分離した。
    リーダーらしき魔物が驚いて振り向こうとすると、体が斜めに二つに割れた。
    その場にいる魔物は、数秒のうちに全て切り裂かれ自らの血の海に沈んだ。
    そして、それらから少し離れた場所で剣を鞘に収めるチンッという音が聞こえた。

    「流石じゃないか、気による身体強化もほぼマスターしたみたいだね」
    「まだ80%といったところだ、安定感が微妙だな」

    まるで浮かび上がるように気配を現した少女に、長身の男は何気なく答える。
    少女は不満そうな風もなく、口元で少し微笑むと、男の肩を叩きながら言う。

    「私も100%マスターしているとはいえないよ。
     兎に角、これで免許皆伝、既に目的地にいるわけだから、頼りにしているよ?」
    「……。まあ、足手まといにならない程度に頑張るさ」

    二人の影は、妖気漂う山間の村へと消えていった。










    時は数日前に遡る。

    相変わらず俺はシルヴィスの訓練をうけ、気による強化を身に着けようとしていた。
    時折、義妹になったユナが乱入してくるものの、それなりに成果を出しつつある。

    「ねーねー、お兄ちゃん。買い物行こうよ〜」
    「……」
    「そっちのお姉さん十分強いんだし、いざとなったら私も力を貸すからさ。たまにはいいでしょ?」
    「……」

    お陰で俺の戦闘力は格段に上がっている、しかし、まだ安定して気を使えている実感はない。
    俺は復讐のためにも、こんな所で留まっているわけにはいかない。
    いかないのだが……。

    「ねーねー、年増より〜」
    「誰が年増か!! 私は15歳だ! もうちょっとで16になるけど……っていうか、まだ大人にすらなってない!」
    「えー、でも12の私から見たら、ねー」
    「そんなの自分が小娘なだけでしょ?」
    「……#」
    「……#」

    シルヴィスもそんな子供のいう事を真に受けなくてもいいだろうに……。
    とはいえ、訓練もひと段落ついたので、ご機嫌を取っておくか。
    この二人の戦闘は半径数キロを焦土に変えかねない。

    「少し喫茶店でも寄っていくか」
    「あっそれいいね〜」
    「ちょ、クラ……っとレイヴァン。課題の方は?」
    「気の放出の課題なら……」

    俺が指差した先、自然石の巨大な岩は崩れ落ちていた。
    剣戟の衝撃ではなく、手で触っただけの状態から気の放出によって石を破砕する方法だ。
    これは、常に気を発する呼吸が出来ていないと上手くいかないため、ここ一ヶ月近くこの訓練のみだった。
    今日やっと終わったのだが、二人は自分達の戦いに忙しかったため気がつかなかったというわけだ。

    「なるほどね、確かに出来たみたいね」
    「へぇー、凄いね。魔法も使わずにこんな事が出来るなんて」
    「気といっても体内のマナを使ったものである事は間違いない。魔法と源泉は同じだがな」
    「なるほど〜、じゃ喫」
    「じゃあ、気による身体能力の強化やってみる?」

    ユナが喫茶店に俺を連れて行こうとしたのを遮って、シルヴィスが訓練の続きを促そうとしている。
    確かに、俺はそのために訓練を受けているんだから当然なのだが。

    「ちょっと!」
    「はいはい、喫茶店には行ってあげるわよ。でも普通に行ってもつまらないでしょ?」
    「?」

    そう言って、シルヴィスは少し口元をゆがめる。
    何をさせるつもりなのか知らないが……あまりこういう表情の彼女の相手をしたいとは思えない。

    「じゃ、ユナちゃん。レイヴァンの肩に乗って」
    「?」

    不思議そうな顔をしながらもユナは俺にしゃがむ様に言って、首に手を回し、右肩に腰掛ける。

    「こんな感じ?」
    「それでいいよ……じゃ、はいっと」

    次はシルヴィスが左肩にぽんと、体重を感じさせない軽やかさで飛び上がりながら腰掛ける。

    「……」
    「じゃあ、これで3分以内で喫茶店に行って?」
    「何!?」

    喫茶店までは俺が全力で走っても10分はかかる。
    まして、両肩に女性とはいえ人間を乗せているのだ……。

    「!」
    「そういうこと、気で強化しないと3分以内なんて無理だよ」
    「やりかたは?」
    「岩を砕いたときは気を岩の中で爆発させたでしょ? その時の経路に気を流し循環させていればいい」

    俺は言われたとおり、気を循環させる事を考える。
    破砕に使った経路が少しづつ馴染み、また意識を傾ける事で体の活性化を促す事が出来る事がわかった。
    徐々に経路に流す気を増やし、体内を循環させて元の場所に戻す。
    繰り返す事で、どんどん気が高まるのを感じる。
    すでに、両肩の二人の体重は羽根の様なものに思えた。

    「なるほどな……」

    俺は軽く走り出した、時間がゆっくり流れているのが分かる。
    もどかしいが、同時にこの状態は凄まじい速度の上にあることが分かった。
    走る一歩が10m近くも浮いたままだった。
    軽く走っているにも拘らずである。
    これなら3分どころか2分もかかるまい。

    「凄い凄いー!」
    「流石ね、こんなに早く身に着けるなんて。これならそろそろ……」

    そう、俺は爵位の魔族を狩る為に雇われた身だ、いつまでも遊んでいるわけにも行かないだろう。
    だが、不思議と不安はなかった。

    「所で、どうやって元の状態に戻るんだ?」
    「え?」
    「いや、気を流しっぱなしにしていると。力が上がりすぎて止まれないんだが……」
    「ああ! そういや、沈め方。放出する方法しか教えてなかったっけ!?」
    「えええ?! ない考えていんのよ、この年増!! 先に止め方から教えるのが普通でしょうが!!」
    「だって、こんなに早くマスターするなんて思ってなかったから……」
    「って、喫茶店! 喫茶店がぁ!?」 

    その日喫茶店が一軒リディスタの街から消えた……(汗)
    全壊した建物や内部の物品は俺の報酬から差っぴきらしい。
    もとから多かったものだから文句をいう気はないが……。

    その日の夜、俺達は初めて魔族討伐へと向かう事になった。
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