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■183 / 2階層)  双剣伝〜第二章〜『家』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/04/12(Tue) 11:44:56)
    エンローディア公ランディスに仕事の内容を聞き、俺は引き受ける事を決めた。
    元々俺に選択肢があった訳でもないが、報酬が本当に支払われるのなら魅力的な話だ。
    俺はどの道この国では戦犯に近い存在だ、断れば投獄されても文句は言えなかったろうしな…
    どちらにしても、俺に選択肢など無かっただろう…

    仕事の内容は魔族の討伐。
    ただ、普通の意味ではない…魔族がどこに現れたから討伐するとかそういう意味ではなく魔族の幹部格である、爵位を持つものを狩るという事だ。
    王国内では現在爵位を持つ魔族が8体確認されている。
    アイゼンブルグ内にはあと幾つかいるらしいが、領域侵犯になる為確認が取れていない。
    内、王国に協力的な魔族を引いて、5体の殲滅対象がある。
    脅威度は様々だが、場合によっては王国内に独立区を打ちたて王を名乗っている輩もいる。
    討伐対象とはそれらの事だ、俺自身そんな輩とまともに戦って勝てるとは思えないが、オーディンスォウドにはそれらに対する切り札となりうるらしい。
    本来なら騎士団を向かわせて討伐と行く所だが世情が不安定で国内に軍を派遣するのが難しい現状にある。
    いや、正確にはそういう現状にあるからこそ、そんな輩が跋扈する結果になったというべきか。

    報酬は基本的に金塊で支払われる。情報は5体全ての殲滅後という事になっている。
    討伐は三ヵ月後から始める事になる、それまでにシルヴィスが俺を鍛えなおすと言っているが…

    シルヴィスは俺を連れて町の一角に向かう、要件を告げずに連れ出したのは何か理由があるのだろうか。

    「クライス…君もわかっていると思うけど王国内では君はあまり良い印象をもたれていない。理由はわかる?」
    「ああ…俺が雇われていた所は小国や反政府グループを含め中央四大国の敵ばかりだ。名前も知れ渡っているしな…」
    「君は戦犯に近い人間とみなされている。だから今は名を変えないといけない」
    「名を…な」
    「そう、その為と君の衣食住の確保のためにこれから君の住む家を案内しようと思ってね」
    「なるほどな、分かった」

    俺はシルヴィスに連れられてリディスタの南、列車の駅の近くにある屋敷の前まで来る。
    そこでは既に事情を聞かされていたらしい男が門前に立っていた。
    男は使用人という風ではない、そもそも屋敷といってもそれほど大きなものではなく、一般の家より一回り大きいという程度。
    小金もちといった風情だ。だが、目の前に立つ男はやり手らしさが伺える。
    しかも、魔法使いらしき雰囲気を纏い、威圧すらしている。
    家は兎も角、この男は只者ではないのだろう。
    その男は様子を伺っている俺に気付き、シルヴィスへの挨拶を済ますと、俺に話しかけて来た。

    「はじめまして。私はこの屋敷の主でディオールという。君のような若者で安心したよ。それくらいなら私の子供でも問題ないだろう。これからよろしく」
    「あっ…ああ」
    「どうしたのかね? はじめてで緊張しているのかな? ははは、緊張することはない。私は魔術師としては下っ端だ、君には敵わんよ」
    「詳しいんだな」
    「昨日のうちにシルヴィス嬢から連絡を受けている。君の二つ名も聞き及んでいるよ」
    「そうか…名を知っても俺をおくというんだな?」
    「ああ、その事を気にしていたのかい。この町はランディス閣下の庇護の下かなりの自治が認められているからね。
     この町でランディス閣下に逆らうものなどいないよ。そでに今日から君の名はレイヴァンだ。クライスと言う名の人間はいない」
    「ああ、そうだったな…」
    「よろしくお願いするよ。それでは早速…」
    「ディオールさん、申し訳ないけどまだやることがあるんです。後ほどまた伺いますので」
    「そうかね、残念だよ。明日には娘も帰ってくるから今日のうちに一通り家のことや周辺の地理を教えておこうと思ったのだが」
    「ごめんなさい、でも」
    「ああ、分かっているよ君達も若いんだし楽しんでおいで」
    「あ、はい…って違います!」
    「…」

    妙なコントが始まりそうな気がしたので俺はさっさと屋敷を離れた。
    シルヴィスは、俺がいなくなったのに気付いて勢い込んで追ってくる。
    何か怒っているようだが、気にする気にもなれない、まあそのうちおさまるだろう…

    リディスタを出、ある程度人里から離れて森の中にはいる、そして森の中を進んでいく…
    ある程度奥まった所に入り込んだ後、シルヴィスが俺に向き直る。
    その先を見た俺はなるほどとひとりごちる。
    その先にあったのは円形に切り取られたように存在する、広場のような場所だった。

    「ここが私たちの修練場。雨が降ったら使いにくいのが難点だけど、まあ戦場を選んでもいられなかったでしょう?」
    「まあな、しかしわざわざ森の中まで来るとは、秘密特訓とでも言うつもりか?」
    「近い…かな? 君にこれから教えるのは剣術だけじゃない。正直見ても覚えられる人間がそういるとは思えないけど、
     呼吸法から剣の発動に至るまであらゆる戦闘の知識を教え込むからね、特に剣の発動については危険だし、一般の人に簡単にやってもらっても困る」
    「危険か…いったいどうなるんだ?」
    「下手をすると使った本人は魔力を全て吸い取られて灰になるし、発動したらどんな被害が出るか…」
    「…そんなに危険なものなのか、この剣は」
    「まあね、でも持ち主を選ぶ剣だから普通の人では持ち上げることも出来ないけれど」
    「? どういう意味だ?」
    「その剣は持ち主と定めた者以外が持ち上げようとした場合100倍の重さになって持つ人間を拒む、そういう剣なんだよそれは」
    「なるほどな」

    納得して剣を見る、刃の所に浮き出ている文様は何か意味があると思っていたが…
    かなり魔術的な要素を持つ剣の様だ…俺にとっては切れ味の鋭い剣という以上の事はなかったのだが…
    シルヴィスたちが欲しがった理由もそこにあるのだろう、使い手などと俺を評したのもこの剣を使うことが出来ているという意味だとすると、つじつまが合う。

    「じゃあ、早速はじめるか、先ずはおさらいからかな?」
    「つまり模擬線か、俺は全力でかかってもいいんだな?」
    「ああ、がんばって私を傷つけてみてくれ。もっともこの間は私も全力じゃなかったから、覚悟しておいてよ」

    そう言うと、お互いに広場の両端まで移動する。そして構えを取り、ジリジリと動き出す。
    俺は先手を打って出ることにした、そもそもこの女の手を読めるほど戦ったわけではないし、傭兵の戦いに二度はない…
    敵を知らずに戦うのだ、相応の戦い方と言うものがある。突撃をするように見せかけ地面をすべるように下段の払いで一刀を降りぬく。
    もう一刀はその動きの終わりきる前に突き出されていた。

    「流石にいい動きをするね…」
    「避わしてから言う言葉じゃないな」
    「なら今度は私が行くよ」

    シルヴィスは腰を捻って避わしざまひねりを使ってすべる様に回転、俺の背後に一刀を落とす。
    俺は転がりながら剣を避わす、しかし、シルヴィスは既に追撃の体勢を整えていた、地を這うような突きが繰り出される…

    「ほらほら、その程度なら死ぬことになるよ!」
    「ガッ」

    突きを飛び起きながら避けた所に今度はつま先が叩き込まれる。
    俺は胃液がこみ上げてくるのを感じたが、どうにか飲み込むと体勢を整えようとするが、
    その動きすら予測されていたらしい、俺ののど元に剣が突きつけられていた。

    「う〜ん、悪くは無いけどやっぱり無駄な動きが多いね…相手を読んで動ければ更に動きは早くなれるし、雑な動きをやめれば私とほぼ五分に戦えると思うけど…」
    「難題だな…」
    「まあ、ゆっくりやっていこう。徐々に身につくさきっと」

    無責任な台詞だな…彼女の年齢を考えれば人に教えたこともないだろう、大体彼女の剣術そのものは一種の特殊能力なのだから教えることが出来るのか?
    だが、そんな事を考えても仕方ない、俺は強くならなければならない理由がある。
    そのためなら、無理を押し通すぐらいのことはやらないとな…

    「それじゃ、今回は呼吸法から教えることにするからよく聞いて」
    「ああ」
    「まず、呼吸法には何パターンかその職業にあったものがある」
    「聞いたことが無いな」
    「そりゃね、普通は意識してそういったことを調整する人はいないから。でも、必要なことなんだ人外と戦うには」
    「そうなのか?」
    「うん、中には呼吸法息吹(いぶき)だけで消えてしまうのもいるしね、そうでなくてもある程度力を減退させる効果がある」
    「…」
    「疑ってる? まあ仕方がないか…でも事実だから覚えてもらうよ」
    「わかった」
    「効果に関しては兎も角、この呼吸法には体を上手く動かす為のプロセスでもある。多分からだが今までより軽くなると思う」
    「わかった、やってみよう…どうすればいい?」
    「ある意味簡単、一回吸い込んで三回細かく息を吐く、これを繰り返すだけ」
    「分かった」

    俺は言われたとおりにその呼吸を繰り返す。
    しかし、特別何かが変わった気はしない、どういう事なんだ?

    「効果が無いようだが?」
    「勘違いしないで、そんなに直ぐに効果が出るものじゃないよ」
    「効果が出るまでどれくらいかかる?」
    「正確にはわからないけど、肉体がその呼吸に順応すれば体は軽くなってるはずだよ」
    「それまでどれくらいかかる」
    「一週間かな? 寝てる間も出来るようにならないと順応とはいえないけどね」
    「それはまた気の長い話だな」
    「まあ、直ぐに出来るようになるとは思えないけど出来るだけその呼吸を続けるようにしてみて」
    「わかった」

    俺としては強くなれるならどんな方法でも試すつもりだ。
    復讐を果たす為にも強くなければならないのだから…

    シルヴィスとの訓練を終え、これから寝泊りすることになる家にもう一度戻ることになった。
    もっとも、初対面の人間を信用するというのは無理な話だからいざと言う時は野宿でも何でもするつもりでいる。
    シルヴィスには勝てないため仕方ないが、他の奴に殺されてやるつもりもない。
    俺は、そんな事を考えながら、玄関前に立つ。
    そして、玄関の前で庭の花に水をやっている女性に声をかけた。
    女性は白い帽子をかぶっているため顔は良く見えないが、30代後半といった所か。
    女性は嬉しそうに庭の花を見ている。

    「この家の方ですか?」
    「あ、貴方はクライスちゃんね?」
    「ええ、そうですが」
    「はじめまして、私はマリーアといいます。お話は主人から伺ってますわ。今日からよろしくね?」
    「はっ、はい」
    「あ〜ん、もう可愛い♪」

    俺は、いきなり抱き付かれる羽目になった。
    本人は抱きすくめているつもりのようだが、背が低い為俺がしゃがみこまない限りどうしてもそう見えてしまうだろう…
    しかし…どういう事なんだ?

    「ああ、ごめんなさい。でもやっぱり男の子っていいわ。うちの娘も気に入るんじゃないかしら?」
    「?」
    「いえ、いっそのこと本当の子供になってもらえばいいな〜って」

    どこをどう考えれば、そういう結論になるのか…
    多分この人は天然なのだろうな。
    出来るだけ関わらないようにしよう、やり込められるだけだ。

    思えば、この先上手くやっていけるのか不安になってくる一日だった。
    しかし、俺を恐れない人々にどこか安らぎを感じてもいたのかもしれない…
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