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■187 / 3階層)  双剣伝〜第三章〜『少女』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/04/19(Tue) 23:56:32)
    2005/04/20(Wed) 00:48:46 編集(管理者)

    「クライスちゃん朝御飯できたわよ〜♪」
    「ありがとう。だが、俺の名はレイヴァンです。クライスという人間はいません」
    「え〜絶対クライスちゃんの方が可愛いのに〜。でもそうね〜内緒のほうがいいかもね、秘密の共有って何だかいいし〜♪」
    「…」
    「母さん、あんまり茶化してやるものじゃないよ。レイヴァン君も困っているじゃないか。
     それに名が知れてはレイヴァン君が狙われるかも知れない。母さんも注意するように」
    「もう、パパったら、硬いんだから〜。大丈夫よ! このコ強いんでしょう?」
    「それはそうだが、そうなるとこの場にいられなくなるかもしれないよ?」
    「それは駄目! せっかくかっこよくて可愛い子なんだから、うちの子になってもらわないと♪」
    「なら注意するように」
    「はぁ〜い」
    「…」

    朝から無駄にテンションが高いなマーリアさんは…
    しかし、家族か…俺には家族なんていないのに…

    スクランブルエッグとベーコンを乗せたトーストをかじりながら思う。
    俺にはこういう場にはそぐわない、戦場にいるほうが落ち着く。
    たった一人生き残ってしまった俺に、出来ることは復讐だけ。
    他のすべては、そのための布石。
    そう、俺にとってそれ以外の事は必要ない。
    復讐のためなら…何者であろうと切る!
    それだけだ、俺はただただそれだけの存在なのだから…
    忘れぬよう、その思いを胸に刻み付ける。
    心の傷こそその証。決して見失ってはいけないもの。
    だから俺は…

    「…ちゃん! レイヴァンちゃん! レイヴァンちゃん!! もう、クライスちゃん!!」
    「ん!?」
    「ん!? じゃ無いわよもう! 何度呼んでも返事しないんだから!」
    「すまない」
    「もう! 今日はね、私達の娘が帰ってくるの。そのために買出しとお掃除とお迎えをやるんだけど。分担でやることにしたの。手伝ってくれる?」
    「そうだな、今日は特に予定はない。別に構わないが?」
    「それじゃあね、お迎え行ってくれる?」
    「は? 俺はマーリアさんの娘の顔は知らないからな。迎えに行く意味がないだろう」
    「そんな事無いわよ! だって娘ほど分かりやすい容姿の人間はそういないわよ?」
    「だとしても、向こうが認識できなければ俺は誘拐犯と同じだ」
    「う〜ん。それも大丈夫だとおもうんだけとね〜」
    「兎に角、別の役を振ってくれ。迎えはディオールさんに任せたほうが良い」
    「まあいいわ。じゃあ買い物をお願いね? 町の案内は必要?」
    「いや、この前シルヴィスに教えてもらった」
    「そう、じゃあこのメモにあるものを買ってきてね」
    「わかった」
    「それと、マーリアさんなんて他人行儀で呼ばないでね♪ これからはママって呼んで♪」
    「…」

    俺は、マーリアさんの無茶な要求には従えそうに無かったので、そそくさと屋敷を出た。
    買い物リストに書かれているものは、基本的に夕食の買い物と俺が生活するための日用品だ。
    昨夜は客室に泊めさせてもらったが、これからもそういうふうにするわけにも行かない。
    幸い俺は手持ちの金があったのでそれを使うことにした。

    リディスタの町の構造は、北の砦と南の鉄道駅をつなぐ形で存在している。
    因みにリディスタの駅はアイゼンブルグ経由帝国方面、ビフロスト連邦方面、沿岸諸国方面、王都方面の四方に向かう交通の中心地であり、
    リディスタを大都市としているゆえんである。
    基本的にこの都市自体は織物産業が盛んである為、都市西部には染色工場が立ち並び噴煙を上げている。
    西部には大陸を貫くディローニュの大河が流れている為、染色をするのに適していたのだ。
    そして、その織物を買い付けに来る為に鉄道駅がいち早く出来、それと共に大都市化した。
    今や王国内最大の商業都市といってもいいのかもしれない。
    だが、当然海外からの人間の受け入れは治安の悪化を伴う、つまりこの町は国内でも指折りの治安の悪い都市であることは間違いない。
    しかし、大都市化したことでの国内のメリットもある、それは情報流通の早さだ。
    いち早く海外情勢や穀物、鉱物等の価格の高騰、下落を知ることが出来る。さらには表に出ない情報屋により、普通では得にくい情報も得られるようになっている。
    その流通速度から、人によっては王国の情報都市と呼ばれることもあるほどだ。

    そのような要所であるリディスタも、鉄道から軍を送り込まれれば都市を守りきることは難しいだろう。
    そこで、この都市に砦を設け迎撃にあたることになっているのである。
    ランディスがここの領主であるのもその辺りに理由があるのだろう。

    因みに東には住宅街が林立している、丁度ベッドタウンという感じだ。
    朝になると、町の東から西の工場に出勤していく人々を見かける事が多い。
    そして、俺が今から行く商店街は町の中央に位置する。
    駅の近辺に屋敷があるので、どうせなら駅近辺の店に行ってもいいのだが、夕食の買い物は兎も角、生活必需品は商店街にある。

    俺は頼まれた物と、自分の生活の為の物を購入すると帰途についた…
    その帰途の途中、不思議な光景と出くわした。

    「いやー!! 来ないでー!!」
    「そんなぁ! お姉様。私の愛を受け入れてください!」
    「私まだ12なんだから! そんなの知らない!」
    「12なら十分ですよー! 私は11です!」


    ばかばかしい台詞をのたまいながら、二人の少女が町の中央、つまり俺のいる方向に向かって突撃してくる。
    俺は係らないよう道の隅に寄ろうとするが…前を走る赤毛の少女が俺にめがけて方向転換してきた…

    「私は男が好きなの! このお兄さんみたいなカッコいい人がいいの!」
    「ええ〜!? やめてくださいユナ先輩! 男なんて不潔です!」
    「女同士の方がもっと不潔よ! いい!? シャロア! 金輪際私に付きまとわないで! …じゃないと燃やすわよ」 
    「私! ユナ先輩になら燃やされてもいいです!」
    「イヤー!! 助けてそこのお兄さん!!」
    「俺か?」
    「他にいないでしょ!」
    「出来れば係りたくないんだが…」
    「そうしてください! 私と先輩の愛の前に立ちふさがるなら潰しますから!」
    「こんなに可愛い少女が頼んでいるのに係りたくないなんて…貴方不能ね!?」
    「…」

    元気のいい子供達だな…
    赤毛の少女は、俺にすがるような目を送っている。
    もう一人のブロンドをカールさせた少女は俺を殺すような視線を送っている。
    町には変なのが居るから気をつけねばならないと言う事だな。
    そう思って俺が通り過ぎようとすると、赤毛の少女は俺の腕を取って無理やり腕を組んできた。

    「まさか、見捨てるつもりじゃないでしょうね?」
    「お姉様を放しなさい!!」
    「…頼むからよそでやってくれ…」
    「嘘でもいいから話し合わせなさいよ!」

    赤毛の少女が身体を俺に押し付けるようにして抗議してきた。
    それを見て、ブロンドをカールさせた少女は切れたらしい…

    「お姉様になんて事を!!」

    転瞬、何らかの呪文が発動したらしい。
    地面を抉り出しながら、岩の桐が出現する。

    ドシュ!

    「大丈夫か?」
    「あっ、ありがと…」

    俺は赤毛の少女を抱え上げながら槍の様に突き立つ岩の桐を回避する。
    その後も、二本三本と桐は出現したが、飛びずさって避ける。
    あの少女は魔術師のようだな。それも中級の魔術を使う…年齢にそぐわない高レベルな術者と言うことになる。

    「さて、一体どうしたものかな…」
    「シャロア…あんまりおいたが過ぎると、流石に私も我慢できないんだけど…」
    「何のことだ?」
    「お兄さん、さっきはありがと。ちょっとあの子を黙らせてくるね」
    「…」

    俺は止めるべきか迷ったがやめておいた、彼女達の服は同じ学園都市リュミエール・ゼロの制服だが、一つだけブロンドの少女と赤毛の少女の違いがあった。
    それは、制服の襟章だ。ブロンドの少女は学生の襟章なのに対し、赤毛の少女は院生の襟章をつけているのだ…
    あの年齢で院生…院生は上級魔道をある程度修めたものにしか入る事を許されない、エリート集団だ。
    もちろん魔科学科の院生はその限りでは無いが、彼女達は明らかに魔術学科の制服を着ている。
    それはつまり…

    「ネクトフォロウ」
    「あっ…! …!? …!! …」

    赤毛の少女が呪文唱えた瞬間、ブロンド少女が一瞬陽炎の様に揺らいだかと思うと、暫くして気絶した。
    あれは…かなり独特な呪文に見えたが…どういう事だ?

    「何?」
    「あの呪文はオリジナルか?」
    「うん、まあそうだけど似たようなのは結構あるよ。周囲の空気を瞬間的に熱して酸素を二酸化炭素に変えただけだから…
     これがお兄さんみたいな戦士だったら通用しないけど、あの子は魔術師だから逃げるのはどうしても遅いしね」
    「周囲の空気を燃やしたのか?」
    「まあ少し違うんだけど似たような物ね、化学反応とか結合とかはまだ学院内でも研究中な部分だし…でも一度見つけておけば応用はしやすいのよ」
    「…流石にわからんな」
    「ああ、ごめんなさい…つい学園内の人たちと同じ様に対応しちゃった。でもお兄さん結構鋭いから学園でもやっていけるかもね」
    「考えておく」
    「あの子の事は気にしないでいいから、生命力はゴキブリ並だし、直ぐに復活するでしょ。それより荷物大丈夫?」
    「ああ、場所が悪かったらさっきの岩に貫かれていたかもしれないが、幸いな」
    「あはは…(汗) ごめんね、今度ちゃんとお礼するから! 私の名前はユナ、ユナ・アレイヤよ! よろしくね♪」
    「俺はレイヴァン…レイヴァン・アレイヤ…ん?」
    「あれ?」
    「そういえば、マーリアさんに娘がいると言われていたが…」
    「うん、それあたし」

    気まずい空気が漂う…
    俺としてもこういう空気が好きな訳ではないので一つ聞いてみることにした。

    「確かディオールさんが迎えに行った筈なのだが…」
    「父さん? いたかも知んないけど…アレ」

    そう言ってユナは気絶している金髪の少女を指差す。
    それだけで言いたい事が伝わった。

    「分った、兎も角、ディオールさんの屋敷にもどろう」
    「うん、いいけど…お父さんが引き取ったって言う事は義兄さんになる訳ね?」
    「…いや、性格には名義を借りさせてもらって住まわせてもらっているだけだ」
    「そういうのを養子にとったっていうのよ!」
    「そうなのか?」
    「ふう…結構変なのね貴方…」
     
    酷い言われようだが、不思議とユナの表情は柔らかかった。
    俺たちは、金髪の少女…聞いたところによるとシャロア・レルフェイというらしいのだが…をそのままにして屋敷へと戻るのだった。
    後で聞いたところによると、シャロアはその日、魔法で騒乱を起こした咎で一日拘留されたらしい…

    屋敷に戻った後、ユナのおかえりなさいパーティと俺にいらっしゃいパーティとかいうのが開かれ一日中ドンちゃん騒ぎになっていた。
    正直俺は疲れ果てたが、アレイヤ家の人々は無駄にエネルギーが余っているらしい。
    次の日にはけろっとして朝食を食べていたのには驚いた…(汗)
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