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■169 / 1階層)  双剣伝〜第一章〜『剣の公爵』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/03/30(Wed) 12:01:12)
    2005/04/01(Fri) 10:00:58 編集(管理者)

    エンローティア公領は南方にある都市リディスタを中心に連邦との国境付近までを所領としている。
    リディスタの北部に位置する場所には城砦が設けられており、そこがエンローディア公邸を兼ねていた。

    エンローディア公、ランディス・V・エンローディアは無骨の局地とも言うべき性分でありながら、商売には慣用であったので、リィディスタはそれなりに潤っていた。
    しかし、それ自体が連邦との情報を掴む為の諜報合戦を引き起こしている部分でもあったので、一概に良いといえるわけではなかったが…

    また、アイゼンブルグとも所領が隣接しているので、軋轢が絶えなかった…
    特に最近は鉄道の発達により、連邦、学園都市、鉄甲都市アイゼンブルグという三つの勢力の人間の出入りが非常に増え、町が活気付くと同時に、犯罪の発生率が急増。
    法による締め付けの強化と、騎士団の巡回を余儀なくされ、都市自体が殺気だっている部分は否めなかった。

    そして、最近はヒュドラと呼ばれるテロ組織の横行が目立ち始めていた。
    ヒュドラという組織は、テロ組織とは言ったものの、実際は少し趣が違う。
    テロ組織というよりは、テロ支援グループと言う側面が強かった。

    実際に行動するのは他のテロ組織で、ヒュドラはその支援もしくは指揮をしているという事のほうが多い。
    ヒュドラ自体が出張ってくる事は少なかった。
    そのためヒュドラの組織形態や、目的は一切不明であった。

    知られている限りでは、九頭竜将と呼ばれる実行部隊の長達は一騎当千であり、軍隊を相手に一人で立ち向かう様な化け物ぞろいらしいという事。
    そして、総帥の名がザインと呼ばれているらしいという事のみであった。

    そして、現在エンローディアは九頭竜将の一人がやってきているという噂が立っていた…

    そんな世情の中、二人の旅装束の男女がリディスタの正門にたどり着いていた。
    男は長身でありながらすらりとして隙の無い風貌の男。
    女は背が低く、旅歩きは少し早い気のする少女。
    歩きながら会話をしていた。


    「…シルヴィス、一つ聞きたい」
    「なにかな?」
    「俺をどこに連れて行く気だ?」
    「ここまで来て分からないのかい? 案外君も鈍いな…」
    「まさか、エンローディア公邸か?」
    「それ以外にあるわけが無いじゃないか、私も一応公爵令嬢なんだから」
    「戦場に飛び込んでくるような奴がいう言葉か」
    「まあそうだね。一般的なお姫様ではないと思うよ私自身」


    シルヴィスと呼ばれた少女は自分に向かって言われた無礼な言葉を気にする風でもなく答える。
    もう一人の男は、それを聞いて渋い顔をした。


    「でも、凄いね君は。私と殆ど五分で勝負していたんだから、これでも私に敵う人間は殆どいないと思っていたんだけど」
    「何を言っている、手加減をしていたんだろう?」
    「まあね、でもお父様以外で私に触れられた人間は初めてだからね」
    「何?」
    「異端児とでも言うのかな? 私は気が付いた時には他人の呼吸が分かるようになっていた。だから誰の動きでも予測するのは簡単なんだ。
     私に触れる事のできる人間は私に近い力を持っていなければならない。そうでなければ、私が触れさせない、だから私に触れられる人間はまれと言うわけ」
    「つまり、お前の剣は特殊能力のような物か?」
    「いや違う、達人ならいつか到達できる領域だけど、私は気が付いた時には到達していたというだけ…」
    「なるほどな…」

    男は納得した風にうなずく、

    「私が怖い?」
    「ああ、怖いね」
    「そうだね、アレだけボコボコにされちゃ当然か…」
    「いや、むしろあの場で俺を殺していないお前の行動が分からん」

    男が言った言葉を聞いてシルヴィスは一瞬不思議そうな顔をした後、噴出すように笑い始めた。

    「ぷっ、ははは! まさか君、女性関係は全然駄目だとか? そんなに二枚目なのに勿体無い!」
    「…?」
    「ファーストキス、君でよかったよ! 君も案外始めてなんじゃないの?」
    「何故今そういう事を問うのか分からんが…子供の頃に一度ある」
    「えっ…ふ〜ん、その子の事は今でも好きかい?」

    以外にも男に経験があることを不思議に思いつつ、しかし、少し憮然としてシンルヴィスは問う。
    問われた男は、一瞬考え込むような顔をしたが、

    「思い出せない、ラザローンに住む前のことはぼんやりとしか覚えていない、その後の印象が強すぎたんだろう…」
    「ふ〜ん、まあ良いか、その辺の話はまたしよう、所で君は何故逃げなかったんだい?」

    男の的を得ない答えにシルヴィスはむしろ安堵したかのように表情を和らげ、別の話題を振った。
    既に、二人は正門を抜けリディスタの中央通りを進んでいた。
    エンローディア公邸、通称”リディスタ城砦”は町の北方に位置している。
    町の入り口が南に集中している為、砦に行くには街中を突っ切っていくのが一番近かった…
    男は、新しい話題に困惑しつつも、シルヴィスの横を歩く。

    「お前は俺に勝った、お前が本気で追えば俺を捕まえるなどたやすいだろう」
    「でも、君に隙を見せた事もあったと思うけど?」

    からかうようにつむぎ出されるシンルヴィスの言葉に、男が少しイラついたように顔をしかめる。

    「…何が言いたいんだ?」
    「別に、ただ君には疲れたような感じが見えたから」

    男はシルヴィスの言葉に驚愕の表情を見せるが、一瞬でまた無表情に戻る。

    「ただ、お前の隙を見つけられなかっただけだ」
    「分かった、そういう事にしておこう。さて、そろそろリディスタ城砦が見えてくるけど」
    「エンローディア公の娘が、自分で通称を使うな」
    「ははは、いいんだよ。エンローディア公本人が呼んでるんだから」
    「…本当か?」
    「うん、本当。建前はあんまり好きじゃないらしいんだ、あの人は…」

    シルヴィスが何か言いにくそうに言葉を濁す。
    男はそれを見て何かに気付いた風であったがあえて何も言わず、砦の前まで無言でシルヴィアの横を歩いた。





    砦の前まで来ると、兵士が二人を呼び止めるが、シルヴィスが二言、三言話しただけで中にはいる事が出来た。
    砦の中に入ってからは、何度か階段を上がり、広いホール状の部屋に通された。
    部屋の中には十以上の兵士が直立不動で絨毯の脇を固め、その絨毯の先には無骨で大きな椅子が設えてある。
    ホールは全体的に装飾がなされているが、華美な物はない、リディスタに余裕が無いのか、エンローディア公の趣味なのかは分からないが、質実剛健に見えた。
    二人はその椅子の前に進み出、そしてその前で片膝を付く。
    暫くすると、楽隊なのか、ラッパがならされ、そして伝令士により入室が告げられる。

    「エンローディア公、ランディス閣下御なーり!」

    ランディスは、公爵であると同時に将軍も兼任している為、閣下と呼ばれることが多い。
    公爵はメルフィート大公家を押す一派に属している為、現王家のフェルト家との仲は良くない、
    しかし、女王ディシール・ネレム・フェルトはランディスを将軍職に就け、フェルト家そのものから睨まれていると聞く。
    そうまでして将軍職に就けたくなるほどにランディスは強い。

    その”剣の公爵”ランディスが共の者を数人引き連れ、部屋の中央に歩いてくる。
    男はランディスの姿からその力を図り、険しい顔になる。
    シンルヴィスの父親であるのだから若くとも三十代後半なのだろうが、見た目は二十代でも通用しそうな精悍な顔をしている。
    長く伸ばした金髪や、無駄の無い筋肉質の体。身長は男より更に高く。まるで獅子を想像させる強力な気を放っていた。
    ランディスがその無骨な椅子にどかりと腰を下ろすと、ある種彫像のような独特の威圧感がそこから放たれた。

    一定の間が空いた後、共の者の一人が声を上げて語り始める。

    「シルヴィス・エアハート、任務の報告を」

    シルヴィスはその言葉を聞いた後、片膝をついたまま顔を上げ報告を始めた。

    「はっ、ご下命たる任務オーディーンスォウドの奪取及び使い手の確保を完了しました」

    更に共の者が何か言おうとするのを制し、ランディスは自らはなし始める。

    「その者か、使い手の確保は命じた覚えが無いが?」
    「クライス・クライン、蒼の双剣士の二つ名を持つフリーランスの傭兵です。彼の実力はかなりの物であると確信しましたので連れてきました」
    「蒼の双剣士…確かにな、オーディンスォウドを持つならその名もうなずける」
    「いえ、彼は見たところ一度も剣の特性を発揮していません、二つ名は実力で取得したものでしょう」
    「…なるほどな、ならばシルヴィス。その男をどうする?」
    「もし、許されるなら私の手で育てあげたいと思うのですが…」
    「育て上げるか…お前の年齢でその言葉はおかしな響きだが…もし可能なら早急に戦力に加えたいものだな…」
    「その言葉は許可の言葉であると受け取っても構いませんか?」
    「ふふ、まあ待て。本人の意思を確認せねばな」

    そう言うと、ランディスはその目をクライス・クラインと呼ばれた男に移す。
    そして、一通り値踏みするように見据えた後。

    「お前は何を望む?」
    「…何の事だ?」
    「これからお前に仕事を依頼しようと思うが、その報酬に何を望む?」
    「何でも良いのか?」
    「ああ」
    「ならば、ラザローンに禁呪を放った犯人の所在と、ラザローン進行を進言した元貴族の行方。この二つだ」
    「所在だけで良いのか?」
    「殺すのは俺だ、他の誰にも殺らせん」

    言うとクライスはランディスを睨みつける。
    ランディスはそういうクライスを面白そうに見返しニヤリと唇を歪めると、少し間を空け依頼内容を話し始めた…
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