Release 0シルフェニアRiverside Hole

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

0014889


■ ここはミニ小説掲載専用掲示板です。
■ 感想は 感想掲示板にお願いします。こちら⇒■
■ 24時間以内に作成されたスレッドは New で表示されます。
■ 24時間以内に更新されたスレッドは UpDate で表示されます。

記事リスト ( )内の数字はレス数
Nomal交錯(改正版) 第一話(0) | Nomal交錯(3) | Nomal傭兵の(7) | Nomalオリジナル新作予告(0) | Nomal戦いに呼ばれし者達(26) | Nomal[蒼天の始まり] 第一話(19) | Nomal誓いの物語 ♯001(13) | Nomal(削除)(3) | Nomal第一部「騎士の忠義・流れ者の意地」・序章(9) | Nomal鉄都史論 01、崩壊からのエクソダス(6) | Nomalツクラレシセカイ(前書き)(17) | Nomal『魔』なりし者 第一話(4) | NomalLIGHT AND KNIGHT 一話(8) | Nomal『黒と金と水色と』第1話@(46) | Nomal愛の手を【レイヴァン・アレイヤ編】(3) | Nomal白き牙と黒の翼、第一話(1) | NomalThe world where it is dyed insanity-Chapter1-吟詠術士・第零節〜Epilogue〜(0) | Nomal赤と白の前奏曲(3) | Nomal赤き竜と鉄の都第1話(16) | Nomal蒼天の始まり第十話(9) | Nomal悪魔の進出(2) | Nomal双剣伝〜序章〜(6) | Nomalサム短編(2) | NomalIrregular Engage 序、夜ヲ駆ケシ愚者供(16) | NomalΑ Σμαλλ Ωιση(11) | Nomal外伝−白き牙の始まり(0) | Nomal空の青『旅立ち』(19) | Nomal"紅い魔鋼"――◇予告◆(21) | Nomal★蒼天の紅い夜 外伝(1) | Nomal〜天日星の暖房器具〜(26) | Nomal少女の檻 序章 『 lost −雪−』(40) | Nomal捜し、求めるもの(12) | Nomal★公開開始"蒼天編"(14) | Nomalなんだか分からないSS(0) | Nomal★先行公開 ◆予告編◇(0) |



■記事リスト / ▼下のスレッド
■549 / 親記事)  交錯(改正版) 第一話
□投稿者/ ジョニー -(2006/12/09(Sat) 22:42:57)
    2006/12/10(Sun) 18:45:05 編集(投稿者)

     学園都市……その入り口に立つアンバランスな二人組みが居た。

     一人は二十代半ばの金髪蒼瞳の男性。大小様々な傷が存在するが一目で上級品とわかる胸鎧と背負われた見慣れぬ造りをした柄が特徴的な片手半剣バスタードソードから一目で戦士である事が窺える。
     男の名をリオン=レイオスという。エインフェリア王国にて騎士の名家と謳われたレイオス家の者である。
     レイオスは数多くの優秀な騎士を輩出した名家であり、代々王都の護りを任されて時には近衛騎士になった者さえいる代々の王の信頼も厚い由緒正しい家であった。しかし、現在はリオンの祖父の代に当時の王の不評を買い辺境に飛ばされた落ち目の名家である。

     もう一人は十代前半の白髪蒼瞳の少女。観賞用ではなく実用の為のものとわかるメイド服と金属製の首輪に自然と目がいく、なんというか特徴的な少女である。
     少女の名はメア=シブリュート。同行者であるリオンでさえ名前以外の事を殆ど知らない謎に包まれた少女である。尚、よくても14歳程にしか見えないが本人は二十代だと主張している。

    「ハァ……漸く入れたな」

     リオンが疲れたように溜息をつく、その理由は学園都市に入る為のゲートで相当審査に時間が掛かった為である。

    「……………」

     その原因たるメアはなんら気にした様子も無く、無感情に目の前に広がる人々の営みを眺めていた。
     そうゲート通過に時間が掛かったのはメアに原因がある。リオンにはキチンとした身分が在る、レイオスでありハンターでもある。レイオス家の証明にはやや面倒があったが鎧に刻まれた紋章とその紋章と同じ形状のペンダントで証明された。
     レイオス家には過去の王に直々に授けられた紋章が在る。狼と剣を象ったそれは王都の王家の番犬の騎士という意味が込められている。辺境に左遷させられた今となっては皮肉な紋章でもある。
     もちろん、これが偽物という可能性はあるが通常確立は低い。王直々に授けられた紋章を偽るというという事は実質王国への重罪に当たる。そのような命知らずは殆どいないし、居たとしても銀製の紋章のペンダントなど作る者はいないだろう。単純に材料費にしても加工費にしても高く付くし、そのような事細かな細工を作ろうとすれば職人から王国に報告がいくのが普通だ。
     よって本物と判断されて簡単に通る事ができた。が、メアには提示できる身分も身分証明もなく門前払いを喰らいかけた。
     しかし、そこを何とかリオンが説得した。最終的にはリオンの御付の従者という身分でゲートを通過する事が出来たのである。無論、そこに落ち着くまでかなりの口論があったのは言うまでもない。

    「此処にお前の事を知ってる奴がいるといいな?」

     軽く頭を振って気を取り直して言う。
     そうリオン達は…正確にはリオンはメアの事を調べる為に旅をしていた。

    「………別に、どうでもいい」

     だが、気を使ったリオンのその言葉はメアの心底興味無しという台詞によって撃沈した。
     リオンはメアに気付かれぬように大きく溜息をついた。そして、何故こうなったんだとメアと出会った時の出来事に思いを馳せていた。








       交錯
          第一話








     学園都市に程近い王国領内のとある森の中。
     リオンは目の前に広がる光景に眉を顰めた、血の臭いが鼻に付く。

     横転し破壊された馬車、馬の姿は逃げ出したのか見当たらない。
     そして引き裂かれ原型を留めていない人間…だったもの。
     明らかに人間業ではない惨状。十中八九魔物に襲われたのだろう。それにどうやら襲撃されてから余り時間は経っていないようだ。

     軽く周囲に視線を走らせる。魔物が近くにいないかどうか、そして生存者がいるかどうかの確認である。

    「―――ぅ…っ」

     風に乗って、微かに聞こえる呻き声。

    「!? 無事か!!」

     まさか本当に生存者がいるとは思わず、声のする方に走り寄ると物陰になっていたところに男がうつ伏せに倒れていた。
     如何にもただの旅人いう服装の男の傍に寄ると誰かが自分の傍に来たのが分かったのだろう。己の血に濡れた顔をゆるゆると上げる。

    「………かの…を……ゴホォ…頼、む………」

     言い終わらぬうちに男は事切れて、自分の血で出来た水溜りに再び顔をつけた。

    「……クッ」

     ギリッと強く奥歯を噛み締める。間に合わなかった、もしも自分がもっと早く此処に辿り着き彼を見つけていれば助けられたかも知れないという思いがリオンの胸に満ちていた。
     そして勢い良く立ち上がると念入りに周囲を見回す。彼は「彼女を頼む」と言った、つまり他に生存者がいる可能性がある。

    「居た!」

     倒れた馬車の影に隠れた13〜4歳程の白髪の少女が力なく座り込んでいた。
     ぼろぼろになった囚人服とも病院着とも取れる見慣れぬ服を着て金属製の首輪と手枷を嵌めた、焦点の合わぬ瞳を漂わせている少女がそこにいた。
     少女の格好に些か疑問を抱いたが、恐らくこの少女が彼のいっていた『彼女』だろうと傍に駆け寄る。

    「おい、大丈夫か?」

     少女の肩を揺すりながら問いかけるがまったく反応が無い。
     おそらく目の前で起きただろう惨状に茫然自失となっているのだろうとリオンは思った。
     その時、

    「グオォォォォォオォォォ!!」

     明らかに人のそれとは異なる叫び声が響き渡る。

    「ッ!」

     近い、そう思い舌打ちしながらリオンは背中の剣―イクシード―を抜き放つ。
     リオンが剣を構えるのにあわせたかの如く、二体の人型の魔物が木々の間から姿を現した。

    「オーガっ!?」

     叫びにも似た声をあげる。
     食人鬼オーガ、魔物としては割りとポキュラーな方ではあるがそれは弱い故ではない、遭遇率はそこそこ在る癖に危険度は高い。その為にその名は広く知られている。
     無論人に倒せぬ相手ではない、特に知性に乏しい為に罠にかけるのは楽である。が、このような遭遇戦では脅威としか言いようがない。
     凶暴で残忍、食人鬼の名が示す通り…人肉を好む怪力を誇る怪物である。

     この馬車を襲ったのはこいつらか、とリオンはあたりを付ける。
     そして考えを巡らせる。


     少女を護りながらオーガ二体を倒す事が出来るか?
     No―――あるいは一人だけなら何とかなったかも知れないが、彼女を護りながらオーガ二体を相手する技量は自分にはない。

     少女を連れて逃げられるか?
     No―――とてもじゃないがこの状態の彼女を連れて逃げられはしないだろう。


     そこまで思考を巡らせてリオンは苦笑する。ならば、方法は一つしかない。
     まだオーガの攻撃範囲に入るまで少し余裕があると確認した上でリオンは少女に向き直る。

    「いいか……俺が時間を稼ぐ、そのうちに逃げるんだ」

     ゆっくりと言い聞かせるように少女に言うが、未だ少女の瞳は焦点が合わず彷徨っている。
     その有様に悲しげに顔を歪ませるが、リオンは剣を逆手に持ち替えて少しでも逃げやすくなるようにと少女の両手を拘束している手枷に剣を突き立てた。
     その瞬間である。

    『魔法接触、解呪ディスペル開始』

     頭に聞き慣れたイクシードの音声が響く。そしてエーテルが大量に消費されて酷い頭痛に襲われる。

    「なっ……一体…ッ」

     何時もよりも酷い、余りの頭痛に盛大に顔を歪める。
     気を抜いた一瞬のうちに、解放されて行き場を失った魔力が無秩序な力となって吹き荒れる。
     それに押されて二歩、リオンが後ろに下がると魔力の渦は収まった。
     オーガ達もその魔力に警戒したのか一定の距離を保ったまま近づいてくる気配は無い。

     そして、土埃が収まった渦の中心地にはあの少女が立ち上がっていた。
     その腕に嵌められた手枷はまるで煙のように消えていき、ゆっくりと開かれた蒼い瞳は先程までの焦点のあわない瞳と違い何処までも澄んでいたが意思の光はまるで感じられなかった。

    「解呪確認、これより貴方をマスター代理として認めます」

     少女の口から紡がれた抑制の無いまるで聞き慣れたイクシードの音声のような機械的な言葉。
     その意味をリオンが問い質す前に少女がオーガ達に視線を向ける。

    「魔物を確認、マスター代理への脅威と認識。これより排除します」

     まるで少女の口を使って、他の誰かが喋っているかのような錯覚に陥る程にその言葉には意思というものが感じられなかった。

    「―――!? ちょっと待っ」

    『魔法感知、範囲外』

     数秒の後、その言葉の意味を理解したリオンが逃げろと言おうとするがイクシードの音声により止められた。
     そのイクシードの音声の意味に困惑気味の思考を一瞬巡らせる。

    「――我が主に仇為す敵に大地の裁きを与えん―――――」

     その間に少女のぼろぼろになった服から覗く肌に刻まれた刺繍らしきものが淡く輝くのがリオンには見えた。
     そして―――

    「――――アースランス」

     突如としてオーガの足元の地面が隆起して巨大な土と石の槍と化して次々とオーガ二体を襲った。
     人には発する事の出来ない耳障りな悲鳴をあげて、オーガ達が串刺しにされていく。

     一体は胴体と頭部を貫かれて絶命し、もう一体は脇腹を抉られて悶えている。

    「っ!? 今だぁ!」

     そこで我に返ったリオンがイクシードを両手に構えなおして素早く、いまだ生きているオーガの懐に飛び込み剣を一閃する。
     銀線が走り、一瞬送れて袈裟に切り裂かれたオーガが勢いよく血を噴出して仰向けに倒れた。
     完全にオーガが死んだ事を確認して、少女の方に振り返ったリオンが見たものは………

     ふらぁと受身も取らずに倒れていく少女の姿だった。

















     <あとがき?>

     えー、改正版?です。
     二人の出会いが大幅に変更されました……まぁ後の展開はそれ程大きくは変わらない予定です。
     尚、改正前の方がいい!という意見が多ければこっちではなく改正前の方を…続けるかも、しれません(ぉ

     では、えー……次回も頑張りますです。
引用返信/返信



■記事リスト / ▼下のスレッド / ▲上のスレッド
■533 / 親記事)  交錯
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/21(Tue) 22:02:50)
     地獄、言葉にするのは簡単だが実際にどんなものかと問われれば答えるのは難しいもの。
     しかし、地獄絵図を実際に現せと言われたのならば、それは比較的楽に見せる事が出来るだろう。
     戦争、病、飢饉……この世に地獄絵図を現す事の出来るものは溢れかえっている。
     その中でも、もっとも地獄絵図をこの世に描ける存在がある。

     それは―――人間だ。

     地獄絵図を描く為の材料としても、地獄絵図を描く作者としても人間以上に優れた存在はそうそういないだろう。


     そこも嘗て、地獄絵図を描いていた。
     地獄絵図の中では穏やかな方であろうが、しかしながら一般的に見て地獄絵図には違いなかろう。


     身体を脳を切り刻む実験、実戦といっても過言ではない訓練……それらには常に死の危険が潜んでいた。
     実際に数多くの命が消えた。そして消えた命を補充する為に送られてくる不運な生贄達。


     彼女はその中でも生き延びた。
     己は古き記憶とその身に刻むべき時を代償に、仲間といえる生贄達を訓練で殺していきながら。
     得たものは押し付けられた力のみ。失ったものは余りに多く、得たものは少なく……それでも彼女は命を失う事はなかった。
     この世にヒトによって作られた地獄絵図を、彼女は生き延びた。















     肩に触れるぐらいの長さで切られた新雪の様に無垢に白い髪、天に広がる青空の様に澄んだ蒼い瞳。
     まるで人形のような容姿をした14歳程であろうその少女は、首輪にメイド服という少々保護者に様々な疑惑が掛けられそうな服装で街を歩いていた。
     ふと、その足が歩みを止めて不意に周囲を見回す。すると、注意深く見ていないとわからないぐらいに、ほんの僅かに表情が歪む。

    「迂闊……」

     近くに寄らなければ聞こえないぐらいの小さな声でポツリと呟く。その声には隠し切れぬ程の己への苛立ちが隠されていた。
     それは己の未熟、不甲斐無さ、不注意、油断…様々なものを嘆く声だった。
     暫し後、彼女は周囲に気付かれぬ程の小さく溜息を付くと、ポケットに手を入れた。

     そして、ゆっくりと抜き出された指先に二つに折られた紙が摘まれていた。
     彼女はその紙を油断なく開き、中を見て…呟く。

    「道に迷った…………」






       交錯
          プロローグ




     彼女、メア・シブリュートは結局その後迷い続けて、エルリスと名乗る女性に助けられた。
     この街に住んでおきながら迷うとは少々情けないが、ずっと住んでいた訳ではないし、あの辺りは立ち寄った事がないし、普段お屋敷から余り出ない所為だろうと自己弁護もとい自己完結していた。
     ともあれ、頼まれたお遣いは完了したので後は屋敷に帰るのみ。

     そのはずだったのだが………

    「一体、なに……?」

     小さく首を傾げて呟く。
     目の前の路地に人だかり、なにやら喚き声なども聞こえてくる。

    「おや、メアちゃんじゃないか」

     不意に掛けられた声に反応して振り向くと見知った恰幅のいい中年女性がいた。
     確かメアのような住み込みのメイドとは違う、通いの仕事人の一人だったはず。
     そう思い出すと同時にメアはペコリと頭を下げて挨拶する。

    「お遣いの帰りかい? 偉いねぇ」

     目を細めて微笑みながら言うおばちゃん。外見と違い二十代前半だと何度か指摘したことがあるが未だに信じてもらえていない。

    「……これ、は?」

     とりあえず複雑な気分になる言葉はスルーして、目の前の人だかりを見ていう。
     するとおばちゃんはしかめっ面になる。

    「喧嘩らしいわねぇ、まったく…天下往来で昼まっから……お陰で通れやしない。誰か止めてくれないかねぇ」

     喧嘩、つまりこの人だかりは野次馬ということだろう。
     今のところ誰も止める気配はない。いや、既に誰かが衛兵かなにかを呼びにいっているとは思うが道を通れないのは迷惑だ。
     この道を避けるとなると屋敷への道のりはかなりの遠回りになる。ただでさえ道に迷って余計に時間を喰ったのにこれ以上のロスは可能な限り避けたい。

    「止めれば、いいの」

     自分で導き出したその答えに納得してメアは一つ頷くと制止する中年女性を無視して人だかりの中に潜り込んで行く。


     人だかりを抜けると、そこには背中に剣を背負った旅人風の男と如何にもなガラの悪そうな男が4名いた。
     どうやら、この5人が喧嘩をしているらしい。
     旅人風の男がなにやら弁解しながら攻撃をよけ、ガラの悪い男達が頭の悪い言葉を吐きながら殴りかかっている。
     喧嘩というより一方的にイチャもんを付けているようだ。何もせずとも恐らく旅人風の男が勝つだろうがその男は一切手を出してない。オマケに人だかりが邪魔で逃げる事もできない状態らしい。

     一通りの現状認識を済ませた後、メアは己の意識を己が内に沈める。
     己が内で使えそうな魔法をリストアップしていく、即座に半数以上を却下する。
     あそこで覚えさせられた魔法は大半がこの場で使うには威力が大きすぎる。あそこの目的上、それは当然の事とも言えるが。

     僅か数秒でこの場を止めるのに使えそうな魔法が数個脳内で該当した。
     そのうち、一つを選択。他は万が一があり得るが、これならば恐らく大丈夫だろうと思うものだ。
     それでも念のために、威力を絞るに絞る。普通なら役に立たなくなるぐらいに。


     小さく呪文を詠唱する。しかし、それを人だかりの騒音に紛れて誰も気付かない。
     メアは己の脳に刻まれた呪文が展開してメイド服に隠された皮膚に刻まれた魔方陣が淡く輝くのを感じた。
     押し付けられた力、望まぬ力……そして、この場でも不要な力はメアの意思に反して発現する。

     旅人風の男が、ぎょっした表情で此方を見た。
     微かに驚く、身なりからして…というより背中の剣からして剣士かと思ったが魔法の発現に気づいたらしい。もっとも、もう遅い。

    「――――」

     メアの口から呪文の最後が紡がれる。
     同時に5人の頭上から大量の水が降り注ぎ、5人纏めて押しつぶす。


     一瞬の沈黙の後、辺りは蜂の巣を突いたような大騒ぎになる。

    「任務、完了?」

     その騒ぎに、少々やりすぎたかと思いながらもメアは呟き、誰に尋ねるでもなく首を傾げた。












      あとがき、というか言い訳?

    えー、どうも初めましてジョニーです。
    さて、とりあえず初カキコとなるわけですが…ごめんなさい。
    自分の文才の無さを改めて痛感しました。
    台詞少ないわ、文は短いわ………
    次回は何時書けるかわかりませんが、どうか宜しくお願いいたします。
引用返信/返信

▽[全レス3件(ResNo.1-3 表示)]
■535 / ResNo.1)  交錯 0.5話
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/23(Thu) 22:20:35)
    2006/11/23(Thu) 23:48:31 編集(投稿者)

     そこでの生活は酷く貧しかった。
     名ばかりの孤児院。居るのは私腹を肥やす大人と奴隷の如く働かせられている子供。
     朝から晩まで働かされて、ご飯は不味く少なかった。
     虐待こそはなかったが厳しい仕事と環境故に死んでしまった子供もいた。
     それでも大人は子供を酷使し続けた。そこの大人にとって子供など金を得る為の道具でしかなかったのだから。

     だから、ボクは……あの時出会ったヒトに付いて行った。
     あの場所を飛び出して、ボクの知るなによりも強く、ボクの知る誰よりも凛としたそのヒトに憧れて付いて行った。

     ボクはあそこから逃げ出したんだ………いや、違う。
     だって、ボクはあの時…確かにあの子と約束した。
     既に町を離れたあのヒトに追いつけるかは小さな子供だったボクにとって賭けだった。
     丁度風邪を引いていたあの子を連れて行くのは無理だったから、だから―――


     必ず     って、約束したから――――――――
















    「……夢?」

     それは酷く懐かしい夢だった。
     果たせなかった約束、今でももしやと思い続ける約束。
     夢にまで見るとは未練だな。と、彼は苦笑しつつベッドから身体を起こす。

    (待て、ベッド……?)

     確かにベッドだ。しかも、柔らかく暖かい……正直自分には縁がないだろう高級品だということが手触りでもわかる。
     パッと目に入る部屋にも見覚えはない。オマケにやはり何処か高級感が漂っている。

    「………起きた?」

     不意に声がかけられ、勢いよくそちらを振り向き……固まった。
     そこに居たのは少女だった。ドアの前に佇むその少女は何処か人形めいた印象を受けが、この際それはいい…問題はその少女の外見だった。
     雪のように白く流れる髪に青空のように澄んだガラス球のような瞳。表面に紋様の刻まれた金属製の首輪、本格的で観賞用ではなくまさに実用の為のものとわかるメイド服。
     そう、首輪にメイド服だ……そんな格好をした可憐な14歳程の少女。正直、一瞬アッチ系の想像が頭に過ぎったがすぐさま打ち消す。

    「え、ぁ………」

     彼がなんと答えたらいいのか迷っている間に少女…メアは返事こそないが彼が起きたと確認して一つ頷きドアを開けて部屋を出て行く。
     バタンというドアが閉まる音に我に返るが、時既に遅し……何の説明もないままに置き去りにされたと気づく。

    「い、一体何なんだ……え、えぇ〜と」

     一人取り残された彼は状況把握の為に必死に記憶を探り出した。






       交錯
          プロローグU





     今日は、そう……ちょっとした野党退治の依頼を受けたのが始まりだ。
     規模は極めて小さく、依頼の報酬も結構よかったので喜び勇んで野党の襲撃場所に向かった……まではよかった。


     ところがその場所についた途端に奇襲を受けた。
     念の為に剣こそは抜いていたが、付いたばかりで張り込みでもするかと考えていたところに襲撃である。
     おそらく自分達を退治する依頼があることを知っていたのだろう。そして返り討ちにするべく待ち伏せしたと、そんなところだろう。
     そして完全に不意を付いた奇襲が成立する。本来ならば、それで彼の生死は既に決定されていたはずだが………

    ≪魔法感知。複数同時襲撃、消去キャンセル不能。抵抗レジスト開始≫

     頭に聞きなれた音声が響く、同時に僅かな頭痛と共にエーテルが相当量消費される。

    「いきなり、かぁ!」

     正面から無数の氷の矢が迫る。咄嗟に両手に握りこんだ…刀身に文字のようなものが刻み込まれたバスタードソードを振るい数本の矢を切り払う。
     が、すべての矢を切り払える訳がなく。幾つかの矢が男の身体を襲う。
     しかし、その内の2本は彼が纏うブレストアーマーに弾かれる。そして残りの矢も彼に幾つのかの掠り傷を負わせるに留まる。
     本来ならば突き刺さるはずの矢もあったが、僅かに喰い込むだけですぐに抜け落ちて力なく地面に落ちる。

     すぐさま、氷の矢が飛んできた方向を見る。
     そこにいるのは5人の男達。今魔法を放ったと思われる奴が3人にブロードソードを持った奴と木こりなどが使うような伐採用の斧を持つ奴が1人ずつ。
     人数は聞いた話と同じだが、明らかに実戦レベルの魔法を使う奴が3人もいるなど聞いていない。
     そんな奴が3人もいるなら、あの報酬では少々安すぎる。
     敵に向かって走りながら騙されたかと思い、小さく舌打ちする。

    「イクシード、接続アクセス!」

    接続アクセス確認。術式検索――≫

     魔法使い3人が下がり、前衛2人が迎え撃つ陣形になったのを認識した瞬間に叫ぶ。
     刀身に刻まれた文字が淡く輝くと同時に頭痛が走る。脳内に幾つもの情報が飛び交うがそれを一つ一つ認識する事は出来ない。ただ、漠然と自分の脳内を探られているという今でも慣れぬ違和感だけが感じられる。

    ≪――術式選択。構成開始≫

     脳が探られる違和感が消えると次は脳内に在る情報の一つが引き出されると共にエーテルが大量に持っていかれる。
     剣が謡うように詠うように唄うようにキィィーンと音を放つ。それは確かに謳っているのだ、剣が呪文を詠唱しているのだ。

     魔法使い達が呪文を詠唱しているが遅い。
     既に此方の術は完成して、剣がイカズチを纏い解き放たれるのを今か今かと待っている。

    (……イカズチ?)

     ふと疑問に思って剣を見る。強力だろう事が見てわかる程、剣がバチバチいっている。

    「げぇっ!?」

     不意に悲鳴染みた声を上げる。持って行かれたエーテル量からかなり強力な術が選択・構成されたのはなんとなくわかっていた。
     しかし、思っていたよりも極悪な術がそこにあることに驚いた。

     これを解き放つかどうか一瞬迷う。
     だが、迷う暇はなくなった。無数の炎の塊が自分目掛けて飛んできたのが見えたからだ。

    「えぇい! 死ぬなよ!」

     炎に向かって剣を大きく一閃する。
     瞬間、


    ドゴォォォォォォォン


     雷音が鳴り響く。
     剣から解き放たれたイカズチは無数の炎の塊をいとも容易く消し飛ばし、直線上にいた5人の男を襲った。

     土ぼこりが収まった後、目の前には感電して倒れている5人が居た。
     どうやら炎を目標にしたのが幸いしたらしく、直撃はしなかったようだ。
     それでも身体が麻痺する程には影響を受けたらしい。

    「んぁー………結果オーライ、か?」

     ロープ確か持ってきてたよな? とか片隅で考えつつピクピクと痙攣している男達を眺めて現実逃避気味に呟いた。




     その後、男達を引き渡して報酬を受け取って街をぶらついていた。
     正直、強力な魔法行使でエーテルを大量に消費したのでさっさと適当に宿を取って休みたい気分だったはず。
     それが何の因果かガラの悪い男達に絡まれた。
     多分、精神的な疲れから肩がぶつかったりしたのだろう。

     それで何故か大事になって、何とか説得しようと思っていたところに。

    ≪魔法感知。消去キャンセル――エーテル不足≫

    (んげぇ!?)

     その音声に、声にならない悲鳴を上げて咄嗟に魔法を感知した方向を振り向く。
     そして、そこにいた白い髪のメイド服の少女と目が合った。

    抵抗レジスト開始≫

    (開……じゃ…ね………よ)

     頭上に現れた大量の水に気づく暇もなく、更にエーテルを搾り取られて気が遠くなるのを感じたのが……記憶にある最後だった。












    「……あぁ」

     そこまで思い出してポンと手を叩く。
     さっきの奇怪な服装の少女はあの時の少女に間違いない。
     つまり、ぶっ倒れた自分をわざわざ運んで来て介抱してくれたということだろう。
     自分の剣―イクシードもすぐ傍に立て掛けてある事からまず間違いないだろう。

    「後で礼言わなきゃな、いや…アレはあの子の所為だから別にいいのか?」

     そんな事で悩んでいるうちに再びドアが開いた。












      ◆あとがき?

     思ったよりは早く投稿できました。
     せ、戦闘シーン難しい…ので、戦闘シーンになってない戦闘シーンになりました。
     話進んでないし……男の名前出しそびれたし。
     ま、まぁそこら辺は次回に回しましょう……
     という訳で、あとがきというか言い訳でした。
引用返信/返信
■537 / ResNo.2)  交錯 第1話
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/25(Sat) 21:26:46)
    2006/11/25(Sat) 23:10:04 編集(投稿者)
    2006/11/25(Sat) 22:18:31 編集(投稿者)

     此処に出会いは成った。
     それが意味にするものは何か、それはまだ誰にも分からない。

     過去を悔いる者と過去を失った者。
     未来あすに希望を望む者と未来あすに何の希望も抱かぬ者。
     両者の差は大きく、されど両者にどれだけの差があろうか。
     かくして二人は出会う、それは運命か必然か…はたまた唯の偶然か。

     それは世界にとって小さな出来事、歴史にも語られる事はない、小さな出会い。 
     ただ、その出会いが彼と彼女にとって大きな意味を持つという事は確かだった………
















     「おや、起きましたか」

     扉が開き、報告受けたから来ただろうに少々白々しい言葉と共に入ってきたのは金髪に眼鏡が特徴的な男性だった。
     知的で如何にも貴族です、という服装をしている。恐らくはこの家の主だと思い至り、姿勢を正す。

    「あぁ、そのままでいいですよ」

     彼が姿勢を正すのを見て、男性は気にしないでいいですとばかりにそういった。
     とはいえ、そうもいかないので失礼でない程度に姿勢を正す。

    「この度はうちのメイドがとんだご無礼を……」

     あぁ、やはり彼女は此処の者かと思う。
     同時にこいつがあんな格好をさせているのか? と別種の警戒を強める。

    「あぁ、キミと共にいた者達は余罪が出てきたので憲兵隊に引渡したよ」

     その警戒を勘違いしたのか、男は安心しなさいとばかりにそういった。
     勘違いしているのは、まぁ都合がいいのでそのまま勘違いさせておく。

    (貴方の性癖を疑いましたとは口が裂けても言えんし)

    「正直、キミも憲兵隊に突き出してもよかったのですが」

     バレると危険な事を考えていると、正直ちょっと洒落にならないことを言われてた。
     別に法を犯したわけではないので問題がないといえばないのだが、それでもわざわざ捕まるのは勘弁したい。

    「キミが身に着けていた紋章に覚えがあったのでね、失礼ながら名前を聞いていいかな?」

     そういって男性はベッドの傍に置かれたブレストアーマーを見ながらいう。
     より正確にいうならば鎧に刻まれた狼とつるぎを象った紋章を見ながら。

     そこで彼は、あぁ…と一つ納得する。
     確かに貴族なら知っていても別におかしくはない。逆に知らなくてもおかしくはないが、たまたま前者だったということだろう。

    「私の名前はリオン、リオン・レイオス……おそらくはご想像の通り、レイオス家の者です」






       交錯
          第1話「ハジマリは」






    「あぁ、やはりあの没落騎士の………」

    「え、えぇ…そのレイオスです……」

     名乗った途端の第一声がそれか……
     というか没落とかハッキリ言うな、そのレイオス家の者の前で………

    (それに没落はしてないぞ…没落は、ただ単に王都から辺境に飛ばされただけで……ん? それって没落に入るのか?)


     レイオス家。
     数多くの優秀な騎士を輩出した名家であり、代々王都の護りを任されて時には近衛になった者さえいる代々の王の信頼も厚い由緒正しい家であった。
     そう、あった……過去形である。なんでも祖父の代に当時の王の不評を買ったらしく辺境に飛ばされて久しい。むしろ、一家纏めて辺境行きなので王都追放といえるかもしれない。
     それでも今でも位は剥奪されていないし騎士も出している。それに過去の王に直々に授けられたという家紋も返還を求められていない。
     その辺は不幸中の幸いのというべきかなんというか。
     ついでにいうと紋章の狼は番犬で剣は騎士で王国を王都を王を護る為の騎士という意味から来ているらしい。辺境に飛ばされた今となっては少々皮肉な意味合いである。


    「いや、あの名家も今となっては落ちたものですな。跡取りがこのようなところで」

     まことに遺憾です。と、ワザとなのか素なのか少々判別に困る仕草で首を振る男。

    「い、いえ…自分は跡取りではありませんゆえ」

    (そうだ、俺は跡取りじゃない……その権利もないしな)

     リオンの内心のその言葉に気付くはずもなく、男は一人で納得したように頷く。

    「まぁ、レイオス家なら問題ないでしょう……入りなさい」

    「……?」

     そこで何故レイオスの名が出るのかよく分からずに疑問に思っていると、あの子が入ってきた。

    「今日からこの子の事を頼みます」

    ハァ!?

     唐突に、脈絡もなくそんな事をいわれて驚きの声を上げる。
     失礼といえば失礼だが、この場合多分誰も責めはしないだろう。

    「実はこの子は皿を割るのを初めて色々と問題は起こすわ……正直頭を痛めていたのですよ。そして今日のあの騒ぎ、幾ら温厚な私でもいい加減…我慢の限界でして」

     眉間を指で抑えて青筋が浮かんでいる。
     それは我慢の限界だろうが、話が繋がっていない。

    「それでもあの子は色々問題がありまして………ただ追い出すというわけにいかないのですよ。それに引き取り手も見つかりませんでしたし」

    (あ、なんか嫌な予感が……)

    「しかし、没落したといえ…あの名家であったレイオス家の者なら問題ないでしょう。ですから、彼女の事を頼みます」

    「え、いや……俺は確かにレイオス家だけど引き取るって! そんな権限――」

     既に敬語を使う余裕もなくして素で喋るリオン。

    「それでは上には私の方から伝えておきますので」

     そんなリオンを無視して、にっこりと微笑み男が部屋から出て行く。

    「ちょっ!?」

     慌てて追おうとリオンがベッドから飛び出る。
     が、ドアの前にはあの子が立っている。

    「あ、ちょっと…退いてくれるかな?」

     引きつり気味でお願いをするが、それを聞いていないように少女はリオンを見上げて…言った。

    「クビになった……」

    「い、いや……それは俺の所為じゃないし」

     むしろ、自業自得だろう。という言葉はすんでで飲み込む。

    「クビになった……」

    「いや、だから………」

    「クビになった…クビになった…クビに――」

    「わ、わかった! わかったから!」

     エンドレスに続きそうな予感がしたので慌てて遮る。

    「よろしく、ご主人様……」

    「ご、ご主人様はやめて貰えるかな……リオンでいい」

     嵌められたと内心叫びながら、引きつり気味にいう。

    「わかった、リオン」

    (こ、今度は呼び捨てか……)

     なんとなく、この子の問題の一つがわかったような気がして冷や汗を流す。
     そこでふと少女の顔をじっくりと見て気付いた事があった。

    (似てる……けど、そんな訳ないか…髪の色も年齢も違うし)

    「………?」

     じっくりと観察されて小首を傾げる。

    「あ、いや……そういえば名前は?」

     誤魔化すように聞いて、実際名前を聞いてなかった事にも気付く。
     そして、それぐらい紹介していけよ、おっさん。と内心毒づく。

    「メア…メア・シブリュート」

    (やっぱり違うか……)

     その名を聞いて、分かっていたはずなのに落胆を覚えている自分に気付いて苦笑する。

    「メアか……俺はリオン・レイオスだ。まぁ、よろしく頼む」

    「……よろしく」

     握手の為にリオンが差し出した手をスルーして、メアが頭を下げる。
     リオンが引きつったが、此処に出会いは成ったのであった。



























    オマケ


    「ところで…その首輪は外してくれないか」

     さすがにさっきまで自分があの男に思ってた事を自分が思われるのは嫌なのでリオンがいう。
     が、しかし……

    「……外せない」

    「はっ?」

     メアの一言に間の抜けた声を出してしまう。

    「鍵がないから、外せない」

    「い、いや…鍵ぐらい作れば」

    「魔科学の品で、複製は困難」

     技術の無駄使いだろう! と、声高に叫びたくなったが必死に抑える。

    「じゃ、じゃあ…せめてメイド服を」

    「これと同じ服しか、持ってない」

    (な、なんなんだよ…それは)

     なら、買えば……と思ったがすぐに思い直す。
     金がない。いや、あるにはあるが一人旅が二人旅になるのだ。必要経費は単純計算で二倍だ。
     そうなったら無駄遣いはできない。これは無駄遣いではない気もするが出費は出来るだけ抑えたい。

     そんなこんなでリオンは男が今までのメアの給料(手切れ金?)を持ってくるまでずっと頭を抱えて悩んでいたとか。














     ◆あとがき?

     早めに上げようと頑張りました、実際頑張った。
     が、しかし……こ、今回は今までより更に短いような………
     内容も薄いし、反省……
     次回はもうちょっとマシになるよう頑張ります。
引用返信/返信
■547 / ResNo.3)  交錯 第2話
□投稿者/ ジョニー -(2006/12/03(Sun) 21:09:10)
    2006/12/04(Mon) 20:37:05 編集(投稿者)

     方や魔法を刻む剣を持つ者。
     方や魔法を身に刻まれた者。

     魔剣と呼ばれる剣を持つ者と兵器として作り変えられた者。
     力を自ら手に取った者と力を押し付けられた者。

     それらは似て非なるもの。
     しかし、それは惹かれあうようにして出会った。

     互いがそうと知らぬままに………

















    「さて……あの子、メアについての説明は以上です」

     メアの元雇い主である貴族の男の言葉をリオンは信じがたい思いで聞いていた。
     この男は部屋に戻ってくるなりリオンと二人で話がしたいとメアに退室を促した。
     リオンも言いたい事などがあったのでそれを受け入れたが、男の語りだした事はリオンの想像を超えていた。


     メアは、とある貴族が秘匿していた実験施設の生き残りであるという。
     その施設でどのような事がなされていたかは男も詳しくは知らないらしい、ただかなりの非人道的な実験や訓練が施されていて王国の部隊がその施設に踏み入った時には100名近い実験体のうち生き残りはメアを含めて僅か4名だったいう事からその非道さが窺える。
     その生き残りであるメアは増幅された強力な魔法を行使する強化魔法兵、人間兵器としての実験台にさせられていたらしくメアの身体にはその為の魔方陣が刻まれているという。
     そして保護された4名はそれぞれ信用できる者達に引き取られたらしい。そのような施設の存在そのものが問題であるし、なによりその施設を運営していた貴族が王宮とも繋がりが深い人物だった為にその事を世間に知られぬ為に施設の事を含めて隠蔽されたという事のようだ。
     もちろん、メアも当初はこの男ではなく違い人物…王宮の信頼も厚い人物に預けられたらしいが4人の中でも飛び抜けてメアが常識などに疎かった為にその人物の手に負えずに他の者に預けられた。
     それが何度か続いてこの男の下にメアが預けられて、やはり手に負えずにレオンに預ける事となったと……そういうことだそうだ。
     尚、メアのズレた言動の原因は多感な時期をそのような施設で過ごした為らしい。


    「それは、本当の……事なんですか?」

     知らず知らずのうちに乾いたリオンの口からそんな言葉が零れた。
     
    「はい、我が家名と我らの王に誓って」

     王への忠誠を後ろに持っていくな、と危うく突っ込みかけたのを踏みとどまる。
     別に王都に住んでいるわけでもなく王宮と繋がりが深いわけでもなく、主に忠誠を誓う騎士でもないんでもない貴族なら家名優先の方が多いだろうと思い直したからだ、この辺長旅の経験でもある。
     それにこの男は王国の貴族であるが何故かこの学園都市に屋敷を構えているし。

    「ともあれ、彼女の重要性についてはわかって頂けたと思います」

    「えぇ……」

     そこは素直に頷く。
     下手をすれば反乱の火種になりかねない問題の生き証人。それは確かに王宮にとっては手元に置いておくには不都合があるし、さりとて手放すわけにもいかない存在だろう。
     メア達が秘密裏に消されなかったのは運がいい。もちろん、隠蔽したといえ問題が問題だった故にそういうルートには知られていた為に下手に消すわけにもいかなかったのかもしれないが。

    「結構です……では、くれぐれもお願い致します」

     








       交錯
          第2話「モトメルは(前編)」








     所変わって、現在リオンとメアは現在学園都市の中心である学園…の待合室にいた。



     事の起こりはリオンがメアの事を調べようとした事だが、何せ王宮に隠蔽された問題であるから簡単に調べられるとも思えない。
     よって、単刀直入に聞いたのだが……その殆どが――

    「……知らない」

    「……分から、ない」

     との答えしか返ってこなかった。
     まぁ嘘ではなさそうだった為に諦めて、せめてと思い施設の場所を聞いたがそれも知らないという。

     よって、自力で調べるしかなくなった訳だが……当てが無い。
     王都デルトファーネルに行けば何らかの情報は得られるだろう。しかし、レイオスを名乗る者としてリオンは王都には入れない。
     今のレイオスにとって王都は鬼門であり入る事が出来ない。仮に入れても家に多大な迷惑をかけることが目に見えている為にその選択肢は除外せざる得ない。

     次点で魔法関係の実験施設だったのだから、この学園の上層部なら何かしら知っているのではと……思ったのだがコネがない。
     しかし、そこでリオンは学園にいるはずのある人物を思い出してその人物を頼る為に来たのだ。
     相変わらず首輪にメイド服のメアを引き連れて歩くリオンへの周りの人達の視線は酷く痛かったが………必死に気にしないようにした。

     ともあれ受付でその人物と会いたいという旨を伝えて、身分提示を求められたがレイオスの名と鎧の紋章で納得してもらい、本当に会えるという保障はないが一応その事は伝えるという事になった。
     ちなみにその間は待合室で待たされる事になったが、かれこれもう三十分以上待たされている。



    「なんだレイオスって、貴方の事だったの」

     もうどれ位経っただろうか、今日のところは出直すかとリオンが考えていたら不意にそのような声がかけられた。
     その何処となく落胆の色の混じった声のした方を向くと……そこには赤い髪と赤い瞳が印象的な少女が居た。

    「久しぶりに会って、なんだは無いだろう……ユナちゃん」

    「ちゃん付けで呼ばないで」

     苦笑気味に言うリオンにキッパリと告げる少女。
     ユナ・アレイヤ……15歳にして炎系統の魔法を全て習得した天才少女。

     リオンとユナの言葉から二人は面識があるようだが、普通この二人が知り合いだとは思わないだろう。
     なにせ単なる冒険者…ハンターと天才少女である。普通二人を結びつける事の方が難しい。
     だが、実はレイオス家とアレイヤ家は交流があった為に二人は互いを知っていた。

    「……まぁ、ともかく久しぶり…あの時以来……かな」

    「………そうね」

     僅かに言葉を濁らせるリオンにユナ。
     実の所、レイオスとアレイヤの交流は途絶えて久しい…そうユナの両親が事故でなくなって以来、両家の交流は殆ど行われなくなっていた。
     リオンとユナもその葬儀以降、今まで会うことは無かった。

    「それで、いきなりなんなの? それに会わない間に随分趣味も悪くなったようで」

     ユナの視線の先には……メアがいた。
     当然、此処でも首輪にメイド服だ。

    「アレは俺の趣味じゃない! いや、そうじゃなくて……今日会いに来たのは彼女についてだ」

     慌てて弁解して、変な方向に話が行く前に本題に入る。
     決してリオンは逃げたわけではない……多分。

    「彼女の……?」

     少々怪訝な顔でさっきから一言も喋っていないメアを見つめるユナ。
     その言葉にリオンは頷き、重々しく口を開く。

    「この子はメア・シブリュートというんだが………実は―――」

     そこからリオンはつい先ほど、あの貴族に聞いた話をユナに語りだした。




    「――なの?」


    「多分―――」


    「―――ということは――」


    「――でも――――」



     何時の間にやら途中から少々話が変わって二人して施設の事についてあれこれ意見交換などを始め出していた。
     それぞれ施設について思う点があったのだろう。それが本当かどうか、そして何故というところまでに話は及んだ。
     まぁ、情報不足過ぎるので推測に推測を重ねているが………


    「……くぁ」

     ちなみにそんな話している二人を尻目に興味無しとばかりにメアは小さく欠伸をしていた。
     局地的に平和な光景だった。



























    <オマケ>


    「推測ばかり語っていてもキリが無いわね」

    「いや、そんな今更……」

     ちなみにアレからかれこれ三十分以上話し合っていた。確かに今更である。

    「ともかく、手っ取り早く証明するには……貴女、脱ぎなさい」

    ブッ!?

    「……?」

     突然のユナの爆弾発言に噴出すリオン、意味が分からず小首をかしげるメア。

    「本当に身体に魔方陣が刻まれているかどうか、確認がてらに検査してあげる」

    「……わかった」

     とりあえず魔方陣を見せればいいと納得したメアが頷き、そのメイド服に手をかけて唐突に脱ぎだした。

    「ま、まてぇーー!?」

     リオンが驚愕と制止の叫びを上げ、二人がリオンの方を向いた…その時――


    バタン!! 


     ――ドアが閉まる音が部屋に響き渡る。
     相当な早業である。ユナがぽかんとしている事からその相当さが理解できる…かも?
     叫んでから椅子から立ち上がり扉を開け放ち部屋を飛び出して扉を閉める。以上の一連の動作は僅か数秒の間に行われた。

    「………とりあえず、脱いでくれる?」

    「……………」

     僅かな空白の後に何もなかったユナの言葉に、こくりとメアは頷いたのであった。














     ◆あとがき?

     こ、今回は難産でした。
     詰まるは詰まる……とりあえず遅くなって申し訳ありませんでした。
     オマケにやっぱり短い、今からこの調子でちょっと不安なジョニーです。
引用返信/返信

■記事リスト / レス記事表示 → [親記事-3]



■記事リスト / ▼下のスレッド / ▲上のスレッド
■525 / 親記事)  傭兵の
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/19(Sun) 15:56:30)
    暗闇の中で閃く剣閃、幾多幾重にも打ち合う刃と刃、怒号の様に響く音。
    夜に支配された闇の中で一人の青年と手に剣を持った魔物が斬りあっていた。
    青年が魔物の振るう剣を受け止め、魔物は青年が突き出した刃を避ける。
    一進一退の攻防の中、魔物は盾を構えた左腕で殴りつける様に薙ぐ。
    されど青年の方もまた、魔物が突き出した盾に蹴りを当てて攻撃を無効化。
    ……戦いは振り出しに戻り、膠着状態が続いていたが、終わりを告げる。
    魔物が意を決して剣を振り上げ、青年に斬りかかると、青年もまた魔物に対し
    て手にした大剣を逆袈裟の形で刀身を跳ね上げ、魔物を斬り飛ばそうとする。

    「……てこずらせやがって。」

    結果は――青年の一撃の勝利。
    青年の大剣の一撃の方が速かったらしく、剣を手にしていた魔物は斜めに斬ら
    れており、両断された魔物はずるりと崩れ落ち、生命活動を停止した。
    魔物の撃破を確認した青年は剣を振るって血糊を飛ばし、清められた聖水を刀身
    に振りかけて浄化し、その後で大剣を背中に差して――ふぅ、と溜息を吐いた。
    剣の腕にはそれなりの自信があったが、まだまだ精進が足りないと確信。
    更なる精進と練磨が必要である、と今回の依頼で戦った魔物を見てそう思う。
    しかも今回は『運良く勝てた』と内心で感じており、次回同じ様な魔物と戦えば
    結果は解らないし、地面で転がっているのは自分かもしれない。
    そうなりたくないし、そうならない為には自己の研鑽と練磨が必要である。
    青年はそう感じていた。

    「まだまだ俺も修行が足らん。……精進しないとな。」

    一言告げた後、青年・クレイル=ウィンチェスターは歩き出した。



    ハンターのお仕事
    第零話「傭兵な兄、魔法戦士な妹」



    市街地から遠く離れたこの場所、人気の無い草原で木剣を構えたクレイル。
    そして長く真っ直ぐな木の棒を構えた少女が対峙し、互いに隙を見つけようと必
    死に目をこらし、意識を集中させ、互いに互いを見つめ――少女が動き出す。
    小柄な体格を生かし、深く、そして低く踏み込んだ後、強く棒を突き出した。
    突き刺さればただではすまない付を青年は軽く捌き、お返しにと切り返しを見舞
    い、少女に向けて木剣を振り下ろした。

    「――っ!」

    強烈な振り下ろしを受け止め、棒と言う特性を生かして剣を払った後、距離を取
    り、一息ついてもう一度攻撃を仕掛けようとして…防御に回るしかなかった。
    クレイルが少女に肉薄し、手にした剣で連撃を見舞い、少女は手にした棒を必死
    に動かして剣撃を弾き、受け止め、捌き、何とか距離を取って体勢を整えようと
    するのだが、クレイルは許さずに追撃を加え、剣撃を加え続け、最後に――蹴り
    で少女手にした棒を払うと、がら空きになった脳天に――ハリセンを振り下ろし
    た。

    「――あぅ……。」

    「以前より攻撃が鋭くなったが――まだまだだな。」

    「うぅ、兄さんが強すぎるの……痛っ。」

    「反論するヒマがあるなら俺を追い抜いてみろ。」

    「うー……。」

    不貞腐れたかのような表情を浮かべ、ハリセンで叩かれた頭を撫でつつ兄を睨む
    のだが、問題の兄はドコ吹く風、と言った表情で妹の視線をさらりと受け流し、
    ハリセンをどこかに仕舞い込んだ後、手を妹の頭の上に置き、優しく撫でてやる。

    「……でも、何で私を叩く時はハリセンなの?」

    「お前、真面目に木剣で頭を殴られたいか?」

    「殴られたくないけど……ハリセンも嫌。
     何か悲しくなるから……。」

    「悲しくなりたくなければ強くなれ。」

    そう言ってペシペシと妹の頭を再び取り出したハリセンで軽く叩いていると、不貞
    腐れた少女はそっぽを向き、ついでに頭を叩いていたハリセンを手で払った。
    その瞬間に兄に対して棒の先を突き出すのだが――不意打ちの突きはあっさりと回
    避されてしまい、返す刀で少女の頭には今一度ハリセンが振り下ろされる。
    草原にとても良い音が響き渡った……。



    *自宅

    朝の訓練(もといシゴきとも言う)が終わった後、二人は根城にしているボロッちい
    一軒家へと戻り、軽く朝食を取り(なお、食事は妹が担当している。)、それぞれの
    用意、クレイルは装備を整えて傭兵ギルドへと赴き、目ぼしい依頼が無いかどうかの
    確認を行い、妹は市内の魔法学校へと行く準備をしていた。
    妹――ファリルは白を基調とした制服を身に纏い、手にはカバンを、そして――杖。
    淡く輝く白銀の杖を持ち、玄関へと向かい……。

    「さて、忘れ物は無いか、ファリル?」

    「兄さんこそ……忘れ物、特に傭兵ギルドの認定証は?」

    「確認した。問題ない。」

    「うん……こっちも問題ない。」

    忘れ物がない事を確認した後、互いに互いの顔を見て―――

    『『行って来ます』』

    そして、二人の一日が始まる―――。











    <言い訳とも懺悔とも>
     初めまして、そうでない方はお久しぶりです。ロボットもファンタジーも愛する者です。
    HNが長すぎるので『ロボファン』と略して頂いて結構です。……それ以外も問題はありま
    せんが……。
    さて、SSと言う物は初めてであり、幾分見難かったり、おかしい所があると思います。
    キャラはキャラでまんま兄、クレイルはダンテ、妹は――某・魔法少女アニメに出てくる
    金髪ツインテールの素直クール系美少女がモデルとなっている等、どこから取って来た様な
    捻りの無いキャラ達ですが、これから頑張って動かし、SSを終わらせたいと思います。
    SSを打つ者として未熟ですが精進していきたいと思いますので、どうかよろしくお願い
    致します。
引用返信/返信

▽[全レス7件(ResNo.3-7 表示)]
■534 / ResNo.3)  ハンターのお仕事第二話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/22(Wed) 12:12:12)
    ―――アルシオール市街地


    「兄さん、道具類とか常備薬、買わなくて良いの?」

    「常備薬はまだあるが――そうだな、仕事用の道具は在庫が厳しいな。
     ファルミアさんの店に買いに行くか。」

    「うん、そうした方が良いよ。」


    手に大きな荷物、食料から仕事用攻撃アイテム、様々な物が詰まった紙袋を手に兄妹は歩く。
    クレイルは何時もの標準顔、仏頂面で無愛想な表情で攻撃アイテムが詰まった紙袋を持つ。
    ファリルは兄の横顔を見ながら微笑み、笑顔で食料の詰め込まれた紙袋を持って歩く。
    右と左の温度が明らかに違うが、これが『何時もの』光景であり、変わる事は無い。
    そして、今度は仕事用のアイテム――攻撃用ではなく、回復用のアイテムを買い足しに行く
    ためにファルミアの店、普通の一般家庭で使う常備薬から傭兵御用達の回復アイテムまで幅
    広く扱う店に赴く。
    ――しばし歩いた後、目的の店には辿り着くのだが、中から話し声が聞こえて来たので、取
    り込み中かと思い、出直そうかと考えるのだが、速めに用を終わらせて帰れば良いか、と考
    えて中に入った。


    「こんにちわ。」

    「お邪魔する。」

    「あら、今日はお客さんが多いわね。いらっしゃい、二人とも。」


    にこり、と何時もと変わらない笑みを浮かべてクレイルとファリルを迎えるファルミア。
    そして二人はファルミアに挨拶した後、必要な物を探そうとして――顔なじみの人物。
    更に見慣れないし、見慣れない服装をした初見の人物。
    エルリスと見慣れない服装の男を発見し、ファリルはエルリスの友人だろうと思う。
    だがクレイルは少々警戒し、もしも、本当に『もしも』と言う時に備えて背中に背負った
    大剣、もしくは腰のガンホルダーに収まっている二挺の大型拳銃を何時でも引き抜ける体
    勢に移行した。


    「ファルミアさん、こちらは?」

    「ああ、その子は空腹 勇って言うの。エルリスの所で居候する事になったの。」

    「ファルミアさんや、紹介して貰えるのは有難いのですが、一文字思いっきり間違えてます。」

    「あら、ごめんなさい。でも、あながち間違いでは無いでしょう?」

    「ひ、否定出来ねぇぇぇぇぇ!!」


    ……とりあえず害意は無さそうだ、とクレイルは判断して半・戦闘態勢を解き、目的の物を探す。
    回復用のポーションを10個、メディテーション(毒消し)を同じく10個、そして武器浄化用の聖水
    を10個買い、後は携帯食料(スティックタイプ、リンゴ・桃・蜜柑の三つの味)を大量に買い物籠
    に放り込み、ふと――ファリルの方を見てみると、少し声は小さい物の、勇と話をしていた。
    どうやら悪い人間では無さそうだ、と認識を今一度改めつつ、買い物籠に放り込んだ品物をカウ
    ンターに持って行き、清算を済ませる。


    「……面白い子でしょう?」

    「まぁ、悪い人間では無さそうですが――」

    「大丈夫よ。あの子は悪い子じゃないわ、目と雰囲気で解るもの。」

    「何か強力な説得力がありますね、ファルミアさんが言うと。」

    「そりゃあね、長年お店の店主をやってるもの。人を見る目は鍛えられてるわ。」


    大振りの身振り手振りを交えた話をする勇、それを見て聞き、笑い、微笑むエルリスとファリル。
    そんな三人の様子を見てクレイルは完全に警戒態勢を解き、カウンター近くの椅子に座り、出さ
    れたお茶をズズズ、と飲みながら会話と三人の成り行きを見守っていた。


    「クレイル君、そのお茶――私が飲む筈だったんだけど?」

    「ぶっ!?す、済みません……。」

    「……まぁ、良いわ。今回は許してあげる。」

    「申し訳ない……気が緩んでしまって……。」


    ズズズ、とお茶を飲み干してティーカップを机の上に置いた後、クレイルは申し訳無さそうに眼を
    伏せ、対してファルミアはニコニコと終始笑顔を絶やさずに異世界の話に花を咲かせる三人。
    そして三人を見て仏頂面から少々軟化した表情になったクレイルを見続けていた――が、次の
    瞬間この場に居た全員の顔が驚愕の表情で固定される事になった。
    いきなり、地震にも匹敵しそうな地響きがしたかと思えば表から聞こえてくる悲鳴や怒号。
    ……何か『良くない事』が起こっているのだと全員は認識し、クレイルは表情を引き締めて装備を
    確認し、勇も話を中断し、そして両手の拳を握りこみ――仮にこの店に魔物が侵入してきた場合
    は自分がぶちのめすと心に誓い、身構えた。


    「……兄さん。」

    「解っている。十中八九、魔物の襲撃だな。規模からして中型から大型にかけてのサイズ。
     それに取り巻きが――かなり居る。……ファリル、解っていると思うが出てくるなよ?
     弱い魔物なら守ってやれん事は無いが、相手や能力が未知数でお前を連れて戦える程
     俺は強くない。」

    「うん、解ってる。……気をつけてね」


    背負った大剣の柄に手を掛けながらドアの開き、外に飛び出すと同時に店の周囲に群る魔物。
    狼の様な風貌の小型魔物、集団戦を得意とする者達との交戦に入り、クレイルは舌打ちすると
    共に背中に背負った得物、竜の頭を模した柄、竜の翼を模したガードを持った大剣を引き抜い
    て構えた。
    瞬間、一匹の魔物が咆哮ながら飛び掛ってくるがコレを一閃、返す刀で脚に噛み付こうとして
    きた二匹目を斬り飛ばし、体勢を崩したのを見計らって顎を開き、鋭い牙を見せながら襲い掛
    かってきた魔物を左腰のガンホルスターに収めた白銀の大型拳銃『クローム』を咄嗟に抜き放
    ち、発砲。頭を吹っ飛ばした。
    ……一分も経たない内に三匹の魔物を仕留めたクレイルは体勢と剣を構え、襲撃に備える。
    自分の後ろには妹や顔なじみが居る店があり、その人達をこの様な奴らの餌にする訳にはいか
    ない、そんな決意の元でクレイルは店のドアの前に立ちはだかり、剣を構えていた。
    ――だが


    (チィ……数が多いな……少しの集団ならば俺一人でもどうにか出来るが―――)


    そう、敵の数が圧倒的に多すぎるのだ。
    クレイル一人に対して敵は集団、10や20では無い位の数が集まってきている。
    ……門の警備兵は何を見ていたんだ、と悪態をつきながらもどう切り抜けるか、この防衛戦を勝
    つための算段を頭の中で立てようとした所、クレイルは咄嗟に剣を振るい、飛び掛って来た魔物
    を両断する。
    どうやら敵は思考する暇すら与えてくれない様であり、クレイルはとりあえず戦いに集中する事
    にする。余計な事を考えていたら――自分がやられる、と判断したからだ。
    思考を完全戦闘モードに切り替えた後、一匹一匹飛び掛ってはクレイルを倒せないと判断したの
    かは解らないが、三匹同時に多方向から魔物達は襲い掛かった。それぞれ違う方法で―。
    一匹は右から飛び掛り、一匹は左から脚に喰らい付こうと走りこみ、三匹目は真正面から喉を噛
    み千切ろうと喉元目掛けて飛び掛った。
    避け切れない、クレイルはそう思い――致命傷になるであろう真正面の魔物を斬ろうと大剣を振
    り上げた所、いきなり着ているコートの襟首を何者かに引っ張られ、後方に強制的に下げられた
    かと思えば……。そこに見慣れない服を着た男、先ほどファリルとエルリスと話していた男が三
    匹を前に背中を向け、脚を振りぬく――俗に言う、回し蹴りの体勢に入っていた。


    「ドラゴンキックで――星になれぃッ!!」


    何だそのネーミングは、と突っ込みを入れた所でクレイルは信じられない物を見た。
    彼が放った回し蹴りをモロに受けた三匹の魔物は文字通りに『吹っ飛んだ』のだ。見事に。
    情けない叫び声を上げながら彼方に吹っ飛んでいく魔物、蹴りを放った脚を元に戻し、構える男。


    「余計な世話だったかもしれませんが――助太刀させて頂いた。」

    「いや……助かった。済まない。」

    「なに、ファリル嬢からも頼まれたのでね。『兄を助けて』と。」

    「……おせっかいだな、アイツも。」

    「良いではありませんか、それだけ愛されてるって事だわな――!」


    男――勇が飛び掛って来た魔物に強烈な鉄拳、光り輝く右手の拳をぶち込んで殴り飛ばす。
    クレイルは同様に大剣を一閃させ、一匹斬り倒した後、素早く拳銃を抜いてもう一匹を撃ち抜く。


    「――俺はクレイル、クレイル=ウィンチェスター。
     クレイルと呼んで構わんし、そんな畏まった態度を取らないでくれ。」

    「了解。……俺は先ほどファルミアさんからも紹介されたが、空原 勇。
     勇、と呼んでくれて構わんよ。」


    二人は一瞬だけ互いの顔を見てニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた後、手を強く叩き合った。




    ハンターのお仕事
    第二話「必然の偶然・2 〜運命の邂逅〜」




    店の入り口を守りながらクレイルが剣を振るい、銃を撃ち、そして勇が鉄拳で敵を吹っ飛ばす。
    逢ったばかりの二人なのに、そのコンビネーションは何故か取れており、互いが互いの穴を埋め
    て隙と言う隙を補い、次々に敵を打ち倒して数を減らしていく。
    クレイルは剣を絶え間なく振るい、銀の閃光が閃く度に闇の獣が一匹、また一匹と数を減らす。
    勇は腕を振り回し、脚を振るい、拳で敵を殴り倒し、蹴りで敵を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。
    しばしの間、二人が暴れた後――店の前の敵は一掃され、残った最後の一匹はと言うと―。


    「ううぅぅおぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」


    哀れにも素敵パワー全開発動中の勇に後ろ足を捕まれ、全力で振り回され、そのまま彼方に
    放り投げられ、その存在は空の星になってしまった。……何故だろう、一瞬だけ星の様な物
    が強く輝いた。
    そんな様子を見ていたクレイルは一瞬、汗を流すが…気にしない、気にしたら負けだと言う
    事を本能が語りかけてくるので意地でも気にしない事にした。


    「ふぃぃぃ……ここらの敵は一掃したな。」

    「そうだな。残るは地響きの元、親玉だが……」

    「探すと拙くないか?ここが手薄になるし、そこを襲われたら――」

    「その問題が付き纏う――が、どうやら相手から来てくれた様だ。」


    直後、店の前の広場に一匹の大きな魔物、どうやって巨体を支えているのか解らない細い両足。
    そして両足に不釣り合いなほど大きな両腕を持った魔物、俗称・大地喰いと称されるB級魔物。
    『アースイーター』が現れ、殺意の篭った目をギラつかせながらクレイルと勇を睨む。
    クレイルは無言で剣を構えて再び戦闘態勢に移行、勇も一瞬だけ口笛を吹いた後で構えを取る。


    「何、この激しく危険そうな御方は?」

    「アースイーターとか言うB級……結構な大物に当る魔物だ。
     何でこんな所に出て来るのかは不明だが、出てきた以上、始末するしかなかろう?」

    「ごもっともで」


    戦闘開始の合図はアースイーターの咆哮。
    クレイルは大剣を背中に収め、代わりに両手に白銀と漆黒の大型拳銃を構えて速射を行った。
    勇は援護射撃を受けつつ敵に突っ込み、アースイーターの懐に潜り光輝く拳の乱打を浴びせる。
    殴る、殴る、殴る、殴る、とにかくひたすらに敵を殴り続け、一頻りボコった後、右腕を引く。
    そして裂帛の気合と咆哮と共に一際強く輝く拳をアースイーターに叩きこんだ!


    「くたばれや!!」


    ドゴォンッ!!と言うありえない音が響いたかと思えば、アースイーターは―吹き飛ばなかった。
    しかし、轍を刻みながらも数m後ろに下がっている時点で勇の一撃がどれほどの物だったかを物
    語っているが、今回は――敵の方が強靭なタフネスを持っていたのだろう。
    勇は敵を倒せなかった事に舌打ちしつつ、敵の攻撃が来る事を悟り(※喧嘩の経験)、防御しな
    がら後ろに下がると、自分が居た場所をアースイーターの腕が通り過ぎ、横殴りの風を感じた。
    ……あれを喰らったらたまらん、と冷や汗を流しながら勇は素早く後方に下がり、クレイルと合
    流し、アースイーターを如何にして倒すかの算段を相談する。


    「ちぃ、素敵パワーを以ってしても倒せんか――難儀な奴だ。」

    「異様なまでの防御力を持っているが――魔法に対しての耐性が弱い。
     ……言っとくが俺は魔法等使えないぞ。」

    「無い物ねだりは見苦しい……か。地道に二人で撹乱しながら戦うか?」

    「それが今一番の最善策だな。」

    「オーライ、それじゃあ行きますか。化物退治に。」

    「こいつを倒せば街から御礼金が降りる。
     ――飯がグレードアップする事を楽しみに化物と踊り狂う……か。」


    振り下ろされたアースイーターの豪腕を飛び退く事で避け、クレイルは素早く銃を収め、代わりに
    大剣を引き抜きながら肉薄し、そのまま一閃、異常な防御力のためか、深手は与えれなかった物
    のダメージを負わせる事に成功し、更に剣を逆袈裟の形で振り抜いて再び切り裂く。
    勇は勇で振り下ろされたアースイーターの腕の上を走り抜け、そのまま頭上付近に到達すると脳
    天目掛けて光の纏った脚の『踵』、つまる所『踵落とし』を叩き込んで―この化物を怯ませた。
    化物が怯んだのを良い事に勇はニヤリ、と不敵かつ素敵な笑顔を浮かべ化物の頭を踏みまくる。
    ……コイツは怖い物が無いのか、とクレイルは心の中で突っ込みながら剣を振るい続けた。


    「うっるぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


    どぎゃっ!!と一際強くアースイーターの頭を踏みつけ、そして蹴飛ばした後で飛びのく勇。


    「おおおおおおぁあぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」


    大剣の柄を両手で握りこみ、渾身の力を込めて振り下ろし、胸部を切り裂くクレイル。

    普通の魔物であればこれだけの、しかも一人は生粋の戦士、一人は素敵パワーの加護を受け
    た者であり、その二者による猛攻を受ければ絶命しかねないのだが、このアースイーターは
    耐え切っていた。
    大地、と言う名前を冠しているだけあって防御力は凄まじく、多少の攻撃ではビクともしない。
    ……ダメージは与えている様だが、敵の命に関わる様な致命傷を与えれないのが現状である。


    「ちぃ……このままじゃジリ貧だな……」

    「どうしたモンかねぇ……剣も拳もダメ。魔法は使えないから無――」


    直後、アースイーターに向かって光の剣と氷の矢、明らかな魔法攻撃が降り注ぎ、ここで初めて
    アースイーターの『ダメージによる咆哮』が木霊し、魔法を放った人物が二人の下に駆けつける。


    「!!、ファリルッ!!エルリスも……何を考えているッ!!」

    「援護、必要なんでしょう?」

    「だからと言って――何で出てきたんだ!?」

    「だ、だって兄さん達が苦戦してたから――私達に出来る事は無いかって……」

    「ふむ――ならば、先ほどの通り、魔法援護を頼みたい。
     ……って、何で俺は既にこっちの世界に馴染んでるの!?訳解んねぇ!?」

    「訳解らんのはお前だ!!勝手に話を進めて勝手に混乱するな!!」


    最早、場の雰囲気は滅茶苦茶であり、戦場である事を忘れている節すら見受けられる。
    二人を説得しようにも強烈な横槍のお陰で流されてしまい、しかもクレイルが律儀にも突っ込む
    モンだから更に加速的に雰囲気は流されてしまい、今の何とも言えない状況に至っている。


    「まぁ、纏めるなら――二人の申し出は受けるべきだぞ?」

    「勝手に話を纏めるな!?話を進めるな!!完結させるな!!」

    「……す、凄い。クレイルさんがやり込められるの初めて見た……。」

    「兄さんが口喧嘩で負けてる……。」

    「お前らはお前らで早くファルミアさんの店に行け!!」

    「そう怒るな。カルシウムが足りてないぞ?」

    「誰の性でそうなってるか理解して――どぉあっ!?」


    ズドォォォンッ!!と今まで無視された怒りか、魔法攻撃によるダメージの怒りかは不明。
    しかし、アースイーターは完全に怒りを顕にして拳と腕を振り回して四人に襲い掛かって来た。
    咄嗟に勇はエルリスを抱えて飛びのき、同時にクレイルはファリルを抱えて飛びのく。
    ……どうやら、二人もアースイーターの標的に認定されてしまったらしく、追加二名にも殺意
    の篭った眼が向けられていた。


    「……だぁッ!!もう良いッ!!俺と勇が前衛で引き付けるから、二人は魔法援護!!
     これが譲歩だからな!!」

    「素直に魔法援護してくれと頼めば早いのに。」

    「お前、絶対後で殴る!!マジで殴るからな!!」

    「はっはっは。逃げも隠れもするし嘘もつく男だ。逃げ足は速いぞ?」

    「最悪だお前!!」


    ギャーギャー騒ぎながらアースイーターに向かって行く二人――。


    「……あんなに生き生きしてる兄さん、初めて見ました。」

    「そうだね。何だか、勇さんと一緒に居ると『水を得た魚』って言うのかな?
     そんな雰囲気を感じない?」


    エルリスに微笑まれながらそう聞かれ、ファリルは微笑みながら『はい』と答えた。
    ……そして、ファリルは確信する。如何に敵が強かろうとも、今の自分達に『敵は無い』と
    言う事を、そして絶対に勝てると言う事を――。


    「エルリス、ファリル!!援護を頼む!!」

    「ほら、何だかんだで結局は援護を頼んでるじゃないか。」

    「お前は黙ってろ!!」

    「あーあ、怒られちった。嗚呼、俺の硝子細工の様に繊細な心は深く傷ついたよ。」

    「良いから黙れ!?」


    二人は顔を見合わせて微笑んだ後、凸凹コンビを援護する為に魔法の詠唱に入った――。








     
    <後半のグダグダっぷりに泣きつつ後書き>
     ……はい、今回のお話ですが、サブタイトルをつけるなら『空原 勇、大暴走』です。
    前半はマダマダ真面目なキャラだったのですが、後半になればなるほどネタキャラとして
    の頭角を現しだし、仕舞いには主人公すら手玉に取る破天荒っぷりを発揮しています。
    ……ええ、彼はこれからクレイルと共に凸凹コンビとして共に戦って貰おうと思ってます。
    そして、クールなイメージがぶっ壊れたクレイル、主人公の癖に動かしにくいキャラです
    が勇が絡むと彼に負けず劣らずのネタキャラと化してしまいます。

    次回は――4人……いえ『5人』での初めてのボス戦を描きたいと思います。
    まぁ、恐らく五人目が誰であるか、予想が付いていると思われますが…それでは、失礼します。
引用返信/返信
■536 / ResNo.4)  作者自身が暴走した三話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/24(Fri) 16:22:56)
    ハンターのお仕事
    第三話「必然の偶然・3 〜漆黒の翼〜」



    「サンダーソード!」

    「アイシクルボルト!」


    ファリルが掲げた白銀の杖『クラウストルム』の周囲に無数の光の剣が生み出される。
    同様にエルリスの手に浮かぶ魔方陣からは氷の矢が生成され、放たれるのを待っていた。
    ファリルが白銀の杖を振るい、エルリスが手を押し出した瞬間、力を持った言葉で作られ
    たそれ等は前方で暴れているアースイーターへと迫り、光の剣と氷の矢は突き刺さる。
    光の剣は突き刺さった瞬間に紫電を放ちながら爆裂、氷の矢は燐光を放って砕け散った。
    防御力が高いアースイーターはクレイルが述べたとおり、魔法攻撃に弱い。
    そしてそんな者が魔法で攻撃されると――たまったモンでは無い。
    アースイーターは咆哮をあげ、魔法を放った二人を抹殺せんと脚を踏み出した瞬間――。


    「まぁ、そう慌てなさんなって、お客さん。」

    「茶も菓子も無いが――打撃と斬撃をくれてやる。」


    瞬時に勇とクレイルが迫り、二人で容赦の無い斬撃と拳による一撃をぶち込んだ。
    魔法攻撃に加えて破壊力満天の拳に剣の打撃を喰らったアースイーターはよろめいた。
    勝機見出したり、と感じた二人――クレイルは一呼吸して剣を構え、勇は右腕を引く。
    アースイーターは体勢を立て直すと同時に二人に向かって右腕を凪いだ。


    「……トドメ決めて、ファリル嬢に格好良い所、見せてやれよ?」

    「!、お前!」


    勇はそのままアースイーターの振るわれた右腕に全力の拳を撃ち、吹き飛ばす。
    だが、アースイーターの強烈な腕力を迎撃した勇もまた、衝撃によって倒れてしまう。
    ――クレイルは勇に目線を送り、勇は上を向いた親指を突き出し『行け』と合図する。
    大剣の柄を両手で握りこみ、裂帛の気合全開の咆哮を上げ、クレイルは走った。
    対するアースイーターは自分を抹殺せんと向かってくる敵を倒すために左腕を薙ぐ。
    薙ぎ払う様、叩き付ける様に振るわれた左腕を体を捻る事で回避し、そして回転する
    様に両手で持っている大剣を振るい、アースイーターを――『両断した』
    胴体を横一文字に切り裂かれ、二分割された敵は断末魔の悲鳴を上げ、鮮血を――
    『一滴も出さず、その姿形も、影も消えた』のだった。


    「なっ!?」

    「……ジーザス。化け物が綺麗さっぱり消えちまったよ。」


    よっこらせ、と言った感じで立ち上がり、スーツについた埃をハタき落としながら勇
    は呟き、クレイルは大剣を手にしたまま『信じられない』と言う表情で硬直する。
    ――魔物・アースイーターを倒したのは良い、だがその死に方が余りにも『不自然』
    しかも街中にこんな中級レベルの魔物が突然現れる事自体が既に不自然であり、本来
    ならば門番達が食い止めたり、町中に避難勧告なりを出したりする筈なのに……。
    このアースイーター、そして先程の魔物の集団は突如として町に現れた。
    クレイルは頭を振るい、気分を落ち着かせた所でそれらの事を考えた結果、一つの答
    えに辿り着き、再び剣を構え、何時でも戦闘に移れるようにした。


    「どーしたよ?敵は―――」

    「召喚師(サモナー)だ。」

    「は?」

    「近くに召喚師が潜んでいる。……アースイーターを呼び寄せた敵だ。」

    「………」


    クレイルの一言を聞いた勇も拳を握り、背広のボタンを外し、ネクタイも緩める。
    こんな馬鹿な事を仕出かした奴が他に居るならば引きずり出してボコる。殴る。
    そう言う意思を込めた表情で敵を発見次第、素敵パワーで夜空に星に変えるべく
    構えを取っていた。


    「に、兄さん……さっきの敵は……兄さんが消し去ったの……?」

    「違う。残念だが魔物を綺麗さっぱり消し去れる力は持っていない。
     …アースイーターは倒したが、この付近にアースイーターを呼び出した敵。
     高等レベルの召喚師が潜んでいる筈だ。」

    「え……それじゃ!」

    「ああ、まだ戦いは終わってな―――エルリス!頭を下げろ!!」

    「へ―――きゃああッッ!?」


    エルリスに叫び、おっかなびっくり頭を押さえてしゃがみ込んだ瞬間にクレイルは
    素早く引き抜いたオブシダンを発砲し、視線の先にある建物の影に銃弾を撃ち込む。
    兄の様子を見て固まるファリル、涙目になりながら銃撃が終わるのを待つエルリス。
    オブシダンのマガジンカートリッジに収められた計12発の弾丸を撃ちつくす。
    そして、12発目の空薬莢が地面に落ちた時、『敵』の姿が現れた。

    白い外套に身を包み、両手の指全てに指輪をはめた貴族風の男。

    だが、放つ雰囲気は『人』では無く、限りなく魔に近い。

    その様な得体の知れない魔術師風の男が建物の影から現れ、クレイル達に拍手を。
    『良く気がついた』と言わんばかりに拍手を送り、それを見た全員は身構える。
    クレイルは剣を、勇は拳を、ファリルは杖を、エルリスは魔方陣を展開した。
    ……目の前の男が何かした瞬間に即座に攻撃に移れる様に、と。


    「いや、素晴らしい。気配を絶つ魔法を使用したのに気づくとは。」

    「……何者だ?何故、この街に魔物を放った?」

    「申し訳無いが仕事の守秘義務に引っかかるので答える事は出来ない。
     ……ただ、そうだな。気配を消した私に気づいた褒美に一つだけ。
     一つだけキーワードを喋ろう。メモするなり何なりすると良い。」


    そう言って男は一言呟いた。


    「『天使』―――かつて、魔科学の粋を集めて作られた人造兵器がここに居る。
     そんな事を言われたので調査の為、炙り出しの意味を込めて魔物を放った。
     ……おや、いかんいかん。どうも私は喋り出すと余計な事まで喋ってしまうな。」

    「天使――だと?」

    「そう、白き翼を携え、暴力的な魔力を以って如何なる物を排除する破壊の権化。
     古より伝えられる最強の人造兵器、コードネーム『セラフィム』」

    「馬鹿馬鹿しい……そんな夢物語が実在してたまるか。」

    「――――ところが、存在しているんだよ。君の『目の前に』」


    クレイルはその一言を聞いて目を見開くと―ニコニコした白装束の召喚師が居る。
    ……確かに、アースイーターや魔物達を突然、前触れも無く街中に召喚出来る程の
    魔力を持っているのも、目の前の男が言う『天使』であるならば理解できる。
    だが、目の前の男は伝承で伝えられる天使の様に白い翼は持っていない。
    なにより―――


    「アホかぁぁぁ!!!お前が天使等認めん!!天使って言うのは可愛い女の子
     じゃないと名乗る事を許されん!!野郎の天使等要らん!邪魔!不要!!
     天使を名乗って良いのはこう言う子の事を言うんだ!!覚えとけ!!」


    ……見事に話の腰、そして張り詰めた空気を勇が台無しに、そしてぶっ壊した。


    「……いきなり話の腰を折って、私の存在を否定しないで欲しいが?」

    「うっさいわ!お前は何も解ってない!天使ってのはここに居るエルリス嬢。
     そしてファリル嬢が名乗って初めて納得されるし、この二人こそ白い翼は
     良く似合う!!アンタは美形だが、野郎って時点で論外だ!」

    「……ファリル、エルリス、頼むからあの馬鹿を止めてくれ。」

    「ご、ごめんなさい。多分、無理……。」

    「うん……兄さん、私も止めれそうに無―――」


    論点がずれまくった低次元、低レベルの会話(?)を行っている最中、ファリルは
    自らを『天使』と名乗った男を見た瞬間、体は至って正常の筈――なのに、急に
    体が『ドクンッ』と脈打った様に全身が反応し、そして息苦しくなるのを感じた。
    全身から湧き出る冷や汗、急に力が抜けかけている脚、倒れかける体を杖で支えて
    必死にその場に立っているファリル、そんなファリルを見たエルリスは慌てて彼女
    の下へと向かい、体を支えた。


    「……おやおや、無駄足かと思ったら収穫があったか。
     中々どうして運が良い。」

    「――であるからしてお前は認めって、人の話を聞いて――うおぉぁおあッッ!?」


    冷や汗を流しているファリルを見た男は目の前で訳の解らん事をホザいている勇を
    魔法か何かでふっ飛ばした後、彼には眼もくれずにエルリスに体を支えてもらって
    いるファリルの所に向かおうと一歩、脚を踏み出した瞬間に――銀光が閃いた。
    男は咄嗟に身を引き、両手に防御用魔方陣を展開し、迫り来る斬撃―――。
    クレイルの攻撃を捌き、避け、受け止め、何とか無効化にしているが、その表情に
    余裕は無く、徐々に苛立っているかのような表情に変化していった。


    「……お前、ファリルに何をした?」


    クレイルは一言だけ男に聞こえる声で問い、そして大剣を高速で振るう。


    「別に。……私に反応したのは彼女の方で、私には非は無いが?」


    魔方陣で巧みに斬撃を受け止め、受け流しながら立ち回る男。

    クレイルの真っ向からの唐竹割り、一刀両断の一撃を耐え切った後、体勢を立て直す
    べく後方に下がり、今までのお返しに、と言わんばかりに両手に魔力を集中し始めた。
    魔法に疎い者でも『洒落にならない威力』の魔法が組み立てられているのだろう、彼の
    両手の中には膨大な、そして暴力的な魔力が収束され、紫電を撒き散らしている。


    「っ!……エルリス、ファリルを連れて離れられるか?」

    「え……で、でも!勇さんとクレイルさんを置いては―――」

    「良い!早く行け!!こいつは――ヤバイ!!勝てるかどうか解らん!!」


    大威力の魔法を撃たせまい、と男に向かって急速接近、そのまま大剣を振り下ろす。
    クレイルの強烈な一撃は並みのモンスターであれば一撃で両断する威力を秘める。
    しかし、その一撃は男の前に展開された――防御障壁によって阻まれ、攻撃は通ら
    ない。
    徐々に魔法が組み上げられ、濃密な魔力の塊となっていく中、クレイルは焦燥感を
    感じつつ、咆哮を上げながら男の身を守る防御障壁を破壊しようとしていた。
    そして――クレイルがもう一度、防御障壁に大剣を叩きつけようとした瞬間!


    「―――おんどりゃあああああああああああああ!!!!!」


    大爆音を撒き散らしながら吹っ飛んでいた勇が戦線復帰し、障壁に拳を叩き込んだ。
    すると――勇の鉄拳を受けた障壁にヒビが入り、入ったヒビは葉脈の如く広がる。
    ヒビの入った障壁を見たクレイルはすかさず大剣を叩きつけ、障壁をブチ壊した。


    「ッ!!ば、馬鹿な!!」


    驚愕する男の下に向かう二つの影、絶対的な殺意が込められた大剣を振るわんとする
    クレイルが、『ぶちのめす!』と言わんばかりに青筋をこめかみに貼り付けている勇
    が鉄拳を構え、そして二人同時にそれぞれの必殺の一撃を叩き込んだ。
    勇の一撃が収束された魔力ごと男を貫き、クレイルが放った斬撃は手痛いダメージを
    負わせ、空に男の血液が飛び散る。


    「ぐぅぅぅぅッッ!!!貴様等、調子に――」

    「乗ってんのは!」

    「お前の方だ!!」


    直後、勇とクレイルの二人による乱撃の暴風雨が降り注いだ。
    クレイルの大剣が上下左右斜めから襲い掛かり、真正面からは勇の拳が撃ちこまれる。
    二人の容赦ない攻撃が浴びせられている男は次々に手傷を負わされ、防御をする事すら
    許されない状況であり、その体からは徐々に鮮血が流れ出てきていた。


    「……駄目」

    「……ファリルちゃん!」

    「兄さん……勇さん……殺されてしまう……。」

    「え……ど、どう言う事?
     遠目でも解るけど……二人の方が有利じゃない?」


    遠くから二人を見守っていたエルリスはファリルの言っている事が理解できなかった。
    確かに敵も一流の力を持っているのだろう、しかし今攻め手に回っているのは二人。
    敵に傷を負わせているにも関わらず、ファリルは二人が『殺される』と言った。
    ……何故なのだろう、と思うよりも早くファリルがエルリスの手から離れ、よろめき
    ながら二人の下へと歩いて行こうとするのを見て、止めようと思ったが――


    (……えっ!?)


    一瞬、ファリルの背中に三対、計六枚の『漆黒の翼』が眼に見えた。
    もう一度眼をこすり、眼を凝らしてファリルの背中を見てみるが――翼は見えない。
    そして、エルリスは――ただ、呆然と杖に体を預けて歩くファリルを見ていた……。




    「……クレイル、あいつ……何で倒れねぇんだよ……ええい、畜生が……」

    「無駄口叩く暇があるなら……攻撃の手を緩めるな……魔法、使われるぞ…!」


    直後、二人を衝撃と熱風、爆風が襲い、吹き飛ばされた。
    クレイルは受身を取り、素早く立ち上がって大剣を構えなおす。
    勇は受身を取れずに地面へと叩きつけられたが、直ぐに起き上がった。
    ……だが、二人の状態は結構、というよりもかなり酷い状態である。
    ダメージ自体は大した事は無さそうだが、連戦、そして激しい動きを続けた事に
    よる疲労の蓄積が凄まじく、既に二人は肩で息をしている状況だった。
    対する男の方はと言うと――そんな彼らを嘲笑うかのように、傷ついた自分に
    回復魔法を瞬時に唱え、今まで負った傷を『全て』癒し、万全の状態へと戻る。


    「……ま、マジかよ……やっこさん、回復しやがったぞ……!」

    「ち……どうする?」

    「逃がしてくれそうにも無さそうだからな……命乞いしてみ―――」


    二人で相談していた所、勇が再び吹き飛ばされ、更に追撃として放ったのだろう。
    禍々しい黒く輝く魔力の刃が幾重にも倒れている勇に向けて放たれた。
    咄嗟にクレイルは銃撃で魔力の刃を撃ち落そうとするが、それよりも早く男がかざ
    した掌から魔力の塊が発射され、反応する事も出来ずに直撃してしまい、勇と同じ
    く吹っ飛び、地面に突っ伏してしまった。


    「遊びはここまでにしておこう。私も殴られ、斬られて怒っているのでね。
     ……しかし、生身の人間でここまで戦った事に敬意を評し、苦しまずに逝く
     事を許そう。」


    最早立ち上がる気力すらない二人に向けて魔法を放ち、その存在を抹消せんとする
    男は二人を一瞬で屠れるだけの威力を持った魔力を収束し、全身血まみれの二人に
    向かってその手に携えた完全な破壊、圧倒的な暴力を開放しようとしていた。
    ――そして男がクレイルと勇を始末しようとしている所をファリルは発見する。
    声にならない叫びを上げ、杖を放り、必死で走るファリル。
    そのファリルの叫びに耳を傾ける事も無く、眼をくれる事も無く、男は暴力を解放
    し、閃光が二人に迫った。



    ―――自分では二人を助ける事は出来ないのか?

    ―――自分は無力なのか?

    ―――助けたい

    ―――優しくて知り合って間もない人間の為に自分を省みずに助けに行った勇を

    ―――冷たい場所で一人ぼっちだった私を助けてくれた大好きな兄さんを



    『想い』が体中を支配した瞬間、光が周囲に溢れた―――



    「……?……なっ!!?」


    自分と勇を消し去れるだけの破壊の暴力が押し寄せてこない事にクレイルは疑問を
    感じ、眼を開くと――其処には三対の漆黒の翼を携えた……ファリルの姿があった。
    片手で圧倒的な魔力を易々と受け止めれるだけの防御魔法陣を展開し、もう片手に
    癒しの魔力を収束していた。
    ……何が起こっているんだ、と頭の中で思うが思考が付いていかない。
    それだけ、目の前で起こっている事が常識の範疇外であり、しかも何故妹が――。
    ファリルがあの様な翼を背に、そして強烈な攻撃魔法を受け止め切れているのか。


    「……く、くくく……『セラフィム』じゃなく、『ルシファー』だったとは!!
     ひゃははははッ!!!傑作だ!!!最強の人造兵器がこんな小娘だったなんて!!」

    「――――」

    「こうなれば、力ずくでもお前を連れて帰る!!そうすれば私も『あの方』に
     認められ、爵位を与えられるかもしれない!!」

    「――――」


    男は嬉々として、狂気に塗れた笑顔を浮かべながらファリル――『ルシファー』と
    呼んだ存在に次々と様々な攻撃魔法を放ち、投げかけ、死なない程度に痛めつけよ
    うとしていたのだが、その全てはルシファーが展開した魔方陣に阻まれる。


    「―――クラウストルム、モード・EXcaliburで起動。
     我が手元に帰還せよ……!」


    ファリルは左手に収束した癒しの魔力を広域に放射し、気絶している勇とクレイル
    を癒した後、その手に――ファリルが放った白銀の杖『クラウストルム』が飛来し
    て来て、左手に収まると……事もあろうに杖は変形を始めたのだ。
    淡く輝く蒼銀の輝きと共に槍の様な先端が展開し、展開した場所から短いブレード
    状の物が出てきたかと思えば、直後に蒼銀色の透明な刀身が生成された!


    「なっ!?何だよ……何だよソレはぁぁぁぁぁッッッ!!!」

    「―――我が唯一にして絶対の兵装……吾ら天使と同じく、魔科学の粋を集めて
     産み落とされたこの世ならざる武器『魔道兵器』の最終ナンバー。
     それが我が手にある『聖魔の十字架(クラウストルム)』だ。」


    優雅にふわり、と漆黒の翼をなびかせ、両手で蒼銀の刀身を展開しているクラウス
    トルムを構えたルシファーは先程とは一転して恐怖の形相を浮かべながら魔法を闇
    雲に乱射している男の元へと飛翔し、クレイルを軽く超える速度で大剣を振るう。
    蒼銀色の剣閃が閃き、漆黒の翼が舞い、黒き羽が散る中でルシファーは男を斬り続
    ける。……まるで、大切な人を傷つけられたのを激昂している様に。


    「―――大切な者達を傷つけた事、後悔しろ!」


    斬ッ!!と男を上空に向かって切り上げた後、ルシファーは叫ぶ!


    「魔道砲回路接続、ガイドレール展開、エネルギー収束バレルオープン。
     マナ充填率120%、各機関異常無し、周囲への影響――無し!」


    大剣の様な形状を取っていたクラウストルムは大砲へと姿を代え、その砲口に
    魔力が、男が放った圧倒的暴力を『軽く凌駕する程の』魔力が集中し始めた。
    周囲に風が巻き起こり、砲口から凄まじいスパークが荒れ狂い、周囲のブロック
    を破壊して行く。


    「―――バニシングレイ、発射!!!」


    直後、大爆音と共に大地が激しく振動した。
    クラウストルムから放たれた閃光は男を苦も無く消し飛ばし、強烈な破壊の閃光は
    そのまま大気へと霧散し、何事も無かったかのように――消えうせた。
    敵が消えた事を認識したルシファーはクラウストルムを通常の杖の形態に戻した。
    そしてそのまま地面に突っ伏しているクレイルの元へと向かうと……。


    「……ファリル……なのか?」

    「――ファリル、と言うのか。この体の持ち主の名前は。」

    「!」

    「警戒しなくても良い。……この子の大切な人達を傷つけよう何て思わない。」


    ルシファーは優しく微笑み、クレイルを抱き起こし、ついでに大剣も彼に手渡した。


    「……ファリルは?」

    「今は意識共々眠っている。だから――我が出てきた。
     ……純粋で心地よい想いだったな、この体――いや、ファリルの想いは。」

    「?」


    訝しげな表情を浮かべるクレイルに向かって子悪魔っぽい、可愛らしい笑顔を浮かべ
    るとそのまま思いっきり抱きつき、思いっきりうろたえるクレイルの顔を引っつかみ
    引き寄せると……。


    「んぐぅっ!?」


    そのまま――12歳(?)な女の子にキスされました。まる。


    「……ぷぁ……って、な、なななな………!!!?」

    「……これから先、この子に色々な災厄が訪れるだろう。
     だから――この子を守ってやって欲しい。」

    「そ、それはどう言う事だよ……。」

    「……我の口からは言えない。悟れ、にぶちん。」


    ぼかちん、とクレイルの頭を殴った後、再び抱きつくルシファー。
    そのまま頭を胸に押し付け、眼を閉じると――背中の黒い翼が透け始めてきた。
    クレイルは透け始めた翼を見て、ルシファーに何か起きたのではないか、と思って
    眼を向けると―――。


    「疲れたから眠るぞ。……では、またな。幸せ者。」

    「こ、こら!勝手に寝るな!!おい、ファリルはどうなるんだよ!?」

    「……すぅ……すぅ……。」

    「だぁッ!!くそ……今日は散々な日だな、畜生が。」


    兄の胸の中で心地よさそうに寝息を立てているファリルを見たクレイルは苦笑し
    ながら、彼女の金色の髪を梳くようにして撫でてやりながら――抱きしめた。













    <何だこのグダグダっぷりは!?等と思いつつ後書き>
     ファリル天使化は前々から使おうと思ってましたが、出す時を思いっきり
    間違えた様な気がしますし、何か文章に纏まりが無い様な気もします。
    さて、今回新たに増えた――と言うか、目覚めた『ルシファー』様について
    は後々に語って行こうと思っています。ここで言うとネタばれですので。
    尚、彼女の性格は――ファリルが控えめとするならば、ルシファー様はイケ
    イケな感じであり、押しが強く、でも甲斐甲斐しく尽くすタイプです。(マテ

    さて、次回ですが……事後処理と、出せなかった五人目に出て貰います。
    それでは、次回の後書きで―――




    <おまけ>

    「―――大切な者達を傷つけた事、後悔しろ!」


    斬ッ!!と男を上空に向かって切り上げた後、ルシファーは叫ぶ!


    「ディス・レヴ、オーバードライブ!!」


    大剣の様な形状を取っていたクラウストルムは大砲へと姿を代え、その砲口に
    魔力が、男が放った圧倒的暴力を『軽く凌駕する程の』魔力が集中し始めた。
    周囲に風が巻き起こり、砲口から凄まじいスパークが荒れ狂い、周囲のブロック
    を破壊して行く。


    「―――回れ、インフィニティ・シリンダー!!」


    砲口にチャージされたエネルギーの周囲に魔方陣が展開され、そして――。
    ルシファーに重なる様に青い長髪の男、不敵な笑みを浮かべた男の姿が重なる。


    「テトラクテュス・グラマトン―――!」


    魔方陣が一際強く輝き、砲口のエネルギーが解放の時を今か、今かと待っていた。
    男の魂と融合し、長い金髪は蒼に変わり、その瞳に虚空を宿したルシファーは
    トリガーを引いた!!


    「アイン・ソフ・オウル!デッド・エンド・シュート!!!!」



    ……すみません、こんな頭の悪いネタが浮かんだので(何
引用返信/返信
■543 / ResNo.5)  第四話です。
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/27(Mon) 17:34:27)
    両親は科学者だったが研究だけでなく、私の事も愛してくれた。
    家に帰らない事は少なくなかったが、帰って来た時は優しく、そして
    甘えさせてくれた――優しく、暖かかった私の大切な両親。
    平和で優しくて暖かい毎日が続くと、変わらないと思っていた。
    ……なのに、そんな私の日常は壊されてしまった。
    ある日、家に全身鎧と武器で武装した兵士達が押し寄せ、両親達に
    何かの研究――魔科学だとか、兵器が等と言った事で協力しろ。
    二階に居た私にも聞こえる位の声が聞こえ、そして静寂が支配する。
    だが、次の瞬間に怒号が轟き、男性と女性の悲鳴―――。

    父さんと、母さんの――悲鳴。

    聞きたくなかった、父さんと母さんの悲鳴が聞こえて来た。
    ……怖かった。助けに行きたかった、けど……動けなかった。
    魔法が少々出来る程度の私が出て行った所で何も出来ない。
    だから私はクローゼットの中に、両親が誕生日にくれた杖。
    『クラウストルム』と呼ばれた杖を抱えて、ひたすらジッと
    していた。……悪夢が早く去ってくれる事を祈りながら。

    だが、悪夢は終わらない。

    全身鎧の集団はこの家、様々な思い出が詰まったこの家に火を放つ。
    放たれた火は紅蓮の炎となり、瞬く間に燃え広がり、火の海になる。
    私は紅蓮の火から身を守るため、自分自身に防御魔法を掛けてジッと
    ただひたすらジッとこのクローゼット、母がもしもの時に備えて緊急
    の避難場所に使える様に、と結界魔法を張ってくれたこの中で耐える。

    それから数時間経った後、火の手が収まった頃を見計らって私は外に出る。
    ……そして、私の心は真っ黒い絶望で塗りつぶされ、何も考えられなくなる。
    私が住んでいた家、時に母や父に怒られながらも平和な時を刻んでいた場所。
    様々な思い出が詰まったこの場所は――焼け野原になっていた。
    私は真っ黒になった家に腰を下ろし、そのまま泣いた。
    月の光も無い淀んだ漆黒の空、まさに私の気分その物を表しているだろう。
    とにかく私は狂った様に泣きじゃくり、父さんと母さんを呼び続けた。
    ……父さんと母さんが帰ってくるなら何も要らない。お金も、綺麗な服も。
    だから、だから神様――父さんと母さんを返して、と泣き叫ぶ。

    でも、神様は私の願いを聞き入れてはくれませんでした。

    更に追い討ちを掛けるように夜空は雨を、冷たい雨を嘲笑う様に降らせます。
    すすで汚れた服に雨水が染み込み、私の体温を奪っていくが――構わない。
    このまま死んで、父さんと母さんが居る場所に連れて行かれるなら……。
    そんな思考に支配されかけた時、雨にぬれた私に何か、暖かいロングコートが
    被せられ、疑問に思った私はコートの中から顔を出し、誰が自分にコートを被
    せてくれたのだろうかと見てみると……。


    「心配しなくても良い。俺は敵じゃないし、危害を加えるつもりは無い。
     ……この街に偶然立ち寄っただけのハンターだよ、俺は。」


    口調自体はぶっきらぼうで、少し高圧的な感じはしないまでも無いけど……。
    純粋に私を気遣う暖かさを持ち、その表情も私を落ち着かせようと優しい表情
    で――自分が濡れる事も構わずに、私にコートを被せてくれた男の人が居まし
    た。


    「……何があったのかは察しが付く。
     今は泣いても良い、心が悲しみで押し潰されない様に――泣くと良い。」

    「あ……あああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!」


    神様は私の願いを聞き入れてくれませんでしたけど、代わりに一つだけ掛け替
    えの無い物、お金も、服も、何もかもを失った私を優しく受け入れてくれた人。
    ぶっきらぼうだけど優しくて、そして強くて、私に手を差し伸べてくれた男性。
    純粋に私の事を心配してくれて、一緒に来るかと言ってくれた……兄。
    『クレイル=ウィンチェスター』と名乗った男性と出会わせてくれました。





    ハンターのお仕事
    第四話「必然の偶然・4 〜青い空の下で〜」




    「……嫌な……夢……だったな……。」


    ファリルは気が付き、そして寝かされているベッドの横にあるサイドボード。
    いつも自分が寝る前に読んでいた本等を置く為に購入し、設置してあるソレの
    上に置かれた書置き、少しクセのある――クレイルの文字の書置きを発見して
    手に取り、見てみる。

    『街の修理に駆り出される。恐らく広場に居ると思われる。』

    等と偉い短絡的に事実だけ記載された書置きを見たファリルは苦笑し、起き上
    がると、兄が着替えさせてくれたのだろう寝巻きを……兄が着替えさせて?
    そう考えると体中が熱くなるのを感じるし、恐らく顔も真っ赤だろう事が自分
    でも理解できる。……止めよう、深く考えるのは。
    ファリルは頭を振り、考えるのを止めて――ふと、服の中の自分の胸を見る。


    「………はぁぁぁ………。」


    深くため息を付いた後、ベッド脇に立てかけられていたクラウストルムを手に
    ファリルは兄が居るだろう場所へと向かう。……天気は快晴、真っ青な青空が
    広がっていた。



    ――――広場

    先日の魔物襲撃事件にて街の被害の方は――大して被害は出てなかった物の
    やはり見過ごせない損傷などもあるので、町中の人間が木材・石材を持ち出
    しては加工し、誰の店、公共の物、何でも構わずに手当たり次第に修復作業
    を行って、元の姿に戻そうと頑張っていた。
    ……そして、その中に例の二人、凸凹コンビの姿も当然の如く見られる。
    勇はバカ力を駆使して材木や重たい石材をあちこちに運び、クレイルは大剣
    で木材を寸法通りに切り出し、大小様々な材木を切り出している。


    「……勇、こっちの材木を武器屋の前に持ってってくれ。」

    「あいさー。キリキリ働きますさね。」


    クレイルが切り出した材木を丈夫な麻袋に放り込み、長い材木は抱え上げる。
    結構な重さがあるはずなのだが、当の本人は別に気にする訳も無く、平気で
    抱え上げ、そのまま鼻歌交じりに歩き、目的地へと進んでいく。
    ……先日のダメージが全く残っていないのだろうか、等と思ってみるクレイ
    ルだが、恐らく彼にダメージは残っていないだろう事を悟り、ため息をつき
    ながら自分は大剣を振り下ろし、材木を両断し続ける。


    「おう、クレイル。こっちは運び終わったぞ。」

    「む、そうか。……少し待て、こっちももう直ぐ斬り終わる。」

    「早くしてくれ。……時間があると見なされたら、エルリス嬢に連れ戻される。」

    「……な、何かあったのか?」


    初めて見る勇の苦虫を潰したような、そして滝の様な幅広の涙を流している。
    そんな『異様な』表情を見たクレイルは汗を流しつつ、一応何があったのかを
    聞いてみる事にした。……どうせロクな事ではないだろう、とは口に出さない。
    クレイルがそう言った瞬間、勇は眼を『キュピーン』と光らせ、愚痴る相手が
    出来たと内心で喜び、クレイルが口を開こうとした瞬間に溜まった鬱憤を開放。
    全台出玉大解放!と言わんばかりにマシンガントークを開始した。


    「エルリス嬢ともう一人、双子の妹のセリス嬢とこの世界の言葉について勉強
     してるんだが、教育がメタクソなスパルタでね、ちと参ってるんだわ。
     有難い、確かに有難いが、出される課題を終わらせないと飯のグレードが落
     ちるとか言う激しすぎる程に厳しいオマケ付きでね。」

    「そ、そうか。頑張って―――」

    「こっちは十二分頑張っとるわ!でもなぁ、缶詰でビシバシ叩きこまれれば
     入るモンも入らん!!覚えとるモンも弾みで抜け落ちる!!それで課題が
     出来なければ飯のグレードはがた落ち!昨日はご飯一杯に漬物だったわ!
     ……解るか?解るか!解るくぁッ!!俺のこの気持ちがぁぁぁぁぁ!!」

    「だぁぁぁぁッッ!!解った!解ったから寄るな!暑苦しい!!」

    「解るか!解るんだったらどうにかしてくれ!!俺の食糧事情を解消してく
     れるよな、頼れる相棒、敬愛すべき心の友よ!!」

    「俺に出来る問題じゃねぇだろ!!お前でどうにかしろ、ってか
     何だよ、相棒だの、心の友だのと……俺が何時、そんな風になった!?」

    「何を言う、この間の戦いで互いに背中を預け、死線を越えた仲じゃないか。
     ……そうかそうか、言葉に出すのが照れるからそうやって照れ隠しを?
     ええい、このツンデレめ。」

    「誰がツンデレだ!?」


    ギャーギャーと何やら漫才の様な『何か』が始まり、街の人達は二人に注目。
    下手な漫才師やコメディアンよりも余程面白い二人の言い争いを見て笑う。
    最早、街の住人にとって彼ら二人の漫才的やり取りは名物と化してしまった。
    今では彼らのやりとりを見て『今日も一日が始まったな』等と言う人物まで
    出てくる始末であり、彼ら二人、凸凹コンビは人知れず愛されているのだ。
    二人がいい感じで漫才(?)を繰り広げていた頃、人ごみを掻き分ける人物
    が一人、エルリスと同じく――水色の淡い髪を持った少女が居た。
    人ごみを掻き分け、二人の所に辿り着き、勇が驚愕の表情と共に逃げ出そう
    とした瞬間、少女が振り上げた伝家の宝刀、ハリセンが振り下ろされた。


    「……んふふ〜、ボクと姉さんの愛の詰まった授業を抜け出すなんてね。
     ボランティア活動だから許してあげたけど、何を漫才してるのかな?」

    「くおぉぉぉ、こ、これはクレイルが――」

    「ちょ、ちょっと待て!?何で俺も入ってんだよ!!」


    ずばしっ!ハリセンが再び振り下ろされ、とても清清しい音が響き渡る。
    ……今、こうして勇をハリセンで叩いている少女は『セリス=ハーネット』
    勇の下宿先であるエルリスの家に住み、そして彼女の双子の妹でもある。


    「言い訳しないっ!……ほら、速く手を動かすか家に帰るか選ぶっ!
     はやくどっちか選ばないと、今日の晩御飯はカップ麺にするからね!!」

    「うおおおおッッッ!!?ま、マジすかぁぁぁぁッッ!?」

    「……つきあってられん。」

    「嗚呼、心の友よ!!俺を見捨てるなっ!?」

    「だから、誰が心の友だッ!?」


    結局、本日の勇の晩御飯のグレードは今まで以上にキリキリ働く事を条件で
    守られ、シャカシャカ動き回り、街中の修復作業に多大に貢献したとか…。
    そうやって勇が晩御飯のグレードを落とさない為に奔走している時、クレイ
    ルは変わらず材木を寸法通りに切り出し、黙々と木材を作り続ける。
    ……修理作業に貢献している事には変わりない、地味なだけで。
    そして手元にある材木を一通り切り終えた後、山積みになった材木に腰掛け
    て持参した水筒の蓋を開け、中の冷たい水を一気に喉に流し込む。


    「……もう、ビックリしたよ。学校から帰って来てみれば、街中大騒ぎ。
     へんな獣は居るわ、すっごい魔力が放たれたのを感じるわで……。」

    「こっちは大変だったぞ。街中の人間は避難してたのは良いが……。
     こう言う時に限ってハンターギルドに登録された傭兵が役立たずだ。
     お陰で俺と勇の二人でアースイーターと、それを呼んだ召喚師と戦う
     羽目になったんだ。」

    「へぇぇぇ……凄いね。」

    「そう言えばセリス、お前は?」

    「ボクは町の人の避難を手伝ってたよ?
     ……あ、ひょっとして何もしてないって思ってるでしょ!?」

    「だ、誰がそんな事言った!?」

    「顔に書いてある!!」


    ずびし、とむくれた――されど可愛らしい表情で指差しながら怒るセリス。
    それにムキになって反論するクレイルだが、反論はおろか意見すら聞いて貰
    えずに脳天にハリセンを振り下ろされ、スパーンと綺麗な音が響き渡る。
    理不尽を感じながらも抵抗はしない、抵抗したら余計にハリセンで殴られる
    事が容易に想像できるから。


    「……あ、兄さんに……セリスさん。」

    「お、ファリルちゃんじゃん。やっほー。」

    「……おはよう。」

    「ど、どうしたの?兄さん、凄く不機嫌そうだけど……。」

    「んふふー、あのね、ファリルちゃんがかまってくれないから―いたぁっ!?
     く、クレイル!?今、ボクに向かって材木投げつけたでしょ!?」

    「黙れアーパー娘が。……妹に変な事を吹き込むな。穢れる。」


    ギャーギャーと喚き散らすセリス。半ばキレ気味の対応を取るクレイル。
    二人を見ながらオロオロしつつ、どこか楽しそうなファリル……。


    「おーおー、何時もの如く楽しくやってんなぁ、兄弟。」

    「誰が兄弟だ!?お前の頭は腐敗してるのか!?」

    「甘いな。腐敗を通り越して発酵して――そして熟成されている。」


    そこに一仕事終えてきた勇が現れ、早速と言わんばかりに場をかき回す。


    「……成る程、だから物覚えも悪いんだね?」

    「違うな。エルリス嬢の教え方は丁寧で解りやすいが――セリス嬢!
     あんたの教え方はスパルタ過ぎてこっちの脳みそが追っつかんとです!」

    「えー。」

    「えー、じゃない!何ですか、課題出来なければ飯のグレードが落ちるって!
     酷すぎる!家庭内暴力、ドメスティックバイオレンス、パワーハラスメント!
     ……なぁ、ファリル嬢!ファリル嬢からも何か言ってやってくれ!!」

    「え……えと……頑張ってくださいね、勇さん。」

    「うおっしゃああああ!!ファリル嬢のはにかんだ可愛い笑顔でやる気倍増!!」

    「ちょ、ちょっと!!ボクの時と対応が全っっっっ然、違うんだけど!!!」


    勇がボケればクレイルが、セリスが突っ込み、そして更に勇がボケ倒す。


    「………はぁぁぁ……面倒な連中だな。全く……。」

    「でも、兄さん……顔は笑ってる。」

    「呆れてるんだよ。」

    「ふふっ……そういう事にしておく。」

    「ぐむ……。」


    ……私は大切な物を幾つも失ったけど――その代わり、掛け替えの無い物も得た。
    皆でドタバタと楽しく騒ぎ、たまに喧嘩もするかもしれないけど、仲直りして
    そして絆を深めて行く。……そんな掛け替えの無い、本当に掛け替えの無い人達。
    私の大切な宝物……。


    「みんなーーーーーー!ご飯出来たから食べよーーーーーーっ!」


    エプロン姿でお玉を片手に皆を呼ぶエルリスの姿を見て、その場に居た全員は腰を
    持ち上げ、食事会場となる……エルリスの家へと向かう。


    「……うん。私は……大丈夫。まだまだ歩ける。」


    そう自分に言い聞かせる様に呟き、前で飽きもせずにギャーギャー騒いでいる皆の
    所へと走っていった……。










    <ファリルがフェイトになって悩みつつ後書き>
     さて、戦闘後の事後処理とインターミッション、そしてファリルの過去。
    何やら詰め込みすぎな感じで、再びいい感じでグダグダっぷりを発揮しています。
    一応、これで私のSSのメインキャラが全員出揃いました。女性過多ですが。
    次回からは――本格的にハンターお仕事に入る勇、そしてクレイルのお話を書こう
    と思っています。それでは、失礼致します。

引用返信/返信
■545 / ResNo.6)  少々暴走している5話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/12/02(Sat) 20:15:47)
    机の上には金属製の――機械仕掛けの魔法の杖が転がっている。
    しかも、杖の先端部分では無くて丸い、何の変哲も無い『柄』
    の部分だけであり、心臓部分となるコアクリスタルの部分はと
    言うと……何故か勇が持っており、広げた説明書を解読しなが
    ら散乱しているパーツを拾っては組み上げて行く。


    「……ねぇ、ボクの杖……まだ出来ないの?」

    「待ちたまへ。俺好みの魔法の杖に仕立ててやるから。」

    「それボクのなんだけどっ!?」


    魔科学の解析が進み、魔力の込められた魔法の杖を量産出来る
    様にと、魔科学を応用して生み出された『ユニットスタッフ』
    と言う――俗な言い方をすれば、プラモデル感覚でホイホイと
    ユニットを継ぎ足して、継ぎ足して行く事で強化改造を行える
    事が可能と言う荒唐無稽、無茶無謀を実現させた杖。
    そしてセリスもこの武器を使っていたのだが、杖の改造が面倒
    と言う理由で『素』のままで使っていたが、この間の一件もあ
    り、杖の改造を行う事に決めて――こう言う事が好きそうな勇
    に話を持ちかけたのは良かったのだが……。


    「何と、そんな素敵な物が――良し、この俺が誠心誠意を
     込めてセリス嬢専用の強力な杖を造ろうではないか!」


    と、この様にのたまい、爛々気分でパーツをどっちゃり買い込
    んで机の上に広げ、鼻歌を歌いながらウキウキ気分で改造して
    いる。
    ……普段、馬鹿ばっかりやってるけど、こうやってニコニコし
    ながら楽しそうに杖を作っている様子を見て、セリスは表情を
    綻ばせ、無意識の内に微笑んでいる。
    そして――偶然にもその様子を見たエルリスが眼を光らせた。
    無論だがセリスはその事に気づいていない。


    「……勇。何、その杖って言うかバズーカ砲みたいなの?」

    「セリス嬢専用杖。その名も『ジャイアントバズ』だ!」

    「既に杖じゃないよ!!」

    「む、ならばHTBキャノンにでもするか?」

    「だから杖じゃないってば!!杖にしてよ!!」

    「む、むぅぅぅ……」


    勇はシュンとなりながら杖をバラし、再びアレコレいじりながら
    パーツを組み立て始め、普通のパーツから珍妙なパーツまで様々
    な物を次から次へと組み込んで行き、今度は杖?っぽい物にはな
    っているが、杖と言うよりはハンマーと言った風貌だろうか。


    「…今度のは前に比べればマトモだけど……ハンマーじゃない。」

    「ご名答。魔法の増幅装置をコテコテくっつけたらそうなった。
     名付けて『魔法のゴルディオンクラッシャー』!」

    「だぁかぁらぁ!!杖にしてってば!!!」

    「うぐ……ま、またダメか……」

    「お願いだからさぁ、真面目に作ってよ……。」

    「ぐむ……す、済まぬ。改造が楽しいモンで……。」


    再びシュンとなりながら――どこか泣きそうなセリスを見て猛省。
    すぅ、と深呼吸した後で眼を見開き、くわ、とセリスを見つめる。
    何事かと身体を強張らせたセリスを見つめた後、勇が机の上に散
    らばるパーツを引っ掴み、高速でパーツを組み立てていく。


    「魔法が使えることは大前提だが詠唱中に敵に懐に潜られた事を
     考えて自衛用もしくは魔力切れや魔法が使えない状況での攻撃
     手段確保の意味を考えるとこの短剣型デバイスを組み込んで手
     段を確保すると共に軟体系モンスターとの戦闘も考慮してパル
     チザンユニットがあったからそれを組み込んで―――」

    「……ゆ、勇?」

    「しかし近接攻撃の手段ばかり考慮するとセリス嬢の魔力を生か
     した魔法攻撃が出来なくなるので本末転倒だが攻撃モジュール
     の数をこれだけに留めれば良いだろうから後は魔法攻撃用に魔
     力増強アンプや魔法を刻み込んだクリスタルの設置を行ってつ
     いでに瞬間的に魔力ブーストを可能にする為にサブクリスタル
     も組み込んで―――」


    眼の色が変わり、ブツブツと呪文の様に言葉を紡ぎながらパーツ
    を拾い上げては『真面目に』コアクリスタル部分に接続、次から
    次へとがちゃこがちゃことくっつけ、機能性と実用性を重視した
    物を造り上げて行く。
    そして勇が手を動かすのを止めた時、彼の手の中には十字架が。
    先端部には幅広で刀身の長い『パルチザン』と言う槍、斬る事に
    も突く事にも優れた能力を持ったソレの形状をしたユニット。
    左右には短剣と呼ぶには短いが、先端部のパルチザンユニットの
    補助として考えれば申し分ない長さの『ダガーユニット』を。
    本体部分にはコアクリスタルの周囲に魔法力増強アンプを意味す
    る緑色のクリスタルが四つはめ込まれ、更にコアクリスタルの下
    部にはめ込まれた紅いクリスタルは略式でも発動できる様にと予
    めに魔法式が刻み込まれた物がはめ込まれ、咄嗟に魔法を放つ事
    も可能となっている。


    「わぁ……綺麗で格好良いね。」

    「少々、遊びすぎた様なのでね。私の本気を出させて頂いた。」

    「……勇、口調が変わってるよ?」

    「おお、こりゃいかん。……どーも俺は真面目モードやシリアス
     になると口調がガラリと変わってしまう癖があってねぇ。
     ……言っとくが、二重人格でも精神分裂症でも無いぞ。」

    「そうなの?……まぁ、良いや。
     ね、ね、勇。この杖の名前、なんて言うの?」


    眼を輝かせているセリスに言い寄られた勇は一瞬考えて……。


    「ディス・アストラナガン。」

    「ヤだよ、そんな名前。」


    あっさり否定されてしまった。


    「―――エターナクロイツ。」

    「……えたーな……くろいつ?」

    「訳すと永遠の十字架。こんな感じでどーよ?」

    「……ん、合格!今日からボクの杖はエターナクロイツ!」


    子供の様に喜びながらユニットスタッフ・エターナクロイツを抱きし
    めているセリスを見た後、ふざけた物を作りすぎた侘びとして勇は余
    っているパーツをかき集め、がちゃこがちゃことくっつけ始める。


    「勇……なに作ってるの?」

    「魔法力増強装置と魔法威力増強アンプが残っているからこれをこうし
     てくっつけて更に其処に追加アタッチメントをくっつける事で本体と
     連結させる事を可能そこに魔法力貯蓄クリスタルを設けて――」

    「……トランスしてる……。」

    「――うむ、完成。」


    ぽい、とあちら側に意識をやっている勇はその手の中にある物。
    エターナクロイツ用の追加パーツ、勇曰く『砲撃補助パーツ』と言う
    物騒極まりないそれを受け取り、セリスは訝しげな表情と共に接続。
    ……十字架型のエターナクロイツにソレが付けられた瞬間、雰囲気は
    一転し、何か――十字架型のランチャーの様になってしまった。


    「……何コレ?」

    「セリス嬢の高すぎる魔法力を生かす為の追加改造パーツ。
     横に伸びてるグリップは左手で保持する為で、パーツ本体は殆どが
     魔力増強、威力増強クリスタルで固められた物で構成。
     大威力の魔法をブッ放せば……並のモンスター位、一撃で消し飛ばせる
     程の威力にまで跳ね上げる事が可能。……脳内カタログスペックだと。」

    「ふーん。……これをくっつければ威力の高い魔法が更に強まるの?」

    「だと思う。テストして無いから何とも言えんがね。」




    ―――草原


    勇の『テストしてないから解らない』発言に触発されたセリスは勇を連れて
    町外れにある草原、何時もファリルとクレイルが鍛錬を行っている場所に来
    て――セリスは勇お手製『魔法力増強素敵アンプ(勇命名)』を取り外して
    『素』の状態にしてヒュン、と軽く振ってみる。


    「使い慣れてるって感じだな。」

    「そりゃそうだよ。ボクだよ?ファリルちゃんに棒術を仕込んだの。」

    「……後でファリル嬢に棒術の参考書でも持っていくか。」

    「ちょっと!?それってどう言う意味だよ!!」


    ムキー、と怒りながら勇は苦笑してセリスが離れ、エターナクロイツを構えた。
    そしてその瞬間に勇はセリスの意図を読み取り、背広のボタンを開け、拳を構え
    て……セリスの攻撃に備える。


    「成る程。限りなく実戦に近い形でエターナクロイツの性能を見極めると?」

    「そうだよ。ただ魔法撃って、はい終わり――って訳には行かないでしょ?」

    「同感。その意見には好感が持てる。」


    ザッ、と勇が一歩踏み出して蹴りを突き出した瞬間にセリスは刃のついた先端で
    勇の蹴りを払おうとして――青ざめた表情の勇が咄嗟に脚を引っ込め、冷や汗を
    流しながらセリスに反論しようと口を開きかけた瞬間、セリスは笑顔で魔法を。
    光の矢を無数に撃ち出して攻撃を仕掛ける。


    「ぬおおおおッッ!?あんた鬼ですかぁぁぁッッ!?」

    「だって、実戦だよ?」

    「だからってねぇ!?普通、ギラギラ光る刃で俺の脚を切り裂こうとするか!?
     殺傷能力のある魔法を撃ってくるか!?あんた俺を殺す気ですくぁっ!?」

    「大丈夫だよ。勇ってコレぐらいじゃ死なないでしょ?」

    「いや、死ぬ死なない以前に僕の心配をしてっ!?」


    涙目で反論している中でも突き出され、なぎ払われるエターナクロイツを回避する。
    しかし、距離は取れない。取った瞬間に魔法攻撃が飛んでくるし、このお嬢様は
    無邪気な可愛らしい笑顔で『態々、速射性の高い魔法を選んで』撃って来る。
    その事を理解している勇は至近距離で攻撃を回避し、何とかエターナクロイツの柄
    を掴もうと必死になるが、セリスはソレを許さない。


    「――っ」

    「やりにくそうだね?……でも、これが実戦なの。特に、使い手って言うのかな?
     そう言う人達との戦いだね。」

    「……セリス嬢、何が言いたい?」

    「つまり、君は戦士として未熟って事。」


    がこんっ!とエターナクロイツが弾かれ、勇の眼が思いっきり鋭くなった。
    見れば勇の表情は冷ややかな、そして確実に腸が煮えくり返っている感じが見受けら
    れ、対するセリスもまた緊張した表情、まるで――戦いに行くかの様な表情で勇を見る。


    「……セリス嬢。」

    「構わないよ。ボクの顔面、思いっきり殴りたいって感じだもの。
     ……うん。その両手の不思議パワーに酔ってる君に負けるつもり無いから。」

    「――――」


    勇は背広を脱ぎ捨て、身軽になり、同時にネクタイも放り投げて完全戦闘思考で起動。
    目の前の少女、自分が作ったエターナクロイツを握り、冷ややかな表情を向ける少女に
    向かって行くと、迷わず彼女の顔面に、理性のある大人が取る行動ではない行動を起こ
    し、綺麗で整った顔に拳を――めりこませる前に目先2cm前をエターナクロイツに装
    着したパルチザンユニットの切っ先が通り過ぎた。


    「―――ちっ」

    「本能だけで行動する魔物なら今の君でも――大抵は倒せると思うよ?
     でもね、ハンター家業をやるんだったら当然、人と戦う事だってあるの。」

    「―――ふっ!」


    再び跳躍し、素敵パワー全開の勇に対して容赦ない魔法攻撃を浴びせかけるセリス。
    速射性重視の魔法だが威力が全く無い訳ではなく、それどころか威力は彼女の含有する
    魔力によって底上げされており、弱い魔物ならば一撃で屠れる威力を秘めている。
    ……勇はそんな弾幕をかいくぐり、強引に突破すると右腕を振り上げて――振り下ろす
    前にセリスの得物によって捌かれて、勇自身が取り付けた石突部分で突き上げられる。
    右腕に突き刺すような痛みを感じるが――我慢、咄嗟に杖の柄を掴んで引き寄せ――。


    「甘いね、魔法は何も杖から出すって物じゃないよ?」


    突き出された掌から魔法が、衝撃波が炸裂して勇は吹っ飛ばされた。


    「ごっは……!」

    「……うん。魔法の威力も増強されてるけど、簡単に人を殺せるって程じゃないし。
     杖の重さも悪くない。槍としても使える。……問題ないね。」

    「……ぐっ……!」


    ヒュンヒュンともう二度程軽くエターナクロイツを振った後、手で目元を多い、仰向け
    で倒れている勇を見て――セリスは近づき、しゃがみこむが勇は起き上がろうともせず
    に倒れたままで……良く見れば嗚咽の様な物が聞えてくる。


    「……くっ……そ……畜生……が!」

    「……ボクに負けたの、悔しいよね?」

    「………!」


    口を開けばセリスを罵倒してしまう、と勇は悟り、そして敗者は何も言う権利は無い。
    その事を理解していたから勇は何か言いたくなる感情に必死に耐えて、セリスの言葉に
    耳を傾け、どんな事を言われようとも受け入れるつもりでいた。


    「でもね、このままだと勇、遅かれ早かれ壁に当ると思うんだ。
     ……うん、勇はね弱くないよ。でもね、力に頼り切った戦いしてるの。」

    「…………」

    「クレイルとかから聞いた話から推測して、ドンピシャだったね。」


    何をする訳でもなく、悔しさで泣いている勇を馬鹿にする訳でもない。
    ただ、ただ勇に優しく話しかけ、頭を撫でながら言い聞かせていた。


    「……ただ力を使うんじゃなくて、技術とか覚えたら勇はもっと強くなるよ。
     うん、それは絶対だと思う。」

    「……セリス嬢に……負けた分際で……!」

    「誰だって負けた事位あるよ。喧嘩でも何でもね。
     ボクだって学校の武術授業で男子に負けた時、凄く馬鹿にされたよ。
     ……悔しかったからボクは棒術とか槍術とか自分で覚えて、物にしてね。
     それで、ボクを散々馬鹿にした男子全員ボコボコにしてやったよ。」

    「………」

    「負ける事なんて悪くないよ。問題はその後。
     ……そうだね、もしも勇が今まで以上に強くなりたいなら
     ボクで良ければ付き合うからさ、一緒に頑張ろう。ね?」


    目元を覆っている手を剥がし、涙で腫れている勇の眼を覗き込む翠と蒼の瞳。
    その瞳に覗き込まれた時、勇は自分を振り返って―自分が力に酔っている事を悟る。
    素敵パワーに身を任せて大暴れして、偶然にもそれが良い方向に傾いただけだった。
    ……セリスの様に、本物の技術を身につけた者と戦えば直ぐに地金を晒す様な剣。
    それがへし折られた事は……ある意味、幸運なのだろう。
    自己を見つめなおす事が出来たのだから。


    「……そうだな。今回、己が技量の程を確認できたのは幸運に思う。」

    「うん。自分の悪い所を素直に認める所は良い事だよ。」

    「でだ、セリス嬢。俺が素敵パワーを使いこなせる時が来たら、再戦願いたい。」

    「解った、楽しみに待ってるよ。……それと」


    くるり、とセリスは勇に向き直り、とびっきりの笑顔でこう言った。


    「エターナクロイツを造ってくれて有難う。
     この杖、大事にするからね!」


    ……まぁ、この笑顔を見れただけでも良しとしよう。
    勇はセリスの無垢な笑顔を見て顔を赤らめると同時に――強くなる、と心に決めた。





    <さて、妙なフラグが立ちそうだと冷や汗を流す後書き>
     何だか妙ちきりんな話になりそうですが、如何でしょうか皆様?(マテ
    今回は勇がぶち当たる始めての壁、力を手にした物がぶち当たるだろう敵。
    『それ以上の強さを持った者との邂逅』を描いて見ました―が、何かセリス嬢が
    真面目に強くなりすぎてる気がしないまでも無く、少々反省しております。
    次回は――クレイルとファリルの話でも、等と思っています。



    <オマケ>

    「やぁ、皆様。ご機嫌麗しくて恐悦至極、空腹 勇、もとい空原 勇でございます。
     さてさて、今回のお話で出てきたユニットスタッフについて説明しましょう。
     まず、この武器の特徴は――


    1.コアクリスタル部分と柄(長さが選べる。)があるだけでも良い
    2.別売りパーツをくっつける事で強化改造が可能。
    3.パーツのつけ方次第では訳の解らん姿になる事もある


     とまぁ、こんな感じですね。ざっと説明するなれば。
     なので魔法の杖、と言うよりもプラモを作って改造してる様なモンと思えば良い
     でしょう。……値段がメタクソ高い、超高級なプラモですがね、考えれば。
     そして、この杖にくっつけられるパーツについて説明しましょう。


    1.物理攻撃ユニット
     はい、そのまんま――剣だの槍だのとか言った武器をモジュール化した物です。
     これをユニットスタッフに接続取り付けを行う事により、近接攻撃や魔法が使え
     ない状況でも攻撃手段に困る事はありません。

    2.魔法力、魔法威力増強ユニット
     ルーンを刻んだり、上記効果のあるクリスタル等を埋め込んだ物をモジュール化。
     労せず魔法威力や魔法力を高める事が出来るため、人気商品となっています。

    3.魔法珠
     呪文を刻み込む事で魔法発動までの時間を極端に減らす事が出来るパーツですな。
     これも結構な人気があって品薄なので、入手に時間が掛かりますな。

    4.その他
     フォアグリップだとかスコープとか、つける必要があるのか解らない物ですねぇ。
     私のような好事家でも無い限り、付けることはまず皆無ですな。


     これらをコテコテくっつけて造る。組み合わせは無限大!!
     剣の形だろうが、槍だろうが、斧だろうが何でもござれ!!!
     それがこのユニットスタッフなのですよ!」

引用返信/返信
■548 / ResNo.7)  大暴走六話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/12/05(Tue) 11:47:22)
    手に白銀の輝きを放つ細身の戦斧を握るのはファリル。
    その前には十字架を模した槍の如し杖を構えたセリス。
    二人は一切動かず、そして僅かな隙を探そうと精神を
    集中させて――先にファリルが行動を起し、跳躍。
    セリスに迫ると手にした白銀の戦斧、クラウストルム
    が変化したソレを袈裟斬りの形で振りぬいた。
    銀の閃光、切断の力を十二分秘めたその一撃をセリス
    はエターナ・クロイツで打ち払い、カウンターで石突
    を突き出すが――ファリルは身を捻って回避する。


    「……お宅の妹さん、本当に12歳?」

    「学校では一番強いと通知表にはあったな。」


    セリスの突きを避けたファリルは捻った身体を戻しな
    がら遠心力を利用し、殴りつける様な形で戦斧の刃を
    叩きつけ、怯ませるなり吹き飛ばそうとする。
    横一閃に振るわれたクラウストルムの刃に対し、エタ
    ーナ・クロイツの刃を突き出して止めると、下に払う。
    『きゃっ!』と言う悲鳴と共に体勢を崩したファリル
    に対し、発動時間の短い魔法を放とうとするが――
    出来ない、ファリルが無理な体勢だがクラウストルム
    を咄嗟に突き出して詠唱を妨害、互いに体勢を整える
    ために一旦距離を取る。


    「何で俺の周りには人外魔境が揃うかねぇ。」

    「そのトップを突っ走るお前が何を言う。」

    「馬鹿言え。俺は人外魔境じゃない。超越者だ。」

    「脳の醗酵具合がな。」


    ファリルは左手を振るい、自身の周囲に四本の魔力剣。
    サンダーソードと言う魔法を展開し、セリス目掛けて
    発射した。……一斉にではなく、時間を置いて。
    一本目――エターナ・クロイツで弾かれる。
    二本目――セリスが回避行動を行って無効化。
    三本目――何とか回避できたが、体勢を崩した。
    四本目――迫ってきた最後の一本に魔法を当てて相殺。


    「いやー、凄い動きだわな。」

    「魔導師に全然見えん。」


    体勢を立て直したセリスは――攻撃に出た。
    上下左右からエターナ・クロイツの刃を突き出す。
    だがファリルはそれに応戦して戦斧で迎え撃つ。
    白銀の閃光と金色の閃光がぶつあり合い、火花が散った。


    「ところで俺等は何してるんだ?」

    「気にするな。俺は気にしない。」


    目の前で得物をガンガンぶつけて戦う魔法戦士二人を見て
    勇とクレイルは湯飲みに注がれた温い緑茶を飲んだ。





    ハンターのお仕事
    第六話「散財は人間に備わる必要悪です」





    ―――数分後


    「ん〜……細身の戦斧になったのは良いけど、ファリルちゃん
     の今の腕力だと、その――変化したっぽいクラウストルムに
     振られちゃうんだよね。」

    「……理解――してます。」

    「うん。でも、太刀筋自体は鋭いし、ポールウェポンの戦い方
     の基本も出来てるから、後は得物に振られない筋力をつけれ
     ば振られずに、クラウストルムを振り切れるね。」


    模擬戦――と呼ぶには激しすぎる戦いが終わった後、セリスは
    今現在のファリルの問題点を指摘し、得物に振られない腕力を
    身に付けることを言い渡した。
    ファリルの方もセリスの助言、苦言を真摯に受け止めて心に刻
    み込み、今後の対応を頭の中で組み立て、自己鍛錬方法を作り
    上げる。


    「後はそうだね。ファリルちゃん、高速の近接攻撃型だから…。
     勇、街の防具屋に行ってファリルちゃんの装備、見繕って!」

    「あいきた。」

    「ただし、変な装備とか買ってきたらシバくからね。」

    「うわ、俺って信用無ぇなぁ。あーあ、俺のガラス細工の――」

    「勇はそんな繊細な心を持ってないから安心して。」


    セリスの問答無用の集中砲火を食らった勇は腹いせに近くに落ち
    ていた棒切れを拾ってセリスに投げつけ、そして棒切れが直撃し
    たセリスはブチ切れてエターナ・クロイツを振り回し、魔法をド
    カドカ撃ちながら勇を追い回す。
    逃げ回る勇、キレて追い回すセリス、オロオロするファリル。
    三者三様の対応を見たクレイルはお茶を飲みながら一言。


    「平和な連中だ。」


    ズズズ、とお茶を飲み干した瞬間に勇がセリスの魔法で吹っ飛んだ。


    *・*・*


    ドタバタの騒動が収まった後、一向は防具屋へと出向き――
    何と言うか、ファリルにとっかえひっかえ防具やら服を着せ替える。
    この作業には何故かエルリスも同行し、セリスと一緒にアレコレ言い
    ながら服を着せて――防具を選ぶ、と言う名目で遊んでいた。


    「姉さん、こっちの服もファリルちゃんに似合うと思わない?」

    「えー……私、こっちだと思うな。フリルとかレースがついてるし。」

    「あー……確かに。クレイル、こう言う服好きそうだもんね。
     ほら、メイド服とか――いたぁっ!?く、クレイル!?
     マネキン投げつけるなんてどう言う了見なんだよっ!!」

    「気にするな。俺は気にしない。」

    「ボクが気にするのッ!!」


    ……そんな喧騒の中、ファリルはセリスの言葉を反芻して…防具屋な
    のに何故か飾られ、しかもガラス張りのショーケースに封印されてい
    るメイド服をじ〜っと見つめ、脳内で極彩色の妄想を膨らませ、顔を
    真っ赤にする。
    きっと彼女の頭の中では大好きな兄に『あーんな事』『こーんな事』
    をされつつも、優しく扱ってくれる事を想像しているのだろう。


    「――高機動近接格闘型魔法戦士のコンセプトで行くなればやはり
     防御力を少々落とす事になるが機動性と運動性を重視して動き易
     くそれでいて最低限度の防御力を両立させた装備になるから基本
     的には金属性防具の多様を避けて皮革や布で作られた防具で纏め
     るしかないしファリル嬢の体力腕力等も考慮して―――」


    三者三様で騒いでいる中、勇はトランスしつつファリルに似合う。
    それでいて機能性と防御力を両立出来る様な防具を選んでいく。
    どうせ資金はクレイル持ちだと言う事もあり、遠慮なく高額だが
    性能や防御力の高い物を『徹底的に』買い物籠に放り込む。
    ……一通りの防具を籠に放り込んだ後、トランス状態の勇は妄想
    モード全開中のファリルに歩み寄り、肩に手を置く。


    「わひゃっ!?」

    「ぬぉっ!?」


    いきなり『ビクッ!』と体をこわばらせ、素っ頓狂な声を上げた
    ファリルに勇も驚き、トランスモードは強制解除、通常モードに
    移行すると――咳払いして、彼女に買い物籠を手渡した。


    「あ……あの、これは……?」

    「ファリル嬢に似合う様な、それでいて防御力と機動性を考えて
     防具を選んでみた。一度着てみて――何か問題、不具合がある
     なら言ってくれ。選び直すから。」

    「え――でも、折角選んでくれたのに――」

    「気にするでない。俺も十分楽しんでるし……
     あっちで騒ぐ水色姉妹、妹そっちのけで防具見ている兄が
     何もしないから俺位は真面目にお仕事をしよう思うてね。」

    「あ――ありがとうございます。」


    微笑みながら試着室に入っていくファリルを見た勇はマジマジと
    ロングコートを眺めているクレイルに蹴りを一発叩き込み、不機
    嫌モードまっしぐらで振り向いたクレイルの目先に指を突き出す。
    何か勇が放つ雰囲気に呑まれたクレイルは訝しげな表情を浮かべ
    て、困惑しながら言葉を発した。


    「な、なんだよ……」

    「このお馬鹿!こう言う時ぐらい、お前がファリル嬢の物を
     選ばなくてどーするよ!?ファリル嬢もお前に選んで欲しい
     ってオーラを出してたの解――る訳無いよなぁ。」

    「???」

    「スマン、俺が悪かった。様はお前がファリル嬢の防具を
     選んでやるべきだって訳?OK?どぅーゆーあんだーすたん?」


    『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』やら『ドドドドドドドド』と言う謎の効果音
    を背後に浮かべる勇の雰囲気に圧倒されたクレイルは頷き、ファリ
    ルに似合う防具を選び始め――そして『良し』と呟き、頑丈そうな
    鎧に手をかけた瞬間、後ろで監督していた勇のハリセンが閃く。


    「……お前……」

    「アホか己は!!ファリル嬢がプレートメイルなぞ着れるかぁ!」

    「いや、しかし防御力を補うという観点では――」

    「鎧の重さでファリル嬢が潰れるわ!」

    「――む。」


    言われてみればそうか、等とホザいたクレイルの脳天に素敵パワー
    を宿らせたハリセンを振り下ろし、素晴らしい音が店内に響いた。


    ―――数十分後


    セリスとエルリスの籠の中にはファリルの防具ではなく――服。
    それも極大量に放り込まれており、クレイルは二人に反論するも
    女性二人のマシンガントークの前に屈してしまい、渋々ながら極
    大量の服を買う羽目になってしまった。……しかも、値段が高い。
    勇に珍しく助けを求めようとしたが、彼は既にいない。
    代わりにクレイルの近くにメッセージカードが刺さっていた。

    『まだ見ぬ何処かへ旅立ってくる by夢追い人』

    等と描かれたそれを問答無用で握りつぶし、ゴミ箱に投げ捨てる。
    肝心なときに役に立たない奴だ、等と思っていた所で――
    開かずの間と化していた試着室のカーテンが開き、防具を身に付け
    たファリルが出てきた。

    ――両手にはミスリル銀のグローブ

    ――所々鎧の様なパーツがつけられたジャケットにスカートを身に付け

    ――最後に柔らかくたなびくマントをつけた少女。

    例えるならば戦乙女、とでも言おうか?
    顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながらファリルは出てきた。


    「―――ふふふ、やはり俺の選定眼に狂いなし。
     『俺様のインサイトに見抜けない物は無い!』ってか?」


    何時の間に帰って来やがった、夢追い人。


    「……ど、どうかな……兄さん?」


    もじもじしながら上目遣いで兄に、クレイルに感想を聞くファリル。
    ……この手の感想が一番困る、と思い周囲に助けを求めるが……。

    『俺より強い奴に会いに行く by勇』

    『本当の自分を探しに行く  byセリス』

    『夕飯の支度の為に戻る   byエルリス』

    そんなカードが刺さっており、本人達は既にトンズラかましている。
    ……あいつら今度会ったら殴ってやる。しこたま殴ってやる。
    クレイルは心の中で決定し、不安げに見上げるファリルの頭に手を
    置くと――柄でもないが、と思いながら感想を口にした。


    「――似合っているし、可愛いぞ」

    「――!!、兄さんッッ!!」

    「うおぁあぁぁッッ!?」


    満面の笑顔を浮かべたファリルに抱きつかれ、思い切り後ろに倒れか
    けるが何とか踏み止まり、ファリルを抱きとめるクレイル。
    店内に居た客や店員が彼ら二人に笑顔を向けると共に『何故か』拍手
    を送られ、クレイルは困惑し、ファリルは構わずに甘えている。

    ――そんな状況を遠眼で見つめる三つの視線……。


    「うんうん、これで一歩前進かな?」

    「でも、セリス……おせっかいも焼きすぎると逆効果だよ?」

    「解ってる解ってる♪ボクはそんな愚を冒すと思う?」

    「間違いなくやりそ――嘘ですごめんなさい。」


    幸せそうに兄の胸で甘えているファリルを見て満足したのか、水色と黒
    は笑顔で帰宅した―――。






    <早くも給料を使い切りそうでヒヤヒヤしている後書き>
     今回のテーマはファリルとクレイルですが、仲が一向に進展しないので
    強制的に一歩進んだ関係にしてみました。……ネタが暴走しているのは
    スルーの方向でお願いします。
    さて、ファリルのクラウストルムが進化した理由は次回で語ろうと思います。
    ……そこ、バル○ィッシュ・ア○ルトとか言うな、フェイ○とか言うな(ぁ
    そんなこんなでもう六話、SSを投稿し始め、皆様からご感想を頂いて
    充実しています。
    作者が暴走したSSですが、これからもよろしくお願いします。



    <おまけ>
    友人『……バルディッシュ?』

    私『言うな。』

    友人『ハマったんだな?』

    私『………』

    友人『まぁね、フェ○トは『守ってあげたいオーラ』出してるし
       大人しいし、おっとりだし、少し気弱だし、でも高機動格闘系。
       得物は巨大な剣に変形するし、振り回す。
       ……完全にお前のツボを突きまくってるよな?』

    私『あ、あんたって人はぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』


    ―――力が無いのが悔しかった……(謎
引用返信/返信

■記事リスト / レス記事表示 → [親記事-7]



■記事リスト / ▼下のスレッド / ▲上のスレッド
■478 / 親記事)  オリジナル新作予告
□投稿者/ カムナビ -(2006/11/04(Sat) 16:50:44)
    遥かなる未来・・・

    「<大連合>の侵攻・・・だと?」
    「すでにエルベ大回廊周辺は征圧されています・・・確認された戦力は8万隻・・・最終的には30万隻程度にはなるかと。」

    宇宙を二分する<帝國>と<大連合>、その戦いの火蓋が切って落とされた

    『帝國全体が戦時防衛体制を整えるのに約3ヶ月・・・その間、君らには<大連合>の侵攻部隊を後退しつつ拘束し続けて欲しい。手段は問わない』
    「きついこといってくれますね・・・正面戦力でどんだけ不利か解ってます?」

    絶望的な戦力差の中、3ヶ月間の<大連合>侵攻部隊の足止めを命じられた帝國国防軍第3方面軍団<バルディッシュ・サード>

    「遊撃戦・・・ですか?確かにそれしか対抗する方法はないでしょうが・・・可能なのですか?」
    「やらんと、うちらは蹴散らされるだけやで?可能だからやるんでなくて、やらなきゃならんのや」

    そんな中補給戦に対して組織的なゲリラ戦を仕掛ける第3方面軍団。それにより、救援がくるまでの3ヶ月間を乗り切ると、思われたが・・・

    「救援が、こないって・・・どうゆうことです!!」
    「帝國行政府議会は戦争を望んでいない・・・そうゆうことか」

    政治の道具として、玉砕を求められる第3方面軍団。帝國より見捨てられた彼らは独自で生き残りをかけた脱出作戦を遂行しようとする。

    「後方を強襲!?それで・・・被害は?」
    「物的被害はとくには・・・ですが、後方に敵部隊のゲートを確認・・・我々第3方面軍団は約80個艦隊の部隊に包囲されていることになりますね」

    しかし、その前に<大連合>の対第3方面軍団包囲網が現れ、それに彼らはとらわれてしまう。

    「前方6万に敵艦影多数!!包囲網を構成してる艦隊と思われます!!」
    「そうか・・・さて、諸君、大博打の始まりだ」

    その包囲網を突破するために彼らはある奇策をもってその包囲網の突破を図る。果たして彼らは生き残ることができるか・・・?



    カムナビが描くオリジナルSF戦記シリーズ<ポラリスの御旗のもとに(仮)>第一章、熱いオヤジと、男(あと若干の女子)だけの血と汗の物語!!『バルディッシュ・サード奮闘録』!!来年初旬公開予定!!

    なお本作品は予告編であり、内容などは変更される可能性があります。ご了承ください
    ちなみに、もう一つの方が終わらないと連載できません(ぁ
引用返信/返信



■記事リスト / ▲上のスレッド
■427 / 親記事)  戦いに呼ばれし者達
□投稿者/ パース -(2006/10/11(Wed) 21:59:28)
    2006/11/07(Tue) 06:23:26 編集(投稿者)
    2006/10/12(Thu) 13:53:55 編集(投稿者)
    11月7日タイトル変更
    (何で今さら・・・・)

    まえがき。

    ハイ、というわけで「前向きな死者と後ろ向きな生者」、昭和さんに頼まれて(←この辺責任のなすりつけ)続編を書くことにしましたが、ようやく世界観設定が完成しましたので本編というか続き、というかさらに前の話を書きました。

    モチーフは完全に北欧神話です。
    ゲルマン民族やヴァイキング達に伝わるあれです、散文エッダやニーゲルンゲンの指環やらで有名なあれです。
    が、武器ばかり登場していて有名どころの神サン(オーディンとかトールとかロキとか)は、名前だけしか出ません、そんでもって登場人物は最初に一気に書いちゃう以外はたぶん出しませんので(出ても精々ちょい役)覚悟してください(何の覚悟だよ)。

    ってか、本来がただの短編であったため、本編もさっさと終わらせましょうか、ってのが作者の考えなので、結構バタバタ人が死んじゃったりしますんでごめんなさい。

    ちなみにこの作品、戦乙女ことヴァルキリーがまんま悪役ですので、ヴァルキリープロファイルとか好きな人にはお奨めできないかも知れません、そのへんはご自分で判断下さいませませ。


    ロキパートでの主な登場人物

    千里塚 陽(せんりづか よう)18歳♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)
    四ノ原 影美(しのはら えいみ)18歳♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)
    桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳♀ 能力:フェンリル
    ゲイレルル 槍を持って進む者 能力:ヴァルキリー




引用返信/返信

▽[全レス26件(ResNo.22-26 表示)]
■538 / ResNo.22)  ロキ編 決戦
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:33:31)
    「げほっ・・・・・・・・・げほげほっ・・・・・・・・!」


    目が覚めると同時、体中の痛みで思わず咳き込む。
    当たり前だ、影月の時にいくらか回復したものの、所詮「いくらか」だ、フェンリルにやられた傷全部が回復したわけじゃない。


    (・・・・・・・・・・・・・・・無銘刀・・・・・・・・・)


    頭の中で呼んでみるが、半ば予想通り返事はない。
    手元を見つめて武器を呼び出す、現れたのは最初の頃の黒い剣、『影月』ではない。


    (借りが出来ちゃったなぁ・・・・・・・・・・)


    あの時起こった出来事、それは、無銘刀が影美の魂の半分を吸い取り、そして無銘刀の中の誰かが影美の中に入り込み、ゲイレルルに連れて行かれる、ということだった。
    無銘刀に意識を集中する、その中に、影美の半身が入っている。
    そのせいかどうか知らないが、いつもよりも動きがよい気がする。


    「・・・・・・・・・よっ・・・・・・・っと・・・・・・・・・・・痛たた・・・・・・・・」


    体中が痛いが、何とか起きあがる。

    さっきから感じている、近づいてくる気配・・
    ゲイレルルが最後に言っていたことを思い出す。
    確か、「魂を返して欲しければ最後の神具の所持者を倒せ」だったか。


    「それって、持って行かれたのが私じゃなくても返してくれるのかな・・・・・・・・?」


    黒剣もとい無銘刀もとい魔剣ロキ、まぁ呼び名などどれでもいい、それを構える。
    そして、
    影美の対面に一人の少年が現れる。










    陽は、異空間の中を歩いている。
    足やら頭やら、フェンリルにやられたせいで体中が痛いが、歩けないほどではない。


    (これで、最後・・・・・・・・・次の相手さえ倒せば、ロアを助けることが出来る・・・・・・・・・)


    陽は、剣を握りしめた。
    それは、先ほど、フェンリルと戦っていたときの大剣ではない、戦いが終わって気がついたら元の普通の剣の形に戻っていた。


    どうやら、『炎神』になるためには何かしら条件があるらしい、その条件はわからない―――が、陽の気持ちは一つだった。


    (どんなことがあっても、必ず勝つ・・・・・・・・)


    それだけのために、陽は歩いている。
    最後の相手の気配・・も、段々と近くなっている。


    「待ってろ、ロア」


    見えた、最後の戦いの相手。
    自分と、同じくらいの背格好、年齢も同じくらいであろう少女。
    そして、決戦が始まった。










    二人とも、はっきり言って無茶苦茶にボロボロだった。
    服はあちこち破れ、体中傷だらけの血だらけ、そして泥まみれだった。


    「あたしは影美、四野原 影美、魔剣ロキの所持者・・・・・・・・あなたは?」


    影美が、まだ少し離れている相手に対して言った。


    「陽、千里塚 陽、神剣レヴァンテインの所持者だ」


    陽は、影美に声を返す。
    影美が剣を構えていることに気付き、陽も剣を構える。


    「へへ・・・・・・・・・最後が、君みたいなわりとまともそうな奴で良かったよ、あたしがこれまで相手にしてきたのってみんないきなり戦闘になったのばっかりだったから、変な狼にも襲われるし」
    「俺もまぁ、似たり寄ったりだな」


    二人の目に宿るモノ、それは決意。
    軽口を言いながらも、決して退かない、という意思の表れ。


    「あたしは、どうしてもヴァルキリーに取られた物を返してもらいたいから、だから戦う」
    「悪いけど、俺も命を賭けても手に入れなきゃなんない物だから、退くわけにはいかない」
    「同じだね・・・・・・・・なら、しかたないっか」
    「ああ」


    そして、会話がとぎれて、二人が同時に動いた。










    二人は同時に動いた。


    影美の姿が影の中に没し、陽の姿がかき消える。


    「!?」
    「!?」


    驚いたのは、二人一緒だった。
    陽は、先ほどまで影美がいた場所に出現する。
    一瞬で、影美との勝負を決めようとした陽だったが、そうはいかなかった。


    「そこっ!!」


    影美は、頭上に陽が現れた事に一瞬驚きを見せたものの、すぐさま攻撃を開始する。
    直後、陽の足下から、無数の影の茨が突き出し、陽にからみつこうとする。


    「くっ!!」


    陽は、思わず後ろに下がろうとしたが、その背後からも影の枝が突き出す。
    それを避けられないと踏んだ陽は、剣に力を込める。
    すると、剣が光を放ち、それによって枝はいともたやすく切り落とされる。
    さらに、数本の茨を切り飛ばしながら陽が地面、つまり影美が潜む影を貫こうとしたが、陽の剣が地面に突き立つのと、影から影美が脱出したのは、ほぼ同時だった。










    「っ!『影兵』、行きなさい!!」


    影美は、影から脱出するとすぐさまに、影兵を呼び出す、影美の周辺の影が動き出し、兵隊の姿を作り上げる、その数30ほど。
    そしてそれらは、一斉に陽目掛けて殺到した。


    (・・・・・・・・こいつ、強い)


    30ほどの影達はすぐさま陽に接近、攻撃を開始するが、一体が剣を振りかぶった瞬間に斬り裂かれ、別の一体がそれを横から切ろうとして真っ二つ、さらに別な一体が足払いで転ばされそこにさらに別の一体が、また別の一体がやられてゆく。
    どうやら影兵では勝負にならなそうだ。
    その上、先ほどの能力、飛んでもない移動能力、それから剣が光ったあとこちらの影をやすやすと切り飛ばしたあれ、どちらも強力ではっきり言ってこっちの方が分が悪い。
    影美の能力は小技中心だ、大技では向こうのが強い。


    (だったら・・・・・・・・)


    影美はある考えを持って影の中に自分を沈み込ませてゆく。










    (うっとおしい・・・・・・・・・!!)


    さらにまた一体、斬り裂きその黒い体が消滅してゆく。
    先ほどから、明らかな雑魚を相手にしていたが、それらを全て『力』を使うことなく倒していた。


    (だが・・・・・・・・次はどこから来る?)


    しかし、相手、影美の姿がどこにも見えないことには先ほどから気がついていた。
    兵隊の数は残り5体ほどだが、それらが動くたびに影が出来たり消えたりするため、影美の居場所が特定できない。


    (兵隊が全滅すると同時に出てくるか?別にいつでもいい、こっちはそれを突破するまでだ!)


    また一体を斬り倒す、残り4体、そいつらは陽を囲むように移動する。
    例えどれほど弱くとも、四方から一斉に攻撃されればどうしようもないことは確実なので、陽は右後ろに移動しようとしていた影に肉迫、これを斬る。
    残り3体、2体が同時に動き、それにわずかに遅れて1体が動いた。


    「邪魔だ!!」


    正面の2体を輪切りに、残る1体を斬ろうとして、


    (―――――!?)


    その姿を見失った。
    その姿を探す間もなく、


    (―――――後ろ!?)


    本能的に位置を察知、ほとんど何も考えずに切り払う。
    そして違和感。


    (本体はどこだ!?)


    さらに陽の背後、つまり先ほど敵の姿を見失った方角にまた一体の兵隊が現れる。


    (なんだ?いつでも背後に出せるなら初めからそれをやればいいのに・・・・・・・・・!?)


    それもまた一刀のもとに両断――――しようとして、それが罠だと気付いた。


    「残念!ハズレ!!」


    陽がその影を両断した直後、先ほど違和感を感じた影、それの中から影美が現れた。
    陽は影を斬るために腕を伸ばした状態、つまり隙だらけ、それに対し影美が剣を構えて突っ込もうとした。


    「レーヴァテイン!!」


    陽は『力』を解放、影美のさらに背後を取った。
    そして、










    (かかった!!)


    影美のすぐ後ろに陽が出現するのを、影美は影の中から・・・・・、見ていた。
    今、陽が背後を取った物、それは影美が影を操作できる限界まで似せて作り上げた偽物だったのだ。
    陽がどれだけ強くとも、『力』を使った直後ならば、確実な隙が出来る。
    陽が、影美そっくりの偽物を斬り裂いた、


    (―――――もらった!!!)


    瞬間、崩れ去った影美そっくりの影も含めた、影美が操作できる全ての影から、一斉に陽目掛けて刃が飛び出した。


    ―――ズドドッ!!


    「ぐうっ!!!」


    それらの刃は、確実に一瞬油断した陽の足を次々と貫いてゆく、これで陽は地面に縫いつけられた。
    影美が、確実に絶対のトドメを、さそうとしたその瞬間、陽が影の枝を掴んだ。


    「捕まえたぞ・・・・・・・・!」
    (・・・・・・ッ!しまっ!!)


    どれだけ、姿が見えなくとも、影美が操作している直後、その影の中には、影美自身がいる。
    陽が剣を地面に突き刺そうとし、影美が影から脱出しようとした、しかし今回は、陽の方がわずかに早かった。


    ―――ザシュッ!!


    初めて、影美の影から黒以外の色をした物が流れた、影美の血だった。


    「うぁっ!!!」


    影美は影から脱出しようとした直後を捕まり、右の肩に深々と剣を突きたてられた。
    影美は無理矢理陽と自分との間の影を操作し、壁を作り出し、それによって何とか距離を取った。
    十分な距離を取った直後、壁を解除すると、陽は動いていなかった。


    「・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・痛ったいわね・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・クソッ・・・・・・・・・お互い様だ・・・・・・・!」


    影美はそれに向かって文句を言うと、陽は返事を返してきた。
    陽は両足を穴だらけにされ、影美は右腕、つまり利き手が使い物にならない。
    威力なら陽が上、しかしスピードは影美が勝る、『力』を使えば陽の方が早いが、その分反動で大きな隙が出来る、技の手数なら影美の方が圧倒的に多い。
    体格的な差はほとんど無い、陽は同年代に比べて少し背が低く筋力が無い、逆に影美は同年代女性よりは背もいくらか高く、筋力もある。


    どちらも、かなりの傷を負ってはいるが、ほぼ互角の戦いだった。


    「ったく・・・・・・・・・女に手を挙げるのに、全く躊躇しないなんて見上げた根性ね!」
    「足をズタズタにして動けなくするなんて、せこい手を使う奴に言われたくはないな」


    ついでに、口の言い合いも互角。
    しかし、どちらもここで止める気は、毛ほども無かった。


    「行くぞ!」
    「返り討ちにしてやるわ!」


    二人の激突が再度始まった。










    二人の激突は、既に5回を越えた。


    陽が突撃し、影美がこれを迎え撃ち、数回の交差の後、離れる。
    互いにもう手は出し尽くしていた。
    陽は単純に威力とスピードを瞬間的に上げるのみ、しかし反動が大きいため連続して出すことが出来ず、『力』で追いつめても能力が切れた瞬間手数で圧倒される。
    影美は手数こそあるものの、一発一発の威力は低い、そのため陽を極限まで追いつめてもその直前に『力』によって突破されてしまう。
    ようするに、どちらももはや『力』は決定打になっていなかった。


    残るは、双方共に、肉体と精神と技術。
    どちらがより長く、肉体を動かし続けていられるか。
    どちらがより強く、不屈の精神を持ち続けていられるか。
    どちらがより巧みに、相手の動きを読み、考えを看破し、相手より早く、一太刀でも多く傷付ける、その技術を持っているかどうか。
    これはもはや、そういう戦いだった。


    二人はどちらももうズタズタのボロボロ、その状態で対峙しているのはある意味滑稽ですらあった。
    これ以上、長く戦いが続けば、どのみち出血多量で二人とも死んでしまう。
    だからこそ、二人がそのとき考えたことは、全く同じものだった。
    すなわち、


    (次で・・・・・・・・!)
    (・・・・・・決める!)


    それは、決着の意志。










    そして二人は同時に動いた。
    影美は、これまでと違い、自分から陽目指し突き進む。
    陽は、これまた先ほどまでとは違い、不動のまま佇む。


    「はぁぁぁああああっ!!!」


    影美は、陽と自分との間に影の壁を作成、視界を塞ぐと同時、4つに分裂した。
    むろん、本体はただ一つである。


    そして、陽はそれでも動かないままだった。
    陽の剣は光っている、だがまだ『力』は使っていない。
    無行の位のまま、すぐ前に壁が出現したときも、さらに3つの影美がその壁の左右、上部から現れたときも、動かなかった。
    三体の影美、それらが左右と頭上から同時に剣を振り下ろす。
    それが当たる直前、ようやく陽は動いた。
    剣を前に突き出し、頭上からの一撃を受け止めると同時に半歩後ろに下がり、左右の攻撃を回避、力をわざと緩めると正面の影がたたらを踏んで前によろける、それを見送ってその後ろに蹴り、残りの2体に蹴りの体勢から回転斬り、3体まとめて斬り飛ばす、そしてその全てが偽物。
    それはわかっていた。


    陽の剣はいまだに光っている、いや、その輝きは先ほどからどんどん増していった。
    先ほどの壁が消失、その先にいた影美は剣をただ横に垂らしているだけ、ではない、こちらも剣に黒い影、それがどんどんと集まっていった。
    陽の剣は光を放ち、陽はそれと同時に駆け出す。
    影美の剣もまた黒い光、光を飲み込む闇が溢れ出し、それと同時に駆け出した。
    光がはじけ、闇が溢れ出す。
    二人の距離が狭まってゆく。


    ―――10メートル、
    ―――5メートル、
    ―――3メートル、
    ―――2メートル、
    ―――1メートル、


    「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
    「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」


    二人の剣が正面からぶつかり合い、闇が爆ぜ、光が吹き荒れ、


    (――――――――――――――――――――――――――――!!!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ッ!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ァ!)




    ―――そして、何も見えなくなった。

引用返信/返信
■539 / ResNo.23)  ロキ編 幕間
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:34:43)
    光で画面が一杯になった。


    明滅、暗転。
    光がないと、真っ暗で見えないように、光がありすぎても、物体を見ることは出来ない。
    画面には、何も映っていなかった。


    「・・・・・・・・・これは、また」
    「・・・・・・・・・何も見えん」


    ゲイレルル、ヘルフィヨトルは呟いた。


    「どうなったかわかるか?」
    「わかりません」


    光は、今も画面中に溢れかえり、動く物体を捉えることは出来ていなかった。


    「・・・・・・・・・まだか?」
    「もうそろそろかと・・・・・・・・来ました」


    ようやっと、光が薄れ始め、画面に何かが見え始めてくる。
    しばらく二人は、それをジーッと見ていたが、やがて、


    「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・失敗か・・・・・・・・・」


    光が薄れ、画面がクリアになり、そして見えた物、それは、


    二人の、陽と影美の体が剣を交えたままの状態で倒れ伏し、ピクリとも動かぬ場面であった。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    どちらも、全く動かず、一言も言葉を発しなかった。
    それは、まさに、ただの屍のようで。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    いつまで待っていても、二つの体は完全に停止したままだった。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    そして、10分が経過しても、全く二人の体が動かず、ただ時間のみが過ぎ去ったとき、ゲイレルルは首を横に振り。


    「終わりだ、今回の戦いに勝利者は無し、残った神具と今回の戦いで死んだ者の魂を持ち帰り、ヴァルハラへ帰還するぞ」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」


    ヘルフィヨトルは、悲しげに瞳を伏せたが、やがて諦めたように頷いた。


    「わかりました、神具の回収に入ります」
    「うむ」
    「とは言いましても、先ほどのフェンリスヴォルグが暴れたことにより、大部分の神具は破壊され、それ以外はもう既に回収しているので、残っていることはあそこ」


    そういって、ヘルフィヨトルは画面を指さした。


    「レーヴァテインとロキだけです、私が行って今から取ってきます」
    「いや、お前はここにある物資をまとめて、先にヴァルハラへ行ってくれ」
    「なぜですか?」
    「なぁに、最後くらい、ヴァルキリーとして仕事をしたいのでな」
    「そうですか、わかりました」


    そして、ヘルフィヨトルは、スタスタとどこかへ歩み去っていった。
    残された、ゲイレルルは、


    「神剣レヴァンテイン、魔剣ロキ・・・・・・・・どちらもいずれは真の神々に匹敵する能力者になったであろうに、惜しいことをした」


    そう呟き、ゲイレルルの姿も、どこかへ消えていった。










    「フン、実に呆気ないものだったな」


    ゲイレルルのこの傲慢な物言いは、彼女が人間にその姿をさらすとき特有のものである。
    だがしかし、今はその姿を見る者もいない。
    ゲイレルル足下には、二つの屍が転がっている。


    ゲイレルルの仕事は、この二つの屍が持つ武器を回収し、魂をヴァルハラに運ぶのみ。
    ほんの数分で終わる、簡単な仕事だ。
    ゲイレルルは、二人の体を見下ろしながら、ふと、ある疑問を持った。


    (そういえば、この二人、何が決定打となって死んだのだ?)


    二つの体を見下ろす、あちこちがボロボロの血だらけで、最後に剣を交えた瞬間、失血死した可能性もある。
    あるいは、光で何も見なくなったあの時、両者が相打ちになった可能性もなくはない。


    「どちらにせよ、魂に聞けばいいだけの話か」


    そして、ゲイレルルは、その手に持つ槍を、片方の屍に向けて、振り下ろし、


    ―――ザクッ!


    (―――――――ッ!!!!!!???)


    槍は、そのまま屍を通り抜け、地面に突き立った。


    「行くよ!」
    「ああ!」


    瞬間、ゲイレルルの背後に現れた二つの存在、陽と影美が、同時にゲイレルルに襲い掛かった。

引用返信/返信
■540 / ResNo.24)  ロキ編 The last battle
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:40:27)
    二人の剣が交わり、全てが暗転し、光に包まれ、何も見えなくなったそのとき、
    二人の意識は別なところに存在した。


    『止めろ』


    その言葉が、二人の頭の中に響いた。


    (なに!?)
    (え!?)


    それと同時に、自分たちの周囲が、これまでいた異空間ともさらに違う場所、それまでいた場所ではない「どこか」にいることに気付き、また自分の体が全く動かない、それどころか自分の体そのものが無くなっていることに連続して気付く。


    (え?ここ、どこ!?)
    (なんだ、一体、これは?)


    陽と影美が思った疑問、それぞれに答える声があった。


    『ここは、神剣レーヴァテインの中、意識のみが存在する場所にいる、君たちは今、意識体としてその中に入り込んだのさ』


    声に、姿はない。
    また、陽と影美も、それぞれの声は聞こえているのに、それぞれもう一方の姿を捉えることは出来なかった。


    (あなた、誰??)
    (お前は・・・・・・・・・まさか)


    『陽、君ならわかるだろう、僕は君が使っていた神剣レーヴァテイン、それの中に存在する人格さ、一度だけ、君とは意識を通い合わせたことがあるね』


    (あんたは、あの時、力を貸してくれた・・・・・・・・)
    (何を言っているの・・・・・・・・・?)


    『影美、君も知っているはずだ、君が持つ魔剣ロキにも、内在する人格があったのだから』


    (・・・・・・・・・・・何で・・・・・・知って!!)


    『君たちにはこれ以上戦ってもらうわけにはいかなかった、これから、その理由も含めて君たちには聞いてもらいたいことがある、少し、長い話になるけど、ここは外とは時間の流れる速さが大きく違うから、外のことは気にせずに聞いて欲しい』


    そして「神剣レーヴァテイン」、それに内在する人格による、長い話が始まった。










    初めは、全ての創世から。

    原初の神、氷の大巨人、「ユミル」。
    彼の体から始まりの神「オーディン」は生まれた。
    「オーディン」はやがて兄弟である「ロキ」らと共に「ユミル」を滅ぼす。
    「ユミル」の体はやがて大地となった、これが神々の世界「アースガルズ」となる。

    そして神々の世界の完成。

    「アースガルズ」は、「ユグドラシル」と繋がり、九つの世界を一つとした。
    「アースガルズ」には、様々な神々が集まった。
    やがて神々は夫婦となり、子をなして、神々の数は増えていった。
    「オーディン」、「ロキ」もまた、数々の神々の親となる。

    しかし、いずれくる未来があった。

    「オーディン」は、ある一つの未来、「ラグナロク」の到来を予見していた。
    「ラグナロク」は、決定された、回避出来ぬ未来、全ての終末。

    その時、「ラグナロク」の中心となる、ある一人の神がいた。

    「ロキ」はいつの時も変わらず、奔放であり続けた。
    しかしある時、彼はその賢さゆえに気がついてしまう。
    神が、絶対ではないことに。
    神が、全てではないことに。
    神が、完全ではないことに。
    自分たちが作る、神々の世界が、所詮は偽りであることに。

    「ロキ」は、その事実を神々に見せつけるために、もっとも美しき神、「祝福されし者」、全ての者の寵愛を受けた神「バルドル」をその知略をもって殺す。
    そしてロキは、神々の宴の席で、幾体もの神々を相手に、神々の欠如を、秩序の消滅を、全ての神の無能さを、嘲笑い、非難し、罵倒した。

    それによって「ロキ」は永遠の地獄に捕らえられる。
    「ロキ」は永劫の苦痛にさいなまれながら、泣き叫んだ。
    どうして、自分はただ誤りを指摘しただけなのに。
    どうして、自分はただ過ちを正しただけなのに。
    どうして、自分はただ真実を知らせたかっただけなのに。

    永劫にも近い苦痛の中で、「ロキ」はある結論に達する。

    自分の考えを受け入れて貰えぬのなら、今ある秩序など無意味だ。
    それならば全ての秩序を破壊し、新たなる秩序を作り出せばよい。

    そしてついに、「神々の黄昏」、「世界の終末」、「ラグナロク」が訪れる。
    巨人族と、冥府の亡者達は「ロキ」を先頭に「アースガルズ」へ攻め上る。
    「オーディン」は「フェンリル」に飲み込まれ、「フェンリル」は「オーディン」の息子、「ヴィーザル」により殺される。
    「トール」は「ヨルムンガント」を殺すものの、毒液を浴びて死んでしまう。
    「ロキ」もまた「ヘイムダル」と相打ちになり死ぬ。
    そして、最強の炎の巨人「スルト」は「ロキ」から渡された「レーヴァテイン」をもって「フレイ」を殺すが、「スルト」は戦いの傷により死を覚悟、自らの命を持って世界を消滅させる。

    そして、「ユグドラシル」は消滅し、わずかの神と人とを残して、世界は滅んだ。
    それは、遥か昔の話。










    長い話が、ようやく一区切り迎えた。


    (それで、全てが終わったその後も、フレイヤ達は魂の収集を続けている、と?)


    『その通りだ、まず、君たちに知っておいて欲しいこと、その一つ目は、「神は絶対ではない」ということだ、もし神が絶対であるなら、そもそもこんな事は起こらなかっただろうし、むやみな戦いも起こらなかっただろう』


    (それは・・・・・・・・・確かにその通りね)


    『次に二つ目、「世界は一つではない」ということ』


    (・・・・・・・・・一つ、じゃないのか?)


    『そもそも考えてみてくれ、スルトが放った炎によって「世界は滅んだ」んだよ?それなのにここには君たちが普通に生活する世界が存在している、これはおかしな事ではないかい?』


    (なるほど・・・・・・・・・・)


    『フレイヤ達は「ユグドラシル」が消滅した際に出来た、「世界と世界の隙間」に入り込み、そこを伝ってこの世界に降り立ったんだよ、多数の神具と共にね』


    (はた迷惑な・・・・・・・・・・・・)


    『そして、君たちに知っておいて欲しいこと、その最後、戦いを止めさせた理由でもあり実はこれが一番重要なことなんだが―――――』



    ―――――『「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」』



    (!?)
    (!?)


    一瞬、沈黙が落ちた。


    (な、何を言ってるんだ!?)
    (そうよ、なんで世界が消滅とか・・・・・・・!)


    『残念だが、これはれっきとした事実だ、まずは影美、君だが、君は今魂の半分を「魔剣ロキ」の中に取られているね』


    (え、ええ、そうよ・・・・・・・・それが、なに?)


    『もし、今影美が死ねば、その「魔剣ロキ」の中に入っている魂も大きく壊れ、しまいには「魔剣ロキ」自体が完全に消滅するだろう、もしそうなったら、僕は自分の力を抑えることが出来なくなり、その力はやがて使役者である陽をも破壊して世界に漏れ出す、そうなったら世界はもはや完全に燃え尽きるまで永遠の炎に包まれるだろう』


    (は・・・・・・・・?)
    (なん、で・・・・・・・・・?)


    『僕こと、「神剣レーヴァテイン」と僕の兄である「魔剣ロキ」とは、同じロキによって作り出された神具だ、そして、「魔剣ロキ」は、あまりにも力が強すぎる「神剣レーヴァテイン」の力を抑え、封印する役割も持っているんだよ』


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)
    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)


    もはや、言葉にもならない。


    『そして、今の状態で陽が死ねば、の話だが、それは簡単だ、スルトの時と同じ、「魔剣ロキ」が「神剣レーヴァテイン」を抑える力を失っている今、「神剣レーヴァテイン」の力は止められない、同じく世界を焼き尽くして全てが消滅する』


    (なんで、私の剣が、レーヴァテインを抑えられないってのは?)


    『僕の兄でもあり、君の剣の中に内在した人格、あれそのものが封印だったんだよ』


    (!!!!!)


    『もう一度言う、「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」、と』










    全ての真実が語られたあと、レーヴァテインは、静かに語り出した。


    『君たちに、お願いが二つある』


    (・・・・・・・・・)
    (・・・・・・・・・)


    『これは、こんな事は君たちに頼める立場じゃないことはわかっているんだが、フレイヤ達を止めてくれ、彼女達にはこんな、終わってしまった物語を続けるような真似をこれ以上させたくないんだ』


    返事は、無い。


    『・・・・・・・・・・・・・・・すまない、君たちに、そんな余裕はないのだったな・・・・・・・・・、君たちには自分の身を守る以上の事を、している暇は――――』


    (ああいいよ、やってやるよ)
    (いいわ、やったげましょう)


    返事は、同時だった。


    『なぜ?君たちにメリットなど何もないのに・・・・・・』


    (メリットならある、あんたの言葉が正しいなら、「ヴァルハラの館」そこには魂が集められているんだろう?俺の目的はそこにいる女の子の魂を連れ帰る事だ、そのついでにそいつ、フレイヤって奴を倒してやるよ)
    (同じく、その「ヴァルハラの館」には、私の剣の中身も、一緒に行ったはずでしょ、それを見つけて剣の中に戻せば、少なくともどっちかが死んだだけで世界が滅ぶなんて言うことは起こらないでしょ)


    『・・・・・・・・・・ありがとう、それから、もう一つだけ、最後のお願いがある』


    (何だ?)
    (何よ?)


    『全ての戦いが終わったら、僕を、「神剣レーヴァテイン」を「魔剣ロキ」と共に、完全な眠りにつかせて欲しい、本当のことを言えば、僕はもう何かを壊す事なんて嫌なんだ』


    (ああ、その程度のことなら)
    (わかったわ)


    『ありがとう、これから君たちを元の場所に戻す、そこにはもうすぐヴァルキリーがやってくるはずだ、まずはそいつを倒して、「ヴァルハラの館」の鍵を手に入れて欲しい』


    その言葉が終わるか終わらないかのうちに、
    二人の意識は元いた場所へと戻された。










    (わかる?)
    (・・・・・・・・・ああ)


    どんな理屈なのか、陽と影美は剣を触れ合わせた状態で、お互いの考えが互いに聞こえる状態になっていた。


    『それは、僕を媒介にして二人の意識体が共鳴しているからだよ』


    よくわからないことを、レーヴァテインが言う。
    なにはともかく、声を出すことが出来ない状況下で、お互いの声が聞こえるのはいいことだ。
    今現在、陽と影美の二人は、影美の力により偽物を地面の上に作り出し、本体はレーヴァテインの力により光をねじ曲げて外からは見えないようにしていた。
    この状態になって、既に数分が経っていた。


    それにしても、と陽は思う。


    (本当に、ヴァルキリーに勝てるのか?)


    しばらくして、影美から返事があった。


    (んー・・・・・・なんとかなるっしょ)
    (そんなアバウトな・・・・・・・・・)
    (なーに言ってんのよ、私と、あんたのコンビなのよ?楽勝らくしょ・・・・・・・・・・っとと)


    影美が、フラッと、急によろける。
    陽は、腕を掴んで、体を支えてやった。


    (・・・・・・ありがと)
    (どういたしまして、そんな状態じゃ先が思いやられるな)
    (何よ!?あんたがぶっ刺してくれたおかげでしょうが!あんただって似たような状態のくせに!!)
    (お前よりはまだマシだ)
    (うー・・・・・・・・!)


    『二人とも、仲がよろしいのは良いことだが、どっちも限界が近いだろう?』


    (実は・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・)
    (仲がよろしいとか言うなっての・・・・・・・・・でもきついものはきついかも)


    そもそも、二人共がついさっき死闘を演じていたのだ、その傷は全く治っていない。
    血もずいぶんと流してしまった、このまま時間だけが過ぎていけば、どうなるものか。


    『・・・・・・・・こういう手は、あんまり使いたくないけど、二人とも、神具の力を解放するんだ、そうすれば、いくらか傷は治る』


    (いや、そんなこと言っても私の場合、この剣の中に入ってる人格がどっかいっちゃってるから・・・・・・・・・)


    『その代わりに、中に入っているのは君自身だよ、やろうとすればいつでも解放できるはずさ』


    (そうなの?やってみる・・・・・・・・・)


    そしてしばらくすると、影美の黒剣は、巨大な湾曲刀へと変化した。


    (やった、できた・・・・・・・・!)
    (・・・・・・・・俺の場合は、どうすれば?)


    『うん、君の場合も大丈夫、今は「魔剣ロキ」がすぐ側にあるから、ある程度なら僕が制御できるよ』


    (よし・・・・・・・・!)


    そして、陽も神具の能力を全解放。
    真っ赤な刀身と波打つ刃の『炎神』が現れた。


    (ねぇねぇ、その剣、名前なんての?)
    (『炎神』だよ、そっちは?)
    (『影月』なんかこの曲がり方が月っぽいじゃん)
    (なるほど・・・・・・・・ッ!)


    『・・・・・・・・・二人とも、来たよ、僕はこれからレーヴァテインの力の制御に集中するから、返事しないと思うけど、頑張って』


    レーヴァテインの声が、頭に響くと同時、ついに、空間を割ってヴァルキリーが現れた。
    その特徴的な槍をみればわかる、『槍を持って進むもの』、ゲイレルルである。










    ゲイレルルは、しばらく周囲を見回したあと、二人の偽物に近づいた。


    (・・・・・・・・・・・・・準備は?)
    (・・・・・・・いつでもどうぞ)
    (おっけー)


    ゲイレルルが、そこにある偽物の内の片方に近づき、槍を振り上げた。


    (それじゃあ・・・・・・・・・・)


    ゲイレルルは槍を振り下ろし、その槍は、影美の作り上げた偽物を貫通し、地面に突き立つ。
    ゲイレルルの表情が驚きに染まった直後。


    「行くよ!!」
    「ああ!!」


    二人は駆け出した。










    「はぁっ!!」
    「らあっ!!」


    ―――キィン!


    さすがと言うべきか、不意を打ったにも関わらずゲイレルルは、二人の一撃を槍一本で同時に受け止めた。


    「なぜ・・・・・・・・・お前達が生きている?」
    「へへ・・・・・・・・・・・!私達に死なれると、困る人がいるらしいんで、ね!」
    「理由は色々だ!ともかく、俺達はこれ以上あんたらの遊びに付き合うつもりはない!!」


    一瞬、ゲイレルルが力をゆるめるが、それと同時に陽と影美は後ろに下がった。
    次の瞬間、とてつもない速度で振り回された槍が先ほどまで二人がいた位置を薙ぎ払った。


    「影美!下がれ!!」


    さらに、影美から見て、ゲイレルルと陽の姿が視界から消えるのはほとんど同時だった。
    陽とゲイレルルが同時に超高速移動をしたのだ。
    陽は、ゆっくりと流れる時間の中で普通に動く、それと同じように、ゲイレルルもまた緩やかな時間で普通に動いて見せた。
    ゲイレルルの狙いは、影美だったらしい、ゲイレルルは槍の穂先を影美に向け突進しようとしていたが、それの前に陽は体を滑り込ませる。


    (ってか!『炎神』の状態でこの能力がどのくらい続くのか、今まで一度もやってないからわかんねーぞ!!)


    残念ながら、返事はなし、そして悠長に待っていられるだけの時間もない。
    どうやら、解放していない状態よりは長く高速移動を続けることが出来るらしく、既に10秒以上動けている、あとは自分の力を信じるしかない。
    ゲイレルルの槍が、陽の頭目掛けて突き付けられる、陽はそれに刃先を合わせて槍を受け流す、陽はそのままゲイレルルに斬り掛かろうとしたが、槍の柄で受け止められる、陽はそれに力を込め、つばぜり合いに持って行こうとしたが、それより早く、ゲイレルルは槍をクルリと回転させた。
    そして、クルリと回転した槍の刃先は、陽の足下を狙っていた。


    (しまっ!足払い!!!)


    思わず、足を浮かせてしまい、続けてきた石突きによる一撃で、陽は為す術無く後ろに吹き飛ばされた。


    (やばい・・・・・・・やられる・・・・・・・・!!)


    陽が顔を上げると、ゲイレルルは、槍を振り上げ、今にも降り下ろそうとしていた。


    (死――――!?)


    ゲイレルルが槍を振り下ろすその直前、陽の体を黒いものが包み込み、影の中へ引きずり込んだ。


    (なんだ!?)


    ゲイレルルの一撃は、結局やってこなかった、陽は何が起こっているのか、事態を把握できずに、黒い影の中で、じーっと待つ。


    ゴポリ、と、ようやく陽は影の中から解放された。


    「ゲホッ!ゲホッ!」


    よくわからないが何か気持ちの悪い物が口の中に入った気がして思わず咳き込んだ陽の視界に入ってきたのは。


    (シッ、静かに!)


    人差し指を唇の前で立てる、まさに「静かに」の動作をした影美だった。
    影美は、剣を陽の剣に触れさせていた。


    (うん、君が強いのはよーくわかったよ?でもねぇ・・・・・・・・・・)


    影美が、顔をずずい、と近づけてきたため、陽は思わずのけぞる。
    ここで初めて、陽は高速移動の力が切れていることに気付いた。


    (あのねぇ?私達はいま、仲間でしょ?だったら勝手に先走るな!!!)
    (え?・・・・・・・・ゲフッ!!!)


    とんでもなく痛いボディーブローが陽にクリーンヒットした。
    影美が容赦の無い一撃を陽に送ったのだ。


    (確かにね、君は強いよ、1対1ではもう絶対にやりたくないって思うくらい速いし、今の君なら私より強いよ、でもね、言っておくけど今私が助けなかったら君は死んでたよ?)


    陽は、さっきまで自分がいた場所、ゲイレルルの方角を見て、そして驚愕した。
    そこでは、何百、いや、何千体という数の影の兵団が一斉にゲイレルルに襲いかかっていた。
    しかし、もっと凄いのはゲイレルルの方だった、たった一人に対して、襲いかかってくる数千の兵団を全て、一太刀貰う間も与えずに斬り倒しているのだ。


    ―――ズシャッ!!
    ―――バシュッ!!
    ―――ズドゴシャ!!!


    ほんの数秒の間に、10体以上の影がボロ屑となって吹き飛ぶ。
    ゲイレルルを囲む数千の影は、瞬く間に数を減らしてゆく。


    (相手がむちゃんこ強いなら、こっちは数で攻めろってね、ただし足止めが精一杯だけど)
    (なんで、そこまで・・・・・・・・・・・・)


    影美は、気楽そうにしているが、操っているその数は数千体だ、簡単なわけがない。
    そんなことまでして陽を助けるのは、どうしてなのか、そう問うた。


    (だから、仲間だからに決まってるでしょ)
    (仲間・・・・・・・・・・・・・・・・)
    (そう、同じ目的のために一緒に戦うからこそ仲間って言うのよ、勝手に一人で突っ込んで、勝手に死なれちゃたまんないわ、しかもその命には世界が懸かってると来てる)


    影美は、さらにずずい、と陽に顔を近づけた、唇をチョイっと出せばキスが出来てしまいそうなほど、ほとんどもうゼロ距離だ。


    (いい、よく聞いて!あいつが、あのゲイレルルが言ったのよ、「もし、我に勝てる奴がいるとすれば、それは我と同じ力を持つレーヴァテインの使役者のみ」ってね、つまり!君なら勝てるって事よ!!)


    そして、ドンっと、影美は陽を突き飛ばした。


    (いい?私は君を信じるよ、だから!君も私を信じて、あいつには私がこれからとびっきりの隙を作ってやるから、君はその隙にアイツを倒す!いい!?)
    (・・・・・・・・・・わかった)
    (よし!)


    影美は剣を構えて立ち上がった。
    陽もそれに習い、剣を構えて立ち上がった。










    ゲイレルルは、今、とても高揚していた。


    (これほどの戦いは、ずいぶんと長い間縁がなかったからな・・・・・・・・・・・!!)


    これまでも、魂収集のための戦いの中で、ヴァルキリーに反旗を翻した者はいたが、そのどれもが大した力も得ぬうちにヴァルキリーに戦いを挑み、まさに瞬殺で終わるようなもばかりだった。
    しかし、今回は話が違う。
    神具を解放状態まで持っていく者も珍しければ、持っている武器も揃って凶悪な物と来ている、これほどの戦い、楽しまずにいられようか。


    「さぁ!人間達よ、我を倒せばここから出ることは出来るぞ!!いつまで隠れているつもりだ!!さっさと姿を現せ!!!」


    向こうは、どちらも神具を解放状態にある、つまり2対1だ、それならばこちらもそろそろ全力で解放するべきだろうか。
    そう思い、解放することにした。
    ゲイレルルの周りには、もう既に残り千体ほどしか影の兵隊は残っていなかった。


    「神具・『ガゼルリヨートス』!!!『千烈ちれつ』全能力解放!!!」


    そして、ゲイレルルが、一振り、槍を振った、それだけで、
    千体近くいた影の全てが、一撃で消し飛んだ。


    「さあ、どうした!出てこんのか!?ならばこちらから・・・・・・・・・・・」


    それ以上言い終わるよりも先に、敵、人間の女が姿を現した。


    「レーヴァテインの所持者はどうした?怖じ気づいたか!!」


    そう言って、言い終わると同時に加速する。
    ゲイレルルの能力、それは、先も行ったとおり、加速。
    ただ、陽と違うのは、いくらでも加速状態を持続でき、また連続での発動も可能なこと。
    そして、『千裂』の能力は、これまた単純。


    ゲイレルルは、人間の女に向けて、高速で槍を振るった。
    その瞬間、幾重もの槍撃が、女だけではなく、その周辺の地面までをも粉々にして、吹き飛ばした。
    『千裂』、その名の通り、一度振るだけで、千の裂撃を刻み込む。


    「フン、この程度か!!」


    しかし、すぐにも、また別の女が現れる、それは瞬く間に、ゲイレルルを取り囲んだ。


    「また、同じ事を繰り返すつもりか!!!」


    そう言って、槍を一度、振るう。
    たったそれだけで女が作り出した偽物の影が、まとめて千体近く消し飛ぶ。
    そうして、全てを吹き飛ばそうとしたところで、


    「なっ!!」


    影が、そこかしこから溢れ出し、ゲイレルルを含んだ、この空間全てを、闇が埋め尽くそうとしていた。
    それは瞬く間に、視界の全てを埋め尽くし、なにも見えなくなる。


    「ちっ!!厄介な!!」


    ゲイレルルは、ただ闇雲に、全方向へ向けて『千裂』を放ち、影を消し去ろうとするが、『千裂』では影を払うことは出来なかった。
    結局ゲイレルルは影を払うことを諦め、何が起こっても対処できるように、全方位に警戒して、ただ時が過ぎるのを待つ。


    「ッ!!」


    敵の攻撃が来た、それも、足下から。
    多数の影が触手状にうねり、ゲイレルルの足に絡みつこうとする。
    ゲイレルルは影の茨を槍で全て切り払うが、すぐに新たな茨がゲイレルルの足に絡みつこうとする。


    「チッ!!」


    ゲイレルルは、影を払うことを諦め、大きく跳躍し、上空へ逃れる。
    その瞬間、ゲイレルルを覆い隠していた影は、全て下方へ移動し地面を覆い尽くす、そしてそれらの影は一斉に刃となってゲイレルルに襲いかかった。


    「初めからこれが狙いか!?」


    上空では、いくら速く動けようとも、そもそも身動きが取れない。
    無数の影で出来た枝や茨や刃が、全てゲイレルル目掛けて殺到する。
    しかし、ゲイレルルは、冷静に、槍を構え。


    「なめるなっ!!!」


    裂帛の気合いと共に数千の槍撃を地面を覆い尽くす影にに向けて解き放った。
    いくつもの枝が、刃が、ゲイレルルの槍に打ち砕かれ、消し飛ぶ。
    ゲイレルルの槍に撃ち抜かれた影は、次々と霧散してゆき、ついには地面が見えるまでに、吹き飛ばされた。


    「フン!この程度で我を追いつめられると思うな!!」


    そう言って、ゲイレルルは、地面に着地しようとして、地面が丸ごとグニャリと歪み、


    ―――完全にバランスを崩した。


    「なっ!!!!」


    次の瞬間、影を突き破って陽が現れる。


    「今ッ!!!」
    「ああ!!!」


    陽は、完全に体勢を崩したゲイレルルを、深く、完全に斬り裂いた。










    影美がとった戦法、それは相手の目を騙すことにあった、要するに、地面全てを影で覆い尽くし、その上に影で偽物の地面を作ったのだ、そしてゲイレルルが降りようとした場所のみを着地の直前に消滅させ、地面に着地する体勢だったゲイレルルは、完全にバランスを崩した、そういうことだった。


    ―――ザシュッ!!!


    陽の大剣が、完璧にゲイレルルを捉え、その胸を深々と斬り裂いた。


    「ガッ、ガフッ!!!」
    「やった!?」
    「まだだぁ!!!」
    「なっ!」


    ゲイレルルは確実な致命傷を負っていたが、その状態で動き、陽を吹き飛ばした。
    ゲイレルルは、槍を杖変わりにしながらも、なんとか立っていた。


    「ぐ、ゲホッ!まさか、まさかここまでやるとは!思いもしなかった!」
    「ここまでだ、ゲイレルル、諦めて「ヴァルハラの館」の鍵を寄越せ!そうすれば命までは取らない」
    「もう、これ以上、無意味な戦いは嫌でしょう?お願い、諦めて!」
    「ふ、ふふふふふ!我を倒すだけでなく、お前達はこれから「ヴァルハラの館」にまで攻め上ろうというのか?」


    ゲイレルルは、笑い、血を体中から噴き出しながらも、槍を構え直した。


    「ええ、その通りよ!だからこれ以上は止めて!!本当に死ぬわよ!?」


    しかし、ゲイレルルは、影美の静止など気にも止めず、言った。


    「ふふ、「ヴァルハラの館」には、我よりも強い者がまだまだいるぞ?それでもゆくか?」
    「ああ、返して貰わなきゃならない物があるからな」
    「ええ、ある人からの頼み事をかなえるためにも、絶対に」
    「そうか、よかろう、ならば我が全力を持って、貴様等がヴァルハラに行き着く資格があるのか、試してやろう」
    「!?」
    「!?」


    陽と影美は、ゲイレルルから放たれた、今まで感じたこともないほどの殺気に思わず、剣を構える。


    「ゆくぞ!我が最強奥義!!受けてみよ!!!」










    ゲイレルルは、体中から血を噴き出しながらも、槍を構え、大きく振りかぶった。
    陽と影美は、互いに、残る全ての力をそれぞれの剣に込め、待ち構えた。


    「『千裂』・『無閃槍技』!!!!!」


    ゲイレルルは、超加速化された状態で、一振りで千の槍撃を与える『千裂』を千回、全身全霊を賭けて解き放った。
    千かける千、百万の槍撃が、陽と影美目掛けて襲いかかる。
    陽と影美は、一瞬互いに見つめ合ったあと、


    「・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・」


    ―――コクン。


    頷きあった。
    陽と影美は、剣を交差して、


    「「負けるかぁああああああああああ!!!!!!!!」」


    二つの力、陽の『炎神』に集う白い炎が、影美の『影月』に集う黒い影が、一つに集まっていく。
    そして、


    「「『炎神』、『影月』、『影炎双剣』!!!!!」」


    二つの力が、同時に、一つの巨大な力として、解き放たれた。
    百万の槍撃と、白と黒の炎と影とが、正面からぶつかり合った。


    「ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
    「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
    「やぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!」


    炎と影が、無限にも近しい槍と、正面から、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    そして、




    ―――――槍が、折れた。










    炎と影とが、槍を飲み込み、へし折り、その後ろのゲイレルルを消し飛ばして、そして、完全な静寂が訪れた。




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝った?」


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」




    ――――やったぁ!!!!!!



    影美が、歓声と共に陽に抱きつき、陽はそれを支えることに失敗して、地面に倒れ込んだ。

引用返信/返信
■541 / ResNo.25)  ロキ編 それから
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:41:32)
    そこは、某街の総合病院。
    とある集中治療室に一人の女の子がいた。


    ―――ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・


    特有の連続した機械音が、その女の子の心臓がまだ動いていることを証明する。
    それを、二人の同年代の少年少女、兄と姉と言えば通じそうな二人が、じっと見つめていたが、やがて少女の方が病室の外へ出て行った。
    しばらくして、少年は女の子の側に歩み寄り、


    「ロア、待っていてくれ、必ず帰ってくるから」


    それだけ言って、軽く髪を撫でてやると、少年は病室をあとにした。
    病室の外には、先ほどの少女が、待っていた。


    「いいの?」
    「ああ、いいんだ・・・・・・・行こう」
    「そう」


    少年と少女が完全に立ち去り、病室には一定の機械音だけが残された。










    都市、連続破壊事件。


    これが、現在日本中を震撼させている謎の事件である。
    それは、いくつかの街で発生している完全に原因不明の建造物、建築物が次々と破壊している事件である。
    日本政府は、テロ攻撃の可能性を考慮し、国家非常事態宣言を達し、警察、自衛隊を常時配備してこの謎の破壊事件にあたらせるも、物的証拠や、原因の究明に繋がる物は発見できず、現在も原因の究明に全力を挙げている。

    また、某県某市においては、多数のビル群倒壊が発生し、死亡、重傷、行方不明、意識不明の重体等、多数の重軽傷者が出たため、その事件が起こる前日に行方不明となっていた10名の人間の安否はそれらの事件の陰に隠れ、世間的に有名になることはなかった。










    ―――ガチャリ。


    病院の屋上にあるドアを開ける、本来は飛び降り防止のために、鍵がかけられているはずなのだが、鍵は掛かっていなかった。
    むろん、偶然ではない。


    陽と影美が、そのドアを抜け、屋上の奥に進み出ると、そこには先客が二人いた。


    「もう、いいのかい?」
    「ああ、俺には元々別れを告げるような家族はいないんでな」
    「私は、家にちょっと書き置き残してきたから、たぶん大丈夫」
    「そっか・・・・・・・・一応、もう一回だけ確認させて貰うけど、本当に、いいんだね?これから先、戦いはもっと激しくなると思うよ」


    この男は、聖柄 罪(ひじりづか さい)、陽と影美の戦いが終わって数日後、二人に接触してきたのだった。


    (一緒に、戦ってくれる仲間を捜している、仲間になってくれないか?)


    と。


    「もちろん、とっくの昔に決意なら済ませたわ」
    「同じく、もう今さら、後には退けねぇよ」
    「そう、か、じゃあ、一緒に行こう、宰、来い」
    「・・・・・・・・・」


    もう一人の、やたらと無口な奴、こいつは終野 宰(おわりの つかさ)。
    察しているとは思うが、罪も、宰も、神具の所持者である。
    4人の目的は同じ、「フレイヤ達をこの世界から排除すること」そのために集った。


    「フレイヤを倒し、この世界から追い出すまで、私達の戦いは続く、それでも、きっと、一緒に戦ってくれる仲間はいるはずだから・・・・・・・・」


    影美が言った。


    「だから、行こう!!」


    4人の姿が消えて、屋上には風が一つ吹いた。

引用返信/返信
■542 / ResNo.26)  ロキ編 あとがき+いろいろ
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:43:43)
    あとがき

    はい、どうもこんにちわ、こんばんわ、パースです。
    やっと終わったぜ!こんちくしょうめ!!(謎)
    最初に断っておきますが、この話の中で語られている「北欧神話をモチーフにした物語」、は所詮私、パース個人的な見解、様々な憶測や「こうだったらいいなぁ」的考えを加えた見方にすぎません。
    (例:「ロキがレーヴァテインを作り、それをスルトに渡した」という事柄に関しても、かなりの部分が人によって説、論が違うと思われます)
    これが「北欧神話」の全てだなんて語るつもりは全くありませんし、真実は全く違うかも知れませんので、その辺はご本人の判断に任せます。
    なお、「魔剣ロキ」に関しては、ロキが持っていた武器(剣)に特に名前が無いことから私が勝手に考えたものです。

    正直、「ロキ編 last battle」に関しては、ページ数無視ぶっちぎりで、今回の作品中は元より、今まで書いた全作品中でも一番長いんじゃねぇかと思います。
    でも書いてて楽しかったからまぁいいかな、と。

    うーん、そういえば、「『○○』全能力解放!」っていうセリフに関して、説明を入れたかったんだけど、いつの間にか忘れちゃってましたね、しょうがないのでこの場で説明しときます。
    『炎神』や、『影月』は、神具が、それの使役者の魂の形を具現化した物です、ナノで魂が強ければ強いほど、解放された剣も強くなると、そーいうことを言いたかったわけです。
    (元ネタがブリ○チなのは言うまでもなく・・・・・・・・orz)
    ってか、元ネタを上げだしたらキリがないかも知れない、フェンリルなんて「もの○け姫」の白い狼が元だし、『炎神』は、某都市シリーズの小説から、魂が強かったり弱かったりってのは漫画「ソ○ルイーター」から、etc,,,,
    でも、各キャラの性格や、名前に関してはオリジナルです。

    それにしても、ここ、リリースゼロで色々書き始めて半年以上経ちましたけど、初めてのシリーズ完結(いや、まだ続けるけど)もとい一区切り、いやはや、よくやったもんだ。
    私って性格上、戦闘シーンが大好きなんでしょうね、気がつけば作品の半分以上は誰かが殺し合ってます、しかも私の場合1対1が異常に長い、いつまで経っても決着が付かないというこの無茶苦茶な戦い・・・・・・・・・・・皆さんの反応はどうなんでしょ?
    さてと、とりあえず、私のひとりごとはこの辺で終わりとしますが、このページの下には色々と書きたかったりした物が放り込んでありますので、暇な方はついでに覗いていってください。



    小ネタ(ぇ


    「あなたが気にしているのは『レーヴァテイン』の事ですか?あなたが『こいつは凄い神具を持っているから説明も必要ないだろう』って適当なこと言っちゃった」
    「黙れ」
    「はい・・・・・・・・・」
    (ゲイレルルが陽に対して何の説明もしなかった理由。あまりにもシリアスな雰囲気だったため無かったことに)


    「そういえば、『ノートルダムの小箱』っていう神具が作中にあったよな?」
    「ありましたですね」
    「あれってどういう能力だったんだ?」
    「ただ敵の視界を奪って目を見え無くさせる力です」
    「・・・・・・・・・・・・しょぼ」
    (本当は、「相手に恐怖を与えて戦闘能力を奪う」という能力だったんですが、時間的都合上なかったことにしました)



    「無銘刀、あのさ、そもそもなんで北欧が話の元のハズなのにここ日本が舞台なの?」
    『むーん・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・本当のことを言うとわしが作者に消されてしまうゆえ言うわけにはいかんな・・・・・・・・』
    「・・・・・・・・・(汗)」
    (何にも考えてないとかそんなこと言えません)



    「骨羅さん、骨羅さん」
    「なんだい、一端君?」
    「僕たち、一応二日目まで生き残ったんだよね、それなのに扱いがひどいのはどうしてなのかな」
    「それは作者が、私達をもっと活躍させようとしたものの時間がないからって消しちゃったからだよ」
    「・・・・・・・・・・」
    (もっと活躍させたかったこの二人)



    ロキ編の全登場人物
    +その他設定

    メイン

    千里塚 陽(せんりづか よう)♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)『炎神』
    属性・炎 身長161cm 体重 46kg
    冷静沈着、というより誰に対しても警戒感を持っている。
    陰気、根暗、普通に育っていればただの引き籠もりになっていただけかも知れない。
    両親は、陽がまだ10才の頃に事故で他界。
    その後孤児を扱う施設に引き取られるものの、数年後、脱走。
    その後はバイトなどで食いぶちを稼ぎながら生活していた。
    幼少期のトラウマにより、人の死に対してひどく鈍感である、また人を殺すこと、さらに殺されることに対しても、それほどの抵抗、恐怖を感じていない。
    ただし、親しい者、ある程度以上に心を許せる者に対しては、普通以上の執着を持ち、それのためならば自己を犠牲にすることもためらわない。
    この戦いによって「桐野ロア」という大事な物をヴァルキリーに奪われる、それを取り返すために戦い続ける事を選んだ。


    レーヴァテイン
    そのあまりの威力の高さに「神の如き剣」、つまり神剣と呼ばれる。
    かつてのロキに作り出された神具のうちの一つ、「魔剣ロキ」とは兄弟分。
    いつもは、封印状態にあるため、使役者に対して何もしないのだが、魔剣ロキが(その中に存在する人格が)消滅、もしくはレーヴァテインに対して一切影響できなくなった場合、レーヴァテインに眠る人格が目覚め、「神の如き力」を使役者に与える。
    ただし、その本当の力は、「世界に終焉をもたらす力」であるため、今回の戦いにおいてはまだ全ての力を解放していない。
    かつてのラグナロクの折、炎の巨人スルトは、神剣レーヴァテインの真の力を引き出し、その命と引き替えに世界に終焉をもたらした。
    現在は、再び眠りについている。


    四ノ原 影美(しのはら えいみ)♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)『影月』
    属性・闇 身長160cm 体重 45kg
    明朗闊達、元気娘。
    活動的な服、ショートヘア、スタイルには全く自信が無い。
    母親とマンションで二人暮らし。
    子供の頃から天才的な運動能力を持つ、頭脳の方は・・・・・。
    ごく一般的、「善良」な市民、人が殺したり殺されたり、そんなことを認可できない日本人的考えを持ち、しかもそれを異常空間でやってのけるほどの精神力を併せ持つ。
    よく言えば善良であるが、悪く言えば子供的。
    自分が守りきれる者の幅をまだ知らない、例えそれを越えても、守りたいと思う、そんな存在。
    先天的、天才的戦闘の才能により、生還を果たす。
    「魔剣ロキ」の人格を返してもらうために、次なる戦いの場へおもむく。


    ロキ(魔剣)
    魔剣とは「何かと引き替えに莫大な力を与える剣」のこと、この魔剣ロキの代償は「魂」を任意に魔剣の中へ入れること。
    剣の中へ入れた魂は、剣が傷つくたびに代替してそれを受けるため、時間の経過と共に傷が多くなり、やがて消滅する。
    本来、かつてのラグナロクで魔剣ロキはロキと共に消滅したはずだったが、姿形を変えて、後の世に存在している。
    この剣の中に宿る人格は、比較的善良であり、わりかし何でも教えてくれる。
    この人格が一体何なのか、なぜ消滅せずに後の世に存在するのか、謎が多い。
    現在は、内部の人格のみがヴァルハラ(=神界)へ送られた、また剣の中には影美の魂があるため、影美にとってはもっとも扱いやすい武器となったが、しかしその分影美を傷付ける武器でもある。


    桐野 狼亜(きりの ろあ)♀ 所持神具:フェンリスヴォルグ
    無属性 身長150cm 体重38kg
    小柄、長髪、イメージとしてはゴスロリ・・・・・・・・・・(ぇ
    姉と叔父、叔母夫婦と一緒に住んでいる。
    純真無垢でもあり、思慮遠望でもある。
    陽を望んだことは事実であり、陽が強者であることを知ってもいた。
    どっちもほぼ勘であり、本能と呼べるものを持っていたのかも知れない。
    自分が生き残るために他者を犠牲に出来る人間であり、また自分以外の人間のために自分を犠牲にも出来る人間である。
    しかしそのことを知っている人は少ない。
    現在は、魂が存在しない肉体だけの状態で人間界のとある総合病院の集中治療室にいる。
    傷はほとんど完治したが、魂がないため、植物人間に近い状態となっている。


    フェンリル 『王狼』・蹂躙爪牙
    青っぽい狼。
    『ノートルダムの小箱』『風神スキンゲイル』『糸切刃ハーベリングス』『魔砕剣ダインスレイブ』を使った。
    かつて主神オーディンを飲み込んだ狼、とは別物。
    最初のフェンリルの息子、ハティのさらに息子、つまり最初の狼の孫に当たる。
    最初のフェンリルは「天と地とを飲み込む者」息子のスコールとハティはそれぞれ「太陽」と「月」を「飲み込む者」、であったため、全力でやって人一人を飲み込めなかったこのフェンリルは、実は大したことがなかったりする。
    陽と、解放状態のレーヴァテインにより焼かれ、この世界から完全に消滅した。



    その他

    頬屋 海瀬(ほおや うみせ)♂ 所持武器:グラナステッグ(氷刀)属性・氷
    最初に登場した兄弟の弟の方、「海」なのに弟、兄より強い。
    学校では兄弟共に野球部に所属、エースピッチャーとキャッチャーだった。
    氷の神具を使い、手数で陽を圧倒したが、レーヴァテインの能力を解放した陽により、斃される。

    頬屋 山瀬(ほおや やませ)♂ 所持武器:スキンゲイル(風刃)属性・風
    ちなみに、兄弟で野球を観戦しようと球場に行き、そこでほぼ同時に二個の神具を発見する。
    同じく最初に登場した兄弟の兄の方、風を操る神具を持ち、本当なら結構強くなれたのだが、最初の相手がいかんせんフェンリル、秒殺されてしまった。

    竿裏目 糸目(さおらめ いとめ)♂ 所持武器:ハーベリングス(糸切刃)
    ヤンキーというか不良というか。
    街の裏側でヤクザ絡みの危ない仕事を手掛け、この街におけるクスリ売りの元締め的存在だったが、仕事の最中に本人もジャンキーとなってしまう。
    影美と戦闘になり敗北、その後フェンリルに殺される。

    骨羅 鳴忌瑠(こつら めきる)♀ 所持武器:スカノボルグ(神骨)『死骨鳥』
    かつて、ガールスカウトに在籍していたことがある。
    サバイバル知識や、超基本的な戦闘知識を持っていたが、残念ながらほとんど活用できなかったようだ。
    陽との戦闘により死亡。

    三尾堂 一端(みおどう いったん)♂ 所持武器:ダインスレイブ(魔剣)
    本人は、現在売れっ子のアイドル。
    たまたま休みの日に、神具を見つけてしまったのが運の尽き、全てを失う。
    一人だけ相手を殺しており、色々と吹っ切れていた。
    フェンリルに喰われる。

    名も無き人1
    神具『ノートルダムの小箱』の所持者、戦いが始まってすぐにフェンリルに喰われた。

    名も無き人2
    もはや神具すら決めてない人、初日に御御堂一端によって殺される。

    聖柄 罪(ひじりづか さい)♂
    不明。

    終野 宰(おわりの つかさ)♂
    不明。



    ヴァルキリー

    ゲイレルル [Geirolul(Geirolul)]
    槍を持って進む者の意を持つ。
    神具『ガゼルリヨートス』の使い手。
    ヴァルキリーにおける「第三階位」、つまり全ヴァルキリーの中で3番目に偉い人。
    偉いわりに頭はそれほど良くない、戦闘が専門だったから。
    強さはヴァルキリーの中でも群を抜く。
    人間に対しては冷徹だが、同じヴァルキリー、特に自分と同期のヘルフィヨトルに対しては結構甘い。
    最後は、ガゼルリヨートスの力を全解放するものの、陽と影美の前に敗北する。


    ヘルフィヨトル [Herfiotur(herfiotur)] 
    軍勢の戒めの意を持つ。
    神具『ディアグノーシス』の所持者。
    神具『ディアグノーシス』は、作中まだ出てきていない。
    頭が良く、切れ者。
    落ち着いた雰囲気があり、物腰は丁寧。
    今回の魂を回収するために用意された戦いに疑問を持つ。
    比較的人間に対しても友好的。
    今は戦士の魂が集められる場所、「ヴァルハラ」にいる。

引用返信/返信

■記事リスト / レス記事表示 → [親記事-9] [10-19] [20-26]






Pass/

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

- Child Tree -