Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■543 / 4階層)  第四話です。
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/27(Mon) 17:34:27)
    両親は科学者だったが研究だけでなく、私の事も愛してくれた。
    家に帰らない事は少なくなかったが、帰って来た時は優しく、そして
    甘えさせてくれた――優しく、暖かかった私の大切な両親。
    平和で優しくて暖かい毎日が続くと、変わらないと思っていた。
    ……なのに、そんな私の日常は壊されてしまった。
    ある日、家に全身鎧と武器で武装した兵士達が押し寄せ、両親達に
    何かの研究――魔科学だとか、兵器が等と言った事で協力しろ。
    二階に居た私にも聞こえる位の声が聞こえ、そして静寂が支配する。
    だが、次の瞬間に怒号が轟き、男性と女性の悲鳴―――。

    父さんと、母さんの――悲鳴。

    聞きたくなかった、父さんと母さんの悲鳴が聞こえて来た。
    ……怖かった。助けに行きたかった、けど……動けなかった。
    魔法が少々出来る程度の私が出て行った所で何も出来ない。
    だから私はクローゼットの中に、両親が誕生日にくれた杖。
    『クラウストルム』と呼ばれた杖を抱えて、ひたすらジッと
    していた。……悪夢が早く去ってくれる事を祈りながら。

    だが、悪夢は終わらない。

    全身鎧の集団はこの家、様々な思い出が詰まったこの家に火を放つ。
    放たれた火は紅蓮の炎となり、瞬く間に燃え広がり、火の海になる。
    私は紅蓮の火から身を守るため、自分自身に防御魔法を掛けてジッと
    ただひたすらジッとこのクローゼット、母がもしもの時に備えて緊急
    の避難場所に使える様に、と結界魔法を張ってくれたこの中で耐える。

    それから数時間経った後、火の手が収まった頃を見計らって私は外に出る。
    ……そして、私の心は真っ黒い絶望で塗りつぶされ、何も考えられなくなる。
    私が住んでいた家、時に母や父に怒られながらも平和な時を刻んでいた場所。
    様々な思い出が詰まったこの場所は――焼け野原になっていた。
    私は真っ黒になった家に腰を下ろし、そのまま泣いた。
    月の光も無い淀んだ漆黒の空、まさに私の気分その物を表しているだろう。
    とにかく私は狂った様に泣きじゃくり、父さんと母さんを呼び続けた。
    ……父さんと母さんが帰ってくるなら何も要らない。お金も、綺麗な服も。
    だから、だから神様――父さんと母さんを返して、と泣き叫ぶ。

    でも、神様は私の願いを聞き入れてはくれませんでした。

    更に追い討ちを掛けるように夜空は雨を、冷たい雨を嘲笑う様に降らせます。
    すすで汚れた服に雨水が染み込み、私の体温を奪っていくが――構わない。
    このまま死んで、父さんと母さんが居る場所に連れて行かれるなら……。
    そんな思考に支配されかけた時、雨にぬれた私に何か、暖かいロングコートが
    被せられ、疑問に思った私はコートの中から顔を出し、誰が自分にコートを被
    せてくれたのだろうかと見てみると……。


    「心配しなくても良い。俺は敵じゃないし、危害を加えるつもりは無い。
     ……この街に偶然立ち寄っただけのハンターだよ、俺は。」


    口調自体はぶっきらぼうで、少し高圧的な感じはしないまでも無いけど……。
    純粋に私を気遣う暖かさを持ち、その表情も私を落ち着かせようと優しい表情
    で――自分が濡れる事も構わずに、私にコートを被せてくれた男の人が居まし
    た。


    「……何があったのかは察しが付く。
     今は泣いても良い、心が悲しみで押し潰されない様に――泣くと良い。」

    「あ……あああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!」


    神様は私の願いを聞き入れてくれませんでしたけど、代わりに一つだけ掛け替
    えの無い物、お金も、服も、何もかもを失った私を優しく受け入れてくれた人。
    ぶっきらぼうだけど優しくて、そして強くて、私に手を差し伸べてくれた男性。
    純粋に私の事を心配してくれて、一緒に来るかと言ってくれた……兄。
    『クレイル=ウィンチェスター』と名乗った男性と出会わせてくれました。





    ハンターのお仕事
    第四話「必然の偶然・4 〜青い空の下で〜」




    「……嫌な……夢……だったな……。」


    ファリルは気が付き、そして寝かされているベッドの横にあるサイドボード。
    いつも自分が寝る前に読んでいた本等を置く為に購入し、設置してあるソレの
    上に置かれた書置き、少しクセのある――クレイルの文字の書置きを発見して
    手に取り、見てみる。

    『街の修理に駆り出される。恐らく広場に居ると思われる。』

    等と偉い短絡的に事実だけ記載された書置きを見たファリルは苦笑し、起き上
    がると、兄が着替えさせてくれたのだろう寝巻きを……兄が着替えさせて?
    そう考えると体中が熱くなるのを感じるし、恐らく顔も真っ赤だろう事が自分
    でも理解できる。……止めよう、深く考えるのは。
    ファリルは頭を振り、考えるのを止めて――ふと、服の中の自分の胸を見る。


    「………はぁぁぁ………。」


    深くため息を付いた後、ベッド脇に立てかけられていたクラウストルムを手に
    ファリルは兄が居るだろう場所へと向かう。……天気は快晴、真っ青な青空が
    広がっていた。



    ――――広場

    先日の魔物襲撃事件にて街の被害の方は――大して被害は出てなかった物の
    やはり見過ごせない損傷などもあるので、町中の人間が木材・石材を持ち出
    しては加工し、誰の店、公共の物、何でも構わずに手当たり次第に修復作業
    を行って、元の姿に戻そうと頑張っていた。
    ……そして、その中に例の二人、凸凹コンビの姿も当然の如く見られる。
    勇はバカ力を駆使して材木や重たい石材をあちこちに運び、クレイルは大剣
    で木材を寸法通りに切り出し、大小様々な材木を切り出している。


    「……勇、こっちの材木を武器屋の前に持ってってくれ。」

    「あいさー。キリキリ働きますさね。」


    クレイルが切り出した材木を丈夫な麻袋に放り込み、長い材木は抱え上げる。
    結構な重さがあるはずなのだが、当の本人は別に気にする訳も無く、平気で
    抱え上げ、そのまま鼻歌交じりに歩き、目的地へと進んでいく。
    ……先日のダメージが全く残っていないのだろうか、等と思ってみるクレイ
    ルだが、恐らく彼にダメージは残っていないだろう事を悟り、ため息をつき
    ながら自分は大剣を振り下ろし、材木を両断し続ける。


    「おう、クレイル。こっちは運び終わったぞ。」

    「む、そうか。……少し待て、こっちももう直ぐ斬り終わる。」

    「早くしてくれ。……時間があると見なされたら、エルリス嬢に連れ戻される。」

    「……な、何かあったのか?」


    初めて見る勇の苦虫を潰したような、そして滝の様な幅広の涙を流している。
    そんな『異様な』表情を見たクレイルは汗を流しつつ、一応何があったのかを
    聞いてみる事にした。……どうせロクな事ではないだろう、とは口に出さない。
    クレイルがそう言った瞬間、勇は眼を『キュピーン』と光らせ、愚痴る相手が
    出来たと内心で喜び、クレイルが口を開こうとした瞬間に溜まった鬱憤を開放。
    全台出玉大解放!と言わんばかりにマシンガントークを開始した。


    「エルリス嬢ともう一人、双子の妹のセリス嬢とこの世界の言葉について勉強
     してるんだが、教育がメタクソなスパルタでね、ちと参ってるんだわ。
     有難い、確かに有難いが、出される課題を終わらせないと飯のグレードが落
     ちるとか言う激しすぎる程に厳しいオマケ付きでね。」

    「そ、そうか。頑張って―――」

    「こっちは十二分頑張っとるわ!でもなぁ、缶詰でビシバシ叩きこまれれば
     入るモンも入らん!!覚えとるモンも弾みで抜け落ちる!!それで課題が
     出来なければ飯のグレードはがた落ち!昨日はご飯一杯に漬物だったわ!
     ……解るか?解るか!解るくぁッ!!俺のこの気持ちがぁぁぁぁぁ!!」

    「だぁぁぁぁッッ!!解った!解ったから寄るな!暑苦しい!!」

    「解るか!解るんだったらどうにかしてくれ!!俺の食糧事情を解消してく
     れるよな、頼れる相棒、敬愛すべき心の友よ!!」

    「俺に出来る問題じゃねぇだろ!!お前でどうにかしろ、ってか
     何だよ、相棒だの、心の友だのと……俺が何時、そんな風になった!?」

    「何を言う、この間の戦いで互いに背中を預け、死線を越えた仲じゃないか。
     ……そうかそうか、言葉に出すのが照れるからそうやって照れ隠しを?
     ええい、このツンデレめ。」

    「誰がツンデレだ!?」


    ギャーギャーと何やら漫才の様な『何か』が始まり、街の人達は二人に注目。
    下手な漫才師やコメディアンよりも余程面白い二人の言い争いを見て笑う。
    最早、街の住人にとって彼ら二人の漫才的やり取りは名物と化してしまった。
    今では彼らのやりとりを見て『今日も一日が始まったな』等と言う人物まで
    出てくる始末であり、彼ら二人、凸凹コンビは人知れず愛されているのだ。
    二人がいい感じで漫才(?)を繰り広げていた頃、人ごみを掻き分ける人物
    が一人、エルリスと同じく――水色の淡い髪を持った少女が居た。
    人ごみを掻き分け、二人の所に辿り着き、勇が驚愕の表情と共に逃げ出そう
    とした瞬間、少女が振り上げた伝家の宝刀、ハリセンが振り下ろされた。


    「……んふふ〜、ボクと姉さんの愛の詰まった授業を抜け出すなんてね。
     ボランティア活動だから許してあげたけど、何を漫才してるのかな?」

    「くおぉぉぉ、こ、これはクレイルが――」

    「ちょ、ちょっと待て!?何で俺も入ってんだよ!!」


    ずばしっ!ハリセンが再び振り下ろされ、とても清清しい音が響き渡る。
    ……今、こうして勇をハリセンで叩いている少女は『セリス=ハーネット』
    勇の下宿先であるエルリスの家に住み、そして彼女の双子の妹でもある。


    「言い訳しないっ!……ほら、速く手を動かすか家に帰るか選ぶっ!
     はやくどっちか選ばないと、今日の晩御飯はカップ麺にするからね!!」

    「うおおおおッッッ!!?ま、マジすかぁぁぁぁッッ!?」

    「……つきあってられん。」

    「嗚呼、心の友よ!!俺を見捨てるなっ!?」

    「だから、誰が心の友だッ!?」


    結局、本日の勇の晩御飯のグレードは今まで以上にキリキリ働く事を条件で
    守られ、シャカシャカ動き回り、街中の修復作業に多大に貢献したとか…。
    そうやって勇が晩御飯のグレードを落とさない為に奔走している時、クレイ
    ルは変わらず材木を寸法通りに切り出し、黙々と木材を作り続ける。
    ……修理作業に貢献している事には変わりない、地味なだけで。
    そして手元にある材木を一通り切り終えた後、山積みになった材木に腰掛け
    て持参した水筒の蓋を開け、中の冷たい水を一気に喉に流し込む。


    「……もう、ビックリしたよ。学校から帰って来てみれば、街中大騒ぎ。
     へんな獣は居るわ、すっごい魔力が放たれたのを感じるわで……。」

    「こっちは大変だったぞ。街中の人間は避難してたのは良いが……。
     こう言う時に限ってハンターギルドに登録された傭兵が役立たずだ。
     お陰で俺と勇の二人でアースイーターと、それを呼んだ召喚師と戦う
     羽目になったんだ。」

    「へぇぇぇ……凄いね。」

    「そう言えばセリス、お前は?」

    「ボクは町の人の避難を手伝ってたよ?
     ……あ、ひょっとして何もしてないって思ってるでしょ!?」

    「だ、誰がそんな事言った!?」

    「顔に書いてある!!」


    ずびし、とむくれた――されど可愛らしい表情で指差しながら怒るセリス。
    それにムキになって反論するクレイルだが、反論はおろか意見すら聞いて貰
    えずに脳天にハリセンを振り下ろされ、スパーンと綺麗な音が響き渡る。
    理不尽を感じながらも抵抗はしない、抵抗したら余計にハリセンで殴られる
    事が容易に想像できるから。


    「……あ、兄さんに……セリスさん。」

    「お、ファリルちゃんじゃん。やっほー。」

    「……おはよう。」

    「ど、どうしたの?兄さん、凄く不機嫌そうだけど……。」

    「んふふー、あのね、ファリルちゃんがかまってくれないから―いたぁっ!?
     く、クレイル!?今、ボクに向かって材木投げつけたでしょ!?」

    「黙れアーパー娘が。……妹に変な事を吹き込むな。穢れる。」


    ギャーギャーと喚き散らすセリス。半ばキレ気味の対応を取るクレイル。
    二人を見ながらオロオロしつつ、どこか楽しそうなファリル……。


    「おーおー、何時もの如く楽しくやってんなぁ、兄弟。」

    「誰が兄弟だ!?お前の頭は腐敗してるのか!?」

    「甘いな。腐敗を通り越して発酵して――そして熟成されている。」


    そこに一仕事終えてきた勇が現れ、早速と言わんばかりに場をかき回す。


    「……成る程、だから物覚えも悪いんだね?」

    「違うな。エルリス嬢の教え方は丁寧で解りやすいが――セリス嬢!
     あんたの教え方はスパルタ過ぎてこっちの脳みそが追っつかんとです!」

    「えー。」

    「えー、じゃない!何ですか、課題出来なければ飯のグレードが落ちるって!
     酷すぎる!家庭内暴力、ドメスティックバイオレンス、パワーハラスメント!
     ……なぁ、ファリル嬢!ファリル嬢からも何か言ってやってくれ!!」

    「え……えと……頑張ってくださいね、勇さん。」

    「うおっしゃああああ!!ファリル嬢のはにかんだ可愛い笑顔でやる気倍増!!」

    「ちょ、ちょっと!!ボクの時と対応が全っっっっ然、違うんだけど!!!」


    勇がボケればクレイルが、セリスが突っ込み、そして更に勇がボケ倒す。


    「………はぁぁぁ……面倒な連中だな。全く……。」

    「でも、兄さん……顔は笑ってる。」

    「呆れてるんだよ。」

    「ふふっ……そういう事にしておく。」

    「ぐむ……。」


    ……私は大切な物を幾つも失ったけど――その代わり、掛け替えの無い物も得た。
    皆でドタバタと楽しく騒ぎ、たまに喧嘩もするかもしれないけど、仲直りして
    そして絆を深めて行く。……そんな掛け替えの無い、本当に掛け替えの無い人達。
    私の大切な宝物……。


    「みんなーーーーーー!ご飯出来たから食べよーーーーーーっ!」


    エプロン姿でお玉を片手に皆を呼ぶエルリスの姿を見て、その場に居た全員は腰を
    持ち上げ、食事会場となる……エルリスの家へと向かう。


    「……うん。私は……大丈夫。まだまだ歩ける。」


    そう自分に言い聞かせる様に呟き、前で飽きもせずにギャーギャー騒いでいる皆の
    所へと走っていった……。










    <ファリルがフェイトになって悩みつつ後書き>
     さて、戦闘後の事後処理とインターミッション、そしてファリルの過去。
    何やら詰め込みすぎな感じで、再びいい感じでグダグダっぷりを発揮しています。
    一応、これで私のSSのメインキャラが全員出揃いました。女性過多ですが。
    次回からは――本格的にハンターお仕事に入る勇、そしてクレイルのお話を書こう
    と思っています。それでは、失礼致します。

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Nomal 傭兵の / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/11/19(Sun) 15:56) #525
Nomal ハンターのお仕事 <追記> / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/11/19(Sun) 16:00) #526
Nomal ハンターのお仕事第一話 / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/11/21(Tue) 08:32) #532
  └Nomal ハンターのお仕事第二話 / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/11/22(Wed) 12:12) #534
    └Nomal 作者自身が暴走した三話 / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/11/24(Fri) 16:22) #536
      └Nomal 第四話です。 / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/11/27(Mon) 17:34) #543 ←Now
        └Nomal 少々暴走している5話 / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/12/02(Sat) 20:15) #545
          └Nomal 大暴走六話 / ロボットもファンタジーも愛する者 (06/12/05(Tue) 11:47) #548

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